第二十話 そうです、私が変な◯◯◯◯です
ハナハ先生が、ウマさんと何か話し合っている。とても気になったので、ちょっくら聞いてみることにしたのだが……。
「ハナちゃんどうしたの?」
「あや~、いまウマさんが『じぶんたちがいたとこ、まだしらべてないよ』って、いってるです?」
「ん? ウマさんたちがいたところ?」
「あい~」
「モヒヒ」
話を聞くと、どうもウマさんが何か気づいたようだ。彼らがいたところ、つまり……たまごがしまってあった、あの洞窟ってことかな?
「もしかして、最初にウマさんたちを見つけた、あの洞窟かな?」
「モヒヒ!」
「そうらしいです?」
確かにそこは一度行ったきり、もう調べていない。一応あのとき洞窟内は詳しく調べたけど、見落としが無いとも限らないな……。
「なるほど、確かにあの場所はローラー作戦をしていないね」
「タイシ、ダメもとでいってみるです?」
「そうだね、明日の帰りに、寄ってみよう」
「そうするです~!」
よし、他のメンバーにも伝えておこう。明日の帰り道に、あのたまご洞窟に寄ってみようって。
――翌日、車を進めて目的の洞窟へ到着した。
「確かに、ここは最初に調べたきりでした……」
「忘れてたよ~」
「考慮してなかったね」
ドラゴン三人娘も、真剣な顔で洞窟内を見て回っている。あ、シカ角さんがツノを壁に引っかけて、首がグキっとなった。大丈夫かな……。
それはさておき、全員で洞窟内の探索を開始だ。
「音の出る便利なやつですが、流石に大きなたまごがあって音が出っぱなしです」
「この探査方法は使えませんか……」
探査するにあたって、おひい様も音の出る探査方法を使ったけど、流石に巨大たまごがジャミング源になって洞窟内の探査は無理っぽい。であるならば……。
「棒で地面をつつく、いつもの作戦でいきますか」
「それしかないですね~」
「大志さん、私が準備してきますね」
「ユキちゃん頼んだ」
ということで、実績のある脳筋力業作戦にて洞窟内の地面を隅々までつつくことになった。結局の所、しらみつぶしが最強なのである。
「こっちは何もなしです」
「こっちもだよ~」
「こちらも調査終了だね」
じわり、じわりと洞窟内の各エリアを調べていく。今のところ、何も無い。
やがて全体を調べ終わってしまい、途方に暮れる。
「何も無しか……」
「あや~……からぶりです~」
「困りましたね……」
もしかして? と期待したのは少しあったために、みんなガックシ状態だ。俺もちょっと、脱力している。これで、心当たりは全部調べてしまった……。
これから、どうしよう。
「他に調べるところ、無いかな」
「モヒ~」
しかし諦めの悪い俺であるわけで、悪あがきで洞窟内をまた練り歩きしてみる。ウマさんも提案した責任を感じているのか、一緒に歩いて調べてくれるようだ。
「あんまり気にしなくても良いよ?」
「モヒヒ……」
ウマさんを励ましながら、じりじりと悪あがきをしていく。そして洞窟奥にある巨大たまごの所で、俺とウマさんは立ち止まった。このでかたまごちゃんから、色々始まったんだよな……。
「……モヒ?」
なんとなしにLED照明に照らされた巨大たまごを眺めていると、ウマさんが首を傾げながらたまごに近寄っていった。どうしたのかな?
「あえ? タイシどしたです?」
そうしていると、ハナちゃんもこちらにやってきた。説明しておこう。
「いや、ウマさんが何か気になってるみたい」
「きいてみるですか~」
ハナちゃんに現状説明をすると、ぽててっとウマさんの方へ歩いて行った。
「ウマさん、どしたです?」
「モモモヒ」
「……たまごのばしょが、おぼえてるところとちょっとちがう、です?」
「モヒ~」
ハナちゃんとウマさんの会話が聞こえたけど、たまごの位置が記憶と違うとな。
そういえば、この巨大たまごの下は……未調査だ。というかこれを動かせる重機か人員がいないと、調べられない。
……まさか?
「ウマさん、このたまご動かしてみようか」
「モヒ!」
危ないのでみんなを避難させたあと、俺とウマさんで巨大たまごを押して転がしてみる。すると――。
「あ……これもしかして……」
「たまごです~!」
「あった……!」
「みつけたー!」
果たして巨大たまごの下、表から見えなかった場所に……普通サイズのたまごが埋まっていた。
おおきなたまごが増水で動き、下敷きになっていたんだと思う。さらに二つのたまごが重なっているため、音の出るやつで探しても、大きなたまごの反応にかき消されて見つけられない。
「そういう事だったのか……」
「もうてんだったですね~」
「これは分かりませんよ……」
「流石異世界、考えの隙を突いてきますわ」
埋まっているたまごを見つめながら、俺とハナちゃんとユキちゃんで、脱力だね。魔女さんとかもう唖然としている。
とまあ紆余曲折はあったものの、行方不明のこのたまごが最後まで見つからなかった原因が判明した。この子は最初から、はじめの場所に居たんだと。
「初心、忘れるべからず……」
「もー勘弁してよ~……」
「私らこんなんばっかだね。振り回されすぎだね……」
これには流石のドラゴン三人娘も、抜け殻みたいにぐったり状態だ。心なしか、みなさんの綺麗な角もぐにゃって見えるほどである。
というか現場百回とかさ、俺たちは刑事さんじゃないんだから……わかんないよ!
◇
「では、あけるです~」
さて、見つけた最後のたまごをハナちゃんにお願いして、オープン儀式を執り行う。
なんか良く分かんない工程を経て、すぐさまパカっと開いたわけだけど……。
「あえ? なんもいないです?」
ぱっと見、中身が無い。なぜ? どうして?
「ち、ちょっと詳しく調べてみよう」
ここまで来てカラとか、そりゃあないよ。何か、何かあるはずだ!
と言うことで慌ててたまごの中に手を突っ込んで、ごそごそ探ってみる。
すると、奥~の方に、なにかがあった。
「あ! なんかある! ちっこいのがある!」
「ほんとです!?」
慌ててたまごの中にある「物体X」を掴もうとした。そしたら――逃げる! なんか今動いて逃げた!?
これより対象のコードネームを「動体X」とする!
「うっわ動いてるこれ! なんか動いてる!」
「あや~! にげるです~!」
「待避! 待避~!」
俺が動いていると叫ぶと、みなさんザザザっと逃げた。そして俺だけ逃げ遅れ!
早く俺も逃げないと――。
「うっわ! なんか顔にしがみついた! うっわ!」
と思っていたら、ものすごい早さでたまごから何かが飛び出し、俺の顔に!
うっわフェイスハガー!? エイリアン!?
「あややややや! たいへんです~!」
「大志さん大丈夫ですか!?」
「うわきゃ~! なんかタイシさんにしがみついてるさ~! うわきゃ~!」
もう周囲は大騒ぎだけど、俺もそれどころじゃ無い! た、助けて……。
慌てて顔にしがみついた「動体X」を右手で掴む! 剥がさないと!
――と思ったらですよ、なんかこれ、さわり心地に心当たりが。なんかね、「わさわさ」してるんですよあれれ? まさか?
ひとまず、やさし~く剥がしてみよう。ペリリって感じで。そして、正体を確認してみると――。
「……あ、わさわさちゃん」
「~」
果たしてそれは、やっぱしわさわさちゃんだった。なんだかご機嫌で、俺に向かって手というか触手を振ってらっしゃる。
「あえ? わさわさちゃんです?」
「そうみたい、ほら」
「ほんとです~!」
「確かにそうですね。ドワーフさんのときに捕まえたあの子と、よく似ています」
「みたことあるね! あるね!」
何回みても、他の人に確認してもらっても、やっぱりこの子はわさわさちゃんだった。
「みなさん、この謎の生き物、ご存じなのですか?」
「わさわさしてるね」
「動きが可愛らしいよ~」
そしてこの騒ぎをみていたドラゴンさんたちは、不思議そうな顔で聞いてきた。彼女たちは、わさわさちゃんをみたことがないようだ。ざっくり教えとこう。
「この子は、どうも森のヌシみたいな存在でして。森が灰化すると、ぴょーんと一緒に逃げてくるっぽいです」
「なるほど?」
軽く説明したけど、まあわからないよね。俺も正直推測まみれで、良く分かっていないものでして。ホント謎の生き物なんだよね、わさわさちゃんは。
ほんでも、なんでこの子がたまごの中にいたのだろうか。一緒に避難したのかな?
「君も、たまごに避難したのかな?」
「~?」
一応聞いてみたけど、なんかぴこぴこ踊ってるだけで良く分かんないな。
まあ、とりあえず村に戻って、門がどうなるか試してみよう。
「一緒に、村まで帰ろうか」
「~」
そんなわけであわてて撤収作業を行い、急いでわさわさちゃんを連れて村へ繋がる洞窟へ戻り、門をくぐる。
すると――。
「あや~、とじたです~」
「ホントですね……」
ご覧の通り、門が閉じた。つまり、最後に残されていた避難民は……わさわさちゃん、だったのだ。
「君が、残されたお客さんだったんだね」
「~」
相変わらずぴこぴこ踊るわさわさちゃんだけど、門の動きからするとそう考えるしか無い。ようやく、全員揃ったというわけだ。
「……これが、始まりなのですね?」
踊るわさわさちゃんをみていると、おひい様が問いかけてきた。そう、これは始まりである。
「ええ、こちらで何かを見つけるための、何かが始まったのです」
「そうですか……」
おひい様は、そのオパールのような瞳で、じっと閉じてしまった洞窟を見つめていた。
彼女はドラゴンさんたちのトップであるだけに、これからの責任を感じているのだろうか。
「ああ……エビとカニの楽園が……」
「あわきゃ~……」
なおその横では魔女さんと偉い人ちゃんが、海と海産物へのアクセスが遮断され、とても残念そうな顔をしていた。正直俺もそれが大変残念である……。
でもまあ気を取り直して、これから始めよう。ドラゴンさんたちの、ちたま生活を。
ドラゴンさんたち、一緒に田植え、しましょうねえ。人手はいくらあっても、足りないからねえ……。
「~」
あとは、ようやく見つけた最後の避難民のわさわさちゃんを、歓迎してあげよう。
この子も立派な、お客さんなのだから。
「わさわさちゃん、ちたまへようこそ。これからよろしくね」
「~!」
歓迎の挨拶をすると、嬉しそうに手からぴょ~んとジャンプして、俺の服にくっついた。そんなわさわさちゃんを優しく撫でてあげる。
「~」
フフフフ……しっかりと捕まえたぞお。この謎植物ちゃんは、うかつに逃がすと隙を見て森を作るからね。
今回はあっさり捕まえられて一安心だよ。よかったよかった!
「あや~、タイシわるいかおしてるです~」
「大人になると、ああなるのよ」
「わきゃ~ん、つみつくりな、ひとなのさ~」
「つかまっちゃったね! にげられないね!」
おっと、顔に出ていた。気をつけないと。
とまあ閉じた洞窟の前で、ワイワイと盛り上がっていると――。
「そういえばですけど、もしかしてたまごをあけたのって、わさわさちゃんです?」
おもむろにハナちゃんがそんなことを言い出した。言われてみれば、状況的にこの子しか犯人がおらんな。
「ためしに、あけてみてもらっていいです?」
「~」
なぜか意思疎通が出来てるっぽいハナちゃんだけど、そんなお願いをしているね。それじゃあ洞窟から持ってきてある、わさわさちゃんの入っていた、あのたまごを出してみるか。
「はい、これで試してみてね」
「~」
果たしてたまごを取り出すと、わさわさちゃんがすさささっと近寄っていき、ぴぴこぴことやり始めた。と思ったら開いた。
「うわ、この子やっぱりたまご開けられるんだ。しかも早い」
「すごいです~!」
「~」
まさかのわさわさちゃん、たまご開け職人だったでござる、の巻。これにはお父さんもびっくりだよ!
わさわさちゃんも、「すごいでしょ!」みたいな雰囲気出してる。確かに凄い。ハナちゃんに匹敵するレベルの早開け技であった。
「あの、まさかですけど。私たちが助かったのは……」
俺とハナちゃんとわさわさちゃんで盛り上がっていると、おひい様がおずおずと問いかけてきた。そう、おひい様たちが危なかったとき、たまごを開けてくれたのは――わさわさちゃん、の可能性が極めて高いよねこれ。
「恐らくですが、おひい様のお考えは正しいかと」
「そうなのですね」
「~」
その考えに同意すると、おひい様は、わさわさちゃんの方をみてニッコリした。この子はみんな気付かないところで、大活躍してたんだね。
「色々良くしてくださったようで、ありがとうございます」
「~」
おひい様がお礼を言うと、わさわさちゃんがぴょーんとはねて、おひい様の服にひっついた。懐くとひっついてくるのかな?
何はともあれ、面白い生き物である。
「わさわさちゃん、いろんなおしごと、できるですね~」
「えらいこさ~」
「がんばってるね! がんばってる!」
そしておひい様にひっついているわさわさちゃんを、ハナちゃんたちがこちょこちょくすぐって褒めまくっているね。エルフィン惑星系の方々は特にお世話になっているぽいので、この謎の生き物に対して大変に好意的である。
「なんだか、おひい様がお世話になったみたいですね」
「わたしたちも、やっとくよ~」
「くすぐればいいんだね、こちょこちょだね」
この様子を見ていたシカ角さんたちも、わさわさちゃんくすぐり大会に参加してきた。大勢でよってたかってくすぐりである。
「~……」
「あえ、おっこちたです?」
「くすぐりすぎたかもだね! くすぐりすぎ!」
「やりすぎたさ~」
あ、くすぐられすぎて、わさわさちゃんが落っこちた。そして、ピクピクしてる。
大変だー!
これにて今章は終了となります。みなさまお付き合い頂きありがとうごさいました。
ドラゴンさんの異世界をまたいだ、二年に渡る超高難度イースター・エッグ探索イベント、ようやくクリアです!
はてさて、ようやくドラゴンさんが一息つけましたが、村では一大イベントのタイムリミットが迫っておりーー
ということで、引き続き次章もお付き合い頂けたらなによりです。