第十七話 なんだか齟齬があるような……
あの卵について聞いてみたところ、なんか「歴代の姫が元々入ってたやつ」みたいな説明を受けた。これは一体どう言うことなのか。
「姫というと……」
「うちもあれに入ってたやで」
「うちもやよ」
聞き返すと、こっちとうちのおひい様二人共がそう答えた。
……どゆこと?
「うちらみたいな白いんは、みんな卵から出てきてるんや」
「そうなのですか?」
「せやで」
ちょっと思考フリーズしていると、続けてこっちのおひい様がそう言った。
ホワイトドラゴンさんたちは、みんな卵生まれとな。
「ほんで仕舞っとくのも大変やから、ああいった洞窟に置いといたんやな」
「結構でかいしな」
どうやら、あの不思議な卵を仕舞っとくのもあれなんで、歴代は洞窟に置いといたという話らしい。つまりあの場所は、物置というわけか。
「うちもあの洞窟に入って卵見つけて、『これならイケる』っておもたんよ。あれは助かったわ~」
うちのおひい様がくねくねしながら説明してくれたけど、導かれた先は「歴代おひい様が入ってた卵置き場」であり、おかげで助かったという話らしい。
偶然あったわけじゃ、無かったんだな。そこに卵があるという情報までは知らなかったようだけど。
「うちらは若いんで、まだ自分のやつもっとるけどな」
こっちのおひい様がちょっとだけ取り出してくれたけど、確かに今まで発見した卵と同じ物だな。
というかおひい様はみんな卵生まれらしいけど、つまりは孤児なわけだ。大変だったのではないだろうか。
「お二人も含め歴代のおひい様は、みなさん一人で放り出されたわけですか?」
「せやな」
「いうてもすぐに発見されて、良くしてもろてるで」
色々思うところはあるのかもしれないけど、集落の一般ドラゴンさんたちが良くしてくれているようだ。これは、エルフィンでの卵出身者の話でもあったな。
バックアップ体制はしっかりしている、というか文化に組み込まれている気配がある。
「それに、卵を開けるにはうちらみたいな白いんが必要なんやで」
「え? おひい様が必要なのですか?」
「せや。一晩かけてなんとか開けるんや。他の巫女だとその何倍も時間かかるか、開けられないかやで」
エルフィン惑星系の孤児バックアップ体制を考えていると、なんかこっちの森のおひい様がそんなことを言い始めた。
姫様クラスなら、あの卵をなんとか開けられるらしいぞ。
「この子の卵も、うちが一晩かけて開けたんやで。しばらく教育もしたんや」
「ありがたい話やね。ほんでそのあと、姫がおらん森に是非ともって引き取られたんや」
「それがあの、灰化した森という事ですね」
「せや」
追加情報として、うちのおひい様が入った卵は、こっちの森おひい様が開けたらしい。そしてその姫は、シカ角さんたちが暮らしていた森に引き取られて行ったと。
あと、こっちのおひい様が教育もしたと言っている。すなわち、白蛇さんが関西風訛りになるのはその影響かもしれないな。他の一般ドラゴンさんたちは訛ってないし。
「あの森でも大昔は姫がいまして、肌が白いのはその子孫ですね」
「親戚みたいなものだから、お世話してあげなきゃって感じで集まって、なんか自然にこう……お世話係とかの役割分担ができました」
今度は現地民のシカ角さんとウシ角さんが説明してくれたけど、灰化したあの森にも過去にはおひい様がいたっぽい。肌って言うか蛇部分のベースが白い人たちは、どうやらその子孫のようだ。そこから身内意識みたいなものもあって、かまっているうちにおひい様お世話係みたいなのが生まれ、現在の十名で面倒を見る体制が出来上がっていったらしいね。
と言うか女性しかいない種族っぽいけど、子孫は生まれているようだ。この辺は妖精さんとドワーフちゃんも同じなんだけど、事が事だけに聞きづらいので放置しよう。
別に知らなくても、今のところなんの問題も無いからね。俺だってそんなこと聞かれても返答に困るし、お互い触れない方が身のためなのだ。そうに違いない。
「でも、おひい様が卵から生まれたってのは初めて聞きましたね」
「あんまり言うことでもないしな」
ただおひい様が卵から出てきたってのは、シカ角さんも知らなかったらしい。後ろでお供さんたちも頷いているので、他のみんなも同様ってところか。
まあ、そんなに言いふらす事でも無いって感じだね。
「なんにせよ、おひい様は卵に大事にしまわれていて、あの洞窟にあった卵はその置き場であったらしいと言う事ですか」
「せやな」
色々面白いお話聞けて興味深いけど、とどのつまりはそんなところかな。じゃあ、あの卵置き場について何か情報はあるだろうか。
「しかしまた、なんであんなに遠いところに置いたのでしょうか」
「詳しいことは、うちもわからんな。記録をみるに、深い理由は無いように思うで」
「人が来そうに無い、適度な場所がそこだったから、くらいやないか?」
卵が沢山置いてあった洞窟については、まあ物置にちょうど良かったから、程度の理由で深い意味は無いらしい。こっちの森おひい様が、なんか巻物を取り出して資料を見ているけど、これと言った記述は無いっぽいね。うちのおひい様ものぞき込んでいるけど、同じ見解っぽいし。
しかしとりあえず記録はされていたおかげで、うちのおひい様がなんか良い感じに助かったような話なのかな?
「ほほう、こっちの資料やと、いついつ置いたとかも書いてあるんやな」
「主にうちらの森が、物置代わりに使ってたみたいやね」
おや? どうやらこっちの森資料には、もちっと詳しく情報あるらしい。
ちょっと聞いてみようか。
「そちらの資料は、詳細情報があるのですか?」
「詳細いうても、そんなでもないで?」
「とりあえずで良いので、お聞かせ頂きたいです」
「まあ、ええで。まずは――」
なんとかお願いして、情報を聞き出してみる。
それによるとだ、最初はあの巨大な卵があるのを旅人が発見したのが始まりらしい。あれは最初からあったもので、そこから何が出てきたのかは記録に無く、不明とのこと。
次に、いつからかは分からないけど、こっちのおひい様が卵置き場にしたというだけの記述があるそうな。まあ、でかい卵もあるしで、せっかくならそこに置いとこうって位の話かもね。
やがて、いついつ卵をあの洞窟に置きに行った。という記録が出始め、現在に至ると。
「なるほど、確かに深い理由はなさそうですね」
「せやろ?」
あのでかい卵の発見がきっかけとは言え、なにか重大な秘密があったとか理由があったとかは資料からは感じられなかった。デカ卵に縁を感じたから、ここにおいとこ! 位のノリかなって個人的には思える。密やかな記念碑みたいなもんかな。
「直近のは、うちんとこの先任が置いたやつやね」
「今は旅に出てるんやっけ?」
「お役目から解放されたとたん、満面の笑顔で観光旅行に行きよったわ」
「ええなあ」
最も最近の事例としては、こっちの森先代おひい様のやつらしい。どうやら、今は旅に出ているようだけど。ずっと森で引きこもっていた反動が出て、お役目から解放されたら今度は旅をしっぱなしになるのかな? 気持ちは分かるかもしれない。
「ともあれ、記録を精査すると……あの洞窟には、でかい卵を省くと十七個卵があったことになるやで」
「なるほど……十七個?」
あれ? おかしいな。俺たちが見つけた卵は十六個だ。一個足りない。
「私共が見つけたのは、十六個でしたが」
「全員みつかったんやからええんやない?」
「せやせや、一個くらい行方不明でも、しょうがあらへんで」
確かにそうなのだけど、一個だけ見つかっていないのもなんか、やり残し感あるんだよなあ。歴代おひい様たちの記念碑みたいなもの、と考えると、微妙ではある。
あたしんだけどっかいった! とか後から言われちゃったりしてこれね。
「その十六個も、また置き場考えんとあかんやで」
「それもそうですね。あの洞窟はこれからも水没する可能性ありますので、もう置いとくわけにはいかないでしょうし」
こっちのおひい様がお困り顔で言ったけど、確かにそうだ。もうあの洞窟は卵置き場としては使えない。どっか他に探さないといけないな。それに、残されたデカイ卵もあのままにしておくのは不安がある。他に安全な場所を、見つけてあげた方が良いとは思う。
ただまあ、今すぐにってのは無理か。色々やらなければならないこと山積みなので、余裕ができたらってところだな。
「卵に関しては、うちらからはこれくらいやね」
「なるほど、貴重な情報ありがとうございました」
「ほな、甘い物でも食べて一休みや」
色々興味深い情報は聞けたけど、おひい様たちもすべてが分かっているわけではない、と言うことだね。むしろ分からないことの方が多いみたいだ。
ともあれ一休みと行こう。
「しょっぱい物を食べて甘い物を食べる、そしてまたしょっぱい物を。この背徳的な繰り返しがたまらんのや」
「太るで」
「いわんといてや」
「もう手遅れやけどね」
「いわんといてや!」
こっちのおひい様が、運ばれてきたお芋をかじりながらそんなことを言う。そしてすぐさまうちのおひい様が忠告をし、畳みかけるようにオチをつけた。
二人とも息がぴったりで、笑って良いのか聞かなかったことにするのが良いか、判断に迷うのである。とっても仲良しなのは良く分かったのだけど。
「おいものおだんごつくるよ! おだんご!」
「おいしくな~れ! おいしくな~れっ!」
「あまさばいぞう! あまあまだよ!」
そんな二人をよそに、待ってましたとばかりに、妖精さんがマイペースでお芋お団子の量産を開始する。
「チョコじゃないからだいじょうぶだよね? だいじょうぶ!」
「これはやせちゃうかもね! やせちゃう!」
そしてサクラちゃんとアゲハちゃんは、チョコじゃ無いから大丈夫理論を展開し始めた。そんなわけないんだよお。糖分たっぷり蜜たっぷりのお芋は、カロリーもそれなりなんだよお。
まあ食物繊維も沢山なので、食べた量の割には低カロリーであるのは確かにそうなのだが。ただ、やせちゃうってのは無理かなあと。食べれば増えるのだ。
でもまあ、二人は「だいえっと」のために甘い物制限をしていたので、もう我慢できないって感じなわけで。そっとしておこう。
「ここにおもさをはかるやつがあります。あります」
と思っていたら、イトカワちゃんがクッキングスケールをしまっちゃう空間から取り出したわけでね。持ってきたのか……。
「きゃい~! げんじつをつきつけるやつがきた! げんじつ!」
「ようしゃなしのどうぐなんだよ! てかげんしないやつだよ!」
そしてサクラちゃんとアゲハちゃんは、重さを量るやつを見た途端に、計量のために並ぶという。現実を突きつけると言っている割に、ノリノリで挑むその姿勢、嫌いじゃ無い。数字を見てリアクションをとるまで、すべてがネタなのだ。
「あきゃ~い」
「きゃ~い」
そして現実を突きつけられた二人の妖精さんは、暗い顔でお団子をこね始めた。めでたしめでたし?
ただしお団子の素材は甘いお芋であり、反省の色はあまり見られない。
「タイシさんには、しっぱいしたやつね! しっぱいしたやつ!」
「おおう」
「とうぜんあじみはしてないよ! ぶっつけほんばんだね! ぶっつけ!」
そんな微笑ましい光景を見守っていたら、流れ弾が飛んできた。お仲間二人に現実を突きつけたイトカワちゃんが、満面の笑みで失敗作を抱えて飛んできたわけで。
「おいもをつかって、あのたまごをさいげんしてみたよ! たまごのやつ!」
「確かに、見事な再現度」
「ほめられちゃった! ほめられちゃった!」
イトカワちゃんが製造した危険物は、果たして卵を再現したお団子であった。あのどぎつい配色も再現されており、どうやってこの色彩を実現したのか非常に気になる。そんな材料はこの場に存在しないからだ。あきらかに、お芋を原料にしてこの色は出せないと思うのだが。
「もちろんぱかっとあくんだよ! あくんだよ!」
「尋常では無いこだわりだね」
「またほめられちゃった! またまたほめられちゃった!」
さらに、蓋が開くというギミックも再現されていてもうわけがわからないよ。内部は再現されておらず、お芋の素朴な色合いが見て取れたのは、唯一の安心材料かな?
「あや~、これはみごとですね~」
「食べるには勇気がいりますが、見た目の再現度は凄いですね」
「わきゃ~ん、よくつくったさ~」
「またまたほめられちゃった!」
これを見たハナちゃんとユキちゃんも、ふむふむと関心しているね。偉い人ちゃんも、びっくりまなこで卵再現お団子を見つめている。
自分たちが食べるわけじゃ無いから、純粋に他人事で物事を見ておられるのが気になるところではあるのだが。
「ということで、どうぞ! どうぞ!」
「頂き申す」
俺は他人事じゃなくて実食する側なので、覚悟を決める必要がある。仲間が欲しいところだけど一つしか無いので、心を無にして頂こうでは無いか!
――と思ったら味は普通の芋きんつばであった。ほっと一安心だよ。
「お芋の良さを上手に活かした、美味しいお団子だね」
「みためいがいはくふうしてないからね! みためしかこだわってないよ!」
「なるほど」
そこにこだわる前に、普通のお団子を作る方面でこだわって欲しいと思うのは、俺のわがままなのだろうか。ともあれ、いつもの儀式はなんとかなった。なんだかんだで、面白お団子で和んだとも言う。
「こだわったおだんごでしたね~。……あえ?」
そうして和んでいると、ハナちゃんがなんか首を傾げて考え事を始める。どうしたんだろう?
「ハナちゃんどうしたの?」
「なんだか、もやっとしたです?」
「もやっとしたの?」
「あい。もやもやです?」
聞いてみると、なんだかもやっとしたとのことだ。具体的に何がとは言えないみたいで、もやもや顔をしておられる。可愛いエルフ耳も、水平よりやや下がり気味でもやっとした角度だね。
「あやや~、なんかもやっとするですけど、それがなにかがわからないです~」
そうしてもやもやハナちゃんとなったわけだけど、もやもやしつつもお芋はバクバク食べておられる。あっという間に二つのお芋が、ハナちゃんの栄養となった。沢山食べて、すくすく育ってね。
「このお芋、すっごい甘いですね」
「またまたごちそう」
「わきゃ~ん、たまらんさ~」
ともあれユキちゃんや魔女さんと偉い人ちゃんも、お芋をちまちまと食べてその甘さに驚いている。ドラゴンさんたちが大好きなお芋は、なんだか特別な品種って感じだ。リューンならではのお芋っぽいかな?
こうしてしばらく軽い雑談をしながら、おやつタイムで小休止となったのだけど――。
「あや! そういえばそうです? たまごのあけかた、いわかんあるです?」
突然もやもやハナちゃんが、何か思いついたよハナちゃんに変化した。エルフ耳がピコっと立ったので、ひらめいたらしい。
「おひいさまたちは、たまごをあけられるです?」
そして矢継ぎ早に、ハナちゃんからこんな質問が。そう言えば、ホワイトドラゴンさんなら卵を開けられるってさっき聞いたな。でもそれを確認して、どうするんだろう?
「ちとめんどいんやけど、開けられることは開けられるやで」
「そういう術があるんや」
ハナちゃんの問いかけには、おひい様たちが巻物をしゅしゅっと取り出してくねくねした。やっぱりあるんだ。
「でも、開けるにはこれとこれをああして、そっからそうでああなってやな」
「そのうえそっちとあれをこうせなあかんのや。めんどいで」
さらに巻物を見ながら、ああなってそうとか説明はしてくれた。しかし俺にはさっぱりわけがわからない。
「あえ? これとそれ、やんなくてもそうなってああなるからできるですよ?」
「ほんま?」
「あい~。そっちとあれも、まずこれとあれをそうすると、とばせるです?」
ただハナちゃんにはわかるようで、やんなくても良い手順とか説明しておられる。
もうすっかり、卵オープン技術者ではないか。
「ようわからへんけど、ハナちゃんすごいやね~」
「ほんまやね~」
「うふ~」
おひい様たちも良く分からなかったぽいけど、ハナちゃんの説明に合理性を感じたのか、頭をなでなでして褒めてくれている。まあ、ハナちゃんだからね!
「ちなみに、それいがいのあけかたは、しらないです?」
「うちらが知ってる方法は、今説明したとおりやね」
「他はよう知らんなあ」
うふうふしていたハナちゃんだけど、念を入れるようにそう確認した。一体どうしたのだろう?
「タイシタイシ、やっぱしおかしいです?」
と思っていたら、ハナちゃんがこっちに正座のまますすすっとやってきて、そんなことをおっしゃる。やっぱしおかしいとは、なんぞ?
「おかしいって、何がかな?」
「あけかたですね~。こっちのほうほうだと、たしかにひとばんかかるです?」
「らしいね」
ハナちゃん言うには、開け方がおかしいらしい。確かに熟練職人のハナちゃんなら十数秒で開けられるから、一晩かかる方法はおかしいって思ったのかな?
「開け方に問題があるの?」
「ひとつあけるのにひとばんかかってたら、ぜんいんぶんあけるのはむりです?」
「全員分を開けるのが無理……。確かに、そうだ」
「です~」
……ハナちゃんが引っかかっていたのは、そう言う事か。確かに、おひい様でも一つ開けるのに一晩かかるのが、あの卵である。今回は十一個の卵を開けたわけで、一つ一つに一晩かけていたら、アレしてしまう。そこがおかしいと、ハナちゃんは思った訳か。
これはおひい様に確認する必要あるな。
「洞窟で卵を発見したとき、すんなり開いたのですか?」
「せやね、特になんもせんと、近づいたら開いたんよ」
「あえ? それはおかしいです?」
(おかしいね~)
おひい様に聞いてみると、何にもしないで開いたと言う。でも、ハナちゃんはおかしいと言い、うちの謎の声もおかしいと断言した。
「それっておかしいの?」
「ちかよっただけじゃ、あかないですよ? あれをこうしてああして、それからこうなったあとにうえのへんをそうしてひだりっかわをはずすひつようがあるです?」
(だね~)
ハナちゃんが手順を説明してくれたけど、さっぱりわからない。でも、色々やらないとあの卵は開かないのはわかった。
「せやかて、あのときはあっさり開いたやね」
「私たちもそばで見てましたけど、ぱかってすぐに開きましたよ」
「それは間違いないですね」
しかしおひい様とそのお供さんたちは、あっさり開いたと主張し、証言もある。
つまりは、ハナちゃんとおひい様たちの見解が異なるわけだ。技術者はそれは不可能だと言い、運用者はできちゃったと言う。
この齟齬は、一体なんだろう?
「あや~、ふしぎですね~」
「うちもあっさり開いたときはおどろいたんやけど、まあええかなって」
うちのおひい様も、あっさり開いたのは不思議に思っているようだ。一般的な見解からすると、なかなか開かないで合っているようだね。
だけど、あのときは例外的にあっさり開いた。ここにハナちゃんが違和感を覚えたということだろう。
「……確かに、これは気になるね」
「です~」
言われてみれば確かにそうで、あり得ないことが起きたと考えられる。
普通は簡単には開けられない卵が、あのときだけは簡単に開いた。それはなんでだろうと思うのは、実際に卵を開けられるハナちゃんからすれば、当然のことだろう。
緊急事態を察して、卵が便宜を図ってくれた、ということなら面白いんだけど。でも、そんな機能は付いてないっぽいんだよな。今までのすったもんだから考えると、自律的に判断して、開け閉めしてくれるような代物じゃない気がするんだよ。
「あや~、なぞです~」
「気になるけど、分からないね……」
「あややや~」
卵開け技術者として、ハナちゃんはこのもやもやがすっごく気になるみたいだ。あやあや言いながら、頭を抱えてしまった。エルフ耳がへにょへにょしていてめっちゃ可愛い。
そんな感じで、しばらくハナちゃんを見てほんわかしていたのだが――。
(だれかが、あけてくれたのかもね~)
と、謎の声がおっしゃった。
誰かが、開けてくれた、かもしれない。
可能性としては……ある。
「待てよ……洞窟が閉じない、そして、発見した卵は通常サイズが十六個……一つ、たりない」
「あや!」
そうだ、洞窟は閉じていない。何でそうなのかは分からなかったが、未だ要救助者がいると考えると、別に不自然では無くなる。
そして、洞窟には巨大な卵一つと、普通サイズが十七個あったらしいことは、こっちのおひい様資料から推定された。
つまり、行方不明の最後の一つに、何かがあるのでは?
ハナちゃんも同じ見解に到達したようで、俺の方をまん丸おめめで見上げている。
認識のすり合わせといこうじゃないか。
「ハナちゃん、そう、またなんだ」
「あや~、またですか~」
終わったと思っていた、卵捜索だけど……まだ、終わっていないかもしれない。
今のところ何の探知にも引っかからない、最後の一つを見つける必要が出てきた。
「……とことん、卵の捜索で悩まされるのですね」
「異世界の理不尽さは、もうお腹いっぱいなのですが」
そしてユキちゃんと魔女さんも、当然横で話を聞いていて、同じ見解に到達した。
終わったと思っていたのにこの展開で、頭を抱えているね。俺もハナちゃんも、同じ気持ちである。
でも、言わなければならない。
「また卵の捜索が始まるよ! 情報ゼロだからしらみつぶしだね」
認めたくない現実を通知すると、賑やかだった室内しばらくシーンとなった。
気持ち分かる!
「なるほど、これはヤケ酒ですね」
虚ろな目をしたシカ角さんが、やけ酒宣言をした。それも気持ちわかるね。
二年以上探し回ってようやく終わったと思ったら、まだあるとか、そりゃやけ酒したくもなるよ。
「わきゃ~ん、おつきあいするさ~」
「お、やけ酒するんやな。飲み比べするやで~!」
「うちもようわからんけど、飲んどくわ」
こうしてウワバミ組がやけ酒を開始し、宴の席は制御不能のカオスとなった。
特にシカ角さんを始めとした、ドラゴン三人娘のやけっぱちぶりがすごい。
「あや~、いっきにダメなかんじになったですね~」
「自分たちは、はしっこでお料理ちまちま食べていようね」
「あい~」
ともあれ、村に帰ったらまた捜索計画を立てねばならない。しかし全くの情報ゼロなうえ、おひい様の探知にも引っかからなかった。
もうどうして良いか全く分からないけど、やるしかない。
最後の一つを見つけるため、どうにかするのだ!