第十三話 あの人は今
半月かけてリューンに散らばる全員を捜索し、救助は完了した。
意気軒昂な感じで村に戻り、これからの事を考えることにする。
「これで全員揃いました。二年もかかりましたが、感無量です」
「大変だったよ~」
「みんな無事で良かったね。使命は果たせたね」
「ばうばう」
ずっとずっと、ちたまで活動してきたドラゴン三人娘もじーんとしている。フクロオオカミ便の荷台にゆられながら、くねくねしていた。
そりゃあ二年かけてここまでたどり着いたからね。一月くらいでなんとかした俺たちとは、かけた日数が桁違いだ。じーんともするだろう。
「これで、またむらもにぎやかになるですね~」
俺たちはフクロオオカミに乗っているけど、前に座っているハナちゃんが俺のほうを見上げてニッコニコしている。
村人がまた増えるのを、楽しみにしているようだ。
「そうだね、みんなのおうちも考えないと」
「たのしみです~」
「帰ってからの村の案内は、おひい様たちにお任せしましょう」
ウキウキしているハナちゃんが、両手を挙げてキャッキャした。
あと後ろのユキちゃんは俺にがっしりしがみついているのだけど、密着度高くない?
ちらりと見ると、ダーク耳しっぽが出ているのだけど。でもふわふわ耳の毛並みが首筋に当たるので、よきかなよきかな。ありがたや~。
「わきゃ~ん、うみはいいものさ~」
「また、あそびにくるさ~」
「カニなのさ~」
こうしてウキウキハナちゃんとキツネさん耳の毛並みを堪能していると、お隣からのんびりしたお声が。
そちらに目をやると、偉い人ちゃん率いるドワーフ隊がのんびり並走している。みなさん目的を達成できたとあって誇らしげだね。それと海がとっても楽しかったらしく、また遊びに来るつもりのようだ。
こちらとしても、安全に楽しめそうな海が手の届く場所にある、ということで期待は高まるのだけど――ひとつ問題があるんだなこれが。
「あ~、私もこの海で遊びたいとは思うのですが、洞窟が閉じちゃいますよ」
「――! おわったさ~……」
「さよならさ~……」
「かなわぬ、ゆめだったさ~……」
その問題を告げると、偉い人ちゃんとお供ちゃんがフクロオオカミ便の荷台で崩れ落ちた。しっぽがぴくぴくしていてかわいらしい。
とまあそういう事なので、この素敵な海はしばらくお預けって事になるね。
それに季節の関係もあるから、いつでもここで遊べるという訳でもないのだ。
「そう言えば、私たちの通り抜けたあの洞窟は、閉じてしまうのでしたか」
「はい、今のところその可能性が高いです」
俺たちの会話を聞いて、おひい様が問いかけてきた。恐らくだけど、ここにいる全員が村へ帰還したら、閉じちゃうんじゃないかなと思う。
このドラゴンさんたちもまた、何か大事な事を見つける必要があると俺は考えている。
それがなにかは、まだ分からないのだけれど。
「ばうばう~」
「あえ? つかれちゃったです?」
「ばう」
「タイシタイシ、ちょっとやすむです~」
そうして色々考えたりお話していると、フクロオオカミがなんか疲れちゃったようだとハナちゃんからアラートが来た。
言うとおり、ちょこっと休憩しよう。
「それじゃ一休みしようか。オオカミさんお仕事ありがとう。水を飲んだりお野菜食べてね」
「ばうばう!」
「ハナちゃんも、確認ありがとね。頭なでちゃうよ」
「うふ~」
一休みってことで、フクロオオカミたちにトウモロコシと水をあげて鋭気を養って貰う。
大勢運んでいるから、やっぱり疲れるよね。
「この動物さん、頼もしいですね」
「ばうばう」
おひい様もフクロオオカミの側によって行き、のび~と背伸びしながら首筋や背中ををなでなでしてあげている。この捜索大作戦で、結構仲良くなったみたいだね。なでられたフクロオオカミも、嬉しそうだ。
こんな感じでちまちま休憩を取りながら、目的の洞窟へ向かう。まあ一時間半くらいで帰路を走破し、とうとうちたまへの帰還となった。
「では、行きましょう」
「いくです~」
こうして俺たちは、大きな成果を達成しちたまへと帰還した。
――しかし、ここで終わりでは、なかったのだ。
「あや~、どうくつ、とじないです~」
「これは……」
そう、全員が洞窟を抜けても、閉じなかった。
「まだ、何かが残されている?」
まだ何かが残っている、何かが残されている。どうやら、リューンはそんなに甘くない世界のようだ。
何がなんだかわからないけど、現地での活動は続ける必要があるらしい。
「ひとまずおひい様たちは救助出来たので、少人数で少しずつ調べていこう」
「そうするしか、ないですね~」
「これはこれは……一筋縄では行かないみたいですね」
俺とハナちゃんとユキちゃんは、ぽっかり開いた洞窟を見て……途方に暮れるしかないのであった。
◇
「まだ、何かあるのですね」
「そう考えられますが……ひとまずは、生活基盤を整えましょう」
「はい」
洞窟が閉じない事件に関しては、ひとまず置いておくことにした。今のところ情報がゼロのため、どうしようもないのだ。
それよりは、まずおひい様たちの生活について考える必要がある。
「私たちは、あの素敵なおうちで大丈夫でございますよ」
「まあ……十一人でも、過ごせますか」
「おおきいおうちですから」
住居に関しては、空き家のログハウスで大丈夫らしい。大きめに作っておいて良かったって所か。
それは良いのだけど、別の問題も出てくる。
「生活費に関しましては、みなさんが負担するのですか? 私共からも、援助はしますよ?」
「ここまでご負担をかけている以上、そこまでお世話になるのは流石に心苦しいです……」
世知辛い話になるけど、十一名が村で暮らすにはそれなりにコストはかかる。
これについて、ドラゴンさんたちは自分たちでなんとかしたいようだ。
気持ちはわかるけど、大丈夫かな?
「ひとまず、当座の資金として、これをお金に換えたいと考えておりまして」
「あ! 噂の勾玉ですね!」
と思っていたら、おひい様がしゃらんと勾玉を取り出した。ユキちゃんはそれを見て、耳しっぽがぽわわんだね。いつもながら、毛並みがとっても美しい。
そしてこの反応を見るに、ユキちゃん界隈はこれを欲しがっていると見た。
「ユキちゃん、換金できそうかな?」
「それは大丈夫ですね。総本山に問い合わせれば、一発かと思いますよ」
「なるほどなるほど」
総本山というキーワードで色々バレるのだけど、うかつな子キツネさんはあっさり暴露する。でもまあ、換金出来るなら大丈夫かな。
「では、ひとまず勾玉を換金し当座の生活費に充て、住居は今まで通りという方針で行きましょう」
「お世話かけます」
こうして当面はなんとかなり、ドラゴンさんたちの村生活が始まる。
「あっらー! 田起こしがこんな短期間で終わるなんて!」
「みてみて! この畦カッチカチの土で固めてあるわ!」
「区画もこんなに正確よ! ヤマトの稲作は凄いことになってるわね!」
特に水田に興味があるのか、暇があれば田んぼの脇でくねくねしていた。
もう少ししたら水入れなので、手伝って貰いますよお。お米を沢山作るんだよお。
というかドラゴンさん用の田んぼも急いで準備したので、今年の稲作はまた規模がでかくなっている。
だってこの人たち、猛烈に食べそうだからね。
「かめら! かめらって何これ凄いやん!」
「やん?」
「何でもございません」
あと村で一番売れているガジェットのインスタントカメラに、おひい様がくびったけになった。暇さえあれば、パシャパシャと写真撮影をしている。
あまり外に出かけられない生活だったらしいから、こうした風景を写し取る道具はことさら琴線に響いたらしい。
せっかくなのでちたまにっぽんの風景写真集を渡したら、ニコニコと眺めて楽しむ姿が集会場でよく見られるようになった。喜んで頂けたなら、幸いだ。
「ひー! やっぱり代かきは大変ですね!」
「あや~、どろんこです~」
「……」
「あらー! おひい様が沈んだわ!」
代かきにも参加して頂き、おひい様も含めてみなさん大変頑張った。
普段はおしゃれなドラゴンさんたちだが、みなさん農作業着姿で頑張ってくれて大助かりだ。農家の龍である。
ちなみにおひい様は泥に良く沈むため、見学して貰うことになったのだが。
どろんこになったおひい様は、お供さんたちが寄ってたかって温泉で洗ったらしい。お風呂上りにはつやつやしておられた。たゆまぬ努力ってやつ?
「とらくたーってやつを使うと、あっという間なのね」
「正直欲しいわ」
「あの大きいやつでお値段一千万円です」
「――……」
沈むおひい様はあれとして、ドラゴンさん用の田んぼも急いで代かきをするため、大型トラクターでさくっと片付ける。
欲しがったのでお値段を伝えると、全員気絶した。
「キャー! おひい様よくぞご無事で!」
「やっと会えましたね!」
「念願叶いましたあ!」
「元気そうで安心しました!」
「変わらぬお姿、感無量です!」
また全員救助の知らせを受けて、奈良から五人のエステドラゴンさんも、新幹線自由席に乗って駆け付けてきた。交通費を微妙に節約しておられる。帰りは夜行バスを使うそうで、なんとしても節約したい心意気がビシバシと伝わって来たな。
それはさておき、みんなで無事を喜び、酒盛りして全員がつぶれたりもしたけど、村は一気に賑やかになった。いずれは支配人さんにも、みんなで会いに行きたいな。流石に沖縄は遠いので、そうそう簡単には行けないのだけど。
こうしてドラゴンさんたちが村に溶け込んで行き、田んぼも着々と準備が整っていったある日のことだ。
「お願いしますね」
「ミュミューン」
おひい様がネコちゃん便を飛ばしているのが見えた。しかしお供ドラゴンさんは村にいるし、エステドラゴンさんは奈良と長野でお仕事中である。この状況でネコちゃん便を飛ばす先は、無いように思えるのだけれど。
ちょっと聞いてみよう。
「あの、どちらにお便りをしているのですか?」
「ああそれは、お世話になった森の姫宛に、文を送ったのですよ」
「それは、みなさんが避難する予定だった森の?」
「ええ、せめて無事は伝えておかないといけませんから」
「なるほど、確かにそうですね」
聞いてみると、確かにそうだ。避難先の森のおひい様は、色々力を貸してくれたという話は聞いている。そりゃあ、無事を報せる便りは送らないと不義理だよね。当たり前の話でござった。
でも、なんか水晶玉で通信とか出来なかったっけ?
「その便利なやつで、通信とかは出来ないのですか?」
「昨日洞窟をくぐって、現地で試してみたのですけど……二年も経っているため、繋がりませんでした」
「そんなことがあるのですね」
「定期的に交信しあって、同期をとらないといけないのですよね、これ」
良く分からないけど、繋がらないらしい。認証期限切れってやつ?
ともあれそうなってしまうと、色々面倒っぽいね。
「姫に直接お会いすれば、また繋げられるのですが……」
と言いながら、おひい様は水晶玉をこねこねした。直接会えば、なんとかなるか……。
じゃあ、せっかくだからお礼しに行くのも良いかもしれない。
洞窟も閉じていないし、田植えは時期がめっちゃ遅れているけど、エルフたちが世話すれば巻き返しはあっさりできてしまう。
ちと、提案してみようか。
「でしたらお礼を言うために、その森へ行ってみませんか?」
「え? 行くと言っても、けっこう遠いですよ?」
「車で行けば良いのでは」
「――それや!」
「せやろ?」
「せやせや!」
ほな、行きまひょかという感じで行けるのである。車があるのだから。大人数なので、マイクロバスとランクルで行く事になるとは思うけど。
今動かせるのはマイクロバス二台とランクル一台があるし、三十二人は運べる。キャラバンを組んで行けば、そうそう難しくは無いと思うんだよね。
「ということで、やってみますか」
こうして電撃森訪問作戦計画が発足し、ネコちゃん便にカメラを付けて地形確認したり、距離の概算を行ったりして下準備を整える。
「ちず、それなりにかけました」
「おお! 良い感じじゃないですか」
撮影した映像を元に、カナさんにそれなりの地図も作成してもらった。仕事が早くて助かる。
「おかあさん、ちずかくのうまくなったですね~」
「あれだけかけば、そりゃなれてくるもの」
「すごいです~」
「うふふ」
カナさんは聞いた話と写真があれば、結構正確な地図を書けるようになっていた。
さらに空撮映像があれば、それを元に頭の中で組み立ててしまえるようだ。なかなかの地図職人に成長しており、才能が開花したって感じがする。
「これでなんとかなりそうですね」
「一泊二日という感じで、計画しますか」
「あとは、エステサロンの方々と予定を合わせて――」
こうして着々と準備を重ね、田植え前に駆け足で行くことになった。
あちらのおひい様ともネコちゃんで連絡を取り合っているので、受け容れ体勢は出来ているそうだ。急な話ですみません。
お土産を沢山持っていくので、楽しみにしていて頂きたい。
――そして当日、まだ薄暗い早朝に行動を開始する。
「では、あちらのおひい様にお礼をしに行きましょう!」
「「「おー!」」」
参加メンバーは、こっちにやってきたドラゴンさん全員だ。
「だいぼうけんです~」
「ワクワクしますね!」
「また、異世界を見て回れる……夢みたい! しかもドラゴンの里とか!」
ハナちゃんとユキちゃん、そして魔女さんも参加だ。
みなさんワクワクドキドキで、お目々キラキラである。
「こういうのは、便乗しないとね」
「たのしみだわ!」
「わきゃ~ん、おいしいおさけがあるってきいたさ~」
「いっぱいのむさ~」
「おみやげのおさけも、たくさんよういしたさ~」
ヤナさんとカナさんも便乗して、カメラを首からさげている。もう写真撮りまくるつもりなのが丸わかりだね。
偉い人ちゃんとお供ちゃんたちも、お酒目当てに参加表明だ。
「せっかくだから、私も着いていくわよ」
「にぎやかだね! にぎやか!」
「よろしくね! よろしくね!」
「きゃい~」
(おでかけ~)
(たまにはこういうのもいいよね!)
(……あそぶの)
今回はお袋も着いてくるようで、こちらもビデオカメラをもう回している。
妖精さん三人娘と神様ズも参加なのだが、こちらはチャイルドシートに着座して輝きいっぱいだね。物理的に光るのでとっても明るい。
「ほんじゃ、俺たちはバス担当な」
「安全運転で行こう」
そのほかにバスの運転手として、高橋さんと親父も参加だ。
こんな感じで大所帯となったけど、向こうには連絡済みなので大丈夫だろう。
「車で行けば、まあ昼過ぎには到着って感じになります」
だいたい目的地の森までは、距離にして百二十キロから百三十キロといった所だ。
安全運転で行っても、そう時間はかからない。なにせ信号が無いから、一時間おきくらいに車列を停めて、外でのび~っと休憩する以外はノンストップなのである。安全ルートもネコちゃん便の空撮で確認済みのため、障害は特にないんだよね。
「お車を使えば、そんな時間で行けてしまうのですね」
「ほんと便利です」
「これはダメになる楽さだよ~」
「空調が効いていて、涼しいものね。乗っているだけだものね」
「男は車で運んでくれるっと」
おひい様とシカ角さんたちも、どっぷりと車の便利さにハマっておられる。
ウシ角さんはいまだ変わらず変な論文執筆中だが。
「これが、ジドウシャってやつなのね」
「おうちみたい」
「動いてるの見たけど、ヤバかったわよ」
「ほんとに、これで行けるのかしら?」
自動車に乗ったことが無いお供さんもいるけど、みなさん不安半分、期待半分って感じだ。動いているのは見ているので、どんな物かは分かっているようだけど。
実際に乗ってみて、車の素晴らしさをご堪能あれ、だね。
ではでは、全員乗ったことだし、俺もランクルに乗り込んで出発しようじゃないか。
「こちら大志、そろそろ出発する。どうぞ」
『こちら志郎、問題なし。どうぞ』
『こちら高橋、同じく。どうぞ』
「こちら大志、発車する。各自連携しながら追尾願う。通信終了」
さあ、いよいよ出発進行だ。
お世話になったあっちのおひい様に、会いに行こう!