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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第四章  エルフと動物達
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第三話 森の明かりと、甘い花の香り


 炭の準備は結局ハナちゃんがやってくれた。もはや火起こしで彼女に勝てるものはいないと思う。なんで木の棒と板だけで、マッチにみたい発火するのか理解不能だ。

 でも俺もその技習得したいな……。こっそり練習しよう。


 そんな謎の技術により、いい感じに炭が燃えてきたので、そろそろカモの丸焼きを始めることにするかな。二時間程かかるから、今からやらないと焼きあがらない。

 俺は奥様方に声をかける。


「では、そろそろ丸焼きを始めたいと思います」

「したごしらえ、しておきました」

「がんばったの」

「はね、むしりまくったわよ~」


 カナさん始めいつもの奥様方が、下ごしらえしたカモを持ってきてくれた。塩胡椒をすりこんで、今日採れた野菜を詰め込んだだけの素朴なもの。だけど、手間はかかっている。


「下ごしらえありがとうございました。では、このカモを蒸し焼きにしましょう」


 奥様方にお礼を言いつつ、カモを受け取った。奥様方も始めてのバーベキューセットでの調理に、わくわくした様子で答える。


「わかりました」

「まかせて」

「もうちょっときたえてから、うでをならすわ~」


 そこの奥さん、筋力トレーニングをしても、お料理は上達しませんよ……。

 おまけに丸焼きは蓋をかぶせるだけなので、やることは特になかったり。


「まあやることは殆どありません。カモをこのグリルの中に入れて、蓋をすれば終わりです」

「どれくらいかかりますか?」


 どれくらいか……。時間の単位が違う可能性もあるから、二時間とか言っても通じない可能性があるな。適当言っとくか。


「軽くお昼寝して、起きた頃に出来上がるくらいですね」

「わたしたちがとりのまるやきをつくったときも、それくらいでしたね」

「ふつうのやきかげんね~」


 時間感覚は伝わったかよくわからないけど、まあ奥様方の料理経験からしてもそれほど外れていないみたいだな。適当だけど結果オーライということで。

 今度、エルフ達の時間単位を聞いとこう。ヤナさんあたりなら詳しく教えてくれるはず。

 あの人は結構数字的根拠を元に行動している気配があるので、適任かなと思う。


 さて、時間単位はまた今度にして、準備を続けるかな。丸焼きが出来上がるにはまだまだかかるから、その間に肉や野菜を切り分けておこう。

 俺は奥様方とのんびり下ごしらえを始めた。他のエルフ達も、肉の切り分けを手伝ってくれるようで、みんなでわいわいと準備をしていった。


 そうして準備をしていると、ふとあたりが暗くなってきた事に気づく。もうそんな時間か。

 これは明かりが必要になるかな。

 いつもは日が落ちる前に食事してしまう生活だったけど、今回は長丁場になる事は確定している。


 一応農作業用の投光機は車に積んであるから、取りに行くかな。……と思ったところで、エルフ達が森に入っていくのが見えた。

 何をしているのかな? ヤナさんに聞いてみよう。


「ヤナさん。皆さんどうされたんですか?」

「あれは、あかりをじゅんびしているんですよ」


 明かり? 松明用の木でもとってくるのかな。でも薪は結構準備されてたはずだけど……。

 首を傾げていると、森に入ったエルフたちが戻ってきた。なにやら葉っぱのついた枝を持ってきたようだ。ほんのり光っているけど、それを明かりの代わりにするんだろうか。


「あれが明かりになるのですか?」

「ええ。あのはっぱ、けっこうあかるくなるんですよ」


 ヤナさんはそう答えたけど、見た感じそう明るくはない。これから明るくなるんだろうかと思っていると、エルフたちがぷすぷすと枝を地面に挿していく。

 すると――葉っぱが輝き始めた。俺が持ってきた投光機ほど明るくはないけど、十分な明るさを放つようになる。

 ――これはすごい! 俺は幻想的な光景に目が釘付けになった。


「どうです? これならよるおそくまで、おにくをやけますよ」


 輝く葉っぱに目を奪われている俺に、ヤナさんがそう言う。

 夜遅くって……そうまでしてもお肉が食べたいんだ。

 今日のエルフたちは気合が入りっぱなしだ。お肉への情熱が半端ではない。


 そうして明かりが確保されたところで、とうとうイノシシの丸焼きが運び込まれてきた。

 手ごろなテーブルがなかったので、倉庫にあった箱の上に葉っぱを敷き詰めて簡易の台としたそこに、どさりと丸焼きが置かれる。大迫力だ。


「うまくできたぜ~」

「きれいにやけてるとか、すてき」

「やきあげてからおもったんだけど、これくいきれるかな?」

   

 後先考えないでイノシシ一頭丸焼き、おまけにシカ肉もカモ肉もある。今日はもう力尽きるまでお肉を食べられるな。

 エルフ達は目をきらきらさせて、イノシシの丸焼きを見つめていた。

 いきなりやり過ぎかもしれないけど、ずっとずっと抑えた食生活をしてきたのだから、久々のお肉に嬉しくなるのも当然。固いことは言いっこなしで行こう。


 それにこっちのカモも、もう焼きあがるころだ。

 俺は野菜を網の上に乗せて網焼きにし、最後の準備に取り掛かる。野菜に火が通るころには、宴の準備は完了するだろう。


「大志、これ焼肉のタレな」


 親父がドカっと業務用の二リッター容器に入った焼肉のタレを二つ置いた。一般のご家庭でも使っているあのタレだ。正直これさえあれば大抵のお肉はおいしく食べられると思う。

 狩猟を始めたエルフ達へのささやかな贈り物として持ってきたので、活用して頂きたい。


 こうして夕食の準備は完了した。あとは始めるだけ。丸焼きや網焼きの野菜からおいしそうな匂いが漂ってきて、エルフ達はうずうずしている。

 俺はヤナさんに目線を送り、頃合を告げる。ヤナさんも俺の目線を受けて、頷いた。

 異世界のエルフと行うアイコンタクト。お互いそれなりの期間交流してきただけあって、こんなことも可能になってきた。

 お互い確認が取れたところで、ヤナさんがエルフ達に何かの合図を出した。

 それを確認したエルフ達は、イノシシやカモの丸焼きを切り分け、焼いた野菜を器に盛って祭壇に向かう。神様へのお供え物を取り分けたんだな。


 そうしてどっさりと祭壇へ食べ物が供えられ、いよいよ夕食となる。

 ヤナさんが一歩前へ出て、宣言した。


「それでは皆さん、夕食を頂きましょう!」

「「「いただきまーす!」」」


 ヤナさんの宣言と同時に、皆は思い思いの料理を取り分けて食べ始める。今回はバイキング形式で、好きな料理を好きなように食べていく形式だ。これだと配膳の手間が無いので楽で良いな。


「ひさびさのおにく、おいしいな~」

「おにくふわっふわとか、すてき」

「このやさいも、うまいな~」


 イノシシやカモの丸焼きはみるみる減っていく。皆凄い食欲だ。そんなに美味しいのだろうか。

 お肉と野菜をもりもり食べている皆を見ていると、ハナちゃんがぽてぽてとやって来た。


「タイシタイシ~。これふわっとしてすごくおいしいですよ~」


 お肉が盛られたお皿を、俺に差し出して来た。どうやらお肉を取ってきてくれたようだ。


 イノシシは下処理がちょっと謎なのが気にかかるけど……。

 皆普通に食べているので、大丈夫だろう。大丈夫だよね? 大丈夫だと良いな(願望)。

 色々不安がよぎったけど、せっかくハナちゃんが気を利かせてお肉を取り分けてくれたんだ、ここはありがたく頂こう。

 

「ありがとうハナちゃん。じゃあ頂こうかな」

「どうぞです~。はい、あ~ん」


 ハナちゃんが満面の笑顔で、フォークみたいな食器を使ってお肉を差し出してくる。

 あ~んて……。ちょっと恥ずかしいけど、ご厚意に甘えて食べさせてもらうかな。

 ……いざ、実食! 俺は覚悟を決めて、ハナちゃんが差し出している一切れのお肉を口の中に入れた。


 途端――パリッとした皮の食感と共に、お肉がふわっととろけた。

 そして一噛みするごとにお肉の旨味が広がっていき、焼いたお肉の香ばしい香りと、ほのかに甘い花の香りが鼻を抜ける。


 ――これは美味しい! 仕留めてから数時間のお肉とは、とても思えない軟らかさと臭みの無さだ。

 イノシシってこんなに美味しかったっけ!?


「ハナちゃん! これすっごい美味しいね!」

「よかったです~。ハナもおりょうりがんばったですよ~」


 美味しいと言われてキャッキャと喜ぶハナちゃん。可愛らしいな。お料理が上手くいってご機嫌だ。

 ――あれ? ハナちゃんなんかお料理してたっけ? 火を起こしたくらいしか見てない気がするけど。


 ……まあそこはあまり追及せずに居よう。火力は重要だからね。

 しかしこれほど美味しいなら、親父にも食べて貰おう。これは食べなきゃ損だ。


「親父、これ凄い美味しいよ。衝撃受けるわこれ」

「ホントか、どれどれ……うわっ! こりゃ凄いな」


 親父に勧めてみたけど、俺と同様かなりの美味さに驚いている。こんなのが食べられるのだから、エルフ達があれほど気合を入れていたのも当然だ。

 ハンパではなく美味しい。そこらのイノシシでこの味を出せるなんて、信じられない。


「ヤナさん、これすごい美味しいですよ。正直信じられないくらいです」

「それはそれは、よかったです」


 予想外の美味さに感想を言うと、ヤナさんもエルフ達も嬉しそうに返事をしてくれた。


「これがくえるから、みんながんばったべさ」

「くろうしただけ、おいしくなるのよ~」


 うっとりした顔でお肉を食べる皆は、幸せそうだ。

 しかし、イノシシがこれなら俺のカモ焼きはどうだろうか。普通に焼いただけだから、普通の味のはず。

 まるで敵わないんじゃないだろうか。

 ちょっと心配になったので、カモ肉も取り分けて食べてみる。


 カモ肉もイノシシと同様、ふわっと口のなかでとろけて――甘い花の香りがした。おかしい。普通に焼いただけでこうはならない……もしかして!

 俺はカモに詰めてある野菜を取り出して確認してみる。

 すると、予想通り……例のシダ植物みたいなのが紛れ込んでいた。

 奥様方に下ごしらえを頼んだけど、その時入れてたんだな。


 お肉の想像以上の美味さは、この謎の植物が決め手のようだ。

 俄然興味が湧いてきたので、この葉っぱの味を確かめてみようと思う。

 その前に、ヤナさんに食べても大丈夫か確認しておくかな。


「ヤナさん、この葉っぱなんですけど、食べても大丈夫ですか?」

「もうひかっていないので、ひがとおっていますね。なのでだいじょうぶです」


 火を通すと光らなくなるんだ。ということは、光ってたらダメなんだ……。

 ……とりあえず確認は取れたので、例の葉っぱを口に含んでみる。すると、ふわっと甘い花の香りがして、ほのかに甘い味がした。

 この香りは……イノシシの時もカモの時も同じ香りがした。この葉っぱの香りだったんだな。

 お肉を軟らかくし、甘みと香りを付けるんだ。この植物、凄いな。


「ヤナさん。この植物、凄いですね……」

「ええ。おにくをやくときは、なくてはならないものです」


 そりゃそうだろうな。これほどの効果が出るなら、使うのも納得だ。でも気になることがあるんだよな……。

 今なら聞けるかな?


「それで、火を通さないとどうなります?」

「――ひをとおせばだいじょうぶです」


 やっぱり押し切られた!


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