第三話 衝撃的事実……のはずなんだけど
おひい様捜索作戦は失敗に終わった。
しかしウマさん四頭とお供ドラゴンさんを一人救助出来たので、行き当たりばったりにしては上々の成果だと思うことにしよう。
その辺は気を取り直し、今度は現地での状況も踏まえた計画を立てる必要がある。
「そんなわけで、第一回おひい様とお供さんたち救出作戦会議を始めたいと思います!」
「「「はーい」」」
とりあえず村人たちを集会場に集め、状況を説明した後対策会議を立ち上げた。
まあ大筋でやらなければいけないことは決まっている。川の周辺をローラー作戦と、海底探査だ。卵が水に浮くか否かの検証も必要だな。
これらは人手が必要なため、みんなの手を貸して下さいってお願いし、あとは色々知恵を出して貰おうってのが今回の趣旨だ。
「わきゃ~ん、どえらいことになってるさ~」
「うちらもおてつだいするさ~。そんでうみにいくのさ~」
「うみべでおとまり、してみたいさ~」
今までの話を聞いて、村に遊びに来たばかりの偉い人ちゃんはびっくらこいている。
お供ちゃんたちは、お手伝いついでに海で遊びたいオーラが凄いのだけど。こないだの谷浜で海を見たせいか、大海原を堪能したい欲求が生まれたようだ。
実際海での探査は、ドワーフちゃんたちの力も借りないと無理だろう。その辺話を通しておくかな。
「今回は海底の捜索が必要になりますので、ドワーフのみなさまが持つお力は是非ともお借りしたいと思います。なんたって水中でもよく視えますよね?」
「そのへんはじしんがあるさ~」
「まかせてほしいさ~」
「みなさん心強いです。ありがとうございます」
ちょうど良いので相談すると、村のドワーフちゃんたちはやる気満々だ。
ただ彼女たちだけでは手が足りないため、増援もお願いする必要がある。
「あと……大変申し訳ないのですが、増援を手配することは可能ですか?」
「あわきゃ~……みんなねちゃってるから、あるていどのほしょうはひつようさ~」
「ねむったばかりだから、それなりでいけそうさ~」
「そのへんは、あっちのこたちとそうだんするさ~」
偉い人ちゃんたちに動員可能か聞いてみたけど、補償があれば行けそうだな。どんな物にするかは要相談みたいだけど。
「補償関連はなんとか出来ますので、根回しの方をお願いしてもよろしいでしょうか?」
「もちろんさ~」
「ちからをかすさ~」
「なので、うみであそびたいさ~」
お願いすると、三人とも快く引き受けてくれたね。ただしれっと海遊びの要求を交えているあたり、さすが政治家である。
俺も一緒に遊びたいので、もちろんオーケーしちゃおう。
「海辺に拠点を作りますので、そこで浜焼きやら海遊びやら遊び放題ですよお」
「わっきゃ~ん! たのしみさ~!」
「あこがれの、うみあそびさ~!」
「もちろん、そうさくかつどうもおてつだいするさ~」
とりあえずドワーフィンの偉い人たちは堕ちたので、動員は期待できそうだ。
うちの子たちの人員と併せて、動員計画を立てていこう。それにより必要な物資や装備も、調達数が分かってくるだろう。
「タイシタイシ、かわをしらべるのはどうするです?」
ドワーフちゃんの動員を根回し出来たところで、ハナちゃんからご質問だ。
川の部分、つまり荒野の捜索はどうかって所だね。
「そこは手が空いた人を募って、横一列に並んでしらみつぶしだね」
「あや~、たいへんそうです~」
「まあしょうがない。動物さんたちの力も借りるので、根気よくやっていこう」
「あい~」
とはいえ、我が村には妖精さんという、超動員が可能なきゃいきゃい勢力が存在する。
彼女たちに手伝って貰えば、結構良い感じにローラー作戦は出来るように思う。
まあその辺はやってみないと分からないけど、どのみち妖精さんたちにも協力はお願いする必要がある。
「陸海の捜索について、妖精さんは両方のお手伝いをお願いしたいけど、大丈夫かな?」
「おともだちよんでくるよ! よんでくるよ!」
「よばなくても、うわさをききつけてくるかもね! くるかもね!」
「おびただしいほど~」
妖精さんたちにお話しすると、とても頼もしいお返事が返ってきた。
……夥しいほど遊びに来るの? すっごい楽しそう!
「お菓子をたくさん用意しておくから、がんばろうね」
「きゃい~!」
「がんばる! がんばる!」
「ゆだんたいてきだけどがんばる! ゆだんたいてき~!」
お菓子の報酬を提示すると、妖精さんたちきゃいっきゃいだ。
しかしダイエットという壁が立ちはだかる! まあ捜索時は沢山飛ぶので、痩せるのではないかな?
まっこと希望的観測ではあるが。
「おれらもがんばるじゃん」
「これはさんかしないとな」
「さがすべ~」
ドワーフちゃんや妖精さんの協力をこぎ着けたところで、エルフたちもやる気十分だ。
地上での捜索や拠点の確保、その他物資の輸送など彼らの力を借りることも多い。
とてもありがたいな。
「救助活動とは、私たちとしても奮い立ちますね。しかし、卵ですか……」
「うでがなるわ~」
「おかあさん、はじめるまえからケガしたわね」
そしてヤナさんもやる気十分で、気合いが入った顔をしつつ、何か考え込んでいるみたいだな。どうしたんだろう?
なお腕グキさんはまず療養して下さい。
「ということで、みなさんよろしくお願いします!」
「「「おー!」」」
号令をかけると、元気よくお返事が返ってきた。これでまあ、あとは物資調達やら人員計画やら細かいところを詰めていこう。
「あ、あの……みなさん、助かります」
「協力ありがたいよ~」
「私たちだけでは無理だったね。感謝するね」
「この一体感、頼もしいですね」
この会議の様子を見て、ドラゴン三人娘とお供ドラゴンさんは、しきりにペコペコと頭を下げていた。
救助の主体は彼女たちだけに、色々差配して貰う必要がある。その辺も要相談だけど、ひとまずは人手の問題は着手できた。
あとはいつ本格的に始めるか等、状況を見て計画していこう。
「この村は、一体感がありますね」
早速ああしようこうしようと話し合いを始めたみんなを見て、シカ角さんがしみじみとつぶやいた。
まあそれには同意というか、理由があるんだよね。
「彼らは、同じく灰化する災害によって、故郷を失った方々です。今では元気にやれていますが、当時の大変さは忘れていないのでしょう。それゆえ、同じ災害に遭った人たちは放っては置けないのです」
「私たちも、あの方に助けて頂いた時のありがたさ、忘れられません」
「そういう事ですね。今度は自分たちが助ける番だって張り切っているのです」
「今回は、ありがたく甘えさせて頂きます」
ぺこりと頭を下げるドラゴンさんたちだけど、彼女たちも支配人さんを助けていたりする。世の中は持ちつ持たれつ、助け合いだね。
いずれ俺たちも彼女たちの力を借りたりする場面は出てくると思うので、その時に力を貸してもらえたら嬉しいな。
◇
救助のための動員については、根回しは出来た。
じゃあ次は懸念である「卵が水に浮いたらどうしよう」問題を確かめてみよう。
ということで、ドワーフの湖にて実験開始だ。
「これが水に浮いたら……」
「大変だよ~」
「そうならないことを祈るね」
「ほうほう、男は実験好き、と」
検証のため立ち会いをしているドラゴンさんたちは、祈るような感じだ。お供ドラゴンさんは相変わらずであるが。
「完全防水ではありましたね。浮いていたら、あの場所には残留していなかった気もします」
「私は水には浮かないと思います」
ユキちゃんと魔女さんは水に浮かない派だね。俺もそうは思う。
「それで、卵という話でしたが……」
「へんなのだったです?」
「まあ、見てみようかな」
「わきゃ~ん、たまごさ~? きょうみあるさ~」
「みてみるさ~」
「うちもさ~」
「うちらもみるさ~」
ヤナさんも見てみたいと言うことで、参加してきた。偉い人ちゃんやお供ちゃんもだね。うちの村のリーダードワーフちゃんもいるけど、彼女は海底探査の主要メンバーだけに、こちらからお願いして参加してもらっている。
現物を見なきゃ捜索しようもないからね。
まあ、実物を取り出して見てみようじゃないか。
「それでは、例の卵を取り出します」
そんなわけで、俺の仕舞っちゃう空間に入れておいた卵を取り出してみる。
これ結構デカいが、かなり軽量かな? 念のため、そっと地面に置こう。
「これは……良く似ている……」
「あえ? おとうさんどしたです?」
すると、ヤナさんが卵を見てびっくりまなこになった。どうしたんだろう?
それを聞いたハナちゃんも、不思議そうな顔でお父さんを見上げている。
「あわきゃ~! これ! にてるさ~!」
おっと、偉い人ちゃんもだ。この卵がどうしたんだろう?
「えっと……これがどうかしました? 似ているとか――」
「僕があっちの森に現れたとき、これとよく似たやつに入ってたんです」
「うちもさ~! うちも、みずにうかんだこれとにたやつに、はいってたさ~!」
「あやややや?」
えっ? どう言うこと?
ヤナさんと偉い人ちゃんが、よく似たやつに入ってたとか聞こえたんだけど。
俺もびっくりだけど、ハナちゃんもめっちゃびっくりしておられる。まあ身内のことだからそりゃびっくりもするか。
しかし、似たやつか……。話を聞いてみないと良く分からないな。
「これと似たやつ、ですか?」
「と言うかありますよ。見て下さい」
「うちもとっておいてあるさ~!」
そう言うと、二人はうんしょこらしょと仕舞っちゃう空間から、なんかデカいのを取り出そうと悪戦苦闘している。手伝ってあげよう。
「お手伝いします」
「あ、ありがとうございます。これ、重くって……」
「これをしまっているせいで、いろいろたいへんなのさ~」
持ってみると、俺には軽いと言うか、無いも同然と言うか……。
とりあえずお手伝いして、仕舞ってあった「ブツ」を取り出してみると――。
「大きさと言い形と言い、よく似てますね……」
「でしょでしょ?」
「これ、ねごこちよかったおもいで、あるさ~」
果たしてそれは、よく似た卵形の物だった。色は違えど、キツい原色の模様がある。ヤナさんのは黄色と蛍光ピンクで、偉い人ちゃんは赤と青だね。
どちらも、自然の中だとめっちゃくちゃ目立つ色合いである。
「ちなみにこれ、外に出て閉めたら開かなくなりました」
「うちのもさ~」
「えっ? じゃあこのお供さんが入っていたのも……あ! 開かない!」
どうやら外に出て閉めると、開かなくなるようだ。まさかと思ってお供さんのやつも試してみたが、そもそもどうやって開けるか分からなかった。
どこが開口部だったのかすら、もう分からなくなっている。
まあ神様に頼むと開けてもらえそうなので、そこはひとまず置いておこう。
しかしなぜ、ヤナさんと偉い人ちゃんがこんな所から……。
……そう言えばエルフィン惑星系では、身寄りの無い子供が突然現れると聞いた。ヤナさんがその一人とも。
偉い人ちゃんも、家族の記憶は無いという。ある日船に乗って湖に漂っていた、だったか。
もしかして……その突然現れる子供とは、この「卵」に入っていたという共通点がある?
「あ~、ちょっとお伺いしたいのですが、突然現れる子供って、こう言うのに入ってたりするのですか?」
「大体はそうですよ」
「うちらのところにも、なんにんかいたさ~」
聞いてみると、そうらしい。つまりこの「卵」は、コウノトリさんが運んできたやつ?
想像してみると可愛いが、卵のデカさから考えると、もしコウノトリさんだとするとドでかい鳥さんではあるな。
まあそれは冗談として、他にも何人かいるらしいんだよね……。
これはちょっと、その方々を集めて話を聞いた方が良いな。謎の卵だったけど、もっともっと深い謎があるよこれ。
「タイシタイシ、それはそれとして、とりあえずみずにうかべなくていいです?」
「あっ、そうだね。目的は実験だったよ。忘れるところだった。ハナちゃんありがとね~」
「うふ~」
割と衝撃的な話が出てきたけど、ハナちゃんはいつも通りでござった。
こういうとき冷静で助かる。まあ卵から出てきた人たちを集めるのは後にして、とりあえず当初の目的を果たそう。
「転がして湖に入れてみるよ」
「あい~」
お供さんの卵をゴロゴロと転がして、湖へとインさせてみる。
……沈んだな。これは浮かないようだ。
「水には浮かないっぽいね」
「あ、せっかくなので私のもついでにどうぞ」
「うちのもさ~」
水に浮かないことを確認出来たと思ったら、せっかくだからとヤナさんや偉い人ちゃんの卵も追加実験の要請がきた。
俺も興味があったので、実験してみよう。
「こっちのは沈みましたね」
「うちのは、ういたさ~」
結果は、ヤナさんのは沈んで、偉い人ちゃんのは浮いた。
どうやら卵もバージョン違いというか、浮くやつと浮かないやつがあるようだ。結構なんとも言えない結果になったな。
お供さんたちやおひい様の卵が、同じバージョンの浮かないタイプで構成されていれば良いのだが……。もしバラバラだったら、もうこれわかんない。
その辺はどうしようもないので、どうしても見つからなかったらその可能性をまた考えて、対策を練ろう。今は無理だ。
「にしても、思わぬ所から思わぬ不思議が……」
「私たちの所でも、卵に入っているってのはそれほど知られてはいませんね」
「あんまりいうことでもないさ~」
思わずぽつりとこぼしたけど、ヤナさんの話では、そんなに知っている人はいない話のようだね。
偉い人ちゃんも、あんまり人に言うことでもないっていう認識か。
まあ卵から出てきたとか、そうそう言いふらす事でも無いのは確かだ。
「おとうさん、とりさんからうまれたです?」
「いや~、多分違うんじゃないかな。羽根が生えてないし」
「もしかしたら、はえてくるかもです?」
「……ちょっと面白いかも、と思っちゃったよ」
「かっこいいかもです?」
そんな話を聞いても、ハナちゃんすごいのんびりさんであった。
まあヤナさんは、鳥さんから生まれた訳ではないと思う。
だってネタに走る姿とか、エルフにもほどがあるからね!
「あわきゃ~……うちも、はねがはえてくるのさ~?」
「それはないかと。お医者さんで調べた限りでは、おもきし人でしたよ」
「ひとあんしんさ~」
偉い人ちゃんはなんだかぷるぷるしたけど、ちたまの医療機関でMRIまでやったからね。
もう鳥さんという形跡はどこにもなかったというか、ちたま人とほぼおんなじ。
そこは心配する必要ないですよっと。
「そもそも、卵から出てきた人で、羽根が生えた事例ってありました?」
「聞いたことないですね」
「そういえば、そうさ~」
そんなわけで、ヤナさんと偉い人ちゃんが鳥類である可能性はないと思う。
ないよね? ないはず。……ま、ちょっとは覚悟しておこう?
「わたしのおかあさんは、はねがはえてるけどね! きれいなはね!」
「あっ!」
そういえば、サクラちゃんのお母さんも、それ系って話だった。
いやでも、元から羽根がある人たちだからなあ……。
「あや~、やっぱり、はねがはえるですよ~」
「どんな羽根かな? ワクワクするね」
「わきゃ~ん。キラキラなやつさ~」
こらそこ、その気にならない。
と言うか卵から出てきたという衝撃的な生い立ちのわりに、みなさんのんびりだよ。
気にするところは、羽根が生えてくるかとかじゃないような気がするが……。
まあ、平和だから良いか。
「大志さん、これって……ますます冬眠カプセルみたいですね」
「聞いた話では、それに近いかも。『ゆりかご』って感じがするよ」
「流石異世界、不思議にあふれているわ……」
余りに平和な光景にほのぼのしていると、ユキちゃんと魔女さんがびっくりしていた。
まあ確かに、これは卵というより……冬眠カプセルみたいなものかなって思う。
どこかで大事に保管されていた子供たちを、必要なとき、必要な場所へお届けする。そんな役割のあるアイテムかもしれない。
なんだかロマンあるな!
……それをだれが、どんな目的でやっているのか、という疑問はあるのだが。
大自然からナチュラルに生み出される、とかはないよね? まさかね。
その辺はもう全然わかんないけど、悪い感じはしない。ヤナさんや偉い人ちゃんだって、幸せそうに生きている。
ならもう、それでいいのではとは思うな。
ただ、そんな不思議なアイテムを、どうしておひい様が……という謎はある。
この辺は、本人を救助してから聞いてみよう。何か分かるかもしれない。
「羽根が生えたら、空を飛べるかな?」
「あや~、おとうさんのたいりょくだと、きびしいです?」
「あわきゃ~。うちもたいりょくには、じしんがないさ~」
そこ、まだやってたの? 多分羽根は生えないからね。多分ね。