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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第二十六章 最後の一つ
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第二話  シャベッタアアアアアア!


 洞窟で発見した卵みたいなのから救出したウマさんたちと、快調に荒野を走る。


「モヒ~」

「ヒヒン」

「モヒヒヒ」

「モヒモヒ」


 こっちは車で安全運転だが、それなりの速度だ。それでもウマさんたちは、余裕で着いてきておるのう。


「ホントに足が速いですね」

「すごいです~」

「でしょでしょ?」


 ウマさんたちは楽しそうに、車とちょっと距離を置いて並走している。身軽だからか、足取りも軽やかだ。

 ドラゴンさんたちの世界にいるウマは、すごいんだな。というか見た目からして凄くつよそう。

 でも表情は和やかそのもので、こっち見てにっこりしているよ。かわいい。


「この先がそれっぽいですね、このまま川沿いを進みましょう」

「わかりました」


 それと同時に、シカ角さんナビに従って道を決める。川沿いを進めば良いらしいので、運転は楽だね。

 こんな感じで快調に道を走っていたのだが――。


「モヒ! モヒヒヒ~!」

「あら? どうしたの?」

「モッヒ、モヒ!」

「そっちに何かあるみたいだね」

「行ってみるよ~」


 なんだかウマさんが騒ぎ出し、川からちょっと離れたところに向かって、走って行ってしまったのだ。


「追いかけますね」

「お願いします」


 慌てて追いかけると、すぐそこでウマさんたちが集まっていた。どうしたんだろう?


「きみたち、どうしたの?」

「モヒ! モヒモヒ!」


 良く分からないけど、なんか地面を見つめている。何かあるのかな?


「ここに何かがあるの?」

「モヒ!」


 そうしてウマさんたちが見つめている地面をよく見ると――確かに、何かある。

 ピンク色模様が、砂の下からちょっとだけ出ているのだ。

 これはまさか……!


「みなさん! なんか怪しいのがあります!」

「ほんとです~!」

「これ、あの卵の模様と同じですよね?」

「掘ってみましょう!」


 みんなで慌てて砂の下からほじくり出してみる。スコップ持ってきて良かった。

 それはともかく、ある程度ほじくり出した結果と言えばだ。


「……卵ですね」

「なんで、こんなところに。しかも一つだけ……」


 果たしてそれは、ウマさんが入っていた卵とよく似たものだった。

 大きさは一メーター六十センチくらいかな? 人が入るのに、ちと小さいサイズではある。まあ詰め込めばって所か。

 ……これ、開けてみるしかないよね。


「か、神様お願いします……」

(はーい)


 そして早速、神輿にお願いしてみるわけだ。


(ぽちぽちとな)

「かみさま、なにしてるです?」

(これ、てじゅんがめんどいの)

「めんどいですか~」

(はいるのは、らくなんだけどね~)


 どうやら謎の声曰く、手順がめんどいらしい。というか、なんで神様はそれを開けられるのだろうか。

 ああいや、ゴッドだから開けられるのは当然なのかな?

 そんなことを考えていると――ぱかっと開いた。


「あらー! お供の一人じゃない! ほらほら起きなさい!」

「……もうちょっと……寝かせて……ふわふわなのよこれ……」

「それどころじゃないよ~」

「二度寝はだめだね。起きるんだね」


 中身は、おひい様のお供ドラゴンさんらしい。

 覗いてみると、長い黒髪お姉さんが、むにゃむにゃと二度寝を貪っていた。詰め込んであるが、ぐっすりとは眠れるらしい。

 彼女の服装は唐装っていうのかな? そんなやや古代中国な雰囲気がありつつも、和風も感じさせる不思議なものだ。装飾はエスニックぽくて、独特である。大アジアって感じがするな。

 しっぽと言うか脚の模様は白と黒のまだらであり、頭には小さいけどウシさんみたいな角が生えている。どことは言わないがけっこう大きく、ほるすたいん? というか……。

 追加情報として、卵の寝心地は良いらしい。


「ふああ~……って、みんなどうしたの?」

「どうしたじゃないわよ。何があったか聞かせて?」

「はい?」


 ようやく起きたウシさん風ねぼすけドラゴンさんだが、周囲の状況を見てきょとんとした。


「ウマに変な物体に……人みたいなの?」


 特に俺を見てきょとんとしているな。人であることを教えておこう。


「私たちは、あなたと同じ『人』ですよ」

「シャベッタアアアアアア!」


 しゃべりますがな。ハッピーセットのアレみたいにめっちゃ驚いているけど、俺は人畜無害だからね。


「ほら落ち着きなさい。説明するから」

「マタシャベッタアアアアアア!」

「私たちは顔見知りでしょ! しゃべるわよ!」

「そうだったわね」


 今度は説明しようとしたシカ角さんを指さして、びっくり顔したりする。さっき普通に二人で会話してたじゃんね。

 というかこのドラゴンさん、面白い人だな。変人とも言う。


「あの川で別れた後のこと、今から話すから」

「それより、その不思議な服はなに? 可愛いじゃない」

「ヤマトのしま〇むらで売ってるわよ」

「しまむ? ヤマト?」


 まあ説明はシカ角さんに任せて、俺たちは休憩しよう。この人の相手をするのは、おそらく疲れる。


 ――そして二十分後。


「え……洞窟から離れたこんなとこで、私を発見したの?」

「そうなの。あなたなんでこんな所にいるの?」

「わからないわ」


 説明が終わり、俺たちの紹介も終わった。もうしゃべっても驚かないだろう。

 ちょっくら質問してみるか。


「おひい様たちは、あの洞窟で卵に入ったのですよね?」

「なるほど、コレが男なのね。体が硬いわ」

「あのすいません、聞いてます?」

「論文を書く必要があるわね。これは大発見だわ!」

「話を聞いて下さい……」


 お供ドラゴンさんは、ペタペタと俺の腕を触りながら学者の目をしている。

 男が珍しいのはわかるけど、学問より先におひい様のことをですね、聞きたいわけでして。

 これもうシカ角さんに任せるしかないな。


「そうなの、みんなでこの卵に入れば、後はなんとかなるって」

「おひい様が、そう言っていたのね」

「ええ」


 すったもんだはあったものの、シカ角さんがなんとか状況を聞き出した。

 やはり、おひい様の奥の手はあの卵だったようだ。

 猛吹雪の中あの洞窟に向かい、そこにあった卵に逃げ込んだらしい。

 だが、あったはずの卵は……ウマさんの物を残して、他は消失していた。

 一体なぜ、そんなことになっているのだろう?



 ◇



 あの猛吹雪の時、おひい様たちは洞窟へと避難していた。

 そこには冬眠カプセルみたいな機能のある、卵があったらしい。この卵に全員が入り、ウマさんも詰め込んでおねむとなった。誰かが助けに来てくれる、その時まで。

 水晶玉はこの卵でおねむ中のおひい様を、ずっと補足していたのだ。

 しかしシカ角さんたちはちたまにいたため、正確な位置探知は不可能であった。

 ずっとずっと、うちの洞窟を経由したノイズだらけのシグナルを追い続け、それでも至近の場所に到達できたのは執念のたまものと言えよう。

 そしてとうとう俺たちと出会い、様々な分析や気づきの末――ここに至った。

 だが、特大の問題が待ち構えていたのだ。

 みんなが眠っているはずの卵が――どっかにいってしまった、という問題が。


「おひい様は、他に何か言っていた?」

「特には……巻物を見ながら、すっごい自信満々な様子でしたよ。満面の笑みと言うか」

「おひい様、やらかしたわね」

「やらかしましたね」


 シカ角さんと救助されたお供さんは、レジャーシートに腰掛けずぞぞとお茶を飲みながら、二人でうんうんと頷き合っている。

 どうやらおひいさま、なんかやらかしたらしい。聞いてみるか。


「おひい様は、何をやらかしたのですか?」

「卵に入ることだけ考えて、救助を呼ぶ方法をまったく考えてないあたりです」

「確かに」


 シカ角さんの回答は、俺も納得である。避難するのは良いけど、救助要請がまるっと抜けておりますな。

 おまけに、あの卵は神様でもないと開けられないと来た。そりゃシカ角さんたちも、捜索に苦労するわけである。


「なっとくです~」

「すっごいやらかしですね」

「普通そこが抜けますか?」


 ハナちゃんとユキちゃん、魔女さんまで同意である。すごいやらかし具合であった。

 他のドラゴンさんたちも、うんうんと頷いているあたり相当である。

 なんとなく、おひい様の人柄がうかがえるな。


「それはともかく、卵が消えた謎を考えないと」

「です~」


 おひい様やらかし事案は置いといて、卵が消えたミステリーを解明しないと。

 おひい様含めて、あと十人の救助をしなくてはならぬのだ。


「謎と言いましても、私も中で眠っていただけですので……」

「まあ、そうですよね」


 お供さんをちらっと見たが、聞きたいことを察したのか、そんな返答だ。これはしょうがないよね。

 でも俺の腕をペタペタ触りながら、学者の目で話すのはやめてくれませんかね。


「ぐぬぬ……遠慮の無いボディタッチ……」

「ほらほらユキ、どうどう」


 なぜかキツネさんがダーク化して、ぐぬぬっているが置いといて。

 もっとしっかり、考えてみよう。危機管理は良く考えることが大事だからね。

 俺は危機管理には自信があるんだ。


「どうして卵が消えたのか……」


 とは言う物の、これは正確ではない。ウマさんたちの卵は残っていたのだ。

 ただ巨大すぎて、持ち出せなかっただけということもある。

 次に、お供さんの卵だ。川からちょっと離れたところで、埋まっていた。

 それは結構な日数放置されていたかのような有様で、見つけられたのはウマさんのおかげである。車に乗ったままだったら、絶対わからなかった。


「……あの洞窟って、誰か立ち寄るような場所ですか?」

「半端な場所にありますので、普通は行かないですね」

「旅人でも、立ち寄らないと思うよ~」

「誰かが行くような場所だったら、あの変な卵の存在も知れ渡ってたね」


 地元民に聞いてみたが、あの洞窟は人が立ち寄るような場所ではないらしい。

 たしかに、人が良く行くような所なら、卵の存在は知られていたはずだ。

 聞いた感じでは、おひい様だけが知っている、秘密の場所って感じがするよ。


「誰かが持ち出したという可能性は、今のところ考えにくいですね」

「こんなデカくて怪しい物を、持っていこうと思う人は……そうそういないと思います」

「ですよね」

「なにせ、色がけっこうキツいですから」


 たしかに、この卵は色がピンクと紫で結構アレである。食欲はわかないな。

 もし俺が何も知らずに発見しても、そ~っとしておくと思う。怖いもん。


「とりあえず人さらい、というか卵さらい説を置いとくとすると……」


 神様ですらめんどいという卵オープンを考えると、自力脱出が出来たのか疑問に思う。

 出来ていたら、お供さん入のたまごちゃんが、こんなところで埋まっていないわけだし。


「とすると……そこのお供さん、ちょっとよろしいですか?」

「よろしいですよ。論文書かせてくれます?」

「論文は置いときましょう」


 お供ドラゴンさんを呼ぶと、しゅるるっとあっという間に距離が詰められ、俺の腕をぺたぺたさわり始める。

 たまにぽよよんするのだが、今はそれどころではないわけで。


「ぐぬ!」

「どうどう」


 後ろの方からダークオーラを感じるが、まあ色々考えて疲れているのかもしれない。

 キツネさんは後でねぎらうとして、次の思考のためにちょっと情報収集をしよう。


「みなさんが洞窟に到達した時、川べりから洞窟までの距離はどうでした?」

「わりと近かったですよ」

「そうですか」

「そうですね、男の人って、川幅に興味があるのですか?」

「川幅と男女の違いは、あんまり関係ないですね」

「なるほど、多少はあるのですね」


 ないと思われます。ひとまずお供さんは放置して、この情報から色々考えてみよう。

 あの洞窟には、たくさんの丸い石が転がっていた。河原に良くあるあの石だ。

 だがそ洞窟を形成している岩自体はゴツゴツしていて、そんな石が発生することは原理的にない。

 人が生活した形跡もないため、誰かが運んだとも考えにくいわけで……。

 そうすると、一つの仮説が浮かび上がる。


「川の増水により、あの洞窟は水没した?」

「あえ?」

「増水、ですか?」


 ハナちゃんとユキちゃんが、俺のつぶやきを聞いてこちらを見上げた。

 そう、洞窟内の痕跡から考えられる可能性として、川の増水により洞窟が水没、もしくは内部に浸水したかもしれないのだ。

 河原にあるような石があったのは、その痕跡とも考えられる。


「洞窟が川に飲み込まれ、その結果卵が流出した。でもあの大きな卵は、でかすぎと重すぎのため、流されなかった」

「ありえるです~」

「だから、この方の卵はあそこに埋まっていた、と」

「お供さんの卵があった場所は、川の石と砂ばかりだった。恐らくあそこまで、川幅があったと考えられるよ」


 ユキちゃんが先取りしてくれたけど、お供さんの卵が埋まっていた場所も、河原の痕跡があった。

 つまりは、おひい様たちが卵に入った後……川が大氾濫した可能性があるのだ。

 というか痕跡はよく見れば、そこかしこにある。


「つまり……?」


 ここまでの話を聞いて、シカ角さんや他のドラゴンさんたちが、ゴクリとした。気のせいか、顔も青くなっている。

 でも容赦なく結論言っちゃうからね。


「つまり、おひい様たちの卵は……川に流されて、その辺に転がっているかも。下手すると広範囲に――」

「「「ギャー!」」」


 聞きたくなかった結論を聞いて、ドラゴンさんたちが悲鳴を上げる。

 そう、おひい様のほかに――お供さんたちの卵も捜索する必要が出てきたからだ。

 しかも、お供さんたちの卵は探知が出来ない。しらみつぶしにあたるしか、方法がないのだ。


「この……広大な荒野を、しらみつぶし……」

「探さないわけにはいかないね。でも大変だね」

「気が遠くなるよ~」


 探さないという選択肢はない、だって人命救助なのだから。しかしいくらなんでも、しらみつぶしは苦難が明らかなのだ。

 ドラゴンさんたちは、これからの捜索活動を想像して……崩れ落ちる。


「みんな、げんきだすですよ~」

「おさがしものなら、おまかせだよ! おまかせ!」

「じしんはないけどね! ないけどだいじょうぶ! かも?」

「だめだったら、タイシさんにまるなげだね! ま~るなげっ!」


 崩れ落ちるドラゴンさんたちを、ハナちゃんと妖精さんたちが励ます。

 でもイトカワちゃん、俺にきゃいっきゃいで丸投げする気全開なのはどうかな?


「ひとまずは行方が探知出来る、おひい様を先に見つけましょう。お供さんたちは、その後です」

「そうしましょう」

「まずは、出来ることからだよ~」

「とりあえずはね。最初はおひい様だね」


 おひい様を見つければ、他のみんなも見つかる。そんな甘い考えは今まさに崩れ去った。

 でも、まずは出来ることから始めよう!

 というかこの衛星はかなり特殊な自転をしているため、昼夜のサイクルが惑星に近い。

 ちょっと急ぐ必要がある。



 ◇



「あっら~、男というのは、こんな面白い道具を持っているのですね!」

「資格を取りさえすれば、性別関係なしに持てますよ」

「ほほう」


 現在のところ、おひい様の光点を目指して荒野を走っている。ウマさんたちも併走して、捜索の旅はとても賑やかになった。

 ちなみに座席が無いため、お供さんは狭い荷台に詰め込むこととなった。クッションは敷いてあるから、まあなんとかなるだろう。

 最後列シートの真ん中は妖精さんの位置のため、ヘッドレストを外してある。今はそこから顔をだして、自動車での移動を楽しんでいるね。たくましい感じがするよ。


「まだまだ、距離はありますね」

「この分だと、一時間はかかるかもだよ~」

「結構遠いね」


 そうして人員満載で走っているわけだが、シカ角さんによると、おひい様までの距離は結構あるらしい。でも車で一時間なら、たいした距離でもない感じだ。

 今は安全運転で走っているから、距離的には二十キロもないのではないかな。

 なんにせよ、おひい様もしくは卵は、もうすぐそこである。


 ――そう考えていた時期が、俺にもありました。


「あ、あああああ……」

「ここまで来て……これはないよ~」

「流石にこれは、予想外だったね。途方に暮れるね」


 現在ドラゴンさんたちが、ガックリと崩れ落ちている。車は停車中で、全員車外だ。

 というか、これ以上先には……行けない。


「あや~……きれいなうみが、あるですね~」

「水平線が、見えます……」

「最悪の事態ががががが」


 そしてハナちゃんあんぐり、ユキちゃんと魔女さんも、引きつった笑顔である。

 今聞いたとおり、目の前には――海があるのだ。

 ざざんと波打ち、潮風が香る。北陸で見られる遠浅の海のような、穏やかでとても広大な水平線が、そこにはあった。


「ま、まさかおひい様は、海の底に……」

「そのまさか、ですね」


 シカ角さんが持つ水晶玉の光点は、まだまだ先にある。

 つまりおひい様は、この海までながされてしまったのだ。


「補足として、他のお供さん卵も、下手したら海底に散らばって……」

「「「ギャー!!!!」」」


 つまり、お供さんたちの捜索範囲が……想像を絶する広さになったのだ。

 あの洞窟からここまでの荒野と、目の前に広がる海を捜索しなければならない。

 しかし、探さないという選択肢はないわけで、でも海底探査とか大変なわけで。

 ちなみに卵が水に浮く、という可能性もあるのだが……。今は言わないことにしよう。たぶん沈んでいる。そう思いたい。

 お供さんが入っていたやつも回収して仕舞ってあるが、水に浮きそうにはないからね。まあ村に帰ってから検証しようと思う。今はちょっと、考えたくない。


「タイシ、これからどうするです?」

「……これ、現在の装備や人員では、捜索はもう無理ですよね」

「というか、心がぽっきり折れました……。流石異世界、何が起きるかわからない……」


 俺も一緒に唖然としていると、ハナちゃんとユキちゃん、あと魔女さんがすがるような目で俺を見てくるわけだ。

 これは一つ、男として頼りになるところを見せないといけない!


「もう今日は、海辺でキャンプしてすごそうかなあ! 夕日を見てのんびりしようかなあああ!」


 あっ、本音でちゃった。でも、今はそんな気分なんだよ。

 捜索活動しようにも、海底探査は想定してなかったからね! 無理だよ!


「わーい! うみでおとまりです~!」

「そうしましょう! 食材もたっぷりありますから!」

「ですねですね! みんなで夕日を見ましょうよ!」


 そしてハナちゃんたちも、投げやりな感じで乗ってきた。

 みんな今日は諦めたのである。


「男は時として、なげやりになる、と」

「この状況で男女関係ありませんよ」


 お供さんは相変わらずだけど、ある意味一番投げやりな人が彼女である。


「まあ確かに、今日何かを解決するのは……無理ですね」

「海を眺めながら、今後のことを考えようね。今は落ち着く必要があるね」

「ちょっと今は、なんも考えられないよ~」


 ドラゴン三人娘も、ちょっと今は何も考えたくない雰囲気が漂っている。

 ひとまず、みんなで現実逃避しようじゃないか。

 そうして頭を空っぽにしないと、多分良い発想もでてこないよ。

 今はもうそれくらい、全員が行き詰まってしまったのである。


「じゃあテント張りますね」

「おてつだいするです~」

「そうですね、私はかまどをつくってます」

「食材準備しますね」


 こうして現実逃避が決まり、みんなでテキパキとキャンプの準備が進む。

 あっという間に、幕営完了だ。


「それじゃあ、キャンプといえばカレーです。お料理しましょう」

「「「はーい」」」


 投げやりな俺たちによる、投げやりカレーの製造開始だ。

 でも料理上手がメンバーの大半を占めるため、ふっつーに美味しく出来上がる。何も面白ドラマは起きなかった。


「あや~、カレーはよいものですね~」

「夕日を眺めながらとか、内陸民としては最高ですね!」

「あ~カレーおいしー!」

(おそなえもの~)

「きゃい~」


 投げやりな俺たちが、投げやりにカレーを食べるがとっても美味しい。

 ロケーション効果もあいまって、大変に楽しめる夕食である。


「これがかれーというお料理ですか。男の料理は豪快っと」

「この場合男女関係ないですね」


 お供さんもカレーをはふはふ食べたのだが、美味しかったようだ。論文執筆をしながらも、なかなかの速度で消費している。


「モヒヒ」

「美味しいお野菜があるから、たんとお食べ。さっき私が食べたやつだから、大丈夫よ」

「モヒ~ン」


 カレーを食べたあとは、お供さんがウマさんをよしよしとお世話していた。意外と面倒見が良いな。カレーやサラダを食べながら、彼らにあげられる野菜を確認していたらしい。ただ食べていただけじゃなかったわけで、この辺はさすがといえる。優秀な人ではあるのだろう。


「モッヒモッヒ」

「あら、やっぱりお芋が良いのね」

「ヒヒン」


 あとこのウマさん、下処理して茹でてあるジャガイモが一番好みのようだ。キャベツもバリバリと食べてはいるけどね。

 とりあえずお野菜は大量にあった手持ちをあげちゃったけど、捜索打ち切りで明日帰るから問題なかろう。むしろ余らせないよう、残りは明日全部あげちゃう予定である。


「お野菜はこの人に頂いたのよ。みんなちゃんとお礼を言ってね」

「みんな、美味しく食べられたかな?」

「モヒヒ」

「ヒヒン」

「モヒ~」

「モッヒ」


 お供さんはこの辺しっかりしているようで、ウマさんにそう話しかけている。

 せっかくなので俺も声をかけると、四頭が嬉しそうにすりすりして来た。

 良く人に懐いていて、大変に賢い動物である。あと、ふさふさがとても気持ちいい。

 とまあ美味しく投げやりに夕食を食べ、夕日を眺めた後はテントでぐっすり眠った。

 なんかみんなお疲れで、夜更かしする気力がなかったのだ。


「あや~……すぴぴ」

「きゃ~い……すやや~」

「あっ……これ同衾よね。フフフ……」


 なお深夜に突然、隣の寝袋で就寝していたキツネさんが、ホワイトになった。

 お供さん発見からずっとダークだったのに、良く分からない娘さんである。


「なるほど、男はちょっとした物音で起きる、と」

「それも性別は関係ないですよ」


 だっていきものだもの。

 というかお供さんが、俺の観察記録をつけてるんだけど。照れちゃうので、手加減して頂きたい。


 ――こうして意気揚々と出発した俺たちのおひい様捜索は、大失敗に終わった。

 まあウマさんたちとお供さん一人は救助出来たので、成果はあったと言える。

 これから先どうするかは、みんなを巻き込んで考えていこう。

 こんなん人員大量投入の、大捜索作戦を計画しないと無理だからね!


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― 新着の感想 ―
[良い点] らんらんるー と言う訳で、ウマを引き連れ荒野を行く大志です。 ↑とか書くと格好良い西部劇がイメージされますが、単に自動車を乗り回しているだけ。 なので、残念ながらロデオ、ヒーハー、三つ数…
[一言] やらかしちゃいましたか~・・・まあ、良い夢見れそうな玉子さんなようで、暫くは楽しい夢の世界ですね。 しかし、中での時間とか、お腹空かない?とか、 色々気になりますね、私らが使えたら、何年後い…
[気になる点] 男は潜水艦の操縦やサルベージの技術も持っているのですか? [一言] 新しいお供さんの呼び名は牛チチさんがいいです
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