第二話 シャベッタアアアアアア!
洞窟で発見した卵みたいなのから救出したウマさんたちと、快調に荒野を走る。
「モヒ~」
「ヒヒン」
「モヒヒヒ」
「モヒモヒ」
こっちは車で安全運転だが、それなりの速度だ。それでもウマさんたちは、余裕で着いてきておるのう。
「ホントに足が速いですね」
「すごいです~」
「でしょでしょ?」
ウマさんたちは楽しそうに、車とちょっと距離を置いて並走している。身軽だからか、足取りも軽やかだ。
ドラゴンさんたちの世界にいるウマは、すごいんだな。というか見た目からして凄くつよそう。
でも表情は和やかそのもので、こっち見てにっこりしているよ。かわいい。
「この先がそれっぽいですね、このまま川沿いを進みましょう」
「わかりました」
それと同時に、シカ角さんナビに従って道を決める。川沿いを進めば良いらしいので、運転は楽だね。
こんな感じで快調に道を走っていたのだが――。
「モヒ! モヒヒヒ~!」
「あら? どうしたの?」
「モッヒ、モヒ!」
「そっちに何かあるみたいだね」
「行ってみるよ~」
なんだかウマさんが騒ぎ出し、川からちょっと離れたところに向かって、走って行ってしまったのだ。
「追いかけますね」
「お願いします」
慌てて追いかけると、すぐそこでウマさんたちが集まっていた。どうしたんだろう?
「きみたち、どうしたの?」
「モヒ! モヒモヒ!」
良く分からないけど、なんか地面を見つめている。何かあるのかな?
「ここに何かがあるの?」
「モヒ!」
そうしてウマさんたちが見つめている地面をよく見ると――確かに、何かある。
ピンク色模様が、砂の下からちょっとだけ出ているのだ。
これはまさか……!
「みなさん! なんか怪しいのがあります!」
「ほんとです~!」
「これ、あの卵の模様と同じですよね?」
「掘ってみましょう!」
みんなで慌てて砂の下からほじくり出してみる。スコップ持ってきて良かった。
それはともかく、ある程度ほじくり出した結果と言えばだ。
「……卵ですね」
「なんで、こんなところに。しかも一つだけ……」
果たしてそれは、ウマさんが入っていた卵とよく似たものだった。
大きさは一メーター六十センチくらいかな? 人が入るのに、ちと小さいサイズではある。まあ詰め込めばって所か。
……これ、開けてみるしかないよね。
「か、神様お願いします……」
(はーい)
そして早速、神輿にお願いしてみるわけだ。
(ぽちぽちとな)
「かみさま、なにしてるです?」
(これ、てじゅんがめんどいの)
「めんどいですか~」
(はいるのは、らくなんだけどね~)
どうやら謎の声曰く、手順がめんどいらしい。というか、なんで神様はそれを開けられるのだろうか。
ああいや、ゴッドだから開けられるのは当然なのかな?
そんなことを考えていると――ぱかっと開いた。
「あらー! お供の一人じゃない! ほらほら起きなさい!」
「……もうちょっと……寝かせて……ふわふわなのよこれ……」
「それどころじゃないよ~」
「二度寝はだめだね。起きるんだね」
中身は、おひい様のお供ドラゴンさんらしい。
覗いてみると、長い黒髪お姉さんが、むにゃむにゃと二度寝を貪っていた。詰め込んであるが、ぐっすりとは眠れるらしい。
彼女の服装は唐装っていうのかな? そんなやや古代中国な雰囲気がありつつも、和風も感じさせる不思議なものだ。装飾はエスニックぽくて、独特である。大アジアって感じがするな。
しっぽと言うか脚の模様は白と黒のまだらであり、頭には小さいけどウシさんみたいな角が生えている。どことは言わないがけっこう大きく、ほるすたいん? というか……。
追加情報として、卵の寝心地は良いらしい。
「ふああ~……って、みんなどうしたの?」
「どうしたじゃないわよ。何があったか聞かせて?」
「はい?」
ようやく起きたウシさん風ねぼすけドラゴンさんだが、周囲の状況を見てきょとんとした。
「ウマに変な物体に……人みたいなの?」
特に俺を見てきょとんとしているな。人であることを教えておこう。
「私たちは、あなたと同じ『人』ですよ」
「シャベッタアアアアアア!」
しゃべりますがな。ハッピーセットのアレみたいにめっちゃ驚いているけど、俺は人畜無害だからね。
「ほら落ち着きなさい。説明するから」
「マタシャベッタアアアアアア!」
「私たちは顔見知りでしょ! しゃべるわよ!」
「そうだったわね」
今度は説明しようとしたシカ角さんを指さして、びっくり顔したりする。さっき普通に二人で会話してたじゃんね。
というかこのドラゴンさん、面白い人だな。変人とも言う。
「あの川で別れた後のこと、今から話すから」
「それより、その不思議な服はなに? 可愛いじゃない」
「ヤマトのしま〇むらで売ってるわよ」
「しまむ? ヤマト?」
まあ説明はシカ角さんに任せて、俺たちは休憩しよう。この人の相手をするのは、おそらく疲れる。
――そして二十分後。
「え……洞窟から離れたこんなとこで、私を発見したの?」
「そうなの。あなたなんでこんな所にいるの?」
「わからないわ」
説明が終わり、俺たちの紹介も終わった。もうしゃべっても驚かないだろう。
ちょっくら質問してみるか。
「おひい様たちは、あの洞窟で卵に入ったのですよね?」
「なるほど、コレが男なのね。体が硬いわ」
「あのすいません、聞いてます?」
「論文を書く必要があるわね。これは大発見だわ!」
「話を聞いて下さい……」
お供ドラゴンさんは、ペタペタと俺の腕を触りながら学者の目をしている。
男が珍しいのはわかるけど、学問より先におひい様のことをですね、聞きたいわけでして。
これもうシカ角さんに任せるしかないな。
「そうなの、みんなでこの卵に入れば、後はなんとかなるって」
「おひい様が、そう言っていたのね」
「ええ」
すったもんだはあったものの、シカ角さんがなんとか状況を聞き出した。
やはり、おひい様の奥の手はあの卵だったようだ。
猛吹雪の中あの洞窟に向かい、そこにあった卵に逃げ込んだらしい。
だが、あったはずの卵は……ウマさんの物を残して、他は消失していた。
一体なぜ、そんなことになっているのだろう?
◇
あの猛吹雪の時、おひい様たちは洞窟へと避難していた。
そこには冬眠カプセルみたいな機能のある、卵があったらしい。この卵に全員が入り、ウマさんも詰め込んでおねむとなった。誰かが助けに来てくれる、その時まで。
水晶玉はこの卵でおねむ中のおひい様を、ずっと補足していたのだ。
しかしシカ角さんたちはちたまにいたため、正確な位置探知は不可能であった。
ずっとずっと、うちの洞窟を経由したノイズだらけのシグナルを追い続け、それでも至近の場所に到達できたのは執念のたまものと言えよう。
そしてとうとう俺たちと出会い、様々な分析や気づきの末――ここに至った。
だが、特大の問題が待ち構えていたのだ。
みんなが眠っているはずの卵が――どっかにいってしまった、という問題が。
「おひい様は、他に何か言っていた?」
「特には……巻物を見ながら、すっごい自信満々な様子でしたよ。満面の笑みと言うか」
「おひい様、やらかしたわね」
「やらかしましたね」
シカ角さんと救助されたお供さんは、レジャーシートに腰掛けずぞぞとお茶を飲みながら、二人でうんうんと頷き合っている。
どうやらおひいさま、なんかやらかしたらしい。聞いてみるか。
「おひい様は、何をやらかしたのですか?」
「卵に入ることだけ考えて、救助を呼ぶ方法をまったく考えてないあたりです」
「確かに」
シカ角さんの回答は、俺も納得である。避難するのは良いけど、救助要請がまるっと抜けておりますな。
おまけに、あの卵は神様でもないと開けられないと来た。そりゃシカ角さんたちも、捜索に苦労するわけである。
「なっとくです~」
「すっごいやらかしですね」
「普通そこが抜けますか?」
ハナちゃんとユキちゃん、魔女さんまで同意である。すごいやらかし具合であった。
他のドラゴンさんたちも、うんうんと頷いているあたり相当である。
なんとなく、おひい様の人柄がうかがえるな。
「それはともかく、卵が消えた謎を考えないと」
「です~」
おひい様やらかし事案は置いといて、卵が消えたミステリーを解明しないと。
おひい様含めて、あと十人の救助をしなくてはならぬのだ。
「謎と言いましても、私も中で眠っていただけですので……」
「まあ、そうですよね」
お供さんをちらっと見たが、聞きたいことを察したのか、そんな返答だ。これはしょうがないよね。
でも俺の腕をペタペタ触りながら、学者の目で話すのはやめてくれませんかね。
「ぐぬぬ……遠慮の無いボディタッチ……」
「ほらほらユキ、どうどう」
なぜかキツネさんがダーク化して、ぐぬぬっているが置いといて。
もっとしっかり、考えてみよう。危機管理は良く考えることが大事だからね。
俺は危機管理には自信があるんだ。
「どうして卵が消えたのか……」
とは言う物の、これは正確ではない。ウマさんたちの卵は残っていたのだ。
ただ巨大すぎて、持ち出せなかっただけということもある。
次に、お供さんの卵だ。川からちょっと離れたところで、埋まっていた。
それは結構な日数放置されていたかのような有様で、見つけられたのはウマさんのおかげである。車に乗ったままだったら、絶対わからなかった。
「……あの洞窟って、誰か立ち寄るような場所ですか?」
「半端な場所にありますので、普通は行かないですね」
「旅人でも、立ち寄らないと思うよ~」
「誰かが行くような場所だったら、あの変な卵の存在も知れ渡ってたね」
地元民に聞いてみたが、あの洞窟は人が立ち寄るような場所ではないらしい。
たしかに、人が良く行くような所なら、卵の存在は知られていたはずだ。
聞いた感じでは、おひい様だけが知っている、秘密の場所って感じがするよ。
「誰かが持ち出したという可能性は、今のところ考えにくいですね」
「こんなデカくて怪しい物を、持っていこうと思う人は……そうそういないと思います」
「ですよね」
「なにせ、色がけっこうキツいですから」
たしかに、この卵は色がピンクと紫で結構アレである。食欲はわかないな。
もし俺が何も知らずに発見しても、そ~っとしておくと思う。怖いもん。
「とりあえず人さらい、というか卵さらい説を置いとくとすると……」
神様ですらめんどいという卵オープンを考えると、自力脱出が出来たのか疑問に思う。
出来ていたら、お供さん入のたまごちゃんが、こんなところで埋まっていないわけだし。
「とすると……そこのお供さん、ちょっとよろしいですか?」
「よろしいですよ。論文書かせてくれます?」
「論文は置いときましょう」
お供ドラゴンさんを呼ぶと、しゅるるっとあっという間に距離が詰められ、俺の腕をぺたぺたさわり始める。
たまにぽよよんするのだが、今はそれどころではないわけで。
「ぐぬ!」
「どうどう」
後ろの方からダークオーラを感じるが、まあ色々考えて疲れているのかもしれない。
キツネさんは後でねぎらうとして、次の思考のためにちょっと情報収集をしよう。
「みなさんが洞窟に到達した時、川べりから洞窟までの距離はどうでした?」
「わりと近かったですよ」
「そうですか」
「そうですね、男の人って、川幅に興味があるのですか?」
「川幅と男女の違いは、あんまり関係ないですね」
「なるほど、多少はあるのですね」
ないと思われます。ひとまずお供さんは放置して、この情報から色々考えてみよう。
あの洞窟には、たくさんの丸い石が転がっていた。河原に良くあるあの石だ。
だがそ洞窟を形成している岩自体はゴツゴツしていて、そんな石が発生することは原理的にない。
人が生活した形跡もないため、誰かが運んだとも考えにくいわけで……。
そうすると、一つの仮説が浮かび上がる。
「川の増水により、あの洞窟は水没した?」
「あえ?」
「増水、ですか?」
ハナちゃんとユキちゃんが、俺のつぶやきを聞いてこちらを見上げた。
そう、洞窟内の痕跡から考えられる可能性として、川の増水により洞窟が水没、もしくは内部に浸水したかもしれないのだ。
河原にあるような石があったのは、その痕跡とも考えられる。
「洞窟が川に飲み込まれ、その結果卵が流出した。でもあの大きな卵は、でかすぎと重すぎのため、流されなかった」
「ありえるです~」
「だから、この方の卵はあそこに埋まっていた、と」
「お供さんの卵があった場所は、川の石と砂ばかりだった。恐らくあそこまで、川幅があったと考えられるよ」
ユキちゃんが先取りしてくれたけど、お供さんの卵が埋まっていた場所も、河原の痕跡があった。
つまりは、おひい様たちが卵に入った後……川が大氾濫した可能性があるのだ。
というか痕跡はよく見れば、そこかしこにある。
「つまり……?」
ここまでの話を聞いて、シカ角さんや他のドラゴンさんたちが、ゴクリとした。気のせいか、顔も青くなっている。
でも容赦なく結論言っちゃうからね。
「つまり、おひい様たちの卵は……川に流されて、その辺に転がっているかも。下手すると広範囲に――」
「「「ギャー!」」」
聞きたくなかった結論を聞いて、ドラゴンさんたちが悲鳴を上げる。
そう、おひい様のほかに――お供さんたちの卵も捜索する必要が出てきたからだ。
しかも、お供さんたちの卵は探知が出来ない。しらみつぶしにあたるしか、方法がないのだ。
「この……広大な荒野を、しらみつぶし……」
「探さないわけにはいかないね。でも大変だね」
「気が遠くなるよ~」
探さないという選択肢はない、だって人命救助なのだから。しかしいくらなんでも、しらみつぶしは苦難が明らかなのだ。
ドラゴンさんたちは、これからの捜索活動を想像して……崩れ落ちる。
「みんな、げんきだすですよ~」
「おさがしものなら、おまかせだよ! おまかせ!」
「じしんはないけどね! ないけどだいじょうぶ! かも?」
「だめだったら、タイシさんにまるなげだね! ま~るなげっ!」
崩れ落ちるドラゴンさんたちを、ハナちゃんと妖精さんたちが励ます。
でもイトカワちゃん、俺にきゃいっきゃいで丸投げする気全開なのはどうかな?
「ひとまずは行方が探知出来る、おひい様を先に見つけましょう。お供さんたちは、その後です」
「そうしましょう」
「まずは、出来ることからだよ~」
「とりあえずはね。最初はおひい様だね」
おひい様を見つければ、他のみんなも見つかる。そんな甘い考えは今まさに崩れ去った。
でも、まずは出来ることから始めよう!
というかこの衛星はかなり特殊な自転をしているため、昼夜のサイクルが惑星に近い。
ちょっと急ぐ必要がある。
◇
「あっら~、男というのは、こんな面白い道具を持っているのですね!」
「資格を取りさえすれば、性別関係なしに持てますよ」
「ほほう」
現在のところ、おひい様の光点を目指して荒野を走っている。ウマさんたちも併走して、捜索の旅はとても賑やかになった。
ちなみに座席が無いため、お供さんは狭い荷台に詰め込むこととなった。クッションは敷いてあるから、まあなんとかなるだろう。
最後列シートの真ん中は妖精さんの位置のため、ヘッドレストを外してある。今はそこから顔をだして、自動車での移動を楽しんでいるね。たくましい感じがするよ。
「まだまだ、距離はありますね」
「この分だと、一時間はかかるかもだよ~」
「結構遠いね」
そうして人員満載で走っているわけだが、シカ角さんによると、おひい様までの距離は結構あるらしい。でも車で一時間なら、たいした距離でもない感じだ。
今は安全運転で走っているから、距離的には二十キロもないのではないかな。
なんにせよ、おひい様もしくは卵は、もうすぐそこである。
――そう考えていた時期が、俺にもありました。
「あ、あああああ……」
「ここまで来て……これはないよ~」
「流石にこれは、予想外だったね。途方に暮れるね」
現在ドラゴンさんたちが、ガックリと崩れ落ちている。車は停車中で、全員車外だ。
というか、これ以上先には……行けない。
「あや~……きれいなうみが、あるですね~」
「水平線が、見えます……」
「最悪の事態ががががが」
そしてハナちゃんあんぐり、ユキちゃんと魔女さんも、引きつった笑顔である。
今聞いたとおり、目の前には――海があるのだ。
ざざんと波打ち、潮風が香る。北陸で見られる遠浅の海のような、穏やかでとても広大な水平線が、そこにはあった。
「ま、まさかおひい様は、海の底に……」
「そのまさか、ですね」
シカ角さんが持つ水晶玉の光点は、まだまだ先にある。
つまりおひい様は、この海までながされてしまったのだ。
「補足として、他のお供さん卵も、下手したら海底に散らばって……」
「「「ギャー!!!!」」」
つまり、お供さんたちの捜索範囲が……想像を絶する広さになったのだ。
あの洞窟からここまでの荒野と、目の前に広がる海を捜索しなければならない。
しかし、探さないという選択肢はないわけで、でも海底探査とか大変なわけで。
ちなみに卵が水に浮く、という可能性もあるのだが……。今は言わないことにしよう。たぶん沈んでいる。そう思いたい。
お供さんが入っていたやつも回収して仕舞ってあるが、水に浮きそうにはないからね。まあ村に帰ってから検証しようと思う。今はちょっと、考えたくない。
「タイシ、これからどうするです?」
「……これ、現在の装備や人員では、捜索はもう無理ですよね」
「というか、心がぽっきり折れました……。流石異世界、何が起きるかわからない……」
俺も一緒に唖然としていると、ハナちゃんとユキちゃん、あと魔女さんがすがるような目で俺を見てくるわけだ。
これは一つ、男として頼りになるところを見せないといけない!
「もう今日は、海辺でキャンプしてすごそうかなあ! 夕日を見てのんびりしようかなあああ!」
あっ、本音でちゃった。でも、今はそんな気分なんだよ。
捜索活動しようにも、海底探査は想定してなかったからね! 無理だよ!
「わーい! うみでおとまりです~!」
「そうしましょう! 食材もたっぷりありますから!」
「ですねですね! みんなで夕日を見ましょうよ!」
そしてハナちゃんたちも、投げやりな感じで乗ってきた。
みんな今日は諦めたのである。
「男は時として、なげやりになる、と」
「この状況で男女関係ありませんよ」
お供さんは相変わらずだけど、ある意味一番投げやりな人が彼女である。
「まあ確かに、今日何かを解決するのは……無理ですね」
「海を眺めながら、今後のことを考えようね。今は落ち着く必要があるね」
「ちょっと今は、なんも考えられないよ~」
ドラゴン三人娘も、ちょっと今は何も考えたくない雰囲気が漂っている。
ひとまず、みんなで現実逃避しようじゃないか。
そうして頭を空っぽにしないと、多分良い発想もでてこないよ。
今はもうそれくらい、全員が行き詰まってしまったのである。
「じゃあテント張りますね」
「おてつだいするです~」
「そうですね、私はかまどをつくってます」
「食材準備しますね」
こうして現実逃避が決まり、みんなでテキパキとキャンプの準備が進む。
あっという間に、幕営完了だ。
「それじゃあ、キャンプといえばカレーです。お料理しましょう」
「「「はーい」」」
投げやりな俺たちによる、投げやりカレーの製造開始だ。
でも料理上手がメンバーの大半を占めるため、ふっつーに美味しく出来上がる。何も面白ドラマは起きなかった。
「あや~、カレーはよいものですね~」
「夕日を眺めながらとか、内陸民としては最高ですね!」
「あ~カレーおいしー!」
(おそなえもの~)
「きゃい~」
投げやりな俺たちが、投げやりにカレーを食べるがとっても美味しい。
ロケーション効果もあいまって、大変に楽しめる夕食である。
「これがかれーというお料理ですか。男の料理は豪快っと」
「この場合男女関係ないですね」
お供さんもカレーをはふはふ食べたのだが、美味しかったようだ。論文執筆をしながらも、なかなかの速度で消費している。
「モヒヒ」
「美味しいお野菜があるから、たんとお食べ。さっき私が食べたやつだから、大丈夫よ」
「モヒ~ン」
カレーを食べたあとは、お供さんがウマさんをよしよしとお世話していた。意外と面倒見が良いな。カレーやサラダを食べながら、彼らにあげられる野菜を確認していたらしい。ただ食べていただけじゃなかったわけで、この辺はさすがといえる。優秀な人ではあるのだろう。
「モッヒモッヒ」
「あら、やっぱりお芋が良いのね」
「ヒヒン」
あとこのウマさん、下処理して茹でてあるジャガイモが一番好みのようだ。キャベツもバリバリと食べてはいるけどね。
とりあえずお野菜は大量にあった手持ちをあげちゃったけど、捜索打ち切りで明日帰るから問題なかろう。むしろ余らせないよう、残りは明日全部あげちゃう予定である。
「お野菜はこの人に頂いたのよ。みんなちゃんとお礼を言ってね」
「みんな、美味しく食べられたかな?」
「モヒヒ」
「ヒヒン」
「モヒ~」
「モッヒ」
お供さんはこの辺しっかりしているようで、ウマさんにそう話しかけている。
せっかくなので俺も声をかけると、四頭が嬉しそうにすりすりして来た。
良く人に懐いていて、大変に賢い動物である。あと、ふさふさがとても気持ちいい。
とまあ美味しく投げやりに夕食を食べ、夕日を眺めた後はテントでぐっすり眠った。
なんかみんなお疲れで、夜更かしする気力がなかったのだ。
「あや~……すぴぴ」
「きゃ~い……すやや~」
「あっ……これ同衾よね。フフフ……」
なお深夜に突然、隣の寝袋で就寝していたキツネさんが、ホワイトになった。
お供さん発見からずっとダークだったのに、良く分からない娘さんである。
「なるほど、男はちょっとした物音で起きる、と」
「それも性別は関係ないですよ」
だっていきものだもの。
というかお供さんが、俺の観察記録をつけてるんだけど。照れちゃうので、手加減して頂きたい。
――こうして意気揚々と出発した俺たちのおひい様捜索は、大失敗に終わった。
まあウマさんたちとお供さん一人は救助出来たので、成果はあったと言える。
これから先どうするかは、みんなを巻き込んで考えていこう。
こんなん人員大量投入の、大捜索作戦を計画しないと無理だからね!