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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第二十六章 最後の一つ
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第一話  新たなる地平


 おひい様はちたまへ転移しておらず、現地に取り残されていた。とくれば捜索活動をしなければならないため、急いで準備を行う。

 その過程で、空に見える大きな星は、エルフィンであることも判明しており、AIちゃんによる軌道計算結果も一致している。

 つまりドラゴンさんたちの星は、惑星エルフィンの衛星という事がついに確定したのだ。

 とくれば名前を付けましょうということで、「リューン」と呼ぶことにした。龍だからね。

 こうして、最後に残された赤い衛星Xは、ネームドになったのであった。


「これで、準備は完了ですね」

「いよいよです~」


 そして作業開始から三日後、ようやくこの衛星リューンを捜索する準備が整った。

 水と食糧、そして燃料は十分用意し、俺のしまっちゃう謎空間に放り込んである。

 一応渡河も想定してゴムボートも用意してあるが、それで渡れるかは現地に行かないと判らないかな。


「それではみなさん、行きましょう」

「「「おー!」」」

「「「きゃ~い」」」

(おでかけ~)


 おひい様捜索メンバーは、俺とユキちゃんとハナちゃん、そして魔女さんとドラゴンさんが三人の合計七名と、妖精さん三人娘がチャイルドシートに鎮座だ。神輿も参加なので、まあ十名と一柱ってところかな。

 この人数が四日間活動出来る物資を用意し、ガソリンはドラム缶一本を用意だ。まあ仕舞っちゃう空間内なら、爆発しないだろう。スペアタイヤも用意してあるので、パンクしても大丈夫かな。

 後は念のため、野菜の種や種芋も用意してある。最悪の場合、ハナちゃんがにょきる手はずだ。

 ぶっちゃけハナちゃんは、補給の怪しい異世界での活動における、最後の砦と言うべき最重要メンバーなのである。


「何かあったら、ハナちゃんにょきにょきお願いね」

「まかせるです~」

「心強いよ。流石ハナハ先生だね。にょきにょきの天才だよ」

「ぐふ~」


 言葉の選択を誤り、出発前にハナハ先生がぐにゃってしもた。

 でもまあ車で移動だから大丈夫!


「妖精さんたち、この洞窟の場所は大丈夫かな?」

「においはおぼえたよ! だいじょうぶだよ!」

「かえりはまかせてね! まかせて!」

「らくしょう~」


 帰還時に道に迷わない方法としては、今回は妖精さんにお願いすることにした。きゃきゃ~いと道案内していただく予定だ。

 まあそれでも迷った場合として、三日過ぎても帰ってこない場合、村からネコちゃん便を飛ばして貰う事になっている。

 ネコちゃんなら、確実に俺たちの所までたどり着き、確実に村まで帰還できる。

 とりあえず手段は複数用意しておいて、損はないからね。

 参加人数が多いので迷子石が使えないのは少々怖いけど、地理に明るい地元民もいるから、何とかなるとは思う。


「村のことは、お任せ下さい」

「いってらっしゃい」

「きをつけてな~」

「うちらも、がんばるさ~」

(わたしたちは、おるすばんしてるね!)

(……みまもる)


 こうしてガチガチに準備した俺たちを、ヤナさん始め村のみなさんがお見送りだ。

 オレンジちゃんとブルーちゃんは、村を見守ってくれるそうで、安心だね。

 ではでは、出発進行!


「では、行きます」

「ぐふふ~」

「いよいよですね!」

「おでかけだね! おでかけ!」

「きゃきゃ~い」


 異世界というかエルフィン惑星系に慣れているハナちゃんとユキちゃんは、わくわくな感じ。

 妖精さんたちも、車でお出かけが楽しみみたいだ。慣れてらっしゃる。


「い、異世界への旅……凄い!」


 ただこうした旅というか、地球外の星での活動経験がない魔女さんは、すっごい緊張している。でも期待はみなぎっているようだ。

 まあこんな体験、普通はできないから当然かもしれない。


「おひい様、もうすぐですよ!」

「どきどきするよ~」

「早く会いたいね!」


 ドラゴン三人娘は、水晶玉を見つめて祈っている。

 確かに今回の結果がどうなるかは、まだわからない。祈るのも頷ける。

 こうして様々な反応のメンバーを乗せ、ドラゴンさんの世界に乗り出した。


「どんどん近づいてますよ! これは凄いです!」

「やっぱり車は速いね!」

「快適だよ~」


 走り出してしばらくすると、ドラゴンさんたちがはしゃぎだした。

 車の速度で移動すると、もうどんどん近づいているのが、目に見えてわかるようだ。


「あららら! もしかしてアレ、あの洞窟じゃない?」

「そうだね! 私たちがつかったやつだね!」

「知ってる場所に来たよ~」


 やがて、ドラゴンさんたちが一つの岩場を指さした。どうやらそこが、彼女たちが転移に使った場所らしい。

 車を走らせて、その前まで行ってみる。


「間違いないですね、ここです」

「じゃあじゃあ、あっちに川があるはずだよ~」

「おひい様と分断された、あれだね」


 その場所は間違いなく、転移門だったところのようだ。今はもう、ただの洞窟に変わっているようだけど。

 どうしてここがゲートになり、なぜ奈良に繋がったのかは、まだわからない。

 それは後回しにして、捜索を続けよう。


「走り始めて、十数分でこれですか」

「さすが自動車だよ~」

「車は偉大だね」


 ほくほく顔のドラゴンさんたちを乗せ、車はひた走る。今度は念のため、分断された川の方に向かっている最中だ。

 川までの距離はどれくらいだろうか? 確か一日かかったと聞いていたが。


「ここから川までは、歩いて一日の距離なのですよね?」

「距離的にはすぐそこですよ。前に一日かかったのは、豪雪と極寒のせいです」

「なるほど、雪をかき分けて移動したため、時間がかかったわけですね」

「全く前に進まず、本当に大変でした……」


 距離を聞いてみたけど、思っているよりは近いようだ。当時はかなりの豪雪だったようで、そりゃあ一キロ進むのにもかなり時間がかかるだろう。

 というか、豪雪なのに良く移動出来たもんだと思う。さすがドラゴンさんと言ったところか。


「ありました! あの川です」


 言うとおり、程なくして例の川に到着した。車を使えばたったこれだけの距離でしかないのに、一日かかったほどの豪雪だったわけか。そりゃあ遭難もするというもの。

 洞窟に避難できなければ、確実にアレしていただろう。危ないところだったわけだ。


「でも、なんだか水の量が違うね」

「細くなってるよ~」


 ただほかのドラゴンさんが言うには、川幅が狭くなっているらしい。

 当時とは様子がちがうっぽいな。


「あのときは、大きな川だったのに……」

「冬に増水するのかもね」

「時期がわるかったよ~」


 今は歩いて渡れる程度のそれを見て、ドラゴンさんたちは思うところがあるのだろう。なんだかしょんぼりしている。

 でもまだまだ、捜索は始まったばかりだ。川沿いに移動して、様子を見よう。


「この辺で別れて、それぞれの避難場所に向かったのですよね?」

「そうですね、なので、おひい様も近くのはずなのですが……」

「光点は、結構離れていると」

「はい……」


 想定では、この川からそんなに遠くない場所のはずだった。

 しかし、水晶玉に映る光点は……結構遠くらしい。この齟齬がなんなのかは、まだ原因は不明だ。

 口数が少なくなったドラゴンさんたちを乗せ、車で川を渡り、そのまま走り続ける。

 すると、そこそこの岩山みたいなのが見えた。


「なんか、あれ怪しくありません?」

「確かに距離的には、ちょうどよさげなんですよね……」


 あまりに怪しいので、ちょっと寄り道してみることにした。


「ぽっかり口あいてますね、それなりに深い洞窟のようです」

「こんな場所、あったのですね」


 岩山を調べてみると、ここにも洞窟があった。言うとおり、それなりに深い。

 ヘッドライトを装備し、こわごわと中に入ってみると、なんだか丸い石がゴロゴロしていた。

 河原にある石とよく似ていて、どうしてここにあるのか不思議に思える。


「タイシタイシ~! あっちになんかあるです~!」


 洞窟内にゴロゴロしている丸石を不思議に眺めていると、ハナちゃんからお呼びがかかった。なんかあるっぽい。

 すぐに向かおう。


「ハナちゃん、なんかある……てなにこれ?」

「わかんないです?」

「たまごかな? たまご?」

「おだんごではないね! おだんごでは!」


 ハナちゃんが指さす先には……でかい卵のような物が転がっていた。

 妖精さんたちも、その回りをきゃいきゃいと飛んでいる。確かにお団子ではないよね。

 まあその物体の大きさは、長さ十メートルもあるだろうか。マイクロバス並の巨大なたまごっぽいやつが、奥に一つだけある。

 強力なランタンを数個設置して洞窟内を良く見えるよう照らすと、それはピンクと紫の幾何学な模様をした、なんとも怪しい物体であった。


「なんですかね、これ」

「でっかい、卵?」


 みんなで集まり、この謎オブジェをつんつんする。しかし、無反応だ。

 わけがわからない。


(あ、これこれ~)


 しかし神輿がほよよっと飛んでいき、卵の横でなにかぽちぽちし始めた。

 謎の声的には『コレ』らしいのだが。なんか色々いじくっているぽいけど、ヤバくないかな。


(もうちょいで、あくよ~)

「あえ? あくってなにがです?」


 なぬ? 開く……だと?

 ちょっと待って! 待って神様! 中身あるってことそれ!?


(あいた~)


 しかし止める間もなく、神輿がなんか開けてしまった!

 怪しい模様の卵の横らへんが、パカッと開いたよ!

 待避! 待避ー!


「……なんも起きないね」

(なかにいるよ~)

「なかにいるです? のぞいてみるです?」

「自分がやるよ」

「きをつけるです~」


 めっちゃ焦ったけど、パカッと開いただけでなんも出てこなかった。だが謎の声いわく、中に「いる」らしい。

 しょうがないので、俺が確認してみよう。フェイスをハガーするやつがいないことを祈る。


「何が入っているのやら……て、これは――動物?」

「動物ですか?」

「どれどれ……」


 開いた扉みたいなところから中を覗くと、でかい動物がすやすやと寝ていた。

 なんぞこれ……体は馬っぽいかな? でも顔はライオンを可愛くした感じというか。


「あらー! ウマだわ! おひい様のウマ!」

「ぎゅうぎゅう詰めだね」

「押し込んであるよ~」


 首を傾げていると、後からのぞき込んだドラゴンさんたちが大騒ぎだ。

 どうやら、おひい様のウマらしい。よく見ると、四頭が詰め込んである。

 聞いた話と数は合っているな。ただ、これってホントに馬なのかな?

 角が生えてるし、ふさふさの毛があるし、強そうだし。ちたまの馬とは、かなり違うよね……。

 なんか見た目は、よく見るとモン○ハンのアイスなんとかに出てくる麒麟に、かなり似てるんだけど。


「これこれ、みんな起きなさい。ほらほら」


 ウマ? を見ていると、シカ角さんが寝ている動物たちの頬をぺちぺちとして、起こそうと躍起になっている。

 とりあえず運び出してあげよう。


「詰め込んだ状態ではかわいそうですから、外に出してあげましょう」

「でも、この子たちめっちゃ重いですよ?」

「いやこれくらいなら、軽いもんです」

「えっ……持ち上げた?」


 ドラゴンさんたちがお目々まん丸にしているけど、重いとは言え二トンも無い程度でしょ?

 これくらいならへーきへーき。


「はい、四頭全部外に出ましたよ」

「これを持ち上げるとか……怪力ですね」

「やばいよ~」

「あっさり運んでたね……」

「タイシですからね~」

「あり得ないほど力があるんですよ、大志さんは」

「ユキから聞いてはいたけど、実際に見るとびっくりだわ」

「ちからもちだね! ちからもち~」


 ウマさんをみんな外に出し終えると、他の方々がびっくりするやらあきれ顔やらで俺を見ていた。

 いやいや、家ではこれが普通でして。ぼくはどこにでもいる、いっぱんじんだよ。


「ほら、起きなさい」


 気を取り直して、シカ角さんがまたぺちぺちと始めた。

 すると……ウマさんが、ぼんやりと目を開ける。


「モヒ?」

「あ、起きたわね。ほらほら、何があったか説明しなさい」

「モヒ~」

「こら、二度寝しないで」

「モヒヒ……」


 すったもんだの末、ようやくウマさんが身を起こした。ねぼすけさんである。

 それはともかく、まずはシカ角さんにまかせてみよう。


「モヒヒ」

「ほほう」

「モッヒ」

「で、そうなったと」

「モヒ」

「その時は、こうだったのね?」

「ヒヒン」


 こんな感じで、シカ角さんがヒアリングを続ける。何を言っているかは、俺には良く分からない。


「わかりました。どうやら、ここが避難場所だったみたいです」


 やがて聞き取り調査が終わったのか、シカ角さんが説明してくれた。

 ここがおひい様たちの、避難場所だったらしい。


「ここに到着してから、この卵みたいなやつに詰め込まれたそうですよ」

「モヒ」

「他にもたくさんあったと、言っています」

「さようで」

「モヒヒ」


 そのほかにも色々説明してくれたが、かいつまむとこうだ。

 この洞窟に入ると、奥にはたくさんの卵みたいなのがあったらしい。

 おひい様はなにか周囲に指示して、まずは一番でかいやつに、ウマたちを詰め込んだそうだ。

 つまりは、この卵は冬眠カプセルみたいなもの? なのかも。

 ウマさんを二年近く守っていたことから、それっぽい物体らしい。

 そんなのがなぜこの星にあるかは、謎なのだが。


「この卵って、みなさんの間では一般的な物なのですか?」

「いえ、初めて見ました」

「しらないよ~」

「なんぞこれだね」


 聞いてみると、ドラゴンさんたちも初めて見るらしい。

 おひいさまの奥の手とは、これだったのだろうか。


「推測すると、これがおひい様の奥の手のようですけど」

「かもしれませんね。流石おひい様です」

「ただ、問題がありますよね」

「ええ」


 なんか卵っぽいやつがあり、冬眠カプセルみたいなことができた。ウマさんはそこでずっと、保護されていたのだ。

 しかしだ、話によると他にも卵があったと言う。じゃあ、普通に考えて……おひい様たちもそれに入って、眠っているはずなのだが……。


「……卵みたいなの、これだけですよね」

「ですね……」


 そう、みんなが眠っているはずの卵が――無いのだ。

 一体なぜだろうか。


「もしかして、目を覚まして自力で出て行ったとか?」

「だと良いのですけど……」


 考えられる理由としては、吹雪が去った後、卵から抜け出したと言うことだ。

 ずっと寝ている理由はないからね。でもそうすると、ウマさんを置き去りにしている点が気になる。

 普通は彼らも起こして、連れていくと思うのだが……。


「あと考えられる理由として、誰かに持ってかれちゃったとか」

「ありえますね。ウマさんたちのは、デカすぎて置いてかれたと」

「それは困るよ~」

「誘拐だね。大事件だね」


 とまあ色々可能性は考えられるが、正直の所良く分からない。

 ひとまずおひい様レーダーを使って、本人に会わないことにはわからないな。

 まあこんな凄い卵があるのだから、無事であることは確かだろう。

 それについては、朗報とも言える。


「まあこれで、おひい様は無事だろうってのは分かりましたね」

「そうですね! こんな凄いのがあるなら、なんとかなったはずです」

「良かったよ~」

「後は探すだけだね」


 この朗報に対して、ドラゴンさんたちはくねくねと喜ぶ。

 さて、じゃあ捜索を再開しよう……か?


「モヒ?」


 その前に、このウマさんたちをどうしよう?


「あ~、ウマさんたちはどうします?」

「一緒に来て貰いましょう。この子たち、足はめっちゃ速いですから」

「大丈夫なのですか?」

「丸一日走っても、へっちゃらな子です」

「モヒ」


 なんか大丈夫らしいので、旅の仲間が増えたと思うことにしよう。

 まあ水はあげとこうかな。


「ほら水だよ。これから走るから、たくさん飲んでね」

「モヒヒヒ!」


 水をバケツに入れてあげると、四頭は嬉しそうにがぶがぶ飲んだ。

 それじゃあ、飲み終わったら出発しようか!



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― 新着の感想 ―
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[一言] 陸での強い味方が誕生したようですね。 自覚の無い超人ハルクも発見されました。 私が体力気力溢れた時期、背筋180キロを活かし二人係で100キロの鉄骨を必死に上げた覚えが・・・。 軽自動車をズ…
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