第十四話 ほんとはずっと、そこにいた
ここはとあるおうちの、とある客間。
みなさんぐっすりおねむ……とは言えない感じ。
「ぐふふ~」
「ふふふ……捕まえた……」
「う~ん、う~ん」
ハナちゃんとユキちゃんが、大志にしがみついて幸せそうに寝ています。
しかし大志はなんだか、うなされているみたい。
ユキちゃんは首にしがみついて、ハナちゃんは左腕にしがみつきですね。
大変に微笑ましい光景なのですが、大志は寝返りができなくて寝づらいようです。
あと神輿と他の神様たちも、大志の頭にしがみついてますね。身動き取れない感じ。そりゃうなされますか。
ちなみにユキちゃんは心底幸せそう。良かったですね。でも耳としっぽは仕舞った方が良いですよ。
「う~ん、う~ん」
そしてちょっと離れたところから、別の人のうなされ声が。
確認してみると、黒猫ちゃんパジャマの魔女さんが、ドラゴン三人に巻き付かれています。
そのお姿は、まさに蛇に絡みつかれてピンチなネコちゃんみたい。捕食されそうです。
龍のみなさんは、寝ているときに近くの物に巻き付くクセがあるのかも。
なんにせよこちらもある意味、微笑ましい光景ですね。
さてさて、ここは平和で問題なしですね。
あとはついでに、水晶玉の様子を見てみましょう。現地はどうなっているかなっと。
……大志が設置した機械は、正常に動いておりますね。
でもやっぱり、光点はブレがあるみたい。
いまは誰も居ませんし、ちょっと水晶玉を詳しく調べてみましょうか。バレないバレない。そ~っと、そ~っと……。
あら、これ知ってる規格のやつですよ。まだ残ってたんですね。空間そのものを振動させるすごいやつですよ。
でも長年の使用で球体にひずみが出ていて、精度が悪くなっているみたい。重力があるから、どうしても避けられないやつです。経年劣化と言いましょうか。
分かってみればあっさりですね。
でもまあ、軽く調整くらいはできるかも?
せっかくだから、やっておいてあげましょう。ちょちょいのちょいっと。
ん~、まあそれなりにはなりましたか。これが限界かな?
ということで、今日は良い仕事をしました。
自分へのご褒美として、遺跡にある大志仕込のお酒を、飲み放題しちゃいましょう!
ついでに、大志の夢枕に立って、お供え物もお願いしちゃおうかな?
お供え物は、焼き肉がいいな~。焼き肉が~。お肉まだいくらか、余ってましたよね?
「う、う~ん、オバケ……焼き肉……?」
「ぐふ?」
通じたっぽいですね。それでは! 良いお肉がいいな~。
「うう……上カルビ……?」
「ぐふふ~」
それでお願いします。楽しみですね!
◇
翌朝、良く分からないが、上カルビ弁当をこさえて神棚にお供えした。
俺は何をやっているのだろう?
「タイシなにやってるです?」
「お供えかな?」
(ごうかだね~)
ともあれ、俺たちも朝食を食べよう。
「フフフ……朝起きると、隣にあの人が……」
「ユキ、そろそろ帰ってきなさい」
「はい」
様子のおかしいユキ先生も、魔女さんの帰還命令より正気に戻った。流石幼なじみである。
「卵焼きは良いわ~」
「ご飯がいくらでもたべられるね」
「最高だよ~」
ドラゴンさんたちも、うふうふとご飯を吸い込むように消費していく。
支配人さんの苦労が垣間見られる瞬間だった。
(あさは、こういうのがいいよね~)
(おいしいね!)
(……ほっとする)
神様たちも、ちくちくと卵焼きをつついている。のんびりした、朝の一時かな。
そうして朝食を摂ったあとは、お仕事開始だ。
『昨日夕方、三つの謎の飛行物体が目撃されました。その映像はネットで話題になっており――』
「親父、ちょっとテレビ使ってよい?」
「ああいいぞ」
のんびり朝の番組を見ていた親父にお願いし、ちょこっとテレビを借りる。
さてさて、記録結果を映し出し、様子を見てみようじゃないか。
「まあ、今のところ予想の範囲内ってところですね」
「前より、くっきりとは出ています」
データを時短で再生すると、想定の範囲内な結果にはなっている。
概ね順調かな? シカ角さんも、より鮮明な状態になっているのを確認して、にっこりだね。
「……ん? なんだこれ」
しかし、深夜にさしかかった時間帯で異変が起きた。
突然、水晶玉の反応が変わったのだ。
「一体、なにがおきたんだ?」
「どうしたのですか?」
突然の変化に驚いていると、ユキちゃんからお問い合わせだ。
発生した現象について、軽く説明しよう。
「水晶玉の反応が、この時間を境にいきなり変わったんだ」
「ほんとですね」
「何がおきたのかわかんないね。不思議だね」
「びっくりだよ~」
ドラゴンさんたちも記録映像を見て、驚いている。
なんでこうなったのか、良く分からない。
「……大志さん、なんかこれ……変な反応してますよ」
「え? ホントですか?」
「はい、ここなんですが」
首を傾げていると、魔女さんが感応板の記録を指さす。……たしかに、干渉を受けているように見える。
なんだろう、これは。
「モデリングしてみましょう。AIちゃんお願い」
「ピポ」
確認のため、感応板の発光をスパースモデリングで補完してみる。
すると――。
「……何かが外からやってきて、しばらくとどまった後……どっかに行きましたね」
「そう見えます……」
おわかり頂けただろうか。
そんなナレーションが頭をよぎる現象が、画面にリプレイで映し出される。
これはまさか……オバケなのでは。
「お、オバケがなんかしてった……」
「あややややや、こわいです~……」
オバケこわい……。ハナちゃんもそれを聞いて、ぷるぷるだ。
「まさに怪奇現象ですよこれ」
「不思議なことも、あるものですね」
なお、オバケ怖くない組のユキちゃんと魔女さんは、珍しい現象を見たって感じで興味津々である。つよい。
「ち、ちたまのオバケって、凄いのですね」
「こここ、この便利なやつをいじれるって、相当だね。すす凄腕だね」
「ああああ、ありがたいよ~」
ドラゴンさんたちは、オバケ怖いながらも関心している。ややつよい。
なんにせよ、変な怪奇現象はあったものの、水晶玉の探知精度がなぜか向上した。
オバケさんありがとう! 怖いけど。
「あれ? 神棚にあった焼き肉弁当、何処行った?」
「知らないわよ」
「食おうと思ってたんだけどなあ。というか、ここに置いたお供え物、いつの間にかなくなってるよな」
「あら? いつもあなたが食べてたと思ってたんだけど。ちがうの?」
「大志が食べてるんじゃないか?」
ぷるぷる震える俺たちの後ろでは、親父がお袋とそんな会話をしている。
あれ? そういや焼き肉弁当はどこ行った?
◇
通りすがりの謎のオバケが、水晶玉をなんとかしてくれた。
何を言っているか分からないが、俺も何をされたか良く分からない。
あら怪奇現象だわ。
「怪奇現象はさておき、なんか良くなりました」
「ふしぎですね~」
ともあれ良い結果が出たので、次の分析に進めるという物だ。
オバケありがとう! 怖いけど。
なおヤナさんとカナさんは、さっき親父に連れられて農作業器具見学に行ってしまった。社会見学って感じで、楽しんで貰いたい。
ではでは、解析作業始め!
「ということで精度が向上した結果、受信波との比較が可能となりました」
「比較ですか」
「球面調和関数を使って、球体上の変動を見るよ」
「むつかしいおはなしですね~」
ユキちゃんが話を促したので技法を説明すると、ハナちゃんが聞き流す体勢に入った。
まあかなり難しいお話になるので、めっちゃくちゃ端折ろう。
「いわゆる、球面上でのフーリエ変換みたいなものだよ。CGではライティングに使われていたりする技法かな。テイラー展開したやつにフーリエ級数をこうして、この級数を――」
「ささ、ハナちゃん一緒にお茶飲もうね」
「あい~」
数式を並べながらも色々端折ったんだけど、ユキちゃんも脱落した。
ここからが面白いんだけどなあ。
「まあ理論は良いか。とりあえず、計算してみよう」
「ピポポ」
魔女さんもドラゴンさんも固まっているため、これ以上の解説は断念だ。
とりあえず結果だけ見てみよう。
「ピポ」
「ということで、結果が出ました。なるほどと言った感じです」
「ほほう」
とりあえず時系列をアニメーション表示してみると、一目瞭然だ。
ユキちゃんもこの映像を見て、こっちに帰ってきてくれた。
「これが発信で、これが受信です」
「受信するとき、特定部位が赤くなってますね」
「おそらくこれが、おひい様のいらっしゃる方向と思われる」
感応板のデータを解析し、受信波の特定に成功した。
これは水晶玉の反応がくっきりしたから、比較できたことだ。
「つまりこの波形を解析すれば、ブレの原因も何かわかるかもです」
「……」
なおドラゴンさんたちは固まったままだ。構わず解析しちゃうからね。
「ということで、AIちゃんおねがいね」
「ピピポ」
特定できた受信波を、AIちゃんに変換してもらう。すると、変なのが出てきた。
「……大志さん、なんですかこれ」
「見たところ、チャープ信号がひずんでいるね」
「ですよね」
発信がチャープ信号なら、反射して返って来た信号もチャープである。しかし、元波形と比較してかなりひずんでいるのだ。
これは一体何を意味する?
「ポココ」
「え? ひずみに一定の法則があるの?」
「ポコ」
と考えていたところで新しいウィンドウが立ち上がり、そんな報告を受けた。
なんか普段のAIちゃんと音が違うけど、まあいいか。
「ピポ」
「ポココ」
そしてウィンドウ同士ピコポコやり出したが、こうかな、ああかな? と色々こねくりまわしているようだ。しばし待ってみよう。
そして十分後――。
「ピポポポ」
「ポコココ」
大画面テレビに結果が表示される。
そこには――やまびこのように反響しているとおぼしき、波形が映し出されていた。
「これって、反響してるっとこと?」
「ピポ」
「ポコ」
「そうなんだ」
AIちゃんの説明によると、返ってきた波形がどこかで乱反射されているらしい。
波形のエコーを見ると、発信したものも途中で乱反射し、おまけにおひい様からの反射波もどこかで乱反射しているぽい。
そりゃあ信号がぼけてしまうわけだ。ようするに、信号攪乱のせいでアーチファクトが出ているということか。
「そこの危ない大志さん、どうなっているのですか?」
「ぼくはあぶなくないよ」
そして俺とAIちゃんとで結論がまとまったところで、ユキちゃんから問い合わせが来た。
ナチュラルに危ない人認定されているが、安全安心大志君だからね。
「えっとね、どこか途中で、波動が攪乱されてしまうらしいよ」
「攪乱ですか」
「行きも帰りも乱反射する場所があって、ぐちゃぐちゃになるんだって。ほらこれ」
「……確かに、反響しているようには見えますね」
ユキちゃんも画面を見て、むむむっとなった。彼女が不思議がるのも、当然である。
この水晶玉から出る謎の波動は、なんでもすり抜けている。それが乱反射してしまうというのは、異常事態だ。
ここからおひい様までのどこかに、何か異常な場所があるということを意味する。
神秘パワーすらねじ曲げる、そんな不思議空間を、経由しているのだ。
「おひい様は、強力な結界内にいるとか?」
「その可能性はあります」
「どこかの領域に、ひきこもってるかもだよ~」
「なんかの術をつかってるかもね。おひい様だからね」
ドラゴンさんたちに聞いてみると、その可能性はあるらしい。おひい様は強力な術者みたいな話だから、自ら結界を作って引きこもっているかもだな。
だがそうすると、このままではいつまで経っても探知があいまいで、行き詰まることになる。難しい話だ。
「タイシ~、おちゃですよ~」
そうしてむむむと考え込んでいると、見かねたハナちゃんがお茶を淹れてくれた。
なんかもう、うちの台所自由に使ってらっしゃる。
「ハナちゃんありがと」
「タイシおなやみです?」
「ちょっと難しい問題が出ちゃってね」
「むつかしいやつですか~」
難しい問題があると言うと、ハナちゃんうへ~って顔になってエルフ耳がぺたんこだ。
むつかし顔ハナちゃんだね。癒やされた。
俺の癒やしのために、もっと難しい顔になってもらおうじゃないか。
「なんかね、不思議な空間のどっかに、おひい様がいるらしいんだ」
「ふしぎなとこです?」
「たぶん」
「あや~?」
今度はハナちゃん、右斜め上を見て、不思議顔を作ってくれた。エルフ耳は水平である。可愛らしいな。
「あやや~? むむむ~?」
むつかし顔と不思議顔を交互にするハナちゃんだけど、なんか一生懸命考えてくれているらしい。
でもくるくる表情が変わるのを見ていると、和んじゃうね。
「おひい様が結界に引きこもっている場合、これは難しいですね」
「本気出されると、全然みつけられないよ~」
「なんたっておひい様だからね」
ドラゴンさんたちも、おひい様の凄さを知っているのか、お困り顔だ。
本気を出されたら、探知不可能らしい。
「そこまでして、引きこもる必要があるかとは思いますが」
「おひい様ですから」
「さようで」
そんな引きこもるものなの? と聞くと、シカ角さん的にはそれで片付くらしい。
どうやらおひい様は、筋金入りのようだ。
というか前に聞いた話では、おいそれと人前には姿を現さなかったみたいだしな。あっちの権力者は、そういうものなのだろう。
(かんがえごとには、あまいもの~)
「あや、かみさまありがとです~」
その間にも、ハナちゃんはむむむっと考え中だ。神輿もお手伝いしたいのか、ケーキの差し入れをしている。
でもそれ、うちの冷蔵庫にあったやつじゃない? なんちゅうフリーダムな神様なのだ。
まあ来客用のやつだから良いのだけど。食べる時間が早まっただけという。
「ピポ?」
(およ?)
「ピポポ?」
(およよ?)
そんな神輿も、なんかAIちゃんのいるノートPCの前で、およおよ始めた。
電子知性体が珍しいのかな?
「あやや~?」
「ピポポポ?」
(およよよ?)
ハナちゃんはむむむ、AIちゃんピポピポ、神輿がおよおよする間も、時間は進んでいく。
なんだか八方塞がりになってしまった。
「探知精度を上げて、解析も順調、しかし反射の問題は解決できない……」
「これは難しいですね」
「さすがにこれ以上は、外部からなんとかするのは……」
「良い手がみつからないよ~」
「なんともならないね……」
ユキちゃんと魔女さん、それにドラゴンさんたちも、頭を抱えてしまう。神秘勢がここまで悩むのだから、俺としても手詰まりだ。
俺の手持ちの技術と知識でも、この辺が限界である。
ある程度の方角はわかるが、ヒートマップを見ると範囲は広く、特定は難しい。
「ふしぎなところ……ひきこもり……あや!」
そうして全員で悩んでいた時、ハナちゃんのエルフ耳がピコっとなった。
何か思いついたのかな?
「ハナちゃんどうしたの?」
「タイシタイシ~! ふしぎなところ、あるですよ~!」
「え!? ハナちゃん心当たりあるの!」
「あるです~!」
聞いてみると、ハナちゃんには心当たりがあるという。それは一体、何処なんだろう?
「それは、何処なの?」
「あのむらです~! ハナたちがくらしてる、あのばしょです~!」
「――!」
ハナちゃんたちが暮らす、あの村……そういえば、そうだ。
あの辺にある不思議領域は、知っている限りではそこしかない。
うちの隠し村は、確かに信濃町のあたりにある。
「タイシ、どうくつとか、かくにんしたです?」
「そう言えば……していない」
確かに言うとおり、ドラゴンさんたちと一緒に、洞窟の確認はまだしていない。
まさか……まさか?
「か、確認が必要だよね……」
「です~」
そうではないと思いたいが、確認はしなければならない。
他のみんなにも説明しよう。
「えっとですね……今の話を聞いておわかり頂けたと思いますが、該当する不思議空間はありますね」
「大志さんのところの……ですよね」
「確かに」
「言われてみれば」
「忘れてたよ~」
「まさにそれだね」
他メンバーにも問いかけたが、ユキちゃんと魔女さん、ドラゴンさんたちも「あっ!」て顔をしている。
灯台もと暗し、自分のことは自分ではわからない、そんな気分だ。
でもまだ確定じゃあない。確かめねば!
「い、急いで村に行きましょう」
「そうするです~!」
そんなわけで、慌てて準備しマイクロバスを出す。道中、なんかもう嫌な予感がしてしょうがない。
なんとも言えない緊張感が漂う車内をよそに、車は順調に道を進んでいく。
「到着しました、急いで洞窟まで向かいましょう」
「はい」
村に到着すると、自転車に乗ってすぐさま洞窟へと向かう。
「ば~うばう?」
「ギニャニャ?」
急いで走る俺たちの横を、なんかフクロオオカミとフクロイヌも併走だ。
どったの? て感じの顔でこちらを見ている。
「まあちょっとお急ぎかな、洞窟を確認するんだ」
「ばばう」
「ギニャ」
そうなんだ! 的な感じで納得してくれたのか、そのまま一緒に併走だね。
こうして、興味本位で着いてきた動物たちと一緒に、洞窟へ向かった。
そして――。
「……開いてますね」
「ですね」
「これが、例の洞窟ですか」
「ふだんは、閉じてるらしいね。初めて見たね」
「でっかいよ~」
果たして洞窟は――開いていた。
これが何を意味するのか、まだ分からない。
「便利なやつはどうですか?」
「特に変わらずです」
念のため確認してみたが、水晶玉の反応はいつも通りのようだ。
だがもし、この洞窟が波動を攪乱していたら……。
「ど、洞窟を抜けてみましょうか」
「ですね……」
「あやや~……」
俺とユキちゃんや、ハナちゃんは凄く気が重い。なぜなら、このパターンは経験があるからだ。
――そう、ドワーフちゃんたちの、あの件である。
避難が終わっていない子たちが大勢いたため、洞窟が閉じなかった、あれだ。
「まさか……」
「……ですね」
「あや~」
洞窟を進むごとに、気がどんどん重くなっていく。しかし、確かめなければならない。
ドラゴンさんたちを先頭に、じりじりと進んでいく。
そして、光が見えてきた。
「あ! もうすぐ出口ですね!」
「何かこの匂い、覚えがあるね!」
「懐かしい匂いだよ~」
先頭のドラゴンさんたちの会話を聞くと、もうなんかアレだ。
この先に待ち構えている世界の想像が、ついてしまった。
「出たー!」
「間違いないね! 私たちの世界だね!」
「ただいまだよ~!」
案の定、洞窟を抜けた先は――ドラゴンさんたちの世界だった。
酸化鉄のせいだろうか、赤茶けた大地が広がり、真夏のような暑さ。
上を見上げると青空が広がっており、晴天だ。現在は昼間かと思われる。
地平線の上に見える大きな星は……エルフィンだろうか。
色々検証したいところだけど、まず真っ先に確認しなければならないことがある。
「……水晶玉の確認を、しましょう……」
「あ、はい。みなさんどうぞ」
シカ角さんにお願いし、水晶玉を見せて貰う。
そこには――。
「……光点のブレは、消えましたね」
「くっきりはっきりしてます……」
ブレの消えた、はっきりした光点が映し出されていた。
こちらで施した高感度改造も相まって、とても鮮明な結果が出ている。
しかし、問題があった。
「これ、光点が中心から遠ざかったみたいですが」
「結構離れた位置に、いらっしゃるみたいだね」
「どういうことだよ~」
そう、いままで中心にあった光点が、離れた位置にすっ飛んだのだ。
つまり、本当のおひい様の位置は、そこなのだと推測できる。
「もしかしてですが、おひい様は……ずっとこの世界に、留まっていたのではと」
「え……?」
「まさかだよ~……」
「……」
そう伝えると、ドラゴンさんたちは、固まってしまった。
てっきりヤマトに避難して、元気に暮らしていると思っていたのだ。
それがまさかの――現地残留の可能性大、である。
「あの極寒の避難から、もう二年近く経っているのですよ……」
「おひい様……逃げられなかった……?」
「じゃあじゃあ、この反応は何だよ~!」
あまりの結果に、三人はパニックになっている。
もしおひい様の避難が失敗していた場合、待ち受けるのは――と言うことだからだ。
だが希望はある。
「そこの彼女の言うとおり、光点はしっかりしているのですよね。つまり、元気ということではないかと」
「それは……そうですが」
「とにかく探してみましょう。きっと元気にしてますよ」
「そうですね!」
この辺は、お隣の森のおひい様を信じてみようと思うのだ。
光が見えている間は、元気なのだという話なのだから。
青ざめていたシカ角さんも、表情が明るくなった。お隣のおひい様も、信頼しているのだろうね。俺もそれに賭けるよ。
「でも、ちょっと遠いかもだよ~」
「歩きで行くのは、準備がひつようだね」
「お水が必要だわ。けっこうたくさん」
しかし今すぐ、という訳にはいかないようだ。ヒツジ角さんによると、ちょっと遠いらしい。
ヤギ角ちゃんいわく準備が必要で、シカ角さんは水の心配をしている。ようするに、途中で水を調達出来ない感じか。
だがそれらをクリアすれば、行けるって事だ。そしてちょうど良いことに、足がある。
そう、今はガレージの肥やしになっている、あのランクルだ!
「タイシ、なんかよいやりかた、あるです?」
ハナちゃんが俺の顔を見たのか、きたいのまなざしで見上げてきた。
お答えしましょう!
「あるんだなこれが」
「――くわしく教えて下さい」
「いい手があるらしいね。知りたいね」
「どんなかんじだよ~?」
そしてあると言ったら、かぶり気味にドラゴンさんたちが迫ってくる。
そうだよね、一番知りたいのは彼女たちだよね。
「ほら、車庫にあったらランクルを使えば、さくっと行けるかなと。荒野を走るために、多少の装備は必要ですけど」
「あのデカいお車ですか、確かにいけそうです」
「そういえば、あったね」
「ゴツいやつだったよ~」
移動手段があると言うことで、ドラゴンさんたちの顔がぱあっと明るくなった。
おひい様に近づいたのだから、当然だ。
「では、準備をしましょう!」
「「「おー!」」」
こうして、とうとうおひい様にぐっと近づく目処が立った。
あとは車や食糧を準備して、向かうだけだ。
「もりあがってるところごめんなさいですけど、そういえばおとうさんとおかあさん、どうしたです?」
「あ! 家に忘れてきた!」
ハナちゃんのご両親を、家に忘れて来てしまった。
回収しないと!
これにて今章は終了となります。お付き合い頂きありがとうございました。
オバケやらUFOやら観測されておりますが、それはともかくようやくおひい様の本当の居場所がわかったかも?
なんだか大事になってきましたが、ドタバタ騒ぎは始まったばかり!
そんなわけで、次章も引き続きごひいきお願い致します。