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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第二十五章 この世界のどこかに
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第十四話 ほんとはずっと、そこにいた


 ここはとあるおうちの、とある客間。

 みなさんぐっすりおねむ……とは言えない感じ。


「ぐふふ~」

「ふふふ……捕まえた……」

「う~ん、う~ん」


 ハナちゃんとユキちゃんが、大志にしがみついて幸せそうに寝ています。

 しかし大志はなんだか、うなされているみたい。

 ユキちゃんは首にしがみついて、ハナちゃんは左腕にしがみつきですね。

 大変に微笑ましい光景なのですが、大志は寝返りができなくて寝づらいようです。

 あと神輿と他の神様たちも、大志の頭にしがみついてますね。身動き取れない感じ。そりゃうなされますか。

 ちなみにユキちゃんは心底幸せそう。良かったですね。でも耳としっぽは仕舞った方が良いですよ。


「う~ん、う~ん」


 そしてちょっと離れたところから、別の人のうなされ声が。

 確認してみると、黒猫ちゃんパジャマの魔女さんが、ドラゴン三人に巻き付かれています。

 そのお姿は、まさに蛇に絡みつかれてピンチなネコちゃんみたい。捕食されそうです。

 龍のみなさんは、寝ているときに近くの物に巻き付くクセがあるのかも。

 なんにせよこちらもある意味、微笑ましい光景ですね。


 さてさて、ここは平和で問題なしですね。

 あとはついでに、水晶玉の様子を見てみましょう。現地はどうなっているかなっと。

 ……大志が設置した機械は、正常に動いておりますね。

 でもやっぱり、光点はブレがあるみたい。


 いまは誰も居ませんし、ちょっと水晶玉を詳しく調べてみましょうか。バレないバレない。そ~っと、そ~っと……。

 あら、これ知ってる規格のやつですよ。まだ残ってたんですね。空間そのものを振動させるすごいやつですよ。

 でも長年の使用で球体にひずみが出ていて、精度が悪くなっているみたい。重力があるから、どうしても避けられないやつです。経年劣化と言いましょうか。

 分かってみればあっさりですね。


 でもまあ、軽く調整くらいはできるかも?

 せっかくだから、やっておいてあげましょう。ちょちょいのちょいっと。

 ん~、まあそれなりにはなりましたか。これが限界かな?


 ということで、今日は良い仕事をしました。

 自分へのご褒美として、遺跡にある大志仕込のお酒を、飲み放題しちゃいましょう!

 ついでに、大志の夢枕に立って、お供え物もお願いしちゃおうかな?

 お供え物は、焼き肉がいいな~。焼き肉が~。お肉まだいくらか、余ってましたよね?


「う、う~ん、オバケ……焼き肉……?」

「ぐふ?」


 通じたっぽいですね。それでは! 良いお肉がいいな~。


「うう……上カルビ……?」

「ぐふふ~」


 それでお願いします。楽しみですね!



 ◇



 翌朝、良く分からないが、上カルビ弁当をこさえて神棚にお供えした。

 俺は何をやっているのだろう?


「タイシなにやってるです?」

「お供えかな?」

(ごうかだね~)


 ともあれ、俺たちも朝食を食べよう。


「フフフ……朝起きると、隣にあの人が……」

「ユキ、そろそろ帰ってきなさい」

「はい」


 様子のおかしいユキ先生も、魔女さんの帰還命令より正気に戻った。流石幼なじみである。


「卵焼きは良いわ~」

「ご飯がいくらでもたべられるね」

「最高だよ~」


 ドラゴンさんたちも、うふうふとご飯を吸い込むように消費していく。

 支配人さんの苦労が垣間見られる瞬間だった。


(あさは、こういうのがいいよね~)

(おいしいね!)

(……ほっとする)


 神様たちも、ちくちくと卵焼きをつついている。のんびりした、朝の一時かな。

 そうして朝食を摂ったあとは、お仕事開始だ。


『昨日夕方、三つの謎の飛行物体が目撃されました。その映像はネットで話題になっており――』

「親父、ちょっとテレビ使ってよい?」

「ああいいぞ」


 のんびり朝の番組を見ていた親父にお願いし、ちょこっとテレビを借りる。

 さてさて、記録結果を映し出し、様子を見てみようじゃないか。


「まあ、今のところ予想の範囲内ってところですね」

「前より、くっきりとは出ています」


 データを時短で再生すると、想定の範囲内な結果にはなっている。

 概ね順調かな? シカ角さんも、より鮮明な状態になっているのを確認して、にっこりだね。


「……ん? なんだこれ」


 しかし、深夜にさしかかった時間帯で異変が起きた。

 突然、水晶玉の反応が変わったのだ。


「一体、なにがおきたんだ?」

「どうしたのですか?」


 突然の変化に驚いていると、ユキちゃんからお問い合わせだ。

 発生した現象について、軽く説明しよう。


「水晶玉の反応が、この時間を境にいきなり変わったんだ」

「ほんとですね」

「何がおきたのかわかんないね。不思議だね」

「びっくりだよ~」


 ドラゴンさんたちも記録映像を見て、驚いている。

 なんでこうなったのか、良く分からない。


「……大志さん、なんかこれ……変な反応してますよ」

「え? ホントですか?」

「はい、ここなんですが」


 首を傾げていると、魔女さんが感応板の記録を指さす。……たしかに、干渉を受けているように見える。

 なんだろう、これは。


「モデリングしてみましょう。AIちゃんお願い」

「ピポ」


 確認のため、感応板の発光をスパースモデリングで補完してみる。

 すると――。


「……何かが外からやってきて、しばらくとどまった後……どっかに行きましたね」

「そう見えます……」


 おわかり頂けただろうか。

 そんなナレーションが頭をよぎる現象が、画面にリプレイで映し出される。

 これはまさか……オバケなのでは。


「お、オバケがなんかしてった……」

「あややややや、こわいです~……」


 オバケこわい……。ハナちゃんもそれを聞いて、ぷるぷるだ。


「まさに怪奇現象ですよこれ」

「不思議なことも、あるものですね」


 なお、オバケ怖くない組のユキちゃんと魔女さんは、珍しい現象を見たって感じで興味津々である。つよい。


「ち、ちたまのオバケって、凄いのですね」

「こここ、この便利なやつをいじれるって、相当だね。すす凄腕だね」

「ああああ、ありがたいよ~」


 ドラゴンさんたちは、オバケ怖いながらも関心している。ややつよい。

 なんにせよ、変な怪奇現象はあったものの、水晶玉の探知精度がなぜか向上した。

 オバケさんありがとう! 怖いけど。


「あれ? 神棚にあった焼き肉弁当、何処行った?」

「知らないわよ」

「食おうと思ってたんだけどなあ。というか、ここに置いたお供え物、いつの間にかなくなってるよな」

「あら? いつもあなたが食べてたと思ってたんだけど。ちがうの?」

「大志が食べてるんじゃないか?」


 ぷるぷる震える俺たちの後ろでは、親父がお袋とそんな会話をしている。

 あれ? そういや焼き肉弁当はどこ行った?



 ◇



 通りすがりの謎のオバケが、水晶玉をなんとかしてくれた。

 何を言っているか分からないが、俺も何をされたか良く分からない。

 あら怪奇現象だわ。


「怪奇現象はさておき、なんか良くなりました」

「ふしぎですね~」


 ともあれ良い結果が出たので、次の分析に進めるという物だ。

 オバケありがとう! 怖いけど。

 なおヤナさんとカナさんは、さっき親父に連れられて農作業器具見学に行ってしまった。社会見学って感じで、楽しんで貰いたい。

 ではでは、解析作業始め!


「ということで精度が向上した結果、受信波との比較が可能となりました」

「比較ですか」

「球面調和関数を使って、球体上の変動を見るよ」

「むつかしいおはなしですね~」


 ユキちゃんが話を促したので技法を説明すると、ハナちゃんが聞き流す体勢に入った。

 まあかなり難しいお話になるので、めっちゃくちゃ端折ろう。


「いわゆる、球面上でのフーリエ変換みたいなものだよ。CGではライティングに使われていたりする技法かな。テイラー展開したやつにフーリエ級数をこうして、この級数を――」

「ささ、ハナちゃん一緒にお茶飲もうね」

「あい~」


 数式を並べながらも色々端折ったんだけど、ユキちゃんも脱落した。

 ここからが面白いんだけどなあ。


「まあ理論は良いか。とりあえず、計算してみよう」

「ピポポ」


 魔女さんもドラゴンさんも固まっているため、これ以上の解説は断念だ。

 とりあえず結果だけ見てみよう。


「ピポ」

「ということで、結果が出ました。なるほどと言った感じです」

「ほほう」


 とりあえず時系列をアニメーション表示してみると、一目瞭然だ。

 ユキちゃんもこの映像を見て、こっちに帰ってきてくれた。


「これが発信で、これが受信です」

「受信するとき、特定部位が赤くなってますね」

「おそらくこれが、おひい様のいらっしゃる方向と思われる」


 感応板のデータを解析し、受信波の特定に成功した。

 これは水晶玉の反応がくっきりしたから、比較できたことだ。


「つまりこの波形を解析すれば、ブレの原因も何かわかるかもです」

「……」


 なおドラゴンさんたちは固まったままだ。構わず解析しちゃうからね。


「ということで、AIちゃんおねがいね」

「ピピポ」


 特定できた受信波を、AIちゃんに変換してもらう。すると、変なのが出てきた。


「……大志さん、なんですかこれ」

「見たところ、チャープ信号がひずんでいるね」

「ですよね」


 発信がチャープ信号なら、反射して返って来た信号もチャープである。しかし、元波形と比較してかなりひずんでいるのだ。

 これは一体何を意味する?


「ポココ」

「え? ひずみに一定の法則があるの?」

「ポコ」


 と考えていたところで新しいウィンドウが立ち上がり、そんな報告を受けた。

 なんか普段のAIちゃんと音が違うけど、まあいいか。


「ピポ」

「ポココ」


 そしてウィンドウ同士ピコポコやり出したが、こうかな、ああかな? と色々こねくりまわしているようだ。しばし待ってみよう。

 そして十分後――。


「ピポポポ」

「ポコココ」


 大画面テレビに結果が表示される。

 そこには――やまびこのように反響しているとおぼしき、波形が映し出されていた。


「これって、反響してるっとこと?」

「ピポ」

「ポコ」

「そうなんだ」


 AIちゃんの説明によると、返ってきた波形がどこかで乱反射されているらしい。

 波形のエコーを見ると、発信したものも途中で乱反射し、おまけにおひい様からの反射波もどこかで乱反射しているぽい。

 そりゃあ信号がぼけてしまうわけだ。ようするに、信号攪乱のせいでアーチファクトが出ているということか。


「そこの危ない大志さん、どうなっているのですか?」

「ぼくはあぶなくないよ」


 そして俺とAIちゃんとで結論がまとまったところで、ユキちゃんから問い合わせが来た。

 ナチュラルに危ない人認定されているが、安全安心大志君だからね。


「えっとね、どこか途中で、波動が攪乱されてしまうらしいよ」

「攪乱ですか」

「行きも帰りも乱反射する場所があって、ぐちゃぐちゃになるんだって。ほらこれ」

「……確かに、反響しているようには見えますね」


 ユキちゃんも画面を見て、むむむっとなった。彼女が不思議がるのも、当然である。

 この水晶玉から出る謎の波動は、なんでもすり抜けている。それが乱反射してしまうというのは、異常事態だ。

 ここからおひい様までのどこかに、何か異常な場所があるということを意味する。

 神秘パワーすらねじ曲げる、そんな不思議空間を、経由しているのだ。


「おひい様は、強力な結界内にいるとか?」

「その可能性はあります」

「どこかの領域に、ひきこもってるかもだよ~」

「なんかの術をつかってるかもね。おひい様だからね」


 ドラゴンさんたちに聞いてみると、その可能性はあるらしい。おひい様は強力な術者みたいな話だから、自ら結界を作って引きこもっているかもだな。

 だがそうすると、このままではいつまで経っても探知があいまいで、行き詰まることになる。難しい話だ。


「タイシ~、おちゃですよ~」


 そうしてむむむと考え込んでいると、見かねたハナちゃんがお茶を淹れてくれた。

 なんかもう、うちの台所自由に使ってらっしゃる。


「ハナちゃんありがと」

「タイシおなやみです?」

「ちょっと難しい問題が出ちゃってね」

「むつかしいやつですか~」


 難しい問題があると言うと、ハナちゃんうへ~って顔になってエルフ耳がぺたんこだ。

 むつかし顔ハナちゃんだね。癒やされた。

 俺の癒やしのために、もっと難しい顔になってもらおうじゃないか。


「なんかね、不思議な空間のどっかに、おひい様がいるらしいんだ」

「ふしぎなとこです?」

「たぶん」

「あや~?」


 今度はハナちゃん、右斜め上を見て、不思議顔を作ってくれた。エルフ耳は水平である。可愛らしいな。


「あやや~? むむむ~?」


 むつかし顔と不思議顔を交互にするハナちゃんだけど、なんか一生懸命考えてくれているらしい。

 でもくるくる表情が変わるのを見ていると、和んじゃうね。


「おひい様が結界に引きこもっている場合、これは難しいですね」

「本気出されると、全然みつけられないよ~」

「なんたっておひい様だからね」


 ドラゴンさんたちも、おひい様の凄さを知っているのか、お困り顔だ。

 本気を出されたら、探知不可能らしい。


「そこまでして、引きこもる必要があるかとは思いますが」

「おひい様ですから」

「さようで」


 そんな引きこもるものなの? と聞くと、シカ角さん的にはそれで片付くらしい。

 どうやらおひい様は、筋金入りのようだ。

 というか前に聞いた話では、おいそれと人前には姿を現さなかったみたいだしな。あっちの権力者は、そういうものなのだろう。


(かんがえごとには、あまいもの~)

「あや、かみさまありがとです~」


 その間にも、ハナちゃんはむむむっと考え中だ。神輿もお手伝いしたいのか、ケーキの差し入れをしている。

 でもそれ、うちの冷蔵庫にあったやつじゃない? なんちゅうフリーダムな神様なのだ。

 まあ来客用のやつだから良いのだけど。食べる時間が早まっただけという。


「ピポ?」

(およ?)

「ピポポ?」

(およよ?)


 そんな神輿も、なんかAIちゃんのいるノートPCの前で、およおよ始めた。

 電子知性体が珍しいのかな?


「あやや~?」

「ピポポポ?」

(およよよ?)


 ハナちゃんはむむむ、AIちゃんピポピポ、神輿がおよおよする間も、時間は進んでいく。

 なんだか八方塞がりになってしまった。


「探知精度を上げて、解析も順調、しかし反射の問題は解決できない……」

「これは難しいですね」

「さすがにこれ以上は、外部からなんとかするのは……」

「良い手がみつからないよ~」

「なんともならないね……」


 ユキちゃんと魔女さん、それにドラゴンさんたちも、頭を抱えてしまう。神秘勢がここまで悩むのだから、俺としても手詰まりだ。

 俺の手持ちの技術と知識でも、この辺が限界である。

 ある程度の方角はわかるが、ヒートマップを見ると範囲は広く、特定は難しい。


「ふしぎなところ……ひきこもり……あや!」


 そうして全員で悩んでいた時、ハナちゃんのエルフ耳がピコっとなった。

 何か思いついたのかな?


「ハナちゃんどうしたの?」

「タイシタイシ~! ふしぎなところ、あるですよ~!」

「え!? ハナちゃん心当たりあるの!」

「あるです~!」


 聞いてみると、ハナちゃんには心当たりがあるという。それは一体、何処なんだろう?


「それは、何処なの?」

「あのむらです~! ハナたちがくらしてる、あのばしょです~!」

「――!」


 ハナちゃんたちが暮らす、あの村……そういえば、そうだ。

 あの辺にある不思議領域は、知っている限りではそこしかない。

 うちの隠し村は、確かに信濃町のあたりにある。


「タイシ、どうくつとか、かくにんしたです?」

「そう言えば……していない」


 確かに言うとおり、ドラゴンさんたちと一緒に、洞窟の確認はまだしていない。

 まさか……まさか?


「か、確認が必要だよね……」

「です~」


 そうではないと思いたいが、確認はしなければならない。

 他のみんなにも説明しよう。


「えっとですね……今の話を聞いておわかり頂けたと思いますが、該当する不思議空間はありますね」

「大志さんのところの……ですよね」

「確かに」

「言われてみれば」

「忘れてたよ~」

「まさにそれだね」


 他メンバーにも問いかけたが、ユキちゃんと魔女さん、ドラゴンさんたちも「あっ!」て顔をしている。

 灯台もと暗し、自分のことは自分ではわからない、そんな気分だ。

 でもまだ確定じゃあない。確かめねば!


「い、急いで村に行きましょう」

「そうするです~!」


 そんなわけで、慌てて準備しマイクロバスを出す。道中、なんかもう嫌な予感がしてしょうがない。

 なんとも言えない緊張感が漂う車内をよそに、車は順調に道を進んでいく。


「到着しました、急いで洞窟まで向かいましょう」

「はい」


 村に到着すると、自転車に乗ってすぐさま洞窟へと向かう。


「ば~うばう?」

「ギニャニャ?」


 急いで走る俺たちの横を、なんかフクロオオカミとフクロイヌも併走だ。

 どったの? て感じの顔でこちらを見ている。


「まあちょっとお急ぎかな、洞窟を確認するんだ」

「ばばう」

「ギニャ」


 そうなんだ! 的な感じで納得してくれたのか、そのまま一緒に併走だね。

 こうして、興味本位で着いてきた動物たちと一緒に、洞窟へ向かった。

 そして――。


「……開いてますね」

「ですね」

「これが、例の洞窟ですか」

「ふだんは、閉じてるらしいね。初めて見たね」

「でっかいよ~」


 果たして洞窟は――開いていた。

 これが何を意味するのか、まだ分からない。


「便利なやつはどうですか?」

「特に変わらずです」


 念のため確認してみたが、水晶玉の反応はいつも通りのようだ。

 だがもし、この洞窟が波動を攪乱していたら……。


「ど、洞窟を抜けてみましょうか」

「ですね……」

「あやや~……」


 俺とユキちゃんや、ハナちゃんは凄く気が重い。なぜなら、このパターンは経験があるからだ。

 ――そう、ドワーフちゃんたちの、あの件である。

 避難が終わっていない子たちが大勢いたため、洞窟が閉じなかった、あれだ。


「まさか……」

「……ですね」

「あや~」


 洞窟を進むごとに、気がどんどん重くなっていく。しかし、確かめなければならない。

 ドラゴンさんたちを先頭に、じりじりと進んでいく。

 そして、光が見えてきた。


「あ! もうすぐ出口ですね!」

「何かこの匂い、覚えがあるね!」

「懐かしい匂いだよ~」


 先頭のドラゴンさんたちの会話を聞くと、もうなんかアレだ。

 この先に待ち構えている世界の想像が、ついてしまった。


「出たー!」

「間違いないね! 私たちの世界だね!」

「ただいまだよ~!」


 案の定、洞窟を抜けた先は――ドラゴンさんたちの世界だった。

 酸化鉄のせいだろうか、赤茶けた大地が広がり、真夏のような暑さ。

 上を見上げると青空が広がっており、晴天だ。現在は昼間かと思われる。

 地平線の上に見える大きな星は……エルフィンだろうか。

 色々検証したいところだけど、まず真っ先に確認しなければならないことがある。


「……水晶玉の確認を、しましょう……」

「あ、はい。みなさんどうぞ」


 シカ角さんにお願いし、水晶玉を見せて貰う。

 そこには――。


「……光点のブレは、消えましたね」

「くっきりはっきりしてます……」


 ブレの消えた、はっきりした光点が映し出されていた。

 こちらで施した高感度改造も相まって、とても鮮明な結果が出ている。

 しかし、問題があった。


「これ、光点が中心から遠ざかったみたいですが」

「結構離れた位置に、いらっしゃるみたいだね」

「どういうことだよ~」


 そう、いままで中心にあった光点が、離れた位置にすっ飛んだのだ。

 つまり、本当のおひい様の位置は、そこなのだと推測できる。


「もしかしてですが、おひい様は……ずっとこの世界に、留まっていたのではと」

「え……?」

「まさかだよ~……」

「……」


 そう伝えると、ドラゴンさんたちは、固まってしまった。

 てっきりヤマトに避難して、元気に暮らしていると思っていたのだ。

 それがまさかの――現地残留の可能性大、である。


「あの極寒の避難から、もう二年近く経っているのですよ……」

「おひい様……逃げられなかった……?」

「じゃあじゃあ、この反応は何だよ~!」


 あまりの結果に、三人はパニックになっている。

 もしおひい様の避難が失敗していた場合、待ち受けるのは――と言うことだからだ。

 だが希望はある。


「そこの彼女の言うとおり、光点はしっかりしているのですよね。つまり、元気ということではないかと」

「それは……そうですが」

「とにかく探してみましょう。きっと元気にしてますよ」

「そうですね!」


 この辺は、お隣の森のおひい様を信じてみようと思うのだ。

 光が見えている間は、元気なのだという話なのだから。

 青ざめていたシカ角さんも、表情が明るくなった。お隣のおひい様も、信頼しているのだろうね。俺もそれに賭けるよ。


「でも、ちょっと遠いかもだよ~」

「歩きで行くのは、準備がひつようだね」

「お水が必要だわ。けっこうたくさん」


 しかし今すぐ、という訳にはいかないようだ。ヒツジ角さんによると、ちょっと遠いらしい。

 ヤギ角ちゃんいわく準備が必要で、シカ角さんは水の心配をしている。ようするに、途中で水を調達出来ない感じか。

 だがそれらをクリアすれば、行けるって事だ。そしてちょうど良いことに、足がある。

 そう、今はガレージの肥やしになっている、あのランクルだ!


「タイシ、なんかよいやりかた、あるです?」


 ハナちゃんが俺の顔を見たのか、きたいのまなざしで見上げてきた。

 お答えしましょう!


「あるんだなこれが」

「――くわしく教えて下さい」

「いい手があるらしいね。知りたいね」

「どんなかんじだよ~?」


 そしてあると言ったら、かぶり気味にドラゴンさんたちが迫ってくる。

 そうだよね、一番知りたいのは彼女たちだよね。


「ほら、車庫にあったらランクルを使えば、さくっと行けるかなと。荒野を走るために、多少の装備は必要ですけど」

「あのデカいお車ですか、確かにいけそうです」

「そういえば、あったね」

「ゴツいやつだったよ~」


 移動手段があると言うことで、ドラゴンさんたちの顔がぱあっと明るくなった。

 おひい様に近づいたのだから、当然だ。


「では、準備をしましょう!」

「「「おー!」」」


 こうして、とうとうおひい様にぐっと近づく目処が立った。

 あとは車や食糧を準備して、向かうだけだ。


「もりあがってるところごめんなさいですけど、そういえばおとうさんとおかあさん、どうしたです?」

「あ! 家に忘れてきた!」


 ハナちゃんのご両親を、家に忘れて来てしまった。

 回収しないと!


これにて今章は終了となります。お付き合い頂きありがとうございました。

オバケやらUFOやら観測されておりますが、それはともかくようやくおひい様の本当の居場所がわかったかも?

なんだか大事になってきましたが、ドタバタ騒ぎは始まったばかり!

そんなわけで、次章も引き続きごひいきお願い致します。

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