第十二話 タイシのおうちです~
「ほらほら、かえるさ~」
「いったんむこうで、おしごとのまとめするさ~」
「あわわきゃ~ん!」
五月の中頃に差し掛かる頃となり、ドワーフィンがそろそろ夜の時期に突入する。
みんなが寝ちゃう前に、偉い人ちゃんたちはいったん帰還して、色々まとめるらしい。
まあ夜の時期になったら暇になるそうなので、また遊びに来て下さいだね。
そんな感じで、偉い人ちゃんが引きずられながら帰って行った。
「えらいひとは、たいへんです~」
「恒例行事になりつつあるね」
とはいえそんなに何日も拘束されるような、たくさんなお仕事量ではないらしい。
数日もすれば、元気に遊びに来てくれるわけで。こまめに連絡は取り合っておこう。
偉い人ちゃん、お仕事がんばってね。
「う~ん、もうちょっと細かく出来るかな?」
「こうかな? こうかな?」
「そうそう! 見事な曲線だわ!」
「ほめられちゃった! ほめられちゃった!」
偉い人ちゃんが連行され、集会場が少し静かになってしまった。
ただ今日は、それでも賑やかである。魔女さんとユキちゃんが、集会場にて魔術回路をあれこれしているのだ。
さらに妖精さんが参加し、ヒヒイロカネの配線を曲げたりしてお手伝いしており、なんか盛り上がっている。
「~」
「――」
「ありがと! ありがと!」
「チョコだね! チョコ!」
「とまんない~」
妖精さんたちのお仕事を応援するため、オバケたちもせっせとお菓子を貢いでいたりと、集会場は活気があるね。
でもそれでウェイトが増加するんだなあ。
「みんな、おちゃですよ~」
「あらハナちゃん、ありがと」
「小さいのに、偉いわね」
「うふ~」
ハナちゃんも、ちまちまとお茶を淹れたりして、お手伝いだね。
そんなみんなの支援を受けながら、感度増幅のための試行錯誤が続く。
「これ以上増幅すると、爆発するわ」
「やめとこうね。危ないね」
「あとちょっとなんだよ~」
ある日はエステ営業終了後に、ドラゴン三人娘が泊まり込みでがんばった。
まあ、爆発するのはあとちょっとでは無いと思うけど。安全第一でね。
「しっぱいしたやつ~……」
「あらー! これは良い素材!」
ある日は、イトカワちゃんの失敗素材が、なんか良い感じになったり。
「アダマンとか、つかえるかもさ~」
「ためしてみてほしいさ~」
「プラチナより感度が上がるかも!」
またある日は、ドワーフちゃんたちから、高純度アダマンの差し入れがあったり。
何日もかけて、じわりじわりと改善していった。
そして――。
「出来ましたあああああ!」
「多分コレで、いいはずだよ~!」
「試してみようね!」
とうとう、試作品が出来上がった!
水晶玉に貼り付けて、謎パワーの出力と受信を改善するしくみだ。
「結局最後は、大志さんのアドバイスが効きましたね」
「まあ基本的に、信号処理だからね。出力増強と波長変換でなんとかなるかなと」
変に波長をいじると、水晶玉の規格では結果がおかしくなってしまった。
ならば水晶玉には、通常の信号を返してやれば良い。
発信した信号は外付けの仕組みで増幅と変調を行い、出力は八倍、振幅を四分の一にする。これで高解像度化達成だ。そして受信時は、その振幅を元に戻してやれば良い。なんかこれで上手くいった。
信号出力を増幅してあるのでノイズが心配だったが、今のところ大丈夫そうだ。
「やはり、専門教育を受けていると違いますね」
「た、大志さん……これも研究所で参考にしても良いですか?」
ユキちゃんがふむふむと水晶玉を眺め、魔女さんは技法を参考にしたいようだ。
魔術を研究すると同時に、応用科学の学習は厳しいよね。そんな時間が無いという。
俺も神秘側の技術は基礎程度しか知らないので、お互い様ってところか。
ここは魔女さん業界の発展のために、一肌脱ごうじゃないか。
「ではでは、また論文にしておきます」
「ありがとうございます! ありがとうございます! 前回の論文は、研究所で大変役立っておりまして。みんなも喜びます」
レポートにまとめると回答したら、魔女さんめっちゃ喜んだ。
前に出したやつ、なんか役立ってたんだ。良かった良かった。
「ともあれ、これで一応は出来たのですよね」
「ですね。くっきりはっきりしました。しましたが……」
それはともかく、一応は出来たと言えそうだ。
ただ水晶玉を見て、シカ角さんが眉をひそめる。言うとおり、確かにくっきりはっきりしてはいるのだが……。
「……光点が二つ、ありますね」
「そうなんですよ……」
「なんぞこれだよ~」
「意味分かんないね」
そう、今までぼやけていた光点のブレが無くなったが、今度は二つ出てきたのだ。
しかも片方の光点が、出たり消えたりする。
なんぞこれ、意味分かんない。確かにその通りだ。
「ただこれ、水晶玉を大きく動かすとこうなります」
そう言いながらシカ角さんが、集会場から出て行った。
こうなりますと言われても、持って行かれたら分からないわけだが。
「こんな感じで、光点が震えたりします」
すぐに帰ってきたけど、どうやら光点がぷるぷるするようだ。
動かすと変化が出ると言うことは、……ドップラー効果かな?
信号処理ではこいつの扱いに苦労する。感度を上げてシビアにしてあるから、なおさらか。
まあこの辺は、定期的に水晶玉を静止させれば問題なかろう。
「動かすと出てしまうのであれば、動かさない状態を正としましょうか」
「ひとまずは、そうですね」
とりあえずの対処法を提示して、その場しのぎだね。
後はまた精密観測して、分析をしてみよう。
「ではでは、また私の家にてデータ採りしましょう」
「お世話になります」
色々怪しいところはあるものの、検証してみるしかない。
そんなわけで、明日自宅でデータ採取でもしましょうかねと。
「……タイシタイシ、みんなは、あしたタイシのおうちにいくです?」
という話をしていたら、ハナちゃんがいつの間にか隣に座っていた。……気配をまったく感じなかったのだが。
まあ、質問には回答しておこう。
「そうだね。自分の家の設備を使って、みんなでお仕事になるかな」
「あや~」
そしてハナちゃん、なんだかきたいのまなざしを俺に向けるわけだが。すっごいおねだり光線が出ておりますな。
……これはもしかして、ハナちゃんも俺の家に来たいのかな?
「ハナちゃんも、自分のおうちに来てみる?」
「あいー! タイシのおうちにいくです~!」
空気を読んでお誘いしてみたら、合っていたようだ。若干食い気味にお返事だよ。ハナちゃん俺の家に来たかったのね。
……そういや、今まで一度もご招待したことがなかった。ちょうど良い機会だね。
「わーい! タイシのおうちにあそびにいくです~!」
「ではでは、僕も」
「せっかくだから、わたしも」
ハナちゃんがキャッキャとはしゃぐ中、いつの間にかヤナさんとカナさんも集会場にやってきて、参加表明でござる。
みなさんエルフだけに耳が良いな。
「で、では明日迎えに来ます」
「あい~! おとまりです~!」
「宜しくお願いします!」
「たのしみだわ!」
急遽ハナちゃんとご両親の飛び入りが決まったけど、客間の準備をしておこう。
あとお泊まりとは言っていないのだけど、なんかハナちゃん泊まる気満々である。……まあいいか、せっかくだし。
せっかくついでに、みんなでお泊まりして親睦会でもやろうかな。
「せっかくなので、ご都合がよろしければ、みなさんもお泊まり下さい」
「お泊まり! キター!」
ユキちゃんたちもお泊まりどう? てな感じで聞いてみたら、キツネさんがダークになった。
なぜ?
「ご迷惑になりませんか?」
「分析は翌日ですので、お泊まりは効率が良いですから。問題ありませんよ」
「移動の手間が省けるので、ありがたいです」
魔女さんが確認してきたけど、ぶっちゃけ部屋余りまくりだからね。せっかくだから使ってくれるとありがたい。
シカ角さんもドラゴン三人娘を代表して、ぺこりと頭を下げた。
じゃあ明日はみんなでお泊まりってことで、親父とお袋にメールしておこう。
「タイシのおうち~、なぞのおうちです~」
ハナちゃんがテンションアゲアゲで歌い始めたけど、謎のお家ではないからね。
鉄筋コンクリート造ではあるけど、間取りは普通だから。
◇
翌日、ハナちゃんたちを村まで迎えに行き、家にとんぼ返りする。
途中でユキちゃんや魔女さん、それとドラゴンさんたちもピックアップし、マイクロバスはもう賑やか満載だ。
「おうち~おうち~タイシのおうち~」
「楽しみだね」
「そうね」
なぜだかエルフ組はテンション高いけど、普通の家だからね。
そんな感じで車を走らせ、自宅前に到着だ。とりあえず車庫に入れちゃおう。
「……あえ? なんか、かべがうごいてるです?」
「それは自動シャッターだよ。このぽちぽちを押すと、勝手に開くんだ」
「なかは、じどうしゃがほかにもあるです? タイシはおうちのなかに、じどうしゃをおくです?」
「ここは車専用のおうちで、人が住むお家は別にあるよ」
「べつにあるです!?」
なんかもう車庫入れ時点で、ハナちゃんはきょとんとしている。だけど車を露天駐車すると、塗装とか樹脂類とかが日光で傷むんだよね。雹は怖いし雨でさびるし。
なので基本はガレージに入れるのが、家のジャスティスなんだよ。
「あや~、ゴツいくるまがあるですね~」
車庫内での移動中に、ハナちゃんがランクルを発見した。
そうそう、いずれこいつを使って、お隣の森に行きたいんだよね。というかそのために買ったんだけど。
「それはいつか機会があったとき、お隣の森に行くために使う車だよ」
「これでいけるです!?」
「理論上は、さくっと行けるかな」
「たのしみです~」
ハナちゃんはいつか遊びに行くだろう、お隣の森を想像しているのだろうか、両手を挙げてニッコニコ笑顔だ。楽しみいっぱいな感じだね。
「ほほう、これに乗って行く予定と」
「まあ時間がなくて、計画しているだけですけど。八人乗れるので、ご家族みんなで行けますよ」
「たのしみですね」
ヤナさんもそれを聞いて、カナさんと一緒にランクルを上から下から斜めから見ている。
まだまだ計画段階だけど、楽しみにしていて欲しい。
「ともあれ、ひとまず家に行こうか」
「あい~」
ランクルに貼り付いてしまったハナちゃん一家だけど、とりあえず家に行こうね。
「あやや~! なんかたてものいろいろあるです?」
「あれもこれもそれも、車や農作業機械とか、工作設備がある作業場とかだよ」
「おうち、たくさんあるですね~」
「人が住むためのおうちは、あれだよ」
「でかいです~」
自宅を指さすと、ハナちゃんのび~っと背伸びをしてお耳をぴっこんだね。
でもまあ、大きめとは言えたいしたことは無い。築年数は結構いってるんだよね。
昔はこの辺も豪雪だったので、当時の基準でただただ頑丈にしただけなのだ。
「まあ普通よりは大きな方だけど、実はユキちゃんちの方がもっとでかいんだよ。あれの三倍くらいでかいんだ」
「ユキ、すごいです~!」
「凄いのは私じゃないけどね」
ユキちゃんちのほうがデカいと言うと、ハナちゃん今度はキツネさんを見てお目々キラキラだね。
なんかもう、はしゃぎっぱなしのハナちゃんである。
「タイシさんのおうちって、こんな感じだったのですね」
「はわ~」
ヤナさんとカナさんも、鉄筋コンクリの俺んちをみてほわ~ってなっていた。その目は好奇心でいっぱいな感じ。
そんな三人を、ご自宅にいよいよ招待しようじゃないか。かっこよくいこうか。
「それではみなさま、ようこそ我が家へ」
「おじゃましますです~!」
「いよいよですね!」
「わくわくします!」
と言うことで玄関を開けて、はしゃぎっぱなしのエルフ組をご招待だ。
「あや~! なんかあかるくなったです~!」
「おおお、ただよう上品さ……」
「はわわ」
家に入ると、人感センサーライトにハナちゃんびっくり!
ヤナさんは調度品を上から下から見ている。
カナさんは、壁に飾ってある絵に貼り付いてしまった。
「大志さんのおうち、いつも思いますが調度品とかが上品ですよね」
「ほぼお袋と婆ちゃんのおかげだね」
まあ調度品が良い感じなのはお袋や婆ちゃんのセンスであり、我ら男性陣はほぼタッチしない。
なぜなら俺や親父や爺ちゃんに任せると……設計が美しいと思った基盤を飾ったり、水平対向エンジンを飾ったりロータリーエンジンを飾ったり、レストア中のほぼ鉄くず状態なレトロバイクが飾られる惨事が起きる。
つまり家とガレージの境界があいまいになるのであり、ここはスクラップ工場ですか? と言われても否定できないような家になるのは確実なのだ。
俺たちに任せてはいけない、とうちの女性陣は言っていた。圧倒的に正しい。
「あや~、このつぼ、いいしごとしてますです~」
「こっちのえも、いいかんじだわ」
「あっ! 僕たちの土器も飾られてる!」
それはさておき、ハナちゃんたちがうちの廊下をエンジョイし始めている。
でも廊下なのであって、まずは居間に行かないとね。
「まあまあ、居間まで行きましょう」
「あややや~」
「こっちにも奇麗な調度品が……」
「はわわわ」
キョロキョロするハナちゃん一家をなんとか誘導して、ようやく居間に到着だ。
さて、お茶でも用意しよう。
「あらみなさん、いらっしゃい」
「どうぞ、おくつろぎ下さい」
「おじゃましてますです~」
「ほ、本日はお招き頂きありがとうございます」
「こ、こんにちは」
居間には親父とお袋がいて挨拶してくれたが、ハナちゃんはいつも通りだけど、ヤナさんカナさんがカチコチになっておるわ。
でもよそのお家に初めて行くと、なんか緊張するよね。気持ち分かる!
そんなみなさんと一緒に、ひとまずお茶を飲みながら一服だね。
「あや~、なぞのかざりもの、ここにもあるですね~。これとか、とりさんのはねです?」
「それはお袋が旅をしてきて、現地で調達したやつだよ」
「微妙に幸運になる羽飾りよ。こういう『効果が微妙』な工芸品は、本物であることが多いの」
「そうですか~」
きょろきょろするハナちゃんに、お袋も交えて謎工芸品の説明会だね。言う通り、派手なうたい文句の奴は偽物が殆どだけど、微妙シリーズは概ね本物である。
微妙だから表に出せたり販売できるという、まあ当たり前の話だな。そして微妙なのだから、効果が無くても別に困ったりはしない。お土産物に出来る不思議な工芸品とは、それくらいが丁度良いのだ。
「おもろいです~」
「そう? ハナちゃん良い子ね~。うちの男どもと来たら、この良さがわからないのよ」
「お袋、そういうことは物置にある大量の工芸品を、何とかしてから言ってくれ」
「あ~あ~聞こえない~」
つまりはセンスの違いはあれど、お袋も俺や親父と同じ穴のムジナちゃんである。
こんな感じで楽しくお茶を飲みながら、雑談に興じる。
だけど今日集まったのはお仕事のためなので、そろそろ行動を開始しようかな。
「一服できたので、そろそろお仕事しに行きたいと思います。みなさんはどうされますか?」
「あ、見学します」
「わたしも」
「ハナもそうするです~」
「じゃあ、一緒に行こうか」
「あい~」
エルフ組にどうするか聞いてみると、見学したいようだ。お目々が好奇心でいっぱいだね。
とはいえ、水晶玉と機材を設置して調整するだけだから、たいしたことは無い。一時間くらいで終わるかな。まあ、さくっとやっちゃおう。
ということで、観測用に準備してあるガレージに移動だ。
「タイシタイシ、あれはなんです?」
「あれは悪い人が入ってきたとき、大きな音をだすやつだよ」
「あれは?」
「怖いオバケが、敷地内へ入ってこないようにするやつらしい」
「オバケこわいです~!」
「怖くないのは出入りし放題らしいけどね」
「あややや~」
移動中もあれこれハナちゃんに説明しながら、ガレージに到着だ。
ある程度準備はしてあるので、水晶玉を設置し機材の調整を始めよう。
「それではみなさんは、そちらに座って見学していて下さい」
「わかったです~」
「ここですね」
「あら、ふかふかのイスだわ」
三人には機械いじりで疲れたら横になる用ソファに座って貰い、のんびり見学してもらう。
お茶はそこのポットにあるので、セルフサービスでどうぞだ。
「水晶玉設置しました」
「大志さん、試験お願いします」
そうこうしているうちに、ユキちゃんたちが準備を進めてくれていた。
じゃあ機材に通電して、動作テストと行きましょうかね。
「あや~、わけわかんないですね~」
「なぞの機械がたくさんあって、くらくらするね」
「……」
その様子を、お目々まん丸で見ているハナちゃんとヤナさんだね。
あとカナさんは、情報過多によりフリーズしていた。
こうしてハナちゃん一家に見守られながら、着々と準備は進んでいく。
大体一時間位した頃だろうか、調整が終わりデータ採取レディとなった。今日のお仕事はこれで終了だね。
「では、記録開始します。後は締め切って、明日の朝確認しましょう」
「はい」
制御用のPCを稼働させて、記録開始だ。
あとは暗幕を張って、ガレージも閉め切ればほっとくだけである。
「あや~、こむずかしいです~」
「私たちも全然わかってないよ。全部を理解しているのは、大志さんだけだから」
「そうですか~」
「そうなのよ」
真面目に見学していたのか、ハナちゃんお目々ぐるぐるだ。
それを見たユキちゃんが、自分たちも分かってないよと説明している。
まあ実際何をやっているか原理から詳しく説明すると、本が何十冊と書けるレベルだからね。
軽くさわりだけ分かっていれば、オペレータとしては十分と言える。
細かいところは俺とAIちゃんでなんとかするので、安心して下さいだ。
「それでは本日の作業は完了しましたので、あとは自宅で遊びましょう」
「わーい! タイシとあそぶです~!」
お仕事終わったから次は遊び! と宣言すると、ハナちゃんがぴょんぴょんした。
何して遊ぶかは考えていないけど、まずは休憩しようかな。




