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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第二十五章 この世界のどこかに
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第十話  筋金入りのおひい様


 今回データを実測してみてはっきりした事だが、どうも位置がおかしい。

 ドラゴンさんたちの過去の証言や、彼女たちが集めた情報も同様の不審点があるのだ。


「みなさんの過去の証言や観測記録および今回のデータを考えると、おひい様が年単位で、まったく移動していない可能性が出てきました」

「そうなのですか?」

「データからするとそうなります。こちらからアプローチしない限り、光点の位置に変化が見られません」


 そう、事前にある程度解析はしたのだけど、おひい様の位置が固定しすぎなのだ。

 妙高あたりで動きが見えたところを考えると、この水晶玉は二十キロ程度の精度は持っていると考えられる。

 しかし、今までの話や観測データからすると、おひい様は全然動いてない可能性が出てくるのだ。

 これほど動きが無いのは、おかしいと考えている。


「しかし、おひい様は筋金入りのひきこもりなのですが……」

「え? ひきこもりなのですか?」

「文章の管理やお告げのお仕事などいろいろあるため、一カ所からおいそれと動けないのです」

「ほほう」


 と考えていたら、シカ角さんから新情報が出てきた。おひい様は、かなりの引きこもりという話らしい。

 ただそれでも、ここまで座標が変わらないのはなんかおかしい、と言うのが俺とAIちゃんの直感だ。


「それにしても、多少は移動しましたよね?」

「まあ、お散歩程度なら……」

「たまに光点がブレますが、これがそのお散歩している状態かもとは考えられます」

「そういえば、たまにそうなりますね」

「ただお散歩でブレがでるのに、なぜこれほど誤差があるのか、など腑に落ちない点も――」


 そんな感じで議論を交わし、この「もしかしておひい様ひきこもり?」仮説を検証していく。

 もしかしなくても現地ではそうだったらしいので、ちたまでも引きこもっている可能性は大いにある。

 色々意見を募り、今後の方針をどうするか話し合いだ。


「もしかして、おひい様は捕まっていたりとか……」

「それはないかと。ああ見えておひい様は強いのです。いろんな術が使えますゆえ」

「さようで」


 見たことがないのでわからないが、ああ見えて強いらしい。

 ならそう簡単に捕まるような事はないかもだが、正直良く分からないな。

 果たしておひい様は、今どんな状態なのだろうか。

 何事も無ければ良い。無事にこちらに来られていれば……と、祈ることしか、出来ないのがもどかしかった。



 ◇



 水晶玉にある光点を観測したパッシブ解析の結果は、なんとも微妙かつ不可解なものであった。

 おひい様が全く動いていないという推定がなされたが、それが正解かどうかはわからない。

 ただこれだけで分析が終わったわけではなく、他の手法も試してみる必要ある。


「というわけで、分析第二弾を行いたいと思います」

「なんだか実験室みたいな感じですね」

「ほぼそれに近いかな」


 前回の分析から数日後に、今度は自宅のガレージにて、ちょっとした観測装置を組んでみた。

 魔女さん全面協力のもと、水晶玉からの何らかの波動を検知してみよう作戦である。


「この便利なやつが、一定間隔で何か波動を出しているっぽい事は判明していました」

「感応石が僅かに光ったのですよね」

「はい。感度改善のために色々試していたとき、感応しました」


 魔女さんに確認すると、感応石にて何らかの謎パワーを検知したという話だ。

 催事の前にやっていた技術指導のとき、発見したらしい。


「今回はこの特性を利用し、便利なやつがどうやっておひい様を探知しているかを、検証してみたいと思います」

「なるほど?」


 そして今回の趣旨を大発表したわけだけど、シカ角さんは首を傾げてしまった。

 気にせず説明続けちゃうよ。


「この装置は、魔女さん開発の謎エネルギー感応板を沢山配置して、その光り方をセンサーで数値化しましょうって試みですね」

「そうなのですか」

「一見変な棒がバラバラに立っているように見えますが、水晶玉の半径と比較して八倍と十六倍の球体メッシュになるよう正確に設置してあります」


 印刷した概念図を配り、みんなに見て貰う。そこには、ワイヤーフレームで描画された球が二重になっており、中心部に水晶玉があるイメージだ。

 便利なやつから謎の波動が発信されると、ワイヤーフレームの交点に設置してある感応板が発光するので、それをセンサーで捉える仕組みである。

 そのデータはリアルタイムで記録され、後で詳細に分析をするという流れだ。

 結構大掛かりな装置ではあるが、全部DIYで作っている手作りマシンである。


「装置の完成品は初めて見ましたが、これらの部品って自作なんですよね?」

「そもそも売っていないので、全部自作ですね。3Dプリンターさまさまと言った所ですか。そこにある奴ですよ」

「3Dプリンターって実物を始めてみました。結構シンプルなのですね」


 魔女さんが装置の部品やプリンターを見てふむふむしているけど、ふしぎパワー感応版を周囲の光から遮光して、なおかつセンサーを内蔵するこの樹脂製部品の製造が一番めんどかった。設計もそうだが、3Dプリンターって印刷設定難しいんだよね。印刷速度も遅いから、一つの部品製造で一時間くらいかかるし。

 でもまあ、いざと言う時パーツを自作できるのは便利である。


「また大志さん高価なもの買ってますね」

「造船の試作品製造にあたって、模型作成にいいかもと思って買ったやつだよ。いやあ、何が役立つかわからない世の中だよねえ」


 ユキちゃんがさっそくこの3Dプリンターの価格を調べ始めているが、先んじて言い訳をしておく。

 船を買おうか迷っているドワーフちゃんに、これで作った船の模型を参考に渡したら……たぶん我慢できずに発注かけるよね、と黒い考えで買ったのは心のうちに秘めておこう。

 背中を押すためのアイテムは、大事なのだ。ミニカーならぬミニシップというおもちゃで契約をフィッシュする、実に現代的な営業ではないか。


「その悪い人の顔……大志さん、何か隠してますよね?」

「まあ感応板の製造コストもあるので、メッシュは粗めですがなんとかなるでしょう」


 なぜかユキちゃんに隠し事を見破られたが、都合が悪いので話を強引に進めるよ。


「ひとまずは、一晩放置してデータを取ります。その後は資料の次ページにある方法にて、数値解析する予定ですね。理論は下の方にある数式にて解説してあります」

「……」

「基本は調和解析で行けると考えておりますが、他に方法がある場合はその都度――」

「――……」

「大志さん、先生が目を開けたまま気絶してますよ」

「手加減してあげてください」


 おっと、シカ角さんが情報過多でフリーズしたのを見て、魔女さんとユキちゃんから手加減してあげて要請が来てしまった。なんかごめんなさい。

 それはともかく、シカ角さんの尊い犠牲はあったがデータ採りを開始だ。

 ガレージを閉め切り、暗室にして一晩放置である。


 ――そして翌日、データ解析が始まる。


「データはちゃんと採れましたね」

「ただ、この点でしかない情報から、何かわかるのですか?」


 果たして感応板の発光データはきちんと取得出来ており、大体三十秒間隔で波動を出していることは確認できた。

 しかしこのままでは、球状に配置された点が光っているだけである。

 これを意味あるデータに変換する作業を、まずしなければならない。


「ということで、スパースモデリングにて欠落情報を補間し、どのような波動パターンかを割り出します。資料の五ページ目に記載がありますね」

「すぱあす? もでりん? ぐー?」

「なんですかそれ」

「何かで聞いたことはありますね」


 やっぱりシカ角さんは首を傾げ、魔女さんははてなマーク状態だ。ユキちゃんは聞いたことがあるって程度かな。


「MRIや天文学とかで使われている技法で、まあ少ないデータから欲しい特徴を抽出する技法かな。今回の場合は断片データを元に無い部分の補完を行い、全体像を再現するために使うよ」

「ピポ」


 そう言っている間に、AIちゃんがさくっと計算を開始してくれた。

 補完出来たところからすぐに表示されていくので、過程がわかりやすい。


「ほら、欠落していたところが補完されて、どんな波動かが浮かび上がってきたよ」

「はえ~、こんなことが出来るんですね」

「よくわかりませんが、それっぽいですね」


 しばらく待っていると、モザイク状態の画像がどんどん補完されて行き、ついに二つの球体にヒートマップのような模様が描画された。それからも、毎秒ごとのデータがどんどん出来上がっていく。

 この毎秒ごとの時分割データをつなぎ合わせてアニメーション化すると、なんというかエネルギー放射は球全体から、一秒程度って感じの映像が出来上がる。

 しかし球面二つの反応時間差を見ると、光速を超えているような気が……。まあ感応板の発光にはタイムラグがあるので、正確にはわからないのだけど。正確に検証するには、装置の大きさをキロメーター単位にしないとわからんかもだな。

 まあそれを追求するための分析ではないので、ひとまず好奇心は仕舞っておこう。

 目的はおひい様さがしだからね。


「あら! 確かにこんな波動が出ている感じがしてました!」


 そしてこの結果をみたシカ角さんが、お目々まん丸にして反応していた。

 流石巫女さんだけあって、感覚で波動を捉えていたようだ。


「じゃあこの観測結果は、正しそうですね」

「そうですね! こんな感じで間違いないと思います! ただ……」

「ただ?」


 なんだろう? シカ角さんが、ちょっと眉を寄せた。


「この波動っぽいやつが出ている間隔は、もっと長いときがありました」

「長いときがある?」

「はい。おひい様から遠ざかると、間隔が長くなるような……」


 なるほど、距離によってパルスの発信間隔が変わるのかもしれない。

 この辺は装置を動かせないので検証できないけど、シカ角さんの感覚を信じるならあるかもだ。

 ならば、一番近いかなってところでどれくらいの頻度なのか聞いてみないと。


「これって、一番短い時はどれくらいですか?」

「まさにこの、いまてれびに写っているやつくらいです」

「とすると、今わかっている最短としては、三十秒間隔ですか……」

「ですね」


 レーダーを視覚化したおかげか、シカ角さんからするすると情報が出てくる。

 これはなかなかの成果かもしれない。

 そしてこの情報から、便利なやつの最大分解能は、いまのところ三十秒間隔というのが算出されるわけだ。

 おひい様探知の精度限界がこれだと推測される。あくまで推測だけど。


「色々分かってきましたね」

「ええ! こういう方法で目で見られるようにできるって、すごいですね!」


 この結果には、シカ角さんも大興奮だ。自分たちが使っているなんかよくわからない術の原理が、目で見てわかるのだから。

 なんというか、学者肌って感じはするね。


「はえ~、これは面白いですね」

「大志さん、この技法こっち業界の研究所でもマネして良いですか?」

「どうぞどうぞ、必要なら論文書いておきます」

「それはありがたいです!」


 ドラゴンさんもそうだけど、ユキちゃんや魔女さんも興味津々であった。神秘を科学的技法で解析するのは、そんなにやる人いないからね。

 だって科学でわかんないから神秘なのであって、普通は分析できないもんだ。

 今回は異世界物質と魔女さん業界の協力があって実現できた、いわゆる奇跡のひとつである。こんな幸運はそうそうない。

 この調子で、じわじわと神秘の正体を突き詰めていこうじゃないか!



 ◇



 小難しい観測装置にて、水晶玉のおひい様探知レーダーを解析していく。

 パルス間隔などの情報が得られたりして、今のところ良い感じだ。


「みんなして面白そうなことやっているわね」

「あ、お義母さん、お邪魔してます」

「ユキちゃんも、大志のお手伝いありがとうね」

「いえいえ」


 みんなで盛り上がっていると、お袋がお茶とお菓子をもってやってきた。

 というか自分の分も持ってきているあたり、参加する気満々である。


「あ~、大志またなんか小難しい理屈こね回して、へんな解析してるのね」

「何を言うお袋、これはサイエンスなのだよ」

「マッドサイエンティストは滅ぶべしって思うのよ、私は」


 この母は、言うに事欠いて俺のことをマッドと言う。流石に異議ありだ。


「異議ありだ。俺の何処がマッドだというのかね?」

「全部よ」

「ですよね」

「本人に自覚がないです」

「ピポ」


 意義を唱えたが、お袋に全否定されてしまった。ユキちゃんと魔女さんも同意するとか、世の中間違っていると思うんだ。

 というかAIちゃんも同意するとかね。俺がマッドじゃなかったら、君は生まれなかったんだぞお。

 ああいや、俺はけしてマッドではないのだ。そうに違いない。


「さて、お次はこの発信している波動そのものを調べましょう。波形に変換します」


 極めて不利な状況に陥ったため、さらりと話題変更して逃げることにしよう。


「あ、話そらしたわよこいつ」

「ですよね」

「さすがマッドな科学者」

「はいはい麗しきお嬢様方、ディスプレイに注目だよ。この変換した波形を表示するとだね――」


 ブーイングにもめげず、無理やり話を進めちゃうよ。

 さて、感応板から発する光の色は変化しているので、これを波形表示してみる。

 すると、特徴的な波が視覚化された。信号処理でよく見るものだ。


「……これ、チャープ信号っぽいですね」

「ちゃーぷしんごう?」

「波が連続的に変化している信号を言います。こんな風に」


 これは信号処理を知らないと分からない物だけど、たとえで口笛を吹いてみる。

 ピューイって感じで、低音から高音へなめらかに変化させた音だ。

 ようは周波数変調を行っていると言うことだね。今回の場合は、アップチャープである。


「あら、こんな感じの音、横須賀ではたまに聞こえたわね」

「そうなんですか?」

「ええ、護衛艦のソナー音がこういう感じなのよ。テストで音を出しているときがあるの」

「へ~」


 この音の変化はお袋も聞き覚えがあるらしく、ユキちゃんと魔女さんに実例を解説してくれている。

 そう、このチャープ信号とは、ソナーやレーダーにも使われる信号なのだ。

 実際護衛艦が停泊している軍港では、たまにこの音が聞ける。

 イージス艦はもうちと複雑な変調をしているとか色々あるが、基本はコレなのだ。


「補足すると、レーダーもこういった周波数変調信号を使っているものもあります」

「なるほど?」

「つまりこのおひい様探知は、ちたまにあるレーダーとよく似た技法が使われているということになるかと」

「……」


 ここまで説明した段階で、シカ角さんが情報処理の限界を迎えフリーズした。

 気にせず続けよう。


「であるならば、こっち方面で解像度の改善が出来るかもしれない」

「そんなことが可能なのですか?」


 これらの事実により、今後の方針が見えてきた。

 ユキちゃん的には懐疑的みたいだけど、実例はすでにある。


「実際に感応石でそれっぽいことは試して、結果として催事でくねくねダンスの検出ができたわけだ」

「確かに」


 そう、あの便利なやつに細工した結果、ハナちゃんのくねくねダンスが検知できたのだ。

 ならばこのチャープ信号を、ずばっと高解像度化するアプローチも可能と推測される。

 まあやってみないとわからないけど、実行する価値はあるはずだ。

 この水晶玉みたいな便利なやつは、こうした改造も受け入れる懐の深いやつである。

 やってやれないことはないと、思うのだ。

 なお、なぜハナちゃんのくねくねに反応したかは謎である。

 あの子のダンスはヤバイ波動を出しているのではないか、という疑惑はあるが、考えないようにしよう。


「そんなわけで、魔女さんにはこの信号の変調範囲を拡大する改造をお願いしたいなと」

「……出来るか分かりませんが、やってみます!」

「私も手伝いましょう!」

「……」


 魔女さんにお仕事を依頼すると、やる気十分な感じだね。ユキちゃんも手伝ってくれるようなので、後はお任せするしかない。

 ちなみにシカ角さんは、まだフリーズしたままだ。


「こうして、大志のマッド実験に付き合わされる、哀れな女子が増えたのだった」

「お袋、不穏な感じのナレーション入れないで欲しいんだけど」


 ぼくはマッドじゃないからね。

 でもまあ、今後の方針は決まった。水晶玉の探知精度改善は以前からやっていたようだけど、これで何をすれば良いのかは見えたはずだ。

 それじゃあ、いっちょ便利なやつを改造しちゃおう!


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[良い点] 【悲報】大志の言ってる事が高尚すぎて意味不明w と言う訳で、普段はガチムチの脳筋キャラなのに、ここぞとばかりにお利口アピールを行う大志ですね。理工系だけに。 周りをおいてけぼりにして一人…
[一言] オ、オカルトが科学に侵される~! いや!いや、いや、まっどな人がいるので、 禁忌方面へのシフトもか? えー?ハナちゃんで? ・・・まあ、無いだろうな、ちょっとタイシが、 マッチョのまっどさん…
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