第八話 捜索活動、はじめるよ!
催事のあった翌日、村のみんなは午後からお仕事開始だ。
ただ俺はドラゴンさんたちとのお話もあるので、会議が必要なのだけど。
ひとまず集会場で、会場の準備でもしておこう。
「あきゃ~い」
「こんなはずでは……こんなはずでは……」
「おもったよりふえたよ……ふえたよ……」
集会場に行ってみると、妖精さんたちがクッキングスケールに交代で乗っかり、何やらやっていた。
重量計、それは現実を数字で表示する容赦のないマシンであり、手加減はしてくれない。
「タイシタイシ、ようせいさんたち、どうしたです?」
「あの子たちは今、現実と向き合っているんだ」
「たいへんですね~」
お菓子作りでは計量がとっても大事だ。そして妖精さんたちはお菓子作りが大好きである。
その中で「これで重さが測れるんだね!」と気づいてしまったのだ。
気づいてしまったら、あとは連想ゲームだね。
自分の重さも、測れるんじゃない? と発想したらあとは現実と向き合うだけ。
みなさん、頑張っていただきたい。
それはともかく、会場をセッティングしよう。
「じゃあハナちゃん、会議の場を作ろうね」
「あい~」
そんなわけで別室にて会議場を作成し、あとは集まってもらうだけだね。
それまで、お茶を飲みながらのんびりしていよう。
「ハナちゃん、お茶とお菓子を楽しみながらのんびり待とうか」
「そうするです~」
俺の提案にハナちゃんもニッコニコで、お茶とお菓子をいそいそと準備し始める。
こういうの好きなようで、手慣れているね。
「おかし……おかし……」
「やめられない……とめられない……」
「ふえるよ……ふえるよ……」
そしてこの様子を見た妖精さんたち、おかしぞんびちゃんとなってふらふらとやってきた。
今日も増量確定である。彼女たちの目には、あきらめの色が浮かんでおるわ。
(おそなえもの~)
(あさからおかし!)
(……たまりませんな)
神様たちもすっ飛んできて、準備したお菓子がすぐに消費されて行く。
それは会議用のお茶菓子なのだが、まあまた準備しよう。
「タイシタイシ、おちゃですよ~」
「ハナちゃんありがと」
「うふ~」
そうこうしている間に、ハナちゃんがそそそとお茶を淹れてくれた。
一口飲んでみると、めきめきと腕が上達しているのがわかる。
「ハナちゃんお茶淹れるの上手だね」
「うきゃ~」
素直に褒めたら、ぐにゃる前兆現象が出た。
今日はわかりやすくて助かる。
「どんどんのむですよ~」
「あ、ありがと」
そして気を良くしたのか、飲むそばからお茶が補給されるようになった。
無限ティーループが始まる。でも、物量は正義だから……。
「大志さん、おはようございます」
「ユキちゃんおはよう」
そろそろ胃が液体で満タンになるかというところで、ユキちゃんが集会場にやってきた。
後ろには、魔女さんとドラゴンさん三人娘もご一緒だ。
「みなさんもおはようございます。昨日はよく眠れましたか?」
「はい、みんなで雑魚寝してぐっすりです」
「目覚めすっきりだね。よく眠れたね」
「私はちょっと眠いよ~」
「私もですね」
シカ角さんとヤギ角ちゃんはすっきりで、ヒツジ角さんはやや寝ぼけまなこか。
魔女さんもあくびをしている。
まあ熱いお茶を飲んで、シャキッとして頂こう。
「みんな、おちゃですよ~」
「あらハナちゃん、ありがとう」
「小さいのに偉い子ね」
「えへへ」
早速ハナちゃんがお茶をささっと用意してくれ、お茶菓子も奇麗に並べられた。
その様子を見て、ユキちゃんやほかの女性陣も頭をなでなでだね。
さて、みんながお茶を飲んで落ち着いたところで、会議を始めようか。
「ではみなさん、昨日お話しました、おひい様の捜索についてお話しましょう」
「そうですね」
ヒツジ角さんとヤギ角ちゃんがお茶菓子の攻略に入ったため、シカ角さんが代表して応答だ。
お姉さんは大変だね。
「昨日の夜、こちらのユキさんたちとちょろっとお話しまして」
「そうなのですか」
その大変なお姉さんドラゴンさんから、昨日ちょろっとユキちゃんたちと話したとご報告があった。
どんな話をしたのだろう?
「ユキちゃん、どんな感じのお話かな?」
「えっとですね――」
そしてユキちゃんからお話を聞くと、色々と提案が出た。
まずは土地鑑のある我々で、車を使ってしらみつぶしにこの辺を調べると。
おひい様探知機の反応も調べながら、必要であればうちのAIちゃんにも協力願う。
もちろん感応石をつかって、探知精度の改善も行いたいそうだ。これはユキちゃんと魔女さんが、ドラゴンさんたちに全面協力するとのこと。
なるほど、おおむねそれで良いのではと思う。
「ひとまずは、それで良いかなと思う。まずは情報収集って感じかな」
「そうしましょう」
「わたくしたちとしても、問題ありません」
ユキちゃんやシカ角さんと合意して、とりあえずの方針は決まった。
じゃあ次はどう行動するかだね。最初は車でここら辺をしらみつぶしって感じかな。
「とりあえずは、最初に車で走り回りますか。予定を合わせましょう」
「ありがたいです。今日はおうちに帰り、三人で予定をどうするか話し合います」
「私の開いている日もお教えしますので、すり合わせましょう」
「はい」
今日いきなりってのは難しいので、まず予定合わせだね。
彼女たちもサロンの営業日やシフトがあるから、いつでもってわけにはいかないだろう。
連絡を密に取り合う必要がある。
「連絡先の交換と行きましょうか」
「私たちは、サロンのあの電話番号で大丈夫ですよ」
「それでは、私の番号を教えます」
「あ、私のもどうぞ」
そんなわけで、俺とユキちゃんの電話番号を教えて連絡先交換は完了だ。
ひとまず今日出来ることはこれくらいかな。
「方針会議としては以上かと思います」
「はい、大丈夫です」
お互い認識合わせも済んだので、本日の会議はこれにて終了だね。
あとはどうするかだな。
「では、今日この後はどうされますか?」
「私は午後、子猫亭のシフトが入ってまして。ひとまず解散でよろしいかと。先生方もお送りする予定です」
予定を聞くと、魔女さんはバイトがあるようだ。確かにドラゴンさんたちも、車で送る必要があるよね。
じゃあ解散ってことで良いか。あとは連絡を取り合おう。
「わかりました、ではひとまず解散としますか」
「そうしましょう」
そんなわけで、ひとまずお開きだ。
ドラゴンさんたちと魔女さんをお見送りしよう。
「お見送りしますので、道案内も兼ねて車のところまで行きますか」
「それはありがたいです」
魔女さんたちはこっちに来る途中でなぜか気絶して、俺と高橋さんが運んできたからね。
土地鑑が無いので、送ってあげないと。
「では、行きますか」
「はい」
「ハナもいくです~」
「では私も」
(わたしらも~)
(せっかくだから!)
(……おつきあいします)
腰を上げると、ハナちゃんとユキちゃんも道案内兼お見送りに参加表明だ。
神様たちも付き合ってくれるそうなので、みんなで行こう。
「どうしよ……どうしよ……」
「すごくふえた……すごくふえた……」
「たいへんだよ……たいへんだよ……」
再びクッキングスケールの上で現実と向き合う妖精さんたちの横を通り、集会場の外に出た。
今日はとてもいい天気だ。青い空がまぶしい。
「タイシタイシ、ようせいさんたち、だいじょぶです?」
「そっとしておこう」
「あい~」
ちいさなちいさな存在たちの葛藤を見なかったことにして、魔女さんたちが乗って来た車のところまで徒歩で移動だ。
まあ軽いお散歩って感じの距離だね。
みんなで雑談しながら歩き、ワープしたみたいな領域の境界を超えて目的地に到着だ。
そこには、ミニバンタイプの軽自動車が停まっていた。
「では、先生方どうぞ」
「はい」
魔女さんが近づくとドアのロックが自動で解除され、シカ角さんは助手席のドアを開け、残りの二人はそれぞれ後ろのドアから車に乗り込んだ。
「よっこいしょっと」
「やっぱり、軽自動車は私たちにはきついね。足の置き場があんまりないね」
「ヤマトの人用だよ~」
みんな乗り込むと、下半身が蛇ゆえに全長が長めのドラゴンさんたちが、むぎゅっとなっていた。
でもみなさんの体長だと、普通車でも余裕はそれほどないかも。
そんなこんなで、何とかみなさんが車に乗り込み、今日はひとまずさよならだね。
「では、今日はおうちに帰ります」
エンジンがかかったのち、すすすーっと運転席側の窓が下がり、魔女さんから帰りますの宣言だ。
「予定をすり合わせるために、またご連絡ください」
「わかりました」
こちらも魔女さんに連絡ちょうだいの旨を伝えて、車から離れる。
やがて四人を乗せた車が動き出し、見送りに来たみんなで手を振りながら見送った。
「あや~、じどうしゃはべんりですね~」
「せがたかいのも、たいへんさ~」
(ぎゅうぎゅう~)
一緒に見送りに来てくれたハナちゃんたちも、小さくなっていく車を見ながらのんびりとした感想を述べていた。
さてさて、それじゃあ村に戻ってお仕事しようかな。
◇
ドラゴンさんたちと知り合って数日後、ようやく予定の調整がついた。
そんなわけで、まず始めにみんなでおひい様探知のため移動しまくる作戦を実行する。
「あらー! マイクロバスって良いわね!」
「大勢乗れるんだね。余裕があって良いね」
「ゆったりだよ~」
軽自動車よりは余裕があるためか、ドラゴンさんたちはなんだかご機嫌だ。
「わきゃ~ん、びんじょうして、ちたまけんがくするさ~」
「たのしみさ~」
「だいぼうけんさ~」
なお、偉い人ちゃんとお供さんたちも便乗しておる。これも接待だね。
「みんなでおでかけ、いいものですね~」
「僕は久々かな」
「こないだのえすていらいだわ」
もちろんハナちゃんも参加で、今回はヤナさんとカナさんも参加してもらった。
ご両親の参加について、特に理由は無い。連れ回すのも楽しいかなってくらいだ。
「ユキ、手伝いありがとう」
「大志さんのお手伝いでもあるからね」
あとはユキちゃんと魔女さんも探索の主力として、なんか色々やってもらう予定だ。
(おでかけ~)
(びんじょうしちゃうよ!)
(……たのしみ)
それと神様ズも、いつの間にかバスに乗っていた。神輿は俺の頭にしがみつき、オレンジちゃんとブルーちゃんは胸ポケットではしゃいでいる。
運転席から見る長野県北部をお楽しみ下さいだね。
こんなわけで、俺含め十二名と三柱で長野の地へと繰り出す。
ちなみに妖精さんたちは、ダイエットに忙しいため村に残った。クッキングスケールにより明らかになったとある数値が、衝撃的だったらしい。
実はちたま1G環境下での計測だから、重力の軽いフェアリン基準では標準体重な可能性もあるのだが。後で補正値を算出して、きゃいきゃいさんたちに真実を伝えようと思う。
それはさておき、俺たちは自分の仕事をしよう。
「あ、牛丼屋さんがあるわ」
「朝ご飯にしようね。優雅なお食事だね」
「特盛りだよ~」
そして出発間もなく、寄り道が決定した。ドラゴンさんたちのリクエストによって、いきなり朝から牛丼である。
「やっぱり牛丼は、すぐに出てきて良いわ」
「効率的だね。時間の有効活用だね」
「おかわりだよ~」
注文した牛丼がやってくると、ドラゴン三人娘はがつがつと吸い込むように、それぞれ特盛り二杯を食した。
朝からそれなの?
「わきゃきゃ~ん! おにくがたくさんさ~」
「ちたまのちょうしょくって、ごうかさ~」
「おみそしる、ほっとするさ~」
偉い人ちゃんたちは、お上品にちまちま食べている。さすが上流階級だ。
でも食べているのはリーズナブル代表格の牛丼なわけだが。
「あや~、あさからこれはごうかですね~」
「卵をかけちゃうのがすごいよね」
「おいしいわ」
ハナちゃん一家はのんびりと団らんしているけど、食べているのは特盛りなわけで、実のところ大ボリュームである。
(おかわり~)
(わたしも!)
(……おなじく)
謎の声はおかわりをオーダーだけど、それ五杯目でして。朝からフードファイトですな。 沢山食べて、すくすくと育って頂きたい。
……神輿に乗れなくなった場合は、またエステでなんとかしよう。
「ユキ、いきなりこの展開って普通なの?」
「よくあることかな」
魔女さんは、いざおひい様捜索開始! からの牛丼祭りに若干の動揺が見られる。でもユキちゃんの言うとおり、我々にとっては良くある出来事だ。
この辺キツネさんも、だいぶ我々に慣らされている感はある。
まず何を置いても腹ごしらえ、これがジャスティスなのだ。
「ちなみに大志さんは、牛皿なのですね」
そんな感じでみんなを見守っていると、優雅にハムエッグ朝定食をつついていたユキちゃんから、俺のメニューについて質問が来た。
お店で食べるときは、俺はいつもコレなんだよね。
「自分はコレが好きなんだよね。牛肉がつゆでひたひたなのが良いんだ」
「あ、それわかります。牛丼にするとご飯がつゆを吸っちゃいますよね」
「そうそう」
お皿からつゆでひたひたになった牛肉とタマネギをつまみ、まっさらなご飯で食べる。これが俺は好きなのだ。
牛丼のたっぷりとつゆを吸い込んだご飯とお肉をかっ込むのも良いのだが、お店で食べるときは牛皿を選んじゃうね。
「なるほど~、タイシそういうこだわりあったですか~」
「こだわりというか、まあ好みかな」
「むらでもできたら、いいですけどね~」
横で話を聞いていたハナちゃんも、すそそとお味噌汁をすすりながら会話に参加してきた。
村でも出来たら良いかなと思っているようだけど、調達出来るのはシカかイノシシ肉なんだよね。
イノシシなら、薄切り出来れば牡丹丼とか出来そうではある。
「じゃあハナちゃん、今度一緒に作ってみましょうか」
「あい~。ユキとためしてみるです~」
この辺は料理上手なユキちゃん指導のもと、お任せしておこう。
ハナちゃんのお料理レパートリーが増えそうで、楽しみだ。
こんな感じで、初っぱなから盛大に脱線しているけど、おひい様捜索が始まった。
何か分かれば良いのだけど……。
◇
「う~ん、変化は無いです」
「ぼやけちゃってるね。いつもどおりだね」
「みつからないよ~」
牛丼で腹ごしらえしたあとは、今度こそ幹線道路沿いに長野県北部を走り回ってみた。
しかし、結果はいまいちといったところ。
「離れた場合の結果を見るために、上越まで出てみますか」
「お手数おかけします」
変化が微妙すぎて分からない可能性もあるため、今度はあえて離れてみる作戦を開始だ。
十八号沿いをひた走り、長野県を脱出してみる。
「あや~、さどにいくときのみちですね~」
「何度か通っているけど、そのたびにワクワクするよね」
「みんなでうみにいったときのこと、おもいだすわ~」
エルフ組にとってこの道はおなじみなので、みなさん窓の外を眺めてはしゃいでおられる。
「わきゃ~ん、このさきに、とんでもないはしがあるさ~。てんくうを、おうだんするかんじのやつさ~」
「またまた~、そんなのあるわけないさ~」
「ありえないさ~」
偉い人ちゃんも知っているため、お供の子たちにガイドみたいなことをしている。多分この先にあるスカイブリッジ信越大橋のことを言っているのだろうけど、信じてもらえないようだ。
どこかで見た光景……ドワーフィンのほのぼの政治闘争が、密かに始まったと思われる。
ハハハと笑って「あるわけないさ」と言っているお供ちゃんたちは、なぜ負け戦ばかりするのだろうか。
「あら、ここまで来ると変化がでました」
「離れてきたね」
「微妙だけど違いはでるよ~」
やがてお供ちゃん二人がほのぼのと政治闘争に負け、偉い人ちゃんにお酒の壺を渡している頃、水晶玉っぽいやつに変化が出たようだ。
やっぱりここまで来ると、違いが分かるっぽいね。
「このまま走って、変化量を記録しましょう」
「わかりました」
「ユキちゃんと魔女さんも、サポートお願いします」
「はい」
「任せて下さい」
とりあえずは水晶玉の変化を映像記録し、後でGPSデータと比較しよう。
シカ角さんに便利なやつを管理してもらい、ユキちゃんと魔女さんは俺が用意した各種機材の操作等を担当して頂く。
今日は本格的な捜索と言うより、データ集めって感じだね。
まあ距離と位置に対する変化量を見たいので、適当に走れば良い。せっかくだから、ついでに日本海を見に行こうツアーもやっちゃおう。
「せっかくですから、このまま走って海でも見に行きましょう」
「わーい! うみです~」
「たのしみさ~」
「良いですね!」
海を見に行こうと提案すると、ハナちゃんと偉い人ちゃん、あとユキちゃんのテンションがアゲアゲになった。
みなさん凄い楽しみそうな顔である。
「わきゃ? うみってなにさ~?」
「すっごいおおきな、はしっこもむこうがわもみえないくらいの、とんでもなくでっかくて、しょっぱいみずうみさ~」
「またまた~、そんなのあるわけないさ~」
「ありえないさ~」
「わきゃ~ん、おろかな、なかまたちさ~」
そしてお供ちゃん二人が、また負け戦を始めるわけだ。
さっき同じパターンでドボンしたでしょ。