表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第二十五章 この世界のどこかに
407/448

第五話  町の遊撃手


 ここはとある世界の、とある現ボイラー技士さんのおうち。

 外に出られるようになったドラゴンさんたちが、作戦会議をしておりました。


「なかなか、この辺のお肉がとれなくて……」

「運動するしかないわね」

「たぷたぷしている……」


 そっちの会議ですか。でも彼女たちにとっては、喫緊の問題なのです。

 たぶんそう。


「というか、おひい様の反応に全然近づかないわ」

「すっごく遠くに居るってことだよね」

「どこなのか、見当もつかないよ~」


 お肉会議の傍ら、本題もお話していますね。

 探せど探せど、おひい様の反応に近づかないのです。


「とりあえず、ジテンシャっていうのを手に入れたわ。これで遠出が出来るので、手分けして探しましょう」

「「「はーい」」」


 シカ角お姉さんが、このカオスな会議をまとめにかかりました。

 そう、ドラゴンさんたちは技士さんのアドバイスにより、自転車を手に入れたのです。


「じゃあ、私はこっちね」

「それなら、私はこっちにいくよ~」

「反対側はまかせてね」


 八人は、それぞれ自転車に乗って街に繰り出しました。

 両足でペダルはこげないのですが、しっぽをつかって片方のペダルをジャーコジャーコと器用に押しています。

 やればなんとかなるものですね。


「おっと!」

「これ、難しいわ!」

「なんでヤマトのひとたちって、こんなの簡単に乗れているの?」


 そして初めての自転車ですので、こける人も出てきました。

 ただ運動神経は良いのか、ひょいっと飛び降りて無傷です。

 なかなかつよい方々ですね。


「乗れるようになれば、簡単よ」

「そうだね。これは便利だね」

「どこまでも行けそうだよ~」


 リーダー格の三人は、スイスイ乗れているようです。

 鼻歌を歌いながら、おひい様の捜索開始ですね!

 ちなみに反応する水晶玉っぽいやつは一つしかありませんので、全員で手分けする意味はありません。

 その玉を持っているシカ角お姉さん以外の人たちは、単なる町の散策になってしまうのですが、まだ全員気づいていないわけです。

 微妙なところで抜けているドラゴンさんたちなのでした。


「わわわ、ヤマトの街って不思議!」


 そして一人意味のある捜索をしているシカ角さんですが、自転車で繰り出した街の様子にお目々がキラッキラ。

 見たこともない建物や、不思議な服を着た人々、それに意味の分からない道具などなどがひしめきあいます。


「あ、一時停止するのよね、ここで」


 しかしちゃんと交通ルールを勉強したシカ角さんは、安全運転で街の散策を続けます。

 あっちできょろきょろ、こっちでお店を覗き、そっちでちょっと一休み。

 なかなか充実した、ちたまにっぽん探検ですね。


「このはんばーがーっての、美味しそうね……」


 やがて、ふらふらとファーストフード店へ誘われ……たっぷりポテトとどっしりバーガーで腹ごしらえです。

 今日運動する分以上のカロリーを摂取したシカ角さんは、お腹のお肉と戦いを続けるのでした。

 それはともかく、彼女の捜索はすでに散策となっており、頼みの水晶も変化はありません。

 早々に、行き詰まっているのでした。


「……おかしい、お腹のお肉が増えた気がするわ。こんなに運動しているのに……」


 そりゃさっきLLサイズポテトと、メガのついたハンバーガーを食べましたからね。

 お砂糖たっぷりのジュースもLLサイズだったのですから、増えることはあっても減りませんよ。

 なまじ勾玉の換金で財があるため、こうした誘惑にすぐ負けるドラゴンさんたちです。

 特に彼女のお腹は、だいぶ摘まめる水準で余っておりましてこれ。

 このままいくと、ある日手持ちの服が着られなくなっていることに気づいて、めっちゃくちゃ焦りますよと。


「これは、まずいわ……。便利なやつの反応も、全然変化がないし……」


 その身に深刻なお肉余りを抱えたシカ角さん、自転車を停めて真剣に悩み始めました。

 水晶玉を見つめ、お困り顔です。


「……あら? あれは何かしら?」


 なお、水晶玉の向こう側にたい焼き屋さんが見えました。

 またもやふらふらと、甘くて良い匂いのするお店に引き寄せられております。


「おさかなの、お菓子なの?」

「いらっしゃいませー。カスタードたい焼きがお安くなってますよー」

「それください」


 あああ、今度はたい焼きを買い食いするようです。


「あとですね、安納(あんのう)芋たい焼きもお勧めですよー」

「アンノウイモ? それもください」

「まいどー」


 店員さんの言うがままに、お勧めの品も追加です。

 これはもうあれですね、数日後に顔が丸くなっているのに気づき、焦るやつかと。

 顔を洗ったときにほっぺの感触で「あれ?」となるって聞いたことがありますよ。


「いざ、参る」


 そして美味しそうなたい焼きを調達したシカ角さん、公園のベンチに座って実食です。


「あららら、これは甘くて良いわね!」


 まずはカスタードたい焼きを一口食べると、その甘さにもうウッキウキです。

 しっぽをくねくねさせて、喜びを体で表現しちゃいました。


「お安くなっているのでこれなら……じゃあこの、ちょっとお高めのお勧め品は……」


 カスタードたい焼きをあっという間に胃袋へ輸送した彼女は、お次に安納芋たい焼きを見つめました。

 なにせお店のお勧め品で、お値段からすると期待が高まります。


「では、こちらも――!」


 お芋のたい焼きを食べたシカ角さん、その切れ長なお目々がカッと開きました。

 しっぽもピーンと伸びています。


「こ……これは……私の大好きなお芋味!」


 そういえばそうでしたね。ドラゴンさんたち、甘~いお芋が大好きなのです。

 この謎の地であるヤマトにて出会った、ソウルにビビっと来る味がそこにはありました。


「すいません! このお芋のやつ全部ください!」

「まいどー」


 慌てて再度お店に向かったシカ角さんは、安納芋餡のたい焼きを買い占めです。

 自転車のカゴにいっぱい詰め込んで、ニコニコ顔でおうちに帰りました。

 お芋に目がくらんで、おひい様の捜索は忘れたようです。

 まあどこを探しても成果が出ないので、ぼちぼちやるしかありません。

 たまにはこういう息抜きも、良いのではと思います。


「みんな! これ! この食べ物は美味しいお芋の味がするわよ!」

「「「キャー!」」」


 その日は戻って来た仲間たちと、お芋のたい焼きでお祭りです。

 彼女たちみんな大好き甘~いお芋味ですので、充実したおやつとなったのでした。


 ――それから数日後のことです。


「今日も捜索、がんばるわよ」

「「「はーい」」」


 今日も今日とて、ドラゴンさんたちはおひい様を探します。

 もちろん、奈良の町にある様々なお店で買い食いをしながら。

 しかし異変が起きました。


「あら? なんかジテンシャが、『ミシッ』とか鳴った?」

「気のせいじゃない?」

「とりあえず、出発しましょう」


 シカ角さんの自転車から、ミシミシ音がしております。気のせいではないですね。

 しかしその時は特になんとも思わず、出発してしまいました。


「……なんだか、最近疲れるわね……」


 自転車で移動中のシカ角さん、息が切れるのが早くなっておりますね。

 そりゃあ、けっこうおふと――ですから。坂を上るのも、一苦労です。


「気のせい……気のせい……」


 何かを見て見ぬふりをしている彼女ですが、ひたひた、ひたひたと何かが迫っております。

 そして、ついに――。


「ひっ! お洋服のボタンが飛んだわ!?」


 しま〇むらで買ったお気に入りのブラウスの、お腹のボタンがはじけ飛びました!

 とうとう、お洋服の許容量限界を迎えたのです!


「う、うわ……これはさすがにまずいのでは。と言うか恥ずかしい」


 毎日自転車で楽をして、どでかバーガーとポテトを食べていたシカ角さんです。おまけにおうちでは、甘いお芋のおやつまで。当然それ以外に三食もりもり食べております。

 その成果は見事に現れたのでした。


「お、お肉……せめて隠さないと……」


 慌ててお腹を押さえる彼女ですが、どうにもなりません。

 見栄張って一サイズ小さなブラウスを買うからですよ。

 まあ、諦めて大きなサイズを買ったら買ったで、油断が加速するのですが。

 痩せたいなら、タイトな服を選択して戒めにするのは、なかなか良い手段ではあります。

 でもシカ角さんは、見栄で小さいのにしただけですけれど。


「じ、じーゆーだったら回避できた……?」


 そういう問題ではありません。どこのブラウスでも、そのサイズだと結果は同じですよ。

 というか妙に庶民的アパレルブランドに詳しくなってますね。

 ドラゴンだっておしゃれしたい! そんな彼女の執念が垣間見えます。

 まあそれは置いといて、今はこの緊急事態に対処する必要があるわけなのですが……。


「あ、あら? この看板なにかしら?」


 その時、お腹を隠すためうずくまったシカ角さんの目に、一つの看板が映りました。


「――痩身エステ?」


 立て看板には、エステサロンの痩身コースがお手頃料金とともに記載されています。

 その文言を見て、シカ角さんの目がキラリと光りました。


「痩せられるの……?」


 痩せるのではなく、お脂肪を移動させてそれっぽくする施術ですね。

 それでも、意外と狙ったところがしばらくは萎むのです。なかなかどうして、短時間ごまかすには効くやつ。

 他にも時間をかけて、実際に質量をなんとかするコースもあるとかなんとか。


「入って、みましょうか……」


 後が無いシカ角さんは、ふらふらと……エステサロンへ、入っていったのでした。

 そして二時間後――。


「おーほほほほ! お腹が引っ込んだわ!」


 サロンの前で高らかに笑うシカ角さんが!

 ボタンが飛んだブラウスもちゃちゃっと直して、見た目は何とかなった彼女がそこにはおりました。


「このエステってやつ、凄いわね!」


 ちたまで洗練されたエステを体験し、もう首ったけです。目が虚ろですね。

 なにせ危機的状況を、たった二時間で救ってくれたのですから。

 シカ角さんは、もうエステの虜となってしまったのでした。


「ま、また来ましょう……」


 こうして、シカ角さんはたまにこっそり、エステ通いをすることとなりました。

 ちたまで悪い事ばっかり覚えていきますね。

 放置したらあかん子ですよ。



 ◇



「えーすて! えすて!」

「ですよね! エステ最高ですよね!」

「「「キャー!」」」


 おかしいな、おひい様捜索の話だったはずが、いつの間にか買い食いがメインとなり、最後に熱くエステを語るフェーズに突入したぞ。

 女子エルフたちも、大好きな『えすて』の話が出て、もうキャッキャしておるわ。

 でもなんでそれにハマったのか、というきっかけと原因が、なんだかぼかされている気がする。

 今聞いた話では「ある日自転車をこいでいたら、ふとお店を発見した」としか言っていないが……本当にそうなのかな?

 その間に何か、ドラマがあるような気配がするのだが。


「何にもなしに、エステサロンへ入ったのですか?」

「そ、そうですよ? 何か問題でも?」

「いえいえ」


 シカ角さんがキョドりながら目をそらしたが、これは~何かを隠しておるな。お父さんそういうのわかっちゃうんだよお。

 ただあまり突っ込むと地雷を踏みそうなので、追求はしないでおこう。

 俺は危機管理には自信があるんだ。


「タイシタイシ、そのおいもって、あまいです?」

「話に出てきた安納芋ってのは、めっちゃ甘くて美味しいやつだよ」

「きょうみあるですね~」


 おっと、ハナちゃんはお芋のほうに興味を惹かれたようだ。お花よりお団子である。

 安納芋はすぐには用意できないから、約束だけはしておこう。


「すぐにってわけにはいかないけど、見つけたら持ってくるね」

「たのしみです~」


 ハナちゃんはお芋が楽しみなのか、ご機嫌でうふうふしているね。

 この話が終わったら、ネット通販でも探してみるか。スーパーじゃなかなか見かけないもので。


「ま、まあそれでエステにハマってしまいまして……お金がその……」

「安くはないですからね」

「ええまあ」


 お芋について考えていたら、シカ角さんがお話を戻してくれた。

 かなり言いにくそうにしていたが、エステ通いをしたらお金が飛んでいく。

 ちたま文明の誘惑に、抗えなかったのだ。


「どうしようかと思っていたところ……これを思い出したのです!」


 そしてシカ角さんが、巻物を取り出した。達筆で読みにくいのだが、「美容大全」と書いてあるのかな?

 隠蔽の術を探すときに、偶然見つけたやつだったか。


「おうちでできれば、お金を節約できるかなって」

「さようで」


 動機がとても不純であることは、良くわかった。

 ただ、これが今に繋がっているんだろうな。


「それで、上手く行ってしまったのですよね?」

「そうなんです! この巻物本当にすごくて!」

「試しにやってみたら、お肌トゥルットゥルになったんだよ~」

「あれは衝撃だったね。今までの苦労なんだったのってね」


 あっ、ドラゴンさんたちの目が虚ろになった。この巻物に洗脳されておる。

 もうここまでくると、その巻物は魔導書なのではないか? あぶない感じがするのだが。

 まあ俺がエステするわけじゃないから、気にしないでおくか。

 彼女たちは幸せそうなので、それで良いのではと思う。俺は危機管理に自信があるからね。


「それから通っていたエステサロンに頼み込んで就職して、この巻物技術を応用していったのです」

「大本は、一般サロンだったのですね」

「かなりの凄腕で、当時から繁盛していましたね。私も、そのお店でまだまだ教わりたいことはあったりします」

「なるほど」


 もともと腕の良いサロンと出会ったのが、良かったんだろうな。

 そこで感動してしまい、ドラゴンさんたちが暴走を始めたということか。

 ことは美容の話であるわけで、もう止めることは不可能である。

 なんだかんだで彼女たちも、ちたまにっぽん生活を満喫していて何よりだね。


「ただやっぱりおひい様の捜索も必要で、デンシャで遠出もするようになりました」

「その時はあんまり遠くには行けなかったけどね。にっぽんを旅するの、一人じゃ無理だったからね」

「ヒコーキは怖くてむりだったよ~」


 まあエステに拘泥していたわけではなく、捜索も当然続けていたようだ。

 主に電車利用で多少の遠出って感じか。飛行機はむりだったんだね。

 うちの村の住人たちも、後戻り出来ないところまで隠しておいたからね。

 荒療治で乗せたから、自由意志に任せていたら今でも飛行機は乗っていなかっただろう。

 現代人だって、飛行機ぜったいやだ! と言う人はそれなりにおられる。

 無理もない話だ。


「ハナたちは、ヒコーキのったですよ~」

「あら! それは凄いわね! 子供なのにえらいわ!」

「うふふ~」


 ハナちゃんは飛行機乗ったよアピールしたら、シカ角お姉さんが素で驚いて褒めている。

 頭をなでられたハナちゃん、またもやご機嫌だ。


「ちなみにそれからは、猛勉強してエステの資格を取ったり、サロンで働いて活動資金を稼いだりして過ごしました」

「身分保証などは、どうされました?」

「シヤクショってところで、術をごにょごにょと……」

「ですよね」

「ですね。増幅石様々です」


 なるほど、結構スレスレなやり方だが、出来なくはないな。

 ただ細かく調べられると、履歴に矛盾が出るので何かあるとめんどくさいことになる。

 あとで色々洗浄しておこう。半年はかかるけど、まあ比較的安全だ。

 これもスレスレだけど、ごめんなさいってことで。


「ただ、活動をするうえで……別れもありました。私たちを匿ってくれたあの方です」

「別れですか?」

「はい、あの方に新たな道が見つかったのです」


 そういえば、ボイラー技士さんは今立派な仕事に就いているって話だったな。

 技士さんではない、別の職業ってことなのだろうか?


「その方は、今何をされておられるのですか?」

「沖縄で、ホテルの支配人をされておられます。本部町と言うところですね」


 え? なんか知っている名前が出てきたぞ?

 どういう事だ?


「詳しく教えて頂けますか?」

「はい、あれは夏の終わりごろのことです」


 今度はウィスキーをラッパ飲みしながら、シカ角さんが語る。

 ボイラー技士さんに訪れた、一つのチャンスについてのお話を。


シカ角さんの個人情報は守られた

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] まむしペダル と言う訳で、足はないけど尻尾で器用にペダルを漕ぐ蛇さんの図です。 足はないけど自転車と言う足を手に入れ、人探しも捗ると思いきや、なぜか街角グルメリポートが始まりました。 買…
[一言] そうです! ご飯を頑張って減らしても、 甘い奴達は見逃せないのです! よく聞く、お菓子しか食べてないから、 痩せちゃうわ~ ・・・ソレ何処の世界の話なんですか? やはり!運動!これが正義! …
[一言] おっふ、まさかのあの人w うかつキツネさん見て大騒ぎしてなかったのは過去が有ったからか
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ