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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第二十五章 この世界のどこかに
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第三話  警備員さんの受難


 ここはとある世界の、とある古墳。

 ドラゴンさんたちが調査していた時の事です。


「こ、こら君たち! そそ、そこで何をしている!」


 強力な懐中電灯で侵入者を照らしながら、もうすっごい震えた声で警棒を構える、警備員さんがおりました。

 お年のほどは、五十代始めくらいかな?

 職務を全うすべく、怖いながらも侵入者を確認しようとすっ飛んできたのです。

 ここは宮内庁管理の古墳ですので、番小屋に警備員さんが居たのでした。


「キャー!」

「オバケー!」

「でたああああああ!」


 これにはドラゴンさんたちもびっくり!

 見たこともない恰好をした、自分たちとは違う野太い声でやってきた存在に大パニックです!


「女だと……。あり? なんだこの人たち、下半身が、へ、蛇……!」


 そして警備員さんも、ライトで照らしたドラゴンさんたちの姿を見て――。


「――……」


 ぱたりと倒れ、気絶してしまいました。まあそうですよね。

 真っ暗な深夜、立ち入り禁止の古墳に……下半身が蛇の人が何人もいるわけです。

 このホラーな展開に、普通の人ならオチるのも仕方がないというもの。

 良い感じに彼女たちのネコのような目がライトに反射して、そりゃあもう怖さ倍増だったりもしますし。


「これ、なんなのかしら」

「人なのかな?」

「こんなの居るの?」


 突如現れて気絶した、警備が出来ていない警備員さんですが、ドラゴンさんたちはこわごわと棒でつんつんしています。

 初めて見た、ちたま人の男性ですからね。とりあえずその辺の枝でつついてみたくなるものですよ。


「……はっ!」


 しかしつつきすぎたのか、警備員さんが目を覚ましてしまいました!

 ドラゴンさんたちぴんち!


「こ、これは夢なのか……? そうに違いない。と言うかここで仕事しないと、またクビになってしまう……」


 ドラゴンさんたちを恐怖の目で見つつ、何やら葛藤を始めた警備員さんですね。

 職務を遂行しないと、色々大変なようです。

 でも夢なら逃げても良いのでは?


「まあ夢だからといって、仕事だから逃げ出せない。マニュアルどおり通報しよう……」


 生まれたての小鹿のように膝を震わせながら、警備員さん立ち上がりました!

 必死に「これは夢だ」と自分に言い聞かせながら、お仕事をしようとしています。

 夢だと思うなら逃げましょうよ。


「弱そうね」

「これなら取り押さえられそうよ」

「しばりつけて逃げちゃいましょうか」


 その姿をみたドラゴンさんたち、これなら何とかなると確信を深めております。そして、じりじりと包囲網を縮めておりまして。

 ぴんちなのは警備員さんのほうなのでした。多勢に無勢ですよこれ。


「いっせーのでかかるわよ」

「わかったよ」

「いっせーのだね」


 ひそひそと話しながら、獲物を包囲するドラゴンさんたちです。

 さようなら、警備員さん……。


「いっせーの!」

「「「わー!」」」

「ぎゃあああああ!」


 哀れ警備員さんは、ドラゴンさんたちの餌食となってしまいました。

 ただ捕縛されるときにグラマラスな彼女たちの「ぷるるん」があったので、結構幸せそうな顔もしたような……。

 それはそれ、これはこれ、なのかな?



 ◇



 翌朝になりました。今日はとってもいい天気ですね。

 ちゅんちゅんと雀の鳴き声とともに、おはようございます!


「それで、警備員一名が行方不明と」

「はい。連絡が付きません」


 大事になっていますよ、警察がすっごい来ています。

 人が一人行方不明になっていますからね。そりゃあ当然です。


「争った形跡があるとのことですが」

「こちらです」

「確かに……それで、警備は一人で行っていたのですか?」

「最近肝試しかなにかで入り込もうとする若いのがおりまして、それを防ぐ目的でした。ですので人員は一名しか配置していなかったです。監視カメラも無いですからね」

「発覚は……朝の交代時間ですか」

「そうです。具体的な時間は不明となります。ただ深夜に、悲鳴を聞いたとは近所の方が言ってました」


 そうしている間にも、着々と事情聴取は進んで行きます。


「こちらは、箸募古墳です。警備員男性が行方不明となり、警察が捜索を開始しました。現場には争った形跡があり――」


 テレビ局も来ていますね。これ、ヤバいのでは……。

 そしてこの事態を巻き起こしたドラゴンさんたちはというと――。


「もがー! もががー!」

「ヤバいよ~……凄いなんか集まってるよ~……」

「あの赤くピカピカひかってるのはなんだろうね! 凄い速さで動いてるね!」

「あの洞窟も消えてしまって、どこに逃げたら良いの……」


 捕獲した警備員さんに猿轡(さるぐつわ)を噛ませ、縄でぐるぐる巻きにして囲んでおりました。

 今は古墳から見えるところにある、三輪山のふもとら辺にある雑木林に潜伏中です。

 何名かが木に登り、大騒ぎになっている現場を見つめていたのでした。目が良いですね。


「というか、これどうしようかしら」

「もがー!」

「指南書に対処法があるか調べてみるわ」


 状況がカオス過ぎてどうしようもないため、シカ角さんが巻物を調べ始めました。

 それでなんとかなるのですかね?


「う~ん、『状況を説明して、助けてもらうのが一番』と書いてあるわ」

「そうなんだね」

「それで何とかなったら良いよ~」


 ダメだと思いますが。


「とりあえず、やってみましょう」


 そうしてシカ角さんが、こわがる警備員さんにとつとつと、今までの出来事を説明しました。


「そんなわけで、私たち困っているのです」

「ううう……辛かったんだねえ……」


 あっさりと警備員さんがオチました。動物たちが帰って来なかった話のあたりで、もう号泣してましたね。

 こういう話に弱いようです。チョロ――おっと、良い人みたいですねこの方は。


「とは言え、私はお金もないし力もない人間でして……。みなさんを助けたいとは思いますが、どうすればいいのか……」


 ただ普通の人が異世界人を助けるのは、とても難しいのも事実です。

 大志たちみたいに、それが生業みたいな存在は、ほぼおりません。

 警備員さんは、悩んでしまいました。

 そもそも大騒ぎになっているので、まずそれを収拾せねばなりません。


「とりあえずみなさんは、ここに居てください。出来たら、夜に迎えに来ます」

「……はい」


 警備員さんは、まずお騒がせしている現場をなんとかするようです。

 意を決した顔をしながら、山を下りて行きました。

 このまま逃げられてしまうかもしれませんが、ドラゴンさんたちにはどうしようもありません。

 じっと、彼を見送るしかないのでした。


 そして、夜のこと。


「……何とかしました」


 疲れ切った警備員さんが、普段着で山に現れました。

 ずずんと沈んだ顔が、とても心配です。


「仕事をクビになってしまった……」


 あ~……。


「な、何かご迷惑をおかけしてしまいましたか?」

「いえいえ、気にしないでください……」


 人が良すぎますよ……。でも、騒ぎは見事に治まりました。警備員さんの、多大な犠牲を伴いましたが……。


「ひとまず、車を借りてきました。皆さん乗ってください」

「車ですか?」

「定員十名の車ですから、まあ全員乗れるかと」

「乗る?」


 警備員さんの言っていることが判らないドラゴンさんたちですが、おとなしく後を着いていきます。

 ふもとのほうに、大志が乗っているやつと同じのが停まっていました。

 やっぱり輸送にはこれですよね。


「ささ、座席に座ってシートベルトをしてください」

「ええ……?」


 始めて間近で見る自動車に、ドラゴンさんたち目が点です。

 でもここでのんびりしていると、人に見つかってしまいますもので。

 警備員さんに詰め込まれるようにして、みんな車に乗りました。

 その後なんかわからない帯とかであれれ? となりながらも、なんとか準備完了です。

 ではでは、車を走らせましょう!


「それでは、行きますよ」


 その後、車内が大騒ぎになったのは言うまでもありません。



 ◇



「あや~、いきなりじどうしゃですか~」

「正直怖かったです」

「アレするかと思ったね! 自動車びっくりだったね!」

「まさか動くとは思わなかったよ~」


 いきなり自動車に乗せられたという話を聞いて、ハナちゃんびっくりお目々だね。

 俺もそこまで急展開はしなかった。というか、警備員さんとことんひどい目にあっている。

 お仕事も失って、彼は悪くないのに踏んだり蹴ったりだ。心配で仕方がないよ。


「その警備員さんは、大丈夫なのですか?」

「今から思うと、申し訳ない事をしました。ですが、今は大丈夫ですよ。立派なお仕事をされております」

「さようで」


 一リットルの紙パック焼酎をそのまま一気飲みしながら、シカ角さんが申し訳なさそうな顔をした。

 今は大丈夫と言っているから、連絡を取り合っているのかな?


「現在でも連絡は取りあってますか?」

「はい。おとといお電話したときは、元気そうでした。お仕事も順調だそうです」

「それは良かった……」


 どうやら警備員さんは、なんとかなったようだ。

 いい人が報われないのは、聞いてて辛いからね。


「しかし、みなさん苦労されたのですね」

「それなりに大変ではありましたが、比較として暮らしは楽だったかもと思います。最初から、にっぽん文明にずぶっと浸かりましたから」


 文明にずぶっと浸かった? 一体どんな暮らしをしていたのだろう。


「もうほんとずぶずぶですね。電気最高ですよ」

「確かに、電気は美味しいですね」

「まろやかです~」

「はい?」


 シカ角さんが電気最高と言うと、ヤナさんとハナちゃんが即座に同意した。

 しかし、おそらく二人の意図はドラゴンさんには伝わっていない。

 エルフにとって電気はとことん食べ物だが、我々はそうではないのだ。

 それは良いとして、車に乗った後どうしたのだろうか?

 続きを聞いてみよう。



 ◇



 ここはとある世界の、とある警備員さんのおうち。


「静かに入ってください。ここが私の自宅です」


 車で走ってたどり着いた先は、静かな住宅街の一軒家でした。

 灯りはついておらず、真っ暗です。


「これは、おうちですか?」

「ええ、家ですよ」

「ふしぎだね。見たこともない造りだね」

「二階建てとか、凄いよ~」


 きょろきょろしながら、ドラゴンさんたちがおうちに入りました。

 警備員さんは、周囲を見渡してから、玄関を閉めます。


「今から灯りを点けます。突然明るくなりますが、びっくりしないでください」

「はい」


 あらかじめ断りを入れたうえで、電気のスイッチをオンしました。

 途端に室内が明るくなり、リビングがお披露目です!


「……!」

「ほんとに、明るくなったよ~」

「これもふしぎだね。びっくりだね」


 心構えが出来ていたせいか、みなさんは驚きつつも声を抑えていますね。

 ここまでくる間に、さんざん車の中でキャーキャー騒ぎましたから。

 もう耐性は付きつつあるみなさんなのでした。


「今は一人暮らしですので、ある程度家の中は自由に過ごせると思います」

「こんな広いおうちを、一人で所有しているのですか? もしや権力者では」

「……いえ、妻と二人の子供がおりますが、実家に帰しておりまして」


 重いです。警備員さん重いですよ……。


「はは……前の勤め先で色々あって居られなくなりまして、今は家のローンを返すために一人で頑張っております。家族には迷惑をかけられないもので……」

「言っている内容は良くわかりませんが、大変なのはなんとなく伝わりました」


 ――重すぎます! でも警備員の仕事はもう、アレなんですよね。

 このドラゴンさんたち、ヤバいほど迷惑かけてますよ。大変ですよこれ。


「キャー! なんか変な模様が映ったわ!」

「こっちはなんか、水が出てきた!」

「この箱、開けると冷たい風が出てくる!」


 こっちで重い話をしている隙に、他の方々はおうちの家具とかで大騒ぎを始めました。

 リモコンをいじったらテレビが点いて驚いたり、蛇口をひねってびっくりしたり、冷蔵庫を開けちゃ閉めしてキャッキャしてますね。

 たくましい方々です。さすが精鋭部隊ですか。


「はは……仕事をまた探さないと……」


 そして元警備員さんがどよよんとしております。家の中でドラゴンさんたちが騒いでいますが、それどころではないようで……。

 なんとかしてあげたいとは思いますが、見守るしかないのがどうにもですね。


「……お仕事ですか」

「まあ、何とかします」


 その話を聞いたシカ角さんは、ふむむと考え込みました。

 大迷惑をかけている以上、どうにかしないといけません。


「よろしければ、占って差し上げましょうか?」

「占いですか?」

「はい。私たち、そういうの得意ですので」


 シカ角さんを筆頭に、ここに居るドラゴンさんたちは、森でもトップクラスの巫女さんたちです。占いには自信があるのでした。

 しかし警備員さんは現代文明に生きるちたま人であって、すっごい怪訝そうな顔です。


「では、準備しましょう。みなさん、占いしますよ」

「「「はーい」」」

「え?」


 と言う事で、警備員さんの返答も聞かずに準備が始まりました。

 どこかから道具がしゅぴっと出てきて、ひとんちのリビングに勝手に祭壇が構築されて行きます。


「何が始まるの……?」

「占いです」


 きょとんとする警備員さんを置き去りにして、準備完了ですね。

 けっこう神道っぽい祭壇が出来上がり、シカ角さんとひつじ角さん、そしてヤギ角ちゃんが配置につきました。

 ほかの五人もまわりを囲み、背筋を伸ばしてレディ状態です。


「では、始めます。かしこみかしこみ~」


 しゃんしゃんと儀式が始まり、水晶玉にゆらゆらと炎が浮かびます。

 これ、おひい様探知用のとは別のやつですね。

 占い専用のものみたいです。


「……なるほど」


 やがて占いの結果が出たようで、シカ角さんがふむむという顔になりました。


「『あれが高く売れるので、それを資金にしたら?』だそうです」


 そう言いながら、エメラルドグリーンの勾玉を取り出しました。ヒスイっぽいですね。

 でも、職探しの占いではなかったのですか? 思いっきりオーダー無視ではないかと。


「と言うことで、これをなんとかすれば、よろしいかと」

「ええ……?」


 話についていけない警備員さんですが、そそそと勾玉を渡されてしまいました。


「ま、まあ質屋さんか宝石商に行ってみます……」

「シチヤサン? でもなんとかできるのであれば、そうして頂ければと」


 そんなわけで、翌日です。

 仲良くリビングで雑魚寝したドラゴンさんたちですが、すっきりお目覚め。

 その様子を見て大丈夫だと安心した警備員さんは、とりあえず車を返しがてら、町に向かったのでした。

 ちなみに全員朝食抜きです。


「い、一千万円になりましたよ! あれ売っちゃって良かったんですか!?」


 午後になって帰ってきた警備員さんは、めっちゃ驚いておりました。

 どうやら、凄い額になったようです。


「そのイッセンマンエンは良くわかりませんが、何とかなるでしょうか?」

「もちろんです! しばらくはこれで持ちますよ!」

「良かったです」


 なんだかんだで元警備員さんとドラゴンさんたちは、活動資金を得たのでした。

 占い当たりましたね! 良かった良かった!

 こうして、両者の不思議な不思議な奮闘が、始まったのでした。


「ちなみにですが、先ほどこの変なものから音が鳴りまして、持ち上げたら人の声が」

「はい?」


 シカ角さんが指さしたのは、固定電話ですね。受話器が上げられて、電話機の横に置かれています。


「返事をしたら『なんで女の声がするの? まさか若い女を連れ込んでいるのかしら?』とか聞こえてブツっとなって、それから聞こえなくなりました」

「なんですと?」


 元警備員さんが慌てて着信履歴を確認し、その表示をみて青ざめます。


「つ、妻からの電話……! あああああ、絶対誤解されたあああああ!」

「どうされました?」

「ヤバイ、ヤバイぞこれ……」


 どうやら奥さんからのお電話に、シカ角さんがわけもわからず出てしまったようです。

 元警備員さんが言うように、完璧に誤解されましたね。

 とことん、ドラゴンさんに振り回されるお方なのでした。

 めでたしめでたし?


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― 新着の感想 ―
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[良い点] 人情味のある警備員さん。 [気になる点] 今後の夫婦仲。 [一言] 何?警備員。奥さんに浮気と勘違いされてしまったって? 逆に考えるんだ、「奥さんも巻き込んでしまえばいいや」と考えるんだ。…
[一言] 憐れ警備員さん⤵ 自宅のローンを抱え、一人ぼっちの戦い(単なる単身赴任とも取れるが、家族が住む筈の家に一人・・・⤵) を頑張っていたのにね。 しか~し、転職警備員さんの月収を考えると、とてつ…
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