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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第二十五章 この世界のどこかに
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第一話  たった一つの見落とし


 催事に飛び入り参加した、ラミアっぽい見た目をした龍の女子三人からお話をしてもらった。

 それによれば、彼女たちの暮らしていた森が灰化し、みんなでお引越しをすることになったと言う。


「やはり、そうなんですね」

「やはりと言うと、あの森がダメになるやつについて、何かご存じなのですか?」


 思わずつぶやくと、シカ角さんが問いかけてきた。

 ほかの二人も、くるりんとこちらに顔を向けて「その話詳しく」的な顔をしている。

 今わかっていることについて、情報共有をしよう。


「えっとですね、こちらの方々も同じ目に遭いまして、うちの村まで避難してきたり連れてこられたりしたんです」

「たいへんだったですよ~」

「もうほんと、ダメかとおもったね! ダメかと!」

「ひどいめにあったさ~」


 軽く説明すると、それぞれの種族を代表してかハナちゃんとサクラちゃん、リーダードワーフちゃんが心底えらい目にあった感を醸しながらアピールする。


「なるほど、同じようなことがほかの世界でも起きていたのですね」


 そこまで聞いて、シカ角さんがふむふむ顔になった。

 続けて、この現象が起きた場所は同じ世界だと言う共通点も伝えておこう。


「それでですね、この現象に襲われたところって、同じ世界の近くの星同士なんですよ」

「近くの星? ですか?」

「はい、調査の結果、このような関係になっています」


 スマホで天体写真を見せながら、惑星エルフィンと衛星フェアリンやドワーフィンとの関係を地面に書く。

 そして、今まで謎だったうえ調査をほっぽり出して忘れていた、あの赤い衛星Xの画像とその推測位置も書き加えた。


「私たちの予想では、この赤い星がみなさんの暮らしていた世界かと考えています」

「なるほど……。確かに私たちのところは、地面が赤いところが多かったです」

「鉄が沢山なんだよ~」

「塩も沢山だけど、おかげで森以外で作物を育てられる土地を探すのが大変だね! あるにはあるけどね!」


 こちらの予想を伝えると、ドラゴンさんたちはそれぞれ土地の特徴を教えてくれた。

 なるほど、鉄と塩の星なのか。

 衛星Xが赤く見えるのは、酸化鉄が原因と推測出来るな。まだ断定は無理だけど。


「みんな、たんぼつくってたです?」

「ええ、主にお米を作って食べてたわ。雑穀とかもあったけど」

「たうえ、たいへんですよね~」

「そうなのそうなの、大変なのよね」

「ですです~」


 そしてハナちゃんとシカ角さん、田植え話で盛り上がり始める。

 ふふふ、来月当たり田植え準備始まるから、楽しみにしててねえ。

 大変なお仕事、待ってるんだよお……。腰痛いらっしゃいなんだよお……。

 それはさておき、色々気になる点もあるんだよな。

 エルフィン惑星系では、稲作をしている種族はいなかった。というか大規模農業をしていない。

 みんな狩猟採取が主なんだよな。ヤマトって言ってた話もあるしで、なんかちたまと関係ありそうなんだよこれ。

 ちと聞いてみるか。


「ちなみにこれが私たちの栽培している米なのですが、そちらで育てていたものと違いがありますか?」

「ジャポニカ米ですよね。私たちもそうでしたよ」


 お? なんだかすらすらと米の種類が出てきたぞ。

 ちたまにっぽんの基礎情報が普通に通じる?

 そりゃそうか、自動車免許取ってるくらいだ。一般常識と基礎教養はあるんだろうな。

 じゃあそれ前提で話せるのか。やってみよう。


「インディカ米ではなかったと」

「もしかしてよその森はにはあるかもですが、私たちは作っていませんでした。インディカ米のような品種は、おそらく気温が足りず育たないかと」

「ホッカイドウだっけ? あんな寒いところでお米作ってるって聞いて、びっくりしたよ~」

「私たちじゃ無理だね! そんな品種持ってなかったね!」


 お米の話で盛り上がるみなさんだけど、もう地理や気候とかも結構通じる感があるな。

 この人たち、どれくらい前からちたまにっぽんに居たのだろうか。

 その辺の話も聞いてみないと、良くわからないな。


「まあお米の話は置いといて、みなさんはどうやってこの世界に来られたのですか?」

「それがですね……」


 シカ角さんが語り始めた、その内容とは――。



 ◇



 ここはとある世界の、とある赤い星。

 灰化した森を脱出すべく、ドラゴンさんたちが慌てておりました。


「第一班は準備出来たわね! それじゃあ移動を開始して! 十五日で到着するはずよ」

「第二班もそろそろ大丈夫そうだよ~。明後日には移動出来るよ~」

「こっちはちょっと遅れ気味だね! 手伝いに行ってくるね!」


 全員の準備が整ってから移動すると大幅に遅延するため、ある程度の班に分けてお引越しのようです。

 荷車に沢山の食料や家財道具を積んで、仕舞えるものは仕舞って大忙しですね。

 準備に時間が掛かっているおうちは、後の班に回すなどの調整も大変です。

 三人のドラゴンさんたちが中心になって、みんなが無事移動できるよう采配しているのでした。


「こっちはちょっと手が空いたから、おひい様のお手伝いをしてくるわね」

「あとから行くよ~」

「忙しいね! 大変だね!」


 同時に、おひい様のお引越しもお手伝いですね。

 大事な大事なトップの人ですから、しっかりやりましょう。

 そうしてシカ角さんが、大きな建物に向かって行きました。

 ちょっと見守ってみましょうか。


「おひい様、私もお手伝い致します」

「ありがとうございます。では、あちらの方々と相談してください」

「わかりました」


 おひい様の暮らすおうちでは、十人位のお世話ドラゴンさんたちが、てんてこ舞いしておりました。

 大事な巻物を仕舞ったり、分解できる家具はバラバラにして仕舞ったり。

 荷車で運ぶものも選んだりで、大忙しですね。


「巻物おっも! これ全部持ってかなあかんの……」

「……おひい様、何かおっしゃいました?」

「いえ? 何でもございません」


 あら? ……まあともかく、みんな大忙しです。

 そうしてバタバタとしている間にも、次々とお引越しが行われていきました。

 数日後のことです。


「それじゃあ、次は私が班を率いるね! お引越しするね!」

「行ってらっしゃい。途中は大雪だから、気を付けるのよ」

「がんばるんだよ~。暖かい恰好していくんだよ~」


 ヤギ角の子が、班長となってお引越ししていきました。

 そのまた次の日は、羊角さんも。

 優秀な官僚である彼女たちもまた、班を率いなければならない立場なのです。


「本当は、おひい様と一緒に行きたかったのですが……」

「私は大丈夫ですよ。この方たちと向かいますので」


 シカ角さんは、おひい様とも長い付き合いです。妹のようにかわいがっていた彼女を残して、移動する事に無念さを感じているみたい。

 でも班を率いなければならない立場のため、どうしようもありません。


「私たちにお任せください。がんばればイケる予感が無きにしもあらず」

「たぶんなんとかなったら良いなって」

「何とかならなかったら、ごめんなさい」

「私たち、森の外に出るの初めてなもので」

「だ、大丈夫なのかしら?」


 優秀なおひい様のお世話係も、みなさん気合みなぎって……だいぶ心配ですよこれ。

 自信持っているの、おひい様だけじゃないですかね?

 シカ角お姉さん、めっちゃ不安をあおられております。

 お世話係さんたちのあまりの頼りなさに、シカ角お姉さんぷるぷる。


「大丈夫ですよ。いざと言う時の対処法も、こちらの巻物にありますから」


 そんなシカ角さんを励ますために、ベールの向こうでおひい様が巻物をしゅっと取り出したようです。

 じゃじゃーん! という効果音が鳴りそうなほど、自信満々なシルエットが見えました。

 すっごいくねくねしていますよこれ。


「ま、まあ……その巻物、凄いですからね」

「ええ、だから安心してください」


 どうやら、凄い巻物のようですね。シカ角さんも、納得の書物みたい。

 おひい様とて、奥の手はあるからゆえの自信なのですね。


「これほんま凄いんやから」

「はい?」

「何でもございませんよ」


 ベールの向こう側から、まかせときオーラが漂っております。

 ともあれ、お付きの人もおひい様も、この森の頂点とその親衛隊です。

 彼女たちの優秀さと巻物パワーで、乗り切れそうですね。


「では、私は明日移動を始めます。もし何かございましたら、この便利なやつでご連絡をお願い致します」

「はい。みなの事をよろしくお願いします。三日後くらいに出発しますので」


 こうして、シカ角お姉さんも、班を率いてお引越ししていきました。

 最後に残ったのは、おひい様の班だけ。

 本当なら、いの一番に移動してもらいたかったようですが、なにせ荷物が多すぎます。

 迷惑をかけるのを嫌ったおひい様は、自分のことは後回しにして、民を優先させたのでした。


 ――しかしこれが、おひい様がやらかした唯一の間違いだったのかも、しれません。

 シカ角さんがお引越しに成功して、三日後の事です。


「おかしいわ……もう到着しても良いはずよ」

「連絡してみようよ~。これはまずいよ~」

「何かあったかもだね! 大変だね!」


 無事お隣の森にお引越ししたみなさんですが、おひい様が予定を過ぎても到着しなかったのです。


「出発の連絡は予定通りだったのよね?」

「ちゃんと来たよ! 予定通りだったよ!」

「ミュミュ~」


 現地では、ヤギ角ちゃんが連絡を受け取ったようです。ネコちゃん便で送られてきた手紙を広げて、見せていますね。

 そこでは予定通りだったみたい。


「……すぐに確認しましょう。儀式をして、連絡を取るわ」

「準備するよ~!」

「巫女を集めるね! こっちの森にも協力してもらうね!」


 慌てて何かを始めるみなさんですが、ワーワーと行動を始めました。

 三時間くらいで準備が整い、儀式の始まり始まり!


「かしこみかしこみ~」


 しゃんしゃんと水晶玉みたいなやつに祝詞を捧げ、なんか色々やっておりますね。

 細かい手順があるようですが、神道っぽい感じかな?


『……はぃ……き……ました……』


 あ、なんか聞こえてきました。でもすっごい聞き取り辛いです。

 なんだか電波が遠いような、接続が悪いような……。


「お、おひい様! ご無事ですか!」

『げんき……ですよ……』


 ただ聞き取り辛いものの、元気っぽいですね。

 とぎれとぎれですが、状況がわかってきます。


「では、重量が原因で遅れているのですね?」

『はい……おもすぎて、ウマをやすませる……が……おおくて』

「今はどこにおられますか?」

『もりをでて……すこし……――』

「あ! 繋がらなくなっちゃったわ!」


 しかし、とうとう通信が途切れてしまいました。

 断片的な情報をまとめると、荷物重すぎでウマさんがお疲れみたいです。

 休み休みしているうちに、どんどん遅れたっぽいですね。

 森を出てちょっとしか進んでいない状況が、明らかとなってきました。


「……まずいわ、今一番寒さが厳しい時期だわ」

「そこで足踏みしていたら、大変なことになるよ~!」

「何とかしないとだね! 急がないとだね!」


 なんとかお引越しした三人は、途中の冬がとんでもなく辛いことを経験しております。

 そんなヤバい寒気が、今まさにあの森に迫っているのでした。


「こっちのおひい様に、協力をお願いしましょう」

「そうするよ~」

「それしかないね!」


 巫女だけの力では、もうあの便利なやつでも通信が出来なくなってしまいました。

 今頼れるのは、こちらの森のおひい様だけ。特別な力がある、森のトップにしか出来ないことがあります。

 三人は、慌てて面会を取り付けました。


「……状況はわかりました。何とかしてみましょう」

「お願いします!」


 こっちのおひい様は、とっても協力的でした。

 ベールの向こう側で巻物を見ながら、渡された水晶玉みたいなのになにやらむにゃむにゃやっています。

 やがて仕掛けが終わったのか、お付きの人に便利なやつを渡しました。


「……これで、ぼんやりとですが位置はわかるはずです」

「確かに、うちのおひい様がいらっしゃるらしき場所と、近い感じがします」

「……アレすると、反応が消えます。つまり反応がある間は、元気ですよ」

「ありがとうございます! 助かりました!」

「……お力になれて、光栄でございます」


 どうやら、何かのおまじないをしてくれたようです。

 水晶玉の中の、そのまたはしっこに、ぼんやり光る点が見えました。

 これが中心くらいになれば、現在地な感じですね。


「……この時期に、その位置やと……時間的に厳しいかもわからんな……」

「? どうされました?」

「……何でもございません」


 おひい様の現在地と状態を知ることができて浮かれたのか、シカ角さんはこっちのおひい様のつぶやきを聞き逃しました。

 しかしたとえ聞こえていたとしても、結果は変わりません。

 やるべきことは、ただ一つ。


「おひい様を迎えに行って、荷物の負担を減らすわ!」

「急いで準備するよ~。精鋭も連れて行くよ~」

「体力自慢を集めるね! 荷車も用意するね!」


 おひい様を助けるべく、三人と精鋭部隊は、迎えに行くことにしたのでした。


「……こちらも、出来る限り支援します。防寒具や食料など、必要なものを言って頂ければ」

「何から何まで、助かります。このお礼は、いずれ必ず致しますので」


 こちらのおひい様も、支援を惜しまないと約束してくれました。


「……必ず、生きてかえってくるんやで」

「はい?」

「いえいえ、がんばってください」

「はい!」


 たとえそれが、もう手遅れだったとしても。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 長いものには巻物 と言う訳で、みんなのハナちゃんが帰って来ましたね! 早速お祭りで飲めや食えやの大騒ぎをしたい所ですが、新規参戦組となったスネイクさん達は色々と大変な様で……。 旅の初心…
[気になる点] おひい様族は関西弁なのですね
[一言] 投稿=元気?の法則ですね、 更新、ありがとうございます。 ちょっと仕事が暇でお休みが増え、新しく契約したWi-Fiは楽しみ浪費の為、現界突破しまくり、、、月初めの更新はとてもありがたいです。…
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