第十七話 恐らくは、そこから来た
突如現れた魔女さんとドラゴンさんたちは、お祭りに参加してもらうことにした。
龍の三人は人探しがからぶってガックリだが、元気を出してもらう意味も込めてだ。
それに色々お話を聞いてみれば、もしかしたら手伝えることはあるかも知れない。
あとはフクロイヌが連れてきた動物たちの主人らしい点も、気になるところだ。
「ささ、ご遠慮なさらずまずは一杯」
「あらあら、これはどうも」
「そちらもどうぞ」
「ありがとうだよ~」
「お料理はこちらです」
「珍しいお料理だね!」
ひとまず接待を開始し、お酌したりお料理を勧めたりしてみる。
三人ともこういうのは好きなようで、桜を見ながらしっぽをくねくねさせているね。
「丁寧に仕込んであるお酒ですね」
「これは美味しいよ~」
「はい、秘伝の製法がありまして」
「しゃしゃ~」
二人のドラゴンさんは、うねうねちゃん仕込みのお酒を飲んでにっこりだね。うねうねちゃんも、褒められて嬉しそうである。
しかし秘伝とは言ったけど、その秘密がまさにここに居るのはご愛敬だ。
「こっちのお料理も美味しいね!」
ヤギ角ちゃんはお料理をバクバク食べており、体が小さいわりに摂取量がすごい。元気の子だからかな?
それはともかく、まずは気になっていたことを聞こう。
「それでですね、あのクモさんとか羽のあるネコちゃんとか、ガアガア言ってる子ですが……あの子たちは、みなさんのお友達でしょうか?」
「そうですね。生まれたころから育てて、色々役立ってもらってます」
「この子たちがいないと、大変なんだよ~」
「色々困るね、出来ることが減っちゃうね」
気になっていた動物たちについて聞くと、やはり彼女たちが主のようだ。
だからあんなに、人に慣れていたのか。
しかしそうすると、よくわからない点が出てくる。
「この子たちを連れてきたのは、フクロイヌという動物なのですが」
「そうなんですか?」
エルフィンで暮らすフクロイヌが、なぜドラゴンさんたちがお世話していた生き物を、運んでこれるのか。
……見てもらうのが早いかな。
「え~っと、フクロイヌはどこかな?」
「ハナがつれてくるです~」
「それはありがたい。お願い出来るかな?」
「あい~」
実際に見てもらおうと探していると、ハナちゃんが連れてきてくれるらしい。
ぽててっと動物エリアに走って行った。
「フクロイヌを、つれてきたですよ~」
「ギニャニャ~」
しばらくして、しっぽをふりふりしたフクロイヌを抱えて戻って来た。
さてさて、どうかな?
「あら、クロちゃんじゃない」
「わりとよく見かけたよ~」
「ついつい遊んじゃうんだよね!」
「ギニャ」
はたして、三人ともフクロイヌを知っていた。クロちゃんと呼ばれていたようだけど。
「あえ? しりあいです?」
「知り合いね。いつの間にか居て、いつの間にか居なくなる不思議な……イヌ? なのよ」
「ギニャ?」
続けてシカ角お姉さんがそう言ったけど、イヌかどうかは確証が持てないらしい。ただ不思議なのは確かだ。
気づいたら居るし、いつの間にか妖精さん世界に居たりした。
……まあ、洞窟を使っているかもしれない、という推測はあるのだけど。
未確認なので正直よくわからない。
「この子がみんなを保護していたようなので、可愛がってあげてください」
「……そうなのね。ありがとう」
「助かったよ~」
「ありがとね!」
「ギニャニャ」
わりと良く遊んでいたのは確かなようで、みなさんフクロイヌをこちょこちょだね。
可愛がり方も良く知っているようだ。
……このドラゴンさんたち、出身はどこだろうか?
「あの、みなさんは日本出身ですか?」
「いえ? 別の世界ですよ」
「さようで」
「はい」
何となくわかっていたが、日本どころかちたま出身でもないようだ。
あまつさえ、別の世界と言っている。つまり、異世界から来たことを認識しているのだ。
そしてフクロイヌという共通点がある。すなわち、一つの可能性が浮かび上がって来たわけだが。
「みなさんの世界の空には、こんな星がありませんでしたか?」
最終確認だ。フェアリンやドワーフィンから見た、エルフィンの写真をスマホに表示し、見てもらう。
「……はて、どうしてヤマトの人が、あの世界にある月の写真を……」
スマホに表示されたエルフィンの画像を見て、シカ角さんは首を傾げた。
ようするに、知っていると言う事だ。
つまりは……。
「あや~、タイシこれもしかして」
「最後の、あれですか」
「おそらく」
ハナちゃんとユキちゃんも、察したようだ。
そう、もしかしたらこのドラゴンさんたちは――エルフィンにある、あの謎の衛星Xの人たち、かもしれない。
「ねえ大志、いま『ヤマト』って聞こえたのだけど」
「自分も聞こえていたけど、そこはお袋に任せる。専門家だし」
「わかったわ」
さらに言うならこのドラゴンさんたち、何かがおかしい。
ここを明確に、自分たちのかつて居た世界とは違うと認識していて、それでもだいぶ適応している。
加茂井さんのお婆ちゃんから聞いた、かつて日本にいた龍だと言う話も気になるし。
なにやら、複雑な事情や来歴がありそうだ。
ただエルフィン惑星系に在住の人ならば、何かが起きてここにいる。俺はその対処をしなければならない。
歴史的アプローチはお袋に任せよう。
「一体みなさんに何があったのか、お話を聞かせてほしいです」
「わかりました」
「お話するよ~。事細かに話すよ~」
「忘れられないからね! あんなことはね!」
お酒やお料理を勧めながら、彼女たちの話を聞こう。
さて、何があったのやら。
◇
ここはとある世界の、とある星。
それぞれカラフルな模様をした蛇のような半身をもつ人たちが、のんびり暮らしておりました。
みんな違った角を側頭部からはやしていて、肌はやや褐色で黒髪の子ばかりですね。
「今日もお芋沢山採れたわね~」
「おやつにしましょうか」
ざくざくと木の根元を掘って、根っこをポキリと採取しております。
なんだかサツマイモみたいな感じかな?
「根っこを採ったところは、ちゃんとお水もあげておかなきゃね」
「そうね」
根っこを採取した後は、ざばばとお水もあげています。
なんとものんびりとした光景ですね。
「果物も採ったわよ」
「あら、ありがとう」
しゅるりと木の枝から逆さにぶら下がって、果物を渡す人もいます。
下半身が蛇っぽいので、樹上も自由自在みたいですね。
大変に機動力の高い人々なのでした。
「お芋蒸かすわよ~」
「みんなを呼んでくるね」
「田んぼに行ってくるわ」
やがて根っこを水洗いした後は、蒸かして食べるようです。かまどに火をいれて、テキパキとお仕事を始めました。
どこかに田んぼもあるようで、そちらでお仕事をしている仲間を呼んでくるみたいですね。
「おまたせ」
「そろそろ出来上がる頃かしら?」
そうして根っこが良い感じに蒸かしあがるころ、水田組がしゅるしゅると結構早い速度でやってきました。
二本足だと一歩で一メートルも進みませんが、彼女たちは一回くねると結構前進できるみたい。
移動速度も速い、なかなかの身体能力を持つようです。
「ちょうどできたから、みんなに配るわね」
「手伝うわ」
そんな彼女たちは、蒸かした根っこがとっても大好き。
みんなで一緒に、ほっくほくであっつあつのおやつを食べましょう!
「お仕事の後は、やっぱりこれね」
「甘くて最高だわ」
「これがなくちゃね~」
「お米も豊作だし、太っちゃうかも」
「あと少しで、収穫よね~」
楽しいおやつタイムに、半身が蛇の方々は体をくねくねさせて根っこをほおばります。
蒸かした根っこは、割ると中はホクホク黄金色ですね。本当にサツマイモみたいな感じで、甘くて美味しいみんな大好きおやつなのでした。
こうして日中はお仕事をしたり、おやつを食べたりしているドラゴンさんですが、夜は星を見上げます。
そこには、どこかで見たお月様が三つ、夜空に輝いていました。
一つは青く輝く、メロンのようなお月様です。
もう一つは、白くてかなり明るいお月様がありますね。
最後の一つは、薄茶色で自転している、大きなお月様なのでした。
「そろそろ、収穫祭の時期ね」
「おひいさまのところへ行って、奉納しなきゃね」
「ひさびさに、お姿が見られるわ」
「冬になる前の、楽しみよね~。特にあの踊り! 素敵だわ」
この星は、春夏秋冬の季節が巡る世界。
ドラゴンさんたちは、ちたまとよく似た周期で社会を維持しているようです。
収穫祭にはお姫様に奉納をしたり、そのお姿を見たりと楽しみなようですね。
どうやらおひいさまは、みんなに慕われているようです。
「でもおひいさま、あの場所から動けないのって、大変よね」
「大事なお仕事だもの」
「そのぶん、沢山美味しい物を持っていきましょ」
お姫様が慕われている理由は、とっても大事なお仕事をしている、という理由もあるようです。
移動制限のあるお仕事のようですね。
そのお姿を思い浮かべているのか、ドラゴンさんたちもくねくねとはしゃいでおります。
それでは、あの場所って所を見てみましょう。
ここからちょっと離れたところにある、それっぽい建物ですかね。
四面廂建物ってやつのようです。
結構大きいその建物は、お姫様が暮らすにはふさわしいおうちですね。
「おひいさま、今季は豊作ですよ」
「沢山お米が採れそうだよ~。楽しみだよ~」
「収穫祭やろうね! みんなで盛り上がろうね!」
おうちの中では、三人の娘さんたちが、くねくねとしながら近況報告をしていました。
その相手は……奥の方にある、ベールの向こうに居るようです。
「それは大変、よろしゅうございますね」
そのベールの向こうから、声が返ってきました。
まだ若いけれど、とってもお上品な声と話し方ですね。
シルエットをみると、くねくねして豊作を喜んでいるようです。
「冬支度も、抜かりなく進めて下さい」
「わかりました」
お姫様からは冬支度の指示も出たりと、指導者的立場の方みたい。
それになんだか、姿を衆目にさらさない気配りが見て取れます。
普段からその辺に当たり前にいる最高権力者とか、普通は無いですよね。
ここぞ! と言うときにしかお姿を見られないから、価値があるのです。
「最近は相談事も減っているようで、平和でなによりかと存じ上げます」
続けて、お姫様から近況に関する所感が来ました。
どうやら平和なようです。
「供物だけ貰うのは、気が引けますけどね」
「たまに凄いの混ざってるよ~」
「木彫りの像とかだね。あれは年々凄くなってくね」
ともあれ、彼女たちの社会は行政がしっかりしているみたい。
こうして春夏秋冬、季節を感じながら農耕をし、社会を維持しているのでした。
――しかしその次の日、異変が現れ始めました。
「……あら? これなんか苦いわね」
「こっちもだわ」
「芯が、灰色のやつがあるわね……」
いつものように、大好きな根っこを蒸かしておやつを食べていたら……味が変な物が混ざっていたようです。
「ねえ、なんか寒くなってきてない?」
「そうね、まだ冬はここまで来てないはずよ」
「どうしたのかしら……」
おまけに、気温もなんだか下がってきているみたい。
肩を抱いて、ぷるるっと震えるドラゴンさんたちです。
当然、おひいさまにもその報告は行きました。
「おひいさま、なにやら様子がおかしいようです」
「これこれこんなことが、あったよ~」
「あれとそれもあったね! みんなふあんそうだね!」
「分かりました。少し記録を調べてみましょう」
ベールの向こうにいるお姫様は、何やらごそごそとやっていますね。
筒みたいな物を取り出したっぽいシルエットが映り、しゅるるっと広げました。
巻物を読み始めたようです。
「……過去にこういった事例は、ございませんね」
どうやら過去の記録を参照していたみたいですが、こんな出来事は初めてのようです。
対処法など、ないのでした。
「突然変わったお天気の流れから、少し嫌な気配がいたします。収穫を早めましょう」
「しかしそうすると、収穫量は落ちてしまいます。冬越しが厳しくなるかと」
「その場合は過去に事例のあるとおり、あちらの森へと移動して凌ぐ方法が使えましょう」
お姫様はこの謎の事態に対処するため、過去の事例で実績のある方法へ落とし込むようです。
そうすれば、先人たちの知恵が使えるのですから。
「そもそも寒くなってきているよ~。確かに凍り付く前に、収穫早めた方が良いよ~」
「冬が早く来たのかもね! しょうがないよね!」
残りの二人も、お姫様の判断に賛成のようです。
こうして会議の結果、冬支度を早めて、収穫量の多寡によっては別の森に緊急避難を行う方針でまとまったのでした。
「移動先の森は、収穫量と移動開始時期に分けて、それぞれ候補と計画を作ります」
「おねがいします」
「事と次第によっては、冬の地域を横断することになりますので、みなに伝えておいて下さい」
「それは私がするよ~。移動先の森への連絡は、おひいさまにお願いするよ~」
「防寒具の準備もしようね! 寒いのは大変だからね!」
この時の会議におけるお姫様の英断と計画性が、その後の運命を決めました。
数日後のことです。
「キャー!」
「森が! 森が灰色になってきたわ!」
「泉もなにかおかしいの!」
森が、どんどん、どんどんと灰色に染まっていきます。
当然大好きだった、あのサツマイモみたいな黄金色の根っこも灰色に……。
「大変! 田んぼも灰色になってるわ!」
「ほとんどダメになっちゃってる!」
田んぼもダメになっており、収穫していなかった稲は全滅です。
本当なら大豊作だったはずの畑が、銀色の稲穂を垂れる哀しい状況でした。
ただ、救いはありました。
「早めに収穫できるものはしておいて、良かったわね……」
「おひいさまの言ったこと、守って良かった~」
「これなら、ある程度はなんとかなりそう」
嫌な予感がしたお姫様が、出来る物は収穫をしなさいと命令をしておりました。
そのおかげで、せっかく育てた食糧が全滅、とはならなかったのです。
「この収穫量で、これだと……計算上はこうなるわ」
「越冬は無理だね。食べ物が足りないね」
「おひい様が立てた計画で当てはまるの、これとこれだよ~」
この事態に対処するため、三人のドラゴンさんたちは一生懸命計算しました。
あらかじめおひいさまが立てた計画の、どれが当てはまるか数字と格闘です。
真剣な顔で検討会議が始まりました。
「嫌な予感が、当たってしまいましたか」
「おひいさまのおかげで、最悪は避けられそうです。食糧は、しばらくの間は大丈夫かと」
「ただ越冬は無理だよ~。移動することになりそうだよ~」
「夏を最大化するためには、この計画しかないね!」
現在の物資量と冬の期間等の現状を勘案した結果、一つの計画が選択されたようです。
「冬季突破案ですか」
「過去にも成功した記録があります。問題ないかと」
「物資量も、過去の計画よりは多く確保してるよ~」
「その通りにやれば大丈夫だね! 安心だね!」
過去に実績のある方法のようですが、三人娘は計算結果や巻物を見ながら、いけそうだと判断しているようですね。
「わかりました。その計画を採用いたします」
「それでは、準備に取りかかります」
「早めに動こうね! すぐに準備しようね!」
「忙しくなるよ~」
おひいさまからの承認も得られ、働き者の三人は、さっそく動きだそうとしました。
しかし――。
「……過去に実績があるとは言え、今回の事態に完全に当てはまるとは言えません。念には念を入れて、準備を進めましょう」
ベールの向こうから三人に向けて、若干の憂いを帯びた声で、おひいさまがそう伝えました。
「はい」
「わかったよ~」
「気をつけるね!」
三人娘も、キリっとした顔でお返事をします。
しかし誰一人として、これはまだ始まりであることに、気づいておりません。
災難は、この赤い星の動きに合わせて……じりじり、じりじりと、迫ってきているのでした。
これにて今章は終了となります。
引き続き、次話もお付き合い頂ければと思います。
どのみち大志の仕事が増えるので、応援してあげてください。