第十六話 再会
魔女さんとラミアっぽいひとたちが、わが村に突如訪れた。
相手方のお願いもあって、この四人を遺跡の祭り会場に案内する事となる。
現地には無線で状況やおひいさまの事も説明しており、今待機して貰っているところだ。
「わー! なんかお花畑がある!」
「不思議なところだよ~」
「整備がしっかりしているね! 手入れが行き届いてるね!」
案内途中は、村にある珍しい光景にみなさんお目々キラキラだ。
あとはこの村について、軽く説明しておかないとな。
それに伴い、いろんな人がいるんだよっていう事を、事前に認識してもらわないといけない。
でないとまた大騒ぎになる。
「えっとですね――」
ひとまず軽く、この村にはいろんな種族が住んでいる事、今はお祭り中なことを伝える。
もちろん難民保護の役割があり、村人はいろいろあって困った結果ここに避難してきた事も。
加茂井家が陰からサポートしてくれていて、ユキちゃんは関係者であるともぶっちゃける。
「ユキがそんなことを」
ユキちゃんの話をすると、魔女さんびっくり仰天だね。
「大変に助かってます」
「ああ、あの若いお稲荷さんの子ですか」
「良い毛並みしてるよね~」
「お得意さんだね!」
ラミアっぽい人たちも知っているというか、エステさんの研修で色々話したから顔見知りなわけで。
話しぶりからすると、キツネさんの正体完全にバレてましたな。
うかつな娘さんであるというか、あれでバレないほうと思う方がどうかしているというか。
「そんなわけで、不思議な人たちや動物たちが、ここで暮らしているのです」
「ある意味、ユキの家もそうですね」
「まあ似たようなものですか」
魔女さんはこのへん理解はあるか。なにせ、ユキちゃんちを知っているからね。
あの領域にも不思議な一族が住んでいるし、精霊っぽい存在がわんさかだ。
ただ異世界とつながっている領域というのは、うちを含めてそんなにあるかはわからない。
いくらかはあるだろうが。
「ちなみにですが、ここへはどのようにして来られたのですか?」
「レンタカーを借りて、私が運転してきました」
「なるほど」
隠し村までは、車で来たらしい。魔女さん運転か。
車が無いと「門」まで来るのはキツい場所なので、当然とも言えるな。
「私も免許はあるのですが、運転しながらこの便利なやつを見るのは無理でして。お願いしたのです」
「そうなんですか」
「私は免許もってないよ~」
「私も年がちょっとね!」
シカ角お姉さんも免許はあるらしいが、まあナビゲーター役してたってことだな。
残りの二人は免許取ってないみたいだけど、お姉さんが持っていればなんとかなるって感じか。
「ちなみに車はAT限定ですかね」
「ええまあ。マニュアルだと、クラッチ操作がその……」
「ですよね」
さらに興味本位で確認してみると、シカ角お姉さんはやっぱりAT限定だった。
下半身が蛇っぽいから、半クラッチできないもんね。
「WRXとか運転してみたかったのですけど」
「!?」
そんな雑談もしつつ、順調に遺跡まで進んでいく。
「もうすぐ着きますので」
「はい」
「おひいさまだよ~」
「早く会いたいね!」
おひいさまに会えるという期待は、微妙な感じがするのだけど。
ともあれ確認してみないことには始まらずだな。
「あ、見えました。あそこです」
やがて遺跡に到着し、入り口では数名のエルフたちとハナちゃんが待っていた。
親父と爺ちゃんもいるね。
「大志、その方たちか」
「そうだよ。一通り説明してある」
「こりゃまた、べっぴんさん揃いだな」
親父と爺ちゃんは、ラミアっぽい方々を見ても普通の対応だ。
まあ異世界人というか、ちたま人以外の人間を見慣れているからね。
「タイシタイシ~、おかえりです~」
「ハナちゃんただいま。待機中は大丈夫だったかな?」
「みんなで、にぎやかにやってたですよ~」
「なるほど」
ハナちゃんも特にびっくりはせず、のんびりした感じだ。
というか待機中に賑やかにやっていたらしい。
「エ、エルフ……!?」
「そうなんですよ。まあそれっぽい方々が暮らしてまして」
そして魔女さんはというと、エルフたちをみてぷるぷるしている。
まさかそういう存在が長野で暮らして、順調に長野県民化しているとは思わないだろうな。
まあ顔合わせは終わったので、次は本題のハナちゃんを紹介しよう。くねくねマスターだ。
「そんなわけで、この子がくねくねの踊りを極めた凄腕です」
「うふふ~。はじめましてです~。おどりには、じしんがあるですよ~」
ハナちゃんの隣に移動し、あたまをなでなでしながら紹介してみる。
すると――。
「ち、違ったわ……」
「ここまできて……」
「はふう~……」
案の定人違いで、ラミアっぽいひとたちガックシ状態である。
というかハナちゃんが「はじめまして」とか言っている時点でダメだったのだ。
「あえ? ハナなんかわるいことしたです?」
「いやいや、ハナちゃんは悪くないよ。人違いだったってだけで」
「そうですか~」
あまりに落ち込む三人を見て、ハナちゃんも心配そうである。
でも単なる人違いだから、ハナちゃんが何かをしたってわけではない。
くねくねダンスが見事過ぎただけなのだ。
「みんな、げんきだすですよ~」
あまりにガックシ状態の三人だけど、ハナちゃん元気づけのためにくねくねと踊り始めた。
この踊りが発端らしいので、とりあえずアピールかな?
「う、うわ! 見事なくねくね!」
「これはすごいよ~、まねできないよ~」
「憧れのくねくねだね!」
そしてハナちゃんの踊りを見て、三人がガババっと起き上がり、お目々キラキラになった。
蛇っぽい下半身なだけに、こういうの好きらしい。
ただハナちゃんと同じようにくねくねしようとしているが、腕とか上半身とかはマネ出来ないようだ。
だよね、そこ曲がらないよね。
「でも、ヘビさんとか縁起が良いですね」
「めでたいな~」
「いいことありそうじゃん」
ちなみに周りで見ていたエルフたちは、なんだかニコニコだ。
そういや、蛇は縁起がいいって文化だったか。
「あ、あら。友好的だわ」
「縁起が良いらしいよ~」
「そういえば、私たちを怖がらないね、不思議だね」
このエルフたちの視線を見たり発言を聞いて、ラミアっぽいみなさん意外そうな顔だ。
まあ姿を偽っていたらしいから、色々あったのだろう。
というか、普通のちたま人にまじって暮らしていたんだよね?
そりゃ大変なのもうなずける。怖がられるの間違いなしだし。
「それで大志、これからどうする?」
「あ~、どうしよう」
一通りの紹介は終わり、ラミアっぽい方々の人探しは人違いという結果となった。
じゃあこれからどうするかと、親父が聞いてきたわけだが……どうしよう。
「タイシタイシ、げんきだしてもらうために、おまつりにさんかしてもらうですよ~」
「まあ、それが良いか。せっかくだからね」
「あい~! せっかくだからです~」
目的叶わずで落ち込んじゃった三人だけど、ハナちゃんの踊りでくねくねする元気はある。
せっかくだからお祭りに参加してもらい、ひとまず励ましを兼ねて、息抜きがてらもっと元気になってもらおうじゃないか。
「ですね」
「それがいいべさ」
「おさけのんで、もりあがろうじゃん」
エルフたちもそれで良いようで、酒瓶を取り出してわははとにこやかだ。
俺もお祭り再開したいし、もうそれでいいよね。
「ひとまずですが、私共のお祭りを楽しんで元気を出して頂ければと」
「よろしいのですか?」
「探し物は、あわてても良い結果は出ませんから。ご心配でしょうが、今は英気を養う時ですよ」
「ですかね……」
落ち込み気味のシカ角お姉さんを言いくるめて、お祭りしようとそそのかす。
このままさよなら、というのもちょっとアレなので。
お酒を飲みながら、色々細かい話を聞きたいのもある。
「色々お話を聞かせてください。お酒はイケますか? 飲み放題ですよ」
「お酒は大好きです!」
「飲み放題だって~! 参加するよ~!」
「食べ物も沢山ありますので、無料で食べ放題です」
「食べ放題はいいね! 命の洗濯だね!」
お酒飲み放題というワードで、シカ角さんとヒツジ角さんがフィッシュ!
うわばみという言葉があるが、蛇さんなだけに大酒飲みなのかもしれない。
ヤギ角の元気ちゃんは、食べ放題で釣れた。まあ見た目中学生っぽいから、年齢的にお酒NGなのかもね。
「おねえさんも、どうぞです~」
「良いのかしら?」
「もちろんです~」
当然魔女さんもお誘いして、ひとまずお祭りを楽しみながら話を聞こう。
子猫亭のお料理もあることだし、沢山食べてもらいたい。
「では、会場に行きましょうか。今日はお花見をしているんです。桜が奇麗ですよ」
「わあ! 桜ですか。良いですね!」
「風情があって良いよ~。桜を見ながら一杯やるよ~」
「ここはまだ桜が咲いてるんだね! 楽しみだね!」
お花見と聞いて、ラミアさんっぽい方々も笑顔になった。
なんだか日本人的だな。まあ花を見ながらお祭りは、何処でもやるか。
そんなわけで、みんなで祭り会場へと移動する。
「うわわ! すっごい大勢人が!」
「おきゃくさんだね! おだんごどうぞ! おだんご!」
「たくさんあるよ! おだんごたくさん!」
「おびただしいほど~」
「えええええ! フェアリーが! 大志さんフェアリーが!」
会場入りすると、さっそく妖精さんの哨戒部隊が察知し、お団子を爆撃してくる。
魔女さんは妖精さんたちを見て取り乱しているが、その間にもお団子はどんどん増えていく。
物量の勝利だね。
「おだんごどうぞ! どうぞ!」
「あら、ありがとう」
「甘くて美味しいよ~」
「沢山貰っちゃったね!」
ラミアさんっぽい人は、妖精さんを見てもそれほど驚いていないな。
そういやハナちゃんやエルフたちを見ても、普通だった気がする。
まあ自分たちは蛇っぽい下半身をしているうえ、ちたま人に交じって生活していたわけだ。
いろんな種族がいると、わかっているからなのかな?
「ねえユキ! フェアリーがいるよ! ほかにも不思議な人たちが沢山!」
「ふふふ、驚いたでしょう」
「こんなのを隠していたなんて、ずるいよ」
「お仕事だもの」
あ、ユキちゃんもこっちに来たね。魔女さんとキャッキャしている。
でも耳しっぽあるユキちゃんも、不思議な人カテゴリなんだなこれが。
普通のちたま人である俺からするとだけど。
まあそれはそれとして、他のみなさんにも紹介を――。
「!?」
「!!!!」
「~!」
と思っていたら、なんかクモさんたちが飛び上がって驚いている。
咥えていたキャラメルをぽろっとこぼしたよ。
「ミュ!? ミュミュ~ン!」
「ミュミュミュ!」
「ミュ~!」
あれ? 羽ネコちゃんたちもだ。慌ててこっちに飛んできた。
「ガア!」
「ガアガア!」
カモノハシちゃんもだ。みんなどうしたのだろう?
走ってこっちにやってくるぞ?
「あら! みんな! どうしてここに!?」
「無事だったんだね! 良かったね!」
「心配してたんだよ~!」
と思っていたら、ラミアさんっぽい三人もクモさんや動物たちの元へと、するるっと移動していく。
……知り合い、なのか?
「~」
「この手触り、間違いないわね!」
「ミュ~ン」
「ごめんね、心配かけてごめんね」
「ガア!」
「元気そうで、安心したよ~」
シカ角お姉さんは、クモさんたちをなでなでして間違いないと言っている。
ヤギ角元気ちゃんは、羽ネコちゃんに群がられて謝っているな。
ヒツジ角おっとりさんは、カモノハシちゃんを抱きかかえた。
「あえ? しりあいです?」
「そうなの! この子たちが戻って来なくて、心配してたの!」
「諦めてたよ~」
「奇跡だね!」
この様子にハナちゃんが知り合いなのと聞いているが、どうやらそうらしい。
……一体全体、どう言うことだ?
この動物たちは、フクロイヌが運んできた子たちなのだけど……。
「……これはこれは、珍しい人たちが現れたねえ」
頭大混乱をしていると、ユキちゃんのお婆ちゃんがやってきた。
動物たちと再会を喜ぶ三人を見て、珍しい人とか言っている。
何か知っているのかな? 聞いてみよう。
「あの、この方々をご存じですか?」
「本人たちとの面識はないけど、種族は知っているよ」
「本当ですか!?」
どうやらどんな種族かは、ご存じらしい。教えて貰おう。
「して、その種族とは」
「大昔は沢山いたけど、いつの間にか絶滅した……龍の一種族さね」
「龍!?」
「大陸の方じゃ、ナーガとかラミアとか呼ばれてたけどね、もうどこにも居ないよ」
お婆ちゃんの話を聞くに、龍の一種らしい。こんなドラゴンがいるなんて、俺は知らなかった。
いや、絶滅したって話だから……かつてはいた、という事だ。
それがなぜ、現代に存在しているのだ。
「もう、いないはずなのですよね?」
「本来ならね。私もびっくりだよ。大和朝廷が出来上がるころには、もう居なかったはずさね」
かなりの昔に、いなくなってしまったらしい。
というか大和朝廷がとか言っているけど、なんでそれ知ってるのかな?
まあ、このお婆ちゃんは「昔から」うちの世話をしてくれている権現様なわけで、神話の時代もある程度わかるか。
しかし、と言う事はこのドラゴンさんたちは……一体何者なのだろう?
「キャー! 先生方! ご無沙汰してます!」
「あら、あなたここの住人だったの?」
「そうなんです! ここで日本語とかエステの通信教育勉強してました!」
「それは偉いわね!」
あ、エステさんもドラゴンさんの所へ駆け寄って、キャッキャしている。
何者かと考えたが、そういや公的にはエステサロンの経営者で、長野県在住ドラゴンさんか。
おまけに普通自動車運転免許も持っており、身分保証もバッチリであるわけで……。
かなり肩書しっかりしてた。あとで名刺交換しておこう。




