第十四話 みつけたー!
(おてすうおかけします~)
(のみすぎたね!)
(……ふらふら)
ドワーフちゃんビールにて撃墜された神様たちを救助し、巡回を続行する。
神輿は俺の頭の上でぴこぴこ、オレンジちゃんは右肩でゆらゆら、ブルーちゃんは胸ポケットへインしている。
「次は妖精さんたちだね」
「おはなのところにいるよ! あっちだよ!」
イトカワちゃんが先導してくれたけど、もう桜の木の周りがキラッキラで、すぐに分かるという。
あのエリアだけ、しだれ柳の花火があるような感じだよ。
「タイシさんきた! じまんのおだんごあげる! おだんご!」
「おいしいよ! おいしいよ!」
「たんとおたべ~」
キラキラエリアに近づくと、妖精さんによる哨戒部隊に早速邀撃された。
お団子食べてねアタックにより、様々な種類の自慢のお団子が集まってくる。
「いろんな種類があって、美味しいよ。流石お団子得意なだけあるね」
「ほめられちゃった! ほめられちゃった!」
「でしょ! でしょ!」
「じしんさく~」
お団子は様々な味と形で、並べられた物を右から食べていくと、一つのコース料理みたいな組み合わせであった。
まあ全部デザートなんだけど、一番右は酸味が強いお団子で、それから徐々に甘くなっていく。
途中でプレーンなまん丸お餅が挟まり、最後は濃厚キャラメル味のお団子であった。
妖精さんたちも、食べる順番というものを意識し始めており、お団子デザートコースを生み出しつつあるね。
新たな文化が、生まれたのかもしれない。
「~」
「――」
このエリアにはオバケたちも入り浸っていて、妖精さんたちからお団子を貰ってご機嫌であった。
こやつら、明らかにデレデレしておるわ。
「おうさまひさしぶり! ひさしぶり!」
「あそびにきました。あそびにきました」
そうしてお団子フルコースを堪能していると、脆化病を克服したあのこども妖精ちゃんと、そのお母さん妖精さんが挨拶にきた。
こっちも挨拶を返そう。
「久しぶり。二人とも元気だったかな?」
「たーくさんとんでるよ! たーくさん!」
「このこといっしょにとべて、たのしいです。たのしいです」
羽根が治った事が嬉しかったのか、親子で沢山飛んでいるらしい。
脆化病治療の成果が出ていて、こっちもがんばった甲斐があるという物だ。
思わずにっこりしちゃうね。
「おみやげにくっきーをやいたよ! どうぞ! どうぞ!」
「あっちでは、はやってきてますね。はやってます」
挨拶が終わると、今度はこども妖精ちゃんがフェアリンクッキーを取り出した。お礼の品か。
話を聞くと、フェアリンでは順調に流行しているようだね。
これもまた、嬉しい報告だ。
「クッキーありがとうね。とっても美味しいよ」
「ほめられちゃった! ほめられちゃった!」
「よかったです。よかったです」
果たしてこども妖精ちゃんの作ったクッキーは、素朴だけど気持ちがこもった、優しい味だった。
かすかにお花の香りがするあたり、アレンジもされている感じがする。
こうしてご当地クッキーとか生まれていくんだろうな。
「こういうおやつも、いいですね~」
「ほっとするあじさ~」
「おうちで、ゆっくりしているときのお菓子に良いですね」
「おいしいね! おいしいね!」
同行者のみなさんもクッキーを貰ったようで、ほっとする味が好評のようだ。
毎日食べられる、そんな日常の食べ物って感じだね。
こうしてほのぼのとした再会を喜んだ次は、身内エリアに向かう。
親父とお袋や加茂井さんのお婆ちゃんと、爺ちゃん婆ちゃんや高橋さんたちが集まっている所だ。
「みんな騒いでる?」
「おう、どんちゃんやってるぜ」
「まあまあ、座りなさいよ」
顔を出すと、親父とお袋が手招きした。
ちょっと腰を落ち着けて、ゆっくりしていこうか。
「子猫亭のオードブルをつまみに、ビールかっくらってる。大志もほれ」
「爺ちゃんありがと」
「あにゃにゃ」
ござに座ると、早速爺ちゃんがつまみを取り分けてくれ、シャムちゃんがビールを注いでくれた。
ちょっと一杯やっていこう。
「大志さん、もう一杯どうぞ」
「ユキちゃんありがと」
「わきゃ~ん、さらにもういっぱいさ~」
「どうも、ありがとうございます」
「じゃあじゃあ、ハナもやっとくです」
「あ、ありがと」
「せっかくだから、わたしもね! わたしも!」
「ご、ごちそうになります」
ということで、ちょっと一杯のつもりが次々にお酌されて、だいぶ飲んでしまった。
まあ酔わないから大丈夫なんだけど。
「そういえばユキちゃん、私らが観光に行っている間、こいつやらかさなかった?」
「特には無かったですよ。ほとんどお仕事されてましたから」
「本当? ユキちゃんに迷惑かけなかった?」
「え、ええまあ」
そしてお袋は、ユキちゃんにぐいぐい行ってる。
俺は特にやらかしとかなかったけど、お袋は信用していないようだ。
この疑われ様はなんだろうか。
「こいつほっとくと割と無体なことするから、心配なのよね。特にユキちゃんに」
「いえいえ、大丈夫ですよ」
そうそう、ユキちゃんに無体な事はしていないよ。毛繕いとかまでして、主に俺が喜んだほどだ。
「何かあったら、私に言ってね」
「え、ええまあ。大丈夫ですよ、逃がしませんから」
「うちの息子を頼むわね」
「それはもう」
そのあと二人でひそひそやっているけど、まあそっとしておこう。下手につつくとやぶ蛇になる。
俺はそういう危機管理も自信があるからね。
「うちからすると、こんなのを何とかしてくれて、ありがたいんだけどねえ」
「こんなの扱いされた。お婆ちゃん、意義あり! 異議あり!」
そこに加茂井さんのお婆ちゃんも参加したようだが、なにやらユキちゃんが異議を唱えている。
でも異議ありをするときの勢いで耳しっぽが出ているので、その辺が問題なのではと思うが。
まあ身内エリアは、特に何の心配もないな。
むしろ俺が、お袋からチクチクお説教を受けるくらいだ。
平和でなによりである。
「じゃそろそろ、見回りに戻るよ」
「おう、また来いよ」
「いってきますです~」
こうして結構飲み食いした後は、エルフエリアへGOだ。
遠目に見た感じ、すでに飲んべえたちが出来上がっているのが見えるけど……。
ひとまず様子を見に行かないとね。
「あかるいうちにおさけとか、さいこうじゃん」
「このじかんからのむおさけって、なんでこんなにうまいんだろな~」
「それな」
「あるある」
「しゃっしゃ~」
エルフエリアに到着すると、案の定飲んべえエルフが良い感じになっていた。
うねうねちゃんも連れてきており、お砂糖をあげたりしてその場でお酒も作っている始末だ。
まだ午前中なのだが、すでにクライマックスなレベルだよ。
「のんでるわね~」
「もうできあがってるとか、ふるえる」
「これだからおとこは」
ただ女子エルフたちは、抑えめだね。お料理も作っているので、あんまり今から酔っ払うのは避けているんだろう。
まだまだ時間はたっぷりあるから、夜になってからはっちゃけると思われる。
つまり、結局は彼女たちも同じ穴の狢ちゃんである。
「タイシさん、こちらにどうぞ」
「おりょうり、たくさんありますよ」
そんなダメルフたちを見ていたら、ヤナさんからご招待を受けた。
カナさんもお料理をとりわけているので、ちょっと雑談でもしていこう。
「いやあ、今日は久々のお祭りで、楽しいですね」
「そうですね。みなさんのおかげで、賑やかで良いです」
「いいかんじですね~」
ヤナさんとお酌をし合いながら、わははと話をする。
ハナちゃんも俺の隣に座って、にこにこだね。
ただ、ちょっと気になる点がある。
「ちなみにですが、その布が被さったやつは、何ですか?」
「ふふふ……それは後でのお楽しみですよ」
「さようで」
ヤナさんの後ろにある、布の被さった何かがとっても気になった。
しかし、後でのお楽しみという。午後の部で、見せてくれるのだろうか?
「あや~、おとうさんなんかたくらんでるです?」
「ヤナったら、おしえてくれないんですよ」
「いったいなんだかな」
「あらあら」
「ふがふが」
どうやらご家族にも内緒らしく、謎が深まる。
まあ、楽しみにしておこう。
こうして謎はあったものの、エルフエリアもまあ問題は無かった。
あとは動物さんエリアを見て、巡回終了だね。
「ばばう~」
「ギニャニャ」
「ぎゃう~」
「……」
こちらはこちらで、みんなトウモロコシやキャベツをかじって平和だった。
虫さんたちも、キャラメルを食べてぷるぷるしている。
「~」
「……」
「!」
とくにクモさんたちは、キャラメルに首ったけだね。
今日はあるだけ食べられるから、今のうちに食いだめしておこうって感があるよ。
でもあんまり食べ過ぎると、太るのでは無いかな?
……まあ現時点で丸々としているから、手遅れか。
こうして一通り巡回は終わり、午前の部は楽しく過ぎていく。
ちょっと休憩を入れたら、午後の部を始めよう。
とはいえ、飲み食いして騒ぐのには変わりない。
ゆる~くいこう。まだまだ祭りは始まったばかりだからね。
◇
午後の部になり、ちょっとお酒のペースを落としましょうって感じになった。
良いタイミングなので、この辺で演し物がある場合は、披露して貰おう。
「まずは、うちらからやるさ~」
「がっきがそろったので、ようやくかんぜんばんができるさ~」
「きいてほしいさ~」
最初は、ドワーフちゃんたちが演し物をやるらしい。
去年の催事で演奏してくれた、あのガムランみたいなやつだ。
今年は楽器を揃えての挑戦であり、ようやく本来の民族音楽が聴けるというわけだね。
「しきは、うちがやるさ~」
演奏の指揮は偉い人ちゃんが行うらしく、みんなの前に立ち、両手を挙げた。
さあ、始まるぞ。
「いちにいさんはい!」
偉い人ちゃんのカウントに合わせ、演奏が開始された。
その旋律は、バリ島のエスニックなような、ケルトのような……なんとも不思議な、民族音楽だった。
重低音なガムランぽい音のアダマンの振動が体の芯まで伝わり、中音域はリズムをリードする。
そして高音部分は、美しくかつ不思議なメロディーを奏でた。
偉い人ちゃんの指揮も見事で、一つの完成された芸術がそこには存在しているのだ。
まさにお見事、ドワーフちゃんたちの文化や精神の一端を、垣間見ることが出来たのである。
「いやあ、お見事です! 素晴らしい!」
「これはすごいですね~」
「だいはくりょくじゃん」
「こういうおんがくだったんだ~」
「すてきだね! よかったよ!」
いきなりの高レベルな催しに、みんなわーわーと拍手だね。
まさかこれほどの物とは、思っていなかったよ。
「ちからをあわせるおんがくさ~。たのしんでもらえて、よかったさ~」
「うまくいったさ~」
「きんちょうしたさ~」
演奏を終えたドワーフちゃんたちは、汗びっしょりだね。
それほど緊張しながらも、演奏をきちんと最後までできて、ほっとしている。
みんな、お疲れ様だ。
「なあ、さいしょにこれだと、おれらきびしくね?」
「それな」
「おわったのだ……」
「きのみのかわむききょうそうとか、じみすぎてふるえる」
そしてエルフたちがひそひそ話を開始した。
まあ確かに、始まりがこの完成度だと後続はなかなかプレッシャーだよね。
順番を明らかに間違えたかもしれない。でも手遅れである。
というか木の実の皮むき競争ってネタバレしてるけど、それ演し物じゃなくない?
あと言う通りめっちゃくちゃ地味だよ。
「ふふふ……みんな大丈夫ですよ。私に考えがあります」
「お! ヤナさんなんかじしんあるじゃん?」
「さすがヤナさんだな!」
「きたいしてるぜえ!」
しかしヤナさんが、暗い顔をしているエルフたちに囁きかけた。
なんだか凄い自信があるようで、あの布がかかった謎の物体をなでなでしている。
どうやら、秘密兵器があるようだ。でも他のエルフたちも何かは分かっていないようだから、ぶっつけ本番になるんだよね。
もうその時点でダメではないかと、ヤナさんは気づいていない感じがするよ。
打ち合わせはしとこうね。
「タイシタイシ、おとうさんがあのかおをしているときは、ろくなことがないですよ~」
「やっぱし?」
「やっぱしってかんじに、なるとおもうです~」
その様子を見て、ハナちゃんからひそひそと情報を頂く。
まあ……俺もそう思う。温かい目で、見守ってあげよう。
「じゃあつぎはわたしたちだね! わたしたち!」
「おどっちゃうからね! おどっちゃう!」
「きたえたからね! みててね!」
あ、つぎは妖精さんたちが踊るみたいだね。
これはもう、動画でも大人気なので品質保証ありだよ。
「いっせーの!」
「きゃい~きゃい~」
「きゃきゃきゃきゃきゃい~」
「きゃっきゃきゃい~」
もう俺たちの鑑賞準備とかお構いなしに、妖精さんが踊り始めた。
空を飛んだり着地してボックスを踏んだりで、大変にアクロバティックかつド派手なダンシングだ。
羽根から出る白いキラキラ粒子も効果的に使い、その軌跡で模様を描いたりもしている。
フォーメーションを組んで記号を描いたり、ハートマークを作ってからの散開とかは、まるで花火のようで息をのむ素晴らしさだ。
フリーダムなはずなのに連携がバッチリ! な妖精さんたちならではの、とても自由な踊りだね。
しかも動画で見る二次元の映像ではなく、これは目の前で演じている、立体感のある光景だ。
みんなも目を輝かせて、この踊りを見つめていた。
「どうだったかな? どうだったかな!」
「素晴らしいですね。連携が見事で可愛かったですよ」
「かわいいって! かわいいって!」
「そうでしょ! そうでしょ!」
「かわいさはせいぎだね! せいぎ!」
この催しもお見事で、褒めると妖精さんたちきゃいっきゃいだね。
もうフェアリーパーティクルがキラッキラで、滝のようでござるよ。
「……あれとこれをこえるの、むりじゃね?」
「ヤナさん、だいじょうぶなの?」
「ふふふふ」
ちなみにエルフたちは妖精さんの踊りを見て、かなり不安そうな顔である。
でもヤナさんだけ、自信たっぷりだ。
「タイシ、にげるようい、しとくですよ~」
「わかった」
「わたしらも、じゅんびしておきます」
「そうだな」
「あらあら」
「ふが~」
ご家族は相当警戒しているらしく、みんな後ろに下がって中腰になった。
俺もハナちゃんの警告通り、逃げる準備をしておこう。
「ユキちゃんとそちらのみなさんも、こっちに」
「はい」
「わかったさ~」
「そっちにいくさ~」
「じゅんびは、しておくさ~」
「しゃしゃ~」
もちろんユキちゃんや偉い人ちゃんたちも、安全なところに避難してもらった。うねうねちゃんもだね。
さて、これで大丈夫かな?
「はなれとこ! はなれとこ!」
「やなよかんするね! やなよかん!」
「やばそう~」
妖精さんたちも、距離を取り始めている。みんな嫌な予感、しているんだね。
「では、次は私らの番ですね!」
みんなの避難準備が出来たところで、ヤナさんが布に手をかけた。
するるっとベールが解かれ、問題のブツがお披露目される。
「これってなんだべ?」
「あかいじゃん?」
「なぞのえきたい?」
「ふふふ、コレはですね……濃縮電きのこ酒です!」
果たしてそれは、ヤナさん曰く「濃縮電きのこ酒」とのこと。
赤くてドロっとしたそれは、ぽこぽこと泡立っている。
名前からしてヤバいのに、見た目もヤバいと来た。
ハナちゃんの警告、ばっちりあたったよ……。
「まじで?」
「すごくね?」
「だいはつめいじゃん!」
しかし電気が大好きなエルフたちだけ、目を輝かせる。
というかそれを使って、なにをするのだろう?
「ほんで、これでなにをやるん?」
「これを飲むと、ビリビリを身にまとえるんですよ」
「すげえ!」
「ドハデじゃんか!」
「きせきがおきたべ!」
もう話を聞くからに危険物なのだが、エルフたちとその感覚を共有できない。
とことん、電気は食べ物な彼らであった。
でも、ハナちゃんたちが距離を取っている点に気づいて欲しい。
ご家族は、あれは危ない物だと認識しているわけでね。
ちなみにビリビリを身にまとってから何をするかは、まったく考えていないようなのだが。
そこに誰も突っ込まないのは、なぜだろうか?
「では、みんなでビリビリを身にまといましょう!」
「「「おー!」」」
もう彼らは止められないけど、見守ろう。というか彼らは酔っ払いなので、完全にネタのつもりである。
なにより、常にネタに走る消防団員が、チャレンジしようとしているからね。
もうあの危険リキッドの入ったグラスを手に持っていて、止められないというか。
「では、一気!」
そしてヤナさんの号令とともに、ぐいっとグラスが傾けられた。
次の瞬間――。
「あばばばばばばばばば」
「おわわわわわわわわわ」
「だべべべべべべべべべ」
「どばばばばばばばばば」
電撃エルフたちが火花を身にまとい、この世の地獄が展開される。
その光景は確かに、本日一番のハデさである。
しかし……物には限度があると思うんだ。
「あや~、おもってたより、ヤバかったですね~」
「ヤナったら、たまにこうなるのよね」
「ひさびさにみた、やらかしだな」
「あらあら」
「ふがふあ」
「しゃしゃしゃ~」
何はともあれ、犠牲――おっと、ネタに準じたヤナさんたちに、拍手をしよう。
VFXなしの生身スタントとか、めったに見られないからね。
ただ、うねうねちゃんはなんか喜んでた。派手なのが良かったのかな?
◇
「こ、これは封印しましょう。味見したときより、予想外に濃縮されてました……」
「だべ……」
「おもってたより……すごかったじゃん……」
「……」
電撃の演し物は無事終わり、ネタに走ったヤナさんたちは封印を決意したようだ。
というかぶっつけ本番はやめようよ。実験は大事だ。
ヤナさん、濃縮レベルのこまめなチェックしてなかったみたいだし。
「やばいもの、みちゃったさ~」
「ものにはげんどがあるさ~」
「すごかったね! ひどかったね!」
「ほどほどで~」
当然観客のみなさんはドン引きではあるが、ウケたことはウケた。
まあ結果良しって感じで良いかな。
「……」
「――……」
ちなみに電撃エルフを初めて見たオバケたちは、気絶して落下していた。
二人とも、ほんとごめんね。この村って、割とこういうことあるんだよ。
諦めてね。びっくり人間多いもんで。
「あや~、このふんいき、どうするですか~」
「凄かったけど、微妙な空気ではあるね」
ネタに走ったエルフたちによる、この達成感と同時に漂う微妙な空気は、ある意味面白くもある。
ただハナちゃん、おとうさんの所業に責任を感じておられる。
そんなところに責任を感じる必要は全くないのだが、責任感強い子だからね。
「せめて、ハナのおどりで、くうきをやわらげるですかね~」
「ハナちゃん、実は踊れる子?」
「あい~! ハナはおどりがとくいですよ~」
この微妙な空気をなんとかするべく、ハナちゃんが踊りで和ませようかと言って来た。
そういやハナちゃんが神託を貰うべく、踊ったって話はあったな。
一度も見たことが無いのだけど、良い機会かもしれない。
「じゃあせっかくだから、踊ってみる? 自分もハナちゃんの踊り、見てみたいな」
「もちろんです~! タイシのために、おどるですよ~!」
踊りを見てみたいと伝えると、ハナちゃんのやる気が漲った。
エルフ耳をぴこっと立てて、すくっと立ち上がったね。
「じゃあじゃあ、いまからやるです~」
そしてハナちゃん、ぽてぽてと歩いて行き、みんなが見られるポジションに移動した。
可愛い子供の踊りだから、きっと微笑ましいのではないだろうか。
「あれ? タイシさん、ハナはなにをするつもりですか?」
そんな様子を見て、カナさんが訪ねてきた。
「ハナちゃんが、この空気を自分の踊りで解消させるって言ってました」
「――え?」
ハナちゃんが踊ると伝えると、カナさんが固まった。どうしたの?
「いま、ハナちゃんがおどるってきこえたの」
「まじで?」
「とめなくていいのかしら~」
「ハナちゃんがおどるとか、ふるえる」
そして後ろにいたエルフたちが、ぷるぷるふるえだす。
ん? 何かが、おかしいぞ?
「では、おどるです~」
しかしエルフたちに確認するのは間に合わず、ハナちゃんが動き出した。
「うふ~」
――これは、なんというか、すごい。
くねくねと……そこ関節なくない? という部分もくねって見えるのだ。
というかこれ、ロボットダンスのすごい版ではないだろうか。
ふわふわくねくねと浮いているように見えるウォーク系にハンドウェーブも織り交ぜ、さらにロボットダンスのキレと不可思議さがあってかなりダイナミックだよ。
「大志さん……私こんなに凄いロボットダンスみたいなの、初めて見ました」
「奇遇だねユキちゃん、自分もだよ」
「うふふ~」
こういうダンスがあると知っている俺たちは、割と普通に見られる。
というかレベル高いな。ハナちゃんはぐにゃれる子だけど、その軟体化を上手に踊りに取り込んでいる。
まさにくねくねダンスの最高峰! という感じで超すごい。
「うっ」
「ふるえる……ふるえる……」
「ひ、ひさびさに……きたじゃん……」
「こわわわわ」
しかしエルフたちは、この踊りが怖いらしい。
まあロボットダンスとか、知らないと動きが奇妙で怖いよね。
でもこれ、知っているとかなりハイレベルだと分かる。
ハナちゃん自分で言うとおり、踊りが相当上手だよ。
ただジャンルについては、疑問の余地はあるのだが。
もうちょっと違う踊りであれば、エルフィンでもダンスマスターを名乗れていたのでは。
今の踊りは、独創的にも程があるというかね。
「あわわきゃ~、なんだかすごいさ~」
「まねできないうごきさ~」
「ざんしんすぎるさ~」
「そこはまがらないとおもうよ! まがってるけど!」
「くねくねだね! くねくね!」
まあジャンルはあれだけど、エルフ以外の方々は楽しんでいるね。
微妙な空気をなんとかする目的も達成していて、ハナちゃんミッションコンプリートだ。
なにげに凄いお子さんである。
「うふふふふ~」
そしてご機嫌でくねくねと踊るハナちゃん、ノリに乗ってより一層くねくねだ。
確かにこれなら、神様も思わず呼び出されること請け合いだね。
「うふ~」
そうして、ハナちゃんのロボットダンスを楽しんでいた時――それは起こった。
(み、みつけたー! くねくねのかみさま、いたー!)
(やっとこだよー! ようやくだよー!)
(いまからいくね! いそいでいくね!)
(え? え? なにこれ!?)
そんな謎の声が、突然どこからか……聞こえてきたのだ。
「あえ? いまのこえ、なんです?」
「なんかきこえたじゃん?」
「みつけたとかきこえたの」
これは気のせいでは無いようで、他のみんなもきょろきょろとし始める。
はっきりと、聞こえたのだ。
「大志さん、今のは……」
「自分も良く分からない。でもはっきりと聞こえた」
「ですよね」
ユキちゃんも聞こえたようで、キツネ耳がピンと立っている。
でもあれ、音波ではなく……テレパシーみたいだった。
そうすると、ここにいる全員に念話できるほどの、強力な物だ。
しかもこの結界に守られた領域にまで届く、超強力なやつ。
おまけに初めて聞く謎の声だったぞ。
「……大志、警戒態勢に入るぞ」
「そうしよう。高橋さんも」
「おう」
「俺も手伝うわ」
そしてさっきのテレパシーみたいなのは、「今から行く」と伝えてきた。
俺や親父は当然警戒体勢に入る。高橋さんもだ。
爺ちゃんも引退したとはいえ、手伝ってくれる。
この四人で、次になにが起きても良いよう、対処しよう。
「うふふ~、くねくねのかみさまですか~」
(すごいおどり~)
(みごとだったね!)
(……みごたえばっちり)
……俺たちはめっちゃ警戒しているのだけど、ハナちゃんすごくご機嫌である。またくねくね踊り始めたよ。
くねくねの神様とか言われたので、自慢の踊りが認められて嬉しいようだ。
というか緊張しているの、俺たち四人だけなの?
みつかっちゃった




