第十二話 集まる人々
四月末に近づき、とうとう遺跡の桜が満開に近づく。
これで催事の予定が確定できた。AIちゃんの予想通りである。
「もう大丈夫だね」
「そうだな、日程を確定させよう」
「子猫亭にも予約しておくわね」
親父たちが準備を手伝ってくれるので、とても助かる。
爺ちゃんたちも、そろそろ里帰りするはずだ。
あとはユキちゃんとも、打ち合わせしないとだね。
こうして慌ただしく動き始めたわけだけど、久々のお祭りである。
すっごい盛り上がるだろうから、今から楽しみだ。
◇
「よお大志、帰ってきたぜ」
「久しぶりねえ」
「あ~にゃ」
予定されたとおり、爺ちゃんたちが村に訪れた。
住人が加わったりと変わった所もあるので、まずは報告会だね。
湖畔リゾートにあるリザードマン経営のカフェテラスにて、お話だ。
「まずは報告なんだけど、村に住人が増えたよ」
「また増えたんか」
「どんな種族かしら?」
始めに村人? が増えた事を報告すると、爺ちゃん婆ちゃんがまたびっくりしていた。
こんなに短期間に人? が増えるのは俺の代で初めてだからね。
「二人ほど増えたんだけど……今紹介するね。お二人とも、どうぞ!」
「~」
「――」
声をかけると、バックヤードからふよよと、二人のオバケさんが出てきた。
なんだかペコペコしていて、腰が低い。
「大志、これはなんだ?」
「ほんものオバケだよ」
爺ちゃんがぽかんとして聞いてきたけど、オバケさんなんだなあ。
それ以外は分からないのだが。
「大志ちゃん、これオバケなの?」
「そうらしい」
婆ちゃんもこれには驚きらしく、目をぱちくりさせている。
さすがにオバケが住人になるとは、予想不可能だよね。
「あにゃ~、オバケ~。ヨロシク! オバケヨロシク!」
一緒に紹介を受けたシャムちゃんは、元気によろしくの挨拶だ。
この子もオバケ怖くないんだな。
うちの村では、オバケを怖がる人が少数派である。何かがおかしい。
「――!」
「!!!」
そしてオバケたちは、シャムちゃんを見てめっちゃ驚いているようだ。
ちたまには存在しない種族だけに、妖精さんと同じく衝撃的だったかな?
「~!」
「??」
と思っていたら、めっちゃはしゃぎだしたぞ。
あれか、アイ○ルーが実在しているようなもんだから、嬉しくなっちゃったかもだ。
「あにゃにゃ~」
「~」
「――」
もうなんか大はしゃぎで、シャムちゃんと戯れ始めたね。
このオバケたち、可愛い存在に目が無い感じがするよ。
ともかく、平和的に紹介はできたかな。
「もうあれだな、細かいことは気にするの止めよう」
「そうねえ」
この光景に、爺ちゃん婆ちゃんは何かを諦めたようだ。
でも賑やかなのは良いことだよね! オバケが来たって、ええじゃないかと。
それに俺はもうとっくの昔に、細かいことを気にするのは止めてるからね。
慣れたとも言う。
「みんな、おちゃをもってきたですよ~」
「ハナちゃんありがとう」
「えへへ」
一通り紹介を終えた頃、ハナちゃんがお茶とかお菓子を用意してくれた。
いつも気が利く娘さんである。
「~」
「――」
オバケたちもハナちゃんにペコリとお辞儀をして、お茶とかお菓子を食べ始めたね。
この人たち、オバケなのに食事するんだよな。いつ見ても不思議だ。
「大志さ、オバケがバリボリ茶菓子食ってるんだが」
「そういうものなの?」
「わかんない」
爺ちゃん婆ちゃんもこの光景は不思議なようで、二人して突っ込みをしてきた。
でも俺もわかんないんだよ。オバケの専門家ではないので。
「大志は神経太いなあ」
「まあ大志ちゃんだから」
「タイシですからね~」
良く分かっていないオバケと普通に過ごす様子を見て、祖父母からそんな評価を頂いてしまった。というかハナちゃんまで……。
俺としては、結構繊細な方だと思うのだが。そんなに神経は太くないはず。
(おそなえもの~)
(あそびにきたよ!)
とまあ和やかに過ごしていると、神様たちも遊びにやってきた。
お供え物の気配を感じるとやってくる、食いしん坊さんたちだね。
「……そういや、神様も来てるんだったな」
「いまさらってことねえ」
神様たちを見て、爺ちゃん婆ちゃんは納得した感じだ。
そうそう、超自然的な神秘さんは、最初っからお客さんだったわけでね。
ある日オバケさんが増えても、今更なのだ。
エルフたちが訪れた時点で、すでに常識は破壊され尽くしておる。気にするだけ無駄ですな。
「まいにちにぎやかで、たのしいですね~」
「そうだね。楽しいね」
「あい~」
ちなみにハナちゃんもオバケに慣れきったので、もう賑やかで良いねって感じで落ち着いておられる。
ハナちゃんもなかなか、神経太い子ではと思うのだが。
たくましさは指折りではないかな。
「うふふ~」
「あにゃ~」
とまあそんな感じで、湖畔リゾートにてのんびり再会を楽しんでいた時のことだ。
(……はじめまして)
突然、青い光の球がほよよよっと飛んできた。
謎の声は「はじめまして」とか言っているけど……。
「あえ? はじめましてです?」
(……あそびにきました)
「あそびにきたですか~」
この異常事態に、ハナちゃんナチュラルに対応している。
なんか遊びに来たとか言っているけど……。
(おともだち~!)
(ひさしぶりだね!)
(……ひさしぶり)
とか思っていたら、うちの子たちがキャッキャとはしゃいでおる。
お友達?
「おともだちですか~」
(そうなの~)
(そとにでてくるのは、めずらしいね!)
(……せっかくなので)
良く分からないけど、せっかくなので遊びに来たと。
まさか、この青い光の球ちゃんは……神様なの?
「やあやあ、おひさしぶりです」
「あそびにきたかな~」
「おまつり、まにあいました?」
と思っていたら、平原のお三方がやってきた。
お祭りに間に合ったかと確認しているので、催事目当てで来たっぽいね。
「わたしもきたんだよねえ。おまつりがあるってきいてさ」
あと一緒に、平原の族長さんもリアカーに乗っていた。
この人も、催事目当てなんだな。
(……つれてきてもらった)
「あ、かみさまみっけ」
「とんでっちゃったから、あせったかな~」
そして平原の人たちが集まったら、こんな会話が聞こえてきた。
謎の声によると、連れてきて貰ったとな。
と言うことはだよ、この青い光の球ちゃんは……平原の人たちの森にいる、神様なのかな?
「まさかですが、青い方は……そちらの神様ですか?」
「そうらしいです」
「めったにみつけられないかな~」
「おそなえものがあると、ひっそりともっていくねえ」
(……ぶきようですから)
確認すると、やっぱり平原の人たちの神様らしい。
どうにも引っ込み思案なゴッドぽいけど、謎の声によると不器用らしい。
口下手ってことなのかな?
「ほ~らまた増えた」
「油断するとこれねえ」
「あにゃにゃ~」
この様子を見ていた爺ちゃんたち、一層あきれた顔で俺を見るわけだ。
しかし俺が原因ではないわけですよ。
隠し村を観光地にしたのは俺だけど、それとは関係が無いはずだ。多分。
まあ何にせよ、観光客の神様いらっしゃいだね!
「ようこそいらっしゃいました。存分に楽しんで言って下さい」
「いらっしゃいです~」
(……おせわになります)
静かな感じのブルーちゃんだけど、遠くからようこそだね。
お友達同士、楽しく過ごして頂きたいものだ。
「さっそくですけど、おそなえものですよ~」
(……おそなえもの!)
しかし食いしん坊なのはうちの子たちと同じようで、ハナちゃんがお菓子をお供えするとものすごい早さでやってきた。
(……おいしい)
「たくさんあるですよ~」
ブルーちゃんは静かだけど、食いしん坊さではなかなかだな。
今後のもてなし方が、分かった気がするよ。
◇
「ということで、催事が間もなく開催となります」
「「「わー!」」」
催事があと数日後となり、いったん村人と打ち合わせをすることになった。
こぢんまりと一族だけでやっていたのだが、いつの間にか大きな祭りになっているからね。
認識会わせは必要だってことで、大雑把だけど話し合いだ。
二百人を超える規模のお祭りになるからね。
ブルーちゃんが来た翌日、あっちの森とかきのこが美味しい森の人たちとかもやってきて、もう大騒ぎになっている。
今年の祭りは過去最大級なのだ。
「出来合のお料理も用意しますが、みんなでお腹いっぱいの量は無理ですね」
まずユキちゃんがお料理について、方針を説明してくれた。
子猫亭にオードブルをお願いするけど、流石に全員分お腹いっぱいは無理である。
おつまみ程度って感じだな。でないと、大将たちがパンクしてしまう。
「そこはハナたちが、あっちでおりょうりするです~」
「ひさびさにうでをならすわよ~」
「おかあさん、いまケガしたよね」
でも村には心強いお料理自慢がおられるので、みなさんにお願いだね。
腕グキさんは、祭り当日までにケガを治しておいて頂きたい。
「うちらも、おりょうりてつだうさ~」
「ケガしないように、うでをならすさ~」
「おさかな、たくさんやくさ~」
ドワーフちゃんのお料理自慢も、参戦を表明だね。
主にお魚料理やじゃがいも料理になりそうで、それはそれで楽しみだ。
「わたしたちも、おだんごつくるね! おだんご!」
「たんまりこねるよ! こねちゃうね!」
「まかせてください。まかせてください」
妖精さんたちも、やる気十分だね。でも今量産する必要はないですよ。
現時点でみるみるお団子が増えていくけど、お祭りは数日後だからね。
「演し物がある場合は、遠慮無くお祭りの最中にいきなり始めて良いです」
「わかったさ~」
「みんなで、きょうりょくするさ~」
「いきなりでいいんだね! いいんだね!」
「なんかやろうね! なんか!」
お祭りを盛り上げる演し物は、特に予定は決めず好きなタイミングでどうぞだ。
こちらは祝詞を読み上げて貰い、お供え物が出来れば儀式は完了だからね。
そのあとはもう、フリーダムフェスティバルで問題ない。
一歩間違うとサバトになるけど、それはそれで面白いかな。
「おれらも、なんかやる?」
「つっても……じみなのしかないじゃん?」
「そんなハデなのは、にがてよね~」
「みんなじみとか、ふるえる」
エルフたちも、何か演し物をしようかとひそひそ話を始めた。
しかし微妙に地味な物しかないらしく、難航している感じだよ。
まあド派手なのは、メカ好きさんの離脱と、電きのこ勇者向け試食会位なのは確かだ。
色々考えてみて下さいって事で。
「……ちょうど良いな」
「あえ? おとうさんどうしたです?」
「いや、何でも無いよ」
「おとうさん、わるいかお、してるです~」
おや? なんだかヤナさんがニヤリとしているけど……。
なんかあるのかな?
「大志さん、お酒の方は大丈夫ですか?」
「え? ああお酒ね。みんな量産してるって聞いてはいるよ」
怪しげなヤナさんに気を取られていると、ユキちゃんからお酒について確認された。
うねうねちゃんとタッグを組んで、沢山作っているとは聞いている。
念のため、改めて確認しておこう。
「みなさん、お酒はほぼ自前で作った物をアテにしてますが、量は大丈夫ですか?」
「そりゃあもう、たくさんつくってるじゃん」
「おびただしいりょうに、なってるのだ」
「うちらも、しこんでるさ~」
「のみごろのやつ、たんまりあるさ~」
「こっちもだいじょうぶだよ! だいじょうぶすぎるよ!」
「あびるほど~」
確認してみると、みなさん自信たっぷりな感じである。
むしろ、どれほど大量に製造しているかと不安になるレベルだ。
おびただしいとか、たんまりとか、あびるほどとか不穏ワードがいくつもある。
「まあ、大丈夫そうって事で」
「ですかね」
色々不安だけど、お酒のこととなるとみなさん止まらない。
なるようにな~れと。
「ひとまず、催事に関しては以上ですかね。何か要望や問題がある場合は、ご相談下さい」
「「「はーい」」」
こうして催事に向けて、村ぐるみで準備が始まった。
当日は楽しいお祭りにしましょうだね!
◇
「おれらも、おまつりさんかするべ~」
「やきものの、しさくひんももってきました」
「だいぶじょうずに、やけるようになったあああああ」
「やきもの、いいかんじなんですよ!」
「これは、あたらしいまじょっこのいしょうなの」
さらに参加者が増えたけど、平原の焼き物五人衆だね。
村の温度が若干上がった気がする。
「そちらはやきものですか。ぼくはもっこうがしゅみでしてああああ」
「おたがい、うちこめるものがあるのは、いいことですなあああああ」
特に二人が暑い。熱気みなぎるよ。
まあこの職人たちはおいといて、あにめさんのコスプレが新しいキュアのやつになっている。
別の意味での職人になっている気がするのだが。
「わたしも、おやすみをいただきまして」
そこに、エステさんが加わる。この人もエステマニアであり、熱く漲る向上心があるわけでね。
もう村は真夏のような暑――おっと熱気だ。
みんな、ちょっと落ち着きましょうね。
「大志さん、あのサロン、数日お休みなのですよ」
「そうなんだ」
「魔女さんから購入した感応石を、なんかに使うための研究期間とか、検証するためらしいです」
「技術開発するのかな?」
「多分そうじゃ無いかと思います。魔女さんが、技術指導のバイトをするって言ってましたから」
ユキちゃんから情報が入ってきたけど、エステサロンがお休みなんだね。
だからエステさんも、数日村で過ごせる訳か。
いずれは通勤出来るように考えないといけないけど、それはまた後でかな。
「にしても、普通のエステサロンって、あんな高度な魔術触媒が必要になるの? 魔女さんの力を借りてまで」
「凄腕ですから!」
おっと、ユキちゃんの目が虚ろになった。
あの触媒を用いて、さらなる美容向上能力を手に入れたサロンを、幻視しているかもだよ。
まあその辺の情報は、エステさんやユキちゃんから入ってくるよね。
定期的に確認するようにしておこう。
変なことに使わないと思いたいけど、念のためね。
まあ魔女さんが指導するらしいから、そうヤバいことにはならないだろうけど。
「ユキ、ハナたちとおりょうりのれんしゅう、するです~」
「そうね、作りやすくて美味しい献立、みんなで考えようね」
「あい~」
「わきゃ~ん、うちもさんかするさ~」
「わたしたちもだね! わたしたちも!」
何はともあれ、催事の準備は着々と進んでいく。
あと数日で、ドでかい祭り(当社比)の開催だ。
盛り上がっていこう!
「大志さん、お祭り楽しみですね」
「ああヤナさん、そうですね、楽しみです」
お料理練習に向かうハナちゃんたちを見送っていると、ヤナさんが話しかけてきた。
微妙に悪い顔をしているけど、まあ言うとおりお祭りは楽しみだ。
「もうすぐだよ」
「しゃっしゃ~」
でもなんでヤナさんは、うねうねちゃんの入った瓶を持ち歩いているのだろう。
仲良しなのかな?




