第七話 めずらしいやつ
湖畔事務所で打ち合わせをしていると、突然ネコちゃん便が飛んできた。
いったい何だろうと思い、デジカメの録画を再生してみると――。
『ざっかやさんで、さわぎになってるかんじ。タイシさんきてほしいじゃん?』
というメッセージと共に、ハナちゃんが何かを追いかけている映像が映し出された。
よくわかんないけど、駆け付けよう。
そして急いで雑貨屋さんに戻ったわけだが――。
「あややややややや」
なぜかハナちゃんが、フクロイヌのフクロに潜り込み、頭かくしてお尻隠さず状態。
その上空には、神輿とオレンジちゃんがくるくる飛んでいた。
なんぞこれ?
「……大志さん。上を見てください」
この意味不明な状況に首を傾げていると、ユキちゃんが空を指さした。
目を向けてみると……なんかおるぞ。
「……?」
「??」
俺の視線に気づいたのか、空中を漂う……二つのなんかは、ぴたっと止まってぷるぷるした。
シャボン玉みたいな七色の、キジムナー火みたいなやつだな。
「あれが何だが、知っている人います?」
「わきゃ~ん、ハナちゃんがいうには、オバケらしいさ~」
「ほんものだってきいたさ~」
……は?
(ほんものオバケだよ~)
(めずらしいね!)
そして謎の声も、ほんものオバケだと言っている。
え? ほんもの? なんで? オバケナンデ?
というか対オバケ装備とか、用意してないぞ。
やだ怖い。まじで怖い。
「あやややややや」
しかし、ハナちゃんもぷるぷるしているわけだ。
ここは俺が何とかするしかないわけで。
でもオバケ怖いわけで。
どうしたら良いのだ……。
◇
ユキちゃんになんとかしてもらいました。
「捕まえましたけど、このオバケどうします?」
なんかお札みたいなのをひょひょいっと飛ばして、あっと言う間にオバケを捕まえてしまった。
さすがキツネさんである。
「……」
「――!」
ただし、捕まえたは良いものの、ノープランである。
お札を貼られた二人のオバケはユキちゃんの手の上で、ぷるぷると震えているけど。
どうしたらよいのだろう?
「どうしよう……」
「あやややややや」
オバケはぷるぷる、ハナちゃんもぷるぷる。
俺も震えたいけど我慢中でござるよ。
「悪い魂でもないので、問題は無いと思いますけど」
(だいじょぶだよ~)
(すきにさせといても、いいんじゃない?)
困っていると、神様トリプルで問題なし判定が来た。
まあ確かに、悪い感じはしない。むしろ善良な感じ?
でもオバケなんだよなあ……。
「とりあえず、詳しい話を聞いてみよう」
というか何故オバケが出たのか、そこがわからない。
どうやってこの領域の結界を抜けたか、そこが問題だ。
事の顛末を聞かないと。
「ハナちゃん、何があったの?」
「あややややや……いつのまにか、おさらにのってたです~」
「ギニャニャ」
頭かくしてお尻隠さずハナちゃんに問いかけると、袋の中からそんなお返事が。
いつの間にかお皿に? どゆこと?
「わきゃ~ん、なんかそこのはこから、ふわふわ~ってでてきたさ~」
「そのあと、おさらにすとんってのっかったさ~」
「みずからおりょうりされに、いったさ~」
良くわからなかったのだが、偉い人ちゃんとお供ちゃんたちが見ていたようで、補足してくれた。
そこの箱と言うと……キジムナー火の真空パックが入った段ボール箱か。もしかして、荷物に紛れていたのか?
なら連れてきた犯人俺じゃん。原因俺じゃん。
「あ~、荷物に紛れたんだな」
「大志さん、どこかで箱を開けました?」
「いや、開けてない。届いたものをそのまま運んできただけだよ」
キジムナー火が自宅に届いてから、一度も箱は開けていない。
車に乗せて持ってくるときも、オバケを目撃はしていないので……うちに輸送される途中かどこかで、忍び込んだと思いたい。
「とりあえず、キジムナーさんたちに確認してみる」
「そうですね」
すぐさま写真を撮影し、事情を記載したメールに添付して送信だ。
さて、何かわかるだろうか?
「ま、まあ、お茶を飲んで落ち着こう」
「そうするさ~」
「しおコショウいためは、もうちょっとまつさ~」
「のんびりいくさ~」
というか俺とハナちゃん以外、みなさんフツーなんだよね。
でもほんものオバケがいるのに、なして平気なの?
「ハナちゃんも、お茶を飲んで落ち着こう」
「あ、あい~」
ハナちゃんにも声をかけると、よろよろとフクロから出てきて、今度は俺の足にひしっとしがみ付く。
いやほんと、びっくりしたよね。俺もびっくりだよ。
そしてお茶を飲みながら、色々話を聞く。
「なるほど、食材が自然増殖したと思って、せっかくだから塩コショウ炒めにしようとしたんだ」
「あい~。そしたらにげだしたです~」
「まあ、そりゃ逃げるか」
「!」
「!!」
キジムナー火によく似ているので、そりゃ食材と間違えるよね。
間違えられたオバケたちは、勘弁してよって感じでぷるっているけど。
しかしお料理直前のジャストタイミングで、お皿の上にいたらそりゃあね。
「はい、お茶のおかわりをどうぞ」
「ユキちゃんありがと」
「ありがとです~」
「~」
「――」
ともあれ、時間がたつにつれ、みんなはお茶を飲んでずいぶん落ち着いてきた。
俺もオバケは怖いけど、無害だからまあなんとか。
というかこの二人のオバケも、普通にお茶飲んでるんだよな。お供え物って感じ?
(ほんとめずらしいね~)
(めったにみられないやつ!)
「あえ? めずらしいです?」
(ひさびさにみた~)
(はっきりしてるよね!)
あと謎の声が言うには、珍しいらしい。正直良くわからないが。
まあこういうほんものオバケ、俺も初めて見たからね。見鬼の力を使わずとも、普通に肉眼で見えてるんだもん。レアものだよ。
とオバケを観察していると、スマホがぷるると震えた。キジムナーさんからお電話だ。
「ちょっと良いかな、お話してくるね」
「あい~」
ここは賑やかなので、静かな別室でお電話しよう。
すぐさま移動して、電話に出ましょうと。
「もしもし大志です」
『メール見たよー。あれ妖日火かと思ったけど、ちがうやつだねー』
キジムナーさんからのお話では、違う奴とな。そもそも妖日火を見たことないのでわからないけど、そうらしい。
では一体何だろう?
『タマガイかと思ったけど、それとも違うねー』
「タマガイってなんですか?」
『単なる火の玉の事だよー。特に何もせず、ただ飛んでるだけのやつだねー』
単なる火の玉か……。ただ、謎の声によるとほんものオバケらしいのだが。
「専門家によると、ほんものオバケでめずらしい存在らしいです」
『それっぽいかもねー。かなり強い人魂っぽいさー』
「かもですね。ただ、まっとうなんですよ。悪いものを感じないというか」
あれほどはっきりと肉眼で見える神秘だが、なんというかすごくまっとうな感じがする。
それでも現世に残ってしまっているのが、不思議でしょうがない。
「不思議ですね」
『そうだねー』
まあこの辺はお互いオバケ専門家でもないので、良くわからない。
結論はまだ出ないよね。
『メールによると、荷物に紛れてたって話だねー』
「そうらしいです」
『あ~、梱包中にキジムナー火を仲間と間違えて、箱に飛び込んじゃったかもー』
「そうなんですか?」
『途中で箱を開けていないなら、それしかないねー。梱包はニライカナイでやったから、可能性はあるさー』
良くわからないけど、まあそうかもなって思うことにするか。ニライカナイも、そういう神秘が迷い込むとか住み着くとかありそうだし。
しかし、長野に来ちゃって大丈夫かな?
「あのオバケたちが長野に来ちゃって、何か悪い影響とか出ませんかね」
『様子見だねー。でもそっちの領域が清浄なら、大丈夫じゃないかなー』
「そこは問題ないですね」
この隠し村のある領域は、めちゃクリーンだからね。
資格が無ければそもそも入れない、謎結界が張ってある。
つまりあのオバケたちは、資格があるってことだ。
『なにかありそうだったら、ヌシに言って引き取ってもらっても良いよー』
ただニライカナイから来たらしいのなら、そっちに還したほうが良いかもだな。
「そうですね。ただどうやって連れて行けば良いでしょうか」
『郵送かなー。着払いでいいと思うよー』
……郵送でオバケを配送するのって、どうなんだろう?
でも、来るときはそうだったから、問題ないのは証明済みである。
割れ物注意シールくらいは、貼ったほうがよさそうだけど。
『でもそんなに急いで還ってもらう必要も、ないけ思うけどねー』
「まあ、そうですね」
『悪いものでもないのなら、遊ばせておくのがいいさー』
キジムナーさんの言う通り、急ぐ必要もないのは確かだ。
というか、あれほど強いオバケを還す方法がわからない。
この辺はキツネさんとかと相談したり、オバケたちから要望を聞かないとなんともだな。
「ひとまず様子見します」
『面倒かけちゃってごめんねー』
「いえいえ、そちらに瑕疵はないですよ。もちろんオバケたちも」
『大志さん優しいねー』
というか荷物にオバケが入ってしまうとか、そんなの梱包時の隙を突かれたらわかるわけもない。
同時に、オバケたちだって悪気があってやったわけじゃない。
まあ……珍しい存在を見られて良かったねってことにしとくのが、一番だ。
今現状はこれ以上の結論は出せないから、経過観察と行こう。
「いやいや、話を聞いて頂けて助かりました。なんせほんものオバケ、初めて見るので」
『カミがオバケの扱いに困るって、おもしろいよー』
「まあ私は、ふつうのにんげんですので」
『大志さん、冗談うまいねー』
そんな感じで、とりあえず状況確認と対処法は判明した。ひとまず様子見ってことで行こう。
それじゃあ、ハナちゃんたちにも報告するかな。
と、部屋を出たら――。
「タイシさんおつかれですよね」
「もみますよ」
「あしつぼ」
マッチョトリプルが、なぜか待ち構えておったとさ。
◇
完全回復イベントをクリアしたところで、みんなに方針を伝えよう。
「とりあえず、うちでお客さんとして受け入れて、様子見することにしたよ」
「大志さんは、すぐに還すって方針ではないのですね」
「何かの縁かなって思うからね」
方針を伝えると、ユキちゃんがふむふむとオバケたちを見た。
その目は好奇心でいっぱいな感じだけど、やっぱり珍しい存在らしいね。
「ちなみにユキちゃん、この二人を還す方法ってわかる?」
「凄腕シャーマン数人がかりで儀式をすれば……なんとかってレベルですね」
「え? そんなに強いの?」
「はい。このオバケさんたち、一筋縄じゃ無理かと思います」
念のため送還方法をユキちゃんに聞いてみたら、そんなお答えが。
これほどの強い魂みたいな存在だから、やっぱり大変なようだ。
それなら、無理することもないか。というか凄腕シャーマンを数人なんて集められない。
億単位でお金が飛んでいくよそれ。
「無理はせずに、自然に任せることにしよう」
「そうですね」
いつかふさわしい時期や状態になったら、自然になるようになるはず。
それまでは、のんびり過ごしてもらうのが一番だ。
「というわけでお二人とも、ここで気の向くまま、好きに過ごしてください」
「――」
「~」
村で過ごしてねと伝えたら、オバケたちがぺこりとお辞儀した。
その辺礼儀正しいんだな。面白いオバケである。
あとお世話とかしなくても良いので、実のところとても楽だ。
自由気ままに、遊んですごせばよいのではと。
「あや~、よくわかんないけど、よろしくです~」
「~」
「~~」
なし崩し的に村の仲間になったオバケたちだが、ハナちゃんもご挨拶している。
偉い子だね。
(よろしく~)
(こんどあそぼうね!)
神様たちも、挨拶して遊ぶ約束とかしている。
まあオバケたちはだいぶ神秘の根源に近い存在だから、親近感あるのかもね。
そんなこんなで、村に二人のオバケが住み憑いた。
世の中、何が起こるかわからないものである。
「おもしろいおきゃくさんだね! よろしくね! よろしくね!」
「いっしょにあそぼ! あそぼ!」
「おだんごたべる? おだんご!」
「――!」
「!!!」
ちなみにちたまオバケたちにとっても、妖精さんの実在は衝撃だったらしく、なんだかお花畑に入り浸るようになった。
村では彼女たちと遊ぶ姿が、良く目撃される。妖精タワマンにご厄介って感じだね。
ただオバケたちはなんだか……可愛らしい妖精さんたちに、デレデレしている感じがする。
「~」
「おかしありがと! ありがと!」
「?」
「おはなもありがと! ありがと!」
なんかお供え物のお菓子やお花を妖精さんに貢ぎ始めており、仲良くなろうという姿勢がうかがえる。
なんせ妖精さんたち、めっちゃ可愛いもので。ついついかまってしまうのだ。気持ちわかるよ!
『あ、こんにちは』
「!!! ――……」
「――……」
あとオバケってことで、メカ好きさんがわざわざ幽体離脱して挨拶すると、オバケたちは見事に気絶し墜落してもうた。
ほんものからしてみても、彼の離脱は別の意味で衝撃的だったらしい。
ちたまのオバケより、エルフのほうがびっくり存在なのが、証明されてしまったのだ。
でもオバケを怖がるオバケってなんなの?
◇
四月になり、とうとう船の改良案がまとまった。
ちまちまと試作品に手を入れ続け、これがいいな、という仕様がまとまったのだ。
「やっとこさ~」
「これなら、いいかんじさ~」
「もんだいないさ~」
たたき台設計の船からも良いところが導入され、なかなかの完成度になったと思う。
後付けで屋根を付けられたり、転覆防止のアウトリガーもオプションで選択可能かつ、着脱オーケーである。
拡張性高い設計が売りになった。
「フネにやねがあるのは、すてきさ~」
「うちはこれにしようかとおもうさ~」
仕様策定に協力してくれたドワーフちゃんたちも、満足の出来である。
では、こいつを量産しようじゃないか。
「価格は一隻六万円で、屋根付きだと一万円加算とかになります」
「冊子にまとめましたので、ご検討ください」
まあメーカーオプションってやつかな。ディーラーオプションは、今のところ無いでござる。
「あと、現在鑑定中のあの宝石が大金になったら、そのお金で量産も可能ですよ」
「そうなったら、たくさんのこたちが、ふねをもてるさ~」
「おねだんがきまったら、れんらくほしいさ~」
「たのしみに、まってるさ~」
魔女さんが研究所に依頼した宝石は、まだまだ検証中だ。
もうちょっと時間がかかりそうなので、しばらくお待ちくださいだね。
「船のご購入を検討されている方がいらっしゃいましたら、こちらまで見学するのも良いですよ」
「そうするさ~。また、きぼうしゃをつれてくるさ~」
そうして話はまとまったので、これで本格的にエルフ重工の活動を始められるね。
俺は俺で、効率的な生産が出来るようガントチャートでも作成しよう。
次は工程管理と品質管理を、現場のみなさんと作り上げていくのだ。
「おっし! きあいいれるのだ!」
「たくさんつくろうぜ!」
「いよいよだな!」
「がんばるべ!」
「もっこうああああああ」
職人エルフのみなさんも、ようやく量産開始とあって気合入っているね。
この調子で、ガンガン船を作っていこうじゃないか。
「そんなわけで、かえっておしごとするさ~」
「あわわきゃ~ん」
「ほらほら、おしごとまってるさ~」
「わわわきゃ~」
そして当然、こっちでのお仕事が終わった偉い人ちゃんは、お供ちゃんたちに連行されていった。
あっちでのお仕事、頑張って頂きたい。
こうして船の量産を始めたわけだが――。
「かずをつくるって、たいへんなのだ」
「ちっと、しざいがふそくしてるかな」
「けいかくてきに、やんなきゃな~」
まあ初めての量産なので、立てた計画との齟齬も出てくる。
ここは適時計画を引き直し、細かく修正を加えていかなければならない。
「人を増やした方がいいかもですね」
「あっちのもりから、またつれてくるかな~」
「もっこうやりたいやつ、けっこういるべさ」
今は少人数でライン作業をやっているため、色々遅れが出たりもする。
これは人を増やして対応しかないかなって所だ。
そこで増えてしまった人件費は、さらなる量産で薄めてしまう。
これがマスプロダクションの醍醐味だね。
「今の人員だと、七日で一隻ってところですか」
「やねとかがついかされると、もちっとかかります」
「追加装備は在庫を多めに確保して、人気度を見てから調整しますか」
「そうしましょう」
量産は常に作業や計画の改良を続ける必要があり、これで良いやってことはない。
ただ発注量やオプションの装着率がまだ読めないため、良い感じのラインというのはまだわからない。
ひとまずリスクはあれど、ひと月分の在庫を用意して対応だ。
「フネ! フネをみにきたさ~」
「ちゅうもんしたいさ~」
そうしているうちに、エルフィン湖畔リゾートにお客さんが見学に訪れるようになった。
あっちの湖で話を聞いて、実物を確認しに来たって感じだね。
これは試乗をして頂き、慎重に検討してもらう方針だ。
「時間が許す限り、試乗や見学等して頂いて、検討してください」
「ありがたいさ~」
「いたれりつくせりさ~」
ちたま自動車販売の手法を参考に、ドワーフちゃんたちをおもてなしする。
これが結構好評で、みなさんご機嫌だね。
「かあちゃ、こんなフネがうちにもくるのさ~?」
「がんばれば、もてるらしいさ~」
「うちもおてつだい、しっかりするさ~」
お子様連れのご家族などは、もう真剣そのものだね。
家族と一緒に、憧れの船でクルージングが夢らしいので。
普段の狩猟採取も効率的になるしで、そんな未来を想像してお目々がキラッキラだ。
ご期待に添えられるよう、こちらも頑張らないといけない。
「タイシ~、おちゃがはいったですよ~」
「ハナちゃんありがとう。偉い子だね~」
「うふ~」
仕事を頑張っていると、ハナちゃんもお茶くみとかでお手伝いをしてくれる。
ほんと偉い子で、思わず頭をなでちゃうね。
「みんな、フネがほしいみたいですね~」
「あこがれらしいからね」
日に日に増えていく見学者を見て、ハナちゃんもにっこにこだね。
二人でしばらくの間、湖で船の試乗をするドワーフちゃんたちを眺める。
「……あえ? なんか、たりないきがするです?」
その時、ハナちゃんがこてっと首を傾げながら、そう言った。
足りない気がする? なんだろう?
「何が足りないの?」
「あや~、なんですかね~。むむむ~?」
すぐには出てこないようで、ハナちゃんむむむっと考え始めた。
しばらく見守ってあげよう。
「むむむ~? むむ~?」
そのまま三十分くらい、ハナちゃん考え続けた結果――。
「あや! そうです~! いつもハナたちがつけてるやつ、ないです~!」
ぽむっと手を叩き、ハナちゃん気づいたようだ。
いったい何だろう?
「いつもつけてるやつが無いって、何かな?」
「あれですあれ~、うくやつです~」
ハナちゃんが指さす先には、ライフジャケットがあった。
なるほど! そういえば船の事ばかり考えていて、船員の装備まで気が回っていなかった。
それも船の運航に必要な、安全装備だよね。
ほかにも、命綱とか船が万が一ぶつかったときのクッションとか、色々考えられる。
なるほどハナちゃん、良いところに気が付いてくれた。
船体設計だけで安全や効率を目指すのではなく、こうした補助の小物を使っても達成は可能なのだ。
それは船自体のコストダウンや、より高い安全性確保にもつながる。
まあ消耗品をケチって故障や事故とかは良くあるので、ほどほどに抑える必要はあるけど。
「確かにそうだね。その辺考えてなかったよ」
「あんぜんなやつ、だいじです~」
「ハナちゃん偉いね~。助かったよ」
「えへへ」
確かに村でカヌーに乗ったり海竜に乗せて貰ったりしたときは、ライフジャケットの着用は義務だ。
しかしあっちの湖から来たドワーフちゃんたちは、その辺徹底していないんだよね。
彼女たちは泳ぎが上手だから、見逃していた。潜ったりもするし。
でも船を運用するなら、着ておいて損はないわけだ。
「使う側の視点、大事だね」
「ですね~」
こうしてハナちゃんのおかげで、また一つ改善点が見つかった。
上手くやればコストダウンも可能な、ほんのちょっとした発想だけど、こういうのが大事だ。
やっぱり一人で物を考えるのは良くないなって、実感する出来事だね。
「でもタイシは、ハナみたいなこどものはなしも、きいてくれるですね~」
意見を取り入れて貰って嬉しかったのか、ハナちゃんがぽててっとやってきて、俺の膝の上にぽてっと座った。
こっちを見上げて、にこにこハナちゃんだね。
「自分がしたいのは、我を通すことじゃなくて、幸せになりたいってことだからね。人の話を聞かないと、どうやって良いのかがわかんない」
「ハナもわかんないですね~」
「みんな同じだよね。おまけに間違っててもわかんないけど、まあコツコツやるしかないかなあって」
「ですです~」
世の中わかんないことだらけで大変だから、もう頼れるならなんでも頼っちゃうよ。
俺はスーパーマンでもなんでもない、ごくごくふつうのちたまじんだからね。




