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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第二十四章 赤い星
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第七話 めずらしいやつ


 湖畔事務所で打ち合わせをしていると、突然ネコちゃん便が飛んできた。

 いったい何だろうと思い、デジカメの録画を再生してみると――。


『ざっかやさんで、さわぎになってるかんじ。タイシさんきてほしいじゃん?』


 というメッセージと共に、ハナちゃんが何かを追いかけている映像が映し出された。

 よくわかんないけど、駆け付けよう。


 そして急いで雑貨屋さんに戻ったわけだが――。


「あややややややや」


 なぜかハナちゃんが、フクロイヌのフクロに潜り込み、頭かくしてお尻隠さず状態。

 その上空には、神輿とオレンジちゃんがくるくる飛んでいた。

 なんぞこれ?


「……大志さん。上を見てください」


 この意味不明な状況に首を傾げていると、ユキちゃんが空を指さした。

 目を向けてみると……なんかおるぞ。


「……?」

「??」


 俺の視線に気づいたのか、空中を漂う……二つのなんかは、ぴたっと止まってぷるぷるした。

 シャボン玉みたいな七色の、キジムナー火みたいなやつだな。


「あれが何だが、知っている人います?」

「わきゃ~ん、ハナちゃんがいうには、オバケらしいさ~」

「ほんものだってきいたさ~」


 ……は?


(ほんものオバケだよ~)

(めずらしいね!)


 そして謎の声も、ほんものオバケだと言っている。

 え? ほんもの? なんで? オバケナンデ?

 というか対オバケ装備とか、用意してないぞ。

 やだ怖い。まじで怖い。


「あやややややや」


 しかし、ハナちゃんもぷるぷるしているわけだ。

 ここは俺が何とかするしかないわけで。

 でもオバケ怖いわけで。


 どうしたら良いのだ……。



 ◇



 ユキちゃんになんとかしてもらいました。


「捕まえましたけど、このオバケどうします?」


 なんかお札みたいなのをひょひょいっと飛ばして、あっと言う間にオバケを捕まえてしまった。

 さすがキツネさんである。


「……」

「――!」


 ただし、捕まえたは良いものの、ノープランである。

 お札を貼られた二人のオバケはユキちゃんの手の上で、ぷるぷると震えているけど。

 どうしたらよいのだろう?


「どうしよう……」

「あやややややや」


 オバケはぷるぷる、ハナちゃんもぷるぷる。

 俺も震えたいけど我慢中でござるよ。


「悪い魂でもないので、問題は無いと思いますけど」

(だいじょぶだよ~)

(すきにさせといても、いいんじゃない?)


 困っていると、神様トリプルで問題なし判定が来た。

 まあ確かに、悪い感じはしない。むしろ善良な感じ?

 でもオバケなんだよなあ……。


「とりあえず、詳しい話を聞いてみよう」


 というか何故オバケが出たのか、そこがわからない。

 どうやってこの領域の結界を抜けたか、そこが問題だ。

 事の顛末を聞かないと。


「ハナちゃん、何があったの?」

「あややややや……いつのまにか、おさらにのってたです~」

「ギニャニャ」


 頭かくしてお尻隠さずハナちゃんに問いかけると、袋の中からそんなお返事が。

 いつの間にかお皿に? どゆこと?


「わきゃ~ん、なんかそこのはこから、ふわふわ~ってでてきたさ~」

「そのあと、おさらにすとんってのっかったさ~」

「みずからおりょうりされに、いったさ~」


 良くわからなかったのだが、偉い人ちゃんとお供ちゃんたちが見ていたようで、補足してくれた。

 そこの箱と言うと……キジムナー火の真空パックが入った段ボール箱か。もしかして、荷物に紛れていたのか?

 なら連れてきた犯人俺じゃん。原因俺じゃん。


「あ~、荷物に紛れたんだな」

「大志さん、どこかで箱を開けました?」

「いや、開けてない。届いたものをそのまま運んできただけだよ」


 キジムナー火が自宅に届いてから、一度も箱は開けていない。

 車に乗せて持ってくるときも、オバケを目撃はしていないので……うちに輸送される途中かどこかで、忍び込んだと思いたい。


「とりあえず、キジムナーさんたちに確認してみる」

「そうですね」


 すぐさま写真を撮影し、事情を記載したメールに添付して送信だ。

 さて、何かわかるだろうか?


「ま、まあ、お茶を飲んで落ち着こう」

「そうするさ~」

「しおコショウいためは、もうちょっとまつさ~」

「のんびりいくさ~」


 というか俺とハナちゃん以外、みなさんフツーなんだよね。

 でもほんものオバケがいるのに、なして平気なの?


「ハナちゃんも、お茶を飲んで落ち着こう」

「あ、あい~」


 ハナちゃんにも声をかけると、よろよろとフクロから出てきて、今度は俺の足にひしっとしがみ付く。

 いやほんと、びっくりしたよね。俺もびっくりだよ。

 そしてお茶を飲みながら、色々話を聞く。


「なるほど、食材が自然増殖したと思って、せっかくだから塩コショウ炒めにしようとしたんだ」

「あい~。そしたらにげだしたです~」

「まあ、そりゃ逃げるか」

「!」

「!!」


 キジムナー火によく似ているので、そりゃ食材と間違えるよね。

 間違えられたオバケたちは、勘弁してよって感じでぷるっているけど。

 しかしお料理直前のジャストタイミングで、お皿の上にいたらそりゃあね。


「はい、お茶のおかわりをどうぞ」

「ユキちゃんありがと」

「ありがとです~」

「~」

「――」


 ともあれ、時間がたつにつれ、みんなはお茶を飲んでずいぶん落ち着いてきた。

 俺もオバケは怖いけど、無害だからまあなんとか。

 というかこの二人のオバケも、普通にお茶飲んでるんだよな。お供え物って感じ?


(ほんとめずらしいね~)

(めったにみられないやつ!)

「あえ? めずらしいです?」

(ひさびさにみた~)

(はっきりしてるよね!)


 あと謎の声が言うには、珍しいらしい。正直良くわからないが。

 まあこういうほんものオバケ、俺も初めて見たからね。見鬼の力を使わずとも、普通に肉眼で見えてるんだもん。レアものだよ。

 とオバケを観察していると、スマホがぷるると震えた。キジムナーさんからお電話だ。


「ちょっと良いかな、お話してくるね」

「あい~」


 ここは賑やかなので、静かな別室でお電話しよう。

 すぐさま移動して、電話に出ましょうと。


「もしもし大志です」

『メール見たよー。あれ妖日火(ヨーカビー)かと思ったけど、ちがうやつだねー』


 キジムナーさんからのお話では、違う奴とな。そもそも妖日火を見たことないのでわからないけど、そうらしい。

 では一体何だろう?


『タマガイかと思ったけど、それとも違うねー』

「タマガイってなんですか?」

『単なる火の玉の事だよー。特に何もせず、ただ飛んでるだけのやつだねー』


 単なる火の玉か……。ただ、謎の声によるとほんものオバケらしいのだが。


「専門家によると、ほんものオバケでめずらしい存在らしいです」

『それっぽいかもねー。かなり強い人魂っぽいさー』

「かもですね。ただ、まっとうなんですよ。悪いものを感じないというか」


 あれほどはっきりと肉眼で見える神秘だが、なんというかすごくまっとうな感じがする。

 それでも現世に残ってしまっているのが、不思議でしょうがない。


「不思議ですね」

『そうだねー』


 まあこの辺はお互いオバケ専門家でもないので、良くわからない。

 結論はまだ出ないよね。

 

『メールによると、荷物に紛れてたって話だねー』

「そうらしいです」

『あ~、梱包中にキジムナー火を仲間と間違えて、箱に飛び込んじゃったかもー』

「そうなんですか?」

『途中で箱を開けていないなら、それしかないねー。梱包はニライカナイでやったから、可能性はあるさー』


 良くわからないけど、まあそうかもなって思うことにするか。ニライカナイも、そういう神秘が迷い込むとか住み着くとかありそうだし。

 しかし、長野に来ちゃって大丈夫かな?


「あのオバケたちが長野に来ちゃって、何か悪い影響とか出ませんかね」

『様子見だねー。でもそっちの領域が清浄なら、大丈夫じゃないかなー』

「そこは問題ないですね」


 この隠し村のある領域は、めちゃクリーンだからね。

 資格が無ければそもそも入れない、謎結界が張ってある。

 つまりあのオバケたちは、資格があるってことだ。


『なにかありそうだったら、ヌシに言って引き取ってもらっても良いよー』


 ただニライカナイから来たらしいのなら、そっちに還したほうが良いかもだな。


「そうですね。ただどうやって連れて行けば良いでしょうか」

『郵送かなー。着払いでいいと思うよー』


 ……郵送でオバケを配送するのって、どうなんだろう?

 でも、来るときはそうだったから、問題ないのは証明済みである。

 割れ物注意シールくらいは、貼ったほうがよさそうだけど。


『でもそんなに急いで還ってもらう必要も、ないけ思うけどねー』

「まあ、そうですね」

『悪いものでもないのなら、遊ばせておくのがいいさー』


 キジムナーさんの言う通り、急ぐ必要もないのは確かだ。

 というか、あれほど強いオバケを還す方法がわからない。

 この辺はキツネさんとかと相談したり、オバケたちから要望を聞かないとなんともだな。


「ひとまず様子見します」

『面倒かけちゃってごめんねー』

「いえいえ、そちらに瑕疵はないですよ。もちろんオバケたちも」

『大志さん優しいねー』


 というか荷物にオバケが入ってしまうとか、そんなの梱包時の隙を突かれたらわかるわけもない。

 同時に、オバケたちだって悪気があってやったわけじゃない。

 まあ……珍しい存在を見られて良かったねってことにしとくのが、一番だ。

 今現状はこれ以上の結論は出せないから、経過観察と行こう。


「いやいや、話を聞いて頂けて助かりました。なんせほんものオバケ、初めて見るので」

『カミがオバケの扱いに困るって、おもしろいよー』

「まあ私は、ふつうのにんげんですので」

『大志さん、冗談うまいねー』


 そんな感じで、とりあえず状況確認と対処法は判明した。ひとまず様子見ってことで行こう。

 それじゃあ、ハナちゃんたちにも報告するかな。

 と、部屋を出たら――。


「タイシさんおつかれですよね」

「もみますよ」

「あしつぼ」


 マッチョトリプルが、なぜか待ち構えておったとさ。



 ◇



 完全回復イベントをクリアしたところで、みんなに方針を伝えよう。


「とりあえず、うちでお客さんとして受け入れて、様子見することにしたよ」

「大志さんは、すぐに還すって方針ではないのですね」

「何かの縁かなって思うからね」


 方針を伝えると、ユキちゃんがふむふむとオバケたちを見た。

 その目は好奇心でいっぱいな感じだけど、やっぱり珍しい存在らしいね。


「ちなみにユキちゃん、この二人を還す方法ってわかる?」

「凄腕シャーマン数人がかりで儀式をすれば……なんとかってレベルですね」

「え? そんなに強いの?」

「はい。このオバケさんたち、一筋縄じゃ無理かと思います」


 念のため送還方法をユキちゃんに聞いてみたら、そんなお答えが。

 これほどの強い魂みたいな存在だから、やっぱり大変なようだ。

 それなら、無理することもないか。というか凄腕シャーマンを数人なんて集められない。

 億単位でお金が飛んでいくよそれ。


「無理はせずに、自然に任せることにしよう」

「そうですね」


 いつかふさわしい時期や状態になったら、自然になるようになるはず。

 それまでは、のんびり過ごしてもらうのが一番だ。


「というわけでお二人とも、ここで気の向くまま、好きに過ごしてください」

「――」

「~」


 村で過ごしてねと伝えたら、オバケたちがぺこりとお辞儀した。

 その辺礼儀正しいんだな。面白いオバケである。

 あとお世話とかしなくても良いので、実のところとても楽だ。

 自由気ままに、遊んですごせばよいのではと。


「あや~、よくわかんないけど、よろしくです~」

「~」

「~~」


 なし崩し的に村の仲間になったオバケたちだが、ハナちゃんもご挨拶している。

 偉い子だね。


(よろしく~)

(こんどあそぼうね!)


 神様たちも、挨拶して遊ぶ約束とかしている。

 まあオバケたちはだいぶ神秘の根源に近い存在だから、親近感あるのかもね。


 そんなこんなで、村に二人のオバケが住み憑いた。

 世の中、何が起こるかわからないものである。


「おもしろいおきゃくさんだね! よろしくね! よろしくね!」

「いっしょにあそぼ! あそぼ!」

「おだんごたべる? おだんご!」

「――!」

「!!!」


 ちなみにちたまオバケたちにとっても、妖精さんの実在は衝撃だったらしく、なんだかお花畑に入り浸るようになった。

 村では彼女たちと遊ぶ姿が、良く目撃される。妖精タワマンにご厄介って感じだね。

 ただオバケたちはなんだか……可愛らしい妖精さんたちに、デレデレしている感じがする。


「~」

「おかしありがと! ありがと!」

「?」

「おはなもありがと! ありがと!」


 なんかお供え物のお菓子やお花を妖精さんに貢ぎ始めており、仲良くなろうという姿勢がうかがえる。

 なんせ妖精さんたち、めっちゃ可愛いもので。ついついかまってしまうのだ。気持ちわかるよ!


『あ、こんにちは』

「!!! ――……」

「――……」


 あとオバケってことで、メカ好きさんがわざわざ幽体離脱して挨拶すると、オバケたちは見事に気絶し墜落してもうた。

 ほんものからしてみても、彼の離脱は別の意味で衝撃的だったらしい。

 ちたまのオバケより、エルフのほうがびっくり存在なのが、証明されてしまったのだ。

 でもオバケを怖がるオバケってなんなの?



 ◇



 四月になり、とうとう船の改良案がまとまった。

 ちまちまと試作品に手を入れ続け、これがいいな、という仕様がまとまったのだ。


「やっとこさ~」

「これなら、いいかんじさ~」

「もんだいないさ~」


 たたき台設計の船からも良いところが導入され、なかなかの完成度になったと思う。

 後付けで屋根を付けられたり、転覆防止のアウトリガーもオプションで選択可能かつ、着脱オーケーである。

 拡張性高い設計が売りになった。


「フネにやねがあるのは、すてきさ~」

「うちはこれにしようかとおもうさ~」


 仕様策定に協力してくれたドワーフちゃんたちも、満足の出来である。

 では、こいつを量産しようじゃないか。


「価格は一隻六万円で、屋根付きだと一万円加算とかになります」

「冊子にまとめましたので、ご検討ください」


 まあメーカーオプションってやつかな。ディーラーオプションは、今のところ無いでござる。


「あと、現在鑑定中のあの宝石が大金になったら、そのお金で量産も可能ですよ」

「そうなったら、たくさんのこたちが、ふねをもてるさ~」

「おねだんがきまったら、れんらくほしいさ~」

「たのしみに、まってるさ~」


 魔女さんが研究所に依頼した宝石は、まだまだ検証中だ。

 もうちょっと時間がかかりそうなので、しばらくお待ちくださいだね。


「船のご購入を検討されている方がいらっしゃいましたら、こちらまで見学するのも良いですよ」

「そうするさ~。また、きぼうしゃをつれてくるさ~」


 そうして話はまとまったので、これで本格的にエルフ重工の活動を始められるね。

 俺は俺で、効率的な生産が出来るようガントチャートでも作成しよう。

 次は工程管理と品質管理を、現場のみなさんと作り上げていくのだ。


「おっし! きあいいれるのだ!」

「たくさんつくろうぜ!」

「いよいよだな!」

「がんばるべ!」

「もっこうああああああ」


 職人エルフのみなさんも、ようやく量産開始とあって気合入っているね。

 この調子で、ガンガン船を作っていこうじゃないか。


「そんなわけで、かえっておしごとするさ~」

「あわわきゃ~ん」

「ほらほら、おしごとまってるさ~」

「わわわきゃ~」


 そして当然、こっちでのお仕事が終わった偉い人ちゃんは、お供ちゃんたちに連行されていった。

 あっちでのお仕事、頑張って頂きたい。


 こうして船の量産を始めたわけだが――。


「かずをつくるって、たいへんなのだ」

「ちっと、しざいがふそくしてるかな」

「けいかくてきに、やんなきゃな~」


 まあ初めての量産なので、立てた計画との齟齬も出てくる。

 ここは適時計画を引き直し、細かく修正を加えていかなければならない。


「人を増やした方がいいかもですね」

「あっちのもりから、またつれてくるかな~」

「もっこうやりたいやつ、けっこういるべさ」


 今は少人数でライン作業をやっているため、色々遅れが出たりもする。

 これは人を増やして対応しかないかなって所だ。

 そこで増えてしまった人件費は、さらなる量産で薄めてしまう。

 これがマスプロダクションの醍醐味だね。


「今の人員だと、七日で一隻ってところですか」

「やねとかがついかされると、もちっとかかります」

「追加装備は在庫を多めに確保して、人気度を見てから調整しますか」

「そうしましょう」


 量産は常に作業や計画の改良を続ける必要があり、これで良いやってことはない。

 ただ発注量やオプションの装着率がまだ読めないため、良い感じのラインというのはまだわからない。

 ひとまずリスクはあれど、ひと月分の在庫を用意して対応だ。


「フネ! フネをみにきたさ~」

「ちゅうもんしたいさ~」


 そうしているうちに、エルフィン湖畔リゾートにお客さんが見学に訪れるようになった。

 あっちの湖で話を聞いて、実物を確認しに来たって感じだね。

 これは試乗をして頂き、慎重に検討してもらう方針だ。


「時間が許す限り、試乗や見学等して頂いて、検討してください」

「ありがたいさ~」

「いたれりつくせりさ~」


 ちたま自動車販売の手法を参考に、ドワーフちゃんたちをおもてなしする。

 これが結構好評で、みなさんご機嫌だね。


「かあちゃ、こんなフネがうちにもくるのさ~?」

「がんばれば、もてるらしいさ~」

「うちもおてつだい、しっかりするさ~」


 お子様連れのご家族などは、もう真剣そのものだね。

 家族と一緒に、憧れの船でクルージングが夢らしいので。

 普段の狩猟採取も効率的になるしで、そんな未来を想像してお目々がキラッキラだ。

 ご期待に添えられるよう、こちらも頑張らないといけない。


「タイシ~、おちゃがはいったですよ~」

「ハナちゃんありがとう。偉い子だね~」

「うふ~」


 仕事を頑張っていると、ハナちゃんもお茶くみとかでお手伝いをしてくれる。

 ほんと偉い子で、思わず頭をなでちゃうね。


「みんな、フネがほしいみたいですね~」

「あこがれらしいからね」


 日に日に増えていく見学者を見て、ハナちゃんもにっこにこだね。

 二人でしばらくの間、湖で船の試乗をするドワーフちゃんたちを眺める。


「……あえ? なんか、たりないきがするです?」


 その時、ハナちゃんがこてっと首を傾げながら、そう言った。

 足りない気がする? なんだろう?


「何が足りないの?」

「あや~、なんですかね~。むむむ~?」


 すぐには出てこないようで、ハナちゃんむむむっと考え始めた。

 しばらく見守ってあげよう。


「むむむ~? むむ~?」


 そのまま三十分くらい、ハナちゃん考え続けた結果――。


「あや! そうです~! いつもハナたちがつけてるやつ、ないです~!」


 ぽむっと手を叩き、ハナちゃん気づいたようだ。

 いったい何だろう?


「いつもつけてるやつが無いって、何かな?」

「あれですあれ~、うくやつです~」


 ハナちゃんが指さす先には、ライフジャケットがあった。

 なるほど! そういえば船の事ばかり考えていて、船員の装備まで気が回っていなかった。

 それも船の運航に必要な、安全装備だよね。

 ほかにも、命綱とか船が万が一ぶつかったときのクッションとか、色々考えられる。

 なるほどハナちゃん、良いところに気が付いてくれた。

 船体設計だけで安全や効率を目指すのではなく、こうした補助の小物を使っても達成は可能なのだ。

 それは船自体のコストダウンや、より高い安全性確保にもつながる。

 まあ消耗品をケチって故障や事故とかは良くあるので、ほどほどに抑える必要はあるけど。


「確かにそうだね。その辺考えてなかったよ」

「あんぜんなやつ、だいじです~」

「ハナちゃん偉いね~。助かったよ」

「えへへ」


 確かに村でカヌーに乗ったり海竜に乗せて貰ったりしたときは、ライフジャケットの着用は義務だ。

 しかしあっちの湖から来たドワーフちゃんたちは、その辺徹底していないんだよね。

 彼女たちは泳ぎが上手だから、見逃していた。潜ったりもするし。

 でも船を運用するなら、着ておいて損はないわけだ。


「使う側の視点、大事だね」

「ですね~」


 こうしてハナちゃんのおかげで、また一つ改善点が見つかった。

 上手くやればコストダウンも可能な、ほんのちょっとした発想だけど、こういうのが大事だ。

 やっぱり一人で物を考えるのは良くないなって、実感する出来事だね。


「でもタイシは、ハナみたいなこどものはなしも、きいてくれるですね~」


 意見を取り入れて貰って嬉しかったのか、ハナちゃんがぽててっとやってきて、俺の膝の上にぽてっと座った。

 こっちを見上げて、にこにこハナちゃんだね。


「自分がしたいのは、我を通すことじゃなくて、幸せになりたいってことだからね。人の話を聞かないと、どうやって良いのかがわかんない」

「ハナもわかんないですね~」

「みんな同じだよね。おまけに間違っててもわかんないけど、まあコツコツやるしかないかなあって」

「ですです~」


 世の中わかんないことだらけで大変だから、もう頼れるならなんでも頼っちゃうよ。

 俺はスーパーマンでもなんでもない、ごくごくふつうのちたまじんだからね。


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― 新着の感想 ―
[一言] ふつう? ふつうとは何か? きっと当事者にはわからない、永遠の謎。 最近、マスクだとか、ソーシャルなんちゃらで、 スーパーでさえ、買い物大変。 これも、そのうち普通の事になるのかな? しかし…
[良い点] あの日見たハナちゃんの名前を俺達まだ知らない と言う訳でハナちゃんの名前はハナハですが、村にはまた名前どころか詳細も分からない謎の飛翔体が出現ですね。 この事態に対して大志は為す術があり…
[一言] 神様に妖精にお化けさん、随分賑やかになってますねぇ。最近出てこないけど、酒蔵の主様もお出でませ・・・。
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