第六話 ほんもの?
大勢のドワーフちゃんが観光に訪れ、村は大変賑やかになった。
今は試作品の船について意見を交換し、さらなる改良を目指しているところだ。
そんな中、俺はユキちゃんちにお邪魔していた。
「へ~、これがユキの言ってた宝石?」
「そうなの。なんだかわからなくて」
ドワーフちゃんが持ってきた謎の宝石について、宝石魔女さんに鑑定をお願いすることとなった。
そのついでに、この前子猫亭で「三人でお話しましょう」と言った約束を果たすわけだね。
ちなみに魔女さん、とんがり帽子に黒いローブをまとっていて、まさに魔女ルックである。雰囲気出てるわ~。
「こんな宝石、扱ったことないなあ。初めて見たよ」
「そうなんだ」
まあまずは宝石の鑑定ということで、ユキちゃんと魔女さんは色々調べているみたいだけど、難航しているっぽい気配は伝わって来る。
異世界の鉱物なわけで、ちたまの体系から外れている場合もあるからね。
増幅石とかアダマンとか、まさにそれだし。もしそうだったら、難しいのも当たり前という話だ。
「ただまあ、もしかしたらコレかもってのはあるかな」
「ほんと?」
「うん。希少であまり出回らないものがあるの」
コーヒーを飲みながら二人のお仕事を見守っていると、そんな会話が聞こえてきた。
ちょっと興味あるな、俺も参加しよう。
「それは何でしょうか?」
「あ、はい。『ターフェアイト』て石かもしれないんです」
魔女さんことバイトちゃんに聞いてみると、「ターフェアイト」という聞いたことない名前が出てきた。
いったいそれはなんだろう?
「そんな石があるんですね」
「私も実物は見たことがないのですけど、けっこう希少な石なんです」
バイトちゃんがユキちゃんのノートPCをカチャカチャと操作し、ネットでの検索結果を見せてくれる。
ほほう、確かに特徴はよく似ているな。ベリリウム、マグネシウム、アルミニウム酸化物なのか。
色は様々らしいけど、その中の一つである「紫色」というのは一致しているな。
「屈折率と複屈折率の数値からすると、そうなんじゃないかって思いますが……」
「扱ったことがないので、断言はできないと?」
「そうなんです。ターフェアイトって言われている実物を、私は見たことも触ったこともなくて」
取り扱い経験がないから、自信がないなあって感じなんだね。
まあそりゃしょうがないか。
「しかもこれほどの大きさは、博物館にしかないみたいで」
「そりゃあ確かに、おいそれと断定は出来ませんね」
博物館級の代物なら、手にするのも難しいよね。断言できないのも当然だ。
この資料の数字が正しいとも限らないし、今鑑定するのは無理だな。
「発見された歴史が浅くて、さらに流通量も少ないので、宝石魔術業界でも研究は進んでいませんね」
「大志さん、なんだか簡単にはいかなそうですね」
「自分もそう思う」
研究が進んでいないってことは、ユキちゃんの言う通り簡単には換金出来なさそうだ。
「研究が進んでいないと言う事は、有用かどうかもわからず微妙ですね」
「はい、魔術で有用な触媒でなければ、私たちの業界では単なるアクセサリ扱いですから」
彼女たちは魔術触媒という実用品として、宝石を調達しているわけだ。
ただ美しいだけの石は、必要としていないんだよね。
なので、このターフェアイト(仮)が触媒として使えないなら、不要ということになる。
そうすると、現金に換えるのが面倒になるんだよな。
「ただもしかすると、有用な触媒になるかもって可能性もあります」
まだ可能性って話にしか過ぎないけど、つまりは何もわからないということだ。
このまま換金できませんでした、で終わらせることも可能だけど、調べられるならやっておきたい。
「追加調査が必要ですね」
「そうですね。よろしければ、この石を魔術研究所に送って、調べてもらう事もできますよ」
「お願いしてもよろしいでしょうか?」
「わかりました。手配します」
と言う事で、結局このターフェアイト(仮)鑑定はペンディングとなってしまった。
「ちなみに、これがもしターフェアイトだとして、普通の宝石として扱った場合の末端価格もなんとも言えませんね」
「物が無さ過ぎて、相場が不安定ってことですかね」
「この大きさだと億は行くかもと思いますが、オークションにでもかけないと額は出せないと思います」
「なるほど」
相場が無いような商品は、こういうところも手間だね。
みんなで競り合って決めて貰わないと、お値段が付かないわけだ。
「さらっと魔術研究所の存在漏らしているけど、大丈夫なの? 極秘でしょ?」
「ユキがしっぽのブラッシング任せる人なんでしょ? それ以上の信用なんて無いよ」
「そうなのそうなの! そういう仲なのよ」
「こやつ、のろけおって」
この石の換金方法に悩んでいると、バイトちゃんとユキちゃんがひそひそ話を始めた。
なぜかキツネさんが耳しっぽ全開だけど、楽しい話でもしているのかな?
「それと入守さんのことは、研究所にも秘密にしておきますね」
「そうして頂けると、助かります。名前が広まると、魔法使いが自宅に押し寄せて来そうですから」
うちは異世界の貴重な物質や道具を、割と簡単に入手できるわけでね。
増幅石とか沢山あるよって広まってしまうと、まあ面倒なことにはなるかな。
「色々出所が不明な品がありますが、私たちも細かいことは追求しませんので。ユキがどこから調達してくるかというのは、触れない不文律でやってます」
どうもユキちゃんちも、うちの事を秘密にしておいてくれたようだ。魔女さんも供給元がどこかわかったようだが、触れないよって宣言だね。
なんだか加茂井家を壁役にしているようで申し訳ないが、ありがたくもある。
こうやって、陰で色々サポートしてくれていたんだな。
「ユキちゃんありがとね」
「長い付き合いですから、これくらいは問題ないですよ」
というか、このおキツネさんは権現様なので、たとえ最強魔術師でも敵いっこないからね。
そういう意味でも、前に出てくれているのだろう。ありがたやありがたや。
ほんと加茂井家には頭が上がらない。
「でもまあ、鑑定のお仕事はひとまずこの辺で締めますか」
「そうですね」
「鑑定依頼は、すぐに出しますね」
これ以上は手詰まりなので、その魔術研究所のお力に頼ることにしよう。
でもそういうコネあって助かった。なければ手詰まりだったよ。
「でもまさか、倉庫で壁に向かって話しかけていた大志さんが、こっち業界だとはびっくりです」
「私も同感ですよ」
やがて小難しい話フェーズは終わりとなり、あとは雑談の時間だね。
三人で楽しく女子会としゃれこもう。
「教習料金を援助して頂いた件は、とっても感謝してます」
「ユキちゃんともどもお世話になっているから、お礼ですね」
三人でケーキをつつきながら、キャッキャとお話をする。
隠し村関係の話は伏せて、主にちたまの日常関係の他愛もない話で盛り上がったりだ。
「そうそう、教えて貰ったラーメン屋さん、大志さんがオーナーになったのよ」
「ほんとですか! あのお店、お客が居なくて心配だったんです」
「今はもう人気店になっていて、経営も改善してきていますよ」
「それは良かったです」
バイトちゃんのおかげで知り合えた、あのラーメン屋さんの話をすると、彼女も心配していたようだ。
あれほどの味を出せるお店、大事にしたいよね。
「そういえば最近、面白い動画を見つけたんですよ。ほらこれ」
『きゃい~きゃい~』
あと色々雑談していると、おもむろにバイトちゃんが妖精さんダンシング動画を見せてくれた。
なんか広まっておるわ。
「私はこれ、本物じゃないかって思っているのですが」
「し、CGじゃないかなあ……」
『きゃきゃきゃ~い』
「CGで口の中まで作り込みますかね」
おっと、確かに口の中とかも映っている。歌って踊る妖精さんだからね。
『あきゃ~い』
『きゃ~い』
「ほら、この羽が桜模様の子とアゲハ蝶の子とか、いったん痩せてからのリバウンドなリアルさですよ。この映像とこの映像ではっきりと」
「で、ですかね」
「いちいち体形変化まで作り込む必要があるのかなと。動きのキレまで体形に準じていてですね」
「も、モーションキャプチャー元がそうなのかと」
おおう、妖精さんたちの戦いの歴史にも気づかれておる。
そうそう、リバウンドしたんだよね。作り込みというか史実というかドキュメンタリーというか……。
ひ、ひとまずごまかそう。
「こ、こだわりのモデラーだと思いますよ」
「う~ん」
これはCGなのだ。リバウンドもたゆたう余分装甲も架空である。
とまあ思わぬところで思わぬ展開があったものの、おおむね平和に女子会を終えられた。
ほっと一安心だね。
「私は今日、このままユキのおうちでお泊り会をします」
「二人とも仲が良いね」
「幼馴染ですから」
夕方になり俺は自宅に帰るが、バイトちゃんはお泊りをするようだ。
この神域に自力で遊びに来ているあたり、資格を持った人なんだろうな。
まあひょんなことから得られたこの出会いも、大事にしていこう。
◇
ここはとある世界の、とある村。
今日も今日とて、ハナちゃんはのんびり過ごしておりました。
「うふ~、今日はタイシが来る日です~」
「うちも一緒に待つさ~」
「ギニャ~」
どうやら大志が村に来る日のようで、ハナちゃんおうちのテラスで待っているようですね。
座った状態で足をぷらぷらさせて、くつろいでおります。
偉い人ちゃんやフクロイヌも一緒にいて、みんなでのんびり日向ぼっこ。
ほんわかしたひと時ですね。
「タイシとおでんわしたですけど、キジムナー火が届いたみたいです~」
「わきゃ~ん、あれを食べて、サウナに入るさ~」
ハナちゃんは大志と遊べるのでうっふうふ、偉い人ちゃんはキジムナー火とサウナを思い浮かべてわっきゃわきゃですね。
二人とも、首を長くして大志の到着を待つのでした。
「あや! タイシ来たっぽいです~」
「お出迎えするさ~」
「ギニャニャ」
やがて車の音を捉えたのか、ハナちゃんお耳がぴっこんですね。
すぐさま立ち上がって、広場に向かってぽててっと移動です。
「やっぱりタイシです~」
予想通り、広場にはいつもの車が入ってきて、運転席に大志の姿が見えました。
助手席にはユキちゃんもおりますね。
ハナちゃん待ち人来るで、ちっちゃなお手々をにぎにぎしながら、大志の降車を待ちます。
「タイシおかえりです~。ユキもおかえりです~」
「お出迎えさ~」
「ギニャ~ニャ」
やがて車から降りてきた大志に、ハナちゃん両手を掲げていつもの挨拶ですね。
一緒に来た偉い人ちゃんとフクロイヌも、お出迎えです。
「みんなこんにちは。今日も良い天気だね」
「あい~」
「のんびりしてたさ~」
「ギニャ~」
「皆さんお元気ですね。こんにちは」
ゆる~い挨拶を終えて、次の行動に移りましょう!
大志とユキちゃんは、車に積んできた箱をひょいっと抱えました。
「お電話で伝えた通り、キジムナー火が届いたよ」
「たくさんです~」
「わきゃ~ん、楽しみさ~」
「五箱もありますから、しばらく持ちますよね」
どうやら沢山発注したようで、たくさんキジムナー火があるようです。
ドワーフちゃんは大勢おりますので、念を入れたみたいですね。
「はこぶの、てつだうです~」
「ハナちゃんありがと」
「うふ~」
「うちもおてつだいするさ~」
「これはこれは、ありがとうございます」
みんなで箱をもって、とりあえず集会場へ向かうみたいですね。
ハナちゃんを先頭にして、みんなでのんびり歩いて向かいます。
「ここに置いてあるから、欲しい方には一つ五十円で販売してください」
「ふがふが」
「ここをこうすると密閉できますので、封を切ったら密閉して冷暗所に置きます」
「ふが~」
どうやら雑貨屋さんで販売するようで、ハナちゃんのひいおばあちゃんに価格等を伝えております。
これでみんな、気軽にキジムナー火を購入できますね。
「わきゃ? これが噂のウロコつやぷる食材さ~?」
「見た目がだいぶアレさ~?」
「熱くないのさ~?」
その様子を見ていたのか、観光客ドワーフちゃんたちが集まってきました。
みんなちょっと引いた感じで、真空パックされたキジムナー火を見ております。
「わきゃ~ん、見た目はアレだけど、美味しいさ~」
「そうなのさ~?」
「試しに、食べてみるのが良いさ~。これのおかげで、うちはしっぽがこんな色になったさ~」
「それはすごいさ~」
偉い人ちゃんはもう食べなれているので、安心して仲間たちにお勧めしていますね。
実体験が籠っているので、とっても説得力があります。
偉い人ちゃんの青しっぽを改善した実績は、伊達ではないですから。
「じゃあじゃあ、うち、買ってみるさ~」
「うちもさ~」
「試してみるさ~」
偉い人のプッシュもあり、観光客ドワーフちゃんたち、百円玉を握りしめてご購入を決断ですね。
にわかに雑貨屋さんが賑わってまいりました。
「あ、タイシさん、ちょっとよろしいですか?」
「ヤナさん、どうされました?」
そうしてキジムナー火販売で盛り上がっているところに、ヤナさんがすたすたとやってきました。
どうやら大志に用事があるようです。
「伝言なのですが、造船でちょっと相談したい事があるそうで、湖の事務所までご足労頂ければと」
「わかりました、今から向かいます。自転車ならすぐですから」
「お願いします」
「大志さん、私もお付き合いします」
「ユキちゃんありがとう。じゃあ一緒に行こう」
エルフ重工関連で、相談事があるようですね。
大志とユキちゃんはすぐさま自転車を用意し、エルフィン湖畔リゾートへ向かうようです。
「ハナちゃん、申し訳ないのだけど、この場をお願い出来るかな」
「あい~。ハナにおまかせです~」
キジムナー火販売のサポートについては、ハナちゃんにお願いですね。
手を挙げて元気に承ったハナちゃん、大好きな大志のお手伝いが出来て嬉しそう。
エルフ耳をピコピコさせています。
「じゃあ、行ってくるね」
「いってらっしゃいです~」
こうして大志とユキちゃんは自転車にのって、湖畔リゾートへ向かいました。
ハナちゃんは雑貨屋さんに残り、食品販売のお手伝いを始めます。
「この謎のやつは、どうやって食べるのさ~?」
「そのまんまでもだいじょぶですけど、塩コショウで炒めるともっと美味しくなるですよ~」
「これ、お料理できちゃうのさ~?」
「出来ちゃうですね~」
さっそく観光客ドワーフちゃんが、ハナちゃんに食べ方の質問をしております。
この辺はお料理上手なだけあり、疑問に対してするすると回答していますね。
「せっかくだから、ハナがお料理したげるです?」
「良いのさ~?」
「もちろんです~」
食べ方に関する質問が多かったようで、ハナちゃんはお料理の提案をしちゃいました。
サービス満点ですね。
「塩コショウ炒めにするですけど、希望する人はハナに言って欲しいです~」
「お願いしたいさ~」
「うちもさ~」
「たすかるさ~」
そんなわけで、急遽キジムナー火料理の始まりですね。
もんじゃ焼き用のコンロもありますので、サクっと作ってしまいましょう!
「二十人分ですね~、用意するので、ちょっと待つです~」
希望者の人数を確認してから、段ボール箱に詰まっている食材を準備です。
一パックで十キジムナー火が入っておりますので、二パックでいけますね。
ハナちゃんはパックを開けて、んしょんしょとお皿に取り分けております。
「あとは、コンロを準備するですかね~」
お次は調理器具ですね。お皿をいったん横に置いて、もんじゃ焼き用携帯コンロの用意を始めました。
フライパンもぴょいっと取り出して、ちゃくちゃくと調理準備が整っていきます。
「……」
「?」
あら? そうして準備している間に、なんかハナちゃんの後ろにある段ボールから、二つの……キジムナー火みたいなのが、ふらふら~っと出てきました。
この食材って、こんなに自由に飛びましたっけ?
見た目はキジムナー火によく似ているのですが、その色はなんだかシャボン玉の虹色みたい。
「――」
「!」
そのまま二つのなんかは、キジムナー火がとりわけれたお皿に、すとんと降り立ちました。
自ら調理されに移動する、便利な食材なのですかね?
「??」
「~?」
お皿に降り立った二つのやつは、きょろきょろと周りを見渡しているみたいな仕草をしています。
あと、取り分けられたキジムナー火をつんつんしたりと、まるで意思があるみたい。
そして準備中のハナちゃんは、その様子を見ていません。
「準備出来たです~……あえ?」
やがてハナちゃんの調理準備が整いましたが……お皿を見て、首を傾げました。
気づいたらなんかが増えてましたからね。色が違うので、すぐにわかります。
「なんか二つほど、色違いのやつが増えたです?」
「……?」
「???」
いつの間にか現れた色違いについて、ハナちゃんわけがわかりません。
さっき箱から出てきたの、見てないですから。
「キジムナー火って、自然増殖するですかね~。食材が増えて、儲けものです~」
「……????」
「――」
しかしハナちゃん、食材が増えたって認識したみたい。
でもそれ、食べられるのですかね。自律飛行してたっぽいですよ?
「とりあえず、これもお料理してみるですかね~。塩コショウで炒めちゃうですよ~」
「――!?」
「!!!!!」
ハナちゃんがそう呟いて菜箸で摘まもうとすると、なんだか変なキジムナー火が「ビビクッ!」としました。
そして――。
「あや! キジムナー火が逃げたです~!」
二つの炎は、お皿から飛び立ち一目散に逃げだし、縁側から外に出てしまいました!
大志が用意してくれた大事な食材が逃亡して、ハナちゃん大慌て!
「うわっきゃ~! なんか飛んできたさ~!」
「キジムナー火って、こんなに活きが良いのさ~?」
「新鮮そのもの、かもさ~」
周りのみんなも、逃げ出したなんか変なやつを見て大騒ぎ!
でも活きの良い食材かなって思ってる子もいて、なんだかカオスですね。
「待つですよ~!」
「――!」
「!!」
慌てて外に出て、裸足で追いかけるハナちゃんですが、菜箸でつまんで捕まえようと一生懸命です。
なんだか大捕り物が始まってしまいました。
「あや! すばしっこいです~」
「!」
「~!」
二つの飛ぶなんかも、捕まらないよう一生懸命フェイントを交えて回避しまくり!
ハナちゃんぴょんぴょんとジャンプながら、なかなか捕まえられず困っちゃいます。
「あやや~、神様も捕まえるの、手伝ってほしいです~」
そんな騒ぎを聞きつけたのか、神輿とオレンジちゃんが、ふ~わふわとやってきました。
賑やかな場があるとやってくる、お祭り好きな神様たちですね。
ハナちゃんは思わず、捕獲のお手伝いを頼んじゃいました。
「……あえ? これ、ちがうです?」
しかしハナちゃん、どうしたのか動きを止めました。
エルフ耳をぴぴこんと立てて、飛び回る変な奴を目で追っています。
「キジムナー火じゃないですか?」
首を傾げるハナちゃんの周りで、神輿がぴこぴこしていますね。
話を聞くと、どうやらキジムナー火じゃないみたい。
じゃあ、これは一体なんでしょうか。
ハナちゃんもわけがわからず、エルフ耳がすすっと下がって水平になりました。
「あえ? これ……オバケです?」
え? ハナちゃん今なんて。
なんか神輿がくるくると二回転しましたが。
「ほんものオバケ……あや、あややややややや」
今度はハナちゃん、ぷるぷると震え始め、エルフ耳もへなな~って下がってしまいました。
というか、本物オバケと聞こえたのですが……。
「あ、あや~! ほんものオバケ出たです~! タイシ助けてです~!」
「ギニャ?」
そして近くにいたフクロイヌのフクロに、ハナちゃんダイブ!
頭かくしてお尻隠さずの状態で、ぷるぷる震えています。
「!!」
「――!」
……なんだかヤバイ感じですが、変なやつもとい本物オバケ――らしき二つの炎も、空中でおろおろしていますね。
わけがわかりませんが、ここは大志の到着を待ちましょう。
……でも、そういえば大志もオバケは苦手なんですよね。
大丈夫なのでしょうか。




