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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第二十四章 赤い星
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第一話 春風駘蕩


 季節は春となり、寒さもだんだん和らいできた今日この頃。

 エステさんのおためし研修が終わるのに合わせて、修行をがんばったユキちゃんをエステにご招待した。


「久々のエステ! 楽しみです!」

「存分に堪能してきてね。ユキちゃんすごく頑張ったから、ご褒美だよ」

「ありがとうございます!」


 車でサロンのあるビルまで移動すると、建物を見上げたユキちゃん大はしゃぎだね。

 洗脳されるほど信奉しているエステとあって、やっぱり目が虚ろだけど。

 しかし腕は確かなため、きっちりとフォックスさんに癒しの時間を与えてくれるだろう。


「それと、サロンのみなさまに、こちらの菓子折りを差し上げてほしい」

「菓子折りですか?」

「まあ、ちょっと世話になったものでね」

「え? 大志さんがですか?」

「ちょっとね」


 それと、お手紙でアドバイスされたお礼に菓子折りも用意した。

 あの忠告がなければ、良くないことになっていたかもしれないのだから。


「あとは、おためし研修の結果も聞いて、サポートしてあげてね」

「わかりました!」


 エステさんのおためし研修は本日で終了し、結果判定がある。

 まあ問題があったとは聞いていないので、そのまま本研修に移行するだろうけど。

 この前村に帰ってきたときは、なんかキラキラしてたからね。


「それでは、行ってきます」

「終わったら連絡してね」

「はい!」


 ルンルン気分でサロンに入っていくユキちゃんだけど、耳しっぽでてますよ。

 それはさておき、俺はエステが終わるまでどこかで時間を潰す必要があるわけだ。

 もうどこで何をするのかは、決めてあるんだなこれが。

 さてさて、電話しよっと。


「もしもし親父、あと十分でそっちに行くよ」

『わかった。こっちは高橋さんと待機してるぜ』

「装備は大丈夫?」

『俺も高橋さんも、ガッチガチに決めてきたぞ。大志はどうだ?』

「こっちも大丈夫だよ。それじゃ今から行くね」

『おう』


 よし、それではバッティングセンターへ向かうぞ。

 今日こそは数と装備の暴力でホームランを量産してやる!



 ◇



「何故だ……なぜ打てないんだ……」


 対魔法、対サイキック装備をして三人で乗り込んだ結果、三振を量産した。

 もうほんと、打てそうなのにギリギリでダメなんだ。


「おい、大志……ここおかしくないか?」

「三人がかりでも一発も打てねえって、ヤベえぞ」


 親父と高橋さんも、あまりの結果に愕然としている。

 ミートするかと思いきや、コンマ数秒ズレて空振るのだ。

 球は超高速で向かってくるため、このコンマ数秒のタイミングを狂わされると打てない。

 しかし魔法もサイキックも封じているのに、なぜこれが可能なのだ。

 結局原理がわからないまま、敗北感満載でバッティングセンターを後にする。


「じゃあ……俺ら、家に帰るな」

「うん……今日はありがと」

「……またリベンジしような」


 高橋さんと親父は、そのまま敗北感を抱えて帰路についた。

 親父はリベンジするつもりだが、俺もまだあきらめてはいない。

 この謎を解き明かして、絶対にホームラン量産してやるう!


 こうして悲しい目で車を運転し、エステサロンに到着だ。

 お店の前では、ユキちゃんとエステさんが待っていた。


「うふふふ! すっごいつやつやになりましたよね!」

「ええ! ユキさんの言ってたこと、ほんとでした!」


 ユキちゃんは予想通りつやつやキツネさんになっているけど、エステさんもつやぷるエルフになっていた。

 美肌コースでも受けたのかな?


「二人とも、迎えに来たよ」

「あ、大志さんありがとうございます」

「お世話になります!」


 声をかけると、二人ともすすすっと車のほうにやってきた。

 ひとまずミッションを遂行しよう。


「ユキちゃんつやつやで奇麗だね。そちらも美に磨きがかかりましたね」

「奇麗……ふふふふ!」

「そうなんですよ! おためし研修終了のごほうびってことで、サロンが一番すごいコースをおごってくれまして!」

「あ、そういう事ですか」

「はい!」


 エステさんがつやつやなのは、サロンからのご褒美だったみたいだね。

 最上級コースは村のエルフたちの貯金だと受けるのが難しいため、今回初めて体験したんだ。

 そういうサービスをしてもらえたってことは、これは良い報せが期待できるな。


「おごってもらえたということは、研修のほうは……」

「はい、合格しましたああああ! 次からは本研修にはいります!」

「それはそれは、おめでとうございます」


 予想通り、エステさんは無事合格していて、次からは見習いエステティシャンに変身だね。

 良かった良かった。

 もうぴょんぴょんしながら、喜びあふれる感じではしゃいでますな。

 協力してくれた家族にも良い報せが出来るし、新たな始まりでもある。

 俺からもご褒美を何か渡そうかな。家族と盛り上がれる類のが良いよね。

 ……子猫亭のパーティープレートでも贈呈して、身内でお祝いでもすれば良いかな。


「私からもお祝いとして、身内で盛り上がれる美味しい料理を提供しますよ」

「ほんとですか! 嬉しいです!」

「子守を手伝ってくれたおうちの方も招待して、一緒にお祝いしましょう」

「ありがとうございます!」


 ということで、電話でパーティープレートをお願いしておこう。

 頃合いを見て受け取りに行けばいいよね。

 ひとまず村に帰ることにして、二人を車に乗せて移動する。


「エステ合格したわ!」

「「「キャー!」」」


 そして村に到着すると、エステさんはすぐさま囲まれるわけだ。

 もう女子のみなさま、キャーキャーと大はしゃぎである。


「特別こーすってやつで、お肌もこんなんなの!」

「「「キャー! キャー!」」」


 さらに最上級のエステ結果も報告し、当然集会場に連れ去られた。

 ユキちゃんも巻き添えで引っ張られていったので、これからまたお肌会議の始まりだ。

 エステとはなんぞや、というお話でもするのだろう。


「にぎやかですね~」

「そうだね」


 キャーキャーと歓声が聞こえる集会場を見て、ハナちゃんもほのぼのだね。

 春になれば活動も活発になる。これからもっと、にぎやかになるだろう。

 また、色々計画を立てないとね。



 ◇



 本日はエルフ重工基本条約の調印について、いろいろ相談する日である。

 村に到着してすぐに、ぽかぽか陽気のエルフィン湖畔リゾートに会議場を設置した。

 お日様がやさしく照らし、湖の波音(なみおと)(ささや)く湖畔にて、参加者たちと円卓を囲んでお話だ。


「わきゃ~ん、かいぎするには、よいかんきょうさ~」

「いつもはお家や集会場でしたが、こういったやりかたも良さそうですね」

「ですね。思ったよりいい感じにまとまりました」


 今さっき到着した偉い人ちゃんとヤナさんは、この会場を気に入ってくれたようだ。他の参加者も、くつろいだ感じで着席している。

 環境が快適であることに越したことは無いので、一安心というところか。


「ヤナさん、これで全員そろいましたね」

「はい、会議を始めても大丈夫です」


 そしてヤナさんと偉い人ちゃんの到着にて、会議の予定メンバー全員がそろう。

 議事進行は俺で、議事録作成はユキちゃんが担当だ。エルフ重工側の責任者として、様々な意見を出す役割も兼任する。

 エルフ側としては、ヤナさんとあっちの森族長さんが管理者側として参加となった。

 あと現場の意見を汲み取るために、マッチョさんとおっちゃんエルフ、元族長さんと団長さんにもお越し頂いており、彼らからも意見を頂戴だね。

 ドワーフィンからは、偉い人ちゃんとお供ちゃん二人が主となり、彼女たちがまとめてきた要望や実現可能性など、発注側の立場で話して頂く。

 それとちたま在住ドワーフちゃんの意見も必要なため、リーダー格であるミタちゃんのお母さん二人も参加だ。

 合計十三名が議論を交わす、結構大規模かつ重要な会議である。


(とりあえずきいとくね!)

(いるだけ~)


 ちなみに神様とオレンジちゃんも参加だが、とりあえず顔出ししているだけである。

 今は携帯ゲームで遊びながら、のんびりだね。

 というか、おやつ目当てではないかな?


「おちゃがのみたいときは、ハナにおまかせです~」

「わたしたちはおかしをていきょうするよ! おかし!」

「たくさんつくるからね! どんどんたべてね!」

(おいしいね!)

(おそなえもの~)


 案の定おやつが出てきて、オレンジちゃんとうちの子は大喜びですよこれ。

 そのおやつなどを給仕(きゅうじ)してくれるのは、ハナちゃんと妖精さんたちだ。

 彼女たちは好意で担当を名乗り出てくれたので、とても助かるし嬉しい。お礼はきちんとするからね。


「タイシ~、おいしいおちゃ、いれたですよ~」

「ハナちゃんありがとう。お茶淹れも上手とか、さすがお料理得意だね」

「ぐふ~」


 ……ギリギリのラインを見誤ったため、ハナちゃんぐにゃってしもた。

 ぐふぐふとすごく嬉しそうだけど、彼女の復活までお茶はしばらく出てこない事態となる。


「しっぱいしたやつ、どうぞ! どうぞ!」


 あと俺のお皿だけ、小惑星がたくさん着弾した。彗星みたいなやつもあり、光の尾を引いている。何をどうしたら、これが作れるのだろう?

 ちなみに味はチョコミントだった。


 まあ開始前に色々事件は起きているけど、今日はこの面々で会議を行い、エルフ重工による造船事業の調整を行う。

 では、会議を始めよう!


「それでは、会議を始めます。まず初めに――」


 会議では、主にコストと納期についてを話し合った。

 これ以上はちょっと負担できない、そうなるとコレくらいの船になる。

 それくらいならあれくらいの日数で作れそう、でもやっぱりある程度機能の選択について自由度が欲しい。

 などなど、前に偉い人ちゃんたちと会議した内容を共有する。


「次は、報酬についてですね。案としては――」


 この辺は以前に話は出ており、ドワーフィンの金属加工品や、あとは造船に参加することで納めることとなった。

 いずれはエルフィンにある鉄を精錬および加工して、資源の有効活用をしたいという案も出ている。

 これらは初期に資本投入する必要があり、俺が担当することで話は通っている。とりあえず、資本金は一千万円として様子を見よう。

 重工業を興すにしては少ない資金だけど、まだそんなに大規模な事業をするわけじゃないからね。


「わきゃ~ん、いっせんまんえんて、やばくないさ~?」

「さばかん、たくさんかえちゃうさ~」

「あれはいつでもたべられて、いいものさ~」


 資本金額を聞いた偉い人ちゃんたちがくらくらしているけど、もうすっかりサバ缶本位制をご理解されておられるね。

 通貨価値のすり合わせは上手くいったようだ。


「ラーメンもたくさん買えますね。すごい金額です」

「おかねもちです~」

「チョコがたくさんたべられるね! チョコたくさん!」

「チョコおいしいね! おいしいね!」


 あとはエルフたちと妖精さんたちも、それぞれ好きな食べ物の本位制にて、一千万円の価値を判断してお目々ぐるぐるだ。


「やせてからね! やせてから!」

「きゃ~い」

「きゃきゃ~い」


 しかし妖精さんはどさくさに紛れてチョコを食べ始めたため、イトカワちゃんにお肉チェックされるのであった。


 こんな感じで会議は無事終わり、次の段階に進めるようになった。お次は要望をもとに船体設計や試作品を作成し、現物の検証を行う。

 ここで可、もしくは不可を判定し、実用に漕ぎ着けるのだ。


「みなさん、本日はご協力ありがとうございました。これで事業が開始できます」

「うちらもできるだけ、きょうりょくするさ~」

「私たちのためにもなるので、気合が入りますね」

「かいしゃってやつがよくわかりませんでしたが、なんかすごいことできそうなかんじです」


 俺が締めの言葉を伝えると、偉い人ちゃんとヤナさんが気合の入った様子で応えた。

 あっちの森族長さんも、会社というか事業というものを、おぼろげながらにも理解し始めてくれている。


「そしきって、しっかりやらなきゃだめなんですね」

「そのへんおれら、ゆるいからな~」


 団長さんと元族長さんは、会社組織ってものを意識したようだ。

 二人とも人を率いる立場を経験しているからか、色々考える所も多いだろう。


「まあ、やること決めて手順を作るのが大事です」

「タイシさんはいつもそれやってますね」

「そういう教育受けてますから」

「ほほう」


 ヤナさんは一緒にちたまで村を作ってきた経験があるだけに、俺が何をやっているかは認識している。

 やることを決めるのが最も難しい。まあ俺はノリで決めているので、自慢できたもんじゃないが。

 ただしある程度の教育は受けているので、ギリギリなんとかなっているだけかな。


「とりあえずは、試作品を作ってみましょう。細かい決め事はそれからで」

「おっし、やってみっか」

「あっちのもりからも、もっこうじまんをつれてくるのだ」


 マッチョさんとおっちゃんエルフは、切り込み隊長として早期に動いてもらおう。

 これくらいなら、組織がない状態でも試せる。

 そして試作品を見てから、どうするか考えよう。改良もしなきゃいけないだろうし。


「ひとまず今日はこれでお仕事を終わりにしますので、あとはのんびりしますか」

「そうするです~」

「わきゃ~ん、あそぶさ~」

「水遊びでもしましょうか」


 まあ今日やることでもないので、のんびりしよう。

 ハナちゃんと偉い人ちゃんは、もうカヌーを取り出して遊ぶ気満々だし。

 ユキちゃんも、ノリノリだ。耳しっぽふわっふわだよ。


(わたしらもあそぶ~)

(およぐよ!)


 ほんでうちの子とオレンジちゃんも参加表明だけど、オレンジちゃん泳げるの?

 借りてきたのか、浮き輪とか持ってるけど。必要なくない?


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― 新着の感想 ―
[良い点] 長野の星 という訳で、メンズコースとかないけどお世話になったエステに献上する大志ですね。 ユキちゃんち共々、今後ともよしなに。色んな意味で。 そして大志からエステさんへのご褒美は豪華なお…
[一言] エステでのテクニック?に女性陣はメロメロ(オッサン語)の様ですが、普通のアレは、少~しの身体の余分な奴を移動や少なくするアレだった筈、某作家さんの、ゴッドハンドの人がこちらに出張した様な扱い…
[良い点] 異界人とちたま人が力をあわせて作るお舟、楽しみですねぇ(・∀・*) オレンジちゃん専用神船とか作って欲しいなぁ。 [気になる点] エステといい、バッティングセンターといい、長野県どこ水内郡…
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