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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第二十三章 雪の恵み
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第二十五話 春の訪れ


 長野県どこ水内郡(みのちぐん)隠し村ドワーフ湖に、なんかしらないのがいる。

 我々藤岡探検隊はこの謎を解明すべく、アマゾンの奥地へと旅立つのであった。


「そんなわけで、あの湖に何かおもしろいのがいます」

「しらなかったさ~」

「よのなか、なぞだらけさ~」

「おいしいのさ~?」


 当事者である住民のドワーフちゃんたちに説明すると、反応はこんな感じ。

 おいしいのってのは、ちょっとわかんないなあ……。

 ワサビちゃんみたいに、脱皮するかもわからんので、収穫可能かも不明である。


「ひとまず、その面白そうな子たちを観察したいと思いまして」

「どうやって、かんさつするです?」


 観察したいと話すと、ハナちゃんがしゅぴっと手を挙げた。

 まあひとまずは、観測基地を栽培試験場付近に設置して、見守るくらいかな。

 こっそり監視するので、秘密基地としておこう。


「あの場所ら辺に秘密基地をつくって、その中から見守るよ」

「ひみつきち、たのしそうです~」

「わきゃ~ん、うちもさんかするさ~」


 秘密基地という言葉がツボを突いたのか、ハナちゃんも偉い人ちゃんも乗り気になった。

 それじゃあ、みんなで面白い子たちを見守ってみよう!


「大志、運んできたぜ」

「手伝い助かるよ」

「建築は専門だからな」

「うちらも、おてつだいするさ~」


 早速エルフィンにある、以前ドワーフちゃんたち用につくった仮設住宅を運んでくる。

 あとは適当な場所に設置してカモフラすれば、秘密基地の完成だ。

 ちょっとした湖畔の別荘って感じだね。陸上に設置はしてあるが、この辺なら冠水はしないだろうから、まあ大丈夫なはず。


「ただ室内で煮炊きしますので、火災対策はしっかりしときます」

「しょうかき、じゅんびしておくです~」

「ひのようじん、たいせつさ~」


 秘密基地で長時間監視するため、炊事もやるからね。

 万が一を考えて、消火器やら監視装置やらいろいろ運び込んでおく。


「わきゃ? このしょうかきって、なにさ~?」

「あっちのむらでは、そこかしこにおいてあるさ~?」


 準備途中で、ドワーフちゃんたちが消火器に興味を持った。

 そういや、彼女たちは消火訓練してなかったな。


「これは火災を消し止める道具で、それなりの火災ならこれで消火できますよ」

「わきゃん! そんなべんりなどうぐなのさ~?」

「そうなんですよ」

「それはぜひとも、あっちでもつかいたいさ~」

「では、そのうち消火訓練でもしましょう。その時実演もしますので」

「おねがいするさ~」


 中でも偉い人ちゃんが、めっちゃ反応した。

 そういやドワーフィンじゃ、火災に対してそうとうピリピリしてたな。

 この消火器を家に常備しておけば、まあ完璧ではないにしろ心強いだろう。


 とまあそんなやり取りがありつつも、二日で基地の準備は完了した。

 水平を出したコンクリブロックの上に、力業で小屋を置いて葉っぱでカモフラしただけだからね。

 簡単お手軽な秘密基地の完成だ。


「それでは、今夜から作戦を開始します」

「タイシとおとまりするです~」

「いっしょに、おさけのむさ~」

「せっかくだから、わたちたちもさんかするよ! さんかするよ!」

「わくわくするね! わくわくするね!」

「いっしょにあそぼうね! あそぼうね!」


 お付き合いいただけるハナちゃんと偉い人ちゃんは、監視する気はないもよう。

 一緒にお泊り会をして、遊びたい感丸出しである。

 いつもの妖精三人娘ちゃんたちも、楽しいパジャマパーティー的な認識ぽい。

 秘密基地という響きに招き寄せられた、精鋭たちであるな。


 こうして夕方から張り込みを開始したが、まだまだUMAたちが活動する時間ではない。

 ひとまずのんびり、楽しい夕食会となった。


「カレーはおいしいですね~」

「うちもこれ、だいすきさ~」

「これに入っているお肉は、実はお魚ですよ」

「たまらんさ~」

「おさかなですか~」


 夕食はツナ缶を入れたシーチキンカレーで、お手軽簡単だね。

 夏場のキャンプでカレーを作る際、普通のお肉を持っていくと悪くなっている可能性がある。

 これを防ぐため、味に癖がなく、常温でも保存がきくツナ缶を用いるのだ。

 ドワーフの湖は気温が高いため、そうした工夫をしてみた。


「これはチョコじゃないから、たくさんたべてもだいじょうぶだよね! だいじょうぶだよね!」

「こういうのも、いいよね! いいよね!」

「おだんごもいれていい? いれていいよね! おいしくなるよね?」


 なおサクラちゃんとアゲハちゃんは、その小さい体で一人前を普通に平らげておる。

 チョコじゃないならカロリーゼロ、的な認識であるのは、気になるところだが。

 なおイトカワちゃんがカレーに小惑星を投入した結果、よくわからないが味に深みが出た。

 原材料が何かは聞かないことにする。


「おなかいっぱいです~」

「それじゃ仮眠しようか。夜中に起きて、監視活動するから」

「そうするです~」

「うちもひとねむりするさ~」

「おねむだよ! おねむ!」

「ゆっくり~」

「すぴぴ」


 お腹いっぱいになったら、寝袋に入って三人川の字で仮眠だ。

 妖精さんたちも、三人仲良くクッションの上で寝転がっている。

 あとは深夜の一時ごろに起床し、UMAの活動を見守ろう。


 ――そして深夜一時、スマホの振動で目が覚める。


「はいみなさん、時間となりました」

「あや~、よくねたです~」

「うちもさ~」

「おはようだね! おはようだね!」

「すぴぴ」

「むにゃ」


 ハナちゃんと偉い人ちゃんはすんなり起床し、ごそごそと監視準備を始めた。

 妖精さんはアゲハちゃんだけ起きたけど、ほかの二人はお寝坊しておる。まあ、そのまま寝かしてあげよう。

 さて、俺もカメラやモニタを立ち上げて、見守る作業を始めるかな。

 室内の電気は消してあり、今はモニタの青白い光と妖精さんのほのかに明滅する羽が光源だ。


「……まだ来ないね」

「のんびり、まつですか~」

「どきどきするさ~」

「わくわくするね。わくわく」


 みんなひそひそ声で、暗い室内で映像を映し出しているモニタを見つめる。

 カメラはカモフラした葉っぱの中に隠してあり、栽培試験場をじっと映し出していた。

 有線でノートPCにつなげており、電池切れの心配は無い。


「とりあえず間食でもしながら、じっくり行こう」

「そうするです~」

「おさけものむさ~」


 ナッツや干し肉、お菓子などをつまみながら、じりじりとUMAが訪れるのを待つ。

 俺と偉い人ちゃんは、ウィスキーもちびちび飲んでいるけど。

 二人ともお酒に酔わないので、まあこれくらいはね。


「チョコたべるよ! チョコ!」

「チョコときいて~」

「ゆだんたいてき~」

「きゃ~い」


 お寝坊妖精さんたちも、アゲハちゃんがチョコを食べ始めたら起きてきた。

 ちなみにイトカワちゃんは寝ぼけ眼ながらも、わき腹のお肉をつまむお仕事は完遂したもよう。


 そうして待つこと、三十分くらい。

 午前一時半をちょっとすぎたところで――。


「ち~」

「来た!」

「なんか、みずうみからでてきたです~」

「あんなの、はじめてみたさ~」

「きゃい?」


 とうとう、我々探検隊は謎の生物Xを発見した!

 ひそひそと声を交わしながら、Xの行動を見守る。


「ちっちち~」

「ちち~」

「ち」


 しばらく見守っていると、もう湖からでてくるわでてくるわ。

 百ちょっとくらいの個体が、月明かりに照らされた湖畔で、キャッキャと遊び始める。


「あんなのが、こんなにいたのさ~? びっくりさ~」

「やっぱし、ワサビちゃんとちがうですね~」

「ちょっと体は小さいかな。あとしっぽがある。色はわからないけど……紫ぽいのかな」


 もうどっきどきしながら、Xたちの生態を観察だね。

 ハナちゃんと偉い人ちゃんも、好奇心いっぱいのおめめでモニタを見つめている。


「きゃい? なんかみたことある? みたことある?」


 その時イトカワちゃんが、見たことあるっぽいことをおっしゃった。

 ちょっと聞いてみよう。


「あの子たち、見たことあるの?」

「まえにここでおどったとき、なんかいたんだよ。いたんだよ」

「はっきりとはみてないけどね。みてないけどね」

「きのせいかとおもってた~」


 話を聞くと、ちらっとそれっぽいのを目撃したらしい。

 ただはっきり見えていなかったので、気のせいで処理していたようだけど。

 まあそこはしょうがないか。

 でも、けっこう前から活動していたっぽいのはわかったね。


「ぴっぴ~」

「ぴちちちち」

「ぴ~」


 しばらく観察していると、今度はワサビちゃんたちがやってきた。

 そのままてこてこ歩いていき、Xたちと合流する。

 どうやら、彼らは交流があるようだ。いつの間に……。


「ぴっ!」


 やがて、ある個体のワサビちゃんが号令みたいなのをかけた。


「ちちち~」

「ち~」


 すると、Xたちが集まり、整列する。

 なにこれ、統率取れてるじゃないか。不思議すぎるだろ。


「ぴ~」

「ちっちち~」

「ちちちちちち」


 それから、集まった謎植物たちが、何かを始める。

 一定の集団にまとまって散開を始めたのだ。


「あや! なんかもってきたです~」

「こっちもさ~」

「こっちもだね! こっちも!」


 しばらく待っていると、こんどは草とか蔓を抱えて集団が戻ってきた。

 この素材は……!


「ちちちち~」

「ぴっぴ~」


 そして素材を持ち寄った彼らは、いそいそと作業を始める。

 これは間違いない! あの畑を作っていたのは、この子たちだったんだ!


「……まさか、ワサビちゃんたちとあの子たちが、畑を作っていたとは」

「おどろきです~」

「わけわかんないさ~」

「おもしろいね! おもしろいね!」


 この光景を見た俺たち、もうほんとびっくりだ。

 なんで植物たちが、畑を作るの? わけわかんないよ。


「タイシタイシ、こっちでは、いしをはこんでるみたいです?」

「え?」


 あまりに謎すぎる光景に混乱していると、ハナちゃんがモニタを指さした。

 なんだかワサビちゃんたちが、石をいくつか運んでいるね。


「ぴ~?」

「ぴぴ」


 その集団を確認した畑製造中のワサビちゃんたちは、待ってましたとばかりに、一つの区画を湖面に浮かべる。

 何をするんだろう?


「ぴっぴ~」


 と思っていたら、石を運んできたワサビちゃんたちが、水に浮かべてある一つの区画に置き始める。

 わっしょいって感じで。


「ぴ~?」

「ちちち~」


 何個かの石を置いた後で、ちまちまと修正しているね。浮力の確認だろうか。


「あれは、浮かぶかどうか確認してるのかな」

「わかんないですね~」

「こまめに、ちょうせいしてるみたいさ~」

「ていねいなしごとだね! しょくにんだね!」


 もうわからないことだらけなんだけど、俺たちが混乱しているあいだにも、ちゃくちゃくと浮島畑が出来上がっていく。

 大勢が作業しているので、なかなかの構築速度だ。

 この謎植物たち、こんな高度なことできるんだ。もはや植物かどうかも怪しい感じだよ。


 俺たちは、そのまま二時間ほどこのサバトを見守る。

 そして――。


「ちっちち~!」

「ぴ~!」


 とうとう浮島畑が完成し、ワサビちゃんとXたちによる完成式典が開催された。

 みんなで並び、進水を果たした浮島畑をみてぱちぱちと拍手みたいなこともしている。

 わけがわからないよ。


「なんか、おいわいしてるです?」

「わいわいやってるさ~」

「なかよしっぽいよね! いいことだよね!」

「きゃい~」

「わかんないけどね! ぜんぜんわかんない!」


 ハナちゃんたちも、もうお目々ぐるぐる状態だよ。

 誰一人、何が目的なのか理解できない。ただ、楽しそうではあるな。

 こんなおもろいことが、起きていたのか……。

 そのまま観察を続け、そろそろ朝日が昇るかなという時間になる。


「ぴっぴぴ~」

「ち~」


 すると、彼らは空を見上げて解散をし始めた。

 お互い手を振って、湖に戻っていったり、ワサビちゃんは川に飛び込み帰っていく。


「……朝日が昇る前に、みんな帰っちゃったね」

「ですね~。にぎやかだったです~」

「おもしろい、いきものさ~」

「ふしぎだね! ふしぎだね!」


 結局のところ、なんで畑を作っているのかはわからなかった。ただ、生態っぽいものは見えてきたかも。

 ワサビちゃんとよく似た彼ら、通称「X」はどうやら、今のところ夜にしか活動していない。

 そしてワサビちゃんと、よく似た見た目であるわけだ。しっぽがあり、足が魅惑的なのが特徴といえば特徴かな?

 もし彼らが近縁種だとしたら、好む光も似ているかもしれない。


「もしかしてさ、あの子たちもワサビちゃんみたいに、赤い光が苦手で、青い光が好きなのかも」

「わかんないですけど、あるかもです~」

「そうなのさ~?」

「すぴぴ」


 推測を口にだしてみると、ハナちゃんはそうかもって感じだね。

 偉い人ちゃんは、そもそもワサビちゃんたちの生態を知らないから、そりゃわかんないよね。

 ちなみに妖精さんたちはお仕事終わりって感じで寝ちゃったので、意見を求めることはできなかったでござる。

 それはそれとして、ドワーフちゃんたちは、夜の時期はまったく活動しない。

 だから、今まで発見されなかったのかも?


「もし彼らが夜しか活動しなかったら、みなさん発見は困難ですよね?」

「それはそうさ~。よるのじきは、みんなねてるさ~」


 この辺は現地民のお墨付きって感じか。まあなんにせよ、よくわからない。

 ……ただ、試してみるのもアリだな。


「ねえ、ちょっと思いついたんだけど――」



 ◇



 ここはとある世界の、とあるドワーフの湖。

 そろそろ、ちっちちゃんたちの活動時間です。


「ち~」

「ちち~」


 昨日お仕事はしましたので、今日はのんびり陸で遊ぶ日になるのかな?

 ともかく、いつもの場所へ行くため、水中を泳いで移動です。

 そして、陸上に上がろうと浮上した、その時の事でした。


「ち~!」

「ちっちち~!」

「ちちちちちちちちちちち」


 なんと、光る奴がたくさん、あったのです!

 木の枝についているなんかのやつから降り注ぐ、待望の光がありました。


「ちちちち~!」


 おまけに、その辺には別の光る奴も置いてあります!

 木の枝についているのは、LED街灯ですね。

 置いてあるのは、ヤナさん作成のアレです。


「ち~……」

「――……」


 あまりに突然光る奴が大量発生したせいか、ちっちちゃんたち、ぱたりぱたりと気絶する子がでる始末ですよ。

 うれしすぎたのですかね?


「ぴ?」

「ぴち!」


 そんな大騒ぎの現場に、ワサビちゃんたちもやってきました。

 まあ、彼らもこの光る奴だらけの風景をみて、唖然としておりますが。


「ちち~!」

「ぴっぴぴ~!」


 なんにせよ、今日はお祭りですね!

 ワサビちゃんとちっちちゃんたち、手を取り合って大喜びです。

 みんな、良かったね。



 ◇



「やっぱしです~! タイシのねらい、あたったです~!」

「みんな、ひかるやつにむらがってるさ~」

「めっちゃ喜んでるよこれ」

「おまつりだね! おまつり!」

「きゃいきゃい~」

「たおれてるね! びっくりしたのかもね!」


 昨日思いついた予想はドンピシャで、複数のLED街灯に「X」たちが集まった。

 光る奴がたくさんあってうれしいのか、大はしゃぎだよ。

 何名か気絶したけど。


「ちち~」

「ちちちちちち」

「ち~ちちち」


 というか、うわさを聞き付けたのかどんどん増えてくる。

 もうでるわでるわ、集まるわ集まるわ。どんだけ湖にいるんだよと。

 三百を超えそうなくらいおるわ。


 でもまあ、なぜ畑を作るかはわからんが、青い光を求めているのはわかった。

 ワサビちゃんの新種か近縁なんだろうな。


「ち~」

「ちっちっち」


 あとなんでか知らないけど、草で編んだユキちゃんぽいやつの周りでサバトが始まった。

 もしかして、暗黒キツネさんをこの子たちも見てたのかな?

 かなり神々しいお姿だったから、信仰対象にされたかもしれない。

 まあ、おもしろいからそのままにしておこう。


「けっきょく、なんだったんですかね~」

「わけわからなすぎさ~」

「きにしないほうがいいかもね! きにしない!」

「しこうほうきだよ! かんがえないよ!」

「むずかしいことはおまかせだからね! まるなげだよ!」


 ただあまりにカオスすぎて、ハナちゃんと偉い人ちゃんは大混乱している。

 妖精さんたちはそもそも思考を放棄した。

 正直俺もよくわかんないけど、推測はしておこうか。


「そういえば、最初は光るお酒を置いておいたんだよね」

「あい、よくそだつかなっておもったです?」

「そのとき初めて、あの子たちはすごい光と遭遇したんだと思うよ」

「あや~、あるかもです~」


 しばらく放置してたと聞いたから、たぶんその時から集まってたんじゃないかな。


「ただ、浮草農法だと置いておけないから、持って帰っちゃったわけだ」

「ですね~。のんびりやるつもりだったですよ~」

「そしたら、あの子たちは困っちゃったんだろうね」

「あや~」


 ハナちゃんも言われて気づいたのか、お耳がぺたんとなってしまった。

 でもハナちゃんが悪いわけじゃないよね。そもそもこんなのが居るとは、知らなかったわけだし。


「ハナちゃんが間違ったわけじゃないよ。わからないのも当然だよ」

「ですかね~」

「だから気にする必要がないというか、むしろハナちゃんのおかげで見付かったんじゃない? 良いきっかけだと思うよ。すごいね!」

「うふ~」


 フォローしつつ褒めると、ハナちゃんご機嫌になったので一安心だ。

 ほんじゃ続きだね。


「そんで困ったあの子たちは、『この浮くやつがもっと増えれば、光るやつも帰ってくるかも』とか思ったりして」

「あや! まさか、まんなかのつかいみちのないところって……」

「あ~、もしかしたら、光るやつを置くための区画なのかも」


 あくまで推測だけど、あからさまに使い道なかったからね。ありうるかもだ。

 ただし、あの謎植物たちが何を考えているかは、まったくわからない。

 石を乗せて浮力試験ぽいことをやっていたから、可能性はあるのではと思うが。


「あとは、あの子たちのおかげで良い畑が手に入ったから、引き続き作ってもらいたいとは思う」

「どうやって、おねがいしたらいいかは、まったくわかんないです~」

「正直自分もだよ。むしろわかってたらそっちのほうがおかしいかも」

「ですね~」


 そうやってハナちゃんと推測するも、やっぱりほんとのところはわからない。

 というか、わけわかんなすぎてハナちゃんもお疲れ顔である。


「すぴぴ」

「むにゃ~」


 なお、偉い人ちゃんも、ついに思考を放棄し妖精さんたちとおねむしていた。

 今起きているのは、俺とハナちゃんだけである。

 あんまり深く考えない、結局それが一番なのかもね。



 ◇



「やり遂げました」


 ドワーフの湖UMA事件は解決し、ある意味迷宮入りとなった日から数日後、ユキちゃんが修行から帰ってきた。

 ヘロヘロになっているかと思いきや、逆に健康的になっております。

 規則正しい生活と、しっかりと運動したおかげかも知れない。


「ユキちゃん、すごく凛々しくなったね。かっこいいよ」

「ほんとですか!」


 しかし凛々しくなったと褒めた途端、耳しっぽが全開となりいつもの感じに。

 そのダメなところがまた良い。

 でも修行の成果は出ているのか、霊能力者でもそうそう気取られない霊気ではある。

 うまく位相をずらしているね。


「しかし山形まで修行とは、なかなかすごいね」

「もうほんと大変でしたよ……」


 あと出羽三山での修行について素直にすごいというと、遠い目になった。

 ユキちゃんちも修験道のガチなところだけど、出羽三山も同レベルでガチだからね。

 というか、山形ってお婆ちゃんから聞いて、ピンときたんだけど……。


「もしかして、お爺さんかお父さんの出身地だったりする?」

「そうですよ。良くわかりましたね、お祖父ちゃんもお父さんも、山形出身です」

「なるほどなるほど」

「はえ?」


 山形が出身で、出羽三山となると……八咫烏(やたがらす)だよね。

 羽黒派はカラス天狗が有名だし、もうなんかいろいろわかった感があるよ。

 たしか飯縄の権現様は、大昔に出羽三山へ勧請(かんじょう)、つまり迎えられたこともあった。飯縄と出羽三山は、修験道でかなり密接な結びつきがあるわけだ。

 そこからわかるのは、上杉謙信や武田信玄が歴史を書き換えて飯綱三郎天狗にしたのではなく、もとからキツネさんとカラスさんが両方存在していたってことだな。

 ユキちゃんちは長野のキツネさんであり、山形のカラスさんなのだ。歴史の謎が、なんか解けた気がするよ。

 というかそんな重要情報をぽろっと漏らすあたり、やっぱりうかつなのであった。

 正体から来歴までバレたがな。


 まあそれはそれとして、がんばったユキちゃんにご褒美をあげよう。


「ユキちゃんがんばったから、またエステ最上級コースおごっちゃうよ」

「よろしいのですか?」

「もちろんだよ。それくらいの役得あっても良いくらいだね」

「ありがとうございます!」


 というわけで、ユキちゃんはエステで癒されてもらおう。

 まあ後日ってことになるけど。今日はお仕事あるからね。


「それじゃあ、村に行こうか。みんなも待ってるから」

「はい!」


 そうしてユキちゃんとともに車で村に向かい、無事到着だ。

 ハナちゃんたちにお出迎えしてもらい、ヤナさんの家で一服となった。


「あらユキさん、なんだかキレイになりましたね」

「ユキ、かっこよくなったです?」

「ふふふ!」


 修行を終えたユキちゃんの変化は、カナさんとハナちゃんにもわかったようだ。

 背筋もしゃきっとしているし、確実に成果がでている。

 そんな感じで、久々の再会に喜びつつなごやかに雑談していた時の事だ。


「そうそうタイシ、ユキにあのことおしえたです? みずうみのアレ」

「あ、まだ説明してないや」

「湖のアレというと?」


 ハナちゃんから、湖で発見した新種ちゃんの話が出た。

 たしかにまだ説明していない。

 軽く何があったか教えておこう。


「えっとね、こんな事件が――」


 ユキちゃんに、謎の畑出現からの新種発見と、それからの諸々を説明する。


「面白いことが起きていたのですね」

「あれから仲良くなろうと接触を試みたけど、なかなか苦労したよ」

「ちかづくと、にげだしちゃうです~」


 新種ちゃんたちはかなりの怖がりみたいで、接近すると湖に飛び込んで逃げてしまう。

 結局、LED懐中電灯を持って行ってじわじわと仲良くなった。

 俺たちが友好的で、かつ光るやつを大量供給できると認識してもらったわけだ。まあ餌付けである。

 野良猫ちゃんを懐かせるプロセスの大変さって、あんな感じかもしれない。

 つまりそれくらい大変だった。


「今では逃げないくらいには仲良くなれたんで、ユキちゃんも紹介しようかと」

「わかりました。今夜ですよね」

「そうだね、早いほうが良いかも」


 ということで、夜になり秘密基地で待機する。

 新種ちゃんが活動を始めたら、顔を出すのだ。


「きょうのカレーも、おいしいです~」

「キャンプみたいで、楽しいですね。修行中は雪洞で過ごしたものですから……」

「ユキちゃん、思い出さないほうが良いよ」

「ええ……」


 秘密基地で待機する際、カレーが定番料理となっていたので、みんなで楽しく食事だ。

 ただし、ユキちゃんが修行中のトラウマを思い出し、陰のある表情になったりもした。

 どんだけ辛かったのさ……。


「タイシ、でてきたですよ~」

「ほんとだ、じゃあ挨拶に行こう」

「いよいよですね」


 そうこうしているうちに深夜となり、新種ちゃんが湖から集まってきた。

 さっそくユキちゃんと顔合わせするため、建物の外に出る。


「ち?」

「ちち~!」

「ちちちちちち」


 すると、ユキちゃんを見るや否や、新種ちゃんたちが周りを囲んで拝み始めた。

 ありがたやありがたやって感じ。

 ……そういえば、なんか九尾のキツネさんが信仰対象になってたな。

 言うの忘れてた。


「え? え?」


 ありがたやされているユキちゃんは、わけがわからず狼狽えてしまう。

 まあ信者が増えたのは良い事かもしれないので、特に介入はしないでおこう。

 いわゆる放置である。


「あや~、ユキがかこまれたです~」

「ありがたい存在だからね」

「ハナもやっとくです?」

「じゃあ自分もやっとこう」

「ええ……?」


 俺とハナちゃんもせっかくだからおがんでみたけど、キツネさんは置いてけぼりである。

 説明が明らかに足りないせいだが、面白いのでそのままだ。


「な、何が起きているのですか?」

「ユキちゃんがんばったねって、みんな分かってるんだと思うよ」

「ですかね?」

「ですです~」


 ともあれ、新種ちゃんも発見し、無事仲良くなれた。

 ユキちゃんも修行を終えパワーアップし、また一緒に活動できる。

 新たな仲間とともに、楽しい春にしていこう!


これにて今章は終了となります。お付き合い頂きありがとうございました。

ユキちゃんは色々うかつな娘さんですが、いろいろな事情があって、けなげに大志のサポートを頑張っているのでした。

キツネさんに幸あれですね。

というわけで、引き続き次章ものんびりとお付き合い頂けたらと思います。

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