第二十二話 キツネさん目標できた
ユキちゃんの正体が改めてバレた翌日のこと、俺はハナちゃんちで会議の準備を進めていた。
「ふふふ、ふふふふふ」
「ユキ、ごきげんですね~」
(げんきでた~?)
正体バレ耳しっぽさんも準備を手伝ってくれるけど、めっちゃご機嫌だね。
ハナちゃんもキツネさんが元気を取り戻してくれたとあって、嬉しそうだ。神輿もその周りをほよよほ飛んでいて、ユキちゃんが元気なのを確認している。
なんだかんだで、みんな心配してたんだな。
「明日は町遊びだから、楽しみなの」
「よかったです~」
(よかったね~)
ごきげんな理由もユキちゃんから説明があって、提案したハナちゃんとしては喜ばしい感じだね。二人でうふうふと仲良くお話しているよ。
そんな感じで、和やかな雰囲気の中会議の準備はつつがなく進む。
「きょうもおだんご、たくさんこねるね! おだんご!」
「おいしいよ! おいしいよ!」
「たんとおたべ~」
こちらの準備と平行して、妖精さんたちもお茶菓子を量産だね。
ヘルシーごま団子の割合が高いのは、だいえっと中だからだろうか。
「わきゃ~ん、おはようさ~」
「きょうもげんきに、おしごとするさ~」
「かいぎしなきゃさ~」
「大志、おはよう」
やがて偉い人ちゃんたちが出勤し、一緒にお袋もやってきた。
それじゃあ、お仕事始めましょうか。
「みなさんおはようございます。本日は、昨日話の出た舟のところから始めますか」
「そうするさ~」
ということで、古の川舟であるタズルに良く似た、ドワーフちゃん舟を基準に議論を進めることになった。
音頭を取って、話をまとめていこう。
「では、この舟を元に要望をまとめたいと思います」
「ぐたいてきに、やっていくさ~」
「いろいろ、あるさ~」
「できたらうれしいさ~」
基準が出来たところで、大まかに要望などを纏めよう。主なところは機能と価格だ。
「まず初めに、機能や価格などを――」
ネットを使いちまちまと資料を参照しながら、会議はじりじり進んでいく。
「こんなかんじがいいかなって、かんがえてきたさ~」
「そのへんが、おとしどころさ~」
「こんな感じですね。ふむふむ……」
要望としては、基本的に最低限三人世帯がもてる船にしたいという話から始まり、出来るだけコストは押さえたいとのこと。
しかしせっかくなので、もっと便利でつおい船がいいなあ、欲しいなあ、て感じだ。
低コストで高性能なボートなら、ちたまが蓄積してきた設計技術を使えば、まあ可能かな。
ただし生産はエルフたちが手工業で行うため、時間はかかるだろう。
「これくらいだと、建造は多少時間がかかりそうです」
「そこはだいじょうぶさ~」
「みんながねているじきにつくれば、まにあうさ~」
納期については、多少時間はかかっても問題ないそうだ。
どのみち普通のドワーフちゃんたちは三ヶ月くらい冬眠するので、その間にこさえれば良いらしい。
「それでもきびしいおうちはあるけど、こういうかんじにするさ~」
「なるほど、こういった感じですね」
あとは若い子の二世帯や単身者については、ゴムボートのレンタルのほうが都合が良いというお話も聞いた。若い人だから、大体は泳いでなんとかできてしまう、というのが理由らしい。
まあそういう若い世帯に対しては「子供が出来たら、夢の自家用船を検討しましょう!」という感じで煽って、あわよくば人口増も狙っちゃうらしい。さすが政治家である。
こんな感じで、ちまちまと認識あわせをしていくのだが――。
「あとは、おかねのかちを、あわせておくひつようがあるさ~」
「ちたまのおかねのつかいかた、ほかのひとにりかいしてもらうのは、たいへんさ~」
「かちかんのずれは、よくないさ~」
話が進んでいくうちに、お金の価値観についての話が出てきた。
確かに、このあたりをすり合わせておかないと、世界間での認識のズレが大きくなるな。
さすが政治家らしい発想で、こうした物事のすり合わせや分配などは、実のところ彼らが色々やってくれているおかげで揉め事を最小限にできている。
その専門家が懸念を示しているということは、軽く見たらよくないってことだ。
基準は示しておかないといけない。
「ひとまず、この村では百円の価値をラーメン一食と定義しています。エルフのみなさんが一番喜ぶ物でしたので、これと交換保証をして価値を担保しておりますね」
「なるほどさ~」
「みそらーめん、あれはいいものさ~」
沢山お金を抱えても、最終的にラーメンにはなる。ラーメンから別の物品に交換もできるだろうから、エルフたちは安心してちたまのお金を扱えるわけだ。
「そうそう大志、エルフィンだとラーメンは高レートで交換されてたわ」
「へえ、あっちに無いものだからかな」
「ああいう食料は貴重だから、重宝されてるみたいね。安全に長期保存できるし、簡単に食べられる。おまけに美味しいし量もそれなりにあるので、大人気よ」
「なるほど」
ラーメンの話が出たところで、お袋からエルフィン情報が入ってきた。
話を聞くに、エルフィンでは味もさることながら、すぐさま食べられる安全な保存食としての価値が高く見積もられているようだ。
まあ狩猟採取で豊かな生活ができる世界とはいえ、時には食料集めが空ぶるときや、できない状況もある。そういうときに、即席麺はとてつもない価値を持つってことか。
スポットで発生する飢えを、それなりにカバーできる戦略物資という感じだね。
このちたまだって、ちょっと小腹が空いたときの救世主なのがインスタントラーメンだ。運用方法は似ているともいえる。
「わたしたちは、チョコがきじゅんだよ! チョコはさいこうだよ!」
「おいしいからね! しょうがないよね!」
「チョコとまんない~」
ちなみに妖精さんたちは、いつのまにかチョコ本位制を運用中だ。特に俺は何も保証していないのだけど、事実上そうなった感あり。
信頼された結果だと思うので、しっかりやっていこう。
「ほらチョコたべすぎ! たべすぎ~!」
「きゃ~い」
「きゃきゃ~い」
しかしこの交換保証は誘惑がすごいせいで、またまたイトカワちゃんにお腹のお肉をむにむにされる、だいえっと中妖精さんたちであった。
というか、エルフと妖精さんは単価が百円の現物を基準にしているね。やっぱり分かりやすいのは大事である。
以上のことを考えると、百円で買えて各種族が喜ぶもの、これが重要なんだろうな。
それなら、ドワーフちゃん向けにはサバ缶とかどうだろう? あれもひとつ百円で提供しているからね。
「みなさん向けには、サバ缶などはどうでしょうか?」
「わきゃん? さばかんさ~? たしかにそれなら、うれしいさ~」
「みんなほしがるの、かくじつさ~」
「たべものとてつ、ふたつともてにはいるの、さいこうさ~」
提案してみると、好感触だ。大好きなサバ缶を想像しているのか、うっとり顔だね。素材が鉄であるのもポイント高いようだ。
あ、でもフタの部分はアルミなのが多いんだよな。そこは気をつけてもらおう。
「ちなみにですが、ああいう缶詰のフタは違う金属ですよ。アルミニウムというものが使われています」
「そこはきづいてたさ~。『これ、なんかちがう』って、みんなではなしてたさ~」
「なぞのきんぞくさ~」
「ちたまは、ふしぎなそざいがたくさんさ~」
フタについて説明すると、みなさん鉄とは違う金属だとは気付いていたようだ。比重や強度から、特性まで違うからね。金属加工が得意なら、普通は気付くか。
「まあそのアルミってやつは、鉄というか鋼より軽くて強度があり、いろいろ優れた金属ですね」
「それはすごそうさ~」
「たしかに、かるくてがんじょうさ~」
「あんなきんぞく、うちらのとこにはないさ~」
ついでに軽くアルミについて説明すると、偉い人ちゃんたち興味津々になった。
ドワーフィンでは存在を確認されていないようだけど、たぶんあると思う。電気がないと単離はきわめて困難だから、単体を得られていないだけかもね。
というか、一般的に使われる明礬に、アルミニウムが含まれているわけだ。そういうの、ドワーフィンにもあるんじゃないかな。
「こっちでは、あく抜きやら消毒やら塗料やら水の浄化とかもう色々活用している、白い石のなかに含まれてますよ。たぶんそちらの世界にもあるのではと」
「じつぶつをみないとわからないけど、にたようなつかいかたをしているやつ、うちらのとこにもあるさ~」
「それでは、同じものか確認できるよう、いずれ実物をお持ちしますね」
「たのしみさ~」
明礬というか白礬なんだけど、こんど見てもらおう。
さて、そろそろアルミからサバ缶のお話に戻ろうか。
「そんなわけで、鉄というか鋼とアルミという二種類の金属が使われていますので、再利用の際はお気をつけください」
「わかったさ~」
「きをつけるさ~」
サバ缶についての注意点は共有できたようで、お供ちゃんたちもわきゃっとお返事だね。ぜひとも有効活用くださいだ。
「でもでも、そんなすごいやつ、おたかいきがするさ~」
「たしかにそうさ~。ぜいたくひんさ~」
しかしすぐさま、お供ちゃんたちが心配そうな顔になった。
たしかに彼女たちの基準からすると、サバ缶はあっちじゃ貴重な味噌味で、さらにドワーフィンじゃレアメタルの鉄容器だからね。おまけに、あっちじゃ単体で存在していないアルミニウムもついてくる。
そりゃ、お値段は気になるところだろう。
「さばかんは、ここならいっこひゃくえんでかえるさ~。しんじられないおねだんさ~」
しかし偉い人ちゃんはこの村で過ごしアルバイトをしていたこともあり、雑貨屋さんにて百円で売っていることを知っている。
というか、当時村で一番サバ缶を個人消費していたのが、彼女だからね。
「そもそも、ひゃくえんってのが、わかんないさ~」
「おかねってやつのはなしは、きいたさ~」
しかしお供ちゃんたちは、まだ日本円とその運用は良くわからないようだ。
その辺は、あとでおこづかいという名の賄賂を渡して、実際に運用して実感頂こう。お二人のサポートは偉い人ちゃんに丸投げするけどね。
「お金の価値と遣い方につきましては、後ほど現金をお渡ししますので、実際に使って感覚を身に着けて頂ければと」
「そうするさ~」
「やってみるさ~」
豪遊のため一瞬で現金を溶かす展開もあるので、ひとまず千円を渡して運用してもらおう。まあ異世界の要人に渡す金額ではないのだが、おこづかいだからね。
それにこれくらいあれば、物価の安い我が村なら結構豪華に過ごせるわけなので。
あとはいろいろ感覚が身についたのを確認したら、改めて考えよう。
「うちがおすすめのしなもの、おしえるさ~」
「おかいもの、たのしみさ~」
「わきゃ~」
今からしょっぴんぐが楽しみな感じで、お供ちゃんはわっきゃわきゃだね。
この調子で、引き続きちたまで楽しく過ごして頂きたい。
とまあそんな感じで楽しく会議は進んでゆき、大体の話がまとまった。
これでドワーフィン側との事前調整は出来たと思われる。
「大体まとまりましたね。会議としては、これくらいでしょうか」
「たたきだいとしては、これでよいとおもうさ~」
「いまのところ、きめられるのはこれくらいさ~」
「もんだいないさ~」
偉い人ちゃんたちに確認すると、同意が得られた。
ようするにドワーフィンとはお話が付いたので、これで次の段階に進めるね。
次は星間会談を行い、エルフ重工基本条約の合意までもっていきたい。
……とまあかっこよく言葉を並べたけど、実際のところは「エルフが船作ってドワーフちゃんに売るよ」ってだけの単純な話である。
「タイシタイシ、おしごとおわったです?」
会議が終わってほっとしていると、ハナちゃんがお仕事終了の確認をしてきた。
そうだね、ひとまずこれくらいかな。お手伝いのお礼を言っておこう。
「無事お仕事終わったよ。ハナちゃんお茶だしとかお手伝いありがとうね。妖精さんたちもありがとう」
「どういたしましてです~」
「ほめられちゃった! ほめられちゃった!」
「きゃい~」
お礼を言うと、ハナちゃんにっこり、妖精さんたちきゃいっきゃいだね。
ほんとうに、ありがとうございますだ。
「じゃあじゃあ、みんなでおつかれかいするです?」
「それは良いね! ……でもハナちゃん、お疲れ会とか良く知ってるね」
「おとうさんたちが、よくやってるですよ~。しょうぼうだんのやつで」
(わたしもさんかしてるよ~)
「なるほど」
ハナちゃんは、よく大人たちを見ているようだ。お疲れ会という発想も、ヤナさんたちがやってるのを見聞きしたんだろうな。
というか、謎の声もその会に参加しているらしい。絶対お供え物狙いだよねそれ。
「ヤナ~、おつかれかいのはなし、わたしきいてないわよ~? こっそりのみかい、してたのね~?」
「おっふ」
(ばれた)
そしてハナちゃんの報告により、だめなおとなたちと神輿の飲み会が奥さんにバレた。
そうそう、お疲れ会とか色々理由つけて、ただ飲みたいだけなんだよね。でも、口実というのは大事でござる。
「ハナ、おとうさんはこっそりおさけのんでたつみで、こちょこちょのけいにするわ。わたしとハナのふたりで、さばきをくだしましょう」
「あい~! まかせるです~」
「うっわふたりがかり! ちょっとまって! まって!」
(きゃ~)
ただカナさん的にはギルティらしく、くすぐり刑という判決となってしまった。
ハナちゃんも助手に加わり、二人してニヤリと笑い手をわきわきさせながら、獲物であるヤナさんに迫っていく。
神輿は逃げたけど、ヤナさんは包囲されていて逃げられないねこれ。
「せーのでいくわ! せーのっ!」
「せーのっ!」
「うわはははははははは!」
そのまま流れるように、ヤナさんにこちょこちょの刑が執行される。
二人がかりで実施されるため、ヤナさんよってたかってくすぐられて幸せそうだ。
めでたしめでたし。
「……」
「……あえ? おとうさんうごかなくなったです?」
「あ、ちょっとやりすぎた」
(それほどでも?)
そんな親子の様子をしばし微笑ましく見守っていたけど、ヤナさんくすぐられすぎたせいで動かなくなった。
なにごとも、加減が重要だね。
「……」
でもヤナさんの顔は幸せそうだから、良いのではないだろうか?
めでたしめでたし?
「ふ、ふふふふ……私もこんな家庭を……」
この光景を見て、なぜかユキちゃんめっちゃご機嫌だった。
ほのぼのしたのかな?




