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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第二十三章 雪の恵み
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第二十話 フフフフフ……


 ここはとある世界の、とある村。

 いつもどおりのんびり平和な一日が終わり、おねむの時間です。

 しかし誰も知らないうちに、恐ろしい事態が起きておりました。


『……』


 ドワーフの湖畔に一人たたずむ、ユキちゃんですが……彼女は今まさに、暗黒妖弧となってしまったのです!


『フ、フフフフフ……』


 すっかりダークな感じに染まってしまったキツネさん、胡乱な目つきで怪しく笑っておりますね。

 だいぶ危ない感じがします。


『そうよね、いけないのは、全て……』


 さらに危険なつぶやきをする彼女ですが、どんどん暗黒オーラが増して来ています。

 現時点でも相当な力を感じますが、まだ増幅するというのでしょうか。


『そう、そうなのよ……フフフ』


 ……このままでは、色々まずい事態が起きそうです。

 果たして、このヤバそうなダークキツネさんを、止められる人は居るのでしょうか――。



 ◇



 ことの始まりは、夜でした。


「それじゃあユキちゃん、おやすみなさい」

「おやすみです~」

「みなさん、おやすみなさい」


 今日はユキちゃんも村にお泊りらしく、ハナちゃんたちにお休みの挨拶ですね。

 このあとは腕グキさんちにごやっかいになって、女子会でしょうか。


「ふふふ……お化粧褒められちゃった」


 朝は不安げなユキちゃんでしたが、今は大志にお化粧を褒められて、にこにこ顔のキツネさんです。

 やっぱり、嬉しいことがあるとよい影響も起きるというもの。

 ちたまにっぽんの平和は、こうして大志がこなす際どい任務の遂行によって、守られているのでした。


「コレ系統でも、大志さんには好感触だったわ。ふふふ」


 特にキツネさん系メイクがウケたのが効いたみたいで、ユキちゃんルンルン気分ですね。

 可愛い鼻歌を歌い、白い絹のような耳しっぽをふさふささせながら、ご機嫌で腕グキさんちに向かっております。


「これは女子会で報告しなきゃね! あの二人もこういう話、好きだもの」


 そんな感じで、ユキちゃんは足取り軽やかに村を歩いていきました。

 今日も平和に、一日が終わりそう――。


「ぴっぴ~」

「あら?」


 ――しかしその道中、巡回ワサビちゃんを見つけてしまいました。

 遠くのほうに見えるその子は、てこてこと歩いておりますね。今日はちょっと早い時間に、活動を始めたようです。


「あの子、どうして畑から出ているのかな?」


 それを見たユキちゃんは、首を傾げました。夜は畑で光を浴びているはずのワサビちゃんが、なぜか一人で外出していることが気になったようです。

 実のところ、彼らは良く遊び歩いているのですが。みんなが寝ているときに活動しているので、あまり知られていないのですよね。

 妖精さんとは、ひそやかな交流があるみたいですけど。

 

「ぴっぴぴ~」

「……追いかけてみよう」


 こういったワサビちゃんの活動を知らないユキちゃん、気になったようですね。

 あとは好奇心やキツネさんとしての狩猟本能が刺激されたのか、ワサビちゃんの追跡を行うようです。

 そっと足音を消しながら、後を追い始めました。

 さてさて、気付かれないよう上手に追跡できるかな?


「ぴっぴ~」

「がっはっは! おさけうめえな!」

「きょうはよるおそくまで、のむじゃん!」

 

 追跡途中でマイスターのおうちを横切ったら、大騒ぎしておりました。

 しかしワサビちゃんはかまわず歩いて行き、キツネさんもその騒音に紛れてチェイスです。

 というか、巡回ワサビちゃんは別に隠れてやっているわけではないので、見つかってもなんとも無いわけですけど。

 なぜかユキちゃん、こっそり尾行ですね。


「湖のほうに向かっているのね」

「ぴぴぴ~」


 そのまま追跡を続けていると、どうやらユキちゃんはターゲットが向かう先が分かったみたい。

 そうそう、あの巡回ワサビちゃんは、ドワーフの湖に遊びに行くつもりなのですよ。最近みつけた新たな仲間を、励ましに毎日通っているのでした。

 なかなか面倒見の良い、謎の生き物ですね。


「ぴぴぴぴ~」

「あ、泳いで行くんだ」

「ぴっぴぴ~」

「……植物なのに、泳ぐの上手いわ」


 そういった交流は知らないユキちゃんは、好奇心のまま追跡を続けました。

 やがて湖へと繋がる川へ飛び込んだワサビちゃん、ユキちゃんの言うとおり、わりといい感じの速度で泳いで行ってしまいます。


「なんだか、へんてこな植物ね」


 遠ざかっていくワサビちゃんを見て、ユキちゃんもあの植物の面白さを改めて認識ですね。

 獲物を逃したキツネさんですが、この辺で追いかけるのを諦めるようです。

 そろそろ寄り道はおしまいにして、腕グキさんちに行きましょう。


「あ、ワサビちゃんが何をしているか調べたら、大志さん喜ぶかも」


 しかしユキちゃん、閃いてしまいました。

 大志はなにかとワサビちゃんに気を遣っておりますので、新たな発見があれば、喜ぶのは間違いありません。

 なにせ、謎過ぎていまだにどんな生態があるのか、分かっていませんから。

 そもそも元気に歩き回って、コミュニケーションを取る植物とか、ちたまには存在しませんからね。


「も、もうちょっと頑張ってみようかな」


 このような謎だらけのワサビちゃん観察ですが、今は結構チャンスです。知られざる生態、ちょっとは分かるかも。

 ということで、愛する人の喜ぶ顔が見たいユキちゃんは、追跡続行を決定しました。

 そのまま桟橋にあるカヌーに乗り込み、ワサビちゃんが泳いで行った先を目指します


「ぴぴ~」

「あ、見つけた」


 そのまま湖に到着したところで、遠くのほうにいるワサビちゃんを発見しました。さすがキツネさん、夜目がすっごく利くのですね。

 キツネ耳もぴこぴこ動かしているところを見ると、聴音も駆使して位置を探っているのかな?


「あれ? 見失っちゃった?」


 しかし遠くだったため、ちいさなワサビちゃんを見失ってしまったようです。周囲は暗いので、しょうがありませんね。

 湖畔が波打つ水音もあるので、聴音でも追いきれなかったみたい。


「どこ行っちゃったのかな……」


 まだ見失って間もないので、ユキちゃん諦めず探し続けます。

 あのあたりにハナちゃんの栽培試験場があるので、たぶん上陸したと思いますよ。

 いまごろ、こっちの湖に潜む仲間と合流しているのではと。


「ちょっと、見失った場所を調べてみましょう」


 しかしその交流会を知らないユキちゃん、一生懸命探し中ですね。


「この辺、かな?」


 やがて、とりあえずな感じで、ワサビちゃんを見失ったあたりに移動しました。

 きょろきょろと周りを見渡し、ふしぎ植物を探します。


「陸に上がった、ぽいよね」


 水上には姿が見えないため、とりあえずユキちゃんもカヌーを降りて上陸ですね。でも残念、ちょっと位置がずれていました。

 そこから十五メートルほど離れたところに、ハナちゃんの栽培試験場があるのです。

 とりあえず、そっちはどうなっているか、見てみましょう。


「ち~……」

「ちちち~……」

「……」

「ぴぴ~」


 ……いつもどおり、光るやつがあった場所で、どんよりどよよんしていますね。

 みんな体育座りをして、落ち込んでいます。かつての楽しかった日々を、思い出しているのかな?


「ワサビちゃん、どこかな~?」


 そのどんより広場に、ユキちゃんもじわじわと接近しています。もうちょっとで、第三種接近遭遇ですね!

 これであの子たちが認知されれば、もしかしたら状況が変わるかも。

 ようやくドワーフの湖に潜む知られざる存在が、明るみになりそうですよ!


「ちち~……」

「こっちかな?」


 こうして、ユキちゃんとちっちちゃんたちは、じわじわと距離を縮め……お互いの姿が、確認出来そうなまでに迫ってきました。

 いよいよ未知との遭遇ですね!


 ――しかし、その時のことです。


「ち~……」

「……」

「……ち……ち~」


 ちっちちゃんたちが発するどんよりオーラが……なんだか形をもって、動き始めました!


「ち?」

「ちちち?」


 自分たちからどんよりしたやつが抜けてゆく様子を、ちっちちゃんたちがぽかんとして見つめます。

 そして実体化したこのオーラは、ちょっと離れたところにいるユキちゃんへ向かって、移動を始めました!


「……え?」


 ユキちゃんが気づいたときには、もう手遅れでした。

 どよよんオーラがすぐそこまで迫っていて、気づいた時には……もう目の前まで。


「はえ?」


 そのまま唖然としているうちに、暗黒どよよんオーラに、ユキちゃん包まれてしまいました!

 渦巻く暗黒の力は球形に変化し、やがて徐々に小さくなり――。


『フ、フフフフフ……』


 後には、暗黒に染まった狐さんが、残されたのでした。

 胡乱に細められたその瞳は赤く輝き、尻尾は漆黒の九尾が妖しく揺らめいています。

 白く美しかったかわいらしい耳も、暗黒の毛並みに変化していて……。

 さらに、両手の爪は漆黒の上長く鋭く伸びて、赤い謎の文様が見受けられます。


 今ここに、暗黒妖狐さんが、生まれてしまったのでした。


 巡り会わせが招いた、緊急事態です。

 もしあのとき、ユキちゃんがワサビちゃんを追いかけていなければ。

 もうあと一分、家を出たのが遅かったら。

 寝不足で、体が弱っていなければ。

 ちっちちゃんたちを、もっと早くに見つけられていたら。

 光るやつが、置いてあったなら。


 いくつもの「もしも」が思いつきます。

 しかし、お互いは、もっとも良くないタイミングで、出会ってしまったのでした……。

 そんなこんなで暗黒な感じになってしまったユキちゃんは、大丈夫なのでしょうか。


『そうよね、いけないのは、全て……』


 かなり大丈夫じゃない感じです。


『そう、そうなのよ……フフフ』


 なにがそうなのか分かりませんが、ブツブツとその辺の木に向かって、話しかけています。

 ある意味ヤバい感じがしますね。


『全部私が悪いの』


 ……あれ?


『色んなことが上手く行かないのは、私がダメなのよ……』


 あれれ?


『落ち込んじゃう……フフフフ』


 これは、あれですね、それです。

 いわゆる、かなり後ろ向きな感じに変化していますよ。

 ちっちちゃんたちのどんよりパワーを吸収した結果、ダウナー妖狐さんになってしまいました。

 それはそれで、あかんやつです。


『ほんとうにもう、私ってダメな子』


 すっかり落ち込んでしまったキツネさん、暗黒の耳しっぽがへにょりと垂れ下がっております。

 でも、今までの活躍を見ると、情報保全以外はしっかり出来てますよ。

 ユキちゃん自信を持って! ここは、私が応援してあげないと!

 励ましの言葉をかけますよ!


『修業がぜんぜん進まないのも、私のせい……』


 確かに。


『お母さんのプリンを食べて怒られたのも、私のせい』


 それも確かに。


『食器洗いをサボって翌朝に回したら、やっぱり怒られたのも私のせい』


 ですね。


『お留守番で、領域を守れなかったのも私のせい……』


 ほんとそれ。


『フ、フフフ……』


 あれです、応援は無理でした。納得の出来事しかないです。

 励ましの言葉が見つかりません……。


『……でも、このままじゃダメね。なんとかしなきゃ』


 あ、ダウナーダークキツネさんになってしまった状態でも、改善しようという心は残っているみたい。

 これもまた、ちっちちゃんたちのどんよりオーラに、そういう想いも乗っかってたからかもですね。

 あの子たち、なんとかしようと毎晩会議してましたから。みんなのがんばりによって、ひとつの救いがあった感じです。

 しかしこれでようやく、ユキちゃんを応援できそう!

 さあさあ、どんと来いですよ!


『今度から、お父さんのプリンを食べよう』


 お父さんなら許してくれるという打算。


『後回しにした食器洗いは、ばれる前にやろう』


 すぐに洗いましょうよ。


『服を脱いだとき、裏返しに脱がないようにするわ』


 目標ちいさすぎませんか。


『あとあと……』


 も、もうお腹が一杯なのですが。容量が、容量が。


『……』


 もう満腹でだいぶきついのですが、このある意味危ない感じのユキちゃんを、ほうってはおけません。

 なんとか、なんとか応援できるネタをお願いします……。

 すべてが地味なので、もうちょっと派手なやつを!


『……もっと修業して、大志さんと結婚できるようするの』


 来ました! と思いきや、応援できそうでいて、すると大惨事になる項目が。

 まず大志がわかってないのを、なんとかしないと。


『……』


 あれ? 今度は黙っちゃいましたね。どうしたのでしょう?


『でも、私の正体を知られたら……』


 あ、前向きなフェーズから、また後ろ向き進行に戻ってしまいました。

 そこが一番怖いようで、暗黒妖狐さんは体育座りで悩み始めます。


『こんな姿は、怖いよね……』


 ユキちゃん、自分のしっぽや長い爪を見て、どよよんと落ち込んでしまいます。

 もうすっかりダークに変化してしまった姿は、自分自身がどういった存在かを、これでもかと彼女に突きつけているものですから。


 でも、それもうバレてるんですよ!


 ダークキツネさんのお姿も、大志結構気に入ってましたから! にこにこして見てます。

 ユキちゃんそこはもう自信を持って良いですよ! やったー!


 ……ようやく全力で応援できました。もう満足です。


『フフフフフ……』


 なんにせよ、ユキちゃんが暗黒妖狐さんになってしまいました!

 このままでは、一晩中体育座りで、その辺の木に語りかけ続けそうです。これは早く何とかしないと、あまりよろしくないような……。

 ほうっておいたら、ダークキツネさんがどんどん落ち込んでしまいますね。

 あと、お父さんのプリンも地味にピンチ。


結局家族のプリンは食べられる運命なのです

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― 新着の感想 ―
[良い点] もふもふるダークネス と言う訳で、神輿とかドワーフちゃんとか知らない人にホイホイ着いて行きそうな人ばっかりで、お父さん心配な隠し村ですが、夜間に出歩くワサビちゃんを見てユキちゃんもホイホ…
[一言] ユキちゃんのネガティブキャンペーン! 優しくしたら、良いことあるかも? お供え物は、ビンに入ってるお高いプリンなんかが吉、 あ、玉子の中で出来てるプリンなんかも良いかも。 ユキちゃんのダウ…
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