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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第三章  エルフ農業(初級編)
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第十話 ぽわぽわ光ってる

 ハナちゃんに森を案内してもらった後は、家庭菜園やもやしの出来具合を確認した。

 どうも成長が早い。もやしなんかはもう出来上がっていた。これはエルフ達の元から備わっている特技なのか、何らかの加護なのかはわからない。

 土を調べてみても、特に異常は見当たらない。良くわからない事だらけだ。

 

「タイシタイシ~。ハナがやさいをそだてるところ、みてほしいです!」


 畑で首をひねっていると、ハナちゃんがうきうきしながら呼びかけてきた。じょうろを構えてやるき十分の様子。前の家庭菜園が森になってしまったので、今はお隣の家庭菜園に間借りしている状態だ。

 俺はハナちゃんの方に歩いていき、畝を覗き込む。


「どれどれ、にょきにょき出来るかな?」

「あい~。にょきにょきいくですよ~」


 ハナちゃんが歌いながらご機嫌で水をまき始めた。微笑ましい光景だ。と眺めていたら、ハナちゃんの周りがほんのり光りはじめた。キラキラ! ではなく、ぽわぽわ~という感じだけど、確かに光っている。

 そうして光ってからしばらくすると、にょきにょき芽が出始めた。あれ? え?


「おいしいやさい~にょきにょきです~」

「あれ? 嘘!」


 その後もぐんぐん野菜が育っていき、ものの数分で収穫可能なまでになった。

 ……何が何だかわからない。ハナちゃんがやるとすぐ野菜が育つとは聞いていたが、すぐ収穫できるとまでは思わなかった。

 一晩で森が出来たのは、あの「種」がそういう物だったからかと思っていたが、もしかしてハナちゃんのこの力のおかげなのか?

 あまりに不思議な光景を唖然として眺めていると、やがて光りが収まった。


「タイシ~。どうですどうです?」


 あっけにとられて見ていた俺に、ハナちゃんが褒めて褒めて光線を放ちながら、満面の笑顔で話しかけてきた。

 ……これは褒めねばなるまい。子供は褒めて伸ばすと言うし、盛大に褒め倒してあげようではないか。


「凄いねハナちゃん! すっごく驚いたよ!」

「うふ~」

「これ、誰にも真似できないよ! これからもハナちゃんに色んな野菜、作ってもらいたいな!」

「うきゃ~」


 頭を撫でながら褒め倒したら、ハナちゃんの顔がでれっでれになった。とても嬉しそうで可愛らしい。

 ハナちゃんが育てた野菜を引っこ抜いて確認したけど、見事だった。これくらいなら店で売れるよな。

 あれだけ頭を悩ませていた食糧問題も、これで多少なりとも改善するはず。まだまだ気は緩められないけど、光明が見えたのは確かだ。

 他のエルフ達が作っている野菜だって収穫できるまで早いから、ハナちゃん一人に負担が行かないように上手くやろう。

 しかしその後も褒め倒していたら、ハナちゃんが照れすぎてぐにゃぐにゃになってしまった。とても満足そうで何よりです。


「ぐふふ~」


 そして、ぐふふぐふふ言いながらぐにゃってしまったハナちゃんは、ヤナさんとカナさんが二人懸かりで回収していった。こうなるとしばらく回復しないため、静かなところで落ち着かせる必要があるのだそうな。

 どうやら褒め倒ししすぎたようだ……何事もほどほどが一番か。だが反省はしていない。


 ハナちゃんがぐにゃぐにゃから回復するのを待っていると、親父が村に到着した。さっそく森に案内すると、それを見てぽかんとしていた。

 この見事な異世界っぷりは、実際に見ると唖然とするのも無理はない。


「思ってたよりずっと壮観だな」

「だろ? 俺も最初見たとき唖然としたよ」

「あの浮いている半透明のくらげみたいな奴、あれも植物なんだよな?」

「そうらしい」


 俺は親父としばらくの間、異世界の森を眺めた。

 しばらくした頃、ハナちゃんがぐにゃぐにゃから回復したようで、こちらに手を振りながらぽてぽてと歩いてくる。


「タイシ~。おひるたべるです~」


 ハナちゃんからお昼のお呼びがかかった。もうそんな時間か。森を見たり、野菜の量産を見たりであっという間に時間が過ぎていたんだな。

 ハナちゃんに続いて、ヤナさんも話しかけてくる。


「おひるなんですが、かんたんなうたげをしたいとかんがえておりまして」

「宴ですか?」

「ええ、かみさまにかんしゃのうたげをささげたいのです」


 神様に感謝の宴か、良いんじゃないかな。ようやく生活が安定してきて、心にも余裕出来てきた頃だ。大恩ある存在に近況報告も兼ねてお礼を言う良い時期だと思う。


「良いではないですか。せっかくですから、ちょっと豪華にやりましょうよ」

「ちょっとごうかに、ですか?」

「ええ。今できる料理、全部やっちゃいましょうよ」

「ぜんぶですか。それはごうかだ」


 せっかくの宴だ。出来ることは全部やったほうが楽しい。神様もそっちの方が嬉しいのでは、と思うし。


「ちょっと豪華な宴をやって、思い出に残すんです。今日を一つの区切りとして」

「いいですね! それはいい!」

「よいおもいでになるです~」


 ハナちゃんもヤナさんも嬉しそうに、この提案に乗ってきた。思い出に残す、という部分が気に入ったようだ。

 こうして、皆が育てたもやしや、ハナちゃんが量産した野菜。この村に来てから覚えた各種料理などを神様に捧げ、今出来る物としては豪華な部類の宴を催すことになった。

 さらには、異世界の森で採れた食材を元に、彼らの故郷で食べていた郷土料理も振る舞うという。俺はこれが一番楽しみだ。

 他の皆もちょっと豪華な宴をすると聞いて、嬉しそうだ。やる気みなぎる様子で料理の準備をしたり、異世界の森へ食料採取に出かけて行った。

 俺もハナちゃんや数人のエルフに連れられて、異世界の森での食料採取を手伝う。この森の中では俺は何もわからない。今度は俺が、彼らから教わる番だ。


「タイシさん、これがおいしいんですよ」

「このくさ、ひっこぬくとうるさいんで、さわらないほうがいいべさ」

「そのあかいみ、たべるとよっぱらうんだ」


 色々な食べられる植物を、エルフ達に教わりながら採取していく。なかなかこれは楽しいな。皆も楽しげに採取をしていた。


「タイシ~。そのういてるやつ、かみつくですよ」


 ハナちゃんがのんびりと、噛みつく植物を教えてくれる。だが時すでに遅し。


「もうちょっと早く教えて欲しかった……」


 ふよふよ浮いている半透明のくらげみたいなやつ、それにうっかり触れてしまったら、頭にガジガジ噛みつかれた。……甘噛みだ。正直全くダメージはない。


「かみつかれたら、しばらくほっとくしかないです~」

「ほっとくしか無いか~」


 ガジガジ甘噛みする謎植物を頭に乗っけたまま、食料採取を続ける。一時間くらいで食料採取は終わったが、その間ずっとガジガジされっぱなしだった。

 本当、この森は面白い。次はもうちょっと長くこの村に滞在して、じっくり調べてみようかな。



 ◇



 食料採取も終えて、ある程度料理を作り終えた頃。せっかくなので宴は森でやりましょうという事になった。

 携帯用ガスコンロが車に積んであるので、それを使えばぐつぐつ保温しながら食べられる。

 農作業の休憩時に軽くお湯を沸かす、パスタを茹でる等の目的で積んだきり忘れていたものだが、意外なところで役立った。


「これべんりだな」

「このかまど、もちはこびできるとか、すてき」

「おれのじまんのひばちは、ただのいれものだったのだ……」


 火鉢か。それはそれで便利じゃないか。そもそも携帯用ガスコンロと比較するものじゃないから、大丈夫ですよ。

 そうして準備をしていると、ちょっと離れたところでハナちゃんがスコップでザクザクと穴を掘り始めた。


「ハナちゃん、それ何してるの?」

「どきをたてるあなをほってるです~」


 土器を立てる? 一体土器を立ててどうするのだろうか。そう思っているうちに、穴は見事な速さで掘られていく。


「ふい~」


 穴を掘り終えて満足げなハナちゃん、次は自慢の土器があると言っていたエルフにお願いしに行った。


「ようやく、じまんのどきのでばんだな」

「でばんです~」


 意気揚々とやってきたおっさんエルフが、土器をにゅっと取り出す。底が尖った円錐形の土器だな。

 ……たしか尖底土器って言ったような。なかなか見事な造形で、これなら自慢するのも納得だ。

 綺麗な砲弾型をしており、歪みも無く高い技術で作られている。これは土器だからと侮れない出来だと俺は思う。彼らに陶器を作ってもらったら、良い線行くかもしれないな。

 俺が感心して土器の作りを見ている間にも、着々と土器の設置が進んでいく。

 土器を穴に置き、周りを固定し薪を敷き詰め準備完了のようだ。尖底土器ってそういう風に使うのか。

 それを見たカナさん始めエルフの奥様方も、食材をもってやってきた。


「おりょうり、つくります」

「まかせて」

「このにこみりょうり、ひさびさね~」


 手慣れた様子で異世界の具材を土器に放り込み、水を注ぎ込んでいく。そしてハナちゃんも、火起こしの準備万端で待ち構えていた。


「ハナちゃん、ひをつけて?」

「あい~」


 しゅしゅぼっ。


 ようやく活躍の場が出来て、嬉しそうなハナちゃん。一瞬で薪に直接火を点けた。種火とか無しに、直接だ。

 俺もそれ習得したいな……よし、習おう。


「ハナちゃん、俺にそのボッってなるやりかた教えて?」

「あい~。こうやって、ここがひゅっとなったらしゅっとやるです」

「ヒュッとなったらシュッとやるね……なるほど! 解らん」


 俺がハナちゃんに擬音だらけの講習を受けながら火付けの特訓をしている間に、土器の中身はぐつぐつ煮え始める。

 エルフ達の郷土料理、これは楽しみだな。

 何回やってもボッてならない特訓を尻目に、料理が出来上がっていく。


 こうして、準備は整っていった。もうすぐ、宴の始まりだ。

 俺はワクワクしながらその時を待った。


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