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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第二十三章 雪の恵み
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第十九話 悩み事


 ここはとある世界の、とあるドワーフちゃんの湖。

 夜の湖はとっても静か――。


「踊っちゃうよ! 踊っちゃうから!」

「こんなんどうかな? どうかな!」

「きゃい~」


 ……ではありませんでした。

 妖精さんたちが、きゃいっきゃいでダンシング!

 ちたま世界のみんなに楽しい踊りを届けるべく、明るく賑やかに踊っております。

 お化粧もばっちり決まっていて、これまた可愛らしいですね。


「お! いい動く写真撮れた」

「これは見ごたえあるぞ」

「人気でたらいいな」


 そして湖上で踊るきゃいきゃいさんたちを、エルフ撮影隊がしっかりとカメラで撮影しております。

 大志に用意してもらった、けっこうすごいカメラと三脚を使って、高画質にて収録ですね。

 カナさん作成のコンテみたいなのも使って、わいわいとコンテンツ作成です。


「次はこんな踊りとかどうかな? どうかな!」

「水面ぎりぎりだよ! 迫力あるかもだよ!」

「しっぱいしたやつ~……」


 さらに妖精さんたち、水面すれすれアクロバットも挑戦しておりますね。

 ちなみに、イトカワちゃんは失敗して落水しました。水も滴る可愛い妖精さんの誕生です!

 それはともかく、普段は静かな湖は、なんだかキラッキラで賑やか。

 物理的に明るいです。


「ち?」

「ちち~?」


 あら、そんな明るさに引き寄せられて、ちっちちゃんたちが水面からちょこっと顔をだしました。


「ち~? ちち~?」


 どうやら光を感知して、もしかしたらあの光るやつが戻ってきた? な感じで見に来たようですね。


「宙返りしちゃうね! くるって宙返り!」

「ち~!」

「きゃい?」


 でも残念、その光はあのすごいやつじゃなくて、妖精さんのキラキラなのです。

 ニアミスしかかって、ちっちちゃんたち怖がって逃げちゃいました。


「今なんか居たかな? 居たかな?」

「気のせいだよ! 気のせい!」

「恐らく~」


 一瞬のことだったので、妖精さんたちも気のせいって片付けちゃいましたね。

 あっというまに隠れちゃったちっちちゃんたち、本当に恥ずかしがりやな子たちです。


「う~し、こんな感じでええべさ」

「かっこいいやつ撮れたね」

「あとでタイシさんに渡そう」

「協力ありがと! ありがと!」


 やがて撮影は終わり、カメラマンエルフとダンシング妖精さんたちは村に帰っていきました。

 さっきまでの賑やかさがうそのように、湖は静寂に包まれます。


「ち~?」

「ちちち~?」


 こうして静かになったあと、誰も居ないことを確認しながら、ちっちちゃんたちが水面から顔を覗かせました。

 今のはなんだったの? という感じで、首と葉っぱを傾げておりますね。


「ち~……」

「ちち~……」


 そして、いつものあの場所に光るやつがないのを改めて認識し、がっくしとしながら水中へ戻っていきました。

 静かな湖に漂う、どんよりとした雰囲気が哀愁を誘います。

 この状況を何とかしてあげたいとは、思うのですが……。



 ◇



 朝早起きして、ユキちゃんちへお出迎えに向かう。

 昨日読んだエステサロンからのお便りが気になるところだけど、何を意味するのか良くわからない。

 ただ、わかんないってポイすると危なそうなので、頭の片隅には置いておこう。

 俺は危機管理には自信があるんだ。


 とか考えているうちに、領域へ到着だ。石段の前まで車を走らせると、既にユキちゃんが待っていた。


「おはようユキちゃん、今日はあったかいね」

「はい……」


 おや? なんだかユキちゃんに元気が無い。どうしたのだろう?

 心なしか毛並みもしなっとしている。


「ユキちゃん元気ない感じだけど、どうしたの?」

「ああいえ、ちょっと夜更かししただけですので」

「そうなの?」

「ええまあ」


 ほんとにそうなのかな、とは思うけど、あんまり追求するのもよろしくない。とりあえずは、様子を見ておくかな。

 あんまりにどよよんが長く続くのであれば、なにがしかの手を打ちたいとは思う。

 いちおう本当に寝不足なだけという可能性も考慮して、快適な睡眠を約束する超ふわふわ高級マクラは準備しちゃうよ。ついでに自分のも。

 これで安眠間違いなしだね。


「あの……」


 そうして色々考えていると、ユキちゃんがおずおずと声をかけてきた。


「あ、いえ。なんでもないです……」


 しかし、耳をしなっとさせてしぼんでしまう。元気が無いのは心配なのだけど、いかんともしがたい。


「そう? 何かあったら遠慮なく相談してね」

「ええまあ……」


 こんな感じで微妙な雰囲気なのだけど、なんとも出来ないまま時間は過ぎて行き、エステサロンの寮に到着してしまった。

 すぐに解決するような話ではないと思うから、ひとまず予定通り行動しよう。


「それじゃあ、PCを渡してあげないとね。入門マニュアルもあるから、ある程度は自力でなんとかなるかな」

「そうですね。彼女をお呼びしますので、少々お待ちください」


 元気の無いユキちゃんだけど、お仕事はしっかりしてくれる。エステさんを呼びに、寮に入って行った。

 男子禁制の寮なので、俺はおとなしく待っていよう。


「大志さん、お越し頂きました」

「おはようございます!」


 車で待っていると、一分くらいでエステさんとユキちゃんが寮から出てきた。

 エステさんめっちゃお目々キラキラだね。元気そうでなによりだ。


「ユキさんからお聞きしましたが、ヤナさんが使ってた、あのぱそこんって道具を貸していただけるのですか?」

「はい。おそらくですが、本格研修でパソコン操作を覚える必要が出て来ます。その前に独自学習も手かなと考えまして」

「何から何まで、ありがとうございます! がんばってお勉強しますので!」


 やる気みなぎるエステさんは、追加となったPC学習も前のめりだね。というか、研修が楽しくて楽しくてしょうがないオーラが出ている。

 夢が叶いそうなのだから、当然か。これは応援する俺としても、気合が入るよ。


「せっかくなので、軽く基本操作をお教えしますよ」

「助かります!」


 対面でお話しているのだから、ついでにPC操作の軽いレクチャーをしてみる。

 実際にノートPCを操作してもらい、起動方法からシャットダウンまで。それ以上のことは教則本に書いてあるので、あとはがんばって。


「わー! こうやって使うのですね!」


 車内でPCを操作しながら、エステさん大はしゃぎになった。自分でちたまの謎道具を操作するのは、刺激があるのかもね。

 というかエルフたち、みんなはそういうのが好きだったな。好奇心旺盛な人たちだからね。


「何か分からないことがある場合は、私に連絡して下さい。これが電話番号です」

「お電話とかまだわかりませんが、その使い方も覚えますね!」


 大体レクチャーが終わったところで、ユキちゃんがエステさんにメモを渡した。

 電話サポートも行うとか、サービス満点ではないか。

 しかし、電話回線と電話機はどうするのだろう?


「あの透明な小屋の中にある、緑の箱がお電話できる機械なんです」

「あれ、お電話できる箱だったのですか。 なんだろなって思ってたんです」


 あ、電話ボックスを使うんだ。そりゃそうか、いつまで寮を使うのかもわからないのに、回線契約とか出来ないよね。


「ちなみにお電話をかけるときは、このテレカをお使いください」

「てれか? なんですそれ」


 テレカ! この時代にテレカ!

 ユキちゃんそれどこで入手したの? むしろ貴重品じゃないか。



 ◇



 村に到着すると、ハナちゃんちでちょっとした会議だ。エルフ重工関連だね。

 関係者一同を集めた大きな会議をするまえに、事前に調整できるところはしておかないと、話し合いはだいたい踊りだす。

 要人を集める大きな会議というのは、こうした事前調整が必須で、これを怠ると何も決まらない無駄な会議になってしまう。

 何事も事前の根回しが、その後の仕事を綺麗に進めるコツなのだ。


「ユキちゃんはこっちでお化粧の修業ね」

(かわいくするよ~)

「はい」


 今回は軽い話し合いと確認なので、ユキちゃんはお袋やメイク達人の神輿と、お化粧修業をしてもらうことにした。

 なんだか元気が無いこともあるので、息抜きと休息も兼ねてだね。

 すぐそこでメイクトレーニングをするから、聞きたいことがあればすぐに声もかけられる。

 今日はこれくらいのゆるい感じで良いだろう。


「じゃあ、始めましょうね。今日はチークのコツについてよ」

「わあ、チークって結構難しいのですよね」

「そうそう」

(しぜんないろあいが、むずかしいね~)


 さっそくメイク講義が開始されたけど、和やかな感じだね。

 その調子で、楽しく過ごして頂きたい。


「あら? 今日はお肌の調子が悪そうね」

(あれてる?)

「ち、ちょっと夜更かししてしまいまして……」

「大志が原因なら、深く考える必要はないわよ。こいつ何も考えてないから」

「で、ですかね?」

(それほどでも?)


 そして開始間もなく、俺に流れ弾が来る。これは異議を唱えないといけない。


「お袋、異議ありだ。俺はそんなに頭空っぽではない……はずかも?」

「自分で自信ないのに異議を申し立てた罪で、大志は有罪ね」

「認めざるを得ない……」


 異議を申し立てたが、お袋から有罪判定を受けた。俺は罪を償うのだ。


「執行猶予はあげるから、がんばんなさいな」

「分かり申した」

(のんびりね~)


 ということでなぜか有罪となったけど、猶予はもらえるらしい。

 静かに生きていこう。謎の声も、それなりに擁護してくれていることだし。

 弁護のお礼に、あとで神様にはお供えするよ。


「ユキちゃんごめんね、うちの子がアレで」

「い、いえ」


 そんなグイグイ来るお袋パワーを受けて、ユキちゃんもちょっと和んだようだ。

 仲の良い姉妹みたいで、見ていてて微笑ましい。お袋ありがとう。


 という俺がちくちく言われるやりとりはありつつも、こっちはこっちで、会議の準備を進める。

 今日はPCとネットや、小型プロジェクターも使い、ネット接続にて調べ物をしながら話すつもりである。

 俺も多少は船のことを勉強したけど、専門家じゃないからね。その場で調べられる資料が必須なのだ。


「わきゃ~、なんかいろんなどうぐ、でてきたさ~」

「なぞのやつさ~」


 その様子を見て、お供ちゃんたちはお目々まんまるだね。便利な道具を、思う様ご覧下さいってことで。


「タイシ~、みんな~、おちゃをいれたですよ~」

「ハナちゃんありがとう。お手伝いしっかりしていて、偉いね」

「うふ~」


 こうして、みんなでちゃぶ台を囲んで準備していると、ハナちゃんがお茶を持ってきてくれた。こういうのしっかり出来る子供って、正直すごくない?

 俺が子供のころなんて、麦茶溢れるピッチャーをズドンと置いて「後はセルフで」とかだよ。

 なおその麦茶は婆ちゃんが量産したやつで、だいたい他人のおかげである。


「おかしもあるよ! おかし!」

「せっかくだから、たくさんよういするね! た~くさん!」

「えんりょなく~」


 そして妖精さんたちが、お団子を量産し始める。食べても食べても減らないループが、今始まった。さすがの物量である。

 まあ、賑やかで楽しいね!

 さてさて、それでは会議を始めよう。


「では、始めましょうか」

「わきゃ~ん、だいじょうぶさ~」

「フネ! フネのおはなし、するさ~!」

「たのしみさ~!」


 偉い人ちゃんたちも準備万端なようで、しゅしゅしゅとちゃぶ台の上に資料をすばやく並べた。

 あっち側も、何を話すか大体決めてきたらしい。それなら、まずは要望を聞いておこう。


「ひとまずは、ドワーフィン側の要望をお聞きしたいと思います」

「まとめてきたさ~」


 要望をたずねたところで、偉い人ちゃんがぴらっと船の絵を見せてきた。


「これは、うちらのところでよくあるフネさ~」

「確かにそちらへ行ったとき、見た記憶があります」


 どうやらドワーフィン標準の船らしい。板材(いたざい)をつなぎ合わせて作る、構造船ってやつだね。

 見た感じ、和船(わせん)一枚棚(いちまいだな)構造に良く似ている。海船のような水押(みよし)が無いから、まさに川舟というところか。

 大河や湖で運用するなら、良さそうに見える。


「なかなか実用的で良い舟かと見受けられます。製造もこれならそれなりに早くできますよね?」

「そうなのさ~。いまのところ、これくらいが、すばやくつくれるげんかいさ~」

「フネをつくるのは、たいへんなのさ~」

「うちも、フネはもってないのさ~」


 ドワーフ舟について感想を述べると、偉い人ちゃんたちも同意みたいだね。

 これ以上の複雑な構造になると、実装は厳しくなってくるようだ。

 

「あら? これ富山のタズルにそっくりね」


 そうして舟の絵を眺めていると、メイク講義中のお袋がのぞき込んできた。

 富山のタズルって、なんだろう?


「タズル? 何それ」

「実際に見たほうが早いわね。ネットで検索したげる」

「ネットに情報あるんだ」

「ええ、さくっと出てくるわ」


 お袋に聞いてみると、見たほうが早いってことで、PCで検索を開始した。

 早速ネットが役立ったようで、カチャカチャと文字を入力し、あっという間に結果が表示される。

 その結果を見るに、富山県氷見(ひみ)市の十二町潟(じゅうにちょうがた)にある、文化財のようだ。


「わきゃ~ん! こっちにも、にたようなのがあるのさ~?」

「というか、なにやったかわかんなかったさ~」

「ぽちぽちをおしたら、なんかでてきたさ~」


 偉い人ちゃんたちは、ネット検索やその結果であるタズルという和船を見て、わっきゃわきゃだね。とくに舟の写真にくびったけで、なんかすごく嬉しそうだ。

 これはあれだね、異世界の方々は、ちたまにも似たような道具があると知るとなんかすごい喜ぶ。文化や技術に共通点があるとわかると、親近感を覚えるのだろうか?


「ここは船の歴史について論文がまとまっていてね、参考になるのよ」

「へ~」

「おもしろそうさ~」


 続けて解説するお袋の話を聞きながら、ちたま船の写真をみて、ドワーフちゃんたちお目々キラッキラだね。

 せっかくなので、ドワーフちゃんたちが運用できそうなちたま船とかも、調べてみようか。


「こういう手漕ぎボートとかは、良くある形ですね」

「わきゃ~ん、べんりそうさ~」

「こっちの、とりさんのかたちしてるやつ、これもフネなのさ~?」

「やねがあるのも、いいかもさ~」


 そして脱線する会議であった。話し合いそっちのけで、ネットサーフィンを楽しむ俺たちである。

 当初の目的をほっぽり、楽しく過ごしていると――。


「タイシタイシ、もういいじかんです?」

「あ、ほんとだ」


 ハナちゃんのご指摘により、夕方になっていたことに気づく。

 ……お昼休憩を挟んだものの、ほぼ休み無しで遊んでしまった。

 正直なんもやってない気がするけど、会議はまた明日ってことにしよう。


「ぜんぜん会議しなかった気がしますが、気にしないことにして明日に回しましょう」

「そうするさ~」

「またあした、やればいいさ~」

「おもしろかったさ~」


 厳粛かつ効率的に進んだ会議の終了を宣言すると、オーケーが出た。みなさんぐににっと伸びをして、体をほぐしている。

 続きはまた明日、のんびり会議しましょうだね。


「ようやく終わったわね。そんな大志に良いもの見せたげる」

(かいしんのでき~)


 俺も一緒になってのびをしていると、お袋と神輿がちょいちょいと手招きをしている。

 別室に来なされという合図かな? いつの間にか、場所を変えてメイク講義をしていたらしい。

 それはそれとして、良いものって何だろう?


「良いものとは、何でござろうか」

「ほれほれ、とくとご覧あれ、よ」

(ごらんあれ~)


 すすすっとお袋のほうへ向かうと、別室の中を指差した。どれどれ?


「あ、大志さんお疲れ様です。会議は終わりました?」


 そこには、色っぽい狐さんメイクをしたユキちゃんが!

 これは完璧だよ! お袋と神輿、わかってらっしゃる!


「これはすごい。ユキちゃんの(キツネ的な)良さを完璧に表現できている」

「そ、そうですか。ふ、ふふふふ」


 ここまであからさまでも、正体バレてないと思う、そのうかつさもステキ!


神輿は別に擁護してませんよ

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