第十六話 着々と進む栽培実験、なのだけど……
ここはとある世界の、とあるちたまの湖。
今日も今日とて、ハナちゃんとドワーフちゃんたちが栽培実験をしておりました。
「こういうやつ、心当たりあるです?」
「あるには、あるかもさ~」
「なんに使うのさ~?」
見た感じ、なにやら相談をしているようですね。三人集まって、わいわいと検討会をしております。
「昨日ちいさなスイゾクカンに行ったとき、水槽の中に浮き草が浮いてたです。その草の中に、空気の泡がぽこぽこと溜まってたです」
「そうなのさ~?」
「あい~」
昨日ハナちゃんが見ていた、なんもない水槽のことですね。
お魚はいなかったのですけど、あれは水草を育てているものだったみたい。
「その後おすしを食べたです。そこでおすしがくるくる回ってるのみて、なんか浮いてるみたいに見えたです?」
「偉い人が、高速移動する不思議な食べ物って言ってたさ~」
「面白そうな食べ物さ~」
あら、お寿司屋さんでむむむってなっていたとき、そう考えていたのですね。
息抜きに遊びに行ったけど、頭の片隅にお仕事があったわけですか。
やっぱり、ある程度目処を立てないと、なんとなく気になっちゃうものですから。
「そのとき、浮き草に大豆っぽいやつを仕込んで、湖に浮かべたらいいかもってひらめいたです~」
「なるほどさ~」
「よくわかんないけど、やってみる価値はありそうさ~」
ただ良いひらめきが得られたようで、ハナちゃんうっきうき。
煮詰まっているところに出てきた発想です、試してみたくなるのは当然ですね。
「あとあと、浮き草をまとめてあげれば、たくさん育てられるかもです?」
「流されちゃったら、どうするさ~?」
「紐で木に結び付けておけば、なんとかなるかもです?」
細かいところはまだなんともいえませんが、なんでも試してみないとわからないことも多いです。
その辺は、実際にやってみて微調整って感じかな?
「でもなんで、浮き草なのさ~?」
「田んぼも考えたですけど、あっちの世界だと、水に流されたりするです?」
「よくある出来事さ~」
「そんなら、浮かべておくしかないかなって思うですよ~」
ドワーフィンは頻繁に陸地が冠水する世界で、地面に畑が作れません。
水耕栽培をするにも、やっぱり地面をあてにすると難しいですね。
それなら、水面を使っちゃおうって思ったようです。
「そっちにある浮くやつを使えば、どこでも作れるです?」
「かもしれないさ~」
浮き草を使う理由としては、材料調達を考えたみたいですね。
ドワーフィンに良くある素材を使って出来るなら、それに越したことはありません。
なかなかどうして、ハナちゃんも色々考えていたみたいですね。
「上手くいくかはわかんないですけど、やれることは、やってみるです~」
「それが良いさ~」
「楽しそうさ~」
お話はまとまったのか、とりあえず実行してみることにするようです。
ドワーフィンに良くある素材を使って、大豆っぽいやつを埋め込める浮き草畑を作るのは、なかなか根気が必要かも。
あせらず急がず、じっくり取り組みましょう!
「とりあえず、よさげな浮き草を探すですかね~」
「そうするさ~」
「かたっぱしから、集めてみるさ~」
ということで、ハナちゃんたちは浮き草探しを始めることになりました。
お母さんドワーフちゃんとミタちゃんは、湖へ泳ぎだして沖のほうへ探索に向かい、ハナちゃんは湖畔を歩いて探すようですね。
みんなで手分けして、畑の基礎となる理想の浮き草探しが始まりました。
「ハナちゃん、なにやってるさ~?」
「これこれこういう理由で、浮き草探ししてるです~」
「うちらもお手伝いするさ~」
捜索しているうちに、集落のドワーフちゃんたちもハナちゃんたちから話を聞いて、お手伝いに参加していきます。
自分たちの湖で大豆っぽいやつを沢山作れたら、大豆食品を沢山食べられます。
将来の豊かな食卓に直結するため、みなさん協力的ですね。
「あり? ハナちゃん探し物?」
「草を手に持ってるけど、それ食べられるやつかしら?」
やがて、湖に釣りをしに来たエルフたちともばったり。マイスターとステキさんですね。二人とも釣果はボウズのようですが。
「あれとかこれとかそんな感じで、こんなんやってるです~」
「お、なら俺も手伝うじゃん?」
「私もお手伝いするわ。なんせお魚釣れないんだもの」
二人に説明すると、やっぱりお手伝いしてくれるようです。釣りは諦めたみたいですね。でも、マイスターは植物とか詳しそうですから、頼りになるかも。
「なんか探してるって話聞いたよ。お手伝いするね」
「ありがとです~」
「私もお手伝いするよ! お手伝い!」
「助かるです~」
そうしているうちに、湖畔に遊びに来たリザードマンたちや妖精さんたちも加わり、どんどん捜索の輪が広がっていきました。
こういうときは、助け合いですね。
「こんなんあったさ~」
「これも、使えそうさ~」
「俺たちはこれかな」
「私たちはこれだよ! これだよ!」
二時間ほど時間がたったころでしょうか、人海戦術によりいろんな種類の浮き草が集まってまいりました。
これだけあれば、実験には十分かもしれませんね。
「俺も探して来たじゃん?」
「うわっきゃ~! それは毒のあるやつさ~!」
「まじで?」
「だから止めたのに」
あ、マイスターが持っているのは毒草のようですね。ステキさんは止めたようですが、マイスターだからしょうがないですね。
お約束を忘れない人なのでした。
「みんな、ありがとです~!」
「これだけ種類があれば、いろいろ試せそうさ~」
「助かるさ~」
お約束ポイズン芸エルフは置いといて、ハナちゃんたちは大喜びです。
みんなにお礼を言いながら、ニコニコ顔です。大変な探しものが、それなりに早く終わったので大助かりですものね。
「またなんかあったら、お手伝いするさ~」
「俺らも手伝うから、声をかけてね」
「まかせて! まかせて!」
「俺も任せるじゃん?」
「今度はちゃんと見張っとくわね」
喜ぶハナちゃんたちを見て、お手伝いの村人たちやリザードマンたちもほんわか。
和やかな雰囲気の中、捜索隊は解散となりました。
「じゃあつぎは、この中から使えそうなやつを見つけるですかね~」
「色々やってみるさ~」
「とりあえず、はじっこのやつから試してみるさ~」
お次は、集めた浮き草の中から、水上畑に使えそうな種類の選定ですね。
三人はそれぞれ、別の種類の浮き草を手にとって検証を始めました。
「あや~、これは沈んじゃうですね~」
「こっちもそうさ~」
「浮く力は、あんまないやつがおおいさ~」
一つ一つ、小石を乗っけたり大豆っぽいやつを埋め込んだりして、調べていきます。
しかし、なかなかいい感じのが見つかりません。
「むむ~、今ある中では、これが一番使えそうですか~」
「うちもそう思うさ~」
「こいつを集めて、試しに畑をつくってみるさ~」
午後を過ぎたころ、ようやく水上畑に使えそうな浮き草が見つかりました。ただ、ベストではない感じですね。
「むむむ~、もうちょっとこう、足りない気がするですけど……」
「とりあえず、やるだけやってみるさ~」
ハナちゃんの表情をみるに、ベターに及ばないくらいのようです。でもまあ、何事もやってみないとわからないですから。
とりあえず試作畑を作ってみましょう!
三人力を合わせて、水草に大豆っぽいやつを埋め込んだり、いい感じに浮くよう株の調節を行いました。
三十分くらいかけて、丁寧に作業をした結果――。
「まあまあですかね~」
「一応、浮くには浮いてるさ~」
「大豆っぽいやつがこぼれて、流れないか心配ではあるさ~」
それなりの水草ベースが出来たようです。いろいろ完全じゃないところはありますが、ひとまずこれで実験してみましょうね。
「もちょっと試したら、タイシにも見てもらうです~」
「それが良いさ~」
「そうするさ~」
一仕事終えて、三人は仕事でかいた汗を流すため、仲良く温泉に向かったのでした。
今日はのんびり、温泉につかって疲れを癒してね。
「あ、忘れてたです」
しかし、ハナちゃんぴたっと止まって振り返りました。
「この光るやつは、もって帰るですかね~」
「水草の上に置けないから、しょうがないさ~」
え? どうやらハナちゃん、ヤナさん謹製の発光お酒を回収しちゃうみたい。
確かに、栽培中の大豆っぽいやつは、とりあえず水草ベースに埋め込んでしまいました。おまけにぷかぷか浮いているその上には、重量的にビンは置けません。
回収するのは、ごくごく普通のことですね。
でも……。
「ち~……」
「あえ? なんか聞こえたです?」
「気のせいじゃないさ~?」
水面から、悲しそうな声が聞こえてきました。光るすごいやつが、回収されてしまったからです。
「では、温泉いくです~」
「サウナも入るさ~」
「楽しみさ~」
ちいさなちいさな声はしっかりとは届かず、哀れ光るすごいやつは、湖からなくなってしまいました。
そして、三人の姿が見えなくなってからは……。
「ち……ち~……」
「ちち~……」
「……――」
どんよりした感じの、ちっちちゃんたちが……光るやつのあった場所を、がっくしと見つめております。水面からちょっとだけ顔をだして、とっても残念そうに。
なんとかしてあげたいとは思いますが、難しいですね。
なにせこの子たち、人を見ると怖がって逃げちゃいますから。だーれもその存在に気づいていない、隠れ住民なのです。
しかしその結果、困っていることも気づくことは出来ず、手を差し伸べることもできません。
社交的ではないという事もないので、なんとかして人前に引きずり出せば……。
「わきゃ~ん、集会場におやつたべに行くさ~」
「まいにちご馳走で、たまらんさ~」
「ふとっちゃうさ~」
「ち~!」
「わきゃん? なんかお魚がいたさ~?」
「気のせいじゃないさ~?」
「なんも、いないさ~」
あ、ダメですね。偉い人ちゃんとお供ちゃんたちがカヌーで通りかかりましたが、みんな怖がって潜っちゃいました。
このへん何とかしないと、無理っぽそうです。
怖がりちっちちゃんたちを、誰か発見してあげて。
◇
同日、夜遅くの出来事です。
「ち~……」
「ちちち~……」
「ち……ち……」
こないだまで光るすごいやつがおかれていた場所で、ちっちちゃんたちが呆然と佇んでおりました。
ふとしたきっかけで訪れた楽しい時間が終わってしまい、がっくしですね。
「ぴ?」
「ぴち~」
そんなどんより湖畔に、ワサビちゃんたちが遊びにやってきました。しかし、あんまりにもどんよりした雰囲気を見て、首をかしげておりますね。芽ワサビちゃんも、葉っぱをくりっと傾けてふむむとしております。
「ぴっ! ぴぴ~」
「ち~……」
「ぴち~」
「ちち~」
どんより集団に近づいていったワサビちゃんたち、すぐに事態を把握しました。あの光るやつがないことに気づいたからです。
「ち……ち~……」
「ぴっぴ~」
落ち込むちっちちゃんたちを、ワサビちゃんが励ましておりますね。
しかし、がっくし度はけっこうなものですので、落ち込んだままです。
「ぴ、ぴ~?」
「ちち?」
「ぴぴぴ~」
しかしここまで一緒に遊んで交流してきたワサビちゃん、励まし続けております。
なんだか、自分たちのおうちである畑のほうに手を向けて、お誘いしているみたい。
そっちに行けば、光るやつがけっこう沢山置いてありますから。
今までは遊びに来ていたけど、今度は遊びに来てって感じですね。
「ち~……ちち~」
「ぴ~……」
でも、ちっちちゃんたちは乗り気じゃないみたい。
とっても怖がりな子たちですので、湖から出て遠出するのは、勇気が出ないみたいですね。
「ぴ~。ぴっぴ~……」
これにはワサビちゃんも困ってしまいました。何とかしてあげたいけど、怖がりなのは一朝一夕には変えられませんから。
それが悪いってことでもないので、無理に勇気を奮わせることもまた、正しくありません。
なんともしがたい、お話ですね……。
「ぴ? ぴっぴ~?」
「ぴちち」
「ぴぴぴ~」
ひとまず今日は、どんよりちっちちゃんたちを励ましたり、一緒に泳いだりして過ごすワサビちゃんたちなのでした。
彼らはちいさくてちいさくて、そんなに力もありません。そのため、出来ることは限られています。
でも、新たに見つかった仲間を励ましたり遊んだりと、思いやりがある植物のようですね。
「ぴ~」
そんな仲間たちの様子を、じっと見つめるワサビちゃんがおりました。
湖に棲むちっちちゃんたちを一番初めに発見した、巡回ワサビちゃんですね。
彼? はそのまま朝まで、じっと仲間を見守り続けたのでした。




