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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第二十三章 雪の恵み
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第十六話 着々と進む栽培実験、なのだけど……


 ここはとある世界の、とあるちたまの湖。

 今日も今日とて、ハナちゃんとドワーフちゃんたちが栽培実験をしておりました。


「こういうやつ、心当たりあるです?」

「あるには、あるかもさ~」

「なんに使うのさ~?」


 見た感じ、なにやら相談をしているようですね。三人集まって、わいわいと検討会をしております。


「昨日ちいさなスイゾクカンに行ったとき、水槽の中に浮き草が浮いてたです。その草の中に、空気の泡がぽこぽこと溜まってたです」

「そうなのさ~?」

「あい~」


 昨日ハナちゃんが見ていた、なんもない水槽のことですね。

 お魚はいなかったのですけど、あれは水草を育てているものだったみたい。


「その後おすしを食べたです。そこでおすしがくるくる回ってるのみて、なんか浮いてるみたいに見えたです?」

「偉い人が、高速移動する不思議な食べ物って言ってたさ~」

「面白そうな食べ物さ~」


 あら、お寿司屋さんでむむむってなっていたとき、そう考えていたのですね。

 息抜きに遊びに行ったけど、頭の片隅にお仕事があったわけですか。

 やっぱり、ある程度目処を立てないと、なんとなく気になっちゃうものですから。


「そのとき、浮き草に大豆っぽいやつを仕込んで、湖に浮かべたらいいかもってひらめいたです~」

「なるほどさ~」

「よくわかんないけど、やってみる価値はありそうさ~」


 ただ良いひらめきが得られたようで、ハナちゃんうっきうき。

 煮詰まっているところに出てきた発想です、試してみたくなるのは当然ですね。


「あとあと、浮き草をまとめてあげれば、たくさん育てられるかもです?」

「流されちゃったら、どうするさ~?」

「紐で木に結び付けておけば、なんとかなるかもです?」


 細かいところはまだなんともいえませんが、なんでも試してみないとわからないことも多いです。

 その辺は、実際にやってみて微調整って感じかな?


「でもなんで、浮き草なのさ~?」

「田んぼも考えたですけど、あっちの世界だと、水に流されたりするです?」

「よくある出来事さ~」

「そんなら、浮かべておくしかないかなって思うですよ~」


 ドワーフィンは頻繁に陸地が冠水する世界で、地面に畑が作れません。

 水耕栽培をするにも、やっぱり地面をあてにすると難しいですね。

 それなら、水面を使っちゃおうって思ったようです。


「そっちにある浮くやつを使えば、どこでも作れるです?」

「かもしれないさ~」


 浮き草を使う理由としては、材料調達を考えたみたいですね。

 ドワーフィンに良くある素材を使って出来るなら、それに越したことはありません。

 なかなかどうして、ハナちゃんも色々考えていたみたいですね。


「上手くいくかはわかんないですけど、やれることは、やってみるです~」

「それが良いさ~」

「楽しそうさ~」


 お話はまとまったのか、とりあえず実行してみることにするようです。

 ドワーフィンに良くある素材を使って、大豆っぽいやつを埋め込める浮き草畑を作るのは、なかなか根気が必要かも。

 あせらず急がず、じっくり取り組みましょう!


「とりあえず、よさげな浮き草を探すですかね~」

「そうするさ~」

「かたっぱしから、集めてみるさ~」


 ということで、ハナちゃんたちは浮き草探しを始めることになりました。

 お母さんドワーフちゃんとミタちゃんは、湖へ泳ぎだして沖のほうへ探索に向かい、ハナちゃんは湖畔を歩いて探すようですね。

 みんなで手分けして、畑の基礎となる理想の浮き草探しが始まりました。


「ハナちゃん、なにやってるさ~?」

「これこれこういう理由で、浮き草探ししてるです~」

「うちらもお手伝いするさ~」


 捜索しているうちに、集落のドワーフちゃんたちもハナちゃんたちから話を聞いて、お手伝いに参加していきます。

 自分たちの湖で大豆っぽいやつを沢山作れたら、大豆食品を沢山食べられます。

 将来の豊かな食卓に直結するため、みなさん協力的ですね。


「あり? ハナちゃん探し物?」

「草を手に持ってるけど、それ食べられるやつかしら?」


 やがて、湖に釣りをしに来たエルフたちともばったり。マイスターとステキさんですね。二人とも釣果はボウズのようですが。


「あれとかこれとかそんな感じで、こんなんやってるです~」

「お、なら俺も手伝うじゃん?」

「私もお手伝いするわ。なんせお魚釣れないんだもの」


 二人に説明すると、やっぱりお手伝いしてくれるようです。釣りは諦めたみたいですね。でも、マイスターは植物とか詳しそうですから、頼りになるかも。


「なんか探してるって話聞いたよ。お手伝いするね」

「ありがとです~」

「私もお手伝いするよ! お手伝い!」

「助かるです~」


 そうしているうちに、湖畔に遊びに来たリザードマンたちや妖精さんたちも加わり、どんどん捜索の輪が広がっていきました。

 こういうときは、助け合いですね。


「こんなんあったさ~」

「これも、使えそうさ~」

「俺たちはこれかな」

「私たちはこれだよ! これだよ!」


 二時間ほど時間がたったころでしょうか、人海戦術によりいろんな種類の浮き草が集まってまいりました。

 これだけあれば、実験には十分かもしれませんね。


「俺も探して来たじゃん?」

「うわっきゃ~! それは毒のあるやつさ~!」

「まじで?」

「だから止めたのに」


 あ、マイスターが持っているのは毒草のようですね。ステキさんは止めたようですが、マイスターだからしょうがないですね。

 お約束を忘れない人なのでした。


「みんな、ありがとです~!」

「これだけ種類があれば、いろいろ試せそうさ~」

「助かるさ~」


 お約束ポイズン芸エルフは置いといて、ハナちゃんたちは大喜びです。

 みんなにお礼を言いながら、ニコニコ顔です。大変な探しものが、それなりに早く終わったので大助かりですものね。


「またなんかあったら、お手伝いするさ~」

「俺らも手伝うから、声をかけてね」

「まかせて! まかせて!」

「俺も任せるじゃん?」

「今度はちゃんと見張っとくわね」


 喜ぶハナちゃんたちを見て、お手伝いの村人たちやリザードマンたちもほんわか。

 和やかな雰囲気の中、捜索隊は解散となりました。


「じゃあつぎは、この中から使えそうなやつを見つけるですかね~」

「色々やってみるさ~」

「とりあえず、はじっこのやつから試してみるさ~」


 お次は、集めた浮き草の中から、水上畑に使えそうな種類の選定ですね。

 三人はそれぞれ、別の種類の浮き草を手にとって検証を始めました。


「あや~、これは沈んじゃうですね~」

「こっちもそうさ~」

「浮く力は、あんまないやつがおおいさ~」


 一つ一つ、小石を乗っけたり大豆っぽいやつを埋め込んだりして、調べていきます。

 しかし、なかなかいい感じのが見つかりません。


「むむ~、今ある中では、これが一番使えそうですか~」

「うちもそう思うさ~」

「こいつを集めて、試しに畑をつくってみるさ~」


 午後を過ぎたころ、ようやく水上畑に使えそうな浮き草が見つかりました。ただ、ベストではない感じですね。


「むむむ~、もうちょっとこう、足りない気がするですけど……」

「とりあえず、やるだけやってみるさ~」


 ハナちゃんの表情をみるに、ベターに及ばないくらいのようです。でもまあ、何事もやってみないとわからないですから。

 とりあえず試作畑を作ってみましょう!

 三人力を合わせて、水草に大豆っぽいやつを埋め込んだり、いい感じに浮くよう株の調節を行いました。

 三十分くらいかけて、丁寧に作業をした結果――。


「まあまあですかね~」

「一応、浮くには浮いてるさ~」

「大豆っぽいやつがこぼれて、流れないか心配ではあるさ~」


 それなりの水草ベースが出来たようです。いろいろ完全じゃないところはありますが、ひとまずこれで実験してみましょうね。


「もちょっと試したら、タイシにも見てもらうです~」

「それが良いさ~」

「そうするさ~」


 一仕事終えて、三人は仕事でかいた汗を流すため、仲良く温泉に向かったのでした。

 今日はのんびり、温泉につかって疲れを癒してね。


「あ、忘れてたです」


 しかし、ハナちゃんぴたっと止まって振り返りました。


「この光るやつは、もって帰るですかね~」

「水草の上に置けないから、しょうがないさ~」


 え? どうやらハナちゃん、ヤナさん謹製の発光お酒を回収しちゃうみたい。

 確かに、栽培中の大豆っぽいやつは、とりあえず水草ベースに埋め込んでしまいました。おまけにぷかぷか浮いているその上には、重量的にビンは置けません。

 回収するのは、ごくごく普通のことですね。

 でも……。


「ち~……」

「あえ? なんか聞こえたです?」

「気のせいじゃないさ~?」


 水面から、悲しそうな声が聞こえてきました。光るすごいやつが、回収されてしまったからです。


「では、温泉いくです~」

「サウナも入るさ~」

「楽しみさ~」


 ちいさなちいさな声はしっかりとは届かず、哀れ光るすごいやつは、湖からなくなってしまいました。

 そして、三人の姿が見えなくなってからは……。


「ち……ち~……」

「ちち~……」

「……――」


 どんよりした感じの、ちっちちゃんたちが……光るやつのあった場所を、がっくしと見つめております。水面からちょっとだけ顔をだして、とっても残念そうに。

 なんとかしてあげたいとは思いますが、難しいですね。

 なにせこの子たち、人を見ると怖がって逃げちゃいますから。だーれもその存在に気づいていない、隠れ住民なのです。

 しかしその結果、困っていることも気づくことは出来ず、手を差し伸べることもできません。

 社交的ではないという事もないので、なんとかして人前に引きずり出せば……。


「わきゃ~ん、集会場におやつたべに行くさ~」

「まいにちご馳走で、たまらんさ~」

「ふとっちゃうさ~」

「ち~!」

「わきゃん? なんかお魚がいたさ~?」

「気のせいじゃないさ~?」

「なんも、いないさ~」


 あ、ダメですね。偉い人ちゃんとお供ちゃんたちがカヌーで通りかかりましたが、みんな怖がって潜っちゃいました。

 このへん何とかしないと、無理っぽそうです。

 怖がりちっちちゃんたちを、誰か発見してあげて。



 ◇



 同日、夜遅くの出来事です。


「ち~……」

「ちちち~……」

「ち……ち……」


 こないだまで光るすごいやつがおかれていた場所で、ちっちちゃんたちが呆然と佇んでおりました。

 ふとしたきっかけで訪れた楽しい時間が終わってしまい、がっくしですね。


「ぴ?」

「ぴち~」


 そんなどんより湖畔に、ワサビちゃんたちが遊びにやってきました。しかし、あんまりにもどんよりした雰囲気を見て、首をかしげておりますね。芽ワサビちゃんも、葉っぱをくりっと傾けてふむむとしております。


「ぴっ! ぴぴ~」

「ち~……」

「ぴち~」

「ちち~」

 

 どんより集団に近づいていったワサビちゃんたち、すぐに事態を把握しました。あの光るやつがないことに気づいたからです。


「ち……ち~……」

「ぴっぴ~」


 落ち込むちっちちゃんたちを、ワサビちゃんが励ましておりますね。

 しかし、がっくし度はけっこうなものですので、落ち込んだままです。


「ぴ、ぴ~?」

「ちち?」

「ぴぴぴ~」


 しかしここまで一緒に遊んで交流してきたワサビちゃん、励まし続けております。

 なんだか、自分たちのおうちである畑のほうに手を向けて、お誘いしているみたい。

 そっちに行けば、光るやつがけっこう沢山置いてありますから。

 今までは遊びに来ていたけど、今度は遊びに来てって感じですね。


「ち~……ちち~」

「ぴ~……」


 でも、ちっちちゃんたちは乗り気じゃないみたい。

 とっても怖がりな子たちですので、湖から出て遠出するのは、勇気が出ないみたいですね。


「ぴ~。ぴっぴ~……」


 これにはワサビちゃんも困ってしまいました。何とかしてあげたいけど、怖がりなのは一朝一夕には変えられませんから。

 それが悪いってことでもないので、無理に勇気を奮わせることもまた、正しくありません。

 なんともしがたい、お話ですね……。


「ぴ? ぴっぴ~?」

「ぴちち」

「ぴぴぴ~」


 ひとまず今日は、どんよりちっちちゃんたちを励ましたり、一緒に泳いだりして過ごすワサビちゃんたちなのでした。

 彼らはちいさくてちいさくて、そんなに力もありません。そのため、出来ることは限られています。

 でも、新たに見つかった仲間を励ましたり遊んだりと、思いやりがある植物のようですね。


「ぴ~」


 そんな仲間たちの様子を、じっと見つめるワサビちゃんがおりました。

 湖に棲むちっちちゃんたちを一番初めに発見した、巡回ワサビちゃんですね。

 彼? はそのまま朝まで、じっと仲間を見守り続けたのでした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ウチに天使が舞い降りたさ~? と言う訳で、外に出掛けても走り回らずしっかりと大人に許可を貰う、良い子のハナちゃんですね。 こんな娘だったら、世の中のヤナさんカナさんは大助かりです。 しか…
[一言] ハナちゃんには社畜の才能が!? いやいや、これはしんしに自分のやってる仕事に誇りを持って生きている証。 かっての私にもあった筈のスキルですね、いやー最近じゃお気に入りの小説やアニメの続きとか…
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