第十二話 方向性が若干……
神輿お化粧お上手事件はさておき、お次は実習だね。
こんどは実際にお化粧をしてみて、技術を学ぼうって試みが始まる。
しかし――。
「あら~、むずかしいわね~」
「おばけになったとか、ふるえる」
「ひとのかたちをたもつのは、むずかしいことだったのね」
なれない道具と始めて扱う色に、みなさん苦戦中だ。
腕グキさんはマツーコデラックスン風になっており、ステキさんは四谷怪談になった。
他の女子も、似たようなもの。だいたい塗りすぎでオバケーになっている。
「どうかな! かわいくなったかな!」
「おもしろいね! かおがかわるね!」
「きゃい~」
ちなみに妖精さんたちは、なぜか迷彩メイクである。お花畑に隠れたら見つけられないかもしれない。
この子たちは、そもそも方向性が間違っているのでは……。
「タイシ~、ハナのおけしょう、どんなかんじです?」
ちなみにご機嫌でメイクの感想を聞いてくるハナちゃんも、ジョー○カーって感じになっている。見事にヒース版のあれを再現しております。
俺はこの高難度ミッションに対して、どう回答をすればよいのだろうか……。
「な、なかなか挑戦的で、夜に出会うと一生心に残る衝撃がありそうだよ」
「わーい! ほめられたです~」
よかった、かろうじてミッションは成功した。何事もポジティブに受け取ってもらえて、ほんと助かる。
ハナちゃん良い子だね!
「まあ、最初はこんなものよ」
「うちも、おけしょうをはじめたころは、こんなんだったさ~」
そんな仮装大会なみなさんを見ても、講師のお袋と偉い人ちゃんはのんびりだね。だいたい通る道らしい。
ちょっとずつ、技術を身につけてね。
「あ~、やっぱりイメージ通りにできない……」
ユキちゃんも苦戦していて、俺からするとちゃんとお化粧しているように見えるけど、本人的にはどうも違う感じ。
まあ、生徒の中では一番上手というか、普通に出来ている。
これで苦手なんだ。理想が高いのかな?
「あら~、ユキさんじょうずね~」
「ひとのかたちのままとか、すてき」
女子エルフたちからしても、ユキちゃんのメイクは評価高いみたいだね。まあ、基準がどこにあるかは考えないようにしよう。
「え、ええまあ……ただちょっと『これじゃない』と自分では思ってまして……」
ただユキちゃん的にはいまいちなようで、これじゃないらしい。
まあ……あえて言うなら、もともとすっぴんで勝負できる彼女の良さが、演出に隠れてしまっているとは思う。
ただ、お化粧しらん俺では、キツネさん本来のかわいらしさをどう演出すればいいのかは……皆目見当もつかない。
(こうすると、いいよ~)
「あら? 神様どうされました?」
そんなユキちゃんに、神輿がほよよっと近づき、筆を手? に取った。
(このへんをうすめに~、ここは、はっきり~)
そのまま、ちょいちょいとユキちゃんにメイクを施し始める未確認飛翔体である。
なんかどんどん、仕上がっていく。
「あら! さっきよりずっと良くなりました!」
(でしょでしょ~)
やがてお化粧が仕上がり、そこには目鼻立ちクッキリのキツネさんが!
たしかにこれなら、ユキちゃんの豊かな表情が良くとらえられ、かわいらしさがはっきりアピールできている。
なにこれ、ちょっと塗り方変えただけで、こんなに良くなるん?
お化粧すごい。というか神輿がすごい。一体どこでこんな技術を身につけたのだ……。
「かみさま、すごいです~」
「これはすごいですね。ユキちゃんの良いところ、ばっちりわかりますよ」
「ありがとうございます!」
(それほどでも~)
さっそくハナちゃんを筆頭に、俺とユキちゃんも神様をほめると、てれてれ神輿の出来上がりだ。
ほよほよ光ってうれしそうだね。
「ふ、ふふふふ……。しかも『良いところ、ばっちり』って……ふふふふふ。お化粧して良かった」
あとキツネさんが耳しっぽすっごいふわわっとした。めっちゃご機嫌だよ。
お化粧が決まってうれしいんだね。
とまあこんなことがあったので、講師に神様が加わる。
「相手にお化粧をしてあげるのも、技術向上の近道よ」
「うちらが、さんこうにやってみるさ~」
「うちらもてつだうさ~」
(おてつだい~)
お次は仮装大会状態のみなさんを対象に、講師陣によるメイク修正が始まる。
なるほど、あえて失敗させておき、お次にちゃんとやった場合を見せるんだね。
そうすれば、なにがあかんかったか良くわかるかもしれない。
(ほんのちょっとで、いいんだよ~)
「あや! なんかすっごくよくなったです~」
「ほら、目がぱっちりしたでしょ?」
「あら~」
「こうすると、キリっとみえるさ~」
「すてき!」
講師陣がちょいちょいと手を加えると、ジョーカ○ーだったハナちゃんがいいところのお嬢さんに変化した。
マツコデラックスンだった腕グキさんは、目元ぱっちりの明るい雰囲気に。
四谷怪談もかくやだったステキさんは、全面刷新の結果キリリとした顔立ちになった。
みなさん普段ぽわんとした顔つきだったのに、えらい変わりようだ。
「ハナちゃんすっごく可愛くなったね」
「ぐっふ~」
ひとまずハナちゃんをほめてみたら、一瞬でぐにゃった。エルフ耳もぐにゃぐにゃ。
幸せそうなので、よかったよかった。
「ぐふふ~」
「あら~ハナ、よかったわね~」
「ぐふ~」
だいぶ軟体化したハナちゃんを介抱しながらも、授業は続いていく。
「ユキちゃんも誰かにメイクしてあげて、練習しなさいな」
「わかりました! お義母さん」
「ふふ」
今度はユキちゃんに、妖精さんたちをメイクしてあげてってミッションが出たね。
お袋のほうはお母さんって言われて、ニコニコしている。
ほのぼのしてて、和むなあ。
「じゃあ、妖精さんたちにお化粧してあげる」
「ありがと! ありがと!」
「かわいくなるよ! かわいく!」
「きゃい~」
お袋に指示されたとおり、ユキちゃんが妖精さん変化ミッションに取り掛かる。
ちっちゃいから大変そうだけど、それだけ繊細な筆遣いが身につくかもしれない。
「そうそう、ほっぺをちょっとだけ赤くするの」
「こうですね」
「きゃい~」
隣のお袋にアドバイスされながら、妖精さんたちにメイクしていくユキちゃん、真剣そのものだ。
今はサクラちゃんが実験台だけど、だんだん顔立ちがはっきりしてきた。
「あ、こういう効果があるんですね」
「そうよ。眉ひとつとっても大事なの」
「きゃいきゃい~」
ユキちゃんもコツというか、どうすればそうなるのかを掴めてきたようで、鼻歌を歌いながら、サクラちゃんの顔にいろいろ細工していく。
慣れてきた感じだね。
そうして楽しくお化粧修業をして、ひとまず本日はお開きとなった。
明日も続きがあるので、楽しくお勉強してもらいたい。
「おけしょう、たまにするのもいいかもね~」
「そうね~。こういうかおに、なりたかったのよ~」
「こんなかわるとか、すてき」
「ハナも、ここぞというときにつかうです~」
生徒のみなさんも、いつもとは違う自分を見てうっとりだね。
こういうお化粧を自力で出来るようになれば、いろいろと楽しいだろう。のんびりと、身につけていってね。
あとは、わざわざ講義をしてくれた講師たちにもお礼を言っておかなければ。
「みなさん、今日はご協力ありがとうございました。良い講義になったと思います」
「なんてことないさ~」
「いきぬきの、ついでさ~」
「おけしょうは、とってもだいじさ~」
偉い人ちゃんとお供の二人にお礼を言うと、まんざらでもない感じ。
こういう講義をするのは、好きみたいだ。
「お袋と神様もありがとう。みんな喜んでたよ」
(それほどでも~)
「たまにはこんな感じの、文化的な勉強会も良いわね」
バッチリメイクの神輿は、ほよほよ光りながらてれてれ。
お袋は元から文化の違いを見れるイベントは大好きなため、学術的な成果も得られて満足そうだ。
おおむね、講師も生徒も楽しくできたようで、なによりだね。
「それじゃ、無事初回の講義も終わったことだし、後はゆっくりしましょう」
「そうするさ~」
「さうなってやつ、はいりたいさ~」
「うちもさ~」
(わたしも~)
お袋から締めの言葉が出て、今日のお仕事おしまいだね。
偉い人ちゃんグループは、これからサウナかな。神輿もお付き合いだ。
俺はハナちゃんちに行って、のんびりしよう。
「自分はハナちゃんちでのんびりしてるね」
「わかったわ」
「あとで、うちらもいくさ~」
そうして講師陣と別れ、一人ハナちゃんちへ向かう。
その道すがら――。
「どうかしら~」
「みてみて、すてきになったわ!」
腕グキさんとステキさんが、それぞれマッチョさんとマイスターへ向かって走っていくのが見えた。
お化粧が決まったので、見て欲しいんだな。かわいらしい女心を見たよ。
「ほら、こんなんよ~」
「……どちらさま?」
しかし、マッチョさんが腕グキさんを認識できないという緊急事態が発生した!
「すてきでしょ?」
「どこかで、おあいしましたか?」
ああ! マイスターも!?
しかもマイスターの口調、完全に知らない人に対する丁寧な話し方だよ!
まずい、これはまずいぞ。
マッチョさんとマイスター、緊急ミッションであることを認識していない。
ど、どうしたら……。
「おかあさん」
「そうね」
この二人の反応を見た腕グキさんとステキさん、お互いを見てコクリと頷く。
無表情なのがとっても怖い。
……見なかったことにしよう。それがいい。
そのまま俺はハナちゃんちに向かい、当然女性陣のメイクを褒め倒したのだった。
あぶないあぶない、こういうのは何度褒めても良いと、お袋に教わっていたのだ。
さっきの出来事を見て思い出したけど、助かったよ。
よかったよかった。
――なお、それからしばらくの間、彼らの食事はお肉のない野菜炒めしか出なくなったとのこと。
こわわわわわ。
◇
色々あったけど、村にお化粧文化がちょっとだけ入り込んだ。
まあ無理しない範囲でやろうねってくらいの感覚だね。
「おけしょう、むずかし! むずかし!」
「しばらくは私たちがやったげる」
「ありがと! ありがと!」
「うちらもきょうりょくするさ~」
「もっとかわいくなっちゃうよ! もっとかわいく!」
「しっぱいしたやつ~……」
しかし、妖精さんたちは大勢の人に見られるという自覚があるだけに、真剣そのものだ。今はお袋や偉い人ちゃんたちにメイクしてもらっているけど、いずれは自らお化粧したいようだ。
ちなみにイトカワちゃんは自分で試み失敗したようで、そのお姿は見事なデジタル迷彩とコメントせざるを得ない。
油断するとカモフラメイクになるようだ。
ひとまずは、お袋たちにまかせようね。
「タイシタイシ~、ハナのおけしょう、どうです?」
「ま、前より上手になったね。くっきりはっきりしているよ」
「わーい! またほめられたです~」
なお、ハナちゃんのメイク技術は向上したが、ヒース版からジャックニコルソン版になったという感じなので、方向性は同じとも言う。
(なおしとくよ~)
「あや、かみさまありがとです~」
この事態に対しては、神様がいい仕事をする。
すかさずハナちゃんのところへ飛んで行き、ちょいちょいと長野県ゴッサム市からの離脱をアシストしてくれるのだ。
とかいっている間に、ハナちゃん貴族のお嬢様フェイスになったよ。神輿すごい!
「うふ~、これはこれで、いいかもです~。かみさますごいです~」
(それほどでも~)
お化粧直しが入って、ハナちゃんご機嫌だね。ただ「これはこれで良いかも」というコメントが気になる。
まさか、あのバット男映画的メイクも気に入ってるの!?
わからない。ハナちゃんの感性がわからない……。
「うふふ~」
(あぶないとこだった~)
神輿もちょっとあせっており、ハナちゃんの方向性については気を配っているようだ。
申し訳ないけど、この辺は神様に頼ろう。
「わきゃ~ん、このへんは、きょうちょうしたほうがよいさ~」
「ユキちゃん鼻筋が綺麗だから、こうすると良いわよ。元々の良さを活かすの」
「わあ! こういう方法もあるんですね!」
ユキちゃんは至極真っ当で、安心して見ていられるね。
完全に変化するのではなく、元々の良さを活かして、その日その時見せたい自分をささやかに主張するメイクのようだ。
たしかに注目点が出来て、よりはっきりと表情や若々しさが出ている。
「これはどうかしら~」
「わ、わるくはないかも……」
「きらきらしすぎとか、ふるえる。ちなみに、わたしのはすてきかしら?」
「……ちみつなしごとが、す、すてきじゃん」
ちなみに腕グキさんは、ラメみたいなやつの描画に失敗し、顔がキラッキラである。
ふるえているステキさんも人のことは言えず、ピカソって感じ。
マッチョさんとマイスターは以前の苦い経験があるからか、無理してほめている。あ、涙が……。
◇
ユキちゃん発案による妖精さんにメイクしてみよう作戦は、カオス極まりない結果になった。
しかし、ちゃんと成果は出ていたりする。
『かわいさばいぞうだよ! どうかな! どうかな!』
『おどりもみてね! みてね!』
『きゃい~』
キツネさんのご指摘どおり、メイクを施した妖精さんたちはとっても動画映えした。
なんというか、はっきりと表情が読み取れ、楽しいってのがひしひしと伝わってくる。
かわいらしさもよくわかるので、お化粧作戦は成功だね。
「ピポポポピ~」
「ピピピ」
AIちゃんたちも元動画の質が上がったことで、喜んでいる。これから色々編集して、登録者一万人を目指すんだろうな。
子供たちががんばる様子を見るのは、お父さんとしてもほくほくだよ。
「お金が貯まったら、欲しいサーバーをみんなで相談しようね」
「ピポッポ~」
「ピピ」
「ピコ」
収益化は出来たので、あとは広告費を稼ぐためにいろいろやるってね。
そのあたりはもう電子知性体におまかせして、俺は見守ったりアドバイスしたりされたりでやっていこう。




