表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第三章  エルフ農業(初級編)
37/448

第九話 ここに来れたという事

 ……野菜栽培をしてもらったら、家庭菜園に森が出来たでござる。

 どうしてこうなった。


 エルフ達が待っているだろうからと、朝から村に向かったまでは良かった。

 村に到着した俺を見るや否や、エルフ達がごめんなさいしたので事情を聞いたら、これである。


「たいっへんもうしわけない!」

「ごめんなさいです!」


 なかでもヤナさんとハナちゃんは、迫真のごめんなさいをしている。ハナちゃんなどは耳がぺたんとして見るからに申し訳なさそうだ。主犯だしな。

 しかしまあ、話を聞いただけでは良くわからないな。とりあえず見ないことには始まらない。

 現場に案内してもらおう。


「まあまあ、皆さん顔を上げてください。とりあえずその森? を見せて頂けませんか?」

「はい、あんないいたします」

「こっちです~」


 皆でゾロゾロと、家庭菜園に移動する。エルフ達は不安そうだけど、俺は大した心配はしていなかった。

 だって、この村に入ることができるものなのだから。

 こうしてエルフ達に案内されて現場に到着した俺は、そこにある物を見てしばらく唖然とした。


「これは……見事ですね」


 そこには、公園位の広さの森が出来ていた。ぐるっと見て回ったわけじゃないので正確なところは言えないが、五十メートルプールくらいの面積が森になっていた。

 坪換算で四百坪くらいか。正直、一晩でこれができたとは信じられない。


「このもり、こきょうのそれにそっくりなんです」

「そっくりです~」


 エルフ達の住んでいた森にそっくりか。確かに良く観察してみると、見たことも無い植物や果実が見える。

 異世界の森が、ちょっとだけだけどこっちに出来てしまった、という事か。


「かていさいえんを、こんなふうにしてしまってもうしわけないです」

「ごめんなさいです~」


 二人はペコペコ謝っているが、俺はこの森をみてワクワクしていた。

 葉っぱがほのかに光っている木があったり、たんぽぽの綿帽子みたいなもの、それもソフトボール大もあるものがふよふよ浮かんでいたり。あの花なんか虹色に光を反射している。

 まさに異世界が……こっちの世界にある。見たことも無い物が沢山で、好奇心が刺激されてうずうずしてしまう。

 正直、謝ってもらう必要なんかまるでない。


「二人とも、それと皆さん。謝る必要はないですよ」

「しかし、さすがにこれは」

「タイシ、おこってないです?」


 怒るどころか、よくぞ作ってくれたという感じだ。そのまま伝えよう。


「怒ってないですよ。むしろワクワクしています」

「わくわくしている、ですか?」

「ええ、だって皆さんの故郷の森を、こっちに居ながらにして体験できるんですよ? 楽しいじゃないですか」


 俺の言葉を聞いて、エルフ達は顔を見合わせる。彼らにしてみればあれが普通だったので、実感がないんだろうな。だけど、俺にしてみればあの森が普通じゃない。

 たとえ公園位の大きさしかなくても、異世界に行かずにエルフの森で遊べるなんて、最高だと思う。

 おまけに珍しい物てんこ盛りだ。特産品も作れるかもしれない。夢が膨らむ。


「このもり、のこしていいです?」


 ハナちゃんが、期待のこもった目で見てくる。他のエルフ達もだ。やっぱり故郷の森にそっくりなこれを、残したいんだろうな。気持ちはわかる。


「勿論だよ。皆の故郷みたいなものだし、このままにしておいていいよ」

「ほんと?! タイシありがとです~!」

「やったー!」

「ふるさとのもり、このままでもいいんだ!」


 俺の許可が出た途端、エルフ達は大喜びだ。無くしたはずの故郷が帰ってきて、その存在を許されたわけだ。そりゃあ嬉しいだろうな。ハナちゃんも、ぴょんぴょん跳ねて嬉しさを全身で表現している。

 ヤナさんも嬉しそうに話しかけてきた。


「タイシさん。ほんとうにありがとうございます」

「いえいえ。この森、すごく価値がありますよ。失くしてしまうなんてもったいないです」

「そういっていただけると、うれしいです。でも、ほんとうにだいじょうぶなのですか?」


 ヤナさんは大丈夫なのかどうか確認してきた。森が出来た経緯が経緯だけに、不安もあるんだろうな。だけど、問題ないと言い切れる。


「大丈夫ですよ。この村に入れたのですから、問題ないと思います」

「そういうものなのですか?」

「ええ、そういうものです。大丈夫ですよ」


 ヤナさんは首を傾げてしまう。村に入れたから大丈夫とだけ言われても、ピンとは来ないだろうな。でも、なんで問題ないかは内緒だ。村の管理者だけが知る秘密なので、客人でも教えることは出来ない。

 別に重大な秘密ではなく、教えると客人が調子こいてしまうから教えない、なんだけど。


「よくわからないですけど、だいじょうぶならよかったです」


 とりあえずヤナさんは納得してくれた。詳しい内容を伏せていることは、なんとなく気づいているみたいだ。でもそれ以上聞いてこなかった。これは俺を信用してくれたと思っていいのかな。そうだったら嬉しいな。


「まあそういうわけで、この森は皆さんで大切にご利用下さればいいですよ」

「ありがたいです」

「あと、私もたまに利用させてください」

「それはもう、もちろんです」

「あんないするです~」


 ハナちゃんがおいでおいでしている。ちょっと待ってもらおう。

 とりあえず森の存続については話がまとまったので。親父にも顛末は報告しなきゃな。

 ハナちゃんに待ってもらって、俺は親父に電話を掛けた。


『大志、どうした?』

「今日村に来てみたら、家庭菜園に異世界の森が出来ちゃってたよ」

『はあ? 詳しく』


 これだけ聞かされても、意味不明だろうな。とりあえず続けるか。


「ハナちゃんが異世界から持ってきた種撒いちゃったらしくてさ、それが森になったんだと。見た感じ四百坪くらいあったよ」

『あ~さっそくやらかしたか』


 こっちに来た客人は大体なんかやらかすから、親父も慣れっこだな。やらかしたか、で終わっちゃったよ。俺もいい加減慣れてきたし、親父からすれば、一言で終わるくらい当たり前の出来事か。


「まあね。でも、故郷の森そっくりらしくて、皆嬉しそうだったよ」

『じゃあ問題ないな。良かったって事にしとこうか』

「うん。その種だって、この村に入れたってことは……そうなんだろうしね」

『ああ、そうだろうな』


 俺は親父と確認し合う。この森も「そう」なんだろうと。


「まあそういうことだから、親父も見に来たら? 壮観だぜ、異世界の森」

『お、良いね。昼ごろ行くわ』

「待ってるよ。それじゃ」

『あいよ』


 こうして親父に報告をして、電話を切った。

 そしてムキムキマッチョエルフに包囲されていた。何時の間に!



 ◇



 ムキムキマッチョエルフ達にマッサージされたが、彼らの腕は日に日に上がっているような気がする。連携が巧みになってきた。

 それはさておき、俺は親父を待つ間、ハナちゃんに森を案内してもらっていた。


「タイシタイシ~。このきのみ、すっごくおいしいのですよ~」


 元気いっぱいで謎植物の説明をしてくれるハナちゃん。実に楽しそうだ。でもその木の実、ピッカピカの銀色でとても美味しそうには見えないんだけど……。

 そんなハナちゃんの様子や謎植物を眺めながら、俺はハナちゃんがもってきた「種」について考えてみた。


 この森を作った原因である「種」とは一体どういう存在か。

 この村に入れたのだから、悪い存在じゃないという事は分かる。

 だってこの村は「誰かを幸せに出来るような」存在のみ、訪れることができるのだから。


 例えば懐きやすい生き物、警戒心がまるでない生き物、他人を見捨てられなかった人々。

 良き心を持っていたり、良き存在。

 そう言った存在がとっても困っている時。その時ここへの道が繋がり、この村に入れるようになる。

 この村は、そういうものたちが滅びないよう、強く生きていけるよう、助けるための場所だ。


 詳しくは分からないけど、エルフ達もそういう存在だったからこそ、神様が助けてくれたのではないか。

 そして、ここにたどり着くことができたのではないか。

 俺はそう考えている。

 それを伝えてしまうと、お客さんが調子こいてさらにやらかすので、伏せているんだけど。実際、過去に散々やらかしたらしい。何事もやりすぎは良くない。うん。


 ……まあ、ハナちゃんが植えた「種」だって同じで、そういう存在なんだろう。だからこそ、この村で根を張れた。

 それが分かっていたから、俺も親父も心配はしなかったわけだ。

 ハナちゃんが持ってきた「種」はただの植物の種ではなく、この村に入ることができた「お客さん」だったんだ。

 ハナちゃんのおかげで、それに気づくことができた。


 エルフ達が訪れたあの日、この村には彼ら三十一人だけではなく……ひとつの「種」も訪れていた。

 ハナちゃんがやったのは、それを皆に分かる形にした事。

 誰も気づいていなかった仲間を、皆に紹介しただけなんだ。


 だから、胸を張って良いんだよ。ハナちゃん。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ