第九話 お宝映像
「やせちゃうから! やせちゃうよ!」
「おどりまくり~」
「きゃい~」
一月も下旬となった頃の、のんびりした日曜の朝。
ハナちゃんやユキちゃん、あと神輿とのんびり村の集会場でくつろぐ。
奥のほうでは妖精さんたちが相変わらずキラキラと踊りまくっていて、照明が不要である。
しかしまだだいえっとの成果は出ていない感じ。がんばってくださいだね。
あそうそう、そんな減量に勤しむ妖精さんたちに贈り物があるんだ。
「今日は妖精さんたちに、あま~くておいしいお菓子のおみやげを持ってきたよ」
「きゃ~い」
「きゃきゃ~い」
「キャラメルたっぷり、濃厚な味わいなんだ」
「あきゃ~い」
お菓子を机の上に展開すると、妖精さんたちは何かをあきらめた表情で、ふらふら~とぞんびちゃんのようにお土産スイーツに群がった。
ふう、良いことすると気分がいいね!
「今、悪魔の所業を見ました」
「あらがえないやつです~」
――うっ! ユキちゃんとハナちゃんがジト目で俺を見ている。
でもあれなんですよ、おいしいものはみんなで共有しないと。
まあ、つっこみは華麗にスルーしよう。都合がわるいからね!
「あ、おしるこください」
「おれもたべるじゃん」
「うちは、おぞうにがほしいさ~」
「ふがふが」
「わたしたちもたべようね! たべようね!」
「あまいものがほしくなるよね! あまいもの!」
ちなみにそれらのお菓子のほかにも、お汁粉とかがあったりして誘惑だらけでござるよ。
駄菓子屋では今現在、軽食としてお汁粉とお雑煮を提供しており、結構な売れ行きなのだ。
一仕事終えた村人たちが、にこにこ顔であったか軽食を堪能して小腹を満たしている。
というかだいえっと中の妖精さんたちも、しれっと便乗して注文しているけど。
さっき俺が贈呈したお菓子、もう食べたの? 俺が妨害する必要もなく、間食祭りではないか。
俺は悪くない……はず?
「またたべすぎてるね! たべすぎ~!」
「きゃ~い」
「きゃきゃ~い」
そしてまたもや、イトカワちゃんが食べ過ぎ妖精さんたちの余り気味なお腹をむにるわけだ。
なんかだいえっとを成し遂げるまで、この光景が繰り返される気がしてならない。
「あや~、おしるこ、おいしそうです~」
「そうね、いい匂いがするわ」
(おいしそ~)
そんな妖精さんたちは陰ながら食糧支援にて応援するとして、ハナちゃんたちもお汁粉を食べたそうにしている。
せっかくだから、みんなにおごっちゃおう。
「自分たちもお汁粉食べようか。ごちそうするよ。他の子供たちも一緒にどうかな?」
「わーい! タイシありがとです~。よんでくるです~」
「ごちそうになります」
(おそなえもの~)
ということで、みんなでお汁粉タイムとなった。
村の子供たちも加わって、めっちゃ賑やかなひと時となる。
なんか最近勉強している神輿もこの時ばかりは教科書をほっぽって、ほよほよやってきた。
みんなたくさんたべてね!
「おしるこおいしいね!」
「あまいの~」
「あったまる!」
「おいしいさ~」
ホクホク顔でおしるこをほおばる子供たちを見て、こっちもほくほく。
さて、俺もお汁粉食べよう。
「ふがふが」
「ありがとうございます」
ひいおばあちゃんからお汁粉を受け取ってみると、煮崩れないようお餅を軽く焼いてあって、地味に手が込んでいるやつだった。
ちなみに一杯三十円なのでとってもリーズナブルでござる。
ハナちゃんたちと一緒に食べよう。
「あや~、おいしいですね~」
「今日みたいに寒い日だと、よりいっそう美味しく感じますね」
「そうだね。なんかほっとするよ」
「あい~」
(おいち~)
昨年は豊作で、かつもち米もたくさん生産した関係上村にはかなりお餅がある。
というか調子こいて餅つきしすぎたせいで、おびただしいおモチがあるのだ。
今この村では、主食がお餅状態なのである。ちなみに味噌ベースのお雑煮が一番人気だ。
そんなわけでわが村では、お醤油味かお味噌味かで争いは起きない。平和である。
ちなみに自宅では、白味噌か赤味噌かで親父とお袋が争った。いつまでも仲の良い夫婦である。
なお、俺があわせ味噌を提案して、無事和平となった。
そんなお雑煮の味付け戦争はおいといて、村で貯蔵してあるおびただしいお餅をどうしようかな?
凍み餅でも作ろうか。ちょこっと話してみよう。
「このまま行くとお餅がけっこう余っちゃうから、凍み餅でも作ったほうがいいかもね」
「そうですね。真空パックしてあるとは言え、そっちのほうが長持ちしそうです」
あとで消費量と備蓄量を計算して、加工する分量を決めよう。
ヤナさんに聞けば消費量は出てくるよね。
「あえ? しみもちって、なんです?」
とこれからの計画について考えていたら、ハナちゃんからお問い合わせが。
そういやエルフィンて寒い冬がないから、こういう凍らせてなんとかする加工法って、なじみが無いよね。
軽く説明しておこう。
「えっとね、雑貨屋さんで売ってる、お湯で戻せる雑炊とかあるよね」
「あい。とってもべんりです~」
「あんな感じになるよう、お餅をそんな感じに加工したやつなんだ」
「なるほどです~。むつかしいおはなしですね~」
そこまで説明したところで、ハナちゃんお茶をずびびとすすって、聞き流す体勢に入る。
難しい話を右から左へ、上から斜め右端へとスルーするこの特殊技能、村のエルフたちは標準装備だ。
やはり、ハナちゃんもまごうことなく、のんびりぽわぽわエルフなのである。
でも説明続けちゃうからね!
「まあ、あれと同じようなやつ、寒い時期には自作できるんだよ。水にぬらして外に干しておくだけで、時間はかかるけど出来るんだなこれが」
「あや! あんなのをじぶんでつくれちゃうです!?」
フリーズドライ食品を自作できると聞いて、ハナちゃん興味をもってくれたようだ。前のめりでエルフ耳をピコピコさせている。
そうそう、お勉強は実用例があると理解や興味の度合いが変わってくる。
日本の忍者ちゃんが、三平方の定理を使ってお城の堀の水深を計算していたとかそういうやつ。
そうやって興味を持ってもらい、小難しい話を楽しくするのが学習の近道だ。
というわけで、ハナちゃんの好奇心が盛り上がっている間に、むつかしいおはなしをしましょうだね。
「えっとね、冬って空気が乾燥するよね」
「あい~。おかあさん、おはだがカッサカサに~ってまいにちさわいでるです~」
カナさん……。
ま、まあ今のは聴かなかったことにして、話を続けよう。
「その空気が乾燥した状態だと、実は氷がそのままじわじわ蒸発しちゃうんだ。お水にならずに、カッチカチのまま減っていくんだよ」
「あや~、なぞのげんしょうです~」
まあ昇華ってやつだけど、昔の人はこの現象をうまく利用したってことだね。
「そんな謎現象が起きるから、冬の間外に干しておくと、食べ物を悪くさせずきれいに水分だけ取り除けるんだよ。カラッカラになるから、腐らないんだね」
「だいたいわかんなかったですけど、さむいじきに、そとにほせばいいですね~」
「そうだね。そうすると、お湯でそこそこ簡単に戻せるお餅ちゃんの完成だよ」
「べんりそうです~」
まあ細かい原理とかはわかんなかったみたいだけど、そういう理屈でフリーズドライ食品が作れるってお話は聞いてもらえたかな。
こういう話を覚えておくと、あとで応用も利くかもしれない。今のところは、これでいいかな。
「というわけで、『お餅をそんな感じにしましょう計画』でも立てようか」
「あい~」
ハナちゃんも食いしん坊エルフなだけに、食べ物を生産したり加工したりするのが大好きだ。
ご機嫌な様子で、お汁粉をお代わりだね。
ちなみにこれで五杯目である。ハナちゃんもけっこうなフードファイターだね……。
とまあ平和な午後を過ごしていたときのことだ。
ふと、自分のスマホがぷるると振動した。
相手を確認すると……巫女ちゃんからだった。なんだろう?
集会場は賑やかなため、外に出て通話しよう。
「みんな、ちょっとごめんね」
お汁粉を堪能するみんなに断りを入れ、外に出てから電話に出る。
すると――。
『宇宙人さん! 妖精さんたち、可愛かったよ!』
巫女ちゃんの第一声がこれ。大興奮な感じだ。
ただ、一体なんのことだか良くわからない。
『でも、妖精さんたちのことって秘密だよね? 大丈夫なの?』
意味不明さに混乱していると、続けてこうきたわけだが。
一体何が大丈夫なのか、その意図がわからない。
妖精さんの存在が秘密であるのは当然として、なにがまずいのだろう?
詳しい話を聞いてみないと、判断が出来ないな。
「……実は今のお話、自分は良くわかっていないんだ」
『え? でもでも、あれって宇宙人さんたちじゃないと、無理だよ?』
事態が飲み込めていない旨を伝えると、電話口の向こうから動揺した声色で問いかけがあった。
俺達じゃないと無理って、一体なんだろうか。
詳細を聞いてみよう。
「何が起きているのか、詳しく教えて欲しいな」
一体、今何が起きているのか。
『気づいたのは昨日のことなんだけど――』
やっとこ巫女ちゃんから詳細を聞けたのだけど、その話を聞いて衝撃を受ける。
これは早急に確認と対処をしないと!
「タイシさん、またまたおつかれですな」
「そうですな。ほぐすひつようが、ありますな」
「あしつぼ」
えっ?
◇
よくわからないが、突如起きた全回復イベントをクリアした。無意味に元気モリモリだよ!
……まあ、体力全快になったところで集会場に戻ろう。
「タイシ、なんかあったです?」
「さっき慌てた声が聞こえましたが」
集会場に戻ると、さらにハナちゃんお汁粉をお代わりしていた。
もぐもぐとおいしそうに食べながらも、何があったか聞いてくる。
どうやら通話していた際の慌てた声、拾っていたようだ。ハナちゃん耳が良いからね。
ユキちゃんも耳がいいから、同じく何かあったことは認識しているようだ。
ひとまず、状況を教えよう。
「ちょっと連絡があったのだけど、妖精さんたちがちょっとまずいことになるかもしれない」
「あや! まずいことです!?」
「何があったのですか?」
慌てていた理由を伝えると、ハナちゃんとユキちゃんが驚く。
なぜまずいことになりそうか、それも伝えよう。
「なぜかというと、妖精さんたちの様子が……ネットで公開されているらしいんだ」
そう、巫女ちゃんから連絡があった内容とは、これなのだ。
まだ確認していないのだけど、それが事実だと相当まずいことになる。
「あえ? ねっとってなんです?」
「ええ!? ネットで! もしかして、ごまかすために各地で行ったあのマジックショーが……」
内容を告げると、ハナちゃんコテンと首をかしげる。インターネット知らないからね。
それを知っているユキちゃんは、心当たりがあるのか青ざめた表情だ。
でも、ユキちゃんが心配している内容ではない。
「ユキちゃん関連ではないから、責任を感じなくて大丈夫だよ」
「私ではないと」
「うん。それとは違う、もっとヤバい感じらしい」
そう、もっとまずいものが、全世界に公開されているらしいのだ。
もうこれ、確認したほうが早いってね。
ということで、教えてもらったアドレスにスマホでアクセスだ。
ちょうど巫女ちゃんからメールが届いているので、速攻だね。
「これらしい」
「あああああああ!」
そのサイトにアクセスすると、確かにちょーヤバい。
ユキちゃんもそれをみて、耳しっぽ全開となった。ふわふわで俺は幸せなんだけど、スマホの画面を見て現実に引き戻される。
なぜなら――。
『きゃいきゃいきゃ~い』
ユーのブラウン管な動画サイト上で、妖精さんがきゃいきゃい躍るキメキメ映像が流れたのだ!
しかもこれは最近の映像で、この村で撮影されたものだ。
それがなぜ、有名動画サイトで公開されているのか。もうそこからしてヤッバい。
「あや~、かわいいですね~」
「かわいいって! かわいいって!」
「でしょでしょ?」
「きゃい~」
しかしこのヤバさを認識できない、「ネットっておいしいの?」グループは、映像を見てほのぼのしている。
というか妖精さんたちも集まってきて、ダンシングフェアリー動画に大はしゃぎだ。
これはこれで和む。
「た、大志さん……これ、まずいのでは」
「だよね……」
そしてネットのヤバさを知る我らちたま組は、真っ青になるわけだ。
どうやってごまかそうか、考えるだけでも頭が痛い。
ひとまず、家族や高橋さんを招集して緊急会議を開こう!
◇
「ということで、なんでか知らないけどヤバイことになった」
「マジもんじゃねえか」
「ヤベえ」
「ですよね」
急遽自宅に戻り、みんなでPCをのぞき込んで事態を共有する。
ちなみにお袋と爺ちゃん婆ちゃん、お供さんたち一行は、いつの間にか沖縄に遊びに行っており、不参加である。
俺も行きたい!
「んで、これどうするよ」
「どうしよう」
まあ沖縄旅行は置いといて、親父から対処について聞かれた。しかし俺も、まったくノーアイディアだ。
そもそも、なぜ映像が漏れたかもまだ調べていない。まずはそこからやってみよう。
「ひとまず、通信ログを調べてみよう」
とりあえず、ルーター用として立ててあるサーバーのログを確認してみる。
SSHでログインし、ログディレクトリに移動して……さてさてどうかなっと。
「あ、普通に残ってる」
「ホントですか!」
ディレクトリを確認すると、もうほんと普通にあった。もしハックされてたら、そこ消されてるかって思ってたのだけど……。
ログが残っているなら、だいたいわかるな。中身を見てみよう。
「……ユーのブラウン管にアクセスしたログが残ってる」
正規表現でアドレスを検索、一覧表示すると……おもきしあやしいログがあった。
しかも送信元は「192.168」で始まるやつなので、プライベートIPである。
ウチのネットワーク内から、やらかしておるわ。
「これ、内部の犯行だ」
「なんだと!」
「マジかよ……」
「え? 内部の犯行ですか?」
「……ほぼ間違いない」
内部犯であることを伝えると、みんなびっくり顔だ。というか俺もびっくりだよ。
妖精さん動画を上げたのは、だれじゃああああああ!