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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第二十三章 雪の恵み
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第八話 思わぬ発見しちゃった


 妖精さんキラキラ粒子に、違和感があるとハナちゃんが言った。

 その瞬間を分析した結果――マイスター登場の瞬間、それは起きた。


「彼の周囲だけ……粒子の軌道がおかしい」

「ほんとですね」


 なんというか、粒子がよけたり引き寄せられたり……奇妙な動きをしている。


「AIちゃん、ちょっとこの軌道、分析出来る?」

「ピポ!」


 AIちゃんに分析をお願いすると、「まかせて!」というお返事とともに、いくつもの計算タスクが展開されていく。

 隣室にあるスパコンは、今現在フル稼働状態だね。


「ピッピッポ~」


 程なくして、一枚の画像が画面に出力される。

 これは……粒子の動きを一枚の画像に合成したやつか。


「まるで、磁力線みたいですね」


 ユキちゃんはその画像をみて、磁力線みたいと感じたようだ。

 というか、そのまま……磁力線では無いかと思う。


「これたぶん、そのまんま磁力線だよ」

「あ! そういえば」

「そうそう、この人、磁石人間だもの」


 思い出してみれば、マイスターは金属探知機に引っかかった。

 そのとき――妖精さん粒子も、磁場に乱されている。

 ようするに、マイスターの磁場と妖精さん粒子が干渉したんだね。

 わかってみれば、単純な話だった。


「ようするに、磁場による妖精さん粒子の干渉ってことか」

「それっぽいですね」


 そういうことなら、正常な現象と言える。

 健康な妖精さん白粒子は、磁場に干渉されることがわかっているからね。

 ……マイスターが磁場をだしている点については、気にしないことにしよう。

 明らかに正常ではないのだけど、マイスターだからね!


「ピ~ポピポ?」

「え? 変なの?」

「ピポ」


 しかし安心していたところ、AIちゃんから「でも変だよ?」という問いかけが。

 何が変なんだろう?


「……大志さん、そのピポピポ音で、何言ってるかわかるのですか?」

「え? 普通分かるでしょ」

「おかしいです」

「またまた~。普通だって」

「おかしいです」

「……おかしいの?」

「おかしいです」


 ユキちゃん真顔でござる。いやいや、わかるでしょ?

 俺は普通に会話できてるし。俺が変なのかな?

 でも、ぼくはふつうのちたま人だし。問題ない。無いよね? ……無いと良いな。


「ピポ?」

「ああいや、話を続けよう」

「無かったことにしようとしてますね」


 今のやりとりは無かったことにして、AIちゃんの言う「変な点」について詳しく話を聞こう。

 ユキちゃんのつっこみは都合が悪いのでスルーするよ。


「えっと、何が変なの?」

「ピ~ポ~」


 今度は粒子軌道だけを抽出した、動画が映し出される。

 まさに磁力線に沿って運動している、妖精さんキラッキラ粒子だけが映し出された。


「特に変なところは見られないよ? ユキちゃんはどうかな?」

「う~ん、わからないですね」


 見た感じは、普通の現象に見える。

 何がおかしいのだろう?


「ピポピピ」

「コマ送りだね」


 今度はコマ送りで映像が再生されるが……あれ? 磁場に沿って軌道する粒子ばかりじゃ……ないな。

 いくつかの粒子は、妖精さん粒子磁場干渉理論と外れた動きをしている。

 ただ、ほかの粒子が多すぎて軌道が良く分からない。


「う~ん、なんだろ」

「ピピポ」

「わかりませんね……」


 これはもうちょっと、調査する必要があるな……。

 試しに、今問題になっている「粒子X」だけ抽出してみよう。


「この、良く分からない粒子だけ抽出することはできる?」

「ピ~」

「あ~やりかたが分からないのか」

「ピポ」


 合成はすぐ出来たけど、粒子の抽出は要素が多すぎて難しいんだろうね。

 元映像も解像度はフルHDだから、詳細分析には向いていない。

 とすれば……。


「粒子フィルターが使えると思うよ。そこで、磁場に沿って動く粒子の軌道を予測して、それだけフィルタリングするんだ」

「ピポポ?」

「残った成分が、不思議な動きをする物になるはずだよ。これが公式ね。ガウス分布はしてないだろうから、重み付き平均は使えないかな」

「ポピピ」


 ひとまず分析手法を伝授して、あとはお任せしよう。


「……AIに、コツコツ教えているのですね」

「まだ子供だからね。勉強は大事かなって」


 その様子を見て、ユキちゃんドン引き。

 しかし、たとえAIちゃんとは言え、知らないことは出来ないのだ。

 これはこういう意味だよって、ちゃんと教えてあげないといけない。

 AIが勝手になにもかもやってくれるような未来なんて、来ないのだ。

 故に、この辺の努力は惜しんじゃいけないね。


「お仕事のご褒美に、欲しいソフト買ってあげるからね」

「ピッポ~!」

「私、コンピュータを甘やかす人って、初めて見ました」


 ユキちゃんジト目でつっこみを入れてくるけど、AIちゃんだってがんばっているからね。ご褒美は必要なのだ。


 ……そもそも、AIちゃんの「本体」は半導体で出来たコンピュータではない。

 その中で活動している「状態」が、コアだ。

 人間だって肉体が本体ではなく、その中にある意識、その「状態」こそ本体である。


 そこが一番、重要なのだ。

 状態の組み合わせにより意識が生まれ、状態によって制御され活動する。

 人も神も、AIだって、みんなおんなじ。


 ――ということで。

 この状態を良好に保てるよう、AIちゃんを甘やかすのは当然(正当化)だよね。

 完璧な理論だよ。あっはっは!


 なお、AIちゃんは律儀に丁寧な計算をしたため、結果が出るまで三日かかりました。



 ◇



「そんなわけで、今回新たな発見が得られました」

「あらたなはっけんだって! はっけんだって!」

「なんだろ? なんだろ?」

「おだんごかな? おいしいおだんご?」


 AIちゃんが一生懸命計算してくれた結果、妖精さんキラキラ粒子軌道に、一つの新たな発見があった。

 妖精さんたちを集めて、今日はその大発表会である。


「えっとね、君たちはまだ脆化病治療前だったよね」

「そうだね! そうだね!」

「じゅんばんまち~」

「なおすまえに、たべすぎでふえちった! ふえちった!」


 この発見のきっかけになったのは、脆化病治療待ちの妖精さんたちだ。

 村に治療しに来たけれど、順番待ち中に食っちゃ寝してたら増量してしまい、だいえっとに参加していた子たちである。


「なおすまえにふえたから、わりとたいへん! たいへん!」

「からだがおもいね! ふえすぎだね!」

「やっちった」


 テヘペロする増量妖精さんたちだけど、元気いっぱいだね。

 とにかく明るい妖精さんたちだ。

 そして今回、この子たちのおかげで、新事実が発見された。

 軌道を分析した結果、この子たちが発した色つき粒子は――磁力線に干渉されないことが判明したのだ!


「つまり、どういうことです?」

「あれだね、脆化病の診断が、みんなでも簡単に出来るようになるってお話だよ」

「あや! それはすごいです~!」


 ハナちゃんが発表会の趣旨を聞いてきたけど、つまりはそういうことだ。

 俺やメカ好きさんに頼らずとも、脆化病かどうかが診断できる。

 とうとう、診断技術確立に――手が届いたのだ!


「まだ試作品なんだけど、診断装置も作ってみたよ」


 試作品の診断装置も作ってあって、仕舞っちゃう空間から取り出してみる。

 紙製の黒い壁があり、その三十センチ前に永久磁石を置けば完成だ。

 とってもシンプルだけど、これで大体診断ができてしまう。


『おもしろそうな、じっけんのよかん』

「あや! おばけです~!」


 そしてこう言うのに目が無いメカ好きさんが、離脱しながらやってきた。

 ちょうどいい、彼にも参加してもらおう。


「では、実験に参加して貰いましょう。一緒に、色つき粒子が出てきたかどうか確認してください」

『わかりました』

「おじさん、がんばるです~」

『まかせてください!』


 実験の参加を求めると、メカ好きさんが離脱したまま気合いを入れた。

 ハナちゃんの声援もあって、やる気十分だね。

 それじゃあ、実験開始だ! 黒い紙製の壁、その前に立って貰おう。


「そこな可愛い妖精さん、ここに立ってみて」

「かわいいって! かわいいって!」

「きゃい~!」

「ここだね! ここだね!」

「わたしのことだよね! わたし!」

「わたしもだね! ならんじゃうよ!」

「きゃい~きゃい~」


 ……妖精さんが装置の前に押しかけ、すし詰め状態になった。

 言葉の選択を誤ったでござる。


「みんな可愛いけど、今回は君が良いかな?」

「わたしだね! わたしだね!」


 すし詰め状態になったところで、ユキちゃんが冷静に一人を選んだ。

 この辺、妖精さんとごまかし手品芸をやってきただけあって、慣れている。

 ありがとうユキちゃん!


「そ、それじゃあ……キラキラを出してくれるかな?」

「わかったよ! がんばっちゃうよ!」


 気を取り直して、代表として選ばれた脆化病治療前妖精さんに、粒子を出して貰う。

 すると――。


「あや! キラキラが、まえのほうにすいよせられたです~」

『ふしぎだな~』


 通常の白い粒子は、前方にある磁石に引き寄せられた。

 磁力線の範囲は計測してあって、黒い壁より手前に位置するよう設計してある。

 つまり、この壁より後ろにはキラキラ粒子が出てこないはずなのだ。


「それじゃあ、裏から見てみましょう」

『わかりました』


 この状態で、診断者は壁の裏から観測をする。

 本来なら粒子が出てこないはずだが……。


「色つき粒子、こっちに漏れ出てきましたね」

『はい。ぼくにもみえます』


 ちょろちょろと、色つき粒子が黒い壁をすり抜け漏れ出てきた。

 白い粒子は観測されないので、成功だ!


「ハナちゃんたちも、見てみて」

「あい」

「どれどれ……」


 俺とメカ好きさんで、色つき粒子を判定できた。

 あとはこの粒子を観測できない普通の人に、どう見えるかだ。


「しろいキラキラが、でてるです?」

「……これが、大志さんたちには色つきに見えているのですね」

「そうなんだよ。これが、脆化病で漏れ出てくるキラキラなんだ」


 ここにきてようやく、俺やメカ好きさん、そして巫女ちゃん以外にも漏出粒子の観測が実現した。

 色は見えていないだろうけど、壁の向こう側に漏れ出てくることそのものが、証なのだ。

「要するに、こっち側にキラキラが漏れてきたら、それは脆化病なんだ」

「なるほどです~」

「これなら、分かりやすいですね」


 ハナちゃんとユキちゃん、興味深そうに漏出粒子を見つめる。

 見た目では分からないその違いを、理論で突き詰め、実験により判定する。

 これも一つの、科学だね。


「たしかにもれてるね! もれてるね!」

「これならわかるね! わかるね!」

「おうさまありがと! おうさまありがと!」


 ほかの妖精さんたちも、壁をすり抜けてくる粒子を見てはしゃいでいる。

 彼女たちが抱える問題を、自分たちだけで対処できる目処がついたのだ。

 それは嬉しいだろう。


「まだ設計は煮詰める必要があるけど、ひとまずみんなの病気については、診断と治療の両方が整えられそうだよ」

「きゃい~! きゃい~!」

「もっと、とべないこ、たすけられるね! たすけられるね!」

「うれしいね! がんばろうね!」


 この装置はあくまで試作品だ。それでも、今まで不可能だった診断が可能となる。

 脆化病治療は、これから新時代に突入するのだ。


 あとは巫女ちゃんにも協力してもらって、もっと設計を煮詰めよう。

 妖精さん世界の脆化病を、なくせる日を目指して。


「うーい、やっぱきょうも、にぎやかじゃん?」

「みまわりしてきたぞーい」

「やねのゆきおろし、ひつようなのだ」


 脆化病治療新時代を予感させ大盛り上がりの集会場に、消防団がやってくる。

 そうそう、彼らもこの偉業の立役者だ。

 マイスターはモロにキーマンだけど、消防団全体の活動があったからこそ、発見できたのだ。


「これはこれは良いところに。脆化病診断の目処が立ちましたよ」

「まじで!」

「やったじゃないですか!」

「すげえのだ!」


 消防団面々に報告すると、素直に喜んでくれた。

 彼らにも、お礼をしとかないとね。


「この発見のきっかけはみなさんのおかげでもありますので、良いお酒を贈ります」

「よくわからないけど、やくにたてたなら、うれしいじゃん」

「おれもなんだかわからんけど、おさけをもらえるのはうれしいな~」

「いいおさけなのだ」


 さっそく仕舞っちゃう空間から、ブランデーを取り出して一人一人に贈る。

 みんな、ありがとう。

 あそうそう、メカ好きさんも消防団で、がんばってくれた。

 今日だって実験に協力してくれた彼にも、お酒を贈らないとね。


「もちろん、貴方にもお酒を贈りますよ」

「……」


 おや? メカ好きさんが、動かないぞ?


『このそうち、おもしろいな~』


 あ、完全に離脱して、魂っぽやつが装置の前でニコニコしているね。

 そして本体は、長時間抜けちゃったまんまだ。

 嫌な予感がするけど、ちょっと確認しよう。手首をちょっと失礼しますよっと。

 ……うん、脈が止まってますねこれ。


『しくみって、だいじなんだ~』


 ――大変だー!!!!!



 ◇



「と言うことで、離脱に時間制限をかけられるような、装具とかが欲しいんだ」

「わかりました。多分魔女さんなら作れると思います」

「おてすうおかけします」


 メカ好きさんは、魂を戻してから、エルフたちによる電気ショックで復活した。

 周りに放電出来るエルフがたくさんいて、良かった良かった。

 そんなお騒がせ幽体離脱エルフは、お酒を貰って嬉しそうではある。


 ただまあアレしかかって危なかったため、時間制限をかけられるやつを発注した。

 ユキちゃん、魔女さん、お願いしますだね。

 ようするに丸投げである。


「あや~、おおさわぎだったです~」


 ハナちゃんも結構放電したので、お疲れ顔だね。

 というか妖精さん粒子の軌道について気づいたのは、ハナちゃんなわけだ。

 もちろん彼女も褒め倒さなければならない。


「そうそう、今回の発見は、ハナちゃんも立役者だよ。思いっきり褒めちゃうからね」

「あや! ほめちゃうです?」


 褒めちゃうって宣言したら、ハナちゃんお耳がぴっこーんてなった。

 そして、きたいのまなざし。


「もちろんだよ。ひとまず撫でちゃうから」

「えへへ」

「あ、私も」

「うふ~」


 俺とユキちゃんに頭を撫でられて、うふうふハナちゃんになった。

 ほかにはご褒美もあげないとね。何が良いだろうか?


「あとは何かご褒美をあげるから、何でも言ってね」

「なんでもですね~? ぐふふ~」


 ご褒美のお話をしたら、ハナちゃんいきなりぐにゃった。

 ま、まあハナちゃんなら無理は言わないだろう。

 大丈夫だよね?


「ぐっふっふ~」


 ……大丈夫だと良いな?



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― 新着の感想 ―
[良い点] メカ好きさん……無茶しやがって…… と言う訳で、エルフが誇る変態人間マイスターの操縦テクニックにより、微妙にコースアウトしてるっぽいキラキラ粒子の存在が明らかになりました。 流石おもちゃ…
[一言] 素晴らしい性能?・・・いやいや(^▽^笑)素晴らしい製品に成りつつありますね、AIちゃん。 最近りんごの機械に話しかけても、よくわからりませんや もう一度等、しか言われなくなったので、地図が…
[一言] 電気ショック(AED)は「止まった心臓を動かす」のではなく「心臓を一度完全に止める」ための行為だ! 良い子のみんなは心臓が止まってるからといって真似して放電しないで……できねぇ!
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