第六話 妖精さんのかくしごと
ここはとある世界の、とある村にある妖精さんのお花畑。
冬でも常春、大きなお花タワーもあって、とってもセレブ素敵な住環境。
そんなキラッキラ場所で、妖精さんたちがひらひらふわふわ、のんびりと過ごして――。
「きゃい~!」
「大変! 大変!」
「どうしましょ! どうしましょ!」
……おりませんでした。
なにやら妖精さんたちが、大騒ぎしております。
それは彼女たちに降りかかる、試練の始まりでした……。
◇
一月下旬、ユキちゃんが修行から帰還した。
かなり追加メニューがあったようで、数日山に缶詰というね。
神秘的存在にも、苦労は色々あるようだ。
「な、成し遂げましたよ。私は成し遂げました……」
「おつとめ、ご苦労様です」
ユキちゃんちに迎えに行くと、何かを成し遂げた感のあるキツネさんがいらっしゃいました。
ただし耳しっぽは割と見えており、まだまだ修行が足りないと思うのは俺だけだろうか?
それはさておき、それなりにしゃきっとしたユキちゃんを車に乗せて、村に向かう。
「ちなみに、どんな修行したの?」
「滝行は基本として、頭の上に水の入ったコップをのせて、一日こぼさないようにとか……まあ、色々です」
「そのおかげか、ユキちゃんぴしっとした雰囲気出ていて、かっこいいよ」
「ほんとですか!」
耳しっぽもぴしっとしていて、個人的には眼福だね。
霊力上がると、毛並みも良くなるのかな?
「修行を終えたご褒美に、子猫亭でフルコース行っちゃおうか?」
「わあ! 嬉しいです!」
ユキちゃんもかなり努力しているわけで、俺からこれくらいのご褒美をあげても良いのではと思う。
まあ今日は村で過ごすから、また後日になっちゃうかな。
ひとまずは、予定を聞いておこう。
「ユキちゃんの都合の良い日を、あとで教えてね。コース予約しておくから」
「わかりました!」
美味しいお料理というご褒美が嬉しいのか、キツネさんの耳しっぽがふあさっとよく見えるようになった。
その辺が追加修行をする羽目になった原因なのだけど、うかつさは遺伝なだけにどうしようもない。
そのまま、隙の多い女子でいて欲しいものだ。
ユキちゃんの毛並みを見るの、俺のささやかな楽しみだからね!
「ちなみに、ご両親も修行させられたよね?」
「え? なぜそれをご存じなのですか?」
「やっぱりね」
あの親御さんにしてこの子ありだから、まあ納得のオチである。
◇
ユキちゃんと雑談しているうちに、すんなり村に到着。
広場に車を乗り入れると、ハナちゃんがいつも通りお出迎えだ。
「タイシタイシ、おかえりです~。ユキもおかえりです~」
「ギニャニャ~」
ハナちゃん元気に、もここっと俺の足にしがみついてきた。
かわいいなあ。頭撫でちゃうからね。
「うふふ~」
「ギニャ~」
「ハナちゃんただいま。フクロイヌもただいま」
「二人とも元気ね」
なごやかなお出迎えで、俺もユキちゃんもにっこりだね。
さてさて、今日も今日とて、ハナちゃんちで会議だ。
「今日もハナちゃんちで会議するから、お邪魔します」
「あい~! おうちいくです~」
ハナちゃん元気いっぱいで、もこもこと自分ちまで先導だ。
若干よろめいているけど、着込みすぎである。
「ただいまです~」
「お邪魔します」
もこもこハナちゃんの先導で、あっというまにお家に到着。
「タイシさん、ユキさんようこそ、おちゃをおだししますね」
「どうぞこちらへ」
家に入ると、カナさんのお出迎えと共にリビングへ案内される。
ぽっかぽかの室内、快適だね。
「ヤナさん、こんにちは」
「どうもどうも、タイシさんこんにちは」
(ども~)
リビングに入室したら、ヤナさんがにこやかにこちらを見上げた。
あと神輿がのんびり、ストーブの前で伸びている。
神様も遊びに来てたのね。ぽかぽか暖房器具の前で、すっごいくつろいでおりますな。
なんかネコみたいに、のび~っとしているし。かわいい。
「タイシさん、今日は会議ですよね」
「そうですね。のんびり会議しましょう」
のびのび子猫神輿にほんわかしていると、ヤナさんから今日の目的について確認が来た。
そうそう、エルフ重工の細かいところを話すんだよね。
「では、議事録取りますね。よいしょっと」
そしてヤナさん、ノートPCを棚から取り出し、電源を入れる。
もうなんか当たり前に使いこなしているあたり、流石ヤナさんだ。
「ヤナさん、PC結構使えるようになりましたね」
「まだまだ、文章を打ち込むのは慣れませんけど、まあなんとか」
そう言いながら、ヤナさんは人差し指だけで、ぽちぽちとキーを押し始める。
まだブラインドタッチまでは出来ないようだけど、これでも結構文章打てているんだよな。
あそうそう、文章といえば、前に言ってた辞書ソフト持ってきたんだった。
まずはそれをインストールしよう。
「ヤナさん、前に言っていた辞書のやつを持ってきましたよ。これです」
仕舞っちゃう空間から、CD-ROMを取り出す。
「……その四角いやつが、そうなんですか?」
「ああいや、中の丸いやつがそうなんですよ」
ケースからCD本体を取り出して、ヤナさんに見せる。
「……え? その丸くて光るやつで、調べ物が出来るのですか?」
「これだけでは出来ないのですけど、この中に情報が沢山詰まってまして、それをパソコンで読み取るのですよ」
「ほほう……まったく分からないですが、そういうものですか」
「そう言うものですね」
データ、まあ情報要素という概念は、現代ちたま人でもはっきり理解している人はそれほどいない。
情報処理の専門教育を受けないと、それがどうなっていて何をすれば利用できるのかは、わかっていないからね。
ただ、道具はそれでも使えるように設計されているので、問題はないのだけど。
使えるならそれで良いのだ。
「まあこの丸いやつは、写真や動く写真、文章などを保存しておけるやつですね」
「ほほう」
「音楽も聴けたりしますが、実はこれもう古い技術で、最近はこの丸いやつすらつかわなくなってますが」
「もうなんだかわからないですけど……凄そうです」
軽く説明したけど、ヤナさんお目々がぐるぐるだ。
使っていればそのうちなんとなくわかるから、これくらいにしとこう。
それじゃ、インストールしようかな。
「ここを押すと、丸いやつを置ける板が出てきます」
「あ、これはそういうやつなんですね。たまに間違って押して、カシャっとかいってびっくりしてました」
「それ、私もやりますよ。間違って押すの」
「そうなんですね」
ヤナさん、たまにディスクトレイ誤爆やってたんだね。俺もやるよ。
エクスプローラーの良いところにいるから、間違ってクリックするんだよね。
それはさておき、ディスクをセットしてインストールだ。
「あや~、へんなおとがするです~」
「これはさっきの丸いやつが、回っている音なんだよ」
「そうですか~」
ドライブがスピンアップを開始すると、その音にハナちゃんが反応だ。
耳が良いだけに、気になるんだろうね。
「……なんだか、画面に謎の四角いやつが次々出てきますね」
「これがパソコンに新しい機能を追加している様子なんですよ」
「ほう」
「こうしていろんな機能を後から追加して、様々なお仕事をこなすって感じですね」
「便利ですね」
そうして程なくインストールは完了し、機能は使用可能となった。
実演して見せよう。
「これを立ち上げて、ここに言葉を入れると……ほら、出てきました」
「なるほど、これは良いです! 活用しますね」
「ええ、お仕事に役立ててください」
ヤナさんは辞書アプリに大喜びで、ぽちぽちと単語を入れては確認しているね。
使い方は簡単だから、ご活用下さいだ。
さて、ディスクをPCから取り出してトレイに戻したら、お仕事しましょうかね。
「みなさん、おちゃがはいりましたよ」
「これはこれは、どうもありがとうございます」
ちょうど良いタイミングで、カナさんがお茶をもってやってきた。
いつものワサビちゃん葉っぱ茶で、ほっとする味がなじみの逸品だね。
おやつのおかきも出てきて、ほんわかする一時だ。
今度はカレー粉をつかったおかきも良いかも。後でおすすめしておこう。
「それで、まずは造船についてですが――」
落ち着いたところで、細かい話を詰めていく。
船体案、建造方法、雇用方法等々。
偉い人ちゃんもそろそろお仕事が落ち着くので、それまでに草案は練っておきたい。
そうして会議を進めていたとき――事件は起こった。
ザッというノイズ音と共に、通信が入ったのだ。
『こちらしょうぼうだん。ようせいさんたちが、なんかさわいでます。どうぞ』
そして壁に掛けてある無線から、こんな報告が。
……妖精さんたちが、何か騒いでいる?
「ヤナさん」
「はい」
室内にさっと走る緊張とともに、ヤナさんが無線機を手に取った。
「こちらヤナ。状況説明お願いします。どうぞ」
『こちらしょうぼうだん。なんだか、そらをとんでいないのがへんです。どうぞ』
空を飛んでいない? まさか、脆化病にまつわる何かが起きたのか!?
これは心配だ。すぐさま現地に行って、確認しないと!
「ヤナさん、現地に行って確認しましょう」
「わかりました。こちらヤナ、すぐ現地に向かう。どうぞ」
『こちらしょうぼうだん、りょうかいしました。げんちでまっています。つうしんしゅうりょう』
一気に緊迫した空気の中、防寒着を着ながら外に飛び出す。
「私たちも後から行きます!」
「ハナもいくです~」
「じゅんびしますね!」
ユキちゃんとハナちゃん、カナさんも後を追うようだ。
ひとまず、俺たちは先に行こう。
妖精さんたち、無事でいて!
◇
「あ、タイシさんこっち!」
「お待たせしました」
「おおさわぎしてるから、みてほしいじゃん」
お花畑へ向かうと、その手前でマッチョさんとマイスターが待っていた。
二人の指さす先を確認すると――。
「きゃい~! きゃい~!」
「やばいよ! やばいよ!」
「たいへん! たいへん~!」
果たして、報告通り妖精さんたちが大騒ぎしていた。
みんな空を飛ばずに地面を……ちこちこきゃいきゃいと歩き回って慌てている。
確かにこれは異常事態だ、状況を確認しなければ。
「みんな、何かあったの!」
「おうさまきた! おだんごたべる? おだんご!」
「おいしいよ! おいしいよ!」
「どうぞ! どうぞ!」
……お団子もらっちゃった。この辺は、いつもの明るい妖精さんたちだね。
ああいや、それは嬉しいのだけど、何が起きているのか知りたいでござるよ。
「なにか慌てているみたいだけど、どうしたの?」
「そらをとべなくなっちゃった! なっちゃった!」
「たいへん! たいへん!」
「こまった~」
話を聞いてみると、妖精さんたちが……空を飛べなくなった、とのこと。
これは、大変だ! まさか、また脆化病が影響しているのか?
詳細を確認しないと。
「飛べなくなったみたいだけど、羽根の病気が出ちゃった?」
「ちがうよ! ちがうよ!」
「かんけいないかな! かんけいないかな!」
「それはそれとして、おだんごどうぞ! どうぞ!」
またお団子もらっちゃった。おやつ沢山だよ!
それはまあ良いとして、話を聞くと脆化病は関係ないっぽい。
ということは、妖精さんたちは、この事態の原因が分かっているのかな?
「羽根の病気が関係ないとすると、原因はみんな分かっているのかな?」
「げんいんは、わかってるよ! わかってるよ!」
「あれだよ! あれ!」
「それっぽやつ~」
どうやら本人たちは原因を認識できているらしく、断言しているね。
じゃあ具体的になんだろう? それが分からないと、対処ができない。
「その原因ってなにかな?」
「……なんだろね? なんだろ?」
「これがああなったかな? かな……?」
おや? 原因を聞いたら、なんか妖精さんたちが……一斉に目をそらしたぞ。
回答もなんかふわっとしていて、つかみ所が無い。
原因はわかってるんだよね?
「大志さん、お待たせしました!」
「きたです~」
「どうなってますか?」
妖精さんたちが目をそらしたのに首をかしげていると、ハナちゃんたちも追いついてきた。
「おだんごどうぞ! どうぞ!」
「ありがとです~」
「こっちもどうぞ! おいしいよ! おいしいよ!」
「え、ええまあ」
「た、たくさんあるのね」
そしてすぐさまお団子を貰う三人である。
緊迫して出てきた割には、妖精さんたちはいつものノリなので面食らっているね。
おっと、ほのぼのしている場合ではない。なぜ飛べなくなったのか、聞き出さないと。
「それで話を戻すけど、どうして飛べなくなっちゃったの?」
「あ~、それは……それかな?」
「ふかいりゆうがあるね! ふかいりゆう!」
「おいそれとははなせないかも! おいそれとは!」
しかし、やっぱり彼女たちはきゃい~とはぐらかす。
おまけに目を逸らしてこっちを見ないわけだ。
……。
これは、なにか、やましいことを~隠しているぞお。
お父さんそういうの、わかっちゃうんだな。
「あや~、なんかあやしいです?」
「そうですね」
「ヤナがしっぱいしたやつをかくしたときと、そっくりだわ」
「おおう……」
ハナちゃんたちも、なんか怪しいと気づいたようだ。
ちなみに、ヤナさんがなぜか流れ弾を受けてダメージを食らっている。
まあヤナさんはそっとしておくとして、ひとまず聞いてみよう。
「ねえ、教えて欲しいな。飛べなくなった理由。ほら、お菓子あげるから」
「き、きゃい~」
「おかし……おかし……」
「ゆうわくにまけそう! まけそう!」
お菓子をチラつかせると、妖精さんたちの意志はすぐさまグラッグラになった。
ふふふ、どんどん崩していくぞお。
「もっちりお団子とチョコをクレープで包んだふわふわお菓子、食べてみたくない?」
「きゃ~い」
「ふわふわおかし……ふわふわ……?」
「ここでまけたら……まけてもいいかな?」
じわじわと妖精さんの隠し事要塞を崩していく。
しかしあれだ、今回は意外と彼女たちの口が堅い。
一体何をお隠し遊ばされているのかな?
「こんなお菓子もあるんだよ~」
「きゃ~~い」
「まけたらだめだよ……だめだよ……」
だんだん目がうつろになっていく妖精さんたちだけど、ほんと口が堅い。
なぜにそこまで耐えるのだろうか。
「――ふとったんだよ」
そんなとき、ふと後ろから声が聞こえてきた。
振り返ると――。
「たべすぎで、みんなふとったんだよ」
仄暗い笑みを浮かべた、イトカワちゃんがぱたぱたと飛んでいた。
ヘルシーなごま団子をかじりながら、フフフ……と、浮遊している。
「きゃい~、しんじつがばくろされた! ばくろされた!」
「みとめたくないげんじつだね! みとめたくない!」
「やっちった」
そして地上の妖精さんたち、とうとう観念して認める。
なるほど、おふと――あそばされたわけね。
冬になってお花畑にこもることも多くなったため、運動不足になったのかもだ。
そこに俺がお酒のお菓子爆撃をしたもんだから、何かが増えた、と。
「だからいったんだよ。ゆだんたいてきだよって。ゆだんたいてき~」
「はんせいちゅう~」
「きゃい~……」
「けいけんしゃはかたるだね! けいけんしゃ!」
最後にサクラちゃん暴露した内容によれば、イトカワちゃんはおふと――による飛行不能状態を経験済みらしい。
哀しい暴露合戦でござるね……。
だから、あんなに何度も「油断たいてき!」とか言ってたのか。
「どうしましょ! どうしましょ!」
「あれだね、じかんがかいけつす……してくれたらいいな! いいな!」
「ふと――てしまいました! しまいました!」
とまあ、妖精さんたちおふと――で空を飛べない事件が勃発した。
なんかモルフォさんも増量したようで、おろおろしているよ。
――さて、この事態をなんとかするには……どうしたら良いのかな?
◇
ここはとある世界の、とあるハナちゃんのおうち。
みんなが慌てて出て行ったあとのことです。
ストーブの前で伸びていた神輿、目を覚ましました。
そのままほよほよ~っと浮かび上がり、あたりをくるくる見回します。
しかしお家は誰もおりません。みんなお花畑に様子を見に行っちゃいましたからね。
そして遊んでくれる人がいないので、なんだか手持ち無沙汰な感じです。
ほよほよ室内を飛び回って、おうちの人を探しますが……誰もいませんね。
やがて暇したのか、ほよよっとちゃぶ台の上へ。あ、パソコンとかをぽちぽちいじり始めましたね。
この神輿……なんと、ちたまのコンピュータをいじれるようです。
というか、携帯用ゲームとか普通に遊んでましたね。今更の話ですか。
そんな感じで、ちゃぶ台にあったおかきを食べたりしながら、まったり一人で過ごしてます。
なんだかんだで、のんびり神輿ですね。
そうしてしばらく一人で遊んでいた神輿ですが……ふと、テーブルの上にある、何かを発見しました。
これは……大志が持ってきた、なんかのディスクですね。
およおよとそのディスクに近づいていった神輿は――ディスクの上で浮遊して、くるくる回り始めました。
……一体何をしているのでしょうか?