第二話 助けが必要な子
ここはとある村のとあるドワーフの湖。
夜の見回りをしていた巡回ワサビちゃん、意気揚々と歩いていたら……。
「ぴ?」
なんだか、あっちの方に光るやつがありました。
ワサビちゃんにとって心地よく白く輝くアレなやつとの、思わぬ遭遇です。
「ぴっぴ~」
まさかこんなところで出会えるとは思ってなかったワサビちゃん、ぴっぴとご機嫌で光の所へ歩いて行きます。
お仕事をがんばっている自分へのご褒美? みたいな感じで、とっても嬉しそう。
しかし――。
「ち?」
「ぴっ?」
「ちっち?」
「ちちち?」
光るやつのそばに来てみたら……なんか居ました。それも沢山!
とっても心地よさそうに、ヤナさん特製シャイニングエルフリキュールの光を浴びています。
「ぴ~!」
「ち~!」
「ちちちちち~!」
そして未知との遭遇に、ワサビちゃんめっちゃびっくり!
つられてなんか居たやつたちも、びっくり仰天!
「ぴ~! ぴっぴ~!」
「ちちちちち!」
「ちっちちちち~!」
「ちち?」
もうなんか驚いちゃって、お互い大慌てで光るやつの周りを走り回ります。
ワサビちゃんは時計回り、なんか居たやつたちは反時計回りですね。
そして、ぐるっと回ってすぐさま再会です。
「ぴぴぴぴぴ!」
「ち~!」
静かな湖は、ここだけ大騒ぎ!
しばらく、走り回ってはばったり再会してびっくりするおもしろ風景が広がります。
「ぴ……ぴ~」
「ち……」
「ち~」
やがて走り疲れて驚き疲れたのか、ワサビちゃんとなんか居たやつたちは、座り込んでしまいました。
ちょっと休んで、落ち着きましょうね。
「ち~」
さてさて、休憩している間に、なんか居たやつたちを良く観察してみましょう。
そのお姿は……青紫色の体をした、根っこみたいな感じ。
あら、葉っぱもあって、なんだかワサビちゃんによく似ています。
体の大きさは、ワサビちゃんより二回りちいさいかな?
あと短いですけど、しっぽもありますね。おまけに脚線美がとっても魅惑的。
この子たちは、植物なのでしょうか?
「ぴ~?」
「ち?」
ワサビちゃんも、ようやく落ち着いたのかまじまじとなんか居たやつたちを、興味深そうに観察ですね。
「ち……ち~」
「ちち~」
「ち?」
あ、なんか居たやつちゃん、見られて照れちゃったのか、もじもじしています。
恥ずかしがり屋さんなのですかね?
「ぴっぴぴ~?」
「ち~、ちちちっちち~」
しばらく観察したあと、ワサビちゃんが近くのなんか居たやつちゃんに、何か話しかけているようです。
この謎の存在たち……コミュニケーションを取っているみたい。
「ぴ~?」
「ちち、ち~」
「ちっち~」
「ちちちち」
身振り手振りを交えて、対話が続きます。
ぴっこぴっこと動いているその姿は、なんだかとっても可愛いかもです。
「ぴ」
「ちちち~」
「ち~」
やがて、おもむろになんか居たやつちゃんたち、ヤナさん謹製の光るやつを指して、ちっちとご機嫌アピールです。
良い感じの光源が突然現れて、とっても嬉しいみたい。
彼らもワサビちゃん同様、おんなじ波長の光を必要としているようです。
ハナちゃんが実験で置いたシャイニングな液体は、突如として訪れた……福音なのかもですね。
いきなり美味しい食べ物がどっさり出現して、大喜び。そんな感じなのかも?
「ぴっぴぴ~」
「ち~」
そうして喜ぶなんか居たやつちゃんと一緒に、ワサビちゃんものんびり光を浴び始めました。
出会いはびっくりでしたが、なんだか仲良しになったみたいですね。
ワサビちゃんは葉っぱをゆらゆら、なんか居たやつちゃんたちは、短いしっぽをふりふりです。
とってもほのぼの、ゆる~い空気が流れます。
「ぴぴぴ~」
「ち~」
「ちちっちち~」
そうしてこの日の夜は、ワサビちゃんとなんか居たやつちゃんが、密やかな交流を行ったのでした。
というか、ドワーフの湖になんか謎の植物? みたいなのが居るようです。
だーれも知らない、不思議な不思議な生き物。
ワサビちゃんだけ、見つけたようですね。
「ぴ~」
あとワサビちゃん、巡回のお仕事は良いのかな?
これ完全にサボりですよ?
◇
ここはとある世界の、とある村。
今日はとっても良いお天気! さあハナちゃん、朝早くから、さっそく――。
「あや~、おふとんから出られないです~」
……寒くてお布団から出られない現象が起きていました。
そうですよね。朝のお布団、極楽ですから。
「もちょっと寝るです~」
そして二度寝するハナちゃん。湯たんぽでぽっかぽかに暖まったお布団の中で、ぬくぬくまどろんで幸せそう。
人類として正しい、冬の朝の過ごし方ですね。
そのまま普通の時間まで眠って、すっきりお目覚め。
お母さんと朝ご飯を作って、みんなで頂きます。
のんびりとしたモーニングを過ごし、午前十時くらいまでゆったり過ごしました。
「そろそろ、大豆っぽいやつの様子、見に行くですか~」
さて、ようやく重い腰を上げる気になったハナちゃんですね。
んしょんしょと準備して、いざ出陣!
「アダマンカイロで、ぽっかぽかです~」
「ギニャ~」
にっこにこでお家を出たハナちゃん、もっこもこに着込んで、フクロイヌ襟巻きをしていますね。
どうやらアダマンカイロも装備しているようで、寒さ対策は万全みたい。
寒さにも負けず、ぽてぽてと船着き場へと歩いて行きました。
「わきゃ、ハナちゃん湖に行くさ~?」
「あい~。お願いするです~」
船着き場へ行くと、ちょうど湖へと向かうドワーフちゃんと鉢合わせしました。
せっかくなので、一緒に船に乗って行きましょう!
「のんびり行くさ~」
「そうするです~」
「ギニャニャ~」
ゆる~い雰囲気漂う中、船はどんぶらことドワーフの湖へ向かって進みます。
村は極寒ですが、湖に近づくにつれどんどん気温が上昇していきます。
「あや~、汗だくです~」
当然防寒対策バッチリのハナちゃん、暑くてぐんにゃりですね。
この辺の気温差はどうにもならないので、おとなしくキャストオフしましょうね。
「着いたです~。送ってくれて、ありがとです~」
「どういたしましてさ~」
道中でキャストオフしたハナちゃん、身軽な感じで到着!
送ってくれたドワーフちゃんにお礼を言い、ぽてっと船から下りました。
さてさて、それじゃあ発芽した大豆っぽいやつを見に行きましょう!
「にょきにょき~、育ってるですかね~」
「ギニャニャ~」
のんびりぽてぽて、水槽のある場所に向かうハナちゃん。
フクロイヌも隣をトテトテ歩いて、しっぽをふりふりですね。
そのうち、目的地に到着!
さてさて、水槽と大豆っぽいやつはどうなっているのかな?
「昨日と、あんまし変わってないですね~」
果たして大豆っぽいやつは、そんなでもない感じ。
わざと成長させきらずに芽の状態にしてあるようですが、そこから自然に育てるにはもうちょっと時間がかかりそうです。
「このまま、じっくり様子を見るですか~?」
「ギニャ~?」
時間をかけて観察する計画なので、まあ気長にやりましょう。
ひとまず現状維持って感じかな?
「光るやつは、どうするですかね~」
成長を促すために置いてある光るやつですが、今現状では効果があるかは定かではありません。
このまま置いておくか、自然に任せるかちょっと考えどころですね。
「持って帰るですかね~」
次の実験をどうするか考え中のハナちゃん、とりあえず光るやつをどうするか、色々思案していたところ――。
「ち~……」
「ち……ち……」
「あえ?」
どこからか、何かの鳴き声が聞こえました。
とってもとっても哀しそうな、なんかの声ですね。
「今なんか、居たです?」
きょろきょろと周りを見回すハナちゃんですが、特に何かを見つけることは出来ませんでした。
「気のせいですか~」
「ギニャ~」
そうしてハナちゃん、光るやつに手を伸ばします。
すると、やっぱり――。
「ち~……」
「ちち~……」
「あえ?」
どっかから、なんか哀しそうな鳴き声が。
パターンですね。
「やっぱ、気のせいですか~」
「ギニャギニャ」
とりあえず気のせいにしたハナちゃんです。
なにせ、周りを見渡しても何もいませんからね。
「まあ、これはしばらく置いとくです~。もってかえるの、めんどいです~」
「ギニャ」
あ、光るやつは置いておくことに決定したようです。
理由は、めんどいからっぽいですけど。
「それでは、おうち帰るです~」
「ギニャニャ~」
結局、今日は特に何もせず写真だけ撮影して帰宅ですね。
ハナちゃん、お疲れ様でした。
「ち~」
「ちち~」
そしてハナちゃんが帰った後、やっぱりどこからか、ほっとしたような鳴き声が聞こえたのでした。
――その日の夜。
「ちっち~」
「ちちちち~」
「ちっちち~」
ハナちゃんがそのままにした光るやつの周りでは、ちっちちゃんたちがやっぱりくつろいでおりました。
ぷるるっと短いしっぽを振って、とっても嬉しそう。
なんとも平和な光景です。
「ぴっぴ~」
「ぴぴぴぴ」
「ぴち~」
あら、そんなおくつろぎちっちちゃんたちの元に、村のワサビちゃんたちが遊びに来ました。
昨日のワサビちゃんが、お友達を連れていますね。
「ちち~」
「ぴっぴ~」
お互い手を振り合い、挨拶をしています。
なごやかな光景なのはそうなのですが、ほんとにこの子たち、植物なのかな?
……まあ、エルフィン惑星系は動く植物がけっこういますからね。
細かいことは気にしないことにしましょう。
「ちちち~」
「ぴ~」
そうしてまたまた、のんびりシャイニング浴にて光合成を始める謎植物たちでした。
寝っ転がったり、膝枕をしたりとゆったりした空気が流れます。
しかしこの平和な光景は、薄氷の上を歩くがごとく壊れやすいものなのです。
だって、ハナちゃんが光るやつを持って帰っちゃったら、終わっちゃうのですから。
「ち、ちっち~」
「ぴ~?」
「ちちちちちち」
その辺をちっちちゃんたちも心配しているのか、なんだかワサビちゃんに相談を始めましたね。
光るやつを指して、ぷるぷるっと震えたり、ひしっとしがみついたり。
このすごいやつが持って帰られちゃうかもって、教えているのかな?
「ぴ~……」
「ぴち」
「ぴぴっぴ~?」
なんだか相談しあっているみたいですが、何を言っているかはちょっとわからないですね。
でも、ワサビちゃんたちも、ちっちちゃんたちの力になってあげたいようです。
大志がLED街灯を設置してくれたとき、彼らはとっても喜んだのです。
その嬉しさを、ちっちちゃんたちにも安心して噛みしめて貰いたいのかもですね。
「ぴっぴ~」
「ちちち~」
「ぴち」
「ち~……」
そうして今夜は、謎植物たちの光るやつ置いておいて欲しい会議が、賑やかに進んでいくのでした。
ワサビちゃんたちも、色々生活のためにがんばっているようですね。
とっても面白い、アンノウンプランツたちの生態。
ちまちまと、見守ることにしましょう。
◇
ここはとある世界の、とある湖。
今日も今日とて、ハナちゃんは大豆っぽいやつの成長を観察しております。
「あや~、これは時間がかかりそうですね~」
「気長にやるさ~」
「それでも、順調に成長はしているさ~」
今度はお母さんドワーフちゃんと、ミタちゃんも参加していますね。
写真を撮ったり、芽の様子を確認したりと地道なお仕事を続けています。
「そう言えば、流される問題は解決してないですね~」
「ほっとくと、どっかに散らばっちゃうさ~」
「そこもどうするか、考えないといけないさ~」
生育は順調ですが、その問題はまだ未解決でしたね。
この大豆っぽいやつ、水に浮かんで流されるままにし、種を世界に広げる戦略を持っているようです。
ちたまのヤシの実とかも、そんな戦略で広がっていますよね。
植物たちだって、色々作戦はあるのです。
「たくさん作るには、そこをなんとかしなきゃですね~」
「ぼちぼち、対策を練るさ~」
「うちも、考えるさ~」
まだまだ課題はいっぱいですが、地道に続けていきましょうね。
こうしてハナちゃんたちは、ちまちまと作業や会議を進めています。
「ち~」
「ちちち~……」
そして、その三人をこっそり見つめる、謎の存在が……。
もうほんと、光るすごいやつが持って行かれてしまわないか、心配で心配で仕方が無いよう。
太陽の光はちょっときついみたいですが、水面からちょこっと顔をだしたり引っ込めたりして、心配そうに見つめていました。
まあ、ワサビちゃんもLED街灯が外されそうなときは、土から顔を出して抵抗勢力になりますからね。
大事な大事な光るやつのためなら、太陽光だって我慢できちゃうみたいです。
あれ? 割と我慢できちゃうみたいですが、じゃあなぜ引っこ抜いたとき「ぎゃあああ」となるのでしょうか。普通に我慢すればいいのに。
……この植物たち、まだまだ謎の生態があるのかもしれません。
要注意プランツですよこれ。
「ちちち~」
「あえ? なんか言ったです?」
「うちはなんも言ってないさ~?」
「うちもさ~」
とまあ変な習性の一つが見えたところで、問題は光るやつ回収されちゃったら哀しい事案ですね。
今のところ、これに対する有効な手立てはない模様。
はてさて、ちっちちゃんとワサビちゃんたち、どうするのかな?
◇
一月も下旬になり、もうほんと寒くてカッチカチな今日この頃。
すっごい大雪が降ったため、心配になり朝一で村に顔を出す。
「タイシタイシ~、おかえりです~」
「ギニャニャ~」
到着すると、いつも通りハナちゃんがお出迎えしてくれた。
もっこもこに着込んで、もこもこハナちゃんだ。
フクロイヌ襟巻きもしていて、すごく暖かそうである。
「ハナちゃんただいま。もっこもこで暖かそうだね」
「ぽっかぽかですよ~。ただし、とってもうごきにくいです~」
「ですよね」
「ですです~」
「ギニャニャ」
着込みすぎてロボットみたいな動きになっているけど、それはそれでかわいらしい。
さてさて、このもこもこをキャストオフできるよう、早いところおうちに行こうか。
「じゃあハナちゃん、おうちに行って暖かいお部屋でお話しようか」
「あい~! タイシとお話するです~」
「ギニャニャ~」
ということでハナちゃんちに向かって歩いていく。
大雪で道が埋もれていないか心配したけど、きれいに除雪されているね。
「かっこいい~」
というか、今まさに楽しそうに除雪しているメカ好きさんがそこに。
これほどきれいになっているのは、彼のおかげだろうな。
まあ除雪が好きなのではなく、あくまでメカを動かすのが好きなのだ。
その辺を考慮して、ちゃんとお礼はしておこう。
「いや~、きれいに除雪して頂けて、ほんとうに助かります」
「いえいえ、しゅみですので」
「まあ大変なお仕事ではありますので、今度お礼にメカの模型とか持ってきますよ」
『ほんとですか! やったー!』
「あや~! オバケです~!」
幽体離脱した。メカの模型という部分が、魂を大きく揺さぶったらしい。
朝っぱらから結構な心霊現象を見てしまったが、いつもの事とも言う。
とりあえず離脱したソウル的なのを本体に戻して、一件落着。
引き続き除雪はお願いして、ハナちゃんちに向かい、腰を落ち着ける。
「ヤナさん、大雪でしたが何か問題はありましたか?」
「今のところは、そう言った報告は無いですね」
「それは良かったです」
「やっぱり、対策しておくと違いますね」
カナさんが淹れてくれたワサビちゃん葉っぱ茶を飲みながら、ほのぼのと状況報告を聞く。
村の様子からなんとなくわかっていたけど、今のところ問題は起きていないようだ。
ほっと一安心だね。
「タイシ~、いっしょにおやつ、たべるです~」
「お、ごちそうになっちゃうかな」
「どうぞです~」
状況確認が終わったところで、ハナちゃんから間食のお誘いだ。
断る理由はないので、ありがたく頂くことにしよう。
「きょうのおやつは、これですよ~」
そうして楽しみにおやつを待っていると、ハナちゃんがぽてぽてとお皿を持ってやってきた。
今日のおやつは、揚げおかきだね。沢山あるおもちを、いろいろ工夫して消費しているようだ。
「おかきとは、結構手が込んでいるね」
「ユキにおそわったですよ~。それとおかあさんが、これきにいったらしくて、よくつくるようになったです~」
「なるほど」
確かにヤナさんの隣で、カナさんが笑顔でバリボリ食べている。お気に入りのおやつなのは、すぐに分かった。
しかし……この揚げ物をそんなに食べたら、よりおふと――ではないだろうか。
ここはひとつ、アドバイスをしておかないといけない。
「カナさん、ちなみにですが、これにチーズをかけると絶品ですよ」
「なるほどなるほど」
「おいしそうです~」
俺の悪魔のアドバイスを受け、カナさんがじゅるりとしながら、すたたっと台所へ向かった。
チーズおかきでカロリードン! おいしいけど容赦ない増量が見込まれるステキフードだよ。
――さて、ダイエット戦士を陥れる、ささやかな悪事を働いたところで。
チーズおかきを楽しみながら、のんびり過ごそう。
というか今日も大雪だから、このまま村に残って様子を見るのも――と考えていたところで、スマホがぷるるっと震えた。
これはメールかな? どれどれ……。
“件名:助けてください!”
メーラーを立ち上げると、そんな件名が目に飛び込んできた!
差出人は――ユキちゃん!
一体、彼女に何が起きたんだ?




