第二十一話 ドワーフィンを動かす、一つの別れに
送別会はどんちゃん騒ぎを夜まで続けて、賑やかに終えた。
偉い人ちゃんも思う存分ごちそうを堪能したようで、大満足の様子だね。
「わきゃ~ん、楽しかったさ~」
「明日は湖まで送りますので、またよろしくお願いします」
「ありがたいさ~」
参加者もだいたいエルフィンから村に帰還したけど、俺と偉い人ちゃんの二人はまだ残り、湖畔を眺めながらお酒を飲んでいた。
こうして過ごせるのも、あと少しだ。
明日になれば偉い人ちゃんは、元いた場所に帰っていく。
寂しいけれど、帰る場所があるのは良いことでもある。
というか、実家に帰るだけとも言う。
「あのお月さまが、うちらの住んでいるほしだなんて、不思議さ~」
「自分の住んでいる星を外から見るって、普通は出来ないですからね」
「たしかに、そうさ~」
二人で別れを惜しみながらウィスキーをちびちび飲み、夜空に輝くドワーフィンを見上げる。
明日、彼女はあの星に帰っていくのだ。
自分が帰る星を別の星から眺めるのは、確かに不思議な感覚だろうな。
「ほんとうなら、すっごく遠くにあって、かんたんに行き来はできないはずさ~」
「ですね。本来なら、共に過ごすことは出来なかったでしょう」
「貴重なたいけん、したさ~」
偉い人ちゃんは、じっと空を見上げて、ドワーフィンを見つめる。
月明かりが、彼女の持つ赤いグラスを照らし、さっきまでなみなみ注がれていたはずのウィスキーはもうカラになっていた。
飲むペース速いですよ。ちょっとした隙に、一気飲みしたでしょ……。
「自分の住んでたほしをながめながら、お酒を飲むのもオツなものさ~」
「ですね。今日は夜更かしして、お酒を飲みましょう」
「そうするさ~」
そうして湖畔のさざめきを聞きながら、しばしお酒を楽しんでいたときのこと。
「あの、あの……タイシさん、ちょっと良いさ~?」
偉い人ちゃんが、なにやらもじもじしながら聞いてきた。
なんだろう?
「何でしょう?」
「お世話になったお礼に、受け取って欲しいもの、あるさ~」
そう言うと、偉い人ちゃんは仕舞っちゃう空間から、何かを取り出した。
これは……何かの装飾品かな?
「う、うちのウロコで作った、くびかざりさ~」
「ほほう、凝った作りですね」
「うちらのほうでは……な、仲良くなったら、こういうのを贈るのさ~」
「そうなのですか」
どうやら、ドワーフちゃんたちの文化にそう言うのがあるようだ。
仲良くなった証っぽいやつだね。
それなら、もちろん受け取ろう。
「もちろん、ありがたく頂戴致します」
「わきゃん!? ど、どうぞさ~」
「はい、確かに受け取りました。大事にしますね」
「わ、わきゃ~ん……」
なにやら偉い人ちゃんの様子がおかしいけど、もう貰っちゃったからね。
大事にしよう。
しかし、黄色っぽいウロコ十数枚に精緻な細工を施して、貴金属で装飾してあるな。
なかなか芸術的な品だ。
「これは、美しい装飾品ですね」
「そ、そう言ってくれると、嬉しいさ~」
俺が受け取ったのを見て、偉い人ちゃんも嬉しそうだ。
良い物貰っちゃったね。
「これは、みんなには、内緒にしてほしいさ~」
「内緒ですか? そう言う文化とか?」
「そ、そうなのさ~」
なぜ内緒にするかは分からないけど、そう言う文化らしい。
そういうわけなので、大事に仕舞っておこうか。
「わきゃ~ん」
無事贈り物が出来てほっとしたのか、偉い人ちゃんのお酒を飲むペースも速くなってきた。
俺もとことん、お付き合いしよう。
「では、のんびりお酒を飲みましょうか」
「そうするさ~」
そのまま調子に乗って飲み続けた結果、最終的に三十リッターほど飲んでしまった。
またみんなでお酒を造らないと……。
◇
――翌日、朝。
偉い人ちゃんをお隣の湖に送るべく、海竜艦隊が集結する。
「がう」
「が~うがう」
「ぎゃう」
艦隊はお土産品を満載したイカダを引っ張ってくれ、さらに俺たちの乗るゴムボートも牽引してくれる。
彼らの力を借りて、お隣の湖まで快適クルージングだね。
「じゅんび、出来たさ~」
「ハナもです~」
「私たちも、大丈夫ですよ」
「こっちもです」
今回の送迎に参加するメンバーは、ハナちゃんとヤナさん、そしてカナさん。
「大志さん、確認終わりました」
「うちらもさ~」
「わきゃ~」
あとは、ユキちゃんとリーダーお母さんと、末っ子のミタちゃんだね。
お母さんは偉い人ちゃんにお世話になったし、ミタちゃんも色々遊んで貰ったから最後まで付き合う事と相成った。
「わたしたちもついてくよ! ついてくよ!」
「せっかくだからね! せっかくだから!」
「まえもいったからね! まえも!」
おっと、サクラちゃん、アゲハちゃんとイトカワちゃんも参加だ。
前回もドワーフィンを旅したからか、余裕があるね。
残るみんなは、ドワーフィンの洞窟前でお見送りとなる。
「おれら、こんかいおるすばんじゃん?」
「またどくのあるやつとってきたら、こまるからね」
「それな」
ちなみにマイスターたちはお留守番である。
前科があるからね。というのは冗談で、絶対泣いちゃうからここでお見送りするってことで、今回はお留守番するというお話だ。
なんだかんだで、彼らもさみしいのである。
「なごりおしいけど、またきてね~」
「まってるわ~」
「うちらも、おさけをつくっておくさ~」
「ギニャギニャ」
「ばうばう」
ともあれ、お留守番組の村人総出で、偉い人ちゃんを見送る。
横断幕とかあるけど、それいつの間に作ったの?
ちなみに書いてある文字はまったくわからない。エルフ文字かな?
ともあれ、偉い人ちゃんを送迎する準備は整った。
それでは、お隣の湖へと向かおう。
「では、行きますか」
「そうするさ~」
「しゅっぱつです~!」
「がう!」
出発の確認を取ると、送迎メンバーは気合い十分な様子だ。
ではでは、出発しよう。
「それでは、出発進行!」
「みんな、今までありがとうさ~!」
「しっかり、おくってくるですよ~!」
「行ってきます!」
「がうが~う!」
号令と共に、海竜たちが泳ぎ始める。
偉い人ちゃんは見送るみんなに手を振り、しっぽもぱったぱたにふりふりだ。
つられてハナちゃんも元気いっぱい手を振ったりして、賑やかな出発となった。
「がんばってな~!」
「むらで、まってるわ~!」
「いってらっしゃーい!」
お見送りの村人たちも、一生懸命手を振って送り出してくれる。
それは、姿が見えなくなるまで続いた。
これで……偉い人ちゃんは、村人たちとの別れを終えたことになる。
あとは、進むだけだ。
「それでは、慌てず騒がず、のんびり行きましょう」
「わかったさ~」
「さっそく、おべんとたべるです~」
「おにぎり、たくさんつくっておきましたよ!」
順調にクルージングが始まり、さっそくお食事の時間となった。
ハナちゃんとカナさんがおにぎりをわんさか取り出すけど、朝ご飯食べたばっかりじゃないかな?
特にカナさん、油断しているとまたおふと――。
「タイシ、おかあさん、ひらきなおったですよ」
「さようで」
「さようです~」
ハナちゃんの密告によると、カナさんはもう開き直ったらしい。
ま、まあ。健康的な証拠というか、これから厳しい冬なので装甲を増やすのは良いかもですね。
ただし、夏になったらキャー! となることは確実である。
「おにぎり、おいしいさ~」
「またすっぱいのにあたった! すっぱいの!」
「おやくそく~」
そんなカナさんはさておき、偉い人ちゃんや妖精さんたちもお食事を始める。
案の定アゲハちゃんは、特大うめぼしにアタックしてすっぱ顔である。
……そんなでかいうめぼし、雑貨屋さんに納入したっけ?
とまあ賑やかなボートは快適にクルージングを続け、お隣の湖が支配する領域へと到達する。
「わきゃ~ん! 懐かしいにおい、するさ~!」
「お日様が出ていると、また違った感じがしますね」
「ハナたち、よるのじきしかしらないです~」
「なんだか、生命が活気づいているって感じがします」
果たして、朝焼けの中を進むドワーフィンは、以前に来たときより活気があった。
長い夜の時期に止まっていた活動が、一気に開始されたって感じがする。
お日様が出ているときのドワーフィンは、こんなに賑やかだったんだ。
「まだまだ、静かなほうさ~。お日様がてっぺんにきたときは、とっても賑やかさ~」
「そうなのですか」
「そのとき、こっちに来てもらえば、わかるさ~」
ただ、偉い人ちゃんが言うには、まだまだ静かな方らしい。
お昼の時期に行けば、もっともっと賑やかだそうだ。
それなら、最盛期のドワーフィンに遊びに来るのも良いかもしれない。
もっともっと、この世界のことを知りたいと思う。
「それは良いですね。是非とも、遊びに来ますよ」
「わきゃ~ん! そうしてくれると、嬉しいさ~!」
遊びに行くと伝えると、偉い人ちゃんわっきゃわきゃと大喜びだ。
黄色っぽいしっぽをぱたぱた振って、にこにこ笑顔だね。
「そのときは、ハナもいきたいです~」
「もちろん、みんなで遊びに来ようね」
「あい~!」
ハナちゃんもお昼のドワーフィンに興味があるのか、好奇心いっぱいのお目々で行きたいアピールだね。
そのときは、一緒に遊びに来よう。
「がうが~う」
「がう」
「――!」
そうして和やかに雑談しながらも、海竜艦隊は任務を着実に遂行していく。
どんどん、どんどんと大河を進んでいき、やがて――。
「わきゃん! 見えてきたさ~!」
お隣の湖が、見えてきた。たった二時間にも満たない時間で、到達してしまう。
洞窟と偉い人ちゃんの故郷は、こんなにも近いのだ。
「あわきゃ! もうおおぜい、起きてきてるさ~!」
「ほんとです~。フネがけっこう、でてるですね~」
「大志さん、ゴムボートも使われているみたいですね」
「ほんとだ」
そして湖では、もうドワーフちゃんたちの活動が始まっているようだ。
それなりの数の木造船や、俺たちがばらまいたたくさんのゴムボートが、湖上に浮かんでいた。
俺たちはそのまま、減速して湖へと近づいていく。
「わきゃ~ん! みんな、元気だったさ~?」
そんなドワーフちゃんたちに、偉い人ちゃんが声をかけて手を振る。
そしたらですね。
「わきゃ! みつけたさ~!」
「ぶじだったさ~!」
「さがしたさ~!」
「おうちにいってもいないから、めっちゃくちゃしんぱいしたさ~!」
わっきゃわきゃとドワーフちゃんが集まってくるわけですよ。
もうなんか、みんなすっごい心配してたようでねこれが。
明らかに、行方不明になってた偉い人ちゃんを、探していたでござるよ。
「み、みんな。心配かけて、ごめんなさいさ~!」
「どこいってたのさ~!」
「うちら、アレしちゃったんじゃないかとおもって、しんぱいでしんぱいで……」
「みんなで、さがしてたのさ~」
「というか、なんかまえより、キラッキラしてきれいになってるさ~?」
囲まれて平謝りの偉い人ちゃんだけど、彼女は別に悪くなかったり。
冬眠中の彼女をさらってきたのは、うちの村だからね。
ほんとごめんなさい……。
ちなみに、偉い人ちゃんがキラッキラして綺麗になっているのは、キジムナー火とか塩サウナのお蔭ですな。
「というか、なんだかヤバそうなのと、いっしょにいるさ~?」
「でっかいいきもの、たくさんさ~?」
「うちら、たべられちゃうさ~!?」
申し訳ない気持ちでいっぱいになっていると、現地民の方が俺たちに気づいた。
というか最初っから丸見えだったのだけど、気づくの遅くない?
「うちらは、しってるさ~。あぶなくないさ~」
「そうなのさ~?」
「たすけてもらったってはなし、したさ~」
「わきゃ! あのおはなしの、アレさ~!?」
しかし、お引っ越し組の方々がすぐさま説明してくれて、混乱は治まった。
そりゃそうか。ゴムボートとか食料とかいっぱい提供したから、それを知らない子たちに「これは何?」とか聞かれているよね。
なんにせよ、話がスムースで助かると言う物だ。
しかし説明ゼロだとまずそうだから、こっちからも顛末を報告しておこう。
それが、偉い人ちゃんを長いことお借りしていた、俺たちの義務だからね。
「えっとですね、実は、こんな事がありまして――」
そうして現地民ちゃんたちに、色々な出来事を説明する。
偉い人ちゃんが、寝ている間にちたまに連れてこられてしまったこと。
旅行を通じて、青ウロコ問題が解決したとかも。
さらに造船問題を解消出来るお話や、アダマンカイロを開発したりの出来事などを話した時は、歓声が上がった。
やはり、深刻な問題だったようで。解決の目処が立ったなら、そりゃ嬉しいよね。
ただこれらの問題解決に取り組むに当たり、夜の時期も冬眠しないで活動する組織が必要という部分は一朝一夕には行かない。
これから時間をかけて、組織作りをしていこうって感じで締めくくった。
「なんだか、いろんなことがおきてたっぽいさ~」
「あこがれのフネ、もてるかもしれないさ~」
「アダマンカイロ、なんだかすごそうさ~」
「わきゃ~」
これらの説明を聞いて、ドワーフちゃんたちわっきゃわきゃだね。
すぐにって訳にはいかないけど、着実に取り組んでいこう。
「こまかいお話や、どうすれば良いかは、こっちの子たちとうちが詳細詰めておくさ~」
「それはありがたいですね。お任せしちゃいます」
「まかせるさ~」
偉い人ちゃんは為政者なだけに、ドワーフィンで必要となる細かい説明やら決めごとは、やっておいてくれるそうだ。
ありがたく丸投げしよう。
「大体は、こんな所ですかね」
「そんなとこさ~」
――さて、説明も終わり、偉い人ちゃんも無事送り届けた。
あとは支援物資を渡したら、俺たちは村に帰ろう。
こっちの子たちとも交流会はしたいけど、まだドワーフィンは夜が明けたばかりだ。
早朝にどんちゃんやるもんじゃないからね。
お昼の時期になったら、また何か企画しようと思う。
「こっちの活動が活発になる時期が来たら、交流会をしましょう。それまでは、ぼちぼち連絡を取り合って事業を詰めたりとかですね」
「それで、問題ないさ~」
偉い人ちゃんもそれで良いようだから、連絡を取り合って計画を詰めていこう。
ネコちゃん便を飛ばしたり、妖精さんたちの力を借りれば、ある程度の通信は出来るからね。
それじゃあ、今後の方針も合意が採れたところで、物資を渡してお暇しようか。
「では、私たちはそろそろお暇します。どうぞ、こちらの物資を有効活用して下さい」
「ありがとうさ~」
「わきゃ~、ごむぼーと、たくさんあるさ~」
「これ、べんりなのさ~」
「かんづめも、あるさ~!」
「おさけ! おさけさ~!」
中型トラック一台分の物資を持ってきたので、どどんと進呈しておく。
いわゆる賄賂なんだけど、これから色々と力を借りるから、今のうちに投資しておくって感じだね。
ドワーフィンにあるアダマンや鉱石および貴金属、ほかにも食糧資源などを提供してもらうこともあるだろう。
なにより、灰化の調査も手伝って貰いたいし、エルフィンやフェアリンの天体観測だってこっちで出来る。
そういうときに、彼女たちの力が必要だ。
「またなにか、相談したいことが出来たらお願いします」
「わかったさ~」
「えんりょなくいってほしいさ~」
「おんを、かえすさ~」
「がんばるさ~」
それとなく協力をお願いすると、みなさん快く引き受けてくれた。
ふふふ……俺は人使いが荒い男なのだよ。
みんな、楽しみにしててね。ふふふふふふ……。
「あや~、わるいおとなが、いるです~」
「いつもの大志さんですね」
「わきゃ~ん、これからどうなるか、なんとなく分かったさ~」
「タダよりたかいものはないよね! ないよね!」
ちょっ! みんなして俺をどういう目で見てるのさ。
まさにその通りでござるよ。ふふふふ……。
まあ、悪巧みはこれくらいにしとこう。
そろそろ、村に帰らないとね。あっちはあっちで、やらなきゃいけない仕事がいくつかある。
また時間が出来たら、ドワーフィンに遊びに来よう。
「それでは、私たちは村に帰りますね。定期的に、ネコちゃん便を飛ばしますので」
「わきゃ~ん、連絡、まってるさ~」
「時間が出来たら、顔を出しますね」
「あそびにくるです~」
「楽しみさ~」
そうして帰還を切り出し、みんなでゴムボートに乗り込む。
あとは、村に繋がる洞窟へと、進むだけだ。
「みなさん、これからよろしくお願いします」
「いっしょに、いろいろやるです~」
「また来ますね!」
最後に別れの挨拶をし、海竜たちに出発進行をお願いしよう。
「海竜ちゃんたち、出発しよう」
「がうが~う!」
「ぎゃう~!」
彼らの元気なお返事と共に、ボートが動き始めた。
俺たちは、見送りドワーフちゃんたちに手を振りながら、大河を進んでいく。
「いろいろ、ありがとうさ~。みんなのおかげで、うちは助かったさ~!」
「うちらも、おせわになったさ~!」
「こんど、いっしょにおまつり、しようさ~!」
「フネづくり、きょうりょくするさ~!」
だんだんと小さくなっていく、偉い人ちゃんや現地の子たち。
一生懸命手を振って、しっぽも振っている。
それは俺たちが見えなくなるまで、ずっと、ずっと続いていた。
さようなら、偉い人ちゃん。
また会う日まで、元気でいてね。
◇
ここはとある世界の、とある湖。
大志たちを見送った偉い人ちゃんは、お目々うるうる状態でした。
「わ、わきゃ~ん……行っちゃったさ~」
みんなが居る間は、にこやかに振る舞っていた偉い人ちゃんですが……。
やっぱり彼女も、さみしいみたいです。
大志たちと過ごしたこの数ヶ月間は、偉い人ちゃんにとって人生でも濃密な時間でした。
それが今、終わりを迎えたのです。
「元気、出すさ~」
「また会えるさ~」
「遊びに来るって、言ってたさ~」
その姿を見た、偉い人ちゃんを昔から知っている子たちは、背中をさすって慰めます。
子供の頃からお世話をして、自分の子供のように思っていますからね。
お母さんのように、偉い人ちゃんに寄り添ってあげています。
みんなに大事にされて、育ってきたのですね。
「わきゃ~ん!」
大志たちの前ではこらえていた物が、目から止めどなく溢れて来ました。
家族のような人たちに囲まれて、気が緩んだのでしょう。
偉い人ちゃんの涙腺は割ともろいですが、今回は良くがんばりました!
しばらくは、思いっきりこらえた何かを流しましょう。
「いい人たち、だったさ~。色々良くしてもらったさ~……」
偉い人ちゃん、ぐしぐしと思い出を振り返ります。
そして、空を見上げました。
「あれが、エルフィン……」
お空にまだ輝いている、大きなお月様を見ています。
昨日送別会をしてもらい、大志と二人で過ごした世界が、そこにありました。
遠く遠く、遥かな空の上に……。
「簡単には、いけない場所さ~……」
偉い人ちゃんは、改めてその距離の遠さを認識します。
かつてはそこで、過ごしていたこともあったのだと。
「わきゃ~ん」
距離の遠さを思い、またまたお目々から、ぐしぐし溢れ出してしまいます。
それは、しばらくの間続いたのでした。
大志や村のみんな、また偉い人ちゃんに会いに来てあげてね。
彼女はきっと……待ってますよ。
◇
「……これで、一つのお仕事が終わったね」
「さみしくなっちゃうですね~……」
「なんだかんだで、一緒に行動することが多かったですものね」
周囲が静かになり、さっきまで一緒にいた偉い人ちゃんも、もうここには居ない。
そのさみしさを、みんなで実感する。
「私も、計算のお仕事や村の運営で、色々お世話になりました。さみしいですね」
「きさくで、あかるいひとでした」
「いいひとだったね! いいひと!」
「うちらも、いろいろおしえてもらったさ~」
「わきゃ~」
ヤナさんとカナさん、妖精さんたちやドワーフちゃんたちも、色々お世話になっていたようだ。
さすが偉い人だけあって、きちんと交流を欠かさなかった感じだ。
大事な大事な、村の仲間だったね。
でもまあ、元の世界にお返ししたとは言え、村とあの湖はそう遠くない距離なわけだ。
ぶっちゃけ、直線距離で東京から小田原くらいしかない。
海竜たちの力を借りれば、あっさり行けるし来れちゃうんだよな。
「というか、造船の打ち合わせとかいう理由付けて、また村に連れてきちゃえば良いよね」
「ですね~」
「日帰り出来ますから、時間的にも大丈夫ですね」
「そうだね! そうだね!」
「おしごとだから、なんのもんだいも、ないさ~」
というわけで、偉い人ちゃん連れてきちゃおう計画も立てておこう。
ふふふふ……俺たちと関わったが最後、とことん振り回すからね!
これにて、今章は終了となります。みなさま、長いお話にお付き合い頂きありがとうございます。
次章も引き続き、気長にお付き合い頂ければ幸いです。
ちなみに。
行動範囲の狭い(ひきこもりがちな)偉い人ちゃんと、行動範囲広すぎの大志とで、距離に対する感覚に大きな差異があります。
大志の感覚だと八十キロメートルはお散歩感覚で移動できる距離ですが、偉い人ちゃんにとっては徒歩で東京から大阪くらいの感覚でござる。
そら、大志は「まあ近いし、ちょくちょく顔を出そう」だけど、偉い人ちゃんは「自力でのちたま訪問が不可能」ですからうるうるするのも当然という物ですね。
単に偉い人ちゃんの運動不足とも言います。