第十八話 ドワーフィンとの接続
(つながったよ~)
ドワーフィンの夜間経済停止問題に気づき、対策を考えたところで……謎の声からこんなオラクルが。
まさか?
「あえ? タイシ! なんかつながったみたいです~!」
ハナちゃんもこの怪電波を受信したようで、もこもこぴょんぴょんしながら、大慌てで教えてくれる。
「ハナちゃん、それほんと?」
「あい~! なんかきこえたです~!」
俺とハナちゃんの二人がキャッチしたということは、間違いなさそうだ。
うちの子が、何かを感知したんだ!
「わきゃん? ふたりとも、どうしたのさ~?」
俺たちの慌てようとは裏腹に、謎の声を受信できない偉い人ちゃんは首をかしげている。
確認は出来ていないので、俺たちもはっきりとは言えない。
ただ、もしかしたら……。
「……まだ確定ではありませんが、門が、つながったかもしれません」
「わきゃん!? ほんとさ~!?」
「はっきりしたことはまだ言えませんが、確認はしましょう」
「わかったさ~!」
「かくにんするです~!」
そうして三人で大騒ぎしていると――。
(つながった! つながった~!)
神輿が、ぴっかぴかに光りながら、ばびゅんと飛んできた!
謎の声も、しきりにつながったと言っている。
「ほんとです!?」
(ほんと~!)
(なんか、すごいかんじだね!)
あ、オレンジちゃんもほよほよ飛んできた。凄い感じらしい。
ともあれ、急いで洞窟に行ってみよう!
二人を抱えて、ダッシュだ。
「二人とも、自分が抱えるからおいでませ」
「あい~」
「わきゃ~ん、おねがいするさ~」
「ギニャニャ」
「ニャ~」
ハナちゃんと偉い人ちゃんを両手に抱え、移動準備完了だ。
フクロイヌたちは、なぜか俺に巻き付いてきた。ふわふわで暖かい。すてき!
という感じで全員を抱え込みダッシュで行くことにする。
(いっしょにいく~)
(わたしも!)
あ、神輿が俺の頭にひっついて、オレンジちゃんはポケットにインした。
神様ズも、一緒に行くのね。
まあとりあえず、洞窟に行ってみよう!
「ぴっぴ~」
「ぴぴぴぴ~」
「ぴち」
手を振ったり、葉っぱをぷるぷるさせるワサビちゃんたちの見送りを受け、いざ出陣。
二人を怖がらせないよう、それなりの速度で走り出す。
「洞窟! 洞窟がつながったみたいですよ!」
「え? まじで?」
「いきなりとか、ふるえる」
「おれらもいくべ!」
「わきゃ? どうしたのさ~?」
道中、遭遇した村人に洞窟の門が開いたと声をかけながら、走って行く。
きれいに雪かきがしてあって、とても走りやすい。
みんなのおかげだね!
「あや~! タイシはやいですね~!」
「わきゃ~ん! これはすごいさ~!」
抱えているハナちゃんと偉い人ちゃん、なんだか大喜び。
そうして大騒ぎしながら移動し、洞窟に到着!
ドワーフィンに行きたいと念じながら、のぞき込む。
「……どうやら、行けそうだ」
「おくが、みえないですね~」
「わきゃ~ん、いままでと、ちがうかんじさ~」
果たしてそこには、奥深く続く道が見えた。
これは……繋がっているな。
門をくぐり抜けて、ドワーフィンに行けるか確かめないと。
「ちょっと、あっちまで行ってみようか」
「そうするです~」
「どきどき、するさ~」
(いってみよ~)
(わくわくするね!)
みんなに確認を取ると、オーケーが出た。
ではでは、ちょっくら行ってみましょう!
「とりあえずこのまま行くね」
「あい~」
「らくちんさ~」
(おせわになります~)
(わくわくするね!)
「ギニャ~」
「ニャ~」
ひとまずみんなを抱えたまま、洞窟へとインする。
(ひかっとくよ~)
(わたしも!)
中に入ると、神輿とオレンジちゃんが光ってくれた。あら便利。
懐中電灯持ってこなかったけど、神様たちのおかげで明るいよ。
「神様たち、ありがとうございます。流石ですね」
「ありがとです~」
「あかるいさ~」
(それほどでも~)
(ほめられちった!)
お礼を言うと、てれてれ神輿とてれてれオレンジちゃんの完成だ。
可愛らしい神様たちだね!
「あれ? 暖かくなってきたね」
「あや~、あせかいてきたです~」
「わきゃ~ん、いいかんじさ~」
そうして神様たちが照らす中、奥に進むにつれ……どんどん気温が上がってくる。
これは……ドワーフィンの、あの感じだ。
「なつかしいかんじ、するさ~」
偉い人ちゃんもそれを感じ取ったのか、黄色っぽいしっぽをぱたぱた降り始める。
彼女の故郷の香りが、そこにあるからなのだろうか。
そのまま慎重に洞窟を進んでいき――光が、見えてきた。
「あや! タイシタイシ~! でぐちっぽいです~!」
「わきゃ~ん! ほんとさ~!」
出口っぽいそれをみて、ハナちゃんと偉い人ちゃん大はしゃぎだ。
俺も心なしか足早になってしまう。早く、早くあの先を見てみたい。
本当に、ドワーフィンがそこにあるのか、確かめたい。
そのままスタスタと歩いて行き、とうとう、出口をくぐり抜ける。
――そこは、空が白み始めていた。
もう、夜では無い。朝焼けの輝く、夜明けの世界。
しかし確かに、見覚えがある。
間違いない、ドワーフィンだ!
「わきゃ~ん! とうとう、かえってきたさ~!」
「つながったです~!」
(やったね~)
(おつかれ!)
「ギニャ」
「ニャ~」
偉い人ちゃんとハナちゃん、朝焼けのドワーフィンを見てハイタッチ。
神輿とオレンジちゃんも、俺たちの回りをくるくる飛び回る。
フクロイヌたちは、相変わらず俺に巻き付いているね。
「……とうとう、繋がったんだね」
「あい~!」
「やったさ~!」
なんとも言えない実感が、こみ上げてくる。
とうとう、とうとうドワーフィンに関わる問題解決の道を、見つけたと言うことなのだから。
俺たちが一生懸命考えたあの計画で、この世界の手助けが出来るのだ。
これから、始まる。ドワーフィンの改革が。
……ただ、俺はそれに少しのさみしさを感じていた。
「あえ? タイシどうしたです?」
「なにか、もんだいがあったさ~?」
顔には出していないのだけど、ハナちゃんと偉い人ちゃんは、何かを感じ取ったようだ。
でもまあ、今はまだ言う必要は無い。
というか、この雰囲気では言えないよね。
もうすぐ――偉い人ちゃんとの、別れがあるなんてことは。
「つながったから、おいわいしないとですね~」
「それはいいさ~! おまつりするさ~!」
(おそなえもの~)
(たのしみだね!)
本人はまだ気づいていないようだけど、あなたは偉い人なわけですよ。
何時までもこの村に居たら、あっちの子たちが困ってしまう。
近いうち、彼女を必要としている人たちの元へと……お返ししないといけないのだ。
「わきゃ~ん」
偉い人ちゃんを見送る、その日は……そう遠くない。
◇
「というわけで、ドワーフィンへ行けるようになりました!」
「「「わきゃー!」」」
ひとまず集会場にみんなを集め、結果報告をする。
ドワーフちゃんたち、いきなりの事でわっきゃわきゃだね。
「とうとう、門が繋がったのですね!」
「そうだね。いきなりでびっくりしたよ」
「私も電話で話を聞いてびっくりですよ!」
ユキちゃんも門が繋がったと聞いて、慌てて駆けつけてくれた。
お父さん運転のレオーネにて、速攻到着である。
ただ、雪かきで疲れているのか、毛並みはちょっとヘロヘロだ。
一体どんな戦いがあったのだ……。
「大志、とうとうやったな」
「それなりに早かったな」
「なんとかなって、ほっとしているよ。ただ、本当のスタートはこれからかな」
「違いない」
「そうだな」
親父と高橋さんも駆けつけて、門の開通を喜んでくれた。
ただこれで終わりではなく、ようやく始まるのだ。
だが、これで今ドワーフィンが直面している問題は対処可能ということである。
「造船や蒸留酒からのメタノール除去の啓蒙、アダマンカイロや光るお酒を使って夜間活動など。これらを以て、みなさんの世界は大きく改革されます」
「いろいろ、ひつようさ~!」
「これだけあれば、できそうさ~!」
「フネがだれでも、もてるようになるさ~!」
一通り揃ったドワーフィン改革方針を話すと、やる気十分な感じで答えてくれた。
みんな湖が灰化して難民となった身であるだけに、これらの方策があればどれほど救われるかを身に染みて理解している。
やらない理由は無いわけだね。
それじゃあ、俺からのお願いをしよう。
「みなさんには、これら方策を実現するために活動をお願いしたいのです」
「もちろん、がんばるさ~」
「やるっきゃないさ~」
「わきゃ~」
これもみんなやる気十分だね。あらかじめ造船やらアダマンカイロやら説明してあったから、話は早い。
あとは門が開けばって状態だったので、自分たちが何のために努力してきたか、ちゃんと理解している。
「タイシタイシ、ぐたいてきには、どうするです?」
「わきゃ~ん、ウチらは、なにをすればいいさ~?」
「それらの方針は、決めていなかったですよね」
ここで冷静なご意見が、ハナちゃんと偉い人ちゃん、あとユキちゃんから出てきた。
具体的にドワーフちゃんたちは何をすれば良いか、実現方式だね。
ざっくりとは考えてあるから、説明しよう。
「えっとね、基本的には船の販売を営業しながら、アダマンカイロの製造と運用法を広めたり、蒸留酒のメタノール除去を啓蒙したりを考えているかな」
村で暮らしているドワーフちゃんたちには、主に営業活動に取り組んで頂きたい。
船が沢山作れるよ、買わない? と外交しまくるのである。
それと一緒に、カイロを販売したり作り方を教えたり、蒸留酒はそのままだと問題あるよって啓蒙活動もしてしまう。
船販売を基軸として、付帯した形でその他方策も同時にやってしまうわけだ。
「あとは、ヤナさん製造の白く光るお酒の量産ですか。主に光源として使います」
「あれ……失敗作なんですけど……」
「え? 失敗したやつなのですか?」
続いて光るお酒について触れたら、ヤナさんが微妙な表情で答えた。
失敗したやつなの?
「しっぱいしたやつなんだ! なかまだね! なかま!」
そしてイトカワちゃんが、失敗したやつというキーワードに反応して、キラッキラした。
……まあ確かに、どうしてそうなるのか分からない点では、仲間かも?
お酒が光る理由もわからなければ、お醤油がチョコ味に変化する仕組みも分からない。
謎食品を作れる技術は、ほんと凄いよね。
なお、見た目には触れないことにする。
とまあ、それは良いとして。
「あえ? おとうさん、しっぱいしたやつ、あんなとこにおいといたです?」
「失敗したやつだから、棚の奥にしまって隠しておいたんだよ」
「おもいっきりひかってたので、かくせてないです?」
「うう……」
「ヤナったら、あのへんにもてあましたもの、ぜんぶしまいこむんだもの。おかたづけしましょう」
「はい……」
ハナちゃんとヤナさんの会話からすると、どうやら失敗作を隠していたようだ。
それをハナちゃんが発掘してしまったわけだね。
カナさんからも、お小言を頂いている。ヤナさんがんばれ!
おっと、そんな家族のほのぼの光景は和むけど、白く光るお酒をどう作るかは聞いておかないと。
「あの白く光るお酒は、再現可能ですか?」
「それは出来ますね。配合は全部書き残してありますので」
「おお、それは凄い。さすがはヤナさんです」
「そう言って頂けると……。まあ、養命お酒をマネしようと、薬用酒を試作したらあんな感じになってしまったのですけど」
なんと、ヤナさん養命お酒のパチものを作ろうとしてたのか。
それがなんで白く光るやつになったのかは、謎である。
「薬用酒なので、『ゴッゴガ』て味でキツいんです。なので厳しいかなって」
続けて説明してくれたけど、美味しくは無いらしい。
……「ゴッゴガ」という味の表現を聞くと、飲まないのが正解のようだ。
ただ、薬用酒って大体そんなんだよね。これを改善するには……。
「……水飴をドバっと入れると、まあ飲めるやつにはなるかもですよ」
「あ! それ試してみます!」
「いやなよかんが、するです~」
まあ、光源にするので味はひとまず気にしないでおこう。
というか、何の話をしてたんだっけ?
「それで大志、ドワーフのみなさんに営業してもらうとして、あっちに帰還させちゃうのか?」
あ、親父が軌道修正してくれた。いつもありがとう!
そしてドワーフちゃんたちの身の振り方だね。
これについては……。
「ドワーフちゃんたちは、基本的には今まで通り……ちたまで暮らして欲しいな」
「拠点はここで、ドワーフィンに出張するって感じか?」
「そうだね。だって、そもそもこっちに家や居住区があるわけだし」
「まあ、それもそうか」
妖精さんたちの時は、いったん全員でフェアリンに赴き、治療活動に専念してもらった。
これは彼女たちがフリーダムだから、可能だった事なんだよね。
何処にでも飛んでいけるし、お花があれば何処でも暮らせる。
そんな自由さがあるのに、全員ちたまに帰ってきてくれたのは、とても嬉しかった。
……まさかこんなに増えるとは思っていなかったけど。
いっそう賑やかになって楽しいね!
「きゃい?」
「おうさま! おうさま!」
「おだんごどうぞ! おだんご!」
ふと妖精さんたちをみると、きゃいっきゃいでお団子をくれた。
あらやだ、見る間にキロ単位で増えていくわ。物量はジャスティスだね!
そんな感じでおやつが出現したので、つまみながら続きを話そう。
「みんなのお家はここにあるので、好きなだけ暮らして欲しい。そしてここから、ドワーフィンの各地へ出張って感じだね」
「うちらも、それがいいさ~」
「こっちで、くらしたいさ~」
「サウナもおんせんもあるし、さいこうさ~」
ドワーフちゃんたちは、妖精さんほどフリーダムに移動も生活も出来ない。
お家と居住区があるちたまををベースにしないと、暮らしていけないわけだね。
あと、問題解決したからさよならなんて、俺はしたくない。
せっかく共に暮らしているのだから、好きなだけこの村にいて欲しいのだ。
「わきゃ~ん。まずは、ウチのところのみずうみで、フネのはんばいをするさ~」
「おてつだいするさ~」
「たくさん、フネをうるのさ~」
最初の活動としては、偉い人ちゃんが提案してくれた。
まずはお隣の湖にて船を売りまくろう。初めは小さく、エルフ重工の体制を構築しながら、ぼちぼちと進めて行きたい。
「お隣の湖なら、海竜にお願い出来れば……かかっても三時間から四時間で行けますね」
「そうなのさ~」
移動が無理って距離でもなく、むしろとっても近い部類だ。
最初の活動をするにも、ちょうど良い。
ドワーフちゃんたちも、通勤が出来る距離でもある。
毎日ってのは厳しいけど、二泊三日の出張って感じなら、無理は無いだろう。
あっちに事務所みたいなのを作ってしまえば、負担も減らせるね。
「お隣の湖に、事務所を作って活動してもらいましょう」
「それがいいさ~」
そうして、どんどん話がまとまっていく。
基本的にドワーフちゃんは、通勤するって感じで話が進む。
ただ、どうしてもお返ししないといけない方は存在するわけだ。
そろそろ……言いにくいけど、話さなくてはならない。
「それで、貴方だけは帰還する必要がありますが……」
偉い人ちゃんだけは、こっちに定住することが出来ない。
なぜなら、トップだからだ。あっちの湖で必要とされている、要人である。
……その要人を振り回しまくった俺たちだけど、そろそろお返しする時なのだ。
なお振り回した件については、特に反省はしていない。
「あわきゃ~ん……、たちばてきに、そうするしかないさ~」
「さみしいです~」
「私もですよ」
「わきゃ~ん……」
帰還が必要なのは彼女も分かっていて、しょんぼりしてしまった。
ハナちゃんはとっても寂しそうで、ユキちゃんも同じ顔。もちろん俺も同様に寂しい。
しかし、彼女には彼女の仕事がある。俺たちは、それを支えて行きたい。
偉い人ちゃんだって、大事な村の仲間なのだから。
「……まあ、帰還の時期はまた相談するとしましょう」
「わきゃ~ん……そうするさ~」
「そのときは、そうべつかいするです~」
「せいだいに、やろうさ~!」
「お料理、沢山作りますよ!」
ハナちゃんの言うとおり、偉い人ちゃんの帰還時には、送別会をしよう。
あと数日で年越しなので、お別れは新年になってからかな?
ともあれ、ドワーフィンとの門は繋がった。
もう後戻りは出来ない。前に進むだけだ。