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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第二十二章 冬への備えは
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第十七話 見落としていた大事な事


 ここはとある世界の、とあるワサビちゃん畑。

 大雪が降る中、彼らが大好きなLED街頭はソーラーパネルに雪が積もって光りません。

 しかし――。


「ぴっぴ~!」

「ぴぴぴぴぴ」

「ぴち~!」


 なぜだか、畑は歓喜に包まれていました。

 何か光るものを囲んで、ワサビちゃんたちぴっぴとご機嫌です。


「うふ~、上手くいったです~!」

「ぴち~」

「ぴっぴぴ~!」

「ぴぴ!」


 その光るものの傍らには、ハナちゃんもご機嫌で立っていますね。

 どうやらハナちゃんが、何かをしたようです。

 さてさて、どんな対処をしたのかな?



 ◇



 担当者さんの報告を受けた翌日、村へと顔を出す。

 昨日は大雪だったけど、ヤナさんからの連絡では、特に問題ないとは聞いていた。

 でもまあ、この目で確認はしておかないとね。


 空模様もどんより曇りで外はやや暗く、今にも降り出しそうでもある。

 念のため確認しておくのは、無駄では無いからね。

 というわけで、車を走らせ村へと到着!

 駐車場はきれいに雪かきされており、エルフたちがしっかり村を管理しているのが良く分かる。

 とっても助かるね。通路もちゃんと作ってあるので、大雪でも問題なく過ごせているようだ。


「タイシタイシ~、おかえりです~!」

「ギニャ~」

「きのうは、すごいおおゆきだったさ~」

「ニャ~」


 よく管理されていることに安心しながら車を降りると、すぐにハナちゃんと偉い人ちゃんが出迎えてくれた。

 ……と言うか、二人ともフクロイヌ襟巻きをしている。

 すっごいあったかそうだ。


「二人とも、あったかそうだよ」

「ぬっくぬくです~」

「カイロとフクロイヌで、ぜんぜんさむくないさ~」

「ギニャ~」

「ニャ~」


 どうもアダマンカイロとフクロイヌ襟巻きを併用して、この極寒の季節をぬくぬくと過ごせているようだ。

 フクロイヌも、構ってもらえてご機嫌な感じ。

 楽しそうで、何よりだ。


「ちなみにユキちゃんは、自宅の雪かきで来れないよ」

「あや~、きのうはたくさんつもったですからね~」

「たいへんそうさ~」


 家を出る前に電話をかけてお誘いしたら、暗い声で「家の……雪かきがありまして……」と返答があった。

 心底嫌そうな感じだったけど、雪国だからしょうがない。

 俺も朝五時から起きて、家の周りとお隣さんところ全部きれいにしたからね。

 温度が上がって雪が溶け出す前に片付けないと、待ち受けるのは地獄だ。

 ずっしりと重くなるんだよあれ。

 さらに、そのままさぼって時間が経ち、凍りついてしまったらエンドだ。こいつは春まで溶けない障害となってしまう。

 そうなるともはや雪かきではなく、巨大な氷のブロックを粉砕するという戦いが始まる。

 雪は積もったら即座に除去する、これが鉄則だ。


「ともあれ、村は大丈夫だった?」

「あや~、ちょっとおもしろいことは、あったですよ~」

「……面白いこと?」

「あい~」


 村の様子を確認したら、ハナちゃんから面白いことがあったと報告があった。

 なんだろう?


「ひとまず暖かい集会場で、お話しようか」

「そうするです~」

「ウチも、おつきあいするさ~」


 極寒の中立ち話もあれなので、暖かい集会場でお話を聞くことにしよう。

 さて、どんな面白いことがあったのかな?


「しゅうかいじょう、いくですよ~」

「ギニャニャ~」


 早速ハナちゃん先導にて、ご機嫌フクロイヌの歌と共に集会場へ向かう。


「かっこいい~」

「あ、いつも雪かきありがとうございます」

「いえいえ、しゅみですので」


 道中メカ好きさんが除雪機で雪かきするのを励ましながら、無事到着。

 それでは、お茶を飲みながらお話しましょうか。


「はい二人とも、お茶をどうぞ」

「ありがとです~」

「わきゃ~ん、ありがとさ~」


 二人にお茶を出して、あとはフクロイヌたちだね。


「こっちはおやつジャーキーだよ。美味しいよ」

「ギニャ~ニャ」

「ニャ~」


 フクロイヌたちにはジャーキーをあげると、大喜びでがじがじかじり始めた。

 ゆっくり楽しんでね。

 それでは、ハナちゃんから何があったか聞こう。


「それで、ハナちゃんはどんな面白体験したのかな?」

「えっとですね~、ワサビちゃんのことですよ~」

「ワサビちゃん?」


 ワサビちゃんがどうしたのだろう?

 何かあったのかな?


「何かあったの?」

「あい。ゆきがつもってひかるやつがうごかないから、はたけからでてきたです~」

「あ、またあったんだ」

「あい~」


 どうやら、ワサビちゃんがSOSを出したようだ。

 しかしソーラーパネルに雪が積もるのは、ある程度どうしようもない。

 その辺はごめんなさいだね。自然というものは、ままならないものでして。


「それで、ひかるやつをかわりにおいたら、おおよろこびだったです~」


 ん? 光るやつを代わりに置いた?

 俺が去年やったように、懐中電灯でも使ったのかな?


「手で持てる光るやつを使ったの?」

「それはでんちがなくてつかえなかったから、おとうさんがつくってたやつを、つかったです~」

「……ヤナさんが作ってたやつ? 何それ」


 なんか懐中電灯は使えなかったようで、別のものを使ったようだ。

 それも、ヤナさんが作ってたやつとな。

 それは一体、何だろう?


「それって何かな?」

「あれですあれ、ひかるおさけです~」

「あ! あれか!」


 ハナちゃんは、エルフ特製光っちゃうお酒を光源につかったのか。

 確かにアレ、なんだか光るんだよね。

 そうか、あの光はワサビちゃんでも大丈夫なんだ。

 ……でも、あれなんで光るか、いまだにわかんないんだけど。

 エルフたちも、光る理由は全く分からないという。そんなのを、平気で飲んでるんだぜ。みんな。

 まあ俺も飲んでるけど。だって美味しいんだもん。


「わきゃ~ん、あのひかるやつ~? あれ、おいしくてすぐにのんじゃったさ~」


 偉い人ちゃんも、あのエルフシャイニングリキュールの存在は知っているね。

 お引っ越し大作戦の時、賄賂で渡したから。

 どうやら貰ってすぐに飲んでしまったらしい。

 たしかにあれ、見た目とは裏腹に美味しいからね。

 最初のハードルを越えてしまえば、抵抗はなくなる。


「あのおさけ、ろうかとかにおいといたら、よるもあんぜんですね~」


 ハナちゃんは自分の試みが上手くいって、ご機嫌だね。

 エルフ耳をぴっこぴこさせて、うふうふ状態だ。

 緊急用の光源ではなく、常夜灯に使おうとも考えているみたいだ。

 確かにそれ、使えそうだよ。


「うふ~。いいもの、みつけちゃったです~」


 ……しかしまあ、お酒を光源に使うとか、なかなかチャレンジャーである。

 その冒険心をたたえて、褒め倒しちゃおう!


「ハナちゃんすごいね! お酒を明かりの代わりに使うとか、普通思わないよ。頭撫でちゃう」

「うふ~」

「流石ハナハ先生、やりくり上手! 頼もしいね!」

「うきゃ~」

「先生が色々解決してくれるから、自分も頼りがいがあるよ」

「ぐふ~」


 褒め倒して頭なでなでしていたら、程なく無事ぐんにゃりと軟体化するハナハ先生である。

 柔軟性あるね!

 とまあ、無事ぐんにゃりハナちゃんになって貰った所でだ。


 よくよく考えてみると、ハナちゃんの捉え方は俺たちとは違っていた。

 俺たち大人は、エルフ製造の光っちゃう謎液体を、お酒として愉しんでいる。

 出来たらすぐに飲んじゃうし、お酒はお酒として扱っていたわけだ。

 しかしハナちゃんは子供なので、お酒を飲むことが出来ない。

 そんな彼女にとっては、アレは便利な光源として捉えられたわけだ。

 子供ならではの、素直な発想が奏功したんだな。


「あのお酒を、光源に使う、か……」

「ぐふふ~」


 ぽつりとつぶやくと、ハナちゃんまた褒めてもらえると思ったのか、ぐんにゃり状態のままこっちに転がってきた。

 頭なでなでしておこう。


「ぐふふふふ~」

「わきゃ~ん、さっきよりぐんにゃりしてるさ~」

「ギニャ~」

「ニャ~」


 より一層軟体化したけど、幸せそうで何よりだ。

 黒いふわふわさんたちも、便乗して撫でてもらいに集まってきたりも。

 そんなハナちゃんやフクロイヌたちの頭を撫でながら、ちょっくら思考を深めてみる。


 ヤナさん製造の、棚の奥にしまってあった光るやつ。

 あれは、よくよく考えてみれば……電気も必要としない、凄い光源だ。

 食品だとはちょっと考えたくないくらいの光を出していて、本くらいなら余裕で読める。

 ただ、ひとつ問題があるんだよね。


「ただまあ、色がちょっとね」

「けっこうどきつい、へんないろでひかってたさ~」


 そう、光の色が問題だ。蛍光ピンクとか緑とか黄色とか、ヤバイ色なんだよね。

 サイケデリックな輝きなのだ。


「あえ? いろがダメですか?」


 色について残念に思っていると、ハナちゃんがしゃきっと復活した。

 問題点を指摘されたら、すぐさま確認する偉い子だね。

 それじゃあ、俺が考えている懸念点をお話してみよう。


「あのお酒が光る色って、桃色とか緑とかだからね。目が痛くなるかなって」

「あや? おうちにあったの、ひかりはしろかったですよ?」


 え? 今なんて?


「ハナちゃん、今なんて?」

「しろかったですよ?」

「なんですと?」


 あれ? 俺の知っているエルフシャイニング的液体、サイケな光だったけど。

 いつの間に白くなってるの?


「……それって、今確認することはできる?」

「ワサビちゃんはたけにいけば、まだおいてあるですよ~」

「ちょっと、行ってみよう」

「あい~」

「ウチも、いくさ~」


 白いと聞いて、好奇心がかき立てられた。

 急いで防寒具を着込み、フクロイヌ襟巻きをしてもらって外に出る。

 もちろんアダマンカイロも装備して、ぽっかぽか状態の万全装備でだ。

 そうして三人とフクロイヌたちとで、いそいそもこもことワサビちゃん農園へと足を運ぶ。

 すると――。


「ぴぴぴぴっぴぴ~」

「ぴぴぴぴ」

「ぴち~」


 ワサビちゃんたちが、こんな時間なのに歩き回っていた。

 まあ今日はちょっと薄暗いから、太陽の光でおろろろーん! とはならないのだろう。

 それはそれとして、彼らは何かの周りではしゃいでいる。


「タイシ、あれですあれ~。しろいやつですよ~」


 ぴぴっとはしゃぐワサビちゃんたちを見ていると、ハナちゃんがその中心部を指さした。

 そこには、梅酒をつけるときに使うあのガラス容器が置いてあった。

 容量四リットルも入る、でかいやつだ。

 ……ハナちゃん、あれを抱えてここまで来たのか。

 ちいさいのに、力持ちだね!


 とまあ、ハナちゃん力持ちなのは凄いとして。

 問題は、その内容物だ。白いやつなんだよね?

 ワサビちゃんが群がっていて、よく見えない。

 もうちょっと、近づいて見てみよう。


「ちょっと、ごめんね。光るやつ、見せてくれるかな?」

「ぴぴぴ~」

「ぴっぴ~」

「わきゃ~ん! しょくぶつなのに、ことばがつうじたさ~!」


 ワサビちゃんに断りを入れると、こっちを見上げて「どうぞどうぞ」って感じで道を空けてくれた。

 ……この子たち、ほんとに植物なのかな?

 毎月抜け殻を収穫して美味しく食べている俺が言うのもなんだけど、ほんと面白い生き物だな。

 高く売れるしで、ワサビちゃん様々だよ。

 なお、驚いている偉い人ちゃんだけど、わさわさちゃんも言葉が通じておりました。

 この村、変な植物が多いのです。


「タイシ、これですよ」


 おっと、ワサビちゃんや変な植物に興味は尽きないとは言え、今は光っちゃうお酒だね。

 ……確かに、白く光っているように見える。

 今は曇り空でやや暗めとはいえ、その光りっぷりは、はっきりわかる。

 ハナちゃんが言っていたことは、本当だったんだ。


「……本当に、白く光っているね」

「あい~。これなら、いいかんじです?」

「うん。これなら、廊下に置いとくと便利だよ」

「やったです~!」


 ハナちゃんの言うとおり、これなら常夜灯として十分使える。

 というか、ソーラーLED街灯より光は弱いとは言え、それでも街灯としても使えるレベルだ。

 ……あれ? これすごくない?


「ねえ、これって普通に明かりとして使えるよね」

「つかえるですね~」

「おいしそうさ~」


 偉い人ちゃんの感想は置いといて、この水準で光るなら実用できるね。

 そしてこの光源は、電池も消費せず勝手に光るわけだ。

 さらに、最も凄い点がある。


 それは――火災の心配が無い、と言うことだ。


 棚にしまってあって何の問題も無かったことからも、それは証明されている。

 すなわち、火の心配も電源の心配も何もない、奇跡の光だ。

 と、言うことは……。


「あの……このお酒の光って、ドワーフィンの夜のときに役立ちません? 火災の心配ゼロですよ?」

「わきゃん? ……たしかに、これがあれば……べんりさ~」

「ですよね」

「たしかに、そうです~」


 ドワーフィンの夜の時期は、長期間暗闇が続く。

 当然ソーラーパネルは使えない。つまり、比較的安全で長時間使える光源は、水力発電でもしなければ得られないわけだ。

 ほかは、光る生物にお手伝いしてもらうか、火災の危険性がある蝋燭(ろうそく)やランタンやらしかない。

 まあ熱電素子を使えば電気を得られるけど、せっかくの熱を消費してしまう。

 熱の確保に腐心していたドワーフちゃんたちは、おそらくそれは選択しないだろう。

 でも、このお酒があれば……安定してかつ安全な光源が、簡単に得られることになる。


「これを光源として使えば、夜更かしし放題ですよ?」

「それは、いいかもさ~」

「よいこは、はやくねるですよ~」


 おっと、ハナちゃんに夜更かしをとがめられてしまった。

 でもやめらんないんだよね。夜更かし。


「でも、あんまりひつようないかもさ~」

「え? 必要ないのですか?」


 夜更かしに思考がそれていたところで、偉い人ちゃんが軌道修正した。

 ただ、この夢の光源が、あまり必要無いってご意見だ。

 それはなぜなの?


「どうしてですか?」

「よるのじきは、みんなねちゃうさ~。おきてこないさ~」

「あ、確かに」

「みんな、なかなかおきてこなかったって、きいてるです~」

「強いお酒とかで、無理矢理起きて貰ってたね」


 言われてみれば、確かにそうだ。

 夜になったら、ドワーフちゃんたちは冬眠してしまう。そもそも活動しないのだから、明かりも必要が無いわけだ。

 あと彼女たちは、エコーロケーションが使える。真っ暗闇だって、なんとかなってしまうのだ。


「あればべんりだけど、つかいどころは、すくないのさ~」

「なるほど、言われてみれば」

「あや~、ねてたら、たしかにあかりはいらないですね~」


 現地民である偉い人ちゃんの意見に、俺とハナちゃん納得だね。

 冬眠に入っちゃうのだから、明かりがあっても使いどころは無いわけだ。

 便利なのは確かにそうだけど、使うシチュエーションがないなら出番は少ない。

 あたりまえのお話だ。


「それにおきてても、たべものがへっちゃうさ~」

「あ、そういう課題もありましたね」

「しょくりょうちょうたつも、ふつうはやらないさ~」

「そんな時期に起きていても、食糧難になってしまいますか」

「そうなのさ~」


 白い光るお酒、ドワーフィンの夜でも活動できる、凄いアイテムだと思ったけど……。

 ドワーフちゃんたちは、冬眠をしてやり過ごせるわけだ。

 そういう習性や文化、対処法がすでに確立しているんだよね。

 明かりが無くたって、大丈夫なんだ。


「なるほど、そう聞くと、みなさん長期の夜を乗り越えられる凄い力がありますね」

「すごいです~」

「わきゃ~ん、すごいっていわれると、てれるさ~」


 ドワーフちゃんの体質にまつわる神秘は、熱操作だけでは無いんだよな。

 長期の暗闇を生き抜ける、驚きの能力が備わっているんだ。


「でも、よるのじきになんもしなかったら、もったいなくないです?」


 しかし彼女たちの能力に感心していたら、ハナちゃんがそんなことを申された。

 ……確かに、言うとおりだ。


「わきゃん? もったいないさ~? ふつうのことさ~?」

「あや~、ながいじかんねてるだけって、もったいないです~」


 偉い人ちゃんは、普通のことだという。

 しかし――俺たちにとっては、そうでは無い。

 潮汐(ちょうせき)ロックが起きていない惑星で暮らす俺たちには、長い夜という環境がないのだ。

 彼女たちにとっての普通は、俺たちの常識にはない。

 逆もまたそうだ。俺たちにとっての普通は、ドワーフちゃんたちにとっては普通ではない。

 惑星人と衛星人の、常識の違いってやつだ。


 ――あ! と言う事は!


 ドワーフィンは衛星であるため、とても長い夜の時間が存在する。

 その時期、ドワーフちゃんたちの活動は一切が停止してしまうよね。

 経済も、生産も、何もかもがだ。

 数ヶ月のサスペンドが発生し、その間足踏み状態となってしまう。


 もちろん、そこに船をばらまこうとしている俺たちの活動も、それに合わせて停止する。

 エルフ重工は、数ヶ月の取引停止を余儀なくされるのだ。

 その間に船を量産しておくことは可能だが、相手が冬眠していては打ち合わせも出来ない。

 ハナちゃんが考えていた、水耕栽培もそうだ。

 ドワーフィンが夜の時期、その畑のお世話は誰がする?

 もし土木工事が開始されても、数ヶ月現場がほったらかしになる。

 その間に何かが起きても……誰も対処しない。現場の管理も放置だ。


 そう、俺がエルフィンを巻き込んでやろうとしている事業や、ハナちゃんが考案した水耕栽培も、なにもかもが停滞する。

 夜が来るたびにリセットされ、牛歩のごとくやるしかなくなるわけで。

 それは――まずい。


 俺たちがやろうとしていることは、すべて夜の時期に阻まれるのだ。

 それはすなわち――みんな冬眠しちゃうから。


 これは……大問題だ!

 いろんな事業が、破綻してしまう!


 ドワーフィンへの門が開かないのは、当然だ。

 この衛星という環境ならではの、長期間続く夜、という問題を解決していないのだから。

 そういうことだったんだ!


 つまり、ドワーフちゃんたちが夜でも活動するよう、革命を起こす必要がある。

 常識をひっくり返して、夜の時期は冬眠するものだ、という生態を多少は曲げてもらわないといけないのだ。


 あぶない、気づいて良かった。

 そして、この気づきの元となった一つのブツ。

 こいつが、ブレークスルーとなる。


「……この安全な明かりがあれば、みなさんは夜の時期でも活動できそうですよ」

「わきゃん? ねむっちゃ、だめなのさ~?」


 夜の時期でも活動してねと言外に含めたけど、偉い人ちゃんは首をかしげてしまう。

 一つ一つ、説明しよう。


「長いこと眠ってしまうと、畑もダメになりますよ」

「あや! はたけ、だめになっちゃうです!?」

「お世話しないと、何かあったとき対処ができないからね」

「それは、たいへんさ~!」


 畑がダメになると言うと、二人とも慌て始めた。

 食料生産が失敗したら、ダメージでかいからね。


「さらに、船の発注や設計、生産も滞ります。発注元が活動中断しちゃいますからね。土木工事だってそうです」

「たしかに、いわれてみればそうさ~!」

「私たちは冬眠しないので、数ヶ月おきに長い待ち時間が出てしまって……」

「それは、きついさ~」

「むりがあるですね~」


 冬眠による活動停止と、それをしない俺たちとの間でどんどんと時間がすれ違っていく。

 この問題を、俺たち三人はようやく認識した。

 あの世界では冬眠が必要だが、そのおかげで生産活動も停止する。

 そうなると、マスプロダクションが効率的に行えない。あれは常に稼働してナンボだからだ。

 現状だと、発展限界の上限は低いだろう。なんとしても、解決しなくてはならない。

 これをなんとかするために、光るお酒が使える。


「そこでこの明かりです。これがあれば、夜の時期でも植物に光を当てられます」

「あや! そういえば、そうです~」

「現に、そこで光を浴びている子たちもいるものね」

「ぴっぴ~」


 夜の時期でも、植物に光合成をさせる事が出来るようになる可能性がある。

 まあ、植物の種類にもよるけれど。


「いくつか使えば、夜の時期でも漁が出来そうですよね」

「たしかに、できそうさ~」

「おうちで過ごすときにも、明かりがあると良いですよね。勉強するにも、船で移動するにも」

「なんにだって、つかえるさ~」


 続けて、安全な明かりが存在することにより、夜の時期でもある程度活動出来る点を説明した。

 偉い人ちゃんも、出来そうな感触はあるみたいだね。

 現地民が言うのだから、可能性は高いだろう。


「つまり、この明かりを使って――冬眠しない集団を、作る必要があるのです」

「りかいしたさ~!」

「たしかに、ひつようです~」


 全員が冬眠しないのは、いきなりは難しいだろう。

 でも、一部の集団、責任者たちとその部下なら。そういう組織を作れば……。

 十分可能ではないかと、俺は思うのだ。

 ちたま人類だって、明かりのお蔭で夜も活動可能となっている。

 もし電灯が無ければ……中世と同じような活動しか出来ないだろう。


 まあ……夜も働く必要があるので、幸福かどうかは、一考の余地はある。

 しかしそれをしないと、ドワーフちゃんが抱えるリスクそのものに対処できない。

 彼女たちが困っている問題を解決するには、どうしても習慣と常識を覆す必要がある。


「なんとかして、生み出しましょう。冬眠しない組織を!」

「ウチ、がんばるさ~!」

「ハナも、ちからいれるですよ~!」

「ぴっぴ~」

「ぴち」


 三人で問題を共有し、対処法を認識した。

 あとは、やるだけ。

 ……なぜか、ワサビちゃんたちもえいえいおーって仲間に加わっているけど。

 みんなは、のんびりすくすく育ってね。美味しく食べるから。


「ひとまず、集会場で計画を詰めますか」

「そうするさ~」

「おとうさんに、あのおさけのつくりかた、きくひつようがあるです~」

「あ、確かにそうだ!」


 そうして、三人で動き出す。

 ドワーフィンの夜でも活動するという、常識を打ち破る組織を作るために。


 ――さあ、始めよう。

 ドワーフィンを救うための、ちいさな一歩を。


 そうして、三人とワサビちゃんとで気合を入れ、集会場へ戻ろうとした時――。


(つながったよ~)


 そんな、謎の声が聞こえた。

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