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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第三章  エルフ農業(初級編)
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第七話 大事な事なので二回言いました

 三日目。


 人は調子に乗ると、たいてい余計なことをします。


 それはさておき、エルフ達の野菜栽培は順調でした。どうも大志に聞いていたより、二倍から三倍くらい早く育っているようです。

 まあ色々不思議ではあるものの、エルフ達は特に気にしていません。早く収穫できるならいいや、と喜ぶことにしたのです。

 お野菜沢山、まだかな、まだかな。皆おうちの畑で野菜が採れるのを、楽しみにしていました。


 ハナちゃんも、野菜作りがことのほか上手くいったことに、気をよくしました。今日もご機嫌で家庭菜園のお世話をしています。

 お歌を歌えば野菜がにょきにょき、今日もたくさんできるかな。

 うきうき気分で種を撒き、よちよち歩きで水をあげ、にょきにょき野菜が伸びてくる。

 今日もたくさん出来ました。


 奇妙な歌を歌いながら、にょきにょきを実演してみせるハナちゃんを、おうちの皆が見ています。


「実際に伸びてくる様子をこの目で見ると、壮観だね」

「ほんとにすぐ出来ちゃうのね」

「なんだか良くわからんけど、凄いな」

「あらあら」

「ふがふが」


 ハナちゃんが野菜を短時間で成長させる様子を目の当たりにして、おうちの皆も改めてびっくり。目が点です。


「うふ~」


 ハナちゃんは、またもや野菜が出来て超ご機嫌。頭に浮かぶは今日の夕食。ニコニコ笑顔で、二十日大根をひっこぬき始めました。

 そんなハナちゃんに続いて、おうちの皆も収穫を手伝います。引っこ抜いたり、はっぱをむしったりと大忙しです。

 そうして、収穫した野菜をみたカナさん、感心しました。


「みずみずしいわね。このお野菜」

「確かに、良く出来てるね。こんなに直ぐ生えてきたのに、おかしなところが無さそうなのは不思議だな」

「不思議です~」


 ハナちゃんがにょきにょきさせた野菜は、みずみずしい感じでした。土にも特に変わったところがありません。何がどうなっているか、誰にもわかりませんでした。

 当然、ハナちゃん当人もです。


 色々不思議な事だらけですが、六人で作業したので滞りなく野菜は収穫できました。

 こんもり積まれた野菜を見ながら、ヤナさんが言います。


「この野菜は、皆で夕食に食べようね」

「あい~」


 今日も今日とて、野菜は皆で食べます。ハナちゃんのおうちでは、とても食べきれないほどの量ですから。

 食べきれないほど、食べ物いっぱい。幸せな毎日です。あっちの森で困っていたことが、まるで遠い昔のよう。おうちの皆も、嬉しそうです。

 こうして今日の夕食を楽しみに、まだまだ早いですが作業を切り上げ、おうちに戻りました。


 農作業を終えておうちに戻ると、みんなはまたまたそれぞれの余暇を楽しみます。


「山菜取りや掃除洗濯は昼前には済ませたし、夕食まで特に仕事はないから……僕は昼寝でもするよ」

「私は絵……溝を……掘るわ……」


 カナさん……。昨日の成果、ダメだったようですね。絵から溝に目標が落ちています。

 どんより顔で、今度は今日採れた野菜をひっつかんで、個室に入っていきました。

 モチーフは多少マシになりましたね。


 ぱた……。


 扉を閉める音にも力がありません。おうちの皆は、やっぱり微妙な表情でカナさんを見送りました。

 まあ、夕食になればしゃきっと元に戻りますので、気にしないことにしましょう。


「ハナは、もっかい家庭菜園みてくるです~」


 ハナちゃん、元気いっぱい、また家庭菜園に行くつもりです。野菜作りにすっかりのめりこんでしまいました。

 しかし、それを聞いたヤナさん、ハナちゃんに言います。


「ハナ、もう野菜の種がないよ。今日撒いた分で終わっちゃったんだ」

「あえっ?」


 種がもうないと聞いて、ハナちゃんは「えっ?」という顔をしています。もやし類の種も、もうありません。もらった種を全部使い切っちゃうなんて、ちょっと頑張りすぎましたね。

 しかし意気揚々と野良仕事をしようとしたハナちゃん、あてが外れてしまいました。

 そんなハナちゃんに、ヤナさんは休むことを勧めます。


「種が無いと何もできないから、今日はハナもお昼寝したらいいんじゃないかな」

「あえ~」


 ハナちゃんがっかり、耳がぺたんとしてしまいました。ヤナさんは、そんなハナちゃんを慰めるように頭を撫でます。

 というか、これ以上量産されたら、村の皆でも食べきれません。程々に、何事も程々が良いのです。

 あてが外れて物足りなそうなハナちゃんですが、無い物は仕方ありません。ヤナさんは、一緒にお昼寝のお誘いをしました。


「まあ、今日はもう十分働いたから、ハナも僕と一緒に休もうね」

「あい~」


 こうして、ハナちゃんはおとうさんとお昼寝することになりました。二人はリビングで寝転がると、すぐにおねむしてしまいます。

 父娘(おやこ)仲良く、並んでお昼寝したのでした。


「んが~……んごっ」

「すぴぴ」


 なんだかんだ言っても、ハナちゃんもちょっとお疲れだったのですね。夕食まで、おやすみなさい。



 ◇



 ぱち。


 おねむしてからしばらくして、ハナちゃんの目がぱちりと開きました。目が覚めてしまったようです。


 むくり。ぽてぽて。


 おもむろに起き上がって、ぽてぽて歩いて行くハナちゃん。どこに向かうのかな?


 ぽてぽて。


 ハナちゃんが向かった先、そこは台所でした。この場所、今はまだ台所として使われていません。しかしここには戸棚があるため、「仕舞えない」物はだいたいここに置いてあるのでした。

 ぽてぽてと備え付けの戸棚に近づいて、ぱかっと扉を開けるハナちゃん。何かを見つけました。

 

「あったです」

 

 ハナちゃんは戸棚から、両手で何かをひょいと取り出します。それは、でっかいひっつき虫の種でした。こちらに来るちょっと前、非常食として拾ったアレです。こっちに持ってきちゃったのですね。

 種などは「仕舞う」ことが出来ないので、ひっつけて持ってきたあと、戸棚に入れておいたのでした。

 この謎の種を抱えたハナちゃん。ぽてぽてとおうちの外、家庭菜園に向かいます。

 ハナちゃん? その種……まさか――。


「……ここがいいです?」


 家庭菜園に到着し、しばらく場所を物色していたハナちゃん。何やら、畑の真ん中ら辺に決めたようです。ぴょいっとスコップを取り出し、ざくざくと土を掘り始めました。

 ねえハナちゃん。土を掘って、どうするの?


 止める人は周りにいません。

 しばらくざくざくしたところで、それなりに大きな穴が掘れました。穴のまわりをぐるっとまわって大きさを確認したハナちゃん、例のブツをぽとっと穴に落します。


「おっき~くな~るで~すよ~」


 ご機嫌で奇妙な歌を歌いながら、スコップでぱさぱさと土をかけていくハナちゃん。だんだんと土に隠れて見えなくなっていく、例のブツ。

 ブツは、土に入れられて嬉しそう。なんだか表面がわさわさ、わさわさ動いているように見えます。

 ……動く植物。これ、大丈夫なのでしょうか。


 こうして、一見和やかですが、よくよく考えると割とアレな事態が進行していきます。

 そしてとどめに、ハナちゃんはじょうろをぬっと取り出し、水をまき始めました。

 ――王手です。


「にょっき~にょき~のびるです~」


 ハナちゃん、あっちで拾った得体のしれない種を、にょきにょきさせちゃう儀式に入りました。ああああ、大丈夫かな……。


「ふい~」


 こうして、一通り犯行を終えたハナちゃん。種を撒く? という欲求を満たせて、満足そうです。しかし、しばらく待っても芽は出てきませんでした。


「……あえ?」


 もうちょっと待っても、芽が出てきません。にょきにょきすると思っていたハナちゃんは、首を傾げます。


「あえ~? にょきにょきしないです~」


 首を右に左に傾げて、不思議がるハナちゃん。やっぱりにょきにょきしませんでした。


「……もうすこし待つです?」


 しばらく首を傾げた後、そうつぶやいたハナちゃん。しゅぴっとスコップとじょうろを「仕舞い」、ぽてぽてとおうちに引き返していきました。

 今日はにょきにょきをあきらめて、また今度にするようです。


 ぽてぽて。


 そしておうちに着いたハナちゃん。何もなかったかのように、ヤナさんの隣でこてんと寝ころび、お昼寝再開です。

 ……こうして、誰にも気づかれないまま、犯行は成されたのでした。


「すぴぴ」


 ごろん。ずびし!


「おあっ!」


 お昼寝中のハナちゃんが、得意の寝相攻撃でヤナさんの体力を地味に削っている頃。

 畑では、ハナちゃんに植えて貰って嬉しそうだったあのブツが、たいそう頑張っておりました。


 もこ、もこもこ。もこもこもこ。


 土の下で、えんやこら。

 ハナちゃんの期待に応える為、えんやこら。


 ――どうやら、植物も調子に乗ると……余計なことをするみたいです。


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