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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第二十二章 冬への備えは
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第九話 気づきがもたらす回答は


 ――メタノール。


 それは、体内で蟻酸(ぎさん)に変化し大ダメージをもたらす、有害物質。

 これは悪酔いや二日酔いの原因にもなる。蟻酸の分解には葉酸が必要で、メタノール中毒患者はこの葉酸値が有意に低くなるという。

 これは偉い人ちゃんの血液検査にて、葉酸値が低い点とも結びつく。

 ここまで情報と状況が揃ったので、すぐさま電話で院長先生に相談することにした。


『なるほど、確かにつじつまが合いますね』

「ええ、その方面で考えて頂ければと」

『わかりました』

「私はメタノールをどこで摂取したのか、調査したいと思います」

『そこは任せます。結果は知らせて下さい』

「はい」


 院長先生に今後の方針を伝えるのは出来たので、あとは対処だね。

 どうすれば良いか、聞いてみよう。


「医療的には、どんな対策が可能ですか?」

『あのお嬢さんには、葉酸製剤を処方します。フォリアミンという薬ですね』

「わかりました。処方箋を受け取りに参ります」

『はい。お待ちしております』


 そうして葉酸製剤を処方してもらい、偉い人ちゃんに摂取してもらう。

 あとは先生に言ったとおり、メタノール摂取の原因を調べることにしよう。

 鍵は、収穫祭にある。



 ◇



 現在地、自宅。

 ユキちゃんと一緒に、お酒のメタノールについて調査をしている。

 まずはキジムナー火の効能で、なぜホルムアルデヒドが明記されていたかだ。

 これは、電話で問い合わせて教えて貰った。


「キジムナー火の効能で『ホルムアルデヒド』が明記されていたのは、昔にヤミ酒の問題があったからなんだって」

「工業用アルコールを使った、危ないやつですね。今でもたまに、外国で事故が起きていると聞きます」

「キジムナー火は戦後まもなく、このヤミ酒問題が起きたときには重宝されたみたい。その歴史があって、明記するようにしたんだって」

「キジムナーさんたち、メタノールの対処について、一日の長があったのですね」


 戦後の混乱期、税金のかからない工業用アルコールを使ったヤミ酒が氾濫した。

 その時大勢被害を受けたけど、キジムナーさんたちとその身内は神秘で対処したわけだ。

 それが長じて、現在は商品化するまでになっていると。

 キジムナー火に歴史あり、てところだね。元々は、「浄化の炎」という神秘だったそうだ。

 それをどうして食品加工しようと思ったかは、ヌシさんの趣味らしいけど。

 また、趣味人に助けられたよ。ありがたいことこの上ないね。


 とまあ、キジムナー火について色々わかったところで、次だ。

 ユキちゃんと二人で、色々資料を調べてみると、意外な事実が見つかった。

 お店で売っているお酒にも、普通にメタノールが含まれているらしいことが記述されているのだ。


「なるほど、メタノールが含まれること自体は、普通なのか」

「そうらしいですね」


 果物の皮に含まれる「ペクチン」という物質がメタノールへ変化し、お酒に含まれてしまうらしい。

 ワインを飲めば普通にメタノールも飲んでいることになるけど、少量なので人体には全然問題がないそうだ。

 ほかにも果実酒には当たり前に含まれていて、それらの濃度で規制があることも。


「エルフたちも二日酔いくらいで収まっていたから、問題は無かったんだよね」

「ですね。午後には回復していました」


 二日酔いになったエルフたちも、それだけで済んでいる。

 だから、人体には問題が無い濃度ということだ。

 普通の濃度であれば、メタノール中毒の前にエタノール中毒でやられる。


 ただし、それは――普通の摂取量だったら、という話。

 ドワーフちゃんたちは、俺たちの何倍もお酒を飲む。

 そして彼女たちは、エタノールの代謝能力が高い。


 ちたま人やエルフでは無理な飲酒量でも、へっちゃらなのだ。

 沢山飲めば、当然普通であれば問題ないはずの濃度でも、問題になる。

 ドワーフちゃんたちはお酒を水のように飲めるので、当然メタノール摂取量もそれに従って増えていく。


「沢山飲んだから、メタノールもいっぱい摂取しちゃった、てとこか」

「収穫祭で準備したお酒は、全部飲んじゃったそうです」

「それだけ飲んでケロっとしているんだから、相当だよね」


 おそらくだけど、そんなとこなんじゃ無いかと思う。

 収穫祭の日、偉い人ちゃんはかなりお酒を飲んでいた。

 お酒に含まれていたメタノールも、当然大量摂取していることになる。

 これが影響して、偉い人ちゃんのウロコ等などに悪影響を与え、青しっぽとなった。

 そんな仮説が導き出される。


 ただ疑問なのが、ほかのドワーフちゃんたちも、沢山お酒を飲んでいた。

 しかし彼女たちは、ケロリとしている。

 ……もしかして、普通のドワーフちゃんは、メタノール耐性がかなり高いのかも。

 なので、何の問題も無く過ごせている。

 でも偉い人ちゃんはその耐性が弱く、効果てきめん、なのかも。


「しかし、沖縄旅行では問題なかったんだよな……」

「あ、確かに……」

「お酒の摂取量が問題なら、旅行の時に起きてないのは変なんだよ」

「ですね」


 というか、沖縄旅行ではあの収穫祭のとき以上に飲んでいたわけで。

 市販のお酒だけど、大量に摂取していた。

 つまりは、売り物のお酒は問題がないと考えられる。

 厳密に、メタノール濃度は規制されているそうだからね。


 じゃあ問題は、村で製造したお酒にあると絞られてくる。

 エルフワインは果物を使っているし、俺が仕込んだのもそうだ。ペクチン沢山だよ。

 これらはメタノール濃度なんか確認していないから、結構濃いだろう。

 それらのお酒を沢山のんだから、偉い人ちゃんの許容量を超えてしまったのかも。

 ただし収穫祭前でも、村で醸造したお酒は飲んでいたが、二日酔いは起きなかった。

 あれ? 村で醸造したお酒も問題無いじゃん、という話になる。


「わっかんないな~……」

「……何が原因なんでしょうね」


 一体、何が原因なんだろう。

 二人でこれ以上考えていても、限界かもしれない。

 明日は村に行って、みんなに相談してみよう。



 ◇



「そんなわけで、お酒にはメタノールという有害なやつが含まれてまして」

「はじめてしったべ」

「こわわ」

「ふるえる」


 集会場にみんなを集めて、調査で得られた知識を共有する。

 みなさん、おっかない物質にぷるぷるだ。


「おれはへいきだったじゃん?」

「おまえは、そういうのとくいだからだろ」

「つよい」

「ふだんから、へんなもんばっかくってるから……あれ? そのおかげ?」

「もっとほめてくれ」

「きたよドヤがお」


 まあマイスターには効かないみたいだけど、毒味芸人だからしょうがない。

 というか、みんな褒めてないからね。


「わ、わきゃ~ん……。たしかに、こころあたり、あるさ~」


 しかし話を聞いた偉い人ちゃんは、心当たりがあるのかぷるっぷるだ。

 どんなものか、聞いてみよう。


「えっと、心当たりというと?」

「たくさんのんだよくじつ、ウロコがガサガサのとき、あるさ~」

「ウロコが、ガサガサ? ですか」

「はずかしいので、おけしょうしてかくしてたさ~」

「あ、黄色く塗ったりですか」

「そうさ~」


 ……ウロコがガサガサになる、なんだろう、良く分からない。

 ただ、影響はそれだけっぽいな。これはやっぱり、ドワーフちゃんの特性なんだろう。

 エタノールにもメタノールにも強い、そんな体なのだ。


「うちらは、そんなことないさ~」

「そもそも、よっぱらわないさ~」

「ふしぎさ~」


 ほかのドワーフちゃんたちは、そういうことも無いらしい。

 メタノールを飲んでも、へっちゃらなのかもね。

 これは数値的根拠がないので、断定は出来ないけど。

 でも状況証拠からすると、メタノールにも耐性を持っていると推測される。

 蟻酸を酢酸に短時間で代謝可能で、酢酸も水と二酸化炭素に代謝する速度が速そうだ。


「ひとまずこれが原因物質と考えると、やっぱり村で作ったお酒に何かあると思ってまして」

「おきなわりょこうじゃ、なんもなかったからな~」

「なんか、やっちったのかも」

「てきとうだったから、ありうるじゃん」


 自分たちのお酒造りに絶対の自信は持っていないらしく、あるかもって感じのみなさんだね。

 というか、一番適当に仕込んでたのが俺だし。

 ただ、俺のお酒はなんか空っぽになってたから、今回は対象外だ。

 どうして俺のお酒だけ消えるのかという疑問はあるけど、そこはまあ置いておこう。


「ですので、村のお酒を並べて、製造方法をまとめたいと思います」

「わかりました」

「おさけ、はこぶべ~」

「うちらも、いくさ~」

「わたしたちもだね! わたしたちも!」


 みんなにお願いして、お酒を持ってきて貰う。

 これもサンプルを採取し、メタノール濃度は分析にかけて貰う予定だ。

 数日かかるから、ちょっとめんどいけど。


 ――そして一時間後。


「おれのは、くだものをつかってるじゃん」

「おれも」

「うちのは、苔のやつですね」

「しゃっしゃ~」


 エルフたちが持ち寄ってくれたのは、ほぼエルフワインだね。

 果物を使った醸造酒で、まあペクチンはそこそこ含まれているだろう。

 ただしアルコール度数は低いので、問題になる濃度ではないと思われる。

 なにより、これで悪酔いした実例が起きていない。


「つぎは、わたしたちだね! わたしたち!」

「どうかな? どうかな?」


 妖精さんのお花の蜜お酒は、まあ量が少ないうえ糖蜜が原料なのでメタノールは気にしなくて良いと考えられる。

 ペクチンないんだもん。


(じさくのおそなえもの~)

「神様のは、普通に日本酒の製法だから、問題ないな」

「そうだよね」


 神様仕込みのほよほよどぶろくは、もうそのまんま日本酒。

 異世界独自のあれこれはないので、こちらのノウハウがそのまま使える。

 よって、メタノール濃度は問題ないと断定可能だ。

 つかっている酵母もアスペルギウスオリゼー、いわゆるコウジカビであって、これは毒素を出さないよう改良されている種だ。

 問題は無いんだよね。


「うちらのは、これさ~」

「つよくしてあるやつさ~」

「おまつりでも、だしたやつさ~」


 最後に本命、ドワーフちゃん蒸留酒だ。火がつくので、四十度以上の度数である。

 そしてキモであるのが、蒸留すると――メタノールも濃縮される。

 蒸留酒を作っているのは彼女たちだけなので、まあこれがそうなんじゃないかと思うわけだ。


「ちなみに、製法はどのような感じですか?」

「これでおさけをにて、こっちをひやしてでてくるやつをあつめるさ~」

「ほくほくねっこを、つかっているさ~」

「なんかいも、くりかえすのさ~」


 わきゃきゃっと、やかんみたいなのを取り出して説明してくれる。

 これは前に聞いたことでもあるけど、再確認だね。

 ……そして、ここで一つ気になることがある。

 ほくほく根っこって、加熱するとほんとにほっくほくになるんだよね。

 じゃがいもと一緒な感じの、植物なんだ。


 そしてほくほくになる理由としては――ペクチン、なんだよ。

 おそらくだけど、ほくほく根っこは大量のペクチンが含まれる、のではないかと。

 そう、つまり醸造過程で多くのメタノールが生成されるのだ。

 ただそれでも、普通の分量なら問題無いんじゃ無いかとも思う。

 結局のところ、やっぱり大量に飲むのがあかんのだ。


「まあ、素材については大丈夫そうだよね」

「うちら、ながねんこれでやってきたさ~」

「とくになにも、おきてないさ~」

「わきゃ~」


 実際、エルフたちが二日酔いしたくらいで済んでいる。

 なので、メタノール耐性が普通でも、大丈夫な蒸留酒なのだ。


「ちなみに、初留(しょりゅう)は捨ててますか?」

「わきゃ? しょりゅうって、なにさ~?」

「え?」


 ん? 親父がなんか聞いているけど、なんのことだろう?

 酒造りが趣味でもあるから、なんか知っているのかな?


「親父、それってなに?」

「いやあれだよ、蒸留して最初に出てくるやつだな」

「それって、捨てちゃうの?」


 ぶっちゃけ俺も酒造は詳しくないから、それを捨てるのが良く分からない。

 なんで捨てちゃうのだろう? 


「だってさ、そこに一番メタノール含まれてるんだぜ」

「――あ」

「あや」

「わきゃん?」


 ……そこに、一番メタノールが含まれている?

 まさか?


「まさかですけど、そのまんま濃縮してます?」

「してるさ~?」

「だめなのさ~?」


 原因――判明。

 ただでさえメタノールが多そうなお酒を、初留とやらを捨てずにどんどん濃縮。

 結果、わりかしメタノール濃度が高いドワーフ酒の誕生、という図式が浮かび上がる。

 このお酒を偉い人ちゃんが大量に飲んだ結果、メタノール中毒となる。

 そして……色々な何かがあって、しっぽが青くなった、のかもしれない。


 おそらくだけど、代謝が間に合わない蟻酸は……ウロコを通して体外に排出しちゃうとか。

 その排出された蟻酸が、構造体を溶かす。

 溶けちゃうのだから、結界の機能も失われ、熱が流出し青くなってしまうのかも。

 なんだか、つながってきたな。


「あ~まあ、六十四.七℃で蒸留すれば、メタノールは除去できます」

「なるほどさ~」

「そうしてまず危ないやつを省いてから、七十八.二九℃で蒸留をすれば良いのではと」

「こんどから、そうするさ~」

「いまあるやつも、やっとくさ~」


 俺が考えている間に、親父がドワーフちゃんたちにメタノール除去の温度を教えているね。

 これで、大丈夫そうな気はする。

 あとは分析結果を見て、仮説を確定させよう。


 ――そして数日後。


 分析結果――ビンゴ!

 ドワーフちゃん蒸留酒だけ、メタノール濃度が高かった。

 そりゃ、これを飲んだら普通の人は悪酔いするよって感じ。

 まあ、分量が普通なら悪酔い程度で済むくらいなのだけど。


「思った通りだ」

「ええ、仮説は実証されました」

「タイシのいったとおりです~」

「わきゃ~ん、タイシさんすごいさ~!」


 ユキちゃんハナちゃん、そして偉い人ちゃんと一緒に、集会場で送られてきた数値を確認する。

 もうほんと、その通りだった。


「ウロコもそうだね」

「はい、これも蟻酸が検出されています」

「こんなのがおきてたなんて、こわいさ~……」


 同様に、偉い人ちゃんのウロコ分析もビンゴ。

 蟻酸が検出され、これが悪さをしていたと確認完了。

 そしてこれは、偉い人ちゃんの蓄熱障害の原因を――突き止めた事になる。

 メタノール中毒がもたらした蟻酸による、時間遅延結界の破壊、だったのだ。


「こんどから、きをつけるさ~」

「なんなら、一度自分で蒸留したほうが良いかもですね」

「そうするさ~」


 これに対応するためには、メタノールを除去したお酒を飲むこと、これだけである。

 彼女を長年苦しめてきた問題が、解決した瞬間だった。

 ただ、これでめでたしめでたし、とはならない。


「ただ申し訳ないのですが、赤しっぽはウロコが剥がれてから、になります」

「それは、しょうがないさ~」


 ドワーフちゃんのウロコは、積層構造だった。生え替わりとは、この表面が剥がれること。

 そして、剥がれた下には新品まっさらの多孔質がこんにちわ、となる。

 これは電子顕微鏡写真をみると、確認できるのだ。


「サウナで蒸して塩で揉むと、詰まりはある程度除去できますが。……ある程度、が限界みたいです」

「あれはきもちいいので、つづけるさ~」

「そのときは私もご一緒しますね」

「ハナも、おてつだいするです~」

「ありがたいさ~」


 ユキちゃんが補足してくれたけど、まあスチーム塩サウナは効果がある。

 柔らかくしてほぐして、塩で揉んじゃえばそこそこ回復するからね。

 これは実績ある方法なので、安心して実行できる。


「しかしまた……特定の周期ごとに、結界を刷新しているのですね」

「良く出来た構造だと思う。ほんと神秘そのものだね」

「ええ、これは凄いです」

「てれるさ~」


 ユキちゃんと俺は、改めて電子顕微鏡写真を眺める。

 ほとほと感心する、ドワーフちゃんのウロコの機能。

 時間を遅延させて熱を操作する、まさに神秘だ。

 ただナノメートル単位の構造だけに、蟻酸には勝てなかったようで。

 外側から構造を破壊されたら、やっぱりどうにもならなかったのだ。


「でも、AIちゃんの計算によると……今のウロコでも、黄色までは行けるらしい」

「今後も塩サウナで揉み続ければ、あるいは……ですかね」

「理論上は、それっぽい」

「そこまでいければ、おおだすかりさ~」


 ただ、俺もそのまま「残念」で止まっていたわけじゃ無い。

 一番破壊がひどかったウロコの電子顕微鏡写真を分析し、構造復活可能な割合をAIちゃんに算出してもらった。

 それによれば、黄色まではいけそうだという計算結果がでている。


 まあ……念願の赤しっぽは、もう数ヶ月待ってね、という感じだ。

 それまでは、黄色しっぽで過ごして頂きたい所存である。


「なんにせよ、これで一つの区切りはつきましたね」

「かんしゃしても、したりないさ~。ほんとうに、ありがとうさ~!」


 偉い人ちゃんに一区切りしたと伝えると、お目々うるうるで感謝されてしまった。

 俺も彼女にはお世話になっただけに、借りを返せてほっとしているのだけど。

 なんにせよ、感謝されて悪い気分になるわけない。

 本当に、原因がわかって良かった……。


「よかったです~!」

「これからも、健康で居て下さいね」

「きをつけるさ~」


 ハナちゃんとユキちゃんも、偉い人ちゃんの長年の悩みに解決の目処がついたのを祝う。

 ふたりとも、優しい笑顔だ。

 もちろん偉い人ちゃんも、解放されたような表情をしている。

 実際、青しっぽでいつアレするかも分からない……綱渡りが終わったんだ。

 これから、彼女には沢山の可能性が開けたことになる。


「あなたの可能性は、これによって大きく広がりました。やりたいこと、見つけて下さい」

「ううう……ほんとうに、ほんとうにありがとうさ~……」


 締めくくりの言葉を伝えると、偉い人ちゃん感極まってえぐえぐと泣いてしまった。

 この涙は、沖縄の時とは……また違うものだ。

 本当に解放された安心感、未来への希望が現実となった達成感、そして感謝の印だ。

 しばらくは、この美しい涙を流させてあげよう。


「ウチ、これからいろいろ、がんばるさ~!」

「そうですね。でも無理はしないよう、出来る事からコツコツと、で」

「そうするさ~!」


 夢いっぱい、希望いっぱいであふれる、偉い人ちゃんの涙。

 それはとっても、きらめいていた。


 さて、偉い人ちゃんのあれこれは、これでよしとして。

 あとは今回の功労者に、お礼を言わないとね。


「今回の件は、ハナちゃんにお礼を言わないとね」

「あえ? ハナですか?」

「そうだよ。きっかけは、ハナちゃんなのだから」

「あや~?」


 今回の最終結論に至ったきっかけは、ハナちゃんの気づきだ。


“おとうさん、なかなか、おきてこなかったです~”


 この言葉が、大きなキーになっていた。

 見逃していた、おかしな事。それに気づかせてくれた。

 ハナちゃんだけが、気づいていた。

 家族を大事にして、いつも見ていたからこそ、なしえた成果なんだ。


「ハナちゃんが、お父さんのことに気づいていなかったら……多分今でも、解決しなかったよ」

「あや~。あのあとねちゃって、なんていってたか、あんまりおぼえてないです~」

「すっごく眠そうだったからね」

「あい~」


 ハナちゃん本人は、その発言をあんまり覚えていないらしい。

 半分寝ながらだったから、しょうがないのかもね。

 でもなんにせよ、大手柄だった。


「ハナちゃん、ありがとね。偉い子は、褒め倒しちゃうよ!」

「うふ~」

「私も褒めちゃう」

「うきゃ~」

「ウチもさ~。ハナちゃん、ありがとさ~。みんなも、ありがとさ~」

「ぐふ~」


 そうしてみんなでよってたかってハナちゃんを褒めまくり、見事ぐんにゃりさせた。

 ぐんにゃりハナちゃんだね。


「ぐふふふふ~」


 みんなに褒められて幸せそうな顔で、どんどんぐんにゃっていく。

 ほんとうに、ありがとう。

 ハナちゃんのおかげで、一人の人が、救われたよ。



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