第九話 気づきがもたらす回答は
――メタノール。
それは、体内で蟻酸に変化し大ダメージをもたらす、有害物質。
これは悪酔いや二日酔いの原因にもなる。蟻酸の分解には葉酸が必要で、メタノール中毒患者はこの葉酸値が有意に低くなるという。
これは偉い人ちゃんの血液検査にて、葉酸値が低い点とも結びつく。
ここまで情報と状況が揃ったので、すぐさま電話で院長先生に相談することにした。
『なるほど、確かにつじつまが合いますね』
「ええ、その方面で考えて頂ければと」
『わかりました』
「私はメタノールをどこで摂取したのか、調査したいと思います」
『そこは任せます。結果は知らせて下さい』
「はい」
院長先生に今後の方針を伝えるのは出来たので、あとは対処だね。
どうすれば良いか、聞いてみよう。
「医療的には、どんな対策が可能ですか?」
『あのお嬢さんには、葉酸製剤を処方します。フォリアミンという薬ですね』
「わかりました。処方箋を受け取りに参ります」
『はい。お待ちしております』
そうして葉酸製剤を処方してもらい、偉い人ちゃんに摂取してもらう。
あとは先生に言ったとおり、メタノール摂取の原因を調べることにしよう。
鍵は、収穫祭にある。
◇
現在地、自宅。
ユキちゃんと一緒に、お酒のメタノールについて調査をしている。
まずはキジムナー火の効能で、なぜホルムアルデヒドが明記されていたかだ。
これは、電話で問い合わせて教えて貰った。
「キジムナー火の効能で『ホルムアルデヒド』が明記されていたのは、昔にヤミ酒の問題があったからなんだって」
「工業用アルコールを使った、危ないやつですね。今でもたまに、外国で事故が起きていると聞きます」
「キジムナー火は戦後まもなく、このヤミ酒問題が起きたときには重宝されたみたい。その歴史があって、明記するようにしたんだって」
「キジムナーさんたち、メタノールの対処について、一日の長があったのですね」
戦後の混乱期、税金のかからない工業用アルコールを使ったヤミ酒が氾濫した。
その時大勢被害を受けたけど、キジムナーさんたちとその身内は神秘で対処したわけだ。
それが長じて、現在は商品化するまでになっていると。
キジムナー火に歴史あり、てところだね。元々は、「浄化の炎」という神秘だったそうだ。
それをどうして食品加工しようと思ったかは、ヌシさんの趣味らしいけど。
また、趣味人に助けられたよ。ありがたいことこの上ないね。
とまあ、キジムナー火について色々わかったところで、次だ。
ユキちゃんと二人で、色々資料を調べてみると、意外な事実が見つかった。
お店で売っているお酒にも、普通にメタノールが含まれているらしいことが記述されているのだ。
「なるほど、メタノールが含まれること自体は、普通なのか」
「そうらしいですね」
果物の皮に含まれる「ペクチン」という物質がメタノールへ変化し、お酒に含まれてしまうらしい。
ワインを飲めば普通にメタノールも飲んでいることになるけど、少量なので人体には全然問題がないそうだ。
ほかにも果実酒には当たり前に含まれていて、それらの濃度で規制があることも。
「エルフたちも二日酔いくらいで収まっていたから、問題は無かったんだよね」
「ですね。午後には回復していました」
二日酔いになったエルフたちも、それだけで済んでいる。
だから、人体には問題が無い濃度ということだ。
普通の濃度であれば、メタノール中毒の前にエタノール中毒でやられる。
ただし、それは――普通の摂取量だったら、という話。
ドワーフちゃんたちは、俺たちの何倍もお酒を飲む。
そして彼女たちは、エタノールの代謝能力が高い。
ちたま人やエルフでは無理な飲酒量でも、へっちゃらなのだ。
沢山飲めば、当然普通であれば問題ないはずの濃度でも、問題になる。
ドワーフちゃんたちはお酒を水のように飲めるので、当然メタノール摂取量もそれに従って増えていく。
「沢山飲んだから、メタノールもいっぱい摂取しちゃった、てとこか」
「収穫祭で準備したお酒は、全部飲んじゃったそうです」
「それだけ飲んでケロっとしているんだから、相当だよね」
おそらくだけど、そんなとこなんじゃ無いかと思う。
収穫祭の日、偉い人ちゃんはかなりお酒を飲んでいた。
お酒に含まれていたメタノールも、当然大量摂取していることになる。
これが影響して、偉い人ちゃんのウロコ等などに悪影響を与え、青しっぽとなった。
そんな仮説が導き出される。
ただ疑問なのが、ほかのドワーフちゃんたちも、沢山お酒を飲んでいた。
しかし彼女たちは、ケロリとしている。
……もしかして、普通のドワーフちゃんは、メタノール耐性がかなり高いのかも。
なので、何の問題も無く過ごせている。
でも偉い人ちゃんはその耐性が弱く、効果てきめん、なのかも。
「しかし、沖縄旅行では問題なかったんだよな……」
「あ、確かに……」
「お酒の摂取量が問題なら、旅行の時に起きてないのは変なんだよ」
「ですね」
というか、沖縄旅行ではあの収穫祭のとき以上に飲んでいたわけで。
市販のお酒だけど、大量に摂取していた。
つまりは、売り物のお酒は問題がないと考えられる。
厳密に、メタノール濃度は規制されているそうだからね。
じゃあ問題は、村で製造したお酒にあると絞られてくる。
エルフワインは果物を使っているし、俺が仕込んだのもそうだ。ペクチン沢山だよ。
これらはメタノール濃度なんか確認していないから、結構濃いだろう。
それらのお酒を沢山のんだから、偉い人ちゃんの許容量を超えてしまったのかも。
ただし収穫祭前でも、村で醸造したお酒は飲んでいたが、二日酔いは起きなかった。
あれ? 村で醸造したお酒も問題無いじゃん、という話になる。
「わっかんないな~……」
「……何が原因なんでしょうね」
一体、何が原因なんだろう。
二人でこれ以上考えていても、限界かもしれない。
明日は村に行って、みんなに相談してみよう。
◇
「そんなわけで、お酒にはメタノールという有害なやつが含まれてまして」
「はじめてしったべ」
「こわわ」
「ふるえる」
集会場にみんなを集めて、調査で得られた知識を共有する。
みなさん、おっかない物質にぷるぷるだ。
「おれはへいきだったじゃん?」
「おまえは、そういうのとくいだからだろ」
「つよい」
「ふだんから、へんなもんばっかくってるから……あれ? そのおかげ?」
「もっとほめてくれ」
「きたよドヤがお」
まあマイスターには効かないみたいだけど、毒味芸人だからしょうがない。
というか、みんな褒めてないからね。
「わ、わきゃ~ん……。たしかに、こころあたり、あるさ~」
しかし話を聞いた偉い人ちゃんは、心当たりがあるのかぷるっぷるだ。
どんなものか、聞いてみよう。
「えっと、心当たりというと?」
「たくさんのんだよくじつ、ウロコがガサガサのとき、あるさ~」
「ウロコが、ガサガサ? ですか」
「はずかしいので、おけしょうしてかくしてたさ~」
「あ、黄色く塗ったりですか」
「そうさ~」
……ウロコがガサガサになる、なんだろう、良く分からない。
ただ、影響はそれだけっぽいな。これはやっぱり、ドワーフちゃんの特性なんだろう。
エタノールにもメタノールにも強い、そんな体なのだ。
「うちらは、そんなことないさ~」
「そもそも、よっぱらわないさ~」
「ふしぎさ~」
ほかのドワーフちゃんたちは、そういうことも無いらしい。
メタノールを飲んでも、へっちゃらなのかもね。
これは数値的根拠がないので、断定は出来ないけど。
でも状況証拠からすると、メタノールにも耐性を持っていると推測される。
蟻酸を酢酸に短時間で代謝可能で、酢酸も水と二酸化炭素に代謝する速度が速そうだ。
「ひとまずこれが原因物質と考えると、やっぱり村で作ったお酒に何かあると思ってまして」
「おきなわりょこうじゃ、なんもなかったからな~」
「なんか、やっちったのかも」
「てきとうだったから、ありうるじゃん」
自分たちのお酒造りに絶対の自信は持っていないらしく、あるかもって感じのみなさんだね。
というか、一番適当に仕込んでたのが俺だし。
ただ、俺のお酒はなんか空っぽになってたから、今回は対象外だ。
どうして俺のお酒だけ消えるのかという疑問はあるけど、そこはまあ置いておこう。
「ですので、村のお酒を並べて、製造方法をまとめたいと思います」
「わかりました」
「おさけ、はこぶべ~」
「うちらも、いくさ~」
「わたしたちもだね! わたしたちも!」
みんなにお願いして、お酒を持ってきて貰う。
これもサンプルを採取し、メタノール濃度は分析にかけて貰う予定だ。
数日かかるから、ちょっとめんどいけど。
――そして一時間後。
「おれのは、くだものをつかってるじゃん」
「おれも」
「うちのは、苔のやつですね」
「しゃっしゃ~」
エルフたちが持ち寄ってくれたのは、ほぼエルフワインだね。
果物を使った醸造酒で、まあペクチンはそこそこ含まれているだろう。
ただしアルコール度数は低いので、問題になる濃度ではないと思われる。
なにより、これで悪酔いした実例が起きていない。
「つぎは、わたしたちだね! わたしたち!」
「どうかな? どうかな?」
妖精さんのお花の蜜お酒は、まあ量が少ないうえ糖蜜が原料なのでメタノールは気にしなくて良いと考えられる。
ペクチンないんだもん。
(じさくのおそなえもの~)
「神様のは、普通に日本酒の製法だから、問題ないな」
「そうだよね」
神様仕込みのほよほよどぶろくは、もうそのまんま日本酒。
異世界独自のあれこれはないので、こちらのノウハウがそのまま使える。
よって、メタノール濃度は問題ないと断定可能だ。
つかっている酵母もアスペルギウスオリゼー、いわゆるコウジカビであって、これは毒素を出さないよう改良されている種だ。
問題は無いんだよね。
「うちらのは、これさ~」
「つよくしてあるやつさ~」
「おまつりでも、だしたやつさ~」
最後に本命、ドワーフちゃん蒸留酒だ。火がつくので、四十度以上の度数である。
そしてキモであるのが、蒸留すると――メタノールも濃縮される。
蒸留酒を作っているのは彼女たちだけなので、まあこれがそうなんじゃないかと思うわけだ。
「ちなみに、製法はどのような感じですか?」
「これでおさけをにて、こっちをひやしてでてくるやつをあつめるさ~」
「ほくほくねっこを、つかっているさ~」
「なんかいも、くりかえすのさ~」
わきゃきゃっと、やかんみたいなのを取り出して説明してくれる。
これは前に聞いたことでもあるけど、再確認だね。
……そして、ここで一つ気になることがある。
ほくほく根っこって、加熱するとほんとにほっくほくになるんだよね。
じゃがいもと一緒な感じの、植物なんだ。
そしてほくほくになる理由としては――ペクチン、なんだよ。
おそらくだけど、ほくほく根っこは大量のペクチンが含まれる、のではないかと。
そう、つまり醸造過程で多くのメタノールが生成されるのだ。
ただそれでも、普通の分量なら問題無いんじゃ無いかとも思う。
結局のところ、やっぱり大量に飲むのがあかんのだ。
「まあ、素材については大丈夫そうだよね」
「うちら、ながねんこれでやってきたさ~」
「とくになにも、おきてないさ~」
「わきゃ~」
実際、エルフたちが二日酔いしたくらいで済んでいる。
なので、メタノール耐性が普通でも、大丈夫な蒸留酒なのだ。
「ちなみに、初留は捨ててますか?」
「わきゃ? しょりゅうって、なにさ~?」
「え?」
ん? 親父がなんか聞いているけど、なんのことだろう?
酒造りが趣味でもあるから、なんか知っているのかな?
「親父、それってなに?」
「いやあれだよ、蒸留して最初に出てくるやつだな」
「それって、捨てちゃうの?」
ぶっちゃけ俺も酒造は詳しくないから、それを捨てるのが良く分からない。
なんで捨てちゃうのだろう?
「だってさ、そこに一番メタノール含まれてるんだぜ」
「――あ」
「あや」
「わきゃん?」
……そこに、一番メタノールが含まれている?
まさか?
「まさかですけど、そのまんま濃縮してます?」
「してるさ~?」
「だめなのさ~?」
原因――判明。
ただでさえメタノールが多そうなお酒を、初留とやらを捨てずにどんどん濃縮。
結果、わりかしメタノール濃度が高いドワーフ酒の誕生、という図式が浮かび上がる。
このお酒を偉い人ちゃんが大量に飲んだ結果、メタノール中毒となる。
そして……色々な何かがあって、しっぽが青くなった、のかもしれない。
おそらくだけど、代謝が間に合わない蟻酸は……ウロコを通して体外に排出しちゃうとか。
その排出された蟻酸が、構造体を溶かす。
溶けちゃうのだから、結界の機能も失われ、熱が流出し青くなってしまうのかも。
なんだか、つながってきたな。
「あ~まあ、六十四.七℃で蒸留すれば、メタノールは除去できます」
「なるほどさ~」
「そうしてまず危ないやつを省いてから、七十八.二九℃で蒸留をすれば良いのではと」
「こんどから、そうするさ~」
「いまあるやつも、やっとくさ~」
俺が考えている間に、親父がドワーフちゃんたちにメタノール除去の温度を教えているね。
これで、大丈夫そうな気はする。
あとは分析結果を見て、仮説を確定させよう。
――そして数日後。
分析結果――ビンゴ!
ドワーフちゃん蒸留酒だけ、メタノール濃度が高かった。
そりゃ、これを飲んだら普通の人は悪酔いするよって感じ。
まあ、分量が普通なら悪酔い程度で済むくらいなのだけど。
「思った通りだ」
「ええ、仮説は実証されました」
「タイシのいったとおりです~」
「わきゃ~ん、タイシさんすごいさ~!」
ユキちゃんハナちゃん、そして偉い人ちゃんと一緒に、集会場で送られてきた数値を確認する。
もうほんと、その通りだった。
「ウロコもそうだね」
「はい、これも蟻酸が検出されています」
「こんなのがおきてたなんて、こわいさ~……」
同様に、偉い人ちゃんのウロコ分析もビンゴ。
蟻酸が検出され、これが悪さをしていたと確認完了。
そしてこれは、偉い人ちゃんの蓄熱障害の原因を――突き止めた事になる。
メタノール中毒がもたらした蟻酸による、時間遅延結界の破壊、だったのだ。
「こんどから、きをつけるさ~」
「なんなら、一度自分で蒸留したほうが良いかもですね」
「そうするさ~」
これに対応するためには、メタノールを除去したお酒を飲むこと、これだけである。
彼女を長年苦しめてきた問題が、解決した瞬間だった。
ただ、これでめでたしめでたし、とはならない。
「ただ申し訳ないのですが、赤しっぽはウロコが剥がれてから、になります」
「それは、しょうがないさ~」
ドワーフちゃんのウロコは、積層構造だった。生え替わりとは、この表面が剥がれること。
そして、剥がれた下には新品まっさらの多孔質がこんにちわ、となる。
これは電子顕微鏡写真をみると、確認できるのだ。
「サウナで蒸して塩で揉むと、詰まりはある程度除去できますが。……ある程度、が限界みたいです」
「あれはきもちいいので、つづけるさ~」
「そのときは私もご一緒しますね」
「ハナも、おてつだいするです~」
「ありがたいさ~」
ユキちゃんが補足してくれたけど、まあスチーム塩サウナは効果がある。
柔らかくしてほぐして、塩で揉んじゃえばそこそこ回復するからね。
これは実績ある方法なので、安心して実行できる。
「しかしまた……特定の周期ごとに、結界を刷新しているのですね」
「良く出来た構造だと思う。ほんと神秘そのものだね」
「ええ、これは凄いです」
「てれるさ~」
ユキちゃんと俺は、改めて電子顕微鏡写真を眺める。
ほとほと感心する、ドワーフちゃんのウロコの機能。
時間を遅延させて熱を操作する、まさに神秘だ。
ただナノメートル単位の構造だけに、蟻酸には勝てなかったようで。
外側から構造を破壊されたら、やっぱりどうにもならなかったのだ。
「でも、AIちゃんの計算によると……今のウロコでも、黄色までは行けるらしい」
「今後も塩サウナで揉み続ければ、あるいは……ですかね」
「理論上は、それっぽい」
「そこまでいければ、おおだすかりさ~」
ただ、俺もそのまま「残念」で止まっていたわけじゃ無い。
一番破壊がひどかったウロコの電子顕微鏡写真を分析し、構造復活可能な割合をAIちゃんに算出してもらった。
それによれば、黄色まではいけそうだという計算結果がでている。
まあ……念願の赤しっぽは、もう数ヶ月待ってね、という感じだ。
それまでは、黄色しっぽで過ごして頂きたい所存である。
「なんにせよ、これで一つの区切りはつきましたね」
「かんしゃしても、したりないさ~。ほんとうに、ありがとうさ~!」
偉い人ちゃんに一区切りしたと伝えると、お目々うるうるで感謝されてしまった。
俺も彼女にはお世話になっただけに、借りを返せてほっとしているのだけど。
なんにせよ、感謝されて悪い気分になるわけない。
本当に、原因がわかって良かった……。
「よかったです~!」
「これからも、健康で居て下さいね」
「きをつけるさ~」
ハナちゃんとユキちゃんも、偉い人ちゃんの長年の悩みに解決の目処がついたのを祝う。
ふたりとも、優しい笑顔だ。
もちろん偉い人ちゃんも、解放されたような表情をしている。
実際、青しっぽでいつアレするかも分からない……綱渡りが終わったんだ。
これから、彼女には沢山の可能性が開けたことになる。
「あなたの可能性は、これによって大きく広がりました。やりたいこと、見つけて下さい」
「ううう……ほんとうに、ほんとうにありがとうさ~……」
締めくくりの言葉を伝えると、偉い人ちゃん感極まってえぐえぐと泣いてしまった。
この涙は、沖縄の時とは……また違うものだ。
本当に解放された安心感、未来への希望が現実となった達成感、そして感謝の印だ。
しばらくは、この美しい涙を流させてあげよう。
「ウチ、これからいろいろ、がんばるさ~!」
「そうですね。でも無理はしないよう、出来る事からコツコツと、で」
「そうするさ~!」
夢いっぱい、希望いっぱいであふれる、偉い人ちゃんの涙。
それはとっても、きらめいていた。
さて、偉い人ちゃんのあれこれは、これでよしとして。
あとは今回の功労者に、お礼を言わないとね。
「今回の件は、ハナちゃんにお礼を言わないとね」
「あえ? ハナですか?」
「そうだよ。きっかけは、ハナちゃんなのだから」
「あや~?」
今回の最終結論に至ったきっかけは、ハナちゃんの気づきだ。
“おとうさん、なかなか、おきてこなかったです~”
この言葉が、大きなキーになっていた。
見逃していた、おかしな事。それに気づかせてくれた。
ハナちゃんだけが、気づいていた。
家族を大事にして、いつも見ていたからこそ、なしえた成果なんだ。
「ハナちゃんが、お父さんのことに気づいていなかったら……多分今でも、解決しなかったよ」
「あや~。あのあとねちゃって、なんていってたか、あんまりおぼえてないです~」
「すっごく眠そうだったからね」
「あい~」
ハナちゃん本人は、その発言をあんまり覚えていないらしい。
半分寝ながらだったから、しょうがないのかもね。
でもなんにせよ、大手柄だった。
「ハナちゃん、ありがとね。偉い子は、褒め倒しちゃうよ!」
「うふ~」
「私も褒めちゃう」
「うきゃ~」
「ウチもさ~。ハナちゃん、ありがとさ~。みんなも、ありがとさ~」
「ぐふ~」
そうしてみんなでよってたかってハナちゃんを褒めまくり、見事ぐんにゃりさせた。
ぐんにゃりハナちゃんだね。
「ぐふふふふ~」
みんなに褒められて幸せそうな顔で、どんどんぐんにゃっていく。
ほんとうに、ありがとう。
ハナちゃんのおかげで、一人の人が、救われたよ。




