第七話 急転直下
ここはとある世界の、とある村。
さわやかな朝、見事な秋晴れでとっても良い気分。
私も昨日たくさんお供え物を取ってきて、朝から飲み放題食べ放題ですね!
念願のムニエルも食べられて、満足満足。
さ~て、今日は一日お仕事さぼって、のんびりすごしましょ――。
「うわわわわきゃ~!」
あらら? なんだか、だれかの叫び声が聞こえてきました。
村の中を、うわきゃ! と走っておりますね。
「たた、タイシさん、大変さ~!」
大騒ぎしているのは、偉い人ちゃんみたい。
彼女は大志たちが寝泊まりしている空き家に向かって、一直線にむかっております。
まだ誰も起きていない、静かな村。
そんな中、偉い人ちゃんだけ、大慌て。
「わわわわきゃ~!」
彼女の目は、涙でいっぱい。今にもこぼれそうです。
一体偉い人ちゃん、どうしたのでしょうか――。
◇
早朝のやや肌寒い中、俺はあったかふわふわ布団の中でうとうとしていた。
高橋さんと親父は天幕で寝ていて、今は拠点に俺一人。
まだ起きるには早い時間なので、二度寝しちゃおうかな~と思っていたときのこと。
「うわわっきゃ~!」
――突然、ズドムと扉の開く音がして、誰かが部屋に飛び込んできた。
この声は……偉い人ちゃん?
どうしたの?
「……あ~、おはようございます」
寝ぼけた頭をなんとか回転させ、とりあえずおはようの挨拶をする。
ゆっくりと体を起こそうとしたところで、ガバっと肩をつかまれた。
「たたたたタイシさん、たいへんさ~!」
おわあああああ! なんだかガクガクと揺さぶられている!
めっちゃ慌てて居るみたいだけど、ほんとどうしたの?
いきなりの事態に慌てて、頭が急速に覚醒していく。
「ど、どうされました?」
「それがそれが、これをみてほしいさ~!」
覚醒した頭で、ようやく偉い人ちゃんのことをはっきり認識できた。
なぜか彼女は、目に涙をためてうるうるだ。
そして――。
「しっぽが、しっぽが……あおくなっちゃったさ~!」
偉い人ちゃんのしっぽや腕、そのほかのウロコが――青く、なっていたのだった。
「――!」
それを確認した瞬間……自分の体から、温度が消え体が痺れたような錯覚が起きた。
時間の感覚も失われ、周囲の何もかもが遠ざかっていき、耳鳴りのような音だけが残される。
これは――「ゾっとした」時に起こるアレだ……。
「あ……」
うまく、声が出せない。なんだこれは? なぜ青い?
今はいつなんだ? 彼女はどうしてここにいる?
いきなりの事態に、頭が上手く回らない。
「うわきゃ~! わきゃ~!」
そうして動揺しているうちに、だんだん周囲の音と自分の体温が戻ってきた。
この事態に、俺の体は「早く対処しろ!」と、強制的に喝を入れてくる。
――そうだ! 呆けている場合じゃ無い!
「か……体に痺れやだるさ、妙な寒気などは感じますか?」
出来るだけ優しく、危険な状態ではないかを問いかける。
「だ、だいじょうぶさ~……で、でも、こわいさ~」
意識はハッキリしていて、手を握ったところ、ちゃんと体温もある。
今すぐどうにかなる、ということはなさそうだ。
それを確認して、だんだん冷静さが戻ってきた。
「わきゃ~……」
しかし偉い人ちゃんは、パニックになってえぐえぐと泣き始めてしまった。
その姿を何度見ても……青しっぽだ。
――なぜだ、どうして。
今まで、じわじわと回復していたのに……。
「ううう、ウチ、どうなっちゃうさ~……」
偉い人ちゃんは体に起きた異変に、不安で押しつぶされそうになっている。
回復してきたと思ったところで、奈落の底に突き落とされたようなものだ。
そりゃあ、ショックだろう。
はやく、なんとかしてあげないと。
……ひとまず、温泉に入って体を温めてもらおう。
「まずは、温泉で体を温めてみましょうか」
「わ、わかったさ~」
それが正しいことかはわからないけど、ひとまず温泉に入れば多少は落ちつくはずだ。
その間に、俺は院長先生に連絡を取っておこう。
「ささ、温泉まで送ります」
「い、いくさ~」
そうして偉い人ちゃんを温泉まで送り、彼女が入浴している間に次の行動へと移る。
ユキちゃんを起こして、病院へ付き添いのお願いだ。
今は、とにかく行動あるのみ!
そして三十分後――。
「わきゃ~……かわらないさ~……」
温泉に入っても……しっぽは青いままだった。
じゃあ、次の行動に移ろう。
と、思ったときのこと。
「う、うう……タイシさん、どうされました?」
「あたま……あたまいたいのだ……」
「きのう、のみすぎたかな……」
「みんな、なんかたいへんそうじゃん?」
おや? 朝から大騒ぎしているの聞きつけたのか、ヤナさん率いる消防団の面々が、ふらふらとやってきた。
みんなかなりの二日酔いみたいだけど、無理して動員したっぽいね。
マイスターだけは平気そうだけど……。
まあひとまず、偉い人ちゃんの現状を伝えよう。
「あ、みなさん。実は彼女のしっぽが……」
「――え? 青くなってるじゃないですか!?」
「そうなんです。なので、今から病院に行くところでして」
「わかりました。何かありましたら、電話下さい」
「はい」
ヤナさんは事態を認識したのか、キリっとした顔になった。
こういうとき、話が早いのは助かるね。
「消防団のみんなも二日酔いですが、集まって備えておきます。何か動いて欲しいことがあったら、ご連絡を」
「むらのことは、まかせるじゃん」
「ちからになるのだ」
「みなさん、ご協力ありがとうございます」
こうして消防団の心強い言葉を受け、安心して病院に行ける。
その後ユキちゃんとも合流し、いざ出発だ。
みんなに見送られながら、車を動かし村を出た。
「あわわきゃ~……」
「もうすぐ着きますので、しばしお待ちを」
「わきゃ~……」
体に起きた良くない変化で、偉い人ちゃんの精神状態もかなり不安定だ。
後部座席に座った彼女の隣で、ユキちゃんが賢明に励ましている。
そうして緊迫した雰囲気の中、病院へ到着し、院長先生の診断を受けることに。
「朝早くから申し訳ございません」
「いやいや、医者ってのはこういうのよくあるので、慣れていますよ」
まだ七時前というのに、院長先生は快く診断を受け付けてくれた。
ほんとうに、申し訳ない。
「ユキちゃん、付き添いお願いします」
「わかりました。お任せ下さい」
普段は柔和な表情のユキちゃんだけど、今日は緊張の面持ちだ。
おそらく俺の顔も、こわばっているだろう。
診察室の前で待つのだけど、時間が長く感じられる。
なぜ、どうして、いつのまに。何が原因? どんな問題がある?
これから彼女はどうなってしまう?
そんな風に思考はループし続けるが、いっこうに答えは出てこない。
ジリジリと焦りが増し、ジワジワと……不安が押し寄せてくる。
ただ今は院長先生にお任せするしかないのが、苦しいところだ……。
そうして、とても長く感じる時間の中、待ち続け――。
「――タイシさん、診察終わりました。御入室下さい」
「わかりました」
診察が終わり、ユキちゃんがドアを開けて入室を促す。
一緒に話を聞いて、現状を把握しよう。
緊張の中診察室へ入り、イスに腰掛ける。
「わきゃ~……」
偉い人ちゃんの様子をうかがうと、さっきよりは多少落ち着いたようだ。
ただ、青しっぽは力なく垂れ下がっている。
ほんとう、心配でならない。
「先生、それで彼女は今どのような状態ですか?」
「結論から申しますと、精密検査時とほぼ状態は変わりません」
「……特に変わった点は見当たらない、と?」
「はい。血圧、脈拍、意識ともに問題は見受けられませんでした」
先生の言葉に、少し安心する。ただ、少しだ。
今のところ、医学的所見では、容体が悪化しているという話ではなようだ。
ただ、今後どうなるかはわからない。
「血液検査もしておりますが、それはもうちょっと時間がかかります」
「はい」
「その結果によっては、また見えてくることもあるかと」
「わかりました」
次は血液検査待ちとなるけど、時間はかかるようだ。
いま緊急で、色々やってくれているのだろう。
技師さんフル活動だと思われる。
「念のため、お嬢さんは今日一日入院して頂いて、様子を見ましょう」
「はい、お願い致します」
「わきゃ~……」
偉い人ちゃんは入院となってしまったけど、体調自体は普通。
しかし、心は不安でいっぱいだろう。
付き添ってあげて、心細さを和らげないとね。
――こうして、今日が始まった。
◇
「血液検査でも、特に異常は見受けられませんね……」
「そうですか……」
「まあ、葉酸値が低いのは気になりますが、前回もそうでした」
「はい」
やがて血液検査の結果もでたけど、それも特に異常なしとのことだった。
しかし、明確に体に異変は出ている。
「これ以上の検査については、緊急でドック入は出来ます。検査しておきますか?」
「う~ん……」
「わきゃ~……」
今偉い人ちゃんは、めっちゃへこんでいるわけで。
その状態できっつい人間ドックは、追い打ちをかけるようでためらわれる。
しかし、高精度な検査も必要かもしれず……。
なかなか結論が出せないまま、しばし沈黙する。
「……そう言えば、昨日はたくさん飲酒をされたのですよね?」
「し、しましたさ~」
「……」
沈黙する俺たちに、院長先生が昨日の飲酒について聞いてきた。
偉い人ちゃんが正直に答えると、先生もまた沈黙する。
「かなり飲んだと思われますが、検査ではアルコールが検出されませんでした」
「ウチらは、よくじつにおさけがのこること、ないですさ~……」
「そうなのですか」
「はいですさ~」
……ん? あんなに飲んでも、二日酔いにならないのか。
そこはドワーフちゃんの体質というか、能力ってやつなんだろうな。
検査でもアルコールの検出が無いというのは、もう代謝されてしまっているということなのだから。
「私としましては、アルコールが原因の可能性が高いかも、と考え始めてます」
「タイミングとしては、そうですよね」
「ただ、それによる医学的な影響は見受けられず、なんとも難しいところでして」
そう、アルコールの摂取が怪しいと思っていても、証拠が見つからない。
なにより、今までもお酒は飲んでいたのだ。
どうして急にこうなったかは、謎のまま、調査も困難という。
今この場でどうこうできる話ではないことは、確かだった。
「聞くところによると、体質改善のきっかけがあったのですよね」
「そうですね。神秘の術です」
続けて院長さんが質問してきたけど、そういやキジムナー火の浄化効能が効いたんだよね。
それがきっかけで、じわじわ改善していった実績がある。
「であれば、それを試すのも一つの手かもしれません」
「……確かに、そうですね」
「わきゃ! たしかにさ~!」
「大志さん、キジムナー火、試す価値はありますね」
院長さんの言うとおり、上手くいった実績がある方法を試すのは、良いかもだ。
さっそく連絡して、配送して貰おう!
◇
二日後、ニライカナイから空輸でキジムナー火真空パックが届いた。
すぐさま村に赴き、偉い人ちゃんのもとへと向かう。
「タイシタイシ~、おかえりです~。こっちはじゅんびできてるですよ~」
「わきゃ~、ウチもさ~」
「ギニャニャ~」
村に到着すると、ハナちゃんと偉い人ちゃん、そしてフクロイヌが出迎えてくれた。
偉い人ちゃんは厚着してもらっていて、襟巻きとしてフクロイヌが巻き付いている。
あったかふわふわな彼に、偉い人ちゃんを暖めて貰っているのだ。
「ハナちゃんありがとね。本当に助かるよ」
「えへへ」
「うちも、たすかってるさ~」
「ギニャ~」
この二日間、ハナちゃんは偉い人ちゃんに付き添って、色々お世話をしてくれた。
俺やユキちゃんでは、ずっと付き添っては居られないからね。
フクロイヌ襟巻も、ハナちゃん発案だ。
おかげで十一月の肌寒い中、偉い人ちゃんは体を冷やさずに過ごせている。
「あったかくて、かわいいさ~」
「ギニャギニャ」
偉い人ちゃんもフクロイヌに感謝しているのか、頭を撫でてかわいがっているね。
持ちつ持たれつ、助け合いだ。
こうして、今のところ偉い人ちゃんは普通に生活できている。
ただ――ギリギリなのは変わりが無い。
現在は十一月になってまもなくだけど、もうすぐ初雪が降る。
この地方は、それから一気に気温が下がるのだ。油断して良い状況ではない。
急いで、キジムナー火にて改善出来るか試さないと。
「それでは、まずはキジムナー火食事会をしましょう」
「わかったさ~」
「ハナがおりょうりするですよ~」
「私も味付けしますので、美味しく作りましょう」
「あまいものは、わたしたちだね! わたしたち!」
というわけで、ハナちゃんちでキジムナーファイアクッキングとなった。
カナさんや妖精さんも参加して、仲良くお料理である。
「おいしくするですよ~」
「ハナ、しおこしょうする?」
「あい~」
「私はキジムナー火サラダをつくりますね」
「しょくざいがもえたね! みごとにもえてるね!」
……キッチンから、なにやら不穏な会話が聞こえてきた。
あれ? そのまんま食べるんじゃないの?
そういやさっきスルーしてたけど、お料理するって言ってたな……。
じゅわじゅわと「何か」を炒める音が聞こえてくるけど、大丈夫なの?
「……タイシさん、ウチ、ふあんになってきたさ~」
「だ、大丈夫ですよ。彼女たち、お料理上手ですから」
不安いっぱいの偉い人ちゃんがぷるぷるする横で、俺は心にも無いことを言う。
時には嘘も必要なのだ。必要なのだ……。
そうして二人で震える中、とうとう――審判の時が訪れる。
「ふたりとも~、おいしくできたです~」
「おめしあがりください」
「結構普通に料理できましたよ、これ」
「あまいものは、このあとだよ! あとだよ!」
三人がコトコトと、ちゃぶ台の上に出来たてお料理を並べてくれた。
うん、燃えてますね。
本日の献立は、炎上サラダに炎上回鍋肉、炎上お味噌汁に普通のご飯でございます。
おまけに、甘い物がさらにあるらしい。
どうしてこうなった?
「タイシさん、やけにもえてるさ~……」
「そ、それだけ力がこもっていると言うことで……」
俺と偉い人ちゃん、なぜか正座になる。
これからこの炎上シリーズを、食べるのだ。
「どうぞです~」
ハナちゃん満面の笑顔ですね。
上手に出来たっぽい。
……では、俺から行ってみましょう!
――あ、ほのかな海の香りがする。
◇
「たくさんたべたさ~」
「ハナも、おなかいっぱいです~」
「キジムナー火、マヨネーズにもよく合いますね」
美味しくキジムナー火食事会を終え、いまはまったりした雰囲気が漂っている。
ほんとびっくり、いろんなお料理の具材に使えたよ。
出汁濃いめの野菜たっぷりお味噌汁に入れたら、ほのかな塩味が良いアクセントになって、歯ごたえも面白かった。
ハナちゃん作成の炎上回鍋肉は、醤がよく効いていてご飯が進む。
野菜はシャキシャキ、お肉代わりのキジムナー火はふんわり食感だった。
ユキちゃんが作った炎上サラダも、マヨネーズの酸味が炎によく合い新鮮な味わい。
まあとにかく、なかなかのお食事だったわけだ。
「このおやつも、おいしいさ~」
「塩キャラメルパフェみたいで、深みがありますね」
「おいしいです~」
無事食事も終え、妖精さん渾身の炎上パフェもなかなかのものだ。
ただビジュアルは激しい。ちなみにイトカワちゃん作成である。
この禍々しい見た目とは裏腹に「味は」満点のスイーツ、彼女にしか作れない。
「このあとは、しおサウナさ~?」
「そうですね。でも満腹時は良くないので、落ち着いてからにしましょう」
「わかったさ~」
ということで、偉い人ちゃんは食休みをしてもらう。
俺は俺で、葉っぱハウスのスチームサウナを準備しておこう。
「では、ちょっと準備してきますね」
「なにからなにまで、ありがたいさ~」
「ハナたちは、あとからいくですよ~」
みんなに見送られて、ハナちゃんちから出て温泉施設へ向かう。
現地では、親父と高橋さんやエルフたちが作業していた。
「おう大志、水源引いてきたぜ」
「これなら、水の確保も楽だろ」
現場では、水道工事が完了していた。
前に掘った、斜面から湧き出す水をサウナエリアまで引いてきたのである。
これで水風呂も作れるし、スチームサウナ用の水を確保するのも楽ちんだ。
急遽今日に間に合わせるため、突貫工事で進めてくれた。感謝だね。
「じゃあ、室内を暖め始めますか」
「おゆを、わかすさ~」
「うちもてつだうさ~」
準備が整ったところで、サウナ室を蒸気で充満させる作業に移る。
これは熱操作大得意の、ドワーフちゃんたちが担当してくれた。
今この村では、みんなで協力して、偉い人ちゃんをなんとかするためにがんばっている。
彼らの頑張りに、感謝することひとしおだ。
そうして準備を進めて、偉い人ちゃんのおなかも良い感じになったところで。
いよいよ、本作戦を実行する。
――塩サウナで、おはだぷるぷる大作戦だ!
「は~い、こちらへどうぞ~」
「いまいくさ~」
良い感じに蒸気が充満した葉っぱサウナへ、偉い人ちゃんを招き入れる。
室内では、水着姿の女子たちが準備万端で待っていた。
「はじめましょうか」
「では、お塩で揉みますよ」
「ありがとうさ~」
(わたしもてつだうよ~)
(せっかくだから、わたしも!)
水着姿のユキちゃんも参加し、みんなで偉い人ちゃんをお塩でもみもみだ。
神輿とオレンジちゃんも、なぜか参加。
でもまあ沖縄ではこれらのコンボが効いたので、わらにもすがる思いである。
「これは美容に良いお塩とハーブなので、お肌もぷるぷるです」
「――それ詳しく」
「びようにいいの?」
「おはだぷるぷる?」
そしてユキちゃん自爆。うかつな情報を漏らしたため、女子エルフたちに囲まれた。
みなさん、後でね、後で。
そのお塩、百グラムで千円する高級品なのだから。
◇
「わきゃ~ん」
成功しました。あっさり!
キジムナー火とサウナ、効き過ぎでしょ。
偉い人ちゃんは、真っ黒な汗を沢山流して、最終的につやつやお姫様へと変身なされた。
大成功だね!
「うまくいったです~!」
「やっぱり、キジムナー火凄いですね」
つやつやお姫様になった偉い人ちゃんを見て、俺たちもにっこりだよ。
しっぽは黄緑色に戻り、ほっと一安心。これで冬が来ても、なんとかなる……。
念のため、キジムナー火は常にストックしておこう。
追加発注、しとかないとな。
「おはだ……おはだぷるぷる……しかし」
「げきてきな、こうか……ただし」
「このおしお、めちゃくちゃたかいとか、ふるえる……」
「美しくなるためとは言え、あまりに高いわ……」
ちなみに女子エルフたちも、今はお肌ぷるぷるである。
お手伝い頂いた報酬として、偉い人ちゃんに使ったお塩を贈呈。
大喜びでスチーム塩サウナを満喫し、念願のお肌を手に入れた。
……ただし最後に塩の値段を告げたら、別の意味でぷるぷるし始めた。
これ、あのなんとかするエステサロンで販売してるらしく、ユキちゃんが購入してきた。
すごいよねあのお店。
ということで、割とマネーパワーでなんとかしたけど、ほんと良かった。
偉い人ちゃんの青しっぽ騒動が収まり、一時の平和が戻ってきたのだ。
――そう、一時の平和である。
これは、警告だ。
油断してはならないという、アラームなのである。
偉い人ちゃんの体質は、薄氷の上を歩いているようなものだった。
今回は事なきを得たけど、一歩間違えれば……という話だったと俺は考える。
実際、もっと寒い時期に今回の事態が起きていたらと考えたら――寒気がする。
なぜこうなったか、早急に解明しなければならないし、季節的に猶予はそれほど無い。
「わきゃきゃ~ん、みんな、ありがとうさ~!」
ただまあ、今だけは。
体質が改善された喜びを、分かち合おう。