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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第二十二章 冬への備えは
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第六話 どうしても、食べて欲しくて


「それでは、新作お料理大会を始めます!」

「おうちでつくれそうなやつ、やってみるですよ~!」

「「「おー!」」」


 祭りも後半戦にさしかかり、新作お料理大会が始まる。

 ともあれ、難しいお料理をするわけではない。むしろ簡単なやつだ。

 祭り参加者全員分を作るわけでもなく、十人前くらいの分量。

 村の奥様方に味見してもらって、おうちでつくってもらおうねって感じの、超内輪イベントである。

 観光客のみなさまが食べたいなと思った場合、参加者の方々にお願いして、あした作って貰ってくださいと告知してある。

 だって家庭料理だからね。

 

「れんしゅうしたせいか、みせるさ~!」

「あい~!」

「二十個くらい、作りましょう」


 とまあ緩い企画なのだけど、偉い人ちゃんは気合い入っているね。

 なにかを一生懸命ハナちゃんとこねていて、ユキちゃんは二人のサポートって感じだ。

 ハナちゃんチームは、何を作るのだろうか。


「きざむのは、ちょっとめんどうかしら~」

「できたら、わたしがこねるわね」


 その隣では、腕グキさんとステキさんもあれこれしている。

 包丁で野菜をみじん切りしているけど、まだどんな料理かはわからない。


「これくらいで、良いかしら」

「だいじょうぶなの」


 あと、エステさんとナノさんも参加だ。

 今は二人で、小麦粉をあれこれしているね。

 材料と手順に、腕グキさんチームと被っている気がしてならない。

 しかし二人は気にせず、黙々と作業をしているから、大丈夫なんだろう。


「わきゃ~、かあちゃ、これくらいでいいさ~?」

「もちょっとこねるさ~」

「わかったさ~」


 ドワーフちゃん代表としては、リーダーお母さんとミタちゃんだ。

 こちらのチームも、何かをこねている。

 というか、こねる料理多くない?


「ぶんりょうは、これでいいよね! いいよね!」

「タネ、できたよ! できたよ!」

(ありがと~)


 そして未確認飛翔体代表として、妖精さんと神輿も加わっている。

 何かしろいふわふわしたやつを準備しているけど、あれはなんだろ?

 まだどんなお料理になるかは、見えてこない。


「あら、わりとかんたんそう」

「こっちもそうね」

「それほど、てまがかからないかしら」


 参加者が作業している様子は、自由に見学可能だ。

 村の奥様方が手元をのぞき込んで、ふむふむと興味深そうに眺めているね。


「これって、うすくのばすの?」

「そうよ~、これくらいかしら~」

「おおきさは、これくらい?」

「だいたいだけどね」


 質問も可能で、参加者もそう出ない人も、ワイワイキャッキャと盛り上がる。

 ただ、どんな料理かは完成品を食べて初めてわかるのだ。

 まあ、俺は大体どんなのかわかって来ちゃったけど。

 形に特徴があるからね。


「わきゃ~ん、しこみおわったさ~」

「それじゃ、つぎの行程にうつりましょう」

「あい~」


 ハナちゃんチームも順調なようで、三人で仲良く連携しながら進めている。

 どうやらもう佳境のようで、ユキちゃんがガスコンロに火をいれた。

 この時点で、もうちたま人ならどんなお料理かわかる感じ。

 シンプルイズベストなやつだ。


 そうして各自仕込みを終えて、火を使い始める。

 炊事場のガスコンロ、携帯用ガスコンロ、ドワーフちゃんに協力要請などなど。

 これら様々な熱源を駆使して、どんどんお料理の完成が近づいていった。


「できたわよ~」

「こっちもです~」

「わたしたちも、だいじょうぶなの」

「うちらもさ~」

「こっちもだね! こっちも!」


 やがて、参加者全員のお料理が完成する。

 どれもちたま人にはなじみ深く、自分でも作れそうなやつばかり。

 なるほどこれは、みんな良いチョイスだ。

 それでは、試食会を始めましょう!


「はいみなさん出来上がりましたので、試食会を始めたいと思います」

「「「はーい」」」


 それぞれがお料理を持ち寄り、テーブルの上に置いていく。


「わたしたちは、これよ~」

「ぎょうざってやつね」


 まず、腕グキさんチームから。パリパリ羽根のついた、焼き餃子ちゃんだ。

 いくつか爆発しているけど、まあ食べる分には問題ない。


「あら、これいいわね」

「じゅわっとくるわ」

「つくるのに、きをつけるところってある?」

「やさいをきざむのが、たいへんなくらいかしら~」

「かわをうすくすると、あながあいちゃうからきをつけてね」

「おいしいです~」


 みんなで味見しあった結果、評判は上々だね。

 おうちでも作れそうな感じで、ごはんのおかずにもぴったりだ。

 ちなみにちたまにっぽん人が焼き餃子を好むのは、このごはんのおかずになるからという理由がでかいと言う。

 たしかに本場中国の水餃子じゃ、ご飯のおかずにしにくい。


「つぎは、わたしたちなの」

「どうぞ、食べてみて」


 お次はナノさんとエステさんチームだ。

 テーブルに置かれたせいろをエステさんが開けると、そこには肉まんがあった。

 なるほど、腕グキさんチームと行程や材料が似通っていたのは、このせいか。


「あら! ふわふわでいいわね!」

「ごはんのおかずには、ならないかんじかしら」

「これは、おやつに食べるのが良いと思うわ」

「なるほど」

「たしかに、おやつならいいかもです~」


 はふはふと肉まんを頬張る女子たち、これも好感触だね。

 ただご飯のおかずにならないのはその通りで、おやつとして定着したら良いかもだ。

 特に、冬の寒いときに食べる肉まんは、絶品だからね。

 これからの季節に、ぴったりの提案だ。


「うちらは、これさ~」

「ほくほくねっこで、つくれるやつさ~」


 ドワーフちゃんチームは……なんだろ、これ。

 ニラまんじゅうみたいなやつだけど、透明感がある。


「これは、いも餅ですね」

「あえ? いももちって、なんです?」

「もち米が育てられずに、お餅がなかなか作れなかった時代のとき、おいもを代わりにして作ったものよ」

「あや! おもちのかわりですか~」


 首をかしげていると、ユキちゃんがお料理を特定してくれた。

 なるほど、いも餅か。名前は知っているけど、この辺じゃ食べないやつだ。

 初めて目にしたよ。


「あや! たしかに、もちもちです~」

「これは良いですね」

「ほくほくねっこだけでできるのが、いいところさ~」

「かんたんに、つくれちゃうさ~」


 果たしていも餅は、たしかにもっちもちしていた。

 タレにもバリエーションがあって、甘辛い物やみたらし風、バター風味もあるね。

 シンプルだけど、幅が持たせられる。


「わきゃ~、これなら、つくれるさ~」

「あした、さっそくやってみるさ~」

「ふしぎな、しょっかんさ~」


 味見に参加したドワーフちゃんたちからの評判も、良い感じだね。

 いつも食べているほくほく根っこが、もちもちに変化するわけだ。

 彼女たちにとっては、新食感って感じかな?

 身近な主食だけでこれが作れるのも、ポイント高し。


「わたしたちは、これだよ! これだよ!」

「すぐにできるやつだよ! かんたんだよ!」

(おてがる~)


 今度は飛翔体チームだけど、カルメ焼きだねこれ。

 なるほどこれは、コツさえ覚えれば簡単に美味しく作れるやつだ。

 理科の授業で、作った記憶がある。

 まあ、俺のはめっちゃ膨らんだ上に、苦かったんだけど。

 とまあ、過去の失敗は水に流すことにして。


「あえ? これなんです?」

「カルメ焼きっていって、砂糖菓子だね」

「おかしですか~」


 試しに一つ食べてみると、食感はマカロンって感じだね。

 キャラメルの風味とサクサク食感で、なるほどこれは美味しく出来ている。


「あら、これいいわ~」

「おやつにぴったり」

「駄菓子屋でも作れるくらい、簡単ですよ」

「いいかもです~」


 ごはんのおかずにはならないけど、食後のおやつには良いかもだね。

 なにより簡単に作れるので、お試しあれって感じだ。


「タイシさん! しっぱいしたやつもどうぞ! どうぞ!」

「う、うん」


 おっと、俺だけ特別作品が用意してあった。

 タイミングか分量をミスったかで、小惑星形状に膨れたやつだ。

 でもまあ、材料はカルメ焼きだから大丈夫――うっそでしょ、とんが○コーン味だよ!

 あの材料でなぜこの味がでるのか、わからない、わからない……。


 とまあ、やっぱりイトカワちゃん謎クックの洗礼を受けて。

 最後のトリは、ハナちゃんチームだね。


「ハナたちは、これです~」

「どうぞさ~」


 お皿にかぶせられていた、銀色のあの蓋をハナちゃんがぱかっと取る。

 そこにあったのは――コロッケだ。

 とってもシンプルで、おなじみのお料理だね。


「なるほど、コロッケだね」

「そうです~」

「ほくほくねっこをつかってできる、かんたんなやつさ~」

「家庭料理では、定番ですよね」


 なるほどこれは、村では作っていなかったな。

 あれほど身近にあったのに、近すぎて気づかなかったよ。


「あら~、これはこうばしくて、おいしいわ~」

「さくさくしてるの」

「ごはんのおかずに、なるわね」

「わきゃ~、ほくほくねっこで、これができちゃうのはいいかもさ~」

「おいしいね! おいしいね!」

(ほくほく~)


 ちたまでも大人気料理だけに、村人たちにもウケているね。

 なるほどこれは良い。村でも定着するだろう。


「三人とも、よく気づいたね」

「えへへ」

「わきゃ~ん」

「村でコロッケを食べた記憶が無かったものでして」


 褒めると、三人ともてれってれだね。

 さてさて、それじゃあ三人が作ったコロッケを、俺も食べてみよう。


 と、コロッケに箸を伸ばしたところで――。


「わ、わきゃ~ん。タイシさん、これ……ウチがつくったやつさ~」


 偉い人ちゃんが、一つのコロッケをお皿にのせた。

 どうやら彼女が作った物らしく、おずおずと差し出してきたね。

 ……形は、ちょっと不格好。それと、やや揚げすぎなのが色でわかる。

 まだまだお料理慣れしていない感じが全面にでた、若干失敗コロッケである。


 でも、これは彼女一生懸命心を込めて作ったものだね。

 きっちり食べてあげよう。


「では、ありがたく頂きます」

「ど、どうぞさ~」


 もじもじと上目遣いの偉い人ちゃんが見つめる中、実食。

 うん、しっかりコロッケしているね。若干、衣が焦げちゃっているけど、それもまた味というもの。

 気持ちがたっぷり込められた、美味しいお料理だ。


「よく出来て、美味しいですね。それに気持ちが込められていて、胸もいっぱいです」

「わ、わきゃ~ん! よかったさ~!」


 お料理の感想を伝えると、偉い人ちゃん大喜びになった。

 黄緑しっぽをぱたぱた振って、ぴょんぴょんしている。


「よかったです~」

「がんばってましたからね」


 その様子を、ハナちゃんとユキちゃんもニコニコと見ているね。

 二人で偉い人ちゃんに、一生懸命教えたのだろう。

 

「わきゃ~ん、わきゃ~」


 安心したのか、偉い人ちゃんもコロッケをつまみ始めた。

 緊張がほぐれたみたいで、良かった良かった。


「それはそれとして、これはハナがつくったやつですよ~。はい、あ~んです~」

「こっちは私です。どうぞ、どうぞどうぞ!」


 偉い人ちゃんの様子に和んでいると、ハナちゃんとユキちゃんに包囲された。

 左右から、それぞれが作ったコロッケをあーんしてねというオーラで圧迫される。

 も、もちろん食べますとも。


「ふ、二人ともありがとうね。ありがたく頂くよ」

「あい~」

「どうぞ」


 というわけで、二人にあーんをしてもらって、コロッケを食す。

 どちらも上手に出来ていて、とっても美味しかった。


「二人とも、美味しく出来ていたよ。さすがお料理自慢だね」

「うふふ~」

「ふふふ」


 こうして和やかに新作お料理大会は終わり、村の献立もまた増えた。

 奥様方もにっこにこで、明日早速食卓に上るメニューもあるだろう。

 美味しいお料理を食べて、みんなで団らんしてね。


 ――さて、これで収穫祭後半の、最初のイベントは終わった。

 引き続き、祭りを楽しもう!



 ◇



 祭り後半は、まったり上映会だ。

 野外にスクリーンを設置し、いろいろな映像を楽しむ。

 まずは、沖縄旅行の映像だね。


「あや~、おもしろいばめん、たくさんです~」

「ほら、ハナちゃんが落水した瞬間もあるよ」

「あやややや!」


 スクリーンには、海竜ちゃんに乗っていたハナちゃんが、かわいく落水する様子が映し出される。

 その後ろでは、マイスターが水面をバウンドしてミラクル落水している場面も収録されているけどね。


「あ、フネがてんぷくしたときのやつじゃん」

「あれはゆだんしたわ」


 さらにマイスターとステキさんペアのカヌーが、あり得ない動きでひっくり返る瞬間も。

 どうして直進していた次の瞬間、前触れも無くひっくり返るのかは未だにわかっていない。


「キジムナーさんたちです~」

「いろいろお世話になったよね」

「あい~、いいひとたちだったです~」

「わきゃ~ん、このひとたちのおかげで、しっぽがみどりになったさ~」


 もちろん、人々との交流映像もある。

 にょきにょきハザード映像は、観光客たちも唖然としていたけど。


「ゆうひがきれいです~」

「フフフ……ツーショット」


 ニライカナイの美しい夕焼けも、ばっちり収録してある。

 幻想そのものの風景が広がり、これが実在する地であるとは信じてもらえないだろう。


「こんなせかいが、あるのか~」

「ちたま、すげえな~」

「うみってやつが、あるんだ」


 上映した映像は、特にきのこが自慢の森エルフたちにウケた。

 彼らは、ちたまの風景を初めて見るからね。


「あ、ひこうきがりりくするやつです~」

「――……」

「……」


 大迫力の飛行機場面では、なぜか村のエルフたちが気絶した。

 きみたち、トラウマになってない?

 とまあ、楽しい旅行映像の次は、アニメ上映だ。


「あにめっ! あにめっ!」

「まじょっこのやつだわ!」

「しんさくかしら!」


 オープニングが始まると、平原のアニメ好きダークエルフたちがすちゃっと着席。

 最前列で、お目々をキラキラさせている。

 というか、このアニメ上映は彼女たちのたってのお願いで実現したものである。

 どんだけキュア的なやつにハマっちゃったのか……。


「すてきなおどりだね! こうかな! こうかな!」

「わたしたちもおどるよ! どうかな! どうかな!」

「きゃい~」


 さらにキュア的なやつのエンディングを見て、妖精さんたちもまねしてダンシング。

 すぐに振り付けを覚えちゃうのが、またすごい。

 あ、サクラちゃんがこけた。


 とまあ、楽しい上映会を眺めながら、俺はまったりお酒を楽しむ。


「タ~イシ、きょうはもりあがったですね~」

「そうだね。来年もまた、こうしてお祭りしようね」

「あい~!」


 俺の正面に座っているハナちゃんは、まだもぐもぐとお料理を食べている。

 けど、ぶっちゃけ俺より食べているよねこれ。その小さな体に、どうやって収まっているかは謎である。

 たくさん食べて、すくすく育ってね。


「あ、大志さん、お酒注ぎますよ」

「ユキちゃんありがと。気が利くね」

「いえいえ」


 左に座っているユキちゃんは、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる。

 気の利くお嬢さんで、ありがたやありがたや。

 ちょっと酔っているのか、耳しっぽが顕現しまくりでこれまた眼福である。

 見た感じ、冬毛に生え替わりつつある感じだ。もうしばらくしたら、もっとふわふわになるだろう。

 めっちゃ楽しみ!


「ウチも、おまつりにさんかできて、よかったさ~」


 右に座っている偉い人ちゃんは、手酌でガンガン飲酒中だ。

 ドワーフちゃんたちが仕込んだあの強いやつ、水のように飲んでいるね。

 まあ今日はお祭りなので、これくらいは良いのではと思う。

 明日からお酒を控えて、健康的に過ごして頂きたい。


(このげーむ、むずかしめ~)

(だんまくってやつらしいよ!)


 後ろの方では、神様たちがまたゲームに興じている。

 弾幕シューティングらしいけど、なかなかマニアックなやつやってるね。


 そうして賑やかに収穫祭後半は過ぎていき、無事閉幕となる。


「これにて収穫祭を終了します。また来年、お祭りしましょう!」

「「「わー!」」」


 ぱちぱちと拍手が鳴り響き、楽しかった収穫祭は終わった。


「おかたづけは明日にして、今日はさくっと寝ましょう」

「そうすべ~」

「おれ、てんまくでねるわ」

「おれも」

「わたしたちは、おうちにかえっているわね」


 まったりとした雰囲気が漂う中、観光客も村人も、それぞれの寝床へと向かっていく。

 明日からは、また日常が始まる。というか、具体的には冬支度だね。

 長野県北部の極寒を乗り切るべく、越冬準備、始めよう!


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