表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第二十二章 冬への備えは
343/448

第四話 収穫祭、いよいよ始まり!


 とうとう収穫祭当日、みんな朝から広場で作業を開始する。

 わいわいキャッキャと賑やかだけど、せわしなくお仕事しているね。


「イノシシのまるやき、つくるぞ~」

「「おー!」」


 広場では、いつの間にか狩猟してきたとおぼしき、イノシシの丸焼きがエルフ男衆の手で行われている。

 火を通さないと危ない葉っぱもふんだんに使われていて、できあがるのが楽しみだ。


「わきゃ。こっちもじっくり、あぶるさ~」

「じかんをかけるさ~」


 その隣では、ドワーフちゃんたちも両手をかざして、ピラルクっぽいお魚をあぶり始める。

 でもそれちょっと凍ってるけど、大丈夫かな?


「おさけを、いせきからもってくるじゃん」

「どんだけひつようかな?」

「とりあえず、たくさんもってくればいいべさ」

「そだな」

「ばうばう」


 そんな広場を横切って、お酒運搬係のマイスターたちがぞろぞろと移動する。

 フクロオオカミ便を五便も出すようだけど、どんだけ運んでくる予定なのだろう。


「おれらは、イスとかいろいろじゅんびだな」

「おてつだいしましょ!」

「はこぶべ~」


 ほかには観光客のみなさまも、なんだかお手伝いしてくれている。

 今はえっほえっほと、テーブルやイスを運搬中だ。

 とっても助かる。


「わたしたちは、おりょうりよ~!」

「おいしくつくるです~!」

「がんばるの!」

「ごはんをたきましょう!」

「私もお力になりますよ」


 そして炊事場では、お料理自慢の女子エルフたちが戦闘開始だ。

 ユキちゃんも加わっているので、まあ大丈夫だろう。


「わきゃ~ん、ウチもおりょうり、がんばるさ~」

「うちもおてつだい、するさ~」

「ほくほくねっこ、たくさんもってきたさ~」


 ほかにも、偉い人ちゃんやお料理自慢ドワーフちゃんたちも参加だね。

 こちらは、お魚担当みたいだ。得意料理ってやつだね。

 偉い人ちゃんは、野菜の皮むきが主な作業っぽいけど……。


「おだんごたくさんつくろうね! おだんご!」

「いろんなおかし、つくらないとね! おかし!」

「ざいりょうたくさん~」


 その横に設営されている、臨時の炊事場では、妖精さんたちも奮戦中だ。

 コツコツと運んでおいたお菓子の材料が、これから彼女たちの手によって生まれ変わるのだ。

 どんなデザートになるか、楽しみだなあ。


「あ、しっぱいしちった。タイシさんようにしとこうね! タイシさんむけ!」

「まよいがないね! まよいが!」

「ざいりょうがまたこれね! おかしのざいりょうじゃないよね!」


 イトカワちゃん、そんな堂々と……。サクラちゃんがつっこんだように、迷いゼロだよ。

 それに彼女の前には、塩こしょうとかとんかつソースとか、お醤油やらの調味料が並んでいるわけで。

 おまけに、大根とかキャベツとかもあるね。

 アゲハちゃんの言うとおり、材料がとっても不安でござる……。

 うん、見なかったことにしよう。


「タイシさんめがうつろだね! うつろ!」

「おだんごたべて、げんきだしてね! げんき!」

「しっぱいしたやつだよ! どうぞ! どうぞ!」


 そんな様子を見た妖精さんたちに、気遣われてしまった。

 しかし、まだ準備を始めて十分なのに、失敗したやつが出来ているのか……。

 ――あら、この小惑星形状の大根、マドレーヌの味がするわ。ふしぎよね。


 と言う風に準備開始時点でもう洗礼を受けたけど、味は問題なかった? ので気にしないことにする。

 まあみんな準備に着手出来たみたいなので、俺も巡回のお仕事をしよう。

 広場に戻って、ヤナさんと合流しないとね。


「いよいよですね」

「ええ、開催はお昼をそれなりに過ぎた後ですので、この分なら大丈夫でしょう」

「そうですね」


 そうして広場に戻り、無事ヤナさんと合流。

 みんなで計画して、みんなで準備する大切な収穫祭。

 楽しくやっていこう。


「では、私たちは巡回を始めましょうか」

「はい、そうしましょう」


 こうして、収穫祭本番の朝を迎えた――。



 ◇



「かいじょうのじゅんび、できたっぽい」

「こんなかんじで、いいのかな?」

「むしろ、きあい、いれすぎたんじゃね?」


 開催に向けて、どんどん準備は整っていく。

 会場設営をお願いした観光客のみなさま、加減がわからず結構ゴージャスな感じになっていた。


「大志さ、なんか飾り付けが凄いけどこんな予定あったか?」

「イスとテーブル、ござを敷く位しか考えてなかったよ」

「だよな……」


 広場の会場では、暴走した平原の人たちによりキャンプが設営されていた。

 そこまで頼んではいなかったのだけど、これはこれで良いではないか。

 酔い潰れても、天幕で眠れちゃうのが素晴らしい。

 人をとことんダメにする会場ができあがったよ。


「おさけもってきたぞ~」

「こんだけありゃ、じゅうぶんだろ」

「でも、タイシさんのおさけだけ、なんかみょうにへってたな」

「なんでだろ」


 そのゴージャスな会場に、マイスター率いるお酒運搬組がやってきた。

 リアカーにたくさんのお酒を積んでいるけど、とことん飲むつもりなのが見て取れる。

 ……しかし、俺が仕込んだお酒がまた減っていたようだ。

 なぜなの? どれだけ仕込んでも、いつの間にか空っぽになってたりするんだよ。

 ミステリー極まりない。それか、容器に穴でもあいてるのかな?


 とまあ、ミステリーは今のところ放置するとして。

 炊事場のお料理班は、どんな感じかな?


「にこみりょうりは、もうはこんどきましょう」

「おとこしゅう、よんでくるわね」

「こっちもできたわ~」


 炊事場に足を運ぶと、奥様方は大忙しだ。

 子猫亭のオードブルもあとから持ってくるけど、メインは奥様方のお料理だからね。

 今回は参加人数も多いので、作る量も比例する。

 そりゃ忙しいのも当然だ。


「おてつだい、しますよ」

「せっかくだからね」

「わたしらも、おりょうりつくりたいし」


 そんな戦場に、観光客のお料理自慢エルフたちもはせ参じる。

 これはこれは、心強い味方が増えたかもだ。


「じゃあ、わたしラーメンつくるわね」

「わたしも」

「それなら、わたしはラーメンね」


 ……みなさん、ラーメンは三分で出来ますよ。

 今作らなくても良い感じです。収穫祭の最中でも間に合いますので。

 というか、ラーメン以外で戦力にならない可能性が……。


「おねえさんたち、おてつだいしてくれるです?」

「ええ、もちろんよ」

「できることがあったら、まかせてね」

「というか、そのおりょうりどうぐ、つかいたい」


 なんとなく微妙な感じの観光客お料理傭兵さんだけど、彼女たちにハナちゃんが声をかけているね。

 お手伝いのお願いをするみたいだ。


「それなら、おやさいをきってほしいです~」

「わかったわ。どうすればいいのかしら」

「これをこうして、こんなかんじでこうです~」

「それなら、わたしらでできるわね」

「おねがいです~」


 一時はどうなることかと思われたけど、ハナちゃんのナイスサポートで事なきを得た。

 確かにお野菜の下処理は面倒で時間がかかるから、それをお願いすると一気に楽になるね。

 ハナちゃんしっかり、成長してらっしゃる。お父さん感動だよ。

 あとで褒めてあげないとね!


 そうして着々と準備は進んで行き、とうとう作業は完了!

 子猫亭のオードブルも運んできたので、いつでも開催可能だ。

 みんなに広場へ集まってもらおう。


「こちら大志、ヤナさん聞こえますか。どうぞ」

『こちらヤナ。聞こえます。どうぞ』

「こちら大志、準備が完了しましたので、消防団の方々に連絡してみなさんを広場に集めて下さい。どうぞ」

『こちらヤナ、了解しました。どうぞ』

「こちら大志、よろしくお願いします。通信終了」


 ヤナさんに無線連絡し、消防団の組織力を使って人を誘導する。

 さてさて、もうすぐ祭りだ。

 今日はとことん、楽しもう!



 ◇



 広場に全員が集まり、わくわくした様子でそわそわしている。

 みんな、開催の宣言を待っているのだ。


「ヤナさん、お願いします」

「はい」


 期待が盛り上がる中、ヤナさんに開催の宣言をお願いする。

 この村の行政トップだからね。こういうお仕事、回ってくるのですよ。

 場慣れしているヤナさんも、若干緊張した様子だ。


「みなさん、今年も無事、収穫祭を迎えられました。もうほんと、一安心です」

「だべな」

「たいふうがきたときとか、ほんとふるえた」

「いなさくって、たいへんだわ~」

「みんなで、がんばったさ~」

「そうだね! そうだね!」


 ヤナさんが話し始めると、稲作参加者はひとしきり同意する。

 これまで、田起こしに田植えに、追肥に水の管理、さらには稲刈りといろいろあった。

 それらを乗り越え、ようやく今日という日を迎えたわけで。


「外部の方々も、大変よくして頂いて感謝しております。ほんと助かりました!」

「おれらも、たすかってるからな~」

「やきものとか、いろいろあるわね」

「しおぶそくも、かいしょうされてきたもんな~」


 続いてあっちの森やきのこ自慢の森、平原の人たちへの感謝も述べる。

 彼らの協力無しには出来なかったことが、たくさんあるからね。

 持ちつ持たれつ、今後も良い関係を維持していこう。


「まあほかにも色々あるのですが、話が長くなるとアレなので、ここらで締めちゃいます」

「そだな」

「おまつりのときのはなそう」

「そうすべ~」


 ヤナさん的にはもっと話したいことがあるのだろうけど、目の前にはごちそうがたんまりなわけで。

 みんなも、早くお祭りを始めたいだろう。積もる話は、お祭りの時に、だ。

 そうして短めの前口上を述べた後――。


「では、これより収穫祭を開催します。みなさん、存分にお楽しみ下さい!」

「「「わー!」」」


 収穫祭の開始が、宣言された。

 いよいよお祭りが始まる。


「ではでは、神様にお供えしよう」

「あい~」

「こちらが、お供え物です」


 ようやく開催ということで、まずは神様たちにお供えだ。

 ハナちゃんとユキちゃんの二人で、神様用テーブルへとご案内だ。

 

(おそなえもの~!)

(ごうかだね!)


 二人の神様は、テーブルに並べられたごちそうを見て、ほよっほよと光っておられる。

 ささ、どしどしあぶだくしょんして下さいだ。


(おいし~!)

(ふしぎなたべもの、たくさん!)


 やがてピカピカ光って、お料理が消えたり食器が消えたりする。

 ……輝きの色からすると、オレンジちゃんが食器ごと持って行っている感あり。

 ま、まあ、大事にして下さいだ。


「この後もどしどしお供えしますので、たっぷり食べて下さい」

(ありがと~)

(たっぷりたべるね!)


 さてさて、神様へのお供えもしたところで、俺たちもお料理を食べよう。


「ハナちゃん、ユキちゃん。お料理食べようか」

「あい~!」

「あっちに座って、のんびり食べましょう」


 三人でお料理が並べられているテーブルに赴き、好きな料理をお皿に盛っていく。

 エルフカレーにごはんに、燻製にオムレツに……。

 お味噌汁もあり、サラダに炒めものにとバリエーション豊富だね。

 お魚料理もたくさんあって、ドワーフィンウナギの蒲焼きももちろんある。

 前のお祭りより、お料理が豪華な感じだね。


「タイシタイシ~、このムニエル、ハナがつくったですよ~」

「おお、それなら食べないとね!」

「ですです~」


 どれを盛ろうか迷っていると、ハナちゃんがムニエル食べてアピールだ。

 エルフィン鱒を使った、食べ応えありそうなお料理だね。

 バターの香りが漂って、とっても美味しそうだ。

 ではでは、一つお皿に盛って……と。


「ハナちゃんの作ったムニエル、楽しみだよ」

「うふ~」


 お皿に取り分けられたムニエルを見て、ハナちゃんうふうふだね。

 並べられているやつも、ぴかっと光って消えたりする。

 神様もお気に入りのお料理だ。これは期待高まる。


「あ、卵料理は私が作りました。是非ともご賞味下さい」

「ユキちゃん卵料理担当だったんだ」

「はい。得意料理に卵関係が多いもので」

「それは楽しみだ」


 と言うことで、ユキちゃん担当の卵料理もお皿に盛ろう。

 オムレツに、黄身が半熟の半熟肉巻き卵もあるね。

 卵そぼろもあったり、ほかにも温泉卵もある。

 結構バリエーション豊富だ。

 ひょいひょいと、お皿にのせていく。


 ほかにも何品か取り分けて、準備完了。

 あっちのあいているところに座って、頂きますだ。


「じゃあ食べよう。頂きます」

「いただきますです~」

「頂きます」


 まずは、ハナちゃんご指定のエルフィン鱒のムニエルから。

 サクッと一口食べると、バターの香りがふわっと漂い、表面はカリッとした歯ごたえ。

 塩こしょうのちょうど良い加減の風味が味に彩りを添えて、中の身はふわっふわ。

 脂の乗ったエルフィン鱒だけど、焼いてもぼそぼそにならずとってもジューシー。

 これは美味しいね!


「おお! ハナちゃんこれ美味しいよ。さすがお料理上手だね」

「うふ~!」


 美味しいと褒められて、ハナちゃんお耳がへにょっと垂れちゃう。

 ご機嫌でうふうふハナちゃんだね。


 じゃあ次は、ユキちゃんが担当した卵料理だ。

 なんか肉巻き卵とかめったに食べないので、これから行こう。

 お味のほどは――基本は照り焼きか。

 牛肉は醤油とみりんベースで甘辛く味付けされ、筋張ったところも無くすんなりかみ切れる。

 そして卵は、なんと味付け卵!

 とろりとした半熟の黄身に、出汁香るぷるぷるの白身の食感が楽しい。

 これもシンプルだけど、工夫が凄いお料理だね。


「この肉巻き卵も、凄く工夫してあって美味しい。手間かかってるね」

「ふふふ。がんばりました」

「さすがだよ」


 ユキちゃんもお料理を褒められて、ニコニコ笑顔だね。

 ちなみに耳しっぽは朝から出てました。うかつなキツネさんだ。

 とまあ、二人と一緒に楽しくお料理を平らげていく。

 どのお料理も、気合い入っていてとても美味しい。


「わきゃ~ん、タイシさん、うちもごいっしょしてよろしいさ~?」

「ええ、どうぞこちらへ」

「ありがとうさ~」


 そうしてお料理を堪能していると、ビールが注がれたジョッキを片手に、偉い人ちゃんがやってきた。

 同席を希望してきたので、場所を作ってお座り頂く。


「ささ、タイシさんもいっぱいやるさ~」

「これはこれは、どうもありがとうございます」


 座った偉い人ちゃんは、シュパッとグラスを取り出し俺に手渡すと、瓶ビールもまたどこからか取り出してトクトクと注いでくれた。

 冷えたビールとか、謎空間に仕舞ってあるのね。


「カンパイするさ~」

「ですね。では、かんぱーい!」

「カンパイさ~!」


 グラスとジョッキをコツッと当てた後、二人でビールを一気飲み!

 冷えたビールが喉を潤し、炭酸の刺激とホップの苦みが爽やかさを倍増させる。

 やっぱり、一杯目はこれだよね!

 偉い人ちゃんもグイっとジョッキを呷り、一気に飲み干す。

 それ、ペットボトルのコーラ一気飲み並に難易度高い技ですよ……。


「うわっきゃ~ん! ひえたビールは、たまらんさ~!」

「ですね。労働の後は、これが一番です」


 ぷっはーと若干おじさんぽい仕草をする偉い人ちゃんだけど、まだまだうら若き娘さんなわけで。

 でも、ビール一気飲みしたらそうなっちゃうよね!


「どしどしのむさ~」

「ええ、お付き合いしますよ」


 こうして偉い人ちゃんも輪に加わり、一緒にキャッキャウフフとお酒やお料理を堪能していく。


「うふ~、これおいしいです~」

「ウナギのひつまぶし、完成度高いね」

「です~」

「こっちの謎のエビの鬼殻焼きも、なかなかですよ」

「おさけに、よくあうさ~」


 そんな感じで三人で談笑しながら、お食事したりお酒もたくさん飲んだりと、楽しく過ごしていると――。

 

(のみすぎた~)

(おなじく!)


 ほよよっと飛んできた飲み過ぎ神輿が、あぐらをかいた俺の膝にダイブしてきた。

 うちの子、開始一時間にしてもうぐにゃぐにゃだよ……。

 オレンジちゃんも飲み過ぎたようで、着ているポロシャツのポケットに潜り込んでしまった。

 そこで寝ちゃうの?


 とまあ、和やかに始まったお祭りはまだまだ前半戦。

 しばらくしたら、新作お料理大会や上映会などがある。

 最後まで完走できるよう、ペース配分を気をつけて行こう!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ