第四話 収穫祭、いよいよ始まり!
とうとう収穫祭当日、みんな朝から広場で作業を開始する。
わいわいキャッキャと賑やかだけど、せわしなくお仕事しているね。
「イノシシのまるやき、つくるぞ~」
「「おー!」」
広場では、いつの間にか狩猟してきたとおぼしき、イノシシの丸焼きがエルフ男衆の手で行われている。
火を通さないと危ない葉っぱもふんだんに使われていて、できあがるのが楽しみだ。
「わきゃ。こっちもじっくり、あぶるさ~」
「じかんをかけるさ~」
その隣では、ドワーフちゃんたちも両手をかざして、ピラルクっぽいお魚をあぶり始める。
でもそれちょっと凍ってるけど、大丈夫かな?
「おさけを、いせきからもってくるじゃん」
「どんだけひつようかな?」
「とりあえず、たくさんもってくればいいべさ」
「そだな」
「ばうばう」
そんな広場を横切って、お酒運搬係のマイスターたちがぞろぞろと移動する。
フクロオオカミ便を五便も出すようだけど、どんだけ運んでくる予定なのだろう。
「おれらは、イスとかいろいろじゅんびだな」
「おてつだいしましょ!」
「はこぶべ~」
ほかには観光客のみなさまも、なんだかお手伝いしてくれている。
今はえっほえっほと、テーブルやイスを運搬中だ。
とっても助かる。
「わたしたちは、おりょうりよ~!」
「おいしくつくるです~!」
「がんばるの!」
「ごはんをたきましょう!」
「私もお力になりますよ」
そして炊事場では、お料理自慢の女子エルフたちが戦闘開始だ。
ユキちゃんも加わっているので、まあ大丈夫だろう。
「わきゃ~ん、ウチもおりょうり、がんばるさ~」
「うちもおてつだい、するさ~」
「ほくほくねっこ、たくさんもってきたさ~」
ほかにも、偉い人ちゃんやお料理自慢ドワーフちゃんたちも参加だね。
こちらは、お魚担当みたいだ。得意料理ってやつだね。
偉い人ちゃんは、野菜の皮むきが主な作業っぽいけど……。
「おだんごたくさんつくろうね! おだんご!」
「いろんなおかし、つくらないとね! おかし!」
「ざいりょうたくさん~」
その横に設営されている、臨時の炊事場では、妖精さんたちも奮戦中だ。
コツコツと運んでおいたお菓子の材料が、これから彼女たちの手によって生まれ変わるのだ。
どんなデザートになるか、楽しみだなあ。
「あ、しっぱいしちった。タイシさんようにしとこうね! タイシさんむけ!」
「まよいがないね! まよいが!」
「ざいりょうがまたこれね! おかしのざいりょうじゃないよね!」
イトカワちゃん、そんな堂々と……。サクラちゃんがつっこんだように、迷いゼロだよ。
それに彼女の前には、塩こしょうとかとんかつソースとか、お醤油やらの調味料が並んでいるわけで。
おまけに、大根とかキャベツとかもあるね。
アゲハちゃんの言うとおり、材料がとっても不安でござる……。
うん、見なかったことにしよう。
「タイシさんめがうつろだね! うつろ!」
「おだんごたべて、げんきだしてね! げんき!」
「しっぱいしたやつだよ! どうぞ! どうぞ!」
そんな様子を見た妖精さんたちに、気遣われてしまった。
しかし、まだ準備を始めて十分なのに、失敗したやつが出来ているのか……。
――あら、この小惑星形状の大根、マドレーヌの味がするわ。ふしぎよね。
と言う風に準備開始時点でもう洗礼を受けたけど、味は問題なかった? ので気にしないことにする。
まあみんな準備に着手出来たみたいなので、俺も巡回のお仕事をしよう。
広場に戻って、ヤナさんと合流しないとね。
「いよいよですね」
「ええ、開催はお昼をそれなりに過ぎた後ですので、この分なら大丈夫でしょう」
「そうですね」
そうして広場に戻り、無事ヤナさんと合流。
みんなで計画して、みんなで準備する大切な収穫祭。
楽しくやっていこう。
「では、私たちは巡回を始めましょうか」
「はい、そうしましょう」
こうして、収穫祭本番の朝を迎えた――。
◇
「かいじょうのじゅんび、できたっぽい」
「こんなかんじで、いいのかな?」
「むしろ、きあい、いれすぎたんじゃね?」
開催に向けて、どんどん準備は整っていく。
会場設営をお願いした観光客のみなさま、加減がわからず結構ゴージャスな感じになっていた。
「大志さ、なんか飾り付けが凄いけどこんな予定あったか?」
「イスとテーブル、ござを敷く位しか考えてなかったよ」
「だよな……」
広場の会場では、暴走した平原の人たちによりキャンプが設営されていた。
そこまで頼んではいなかったのだけど、これはこれで良いではないか。
酔い潰れても、天幕で眠れちゃうのが素晴らしい。
人をとことんダメにする会場ができあがったよ。
「おさけもってきたぞ~」
「こんだけありゃ、じゅうぶんだろ」
「でも、タイシさんのおさけだけ、なんかみょうにへってたな」
「なんでだろ」
そのゴージャスな会場に、マイスター率いるお酒運搬組がやってきた。
リアカーにたくさんのお酒を積んでいるけど、とことん飲むつもりなのが見て取れる。
……しかし、俺が仕込んだお酒がまた減っていたようだ。
なぜなの? どれだけ仕込んでも、いつの間にか空っぽになってたりするんだよ。
ミステリー極まりない。それか、容器に穴でもあいてるのかな?
とまあ、ミステリーは今のところ放置するとして。
炊事場のお料理班は、どんな感じかな?
「にこみりょうりは、もうはこんどきましょう」
「おとこしゅう、よんでくるわね」
「こっちもできたわ~」
炊事場に足を運ぶと、奥様方は大忙しだ。
子猫亭のオードブルもあとから持ってくるけど、メインは奥様方のお料理だからね。
今回は参加人数も多いので、作る量も比例する。
そりゃ忙しいのも当然だ。
「おてつだい、しますよ」
「せっかくだからね」
「わたしらも、おりょうりつくりたいし」
そんな戦場に、観光客のお料理自慢エルフたちもはせ参じる。
これはこれは、心強い味方が増えたかもだ。
「じゃあ、わたしラーメンつくるわね」
「わたしも」
「それなら、わたしはラーメンね」
……みなさん、ラーメンは三分で出来ますよ。
今作らなくても良い感じです。収穫祭の最中でも間に合いますので。
というか、ラーメン以外で戦力にならない可能性が……。
「おねえさんたち、おてつだいしてくれるです?」
「ええ、もちろんよ」
「できることがあったら、まかせてね」
「というか、そのおりょうりどうぐ、つかいたい」
なんとなく微妙な感じの観光客お料理傭兵さんだけど、彼女たちにハナちゃんが声をかけているね。
お手伝いのお願いをするみたいだ。
「それなら、おやさいをきってほしいです~」
「わかったわ。どうすればいいのかしら」
「これをこうして、こんなかんじでこうです~」
「それなら、わたしらでできるわね」
「おねがいです~」
一時はどうなることかと思われたけど、ハナちゃんのナイスサポートで事なきを得た。
確かにお野菜の下処理は面倒で時間がかかるから、それをお願いすると一気に楽になるね。
ハナちゃんしっかり、成長してらっしゃる。お父さん感動だよ。
あとで褒めてあげないとね!
そうして着々と準備は進んで行き、とうとう作業は完了!
子猫亭のオードブルも運んできたので、いつでも開催可能だ。
みんなに広場へ集まってもらおう。
「こちら大志、ヤナさん聞こえますか。どうぞ」
『こちらヤナ。聞こえます。どうぞ』
「こちら大志、準備が完了しましたので、消防団の方々に連絡してみなさんを広場に集めて下さい。どうぞ」
『こちらヤナ、了解しました。どうぞ』
「こちら大志、よろしくお願いします。通信終了」
ヤナさんに無線連絡し、消防団の組織力を使って人を誘導する。
さてさて、もうすぐ祭りだ。
今日はとことん、楽しもう!
◇
広場に全員が集まり、わくわくした様子でそわそわしている。
みんな、開催の宣言を待っているのだ。
「ヤナさん、お願いします」
「はい」
期待が盛り上がる中、ヤナさんに開催の宣言をお願いする。
この村の行政トップだからね。こういうお仕事、回ってくるのですよ。
場慣れしているヤナさんも、若干緊張した様子だ。
「みなさん、今年も無事、収穫祭を迎えられました。もうほんと、一安心です」
「だべな」
「たいふうがきたときとか、ほんとふるえた」
「いなさくって、たいへんだわ~」
「みんなで、がんばったさ~」
「そうだね! そうだね!」
ヤナさんが話し始めると、稲作参加者はひとしきり同意する。
これまで、田起こしに田植えに、追肥に水の管理、さらには稲刈りといろいろあった。
それらを乗り越え、ようやく今日という日を迎えたわけで。
「外部の方々も、大変よくして頂いて感謝しております。ほんと助かりました!」
「おれらも、たすかってるからな~」
「やきものとか、いろいろあるわね」
「しおぶそくも、かいしょうされてきたもんな~」
続いてあっちの森やきのこ自慢の森、平原の人たちへの感謝も述べる。
彼らの協力無しには出来なかったことが、たくさんあるからね。
持ちつ持たれつ、今後も良い関係を維持していこう。
「まあほかにも色々あるのですが、話が長くなるとアレなので、ここらで締めちゃいます」
「そだな」
「おまつりのときのはなそう」
「そうすべ~」
ヤナさん的にはもっと話したいことがあるのだろうけど、目の前にはごちそうがたんまりなわけで。
みんなも、早くお祭りを始めたいだろう。積もる話は、お祭りの時に、だ。
そうして短めの前口上を述べた後――。
「では、これより収穫祭を開催します。みなさん、存分にお楽しみ下さい!」
「「「わー!」」」
収穫祭の開始が、宣言された。
いよいよお祭りが始まる。
「ではでは、神様にお供えしよう」
「あい~」
「こちらが、お供え物です」
ようやく開催ということで、まずは神様たちにお供えだ。
ハナちゃんとユキちゃんの二人で、神様用テーブルへとご案内だ。
(おそなえもの~!)
(ごうかだね!)
二人の神様は、テーブルに並べられたごちそうを見て、ほよっほよと光っておられる。
ささ、どしどしあぶだくしょんして下さいだ。
(おいし~!)
(ふしぎなたべもの、たくさん!)
やがてピカピカ光って、お料理が消えたり食器が消えたりする。
……輝きの色からすると、オレンジちゃんが食器ごと持って行っている感あり。
ま、まあ、大事にして下さいだ。
「この後もどしどしお供えしますので、たっぷり食べて下さい」
(ありがと~)
(たっぷりたべるね!)
さてさて、神様へのお供えもしたところで、俺たちもお料理を食べよう。
「ハナちゃん、ユキちゃん。お料理食べようか」
「あい~!」
「あっちに座って、のんびり食べましょう」
三人でお料理が並べられているテーブルに赴き、好きな料理をお皿に盛っていく。
エルフカレーにごはんに、燻製にオムレツに……。
お味噌汁もあり、サラダに炒めものにとバリエーション豊富だね。
お魚料理もたくさんあって、ドワーフィンウナギの蒲焼きももちろんある。
前のお祭りより、お料理が豪華な感じだね。
「タイシタイシ~、このムニエル、ハナがつくったですよ~」
「おお、それなら食べないとね!」
「ですです~」
どれを盛ろうか迷っていると、ハナちゃんがムニエル食べてアピールだ。
エルフィン鱒を使った、食べ応えありそうなお料理だね。
バターの香りが漂って、とっても美味しそうだ。
ではでは、一つお皿に盛って……と。
「ハナちゃんの作ったムニエル、楽しみだよ」
「うふ~」
お皿に取り分けられたムニエルを見て、ハナちゃんうふうふだね。
並べられているやつも、ぴかっと光って消えたりする。
神様もお気に入りのお料理だ。これは期待高まる。
「あ、卵料理は私が作りました。是非ともご賞味下さい」
「ユキちゃん卵料理担当だったんだ」
「はい。得意料理に卵関係が多いもので」
「それは楽しみだ」
と言うことで、ユキちゃん担当の卵料理もお皿に盛ろう。
オムレツに、黄身が半熟の半熟肉巻き卵もあるね。
卵そぼろもあったり、ほかにも温泉卵もある。
結構バリエーション豊富だ。
ひょいひょいと、お皿にのせていく。
ほかにも何品か取り分けて、準備完了。
あっちのあいているところに座って、頂きますだ。
「じゃあ食べよう。頂きます」
「いただきますです~」
「頂きます」
まずは、ハナちゃんご指定のエルフィン鱒のムニエルから。
サクッと一口食べると、バターの香りがふわっと漂い、表面はカリッとした歯ごたえ。
塩こしょうのちょうど良い加減の風味が味に彩りを添えて、中の身はふわっふわ。
脂の乗ったエルフィン鱒だけど、焼いてもぼそぼそにならずとってもジューシー。
これは美味しいね!
「おお! ハナちゃんこれ美味しいよ。さすがお料理上手だね」
「うふ~!」
美味しいと褒められて、ハナちゃんお耳がへにょっと垂れちゃう。
ご機嫌でうふうふハナちゃんだね。
じゃあ次は、ユキちゃんが担当した卵料理だ。
なんか肉巻き卵とかめったに食べないので、これから行こう。
お味のほどは――基本は照り焼きか。
牛肉は醤油とみりんベースで甘辛く味付けされ、筋張ったところも無くすんなりかみ切れる。
そして卵は、なんと味付け卵!
とろりとした半熟の黄身に、出汁香るぷるぷるの白身の食感が楽しい。
これもシンプルだけど、工夫が凄いお料理だね。
「この肉巻き卵も、凄く工夫してあって美味しい。手間かかってるね」
「ふふふ。がんばりました」
「さすがだよ」
ユキちゃんもお料理を褒められて、ニコニコ笑顔だね。
ちなみに耳しっぽは朝から出てました。うかつなキツネさんだ。
とまあ、二人と一緒に楽しくお料理を平らげていく。
どのお料理も、気合い入っていてとても美味しい。
「わきゃ~ん、タイシさん、うちもごいっしょしてよろしいさ~?」
「ええ、どうぞこちらへ」
「ありがとうさ~」
そうしてお料理を堪能していると、ビールが注がれたジョッキを片手に、偉い人ちゃんがやってきた。
同席を希望してきたので、場所を作ってお座り頂く。
「ささ、タイシさんもいっぱいやるさ~」
「これはこれは、どうもありがとうございます」
座った偉い人ちゃんは、シュパッとグラスを取り出し俺に手渡すと、瓶ビールもまたどこからか取り出してトクトクと注いでくれた。
冷えたビールとか、謎空間に仕舞ってあるのね。
「カンパイするさ~」
「ですね。では、かんぱーい!」
「カンパイさ~!」
グラスとジョッキをコツッと当てた後、二人でビールを一気飲み!
冷えたビールが喉を潤し、炭酸の刺激とホップの苦みが爽やかさを倍増させる。
やっぱり、一杯目はこれだよね!
偉い人ちゃんもグイっとジョッキを呷り、一気に飲み干す。
それ、ペットボトルのコーラ一気飲み並に難易度高い技ですよ……。
「うわっきゃ~ん! ひえたビールは、たまらんさ~!」
「ですね。労働の後は、これが一番です」
ぷっはーと若干おじさんぽい仕草をする偉い人ちゃんだけど、まだまだうら若き娘さんなわけで。
でも、ビール一気飲みしたらそうなっちゃうよね!
「どしどしのむさ~」
「ええ、お付き合いしますよ」
こうして偉い人ちゃんも輪に加わり、一緒にキャッキャウフフとお酒やお料理を堪能していく。
「うふ~、これおいしいです~」
「ウナギのひつまぶし、完成度高いね」
「です~」
「こっちの謎のエビの鬼殻焼きも、なかなかですよ」
「おさけに、よくあうさ~」
そんな感じで三人で談笑しながら、お食事したりお酒もたくさん飲んだりと、楽しく過ごしていると――。
(のみすぎた~)
(おなじく!)
ほよよっと飛んできた飲み過ぎ神輿が、あぐらをかいた俺の膝にダイブしてきた。
うちの子、開始一時間にしてもうぐにゃぐにゃだよ……。
オレンジちゃんも飲み過ぎたようで、着ているポロシャツのポケットに潜り込んでしまった。
そこで寝ちゃうの?
とまあ、和やかに始まったお祭りはまだまだ前半戦。
しばらくしたら、新作お料理大会や上映会などがある。
最後まで完走できるよう、ペース配分を気をつけて行こう!




