第三話 食材集め
いろいろ企画が決まったところで、早速実行となる。
収穫祭に向けて、まずは食材集めだね。
「では、山菜採りに行きましょうか」
「「「はーい」」」
稲刈りを終えた翌々日、参加者を募って山に入る。
これから、秋の恵みを採取しまくって荒稼ぎするのだ。
「というわけで、先頭をお願いします」
「おう」
この村では、山菜採りに様式美が出来ている。
そう、マイスターを警報器にするいつもの光景だね。
「すげえ、あんしんかんがある」
「あるいみ、まちがいないもんな」
「なぜそれをえらぶかは、いまだにわからんけど」
村人たちも、マイスターにとても頼もしさを感じているようだ。
ほんと、確実だもんね。
ともあれ、山菜採り開始だ。みんなでてくてくと、山の中を進んでいく。
「あ、これはおいしいやつじゃん」
「ドクニンジンですね。超やばいやつですので、みなさん気をつけて下さい」
「まじで」
さっそく毒物レーダーに感あり。
ソクラテスをアレするときに使ったと言われるやつが、こんにちわした。
「これもいいかんじじゃん?」
「グロリオサですね。当然アレしますよ」
「やっぱし?」
自然薯と間違えてアレする例がある、とてもやばいやつも発見。
すっごい毒のあるやつだよ。
苦労して掘り返したのに、結果はアレということで、浮かばれないこと筆頭のやつだ。
「じゃあこれなら!」
「クワズイモですね。触れてはなりません」
「おっふ」
なんか今年は、芋系でマイスターにヒットするやつが多いな。
大体の毒草は彼のおかげで周知してあるだけに、今までスルーしていたやつを検知するようになってきたようだ。
「じゃあこれ!」
「おお、レア物ですね。もちろんアレするやつです」
「おつぎはこれ!」
「アレはしませんが、顔が引きつって笑ってるように見えるアレな毒がありますね」
「ほんじゃこれは?」
「この不気味さで、アレしないわけがないです。というか一発でアレです」
「まじか……!」
もはや日常ともなった光景をよそに、大体の危険物が周知されていく。
さすがマイスター、期待を裏切らない。
そうしてみんなで山菜を集めていると、良いやつを発見した。
「あ、自然薯がある」
「あえ? じねんじょってなんです?」
「おいもの一種だね。ほら、とろろごはんにかける、あれと似たようなやつだよ」
「あや! あのかゆくなるやつですか~」
ハナちゃんもとろろご飯は経験があるので、どんな物かは知っている。
ちょっと前にとろろを差し入れしたら、家族全員かゆさで大騒ぎしてたからね。
エルフの肌は繊細だったのだ……。
「これはその中でも高級食材のひとつで、売ると結構なお金になるよ」
「なるですか~」
「――よし、ほろう」
「てつだいます」
「うるべし」
ハナちゃんに売れるやつだと説明していたら、いつの間にかエルフたちが集まっていた。
この自然薯ちゃんは、食べずに売ることが決定した瞬間である。
「売るためには、きれいに掘り出す必要があります。こうしてこうして――」
というわけで、みんなでえっさほいさと自然薯掘りだ。
人手が多いのとエルフならではの器用さのおかげか、丁寧に上手く掘り出せたね。
「おお、たしかにみためすごい」
「なげ~」
「そら、こんだけほるひつようがあれば、たかくもなる……」
掘り出した自然薯ちゃん(売却予定)を見たみなさん、その見事さと面倒さに高級食材として扱われるのも納得したようだね。
ほんと、掘り出すの大変なんだよこれ。
「ほかにもありましたら、見つけて掘り出しましょう」
「きあいでてきた」
「おっしさがそう」
「うれるやつ、みつけるぞ~」
もはや収穫祭の食材集めという趣旨を忘れ、売るための自然薯探しが始まった。
本末転倒だけど、まあ堅いことは言いっこなしだ。
あわれ売られる予定の自然薯ちゃんは、あきらめて村の予算になって貰おう。
と、村のエルフたちが脇道にそれたところで――。
「おわ! しらないきのこ、たくさんある!」
「おもしろいな~!」
「これ、くえるのかな」
「だめね、ピリっときたわ」
ちたまで初めての山菜採りとなった、きのこ自慢の森エルフたちが大はしゃぎしているのが目に入った。
毒きのこはちゃんと電気抵抗かなんかで見分けているようで、食べられるやつはちゃっかり採取しているね。
ただ、アレするきのこでも興味津々といった感じだ。
触るだけでもダメなやつがあるので、そこは注意しておこう。
「みなさん、アレするやつは触るだけでも危ないものがあるので、念のため私か彼に確認してください」
「わかりました!」
「さっそくですが、これとかどうですか?」
「あとあと、これも!」
声をかけたら、きのこが自慢の森エルフたち、わーわーと集まってきた。
手にしているのはみんな食べられるやつで、そこは問題が無いね。
ちゃんとキクラゲも剥がしてくるあたり、きのこに関しては選別眼がすごい。
「タイシタイシ、いっぱいとれたです~」
そんな中、ハナちゃんもニコニコ笑顔で山菜を集めてきた。
天然マイタケに天然シメジなどなど、高級きのこもりだくさんだね。
お目の付け所が大変よろしい。
「ハナちゃんすごいね。美味しいやつたくさんだよ」
「うふふ~」
がんばったハナちゃんを褒めてあげると、ご機嫌になった。
この調子で、いろいろ集めて頂きたい。
「あとあと、これっておいしいです?」
頭をなでなでしていると、今度はポッケから何かを取り出した。
どれどれ……あ、ヤマブドウか。
「もちろんそれも、おいしいやつだよ。果物だね」
「よかったです~。あっちにいっぱいあったですよ~」
「え? ほんと?」
「ほんとです~。こっちです~」
どうやら、ヤマブドウがたくさんあるところを見つけたようだ。
ハナちゃんに手を引かれるがまま、目的地へと一緒に歩いて行く。
「ここです~」
そしてたどり着いた先には、確かによく熟したヤマブドウが、鈴なりに実っていた。
なかなかすごい穴場を発見したじゃないか。
「おお、ハナちゃんこれは凄いよ。ヤマブドウ取り放題の、穴場だね」
「やったです~!」
穴場の発見を褒め称えると、ハナちゃんぴょんぴょんして喜ぶ。
この辺あんまり探索していないから、この場所の存在に気づかなかった。
ほんと良い場所見つけたよ。
しかし、一つ障害があった。
「でもでも、たかくてとれないやつ、たくさんです~」
「確かに」
実っているヤマブドウ、だいたい高い場所にあるわけだ。
低い場所のは、森の動物たちに食べられたのだろうな。
俺の身長でも届かない場所に、鈴なり実っている。
普通に採取しようとすれば、これは大変な感じだ。
「どうしたら、いいですかね~」
「あれだね、こういうの得意な人たちに、お願いしよっか」
「あえ? とくいなひとです?」
――というわけで、得意な人たちにお願いして乱獲の開始だ。
(おそなえもの~)
「たくさんあるね! た~くさん!」
「どうぞ! どうぞ!」
「かたっぱしから~」
ウチの村自慢の飛行隊を投入すると、とても効率よく採取できちゃう。
空を飛べるって、便利だね!
「おいしいね! わりとあまいね!」
「おさけにできそうだね! おさけ!」
「つくってみましょ~」
「きゃい~」
まあ、つまみ食いで結構減ったりもするけれど。
しかし美味しい果物が実っていて、妖精さんたちもご機嫌だ。
きゃいっきゃいで、ヤマブドウちゃんに群がっているね。
「キャー! すっぱいやつ! すっぱいやつがあったよ!」
「おきをつけ~」
……アゲハちゃんが、ハズレを引いた。涙目でめっちゃすっぱ顔になっている。
そうそう、ヤマブドウって味の差が凄いんだよね。
とっても美味しいのがあったり、激酸っぱいのがあったり。
まあこれも、森の恵みの醍醐味ってことで。
ちなみにつまみ食いの多い子は、当然この酸っぱいブドウを引き当てる確率も上がるわけで。
これもまた、因果なり。
そうして楽しく山菜を収穫して、十分な食材を確保完了!
採れた山菜は、あく抜きをして準備しておく。
「いや~、いっぱいとったな~」
「しゅうかくさい、たのしみ」
「たくさんたべるべ~」
山菜採りイベントが無事閉幕し、食材たっぷりでニコニコエルフたち。
ご機嫌で山を下り始める。
「それじゃハナちゃん、この後はお料理検討会をするね」
「あい~」
「なにがいいか、みんなでえらぶさ~」
そんな中、ユキちゃんとハナちゃん、偉い人ちゃんが三人固まってキャッキャと打ち合わせをしているね。
新作お料理大会に向けて、いろいろ始めているようだ。
「わたしたちも、じゅんびしなきゃね~」
「すてきなおりょうり、つくろ」
「いいのが、あるかしら」
「らくそうなの、えらんどきましょ」
あと、お料理自慢の奥様方も参加するようで、参加人数は上々だね。
これは、当日が楽しみだ。
◇
翌日、湖畔リゾートとドワーフの湖で釣り大会を同時開催だ。
これは漁獲量を分散する目的が大きな比重を占めている。
大人数なので、ちたまの川で行うと資源が枯渇する可能性があるからね。
なんたって百人以上が参加するのだ。
「それでは、みなさん楽しく釣りをしてください。もちろん表彰式もありまして、大物や珍しいお魚が釣れたら受賞の可能性大ですよ」
「「「わー!」」」
村にある広場で開会を宣言し、表彰というご褒美も提示する。
これにはみなさん、大盛り上がりだ。
「どちらで釣りをするかは、好きに選んで良いぞ。途中で変更しても問題なし」
高橋さんが補足してくれたけど、釣りを行う湖についてはもうほんと自由だ。
エルフィンでもドワーフの湖でもどちらでも良い。
いちおう両方ともに、ライフセーバー要員は待機している。
安全面でも抜かりは無い。
「さっそくはじめるさ~」
「おおもの、つるさ~」
「わきゃ~」
そして釣り大会であるため、ドワーフちゃんたち大張り切りだ。
得意分野というかそれで生活しているので、そりゃ燃えるよね。
ということで始まった釣り大会だけど、運営側は担当がある。
俺はドワーフの湖で、高橋さんは湖畔リゾートだ。
「それじゃ、担当地域に向かおうかな」
「いっしょにいくです~」
「ぎゃう~」
「ライフジャケット、準備しますね」
担当であるドワーフの湖に向かうため、いそいそと移動の準備をする。
運営である俺とユキちゃん、ライフセーバー要員である海竜ちゃんだね。
ハナちゃんも一緒に来るようなので、カヌーにおいでませだ。
「おれは、まずこっちにするかな」
「おれもそうするじゃん」
「いっしょにいきましょう~」
「フネはおねがいね」
マッチョさんとマイスター、腕グキさんとステキさんもドワーフの湖へ向かうようだ。
というか、エルフたちの多くはそちらを選択している感じだ。
彼らのテリトリーは、湖畔リゾートなので、普段とは違う場所を選んでいるぽい。
「うちらは、あっちにいくさ~」
「たまには、いいかもさ~」
「ふだんとちがうおさかな、つるさ~」
逆にドワーフちゃんたちは、湖畔リゾートへ向かう子たちが多いね。
まあ、彼女たちがドワーフの湖で釣りをしたら、普段の日常とあんま変わらない。
普段とは違う雰囲気を求めて、お互い場所を選んでいるようだね。
みんな考えることは、同じなわけか。
とまあそれぞれが目的地に向かう中、俺たちもカヌーに乗って出発だ。
ハナちゃんとユキちゃんを乗せ、海竜ちゃんを随伴して移動開始――。
「あ、あわきゃ~……うまく、すすめないさ~……」
「あや~、まわってるです~」
「ちょうど、良いところにはまったみたいですね」
しようと思ったけど、なんか偉い人ちゃんのカヌーが水上でくるくる回っていた。
どうも、水流の境界に乗っちゃったみたいだね。
この川では操船をミスると結構起きる現象だけど、脱出は簡単で、ちょっとこぐだけである。
しかし偉い人ちゃんの場合は、一生懸命オールをこいでいるのだけど、事態は何にも解決していない。なんだか、涙を誘う出来事に遭遇してしまった。
早いところ、救助しておこう。
回る偉い人ちゃんのカヌーに自分が持っているオールを当て、回転を止める。
「わきゃ~ん、たすかったさ~!」
「あとは、ちょっと前にこぐだけでこちら側の水流に乗れますよ」
「だっしゅつ、できたさ~」
ようやくカヌーくるくる事件が解決し、偉い人ちゃんほっと一息だね。
そのまま一緒に移動して、ドワーフの湖へと到着。
さてさて、お仕事始めましょう!
「それじゃあ自分とユキちゃんは監視しているから、ハナちゃんはのんびり釣りをしてね」
「あい~」
「ウチも、このへんでつりをするさ~」
今回の釣りは陸上から釣り糸を垂らしても良いし、カヌーに乗って水上で行っても良い。
見た感じ、カヌーで釣りをする人が多めだね。
この辺はまあ、大丈夫そうだ。じゃあ次は、あっちで釣りをしているグループをちょっと確認しておこう。
「ユキちゃん、自分はあっちを見てくるね。こっちはお任せしちゃうよ」
「わかりました。何かありましたら、無線で連絡します」
「海竜ちゃんは、あっちかな」
「ぎゃうぎゃう」
それぞれ担当エリアを決めて、巡回を開始する。
ちなみに海竜ちゃんエリアでなにか起きた場合、強烈なエコーを発して貰うようお願いしてある。
湖中に響き渡るから、すぐにわかるだろう。
そうして巡回を開始し、湖を見て回る。
道中では魚が釣れて喜ぶエルフや、カヌーをひっくり返し落水したマイスターとステキさんの救助を行ったりと、そこそこの仕事をこなしていく。
やがてぐるっと一周し、ハナちゃんと偉い人ちゃんが釣りをしているエリアへ帰還した。
「タイシタイシ~、けっこうつれたです~」
「わきゃ~ん……」
さっそく俺の姿を発見したハナちゃん、お手々をぶんぶんと振って、釣れたよアピールだね。
そのそばにいる偉い人ちゃんは、まあ表情からいろいろと察することが出来た。
あれだ、ボウズってやつ。
「あや! またつれたです~」
「……わきゃ~ん」
ハナちゃんたちのところへ向かう途中でも、またまた釣れている。
そして偉い人ちゃんの浮きは、ぴくりとも反応しない。
結構近い場所で釣りをしているのに、この差はなんなのだろうね。
「ちっちゃいから、にがしてあげるです~」
「あわきゃ~……」
そして勝者の余裕か、小物は逃がしちゃうハナちゃんであった。
それを見た偉い人ちゃん、どんどんちっちゃくなっていく……。
これはあれだ、フォローしておこう。
「ま、まあ釣りは運もありますので、お気になさらずに」
「わきゃ~ん……」
おっと、傷口に塩を塗り込んでしまったかもしれない。
でもまあ、ほんとお気になさらず……。
「コツとしては、気楽に糸を垂らして、釣れなきゃそれはそれで良いやってやると意外といけますよ」
「やってみるさ~」
いちおう偉い人ちゃんにちょっとしたアドバイスをした後で、ハナちゃんのところへ近づく。
どれくらい釣れてるかな?
「ハナちゃん、釣果はどうかな?」
「こんなかんじです~」
ハナちゃんがビクを上げて見せてくれたけど、なんか大物たくさん釣れてる。
なにこれすごい。
「ハナちゃんなんか、凄いのたくさん釣れてるね」
「たいりょうです~」
「わきゃ~ん……」
釣果に大満足なのか、ハナちゃんにっこにこだ。
そしてそれを見た偉い人ちゃん、またまたちっちゃくなる。
近くで釣っているのに、この差は確かにへこむの間違い無しだ。
――と、思っていたときのこと。
「わきゃん! なんか、でかいのきたさ~!」
偉い人ちゃんの釣り竿が、ぐぐぐっと曲がる。
なかなかの大物が食いついたかも!
「わきゃきゃきゃ~ん!」
今までボウズだったせいか、気合いみなぎる偉い人ちゃんだ。
鬼気迫る表情で、一生懸命お魚との戦いを繰り広げる。
「がんばるです~!」
「網は任せて下さい!」
そんな偉い人ちゃんの戦いを見て、俺とハナちゃんも応援する。
手に汗握るバトルが眼前で繰り広げられ、やがて――。
「あわっきゃ~! でっかいのつれたさ~!」
「やったです~!」
とうとう、偉い人ちゃんが大きなお魚を釣り上げた!
なんかピラルクみたいなやつだけど、そんなのここに生息してたんだ。
「お、重いさ~……」
そして、お魚の重さにんぐぐと耐える偉い人ちゃんだ。
そのままだとカヌーがひっくり返っちゃいそうなので、引き上げるのと締めるのを手伝ってあげる。
「た、たすかったさ~」
「いえいえ。これくらいは」
ぜはぜはと息をする偉い人ちゃんだけど、釣れたお魚を見てご機嫌だね。
この調子で、さくさくと食材を調達しましょう!
「あや~、こっちもおおものです~!」
「わきゃ~ん!、なんかいきなり、つれはじめたさ~!」
「あややややー! このおさかな、ひかってるです~!」
「うわっきゃ~ん! それまぼろしのやつさ~!」
その後いろいろ大物を釣り上げたりして、つつがなく釣り大会を終える。
またまた広場にあつまり、今度は表彰式だ。
「では、湖畔リゾートの部第五位から表彰を始めます――」
表彰式は、それぞれの湖で部門を分け、上位五位に盾を渡す。
湖畔リゾート部では、こんな感じだ。
第五位、神輿。
なぜかうちの子も参加していて、エルフィン鱒をたくさん釣り上げていたそうだ。
神様も食材あつめとか、なんてよい子なの!
「神様、たくさん食材を集めて頂きありがとうございます」
(それほどでも~)
お礼の言葉を述べると、ご機嫌でほよほよ光ったね。あとでお酒を差し入れしておこう。
さてそれでは次だ。
第四位、あっちの森のおばちゃんエルフ。
こちらは、珍しいお魚を釣り上げたとのことで表彰。
どうも滑空するお魚らしい。トビウオ?
「はい、表彰の盾を贈呈します」
「わー! だいじにかざります!」
おばちゃんエルフ、透明な盾に大喜びだね。
ではでは次ですよ。
第三位、なんとヤナさん。
大物狙いに目標を絞り、たった一匹を釣り上げての受賞。
ヤナさんがんばった。ちなみに、釣り上げる際に力負けして水に引き込まれ、リザードマンたちに救助されたようだ。
ずぶ濡れでの表彰である。
「ううう……生まれて初めて、大物を釣り上げました……」
「やりましたね! 写真は拡大印刷して飾りましょうか」
「はい!」
「おとうさん、すごいです~」
「でへへ」
ヤナさん人生初の大物に感無量で、みんなで拍手して祝った。
ハナちゃんのそんけいのまなざしも受けて、でへへとえびす顔である。
第二位、ミタちゃん。
巨大な灰化花をつり上げ、堂々の第二位だ。なぜ魚以外で表彰されているのか。
しかし、そのお花はフェアリンのお花畑でも珍しい種類のようで、妖精さんたちからの投票で第二位となった。
ちなみにお魚は一匹も釣れていない。
「こんなんで、いいのさ~?」
「『お魚』釣り大会とは言っていないので、釣れた物が珍しければ……」
「ゆるゆるさ~」
強引に良いことにして、無事盾を贈呈だ。
第一位、消防団長さん。
水中に潜って巨大ダイヤの原石をサルベージ。もはや釣りでは無い。
ただし金銭的価値は一位なので、なんとなく一位に選ばれたようだ。
なんなのこの審査基準。
なお、この原石は消防団装備強化資金に回される。
「むせんき! むせんきとじてんしゃかいます!」
「の、後ほど発注お願いします」
「わかりました!」
とまあ、一位と二位は激しくネタが入っているけど、参加者のみなさんはとっても楽しそうだ。
まあ楽しければ良いかと気にしないことにして、今度はドワーフの湖部門の番だ。
ではでは、表彰行きましょう!
特別賞、マイスターとステキさん。
二人のカヌーからの落水ぶりに感銘を受けた俺が、急遽設けたネタ賞。
恥ずかしい思いをした心の傷を癒やすため、下町のナポレオン風味な焼酎二リットルが贈られる。
今日の黒歴史は、お酒を飲んで忘れて頂きたい。
ちなみに釣果はボウズである。
「おれたち、ずぶぬれじゃん?」
「ふるえる」
このあと、すぐに温泉に入って体を温めてね。
では次!
第五位、マッチョさんと、きのこが自慢の森の彼。
正当派に、中型のお魚をたくさん釣って受賞。
お料理しやすいちょうど良い感じの釣果で、奥様方に優しい面が評価された。
「ふつうがいちばんだよな」
「そうそう」
俺もそう思う。二人は変わらず、そのままでいてね。
第四位、ニホンカワウソちゃん。
なぜ君が。
釣りでは捕獲不可能らしい獲物を数匹献上にて、受賞と相成った。
カワウソちゃんからしてみれば、世話の焼ける子供にお魚をあげたという話なのかもしれない。
俺らはカワウソちゃんに、子供扱いされているのだ。かわいい!
「ありがとね。美味しく食べるから」
「きゃう~」
ちなみに盾はいらないぽかったので、余った分は第五位のきのこが自慢の彼に贈呈した。
盾の不足分を流用できてめでたしめでたし!
カワウソちゃんへのお礼は、あとでちゃおちゅ○るを贈ることが決まっている。
第三位、リーダードワーフちゃん。
水草に擬態する謎のお魚を偶然捕まえ、その難易度から第三位となった。
新鮮なうちに油で揚げると極めて美味らしく、今まさにカラっと揚げられている。
「ぎりぎり、しんせんなうちに、まにあったさ~」
「わきゃ~、ごちそうさ~」
「いいにおいさ~」
表彰式の最中に突如起きたメシテロによって、会場にぐーぐーと腹の虫が鳴り響く。
俺も今日は揚げ物にしようかな?
まあ、今晩の献立は置いといて次ぎ!
第二位、なんと――偉い人ちゃん!
「わきゃん! ウチがじゅしょうしてるさ~!?」
「結構な大物を釣り上げましたので、第二位となりました」
「わきゃ~ん! うれしいさ~!」
「はい、賞品の工芸品ですよ」
「とうめいで、すてきさ~!」
第二位の大きめの盾をもらい、偉い人ちゃんしっぽをぱったぱただね。
しっぽを振りすぎて、そのトルクで横移動し始めたけど。
まあそれは気にしないことにして、彼女がつり上げたピラルクみたいなやつ、あれすっごい美味しいらしい。
ただし大物のため美味しく焼き上げるには、三名のドワーフちゃんたちが必要とのこと。
じっくりじわじわ、熱であぶるそうだ。豚の丸焼きみたいに、時間がかかるらしい。
さてさて、じゃあ堂々の一位は――。
「一位はハナちゃんです! おめでとう!」
「やったです~!」
「ハナちゃんがつり上げたこのお魚、深いところにいて普通は釣れないんだって」
「そうですか~」
「あとは、大物たくさんだからだね」
「うふふ~」
ハナちゃんが一位の理由は、なんか光るお魚を釣ったのが理由らしい。
見た感じ鱒っぽいんだけど、ひれが光るのだ。
水底でじっとしていて、そもそも植物食のお魚。
なんでこれがルアーで釣れたのか、謎らしい。そのミステリーさが表彰理由だ。
あとほかの理由として、大物を結構釣っていたのもあるね。
偉い人ちゃんには及ばないけど、大きめのピラルクっぽいやつも釣っている。
ハナちゃん凄い!
「というわけで、また盾だよ。前にハナちゃんが一位になったのと同じやつで、ひねりゼロで被ってるよ」
「ありがとです~! かざっておくです~」
「重いので気をつけてね」
「あい~」
こうして、ハナちゃんはまた宝物を増やした。
大きな盾を抱えて、ニコニコ笑顔だね。
同じ盾を二個持っていることになるけど、物としての価値じゃなく、思い出の価値ということで。
「うふふ~、うふふ~」
「ハナ、よかったね」
「きょうのゆうしょくは、おさかなりょうりね」
「あい~」
大喜びのハナちゃん、お父さんとお母さんからも褒められて、垂れ耳ハナちゃんになったね。
和むなあ。
「あしたのぶんは、こおらせておくさ~」
「これは、こおらせると、なまでもいけるさ~」
「たくさんあるさ~」
そして収穫祭に使うお魚は、ドワーフちゃん渾身の冷却によって冷凍される。
明日お料理するころには、良い感じに溶けているよう微妙な調整をしているね。
ちなみに溶けなかった場合のことは、誰も考えていない。
穴があるにもほどがある保存計画である。
とまあ、こうして楽しい釣り大会と、審査基準がわりとアレな表彰式も無事終了となった。
さてさて、いよいよ明日は収穫祭だ。
みんなで大いに、盛り上がろう!




