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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第二十二章 冬への備えは
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第二話 稲刈り終了と、企画会議


 稲刈り二日目。

 現在の作業速度だと、今日稲刈りが終わるかもってところだ。

 昨日と同じく、田んぼのある平地に早朝から全員集合している。


「お、おお……きんにくつうじゃん……」

「なんだか、ちからはいらないかんじ」

「ふるえる」


 エルフグループは、大体筋肉痛でぷるぷるしているね。

 でも容赦なく作業をお願いしちゃうよ。


「う、うう……全身筋肉痛」


 むろんユキちゃんも、動きがロボット風味だ。

 全身筋肉痛らしいけど、普段使わない筋肉を使ったからだね。


「わきゃ、きょうもがんばるさ~」

「こつがつかめてきたさ~」

「たくさんかりとるさ~」


 でもしっぽドワーフちゃんたちは、平気な感じ。

 わっきゃわきゃと農機具を構え、今日もやる気十分だ。

 やっぱり普段から泳いでいるので、全身の筋肉がこなれているんだろうな。


「あわきゃ~……、からだがバキバキさ~……」


 ……偉い人ちゃんだけは、筋肉痛になっているようだけど。

 最近ちまちま運動をはじめたけど、体ができあがるには時間がかかる。

 様子を見て、無理しないように気をつけてあげないとね。


「きょうは、ハナもがんばるですよ~!」


 ちなみに、ハナちゃんはエネルギー満タンである。

 昨日の作業ではだいたいぐにゃっていたので、消耗が少ないからかな。

 できなかった作業分は今日片付けちゃう感じで、みなぎる闘志が感じられる。


「ハナちゃん、やる気十分だね」

「あい~! たくさんかりとるです~」

「偉い子だね~。でも無理はせずに、疲れたらぼちぼちいこうね」

「あい~、ぼちぼちです~!」


 元気みなぎるハナちゃんに無理をしないように伝えると、元気いっぱいにぼちぼちやるとのご返答か。

 まあこっちも無理しないように、こまめに見ていてあげよう。


 さて、それじゃあ作業を始めよう。


「はい、筋肉痛のみなさん。それでは今日もお仕事がんばりましょう!」

「「「おー!」」」


 俺のかけ声とともに、それぞれが担当分の作業を開始する。


「それでは、コンバインのところへ行きますか」

「はい」

「きかいだ~!」


 親父はヤナさんとメカ好きさんに声をかけ、コンバインの方へと向かう。


「きょうは、さんにんでいっきにやっちゃうんですよね?」

「そうです」

「たのしみだな~」


 今日は三人でコンバインをそれぞれ動かすので、作業速度は驚異的になるだろう。

 彼らがほとんどの面積を刈り取る、主戦力だ。

 事故やケガが無いよう、気をつけて作業してね。


 さて、主力三人を見送ったところで、俺たちも作業をしよう。

 昨日コンバインで刈り残したところを、手作業でなんとかするお仕事だ。

 機械でやると、どうしても端っこで刈れないところが出てくるからね。


「今日はこの刈り残しをなんとかして、余裕があったらあっちの田んぼもなんとかします」

「あい~!」

「わかったさ~」

「がんばんべ~」


 それぞれの担当を割り振り、いざ作業開始。

 鎌を片手に、地道に刈り取りを始める。


「えい! じょうずにできたです~」

(と~う!)

「わっきゃん!」


 ハナちゃんは昨日の分を取り戻すべく、割とハイペースで稲を刈り取る。

 その横では神輿と偉い人ちゃんも、気合いを入れてさくさくやっているね。


「あ~、なれてきたかんじ」

「きのうよりは、つかれずにできてるわ~」

「じゃっかん、ふるえるけどね」


 筋肉痛エルフたちも、手慣れた様子で作業できている。

 まあ、ステキさんはちょっとぷるぷるしているけど。


「みんながんばってね! おだんごつくってるから! おだんご!」

「とくにくふうはしてないよ! ふつうのおだんごだよ!」

「きのうとおんなじ~」


 作業する俺たちを、妖精さんたちがおにぎりを量産しながら応援だね。

 ちなみに昨日の昼食と献立は同じで、手抜きである。

 奥様方も稲刈りしているので、あんまり凝ったメニューを揃えられないんだよね。

 でもまあ、空腹は最高のスパイスだ。今日も美味しくお昼を楽しめるだろう。


 そうしてちくちくと作業を続け、お昼を楽しみ、作業は続いていく。

 やがて夕方近くなり――。


「みなさん、なんともう稲刈りはほぼ終わりましたよ」

「やったです~!」

「おおおお! こんかいは、なんだかはやくおわった!」

「あっさりだな~」


 人数が多いだけに、ほんとさくっと稲刈りが終わった。

 コンバインを三台投入し、村の人口で三年分まかなえるだけの分量を刈り取った。

 投入した人員も百名を超えるわけで、そりゃ早く終わるわけだ。


「あとは稲を干しておく作業と脱穀がありますが、ひとまず今日はここまでと言うことで」


 あとの作業の大半は業者にお願いしちゃうけど、農業指導ということで昔ながらの手作業でのお仕事も行う予定だ。

 ただあくまで研修目的なので、それほど大変な分量ではない。

 これはまた、後ほどって感じだね。


「それではみなさん、よく頑張りました! 稲刈りお疲れ様です!」

「「「わーい!」」」


 稲刈りの終了を宣言すると、みなさんキャッキャと大はしゃぎだ。

 明日は予備日で用意してあるけど、もう一日お休みにしちゃおう。


「タイシタイシ~、ハナがんばったですよ~」


 盛り上がる村人たちや観光客の集団から、ハナちゃんがぽてぽてとやってきた。

 確かに今日はハナちゃん、一生懸命作業していた。

 ほめてほめて光線いっぱいなので、褒めちゃうよ!


「ハナちゃん偉いね~! 頭なでなでしちゃうよ」

「うふ~」


 念願叶って褒めてもらえたハナちゃん、エルフ耳をてろんと垂らして、でれでれだね。

 うふうふハナちゃんだ。


「わ、わきゃ~ん……う、うごけないさ~」

「私も……」


 ちなみに偉い人ちゃんとユキちゃんは、がんばりすぎたのか疲労困憊だ。

 このまま歩かせるのはあれなので、抱えて運んであげよう。


「二人とも、自分が村まで運ぶよ」

「あ、ありがとうございます!」

「たすかるさ~」


 村まで運ぶ事を伝えると、ユキちゃん耳しっぽがぽわっと顕現だね。

 偉い人ちゃんはうつぶせに倒れたまま、力なくお返事だけど。

 ともあれ、二人を抱えよう。右にユキちゃん、左は偉い人ちゃんだ。


「フフフ……これはこれでケガの功名」

「らくちんさ~」


 腕に座ってもらうようにして、二人を抱え上げる。

 まあどちらも軽いので、俺としては無いに等しい重量だ。


「密着……フフフ」

「あるかなくてすむさ~」


 一応掴む力は残っているのか、二人は俺の方に掴まってご機嫌だね。

 ではでは、村まで行こうか。


「タ~イシ、ハナもはこんでほしいです~」


 歩き出そうとしたら、なぜかハナちゃんがじりじりと俺の体を上り始めた。

 運んでもらえるのが羨ましかったのかな?

 まあ運んでもらうのがご希望みたいなので、ハナちゃんもおいでませだ。


「じゃあハナちゃんは、特等席の肩車だよ」

「わーい! タイシありがとです~!」


 よじよじと上ってきたハナちゃん、無事登頂して肩車状態になった。

 ではでは、村へと帰りましょう!


「みはらし、さいこうです~」


 ということで、女子三人を装備したまま村へと足を向ける。

 ハナちゃんは肩車でキャッキャとはしゃぎ、時たま俺の頭を撫でてご機嫌。

 また体が成長したみたいで、力が前より強くなっているのが感じ取れた。

 あと、体重も増えているね。すくすく育っていて、お父さん感無量だよ。


「フフフ……」


 ユキちゃんはふわふわしっぽが心地よいね。

 ふあっさふあっさの素晴らしい毛並みが堪能できて、ありがたやありがたや。

 でもなんか、密着度高くない?


「らくちんさ~」


 あと偉い人ちゃんは……しっぽをぱたぱた振るので、実は重心が動いて運びにくかったりする。

 結構なトルクが出ているので、なんだかんだでドワーフちゃんのしっぽってかなり力が出るようだ。

 筋力が割とアレな偉い人ちゃんでも、かなりの力が出る。

 ということは、普通ドワーフちゃんなら、もっとすごいんだろう。


「うふ~」

「き、筋肉の動きがわかる……フフフ」

「わきゃ~ん」


 そんな三人娘を抱えたり肩車したりして、のんびり村まで歩いて行く。

 美しい夕焼けが、空に橙色の芸術を描き、後ろにそびえる山々はそのシルエットを黒く変え始めている。

 まるで一枚の絵画のような風景を眺めながら、賑やかな村人や観光客たちと一緒に村を目指す。

 稲刈りを終えた達成感も加わって、気分は上々だ。


 さてさて、明日からはいつもの村に戻る。

 これからは収穫祭の準備に、エルフ重工の設立に、冬支度が待っているわけで。

 みんなで協力して、ぼちぼちやっていきましょう!



 ◇



「ぬおお……ぜんしんがいたいのだ……」

「うごけないわ~……」

「ふるえることすら、できない……」


 ――翌日、平和な村にぞんびちゃんたちがあふれかえる。

 みなさん張り切ってお仕事していただけに、一気に反動が来ましたなあ。

 でも引きこもっていては家事も出来ないので、筋肉痛と戦いながらお洗濯したりお掃除したりとがんばっているね。


「あ、あや~……きんにくつうです~……」

「……動けません」

「あわきゃ~……」


 そんな筋肉痛祭りの中、空き屋を改造した俺たちの拠点では、ハナちゃんとユキちゃん、偉い人ちゃんがちゃぶ台につっぷしていた。

 三人ともがんばっただけに、より一層筋肉痛がひどいらしい。

 というか、なぜその状態で遊びに来ちゃったのか。お父さんわからないよ。


「はい三人とも、筋肉痛には特に効果がない、普通のお茶をどうぞ」

「ありがとです~……」

「頂きます……」

「たすかるさ~」


 筋肉痛でバッキバキの三人娘ちゃんたちに、お茶をお出しする。

 ここで颯爽と、鎮痛効果のあるやつとかを出せたらかっこいいのだけど、あいにくとそんなのを準備はしていなかった。

 だって俺、筋肉痛になったことほとんど無いからね。

 その辺をどうにかする経験が全然無い。

 知識だけでうかつな処方をするより、自然治癒を待つのが一番だね。


「わきゃ~、これおもしろいさ~」

(でしょでしょ!)

(おすすめ~)

「きらきらしてるね! にぎやかだね!」

「ふしぎなどうぐだね! ふしぎ!」


 ちなみに拠点には、ほかにもミタちゃんと神輿とオレンジちゃん、そして妖精ちゃんたちも遊びに来ていた。

 みんな携帯ゲームに夢中だね。

 遊んでいるゲームは……牧場的物語か。

 めがねをかけたあやとりが上手なキャラが、延々と地下で鉱石を掘り返している画面しか見ないけど。

 ほんとにそれ面白いのかな? 牧場的な画面が出てこないのが不安である。


 とまあ、あっちは鉱山労働ゲームで賑やか、こっちは筋肉痛ぞんびちゃんたちの面々でのんびり過ごす。

 しかし、せっかくハナちゃんたちがいるわけだ。

 ちょっとお話でもして、楽しく過ごそう。

 さしあたっては、収穫祭のお話かな?


「明日から収穫祭の準備をするけど、なにかしたいことある?」

「さんさいとり、したいです~」

「おさかな、つりたいさ~」


 問いかけると、ハナちゃんと偉い人ちゃんからすぐにお返事が返ってきた。

 山菜採りと、魚釣りか。まあどっちも、やろうと思えばすぐだね。

 明日山菜採りをして、あさってお魚釣り大会でもしよう。


「ユキちゃんは、何かないかな?」

「私としては……収穫祭で、新作お料理大会とかしたいですかね」

「あや! しんさくのおりょうりです?」


 ユキちゃんからは、新作お料理大会という提案が来た。これは収穫祭でのイベント企画か。

 ハナちゃんもお料理と聞いて、ぴこっと反応したね。

 詳しく聞いてみよう。


「それって、どんな内容と目的があるの?」

「与えられた材料と時間で、今まで村では作っていなかったお料理を広められたらなって」

「なるほど」

「それと、思いっきり凝った料理ではなく、普段でも作れるようなのが望ましいですね」


 この村では、ちたま料理とエルフ料理が食べられる。

 とはいえ、最近種類は固定されてきたね。奥様方も、ネタ切れなのである。

 普段の生活で作れるお料理は、それほど凝れない。

 なので、そこそこ簡単に作れる献立をなんとか工夫して、ローテーションしているって感じだ。

 ユキちゃんは、その辺を改善したいんだな。


「なかなか面白い提案だね。それやってみようか」

「たのしそうです~」

「であれば、告知したほうがよいですね」


 俺とハナちゃん、そしてユキちゃんの三人で、盛り上がってくる。

 村の日常献立に彩りが増えたら、毎日の生活がもと楽しくなるよね。


「わ、わきゃ~ん……」


 しかし、盛り上がる俺たちをよそに、偉い人ちゃんはなんかちっちゃくなっていた。

 どうしたんだろう?


「あの……どうかされました?」

「う、ウチ、おりょうりはにがてさ~……」

「あえ? おりょうりにがてです?」

「そうなのさ~……」


 聞いてみると、お料理が苦手というカミングアウトが来た。

 なるほど、それで発言しにくかったんだな。

 まあでも権力者だから、自分でお料理する必要がなかったのだろう。


「ウチ、ぶきっちょで、こがしちゃったりするさ~」


 あ、自分でもやってたけどダメだったのね。

 でも、焦がしたりするのは単に手順の問題だったりする。

 温度と手順、そして時間がきっちり決まったレシピがあれば、解決するのではないだろうか。

 というか、全員強制参加でもない。自信が無ければ、食べる方で楽しめば良いわけで。


「強制参加でもないので、お料理が苦手でも気にする必要はないですよ」

「わきゃ~ん……」


 別に気にする必要は無いと伝えるも、なぜか偉い人ちゃんしおしお。

 お料理下手、なんか気にしている風味だ。

 ちらちらとユキちゃんやハナちゃんを見たりして、自信なさげだね。

 お料理上手に囲まれているから、コンプレックスが刺激されているのかもしれない。


「じゃあじゃあ、ハナといっしょにつくるです?」

「わきゃん?」


 そんな偉い人ちゃんの様子を見ていたハナちゃん、一緒に作ろうかと提案しているね。

 そういやハナちゃんも、最初は焦がしたりしていたわけで。

 今や立派なお料理自慢女子の一角だけど、つたない時期は当然あった。

 そう言うのを経験しているからか、指導によって良くなるという実感もあるのだろう。


「ハナが、おりょうりのしかた、おしえるです~」

「い、いいのさ~?」

「もちろんです~」


 そしてハナちゃん猛プッシュ、偉い人ちゃんタジタジだね。

 でも、おずおずとハナちゃんを上目遣いで見て、期待のまなざしをしている。

 なんだかんだで、お料理が上手になりたいようだ。


「で、でも……ウチ、ほんとににがてなのさ~……」


 ただ、長年抱えてきたコンプレックスを克服するには、一歩を踏み出す勇気が必要だ。

 偉い人ちゃん、新たな道へ踏み出すのに躊躇しているね。


「だいじょぶです~。おいしくできたら、タイシにほめてもらえるですよ~」

「……や、やっても、いいかもしれないさ~」

「ですです~」


 しかし、ハナちゃんの続けざまプッシュで、じわじわと偉い人ちゃんの防御が崩されていく。

 だんだんしっぽもピンと立ち上がってきたね。

 すごいわかりやすい。


「ふふふ、じゃあハナちゃん、私も仲間に入れて貰って良いかしら」

「もちろんです~。さんにんで、おりょうりつくるです~」

「う、ウチも、がんばるさ~」


 そんなハナちゃんと偉い人ちゃんの仲間に、ユキちゃんも参加だね。

 お料理自慢二人の指導が期待出来るとあって、とうとう偉い人ちゃんも陥落した。

 これはこれは、面白くなりそうだ。

 じゃあ、新作お料理大会を企画してみようじゃないか。


「とりあえず、普段の献立に使える、そこそこ作るのが楽なやつを目的としようか。自由参加で、特に順位はつけない感じにもしよう」

「そうするです~」

「あんまり凝ったものを提案しても、定着しないですからね。競争でもないので、順位をつける必要も確かに無いです」


 ひとまずの方針と、最初の参加者も決まった感じだ。

 あとは全くのゼロから研究開発する余裕もないので、村でも作れそうなお料理候補をこちらで用意しておこう。

 そこから選択するのも自由だし、独自の提案があるならそれもよし。

 カンニングオーケーの、緩い催しで問題ないよね。

 あくまで目的は、普段の生活でも作れるお料理だ。肩肘張らずに行こう。


「それじゃ、こんな企画でこうしてこう、あとこれとそれで――」


 そうして企画の骨子を決め、村人たちへの告知を行った。

 さてさて、どんなお料理が提案されるか、楽しみだ。


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