第六話 お野菜沢山食べましょう
「タイシさんの言った通り、ラーメン美味しくなったな」
「豆もやし沢山とか、素敵」
「カイワレダイコンも、入れると全然違うのな」
豆もやしこんもり、かいわれ大根ちょろっとのラーメンを食べたエルフ達、大満足です。大量の豆もやしが投入されていたので、おなかも一杯になりました。かさ増しとも言います。
「ハナちゃんすごいわね~」
「こんなに育てちゃうって、えらいわ~」
「えへへ」
この豆もやしとかいわれ大根を提供したハナちゃん、奥様方になでなでしてもらって嬉しそう。もやしを育てたらどうなるか、食べたらどんな味がするか、皆も実感がわきました。
「おうちのもやし、育つの楽しみだわ~」
「もっと一杯仕込んじゃおうかしら」
「いいわね~」
野菜を作ると、食べ物いっぱい、味も美味しくなる。そう気づいたエルフ達。おうちでの栽培にも、がぜん気合が入ります。
皆の気合が入ったところで、ヤナさんが言いました。
「それじゃあ皆さん、今日も頑張って畑仕事しましょう!」
「「「はーい」」」
今日も家庭菜園作りです。もう半分のおうちは作り終わっているので、今日やれば全部のおうちに家庭菜園ができます。
皆はゾロゾロと作業に向かいました。
今日も畑仕事は順調です。もう何回もやっているので、鍬で耕すコツもわかってきました。残ったおうちは三軒だけですので、そつなく予定の作業はこなせました。
「今日は早くおわったな」
「昼たべよう」
ちょっと早い時間ですが、もうお昼にしてしまいます。お昼はすいとん汁にしました。昨日採った山菜が沢山はいったすいとん汁、おなか一杯になりました。
お昼を食べてくつろぐ皆。これからどうするか話し合います。
「今日、これからなんか予定あったっけ?」
「特にないな」
「どうすんべ」
今日の夕食までにする作業、特に予定がありませんでした。ヤナさんは何をしようかと話あっている皆に言います。
「温泉掃除当番の方以外は、予定した作業も無いですし、各ご家庭でやりたいことをやりましょう。お昼寝してもいいですし、お掃除しても良いですよ」
畑もできました、山菜取りや洗濯は昨日やりました。今日はもう皆でやる作業はありませんので、各自好きにしてくださいという方針です。
「おうちのお掃除してます」
「俺らは集会場で駄弁ろうぜ」
「私はお昼寝するわ~」
それを聞いた皆は、各々したいことをするために解散していきました。ヤナさんの今日のお仕事も終了です。お疲れ様でした。
「じゃあ僕たちも帰ろうか」
「そうね」
「おうち帰るです~」
一家そろって、わいわいとおうちに帰るハナちゃん達。家族が多いって、良いですね。
おうちに着いたハナちゃん達は、それぞれ余暇を楽しむことにしました。
「僕は昼寝でもするよ。カナはどうする?」
「私は溝……絵を彫るわ」
木の板と尖った石を取り出したカナさん、気合十分です。パッケージ写真を見てへこんでいましたが、内心では対抗心だってモリモリなのです。そこらにあった石ころをひっつかんで、闘志を漲らせながら個室に入って行きました。ゴゴゴ……と音が聞こえてきそうなほどの闘志です。
でもカナさん……モチーフがそこらの石ころな時点で、かなり望み薄ですよ?
おうちの皆は、そんなカナさんを微妙な表情で見送りました。
ぱたん。
カナさんが入って行った個室の扉が閉じられました。
……しばらく微妙な空気が流れましたが、気を取り直してハナちゃんも余暇を楽しむことにします。
「ハナは、家庭菜園みてくるです~」
「何かあったら僕を呼ぶんだよ」
「わかったです~」
ヤナさんに返事した後、ハナちゃんはスコップとじょうろを準備して、ぽてぽてとおうちの畑に行きました。もやし栽培が、とっても上手くいったハナちゃん。野菜栽培の面白さに目覚め始めたようで、ご機嫌で歩いて行きます。
ぽてぽて。
「あえ?」
おうちの畑に到着したハナちゃん。また何かを発見してしまいました。
「もう芽が出てるですか~」
二十日大根とサラダミックス。一昨日撒いた種が、ぽこぽこと芽を出しています。こちらも大志に聞いていたより、ずっと早く成長していたのでした。
「……そういう物だと、思うことにするです」
豆もやしも゛っさり事件で耐性が付いたハナちゃん、もうこれくらいではわたわたしません。でもやっぱりちょっと腰が引けた様子で、二十日大根の芽を摘んで間引いていきます。成長が遅い芽、間隔が狭すぎる芽を、つみつみ、つみつみ。
ほどなくして、二十日大根の芽は等間隔になりました。綺麗な畑です。ハナちゃん、頑張りましたね。
……あれ? 芽の間引き方って習ってませんよね。それどこで知ったの?
「ふい~」
ひとしきり作業して、満足な様子のハナちゃん。腰を下ろしていったん休憩です。綺麗に並んだ芽をみて、ご機嫌でした。座って足をぴょこぴょこ、ちょこっとぼんやり。
そんな感じでのんびり休憩しました。
しばらく休憩してから、ハナちゃんはぴょこっと立ち上がり、じょうろをもって意気揚々と畝に向かいます。これから水撒きをするのですね。
「おいしい野菜~にょきにょきです~」
また奇妙な歌を歌いながら、じょうろで水をちょろちょろかけていきました。
すると――。
ぽこ。ぽこぽこ。にょきにょきにょき。
なんと! 野菜がにょきにょき伸び始めました! さすがのハナちゃんもこれにはびっくり!
「あや?! あやややや!」
じょうろを放り出して、尻もちをついてしまうハナちゃん。なんだか今日は、予想外のことばかりです。あややや言うハナちゃんをよそに、野菜はぐんぐん育っていきました。
それを見て、またもや「あえ~? あえ~?」と右に左にわたわた、わたわた。
そんなハナちゃんの声を聞いたヤナさんが、慌てて家から飛び出してきました。
「ハナ! どうした!」
ヤナさんはちょっと足をグキっとさせながらも、シタタタタと走ってきます。そして――例のブツを見てしまいました。
に゛ょっきり。も゛っさり。
「おわあああ! こっちもめっちゃくちゃ育ってる!」
ヤナさんもハナちゃんと一緒になって、わたわたし始めました。どこかで見た光景です。
畑には「あえ~? あえ~?」「おわわわ! おわわわ!」と、ハナちゃんとヤナさんの困惑する声が響いたのでした。
◇
「ハナちゃんすごいわ~」
「またお野菜沢山とか、素敵」
「うちも頑張らなきゃ」
なでなで、なでなで、なでなで。
「うふ~」
またまた大量の野菜が出来てしまったので、夕食に皆で食べることに。皆になでなでしてもらっているハナちゃん、ご機嫌です。
しかし、食べたことのない野菜。お料理の仕方が分かりません。
「これ、どうやってお料理すればいいのかしら」
「このはっぱ野菜、なにをどうすれば食えるのかまったくわからんな」
「ハツカダイコンてやつも、どう食えばいいんだろ」
大志も、こんなに早く収穫できるとはおもっていなかったので、お料理の仕方は教えていませんでした。
大量の二十日大根とはっぱ野菜ことサラダミックスを前にして、エルフ達は話し合います。あーでもない、こーでもない。議論は一向に纏まりません。
そんな皆が話し合う横で何を思ったか、マイスターがおもむろに二十日大根を掴んで食べ始めました。
洗っていない山菜も食べられる彼は、なんのためらいもなく生でバリバリいきます。
ひとしきり食べてごっくんしたマイスターは、皆に言いました。
「このハツカダイコンてやつ、生で食えるな」
「まじか」
「どれどれ」
マイスターの毒見が済んだのを確認したエルフ達、しゃくしゃくと二十日大根をかじっていきます。
ちょっと辛いですが、それ以上に甘みもあって美味しく食べられました。
「けっこう美味いな」
「これならみそ汁にいれても、生でも美味しくなりそうだな」
「こっちはどうだろ」
バリバリと、はっぱ野菜も食べ始めるマイスター。食べたことが無い物でも、いきなり食べられちゃう根性は凄いですね。でも、見習いたいような、見習いたく無いような……。
「これも生でいけるな。草の味が多少するけど、塩かけりゃ問題ないんじゃね?」
「どれどれ……おっ! ほんとだ。結構食えるぞ」
「こんだけ食えりゃ十分だべ」
これもマイスターの毒見が済んだので、他の皆もはっぱ野菜をバリバリと味見しました。
ちなみにマイスター本人には、毒見をしているという意識はありませんでした。止める間もなく食べてしまうので、自然と毒見役に納まってしまうのですが。
こうしたマイスターの体を張った毒見芸のおかげで、ようやく今日の献立が決まりました。
山菜おやきに二十日大根たっぷりみそ汁、それに塩かけはっぱ野菜の三品です。
質素な献立ですが、これは一つの始まり、一つの到達点となります。
そう、エルフ達は今日、ついにラーメンに頼らず一汁一菜を実現したのでした。
割と大きな一歩を踏み出したことに、全然気づかないエルフ達。いつもの奥様方が、いつもの様子で料理を始めます。
今日も和やか、エルフ達はできあがる夕食を心待ちにして、時間は過ぎて行きました。
そしてやっぱり、おやきが足りなくなり追加で焼くことになりました。
奥様方、つまみ食いは程々にしましょうね。
さて、ここまでは順調、とってもいい感じですね。
大志が来るまであと一日。エルフ達は無事に過ごせるでしょうか……。