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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第二十一章 エルフ重工
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第二十話 ドワーフィンに横たわる、大きな課題


 おっちゃんエルフの船を、キラキラお目々で見つめるドワーフちゃんたち。

 その話を聞くと、なんともいえない違和感があった。

 何かが、ちぐはぐなのだ。


 それについて、考えを整理してみる。

 ハナちゃんとユキちゃん、そして偉い人ちゃんが俺を見つめる中、むむむと長考だ。


 まずはじめに思いついたのは、「なぜ船不足なのか」だ。


 ドワーフちゃんたちは、船をあまり持っていない。

 それに引き換え、エルフたちはサクサクと船を量産してしまっている。

 ここがなんだか、おかしく思える。


 エルフたちは、常に船が必要というわけでもない。実際この村でも、それほど出番がないくらいだ。

 しかし、高い造船技術と量産能力を持っている。

 半分趣味入っている感じはするね。


 それにひきかえ、常に船が必要になるドワーフちゃんたちは、聞いた感じだとそれほどの技術を持っていない。

 おまけに、量産も出来ていないように見受けられる。

 常に船不足という証言が、それを物語っていた。


 ……このちぐはぐさは、なぜだ?

 本当なら、船を真に必要としている彼女たちのほうが、技術は身につくはずなのに。

 その原因は、聞いた方が確実かな。


「ねえ、なんでドワーフィンでは、船が不足しているの?」

「わきゃん? フネがふそくする、りゆうさ~?」

「そうそう。あの世界では、船が必須だよね。でも、必要なのに数を揃えられていないと思うんだ」


 どストレートに、今考えている疑問を偉い人ちゃんに確認してみる。

 すると――。


「それはかんたんさ~。つくれないからさ~」


 そのまんま、作れないからって回答が来た。しかし、なぜ作れないのだろう?

 ……これ、技術力不足が理由ではない気がする。

 なぜなら、必要ならば作るしか無く、作れば作るだけ技術は蓄積されていくからだ。

 彼女たちが船を作れない理由は、別にあると推測される。


「何か、船を作れない理由があるの?」

「ふねをつくれる、ひろいりくちが、ないのさ~」

「……陸地が無い?」

「そうさ~。おまけに、はやくつくらないと、おみずでながされちゃうさ~」


 ――船を作るために必要な、用地が確保できない。

 それが理由で、作りたくても作れないのか!


「ほかにもあるさ~。たとえば――」


 そうして偉い人ちゃんが、いろいろ説明してくれた。

 船は重量があるし、組み上げるにもある程度の用地が必要になる。

 そのため樹上で作業することが、とても難しい。


 ほんとに小さな船くらいなら、樹上に作業場所を作れば可能ではある。

 ただし、苦労に見合う性能は得られない。ちいさくて、イカダとどっこいどっこいなのだ。

 おまけにその作業場所を作るためのよさげな木は、だいたい住宅地になっている。

 さらにはそれを作るために必要な木材加工は、いったいどこでやるの? という問題もつきまとうそうだ。

 結果、川の水位が安定している時を狙って、一気に陸地で作ってしまう方法が選択されているとのこと。


「なるほど、そう言う理由なんですね」

「そうなのさ~。でもこれ、もんだいがたくさんあるさ~」


 ただこの方法、いろいろ問題があるとのこと。まずは、人員が確保しづらい事だ。

 陸地で作業できそうな時期が、いつ訪れるかも不確定で、予測がつかないとのこと。

 そのため、突発的に造船を開始せざるを得ず、ほかの家と連携がとりづらいそうだ。

 確かに、みんなで力を合わせてやるにも、予定を組めなければどうにもならない。

 ほかのおうちだって、やらなければいけない仕事は日々あるわけで。

 いきなり「今日から船を作るよ!」と言われたって、対応できない。


 結果として、一つの家単位で事業を実施する羽目となる。

 作れる部品はコツコツと作りためておき、虎視眈々と造船が可能となる日が来ることを待ち続けるとのこと。

 ただその作業は、日々の生活を送る上で負担になる。

 人員に余裕のある大家族でないと、難しいそうだ。

 このおかげで、家族が少ないおうちは船が持てないという悪循環が起きている、と。

 作業に好適な場所の発見も大変だし、見つけても早い物順であることも問題に拍車をかける。

 早い者順なので、捜索に人手を割ける家でないと厳しい。


 また、大家族でも予測を誤ると造船途中で川が氾濫し、資材や作りかけの船体が流されてしまうこともあるそうだ。

 そうなったら、今までの苦労が完全に無駄になる。そのダメージは計り知れない。

 これが原因で、船造りはギャンブルそのものになってしまっているとのこと。

 よっぽど余裕のある家以外は、おいそれと手出しが出来ないわけだ。


 次に、船造りが博打であるため、なかなか作ることが出来ない。

 失敗すれば、大損してしまう。下手をすると、一家離散だ。

 そのため技術検証もする暇が無く、確実に工期が読めて、なおかつ失敗が少ない単純なものしか作れない。

 特に大型船なんてもってのほか。まずまちがいなく、大失敗だ。

 かかったとしても数日で出来る船でないと、待ち受けるのは破滅である。


 最後に、素材の調達と加工だ。

 木材加工の前に木を乾かさないといけないが、乾かせる場所があまりない。

 外に置いておくと雨で湿ってしまうため、出来ればおうちの中に置いておきたいそうだ。

 やっぱり広い家を用意できる大家族でないと、場所が確保できないみたいだね。


「なんともまあ……船を作るのも、命がけですね……」

「しっぱいしたときは、みんなでたべものをわけて、たすけるさ~」

「そこまでしないと、厳しいわけですね」

「そうなのさ~……」


 偉い人ちゃんも、お困り顔だね。

 造船は大博打なだけに、ある程度のセーフティーネットは具備されているようだ。

 明日は我が身ってお話であり、他人事ではないからそうなったのだろうけど。

 ただ、仲間同士の助け合いが限界っぽいね。


 とまあこれらの理由により、ドワーフィンでは船がなかなか作れないとのこと。

 ようするに、すべては安全な用地が確保できないということが原因だ。

 頻繁に陸地が冠水する、ドワーフィンならではの悩みである。


「おうちをつくるときも、すごくくろうするのさ~」

「フネをつくるのと、おなじくらいきついさ~」

「だから、おうちはだいじなのさ~」


 さらに補足として、家づくりも同じ悩みがあるという。

 なるほど、ドワーフちゃんたちがあれほどおうちを大切にするのは、それが原因だったのか。

 家造りでさえ、とても大きな負担となる。それが彼女たちが抱える、現状なのだ。

 とまあとにもかくにも、冠水しない安心できる用地が必要である。

 しかし、それがドワーフィンでは確保できない。

 彼女たちが樹上で暮らすのも、とにもかくにも川の氾濫から身を守るためだったのだ。


「……なるほど、それは根深い問題ですね」

「どうしようも、ないのさ~」

「たいへんです~……」


 一通りヒアリングして、大体のところはわかった。

 ハナちゃんもこのお話を聞いて、その解決の難しさにお耳がぺたんこだ。

 まあ聞いたところだと、対策するにはかなりの年月がかかるね。

 大規模土木工事をしなければ、解決が不可能なのだから。とにもかくにも、地面不足なのである。

 そして、ドワーフィンで陸地の安全地帯を作り出す土木技術は……無い。

 大規模公共事業を行うだけ余裕が、社会そのものに無いのもある。


 ちたまの技術を使ってさえ、数十年を見越した大工事になってしまう。

 これは高橋さん世界でも起きていたお話で、相当長期間の取り組みをしないといけない。

 思いつきだけでなんとかなるほど、甘いものでは無いことは確かだ。


「大志さん、これは……難問ですね」

「むむむ~。いいほうほう、おもいうかばないです~」

「ウチもいろいろかんがえたけど、どうにもならなかったさ~」


 お話を聞いたユキちゃんとハナちゃん、あまりの難問に頭を抱えてしまった。

 偉い人ちゃんもいろいろ考えていたそうだけど、解決には至らなかったらしい。

 そういえば、運河やら埋め立て地やらいろいろ興味を示していた。

 彼女も土木工事でないと対処できないと、考えているんだろうな。


「あのどうくつのまわりは、みずにながされない、きちょうなばしょさ~」

「そうなんですか」

「でも、それほどりくちが、ないさ~……」


 追加情報として、こっちの世界と繋がるあの洞窟近辺は、水没しない貴重な陸地だそうだ。

 しかし、水没しないエリアはあまり広くは無い。大規模な作業をするには、厳しいだろうな。

 というか、そこに物資を運び込むためにはそもそも船がいる。


「やっぱり、土木工事しかないですか」

「けっきょくは、そこにいきつくさ~」


 ただ、ドワーフィン独力で成し遂げるとすると……数世紀かかるだろう。

 まず大規模公共工事を可能とする制度から、作っていかなければならない。

 制度改革、技術開発、拠点整備その他もろもろ。

 ドワーフィン社会を一変させなければ不可能な、それほどの難問だった。


「むむ~」


 この難問に挑むため、机に突っ伏して考え込むハナちゃんだ。

 でも、頭から湯気でてるよ。ぷしゅーって感じになっている。

 あんまり無理しないでね。


 しかし、ドワーフィンにこれほどの難問が横たわっていたとは……。

 村に来た子たちが遭難した理由も、とどのつまりは……冠水しない安心出来る陸地が無かったことに起因する。

 船さえ好きに作ることが出来ていたら、引っ越しは出来ていたのだから。

 大型船を作ることが出来ていたなら、大事なおうちも持って行けた。

 ハナちゃんが思いついた水耕栽培だって、結局はこの陸地無いよ問題に帰結する。

 だが、どうあがいても、今のドワーフィンではどうにもならない。


 豊かな水をたたえた、豊穣の世界。

 ドワーフちゃんを育み守る、不思議な衛星環境。

 しかし、それが――足かせにもなっているのだった。


「むむむ~、むむむむむ~」


 ハナちゃん考えすぎて、ごろごろ転がり始めた。

 そのまま外に出て行っちゃいそうなので、捕獲しますよっと。


「あや~、つかまっちゃったです~」


 よいしょとごろごろハナちゃんを捕まえて、定位置に戻しておく。

 ハナちゃんなぜだか、ご機嫌になった。


 とまあ、それはそれとして。

 この問題はちょっと、簡単には対処が思いつかないな……。どうしたものか。

 高橋さん世界も似たような問題にぶちあたり、こっちの物資と技術を結集させてなんとか対処した。

 しかし、それでもまだまだ道半ば。

 彼ら単独で事業を行えるようにするには、やっぱり一世紀以上かかってしまうのではという状態。

 インフラ工事が必要な案件とは、それほどまでに難しい問題なのだった。


 というか、ちたまですら完全に解決なんて出来ていない。

 子や孫、さらにその孫までに託して将来に投資する。インフラ整備とは、そういうものなのだ。

 未来の世代のために、今の世代が身銭を切る覚悟がないと、出来ない大仕事である。

 俺たちが何の気なしに使っている、とても便利なインフラ各種とかはまさにそうだ。

 あれはじいさんや親父たちの世代が、身銭を切り苦労してこさえてくれたもの。

 まさに祖先に感謝しなければならない、そういう類いのものであり、同時にそれほど困難な事業である。


「何というか、これほどまでに大きな問題だとは……」

「あや~、あたまこげるです~……」

「……一朝一夕には、無理ですよね」

「そうなのさ~……」


 俺たち四人、頭を抱えてちゃぶ台に突っ伏す。

 なんとかしてあげたいけど、これは制度改革を含んだ、世界単位で取り組む事柄だ。

 そこに至るまでの道のりを考えて、あまりの壁の大きさにめまいがしてきた。

 しかし、ドワーフちゃんたちは、すぐにでも救いの手を必要としているわけで。

 悠長に構えていられるほど、たやすい問題ではない。


 ……ちたま技術と物資をつかえば、出来ないとは言わない。

 ただし、事業費は数億円で済まないことは確かだ。数十億単位でお金がかかる。

 うちで用意できないことは無いのだけど、おそらくその提案は断られるだろう。

 なんたって、美容品一つ援助しようとしても、ドワーフちゃんたちはとても申し訳ない顔をするからだ。

 援助されっぱなしは、遠慮がちな彼女たちにとって精神の負担になるのである。


 だれか特定の人が極端に大きな負担を背負わず、しかし問題を解決可能な方法。

 そのような工夫や発想が、必要とされているのだった。



 ◇



「むむむ~」

「う~ん、思いつかないですね……」

「むつかしいさ~」


 ドワーフィンに横たわる巨大な問題について、引き続きアイディアを絞り出し中。


「たいへんそうだね! おかしをたべてげんきだして! げんきだしてね!」

「おだんごありますよ! おいしいおだんご!」

「た~んとおたべ~」


 そうして悩んでいると、妖精さんたちがやってきて、きゃいっきゃいでおやつを積み上げ始めた。

 考え事には甘い物が必要だ。なかなか気が利いているじゃないか。


「おやつ、ありがとです~」

「どういたしまして! いたしまして!」

「おいしいさ~」

「甘さがちょうど良いですね」

「たくさんたべてね! たくさん!」


 せっかくなのでおやつタイムとして、一休みすることにしよう。

 じゃあ、俺も一つ頂こうかな?


「タイシさんには、せっかくだからしっぱいしたやつだよ! しっぱいしたやつ!」


 そしてどさくさに紛れて、またもやイトカワちゃんが立ちはだかるわけで。

 なるほど、せっかくなら、しょうがないよね!

 きゃいきゃい笑顔の彼女から、パステルカラーの小惑星を受け取って口に入れる。


「あ、プリンの味がする! これ美味しいよ!」

「あれれ? おつけものをこねたはずなんだけど! おつけもの!」

「ええ……?」


 味は花丸合格点なんだけど、素材がアレだった。

 というか、どうしてお漬け物をこねようと思ったのかが、わからない。

 イトカワちゃんの発想、独特だね!


 とまあいつものやりとりをして、ほっと心と体がほぐれた時のこと。

 ふと、まわりを見渡す余裕ができた。


(あ、しっぱいしちった!)

(つよい~)


 気休めに見渡したところ、いつの間にかちゃぶ台の上に、神様ズがご光臨なされていることに気がついた。

 高橋さんからから借りたゲームで、楽しく遊んでいるみたいだね。

 こういう娯楽は無かったから、面白くてしょうがないんだろうな。

 可愛らしい神様たちじゃないか。

 いったん頭を休めるためにも、おやつを食べながらぴこぴこ神様ズを眺めてクールダウンと行こうか。


「よそうがいにうけたから、おつけものでしっぱいしたやつ! ぜんぶあげるね! ぜんぶ!」

「あじみしてないやつ~」


 まあ、俺のはおやつというよりお漬け物が謎変化したやつだけどね!

 ということで、素材はたくあんだけど、味はメープルな冒険心あふれるやつとかをもぐもぐ。

 糖分? を補給出来たところで、神様たちのやっているゲームを確認してみる。

 ……ドラキュラの城を探索するゲームか。意外とシブいやつやってるね。


(またしっぱいしちった!)

(かわる? わたしこれ、とくいだよ~)


 どうもオレンジちゃんがボス戦で詰まっているらしく、うちの子が変わる宣言を出した。

 確かにそのボス、パターンつかめないと強いんだよね。


(じゃあ、おまかせするね!)

(まかされた~)


 オレンジちゃんは諦めたのか、うちの子にバトンタッチとなった。

 ぴこぴこ神輿、ゲーム機を受け取ってほよよっと気合いみなぎる感じで光る。

 そして――。


(はい、こうりゃく~)

(やたー! わたしはこっちがとくいだから、まかせてね!)

(まかせた~)


 ――あっという間に攻略だ。やだ、うちの子すごい!

 どうやらお互いに得意なところを分担して、ちまちま進めているようだ。

 仲良くゲームしていて、微笑ましい。


 ……ん? まてよ?

 自分が出来ないことでも、それが得意な人もいる。

 身近な例で言えば、俺とユキちゃんとハナちゃんだ。

 俺はガテン系で、繊細なことは苦手だ。そこは、ユキちゃんやハナちゃんが補ってくれる。

 逆に、腕力やごり押し、マネーパゥアーが必要な事柄は、俺が大得意だ。

 村の運営だって、エルフたちやドワーフちゃんたちにお任せしている。

 というか、丸投げ出来るお仕事は容赦なくお任せしているわけで。


 何も、自分たちだけで解決する必要……無いんじゃない?

 得意な人に任せれば、良いのでは?


 独力にこだわるから、ダメなんだ。出来ないことは出来ないと、素直に認めよう。

 そのうえで、どうすれば出来るのか。


 ――答えは目の前にある!



イトカワちゃんの実験お団子は、スタッフが美味しく頂きました。

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