第十六話 ウロコのひみつ
続々と観光客が訪れる中、待ちに待った人たちがやってきた。
平原の人たちで、稲刈りを予定していたメンバーがそろったのだ。
「ちたまに、やってまいりましたああああ!」
「やきものやくぞおおお! のまえに、いねかりかな」
「カッチカチなやつ、やくわよおおおお! でもいねかりもね」
「わたしらのやきもの、おおうけだったわ!」
「あにめ! あにめみなきゃ!」
まずは、平原の焼き物五人衆がハイテンションでちたま入り。
故郷の森で思いっきり羽根を伸ばしたのか、みなさんかなりみなぎっておられる。
あにめさんも、あいかわらずキュア的コスプレでご登場だ。
「ここにくれば、あにめみられるってききました!」
「すっかりハマったの!」
「つづきがみたくて!」
そしてあにめさんの影響か、コスプレダークエルフ女子が増えちゃった。
アニメ見たさに、ちたまに来てしまったらしい。
みなさん色違いのキュア的な装いだね……。
あにめさんが持っていったプレイヤーとBDボックスは、遺憾なくあちらの世界で猛威を振るったらしい。
「あ、明日録画したものを持ってきますね。集会場でみんなと観賞して頂ければ」
「そうします!」
「たのしみだわ!」
「あにめ! あにめ!」
あにめさんたち、大雨の期間に見られなかった続きが、楽しみでしょうがないみたいだね。
ちゃんと録画してありますので、ごゆっくり鑑賞してくださいだ。
「ども! いねかりにきました!」
「がんばりますよ!」
「おれらのたんぼ、いいかんじだった!」
ほかにも稲刈りのために、平原の人たちが続々と訪れる。
明らかに過剰人員なんだけど、みんなでお世話した田んぼだからね。
その手でしっかりと、成果をつかみ取ってほしい。
自分で育てたお米を収穫して食べた時の達成感といったら、すごいからね。
そうして平原の人たちがそろったので、稲刈りに向けて日程を具体化できるようになった。
早速みんなを集めて、日程説明を行う。
「はい、みなさんお待ちかねの稲刈りですが、三日後に行います」
「がんばるです~!」
「とうとうきたな!」
「やるっきゃない!」
日程が決まり、村のみんなも気合十分。でも鎌はまだ必要ないから、仕舞ってね。
「わたしたちも、おてつだいしますよ」
「いねかり、はじめてかな~」
「がんばりましょう!」
平原の人たちもメンツは揃い、レディ状態だ。
ただ、稲刈り要員のあっちの森エルフたちがまだ全員来ていない。
彼らがこの村に来る日数を見越して、三日後というわけだね。
「ヤナさん、あっちの森の方々は、どんな感じですか?」
「ネコちゃん便で連絡を取りましたところ、そろそろ出発するそうです」
「対応ありがとうございます。大丈夫そうですね」
「はい」
この辺の調整はヤナさんがやってくれたようで、一安心だ。
それじゃあ、あっちの森から稲刈り部隊が到着するまでに、機材を揃えておこう。
「ちなみに、みんな船で来るそうですよ」
と思っていると、ヤナさんから追加報告が。
なんと、みんな船で来るらしい。それホント?
「え? 船ですか?」
「はい。途中まで陸路で来て、湖まで到達したら船に乗り換えるそうです」
なんと本当らしい。
ただ、どういう道のりで陸上を移動し、どこで湖を使うのかはわからない。
個人の裁量でやるのか、運用を考えてみんなで協力するのか。
そこんところどうなんだろう?
「陸路はどうやって移動して、どうやって船に乗り換えるとかわかりますか?」
「あ~、そこは聞いていませんでした。あとで確認します」
「すみません、お仕事増やしちゃって」
「これくらい、大丈夫ですよ」
さすがにそこは聞いていなかったみたいだけど、確認すればいいよね。
しかし、エルフたちは、複数の交通手段を使い始めたな。
今までは陸路でまっすぐ移動だったけど、今度から陸上と水上の交通手段を使うわけだ。
良いね良いね、物流ルートにバリエーションが生まれたよ。
これはひとえに、ロジスティクスへの道が一歩近づいたということを意味する。
エルフ交通の選択肢が、一つ増えたのだ。やがてこれは、進化していくだろう。
「フネのほうがはやいもんな~」
「でも、うでがつかれるべ」
「あるくよりはマシじゃん?」
「おれのじまんのフネ、おおぜいのれるようにしようかな」
そして船の話題が出たことにより、村人たちがエルフカヌーを取り出してキャッキャし始めた。
それは仕舞っておこうね。でっかいからね。
「わきゃ~、フネをきがるにつかえるのは、うらやましいさ~」
「みんなもってて、すごいさ~」
「うちらも、フネつくろうさ~」
あとは船にあこがれのあるドワーフちゃんたちが、エルフカヌーを見て羨ましそうにしている。
「おれのじまんのフネ、のっちゃう?」
「わきゃ~、おおきなフネさ~」
「すごいさ~」
「こんなの、どうやってつくるかわかんないさ~」
体の小さな彼女たちからしてみれば、エルフカヌーでも結構でかい船になるよね。
小さな子供たちとかは、おっちゃんエルフのでかめエルフカヌーに乗り込んではしゃいでいるし。
とにかく船が大好きなドワーフちゃんたちだね。
まあ、それはそれとしてあっちの森エルフたちの船旅は、あとで話を聞こう。
こっちから改善案も出せるかもしれないからね。
でもエルフたちもけっこうしっかりしているから、彼らに合わせた良い感じの運用をするだろうけど。
なかなかどうして、必要なこととなれば彼らはきっちり考えてやってくるからね。
そこは安心できるわけだ。
……まあ、放置するといろいろ面白いことを始めるけど。
「稲刈りは俺たちも手伝うぞ」
「大きな田んぼは機械で一気にやります」
あ、エルフ水運について考えていたら、話が進んでいた。
稲刈りは高橋さんと親父も参加だ。あと、お袋とユキちゃんもだね。
みんなで楽しく稲刈りしよう。
「それと、時間があれば稲刈りをする機械の講習もしますよ」
『かっこいいきかいだー!』
「オバケです~!」
そして親父が付け加えたけど、コンバインも使ってもらうのね。
メカ好きさんはもうこれに大喜びで、一気に離脱した。天井まで届いたよ。
虫取り網で捕獲してっと。
「おさわがせしました」
「それでつかまっちゃうんだ」
「あっさり」
「オバケつかまっちゃったです~」
メカ好きさんを本体に戻して、お話の続きだ。
「ヤナさんも参加頂ければと思ってます」
「確か去年タイシさんがつかってた乗り物ですよね。参加しますよ!」
「はい。ヤナさんはトラクターを運転できますので、なんとかなると思います」
「楽しみですね!」
ヤナさんも楽しみなようだから、なんとか時間を作って講習してあげたいな。
それに彼らが乗りこなせるようになれば、来年からもっと作付け面積を増やせる。
コンバインでの刈り取り人員が増えるなら、それだけ畑もでかくできるからね。
そうやって徐々に徐々に、食糧生産量を増やしていければなと思う。
様子を見ながら、年数をかけてぼちぼちとね。
「というわけで、いよいよお米作りも大詰めです。みんなで楽しく、がんばりましょう!」
「「「はーい!」」」
ではでは、稲刈り準備本格始動だ!
◇
「あや~、のりものたくさんです~」
「こんばいん、てやつだっけ?」
「トラックもきたな!」
『かっこいい!』
翌日から、村にコンバインやトラックを乗り入れ、本格的に準備を開始する。
乗り物を揃え、道具や物資を運びこんだりも。
「やっぱ、電気があると便利だな」
「女子エルフたちが、一生懸命充電してくれるようになったよ」
今回俺たちは一週間ほど村に泊まり込むので、空き家を拠点化した。
電源施設からコードをひっぱってきたので、とりあえず家電は使える。
現代のちたま文明になれた俺たちとしては、電気があるとほんと助かるわけだ。
「充電も困らねえから、楽でいいぜ」
「モバイルバッテリーじゃ限界あるからね」
「そうそう」
家にいるときみたいに電気は使えないけど、照明とスマホやモバイル機器の充電がし放題なのは、とっても助かる。
現代人は、スマホの電池が切れたらなんもできなくなってしまうのだ。
「今回はゲーム機も持ってきたぜ。夜中にちっと暇つぶししようかなと思ってさ」
「……携帯機を何台も持ってきてるのは、暇つぶしとは言わないよ。それガチだよ」
どうやら高橋さん、俺たちとガチでゲームを楽しむつもりのようだ。
協力して狩りをする風味のゲームとか、ソフトも沢山だよ。
「まあ、暇が出来たらね」
「おう」
高橋さんもそうだけど、異世界人はとにかくちたまのテレビゲームにハマる。
それは、ゲームの中には、見たことも無い世界があるからだ。
その中で実際に自分の選択で活躍できるのは、テレビゲームが無い世界の人にとって、夢があふれまくりでロマンみなぎるそうだ。
……あにめさんのコスプレも、似たようなものなんだろうな。あれはロールプレイなのかもだ。
「……冬になったら、ゲーム機を解禁するのも良いかもね」
「そうだな。家の中で過ごすことが多くなるから、良い気分転換になるかもだ」
「日本語を覚えないとゲームが楽しめないから、日本語学習にも熱が入るよね」
「俺もゲームやりたいがために、日本語勉強したからな」
今は漫画や技術書目当てに、エルフたちは日本語を学習している。
それにゲーム目当てが加わったら、さらに加速するだろう。
まあそれは、収穫祭が終わってからかな。
今はひとまず、稲刈りに全力投球だ。
そうして、高橋さんとちまちま拠点整備をしていた時の事。
「あれ? ここに置いたゲーム機、どこ行った?」
「ほんとだ、さっきまであったのに」
高橋さんが持ってきたゲーム機が、置いた場所から消えていた。
どこに行ったのだろう?
不思議に思い、室内を二人で見まわすと――。
(これおもしろいね!)
(むずかしそう~)
……いつの間にか、神様たちが部屋の中にいらっさった。遊びに来たのね。
そして二人とも、テーブルの上で二画面のゲーム機をキャッキャと操作している。
(あ、しっぱいしちった!)
(つぎやってみるね~)
二人は、仲良くミニゲーム集をやっているね。
……。
――操作方法教えてないのに、神様たちすごい!
でも、ゲームは一日一時間ですよ。名人がそう言っていたので。
◇
村に機材を運び込んでお泊まりしようと思っていたのだけど、お仕事が入ってしまう。
以前に依頼していた、ドワーフちゃんウロコの分析結果が出たと連絡があったのだ。
慌ててユキちゃんもつれて自宅に戻り、担当者さんとお話をするお仕事をすることになったわけだけど……。
「……この物体ですが、科学者の立場からすると、その……」
以前に灰化植物を鑑定してくれた担当者さん、なんだかお悩みのようだ。
まあドワーフちゃんは、ちたまにはいない人種だからね。
なんにも知らなければそりゃ悩んでしまうか。
しかし、異世界人がわきゃわきゃしていると知ったところで、担当者さんが科学者として得られるものは何も無い。
気にしない方が良いってことで。
「この物体が何なのか、気にしたところで益はございません。そういうものだと思っていただければと」
「はい……」
ガチの博士号もちなだけに、担当者さんは悩んでいたようだね。
でも、現代科学という土台を持って思考していると「これは異世界人のものだ」なんて思考は絶対出てこない。
「ひとまず悩まずに、結果だけご報告いただければ問題ございません。さあさあ、リラックスですよ」
「ま、まあそうですね」
なんか悩んでる担当者さんを適当に言いくるめて、報告のフェーズとなった。
さて、どんな結果がでたのやら。
「まずは、こちらの物体からですが」
「はい」
「画像を見て頂けるとわかるように、積層構造かつ多孔質です。半透明物質のため、内部も確認できます」
「ですね」
最初に、お母さんドワーフちゃんのウロコについて解説が始まった。
そのウロコは赤いやつで、熱をたんまり蓄えた状態ではがれたものだね。
電子顕微鏡写真を見ると、担当者さんの言う通りいくつもの層が重なった構造で、たくさんの小さな穴が開いている。
幾重にも重なった層は、不思議な幾何学模様を見せていた。
ただ、なんか画像がおかしい。
「あの……この穴なのですけど、見た目がおかしくないですか?」
「はい。おかしいです……」
俺の代わりにユキちゃんが質問してくれたけど、確かにおかしい。
ウロコは多孔質なので、沢山穴が開いていると先ほど説明を受けた。
しかし、立体感がゼロなのだ。ぺったんと黒い丸のシールを貼ったような、のっぺりさ。
穴じゃ無くて単なる模様なのでは?
「これは模様ではないのですか?」
「……いえ、これは穴です」
続けて俺が質問すると、担当者さんは断言する。顔色は、なぜか青いけど。
「これを穴だと断定する、根拠はありますか?」
断言した担当者さんに、ユキちゃんがその根拠を求めた。
たしかに、断言するなら根拠があるはずだ。
「はい。反射電子や特性X線、二次電子等が放射されないからです。これは模様ではなく、『穴』です」
青い顔をした担当者さん、はっきりとその根拠を告げる。
……試料に電子線を放射して出てくるはずのものが、何一つ出てきていない?
もしかして、担当者さんが言っている「穴」の意味とは……。
「……ブラックホール?」
「それに近い、とは思います……。この『穴』からは、何も返ってきません」
俺がそう言うと、担当者さんは写真を切り替えた。
この画像はなんだろう? 聞いてみるか。
「これは?」
「近接場光顕微鏡で撮影した物です。この『穴』からは光も出てきません」
「電子でも、光学でもおなじ結果ですか」
「はい……」
電子顕微鏡で見ても、光学顕微鏡で見ても、のっぺりした穴になる。
なにか、特異な現象が起きているというわけか。
「しかし、重力レンズは観測されてませんね」
「はい。ですので、ブラックホールに近い、何かとしか……」
ブラックホールは周囲に強力な重力レンズ現象を起こす。
しかし、この「穴」にはそれがない。
光さえも飲み込んでしまうのに、重力によって起きた現象では無いというわけか。
「正直、なぜこのような現象が起きているかは、分かりません……」
担当者さん、顔色が青を通り越して白くなり、おまけに冷や汗だらだらで頭を抱えてしまった。
まあ普通はわかんないよね。ちたま科学では、この辺が限界だ。
しかし……。
「大志さん、これってもしかして……」
「自分もユキちゃんと同じ見解だよ。これ……『結界』だよね」
「ですね」
マイスターとは違った意味で白くなってきている担当者さんはさておき、俺とユキちゃんは二人でひそひそ話をする。
そう、俺たちにとってこの現象、それなりに知見がある。
神秘側のテリトリーでは、わりと知られている物だった。
ドワーフちゃんたちのウロコにある、この「穴」は……結界、と考えられる。
さらに踏み込んで言うならば――時間操作系結界、だ。
まだ推測ではあるけど、ドワーフちゃんウロコホールにある結界内では、時間がきわめて遅くなっているのではと。
神秘界隈ではたまに見られる怪現象だね。謎の力を溜めておける系のアイテムでも、この時間遅延が使われていると思しきものがある。
具体的に言うと――うちの遺跡にある、あの地蔵本体とか。
宝石魔女さんも、これを操る技術体系を持っているはずだ。
こちら側では、別に白くなるほど悩むものでもない現象である。
――と、言うことはだ。
ドワーフちゃんがどうやって熱操作しているかというのも、見えてくる。
彼女たちは熱をため込むのに、時間遅延を行っているのだろう。
そうして時の流れを遅らせ、熱を留めておくのだ。
放熱したいなら、それを元に戻せばいいってことだね。
……吸熱したい場合は、時間を早めていたりとかも考えられる。
あの子たちの熱操作の根源は、時間操作によってもたらされていると推測できるわけだ。
すなわち、熱タイムマシン能力を持っている、のかもね。
「……」
ただ、白さがかつてのきれいなマイスターに近づいてきている担当者さんは、科学側のお方なわけだ。
神秘側ではそれなりに知られている、この時間操作現象は理解できないだろう。
気にしないのが一番だ。
「あ~、まあ深く考えない方がいいですよ。重要ではないので」
「重要ではないって……」
普通なら世紀の大発見かもって騒ぐところを、重要じゃないからってぽいちょされた担当者さんが、唖然とした。
でもまあ……ほんとそこを気にしても、科学側で得られることは何もないんだ。
神秘側の理不尽大爆発ってやつだ。考えたところで時間の無駄である。
ただまあ、なかなか面白い結果が出たな。
ドワーフちゃんたちが、まさか時間を操作して熱コントロールをしているかも、とは……。
ちたま人と体のつくりはそう変わらないのに、不思議な力をもっている。
まごうことなき異世界人ということを、改めて認識だ。
――さて、原理が推測できたところで次に行こう。
ドワーフちゃんたちが蓄熱する力は、熱タイムマシンなわけだ。
じゃあ、偉い人ちゃんはそこに問題があるのかもしれない、と考えられるわけだね。
具体的には、それを実現している「穴」だ。
ひとまず構造的な話から攻めて行こう。
「この謎現象のことは置いといて、構造的に何か知見はございますか?」
「構造ですか」
「多孔質だったり積層構造だったりしますよね。そちら方面で」
「……はい」
担当者さんは、謎現象についてもっとつっこみたいんだろう。
けど、俺としてはそこはもう解決済みのお話だ。
どうやって時間を操作しているかは置いといて、まずは構造に問題が無いか確認したい。
「こ、構造の観点から言いますと……こちらのほうは、どうも穴が少ないかなと」
「少ないですか」
「はい。明らかに少ないですね。こちらと比較すると、面積当たりで七割の差があります」
「そんなにですか」
画面に映し出されたスライドを見ると、子供のころに剥がれたウロコ同士の比較のようだ。
リーダーお母さんドワーフちゃんと、偉い人ちゃんでずいぶんと差がある。
「大志さん、こちらがあの方のですよね」
「そうだね。明らかに結界が少ないよ」
「ということは、能力の方も……」
「ユキちゃんのご指摘どおり、かなり不利かなって思う」
またもやひそひそ話モードの俺たちだけど、これはもう見ただけで分かる情報だ。
穴というか結界が少ないなら、純粋に溜めておける熱量も当然限界が低くなる。
お母さんドワーフちゃんと比較してみると、一目瞭然。ようするに、体質というわけだ。
そうだとすると……難しい話になってくる。
この穴を増やす方法なんて、見当もつかないからだ。
これは、こまったな……。
「この穴の数の差異は、入守さんのご指定なされた順番で比較すると、だんだん減ってはおります」
しかし、次のスライドで考えがひっくり返される。
映し出された画像は、もっとも最近剥がれた時点での比較だった。
確かに見た目で分かるような穴の数では、それほど差異がない。
大人へと成長するにつれ、人並みに増えてるっぽいぞ……。
「あれ? ではもう、人並みに熱を蓄えられるはずでは?」
「だよね。でも、ユキちゃんの言うとおりにはなっていない。つい最近まで、青かった」
「ですよね」
子供のころは、穴が少ないという体質で蓄熱が出来なかった。
だけど大人になったら、それは改善されたということになる。
であれば、もう人並みには熱を溜められる、すてきな赤しっぽになっていても良いはずだ。
だが、そうはなっていなかった。
「大志さん、何かおかしいですよ」
「自分もそう思う。だけど、何がおかしいかはまだ分からない」
偉い人ちゃんはついこの間までギリギリの熱量で、常にスレスレを生きてきた。
なぜ、どうして。体質は、成長と共に改善されたはずなのに……。
――と、頭が大混乱を始めたときの事。
「ただ、こちらのサンプルは穴が破壊されております」
担当者さんが、そう言った。
とてもとても大事な、熱をとどめておくための穴が……破壊されている?
「破壊、ですか?」
「はい。どうも、構造破壊が起きているようです。ここに、溶解したあとがあります」
「……」
偉い人ちゃんのウロコにある多孔質。しかし、穴がふさがっている個所が見受けられる。
その場所は……普通のくぼみ、みたいになっていた。つまり、熱タイムマシンが働いていない。
……もしかして、この構造破壊が原因で蓄熱が阻害されている?
熱タイムマシンの要であるこの穴が塞がった結果、蓄熱能力が失われた?
「ここなどは、穴が全滅しております」
「……確かに」
電子顕微鏡写真に切り替わり、ナノメートル単位での構造が映し出される。
担当者さんが言うとおり、たしかに……詰まってしまっている穴が多い。
お母さんドワーフちゃんのウロコには、それがないのに……。
「せっかく結界が人並みになったのに、壊れている……何故だ?」
「これも、あの方の体質なのですかね?」
「そうかもしれないし、そうではないかもしれない。今のところは、何も分からないな……」
……これは一体、何を意味する?
何が原因で、こうなっているんだ?




