第十五話 メンツがそろってまいりました
不気味――おっと前衛芸術像祭り開催の翌日、井戸掘りの進捗を確認してみる。
「こことここは、もっと深く掘らないとダメっぽいです」
「あんまり深くても使いづらいので、諦めますか」
「そうですね」
ヤナさんがいくつかの井戸の進捗を教えてくれたけど、芳しくない奴があるね。これはしょうがない。
手押しポンプは大気圧を利用する関係上、深さに限度がある。
まあ多段にすれば良いだけなのだけど、そこまで大がかりな仕掛けをしてまで必要かというと、そうでもない。
ひとまずいくつかは諦めて、蓋をしておく。ほんとに不要になったら埋めちゃおう。
「こっちは、よさげです~」
「ガア」
「じわじわ水が溜まっているね。これは使えそうだ」
「です~」
あとカモノハシちゃんが見つけた水脈は、それなりに水が湧いてきた。
しばらく様子を見て、良さげなら本格的に施工しよう。
「大志さん、水質検査キットでは問題なしと出ています」
「ユキちゃん確認ありがと。念のため検査会社にも依頼するから、サンプルとっておこう」
「わかりました」
ユキちゃんもお手伝いしてくれて、今は水質を確認してもらっている。
今の所水質は問題はないようだけど、飲み水にも使うから念のためきっちり検査はしないとね。
でもまあ、サウナのそばに水がある状態は作れそうだ。
ひとまず様子を見て、湧き出し量が分かってからくみ出す方式を考えよう。
そうしてのんびり、掘削状況と井戸の選定を進めていた時の事。
「タイシさん、おきゃくさんだよ! おきゃくさん!」
「かえってきたよ! かえってきたよ!」
妖精さんが、きゃいっきゃいで飛んできた。
どうやら新しいお客さんが来たと教えに来てくれたようだ。良い子たちだね!
でも、帰ってきたとも言っている。一体誰が、帰って来たのだろう?
「おや、おひさしぶりですな」
「あそびにきたかな~」
「げんきしてました?」
「ばうばう」
「ばう~」
と思っていたら、平原のお三方と、家族のフクロオオカミたちがやってきた。
どうやらエルフィンの雨は、完全に上がったようだ。
「これはこれは、お久しぶりです。みんな元気いっぱいで、村も平和ですよ」
「それはなによりです」
「わたしたちも、げんきかな~」
「たのしく、たびをしてきましたよ」
「ばうばう」
「ば~う」
平原のお三方に挨拶を返すと、相変わらずのんびりした感じで受け答えだ。
フクロオオカミ夫婦も、頭をすりすりして甘えてくる。
前回の別れからそれほど時間は経っていないのだけど、なんだか懐かしい。
「大志さん、これで観光業本格再開ですね」
「そうだね。楽しんでもらえるよう、催しをまた考えよう」
「おまつりです~」
再会を喜んでいると、ユキちゃんもそばにやってきた。
彼女の言う通り、平原の人たちが旅してくるということは、本格的に観光業開始の合図だね。
そして彼らが来たということは……。
「久しぶりね、大志」
「お袋、お帰り」
「ただいま」
一緒に旅をしていたお袋も、帰ってくるというわけだ。
妖精さんが「帰って来たよ!」と言っていたのは、お袋の事だったわけだ。
エルフィンでしばらく過ごしていた土産話とか、後で聞かないとね。
「タイシさんのおかあさんだよ! おかえりだね! おかえり!」
「げんきそうだね! よかったね!」
「おひさしぶり~」
ちなみに案内してくれた妖精さんたちも、きゃいっきゃいで挨拶だ。
お袋より彼女たちの方が元気なのは、言うまでもない。
「はじめましてですね! はじめまして!」
「あら? 大志この方は……」
「おかあさんだよ! わたしのおかあさん!」
「むすめがおせわに~」
「この子の母親なのですね。はじめまして。美咲と申します」
「ごていねいに~」
モルフォさんも飛んできて、お袋と顔合わせだ。
見たこともない種類の妖精さんだけに若干驚いているようだけど、サクラちゃんのお母さんと分かればいろいろ察するよね。
「おや、おかあさんなのですか」
「きれいなひとかな~」
「きらびやかですね」
「ほめられてしまいました! ほめられてしまいました!」
平原の人たちも、初対面のモルフォさんと挨拶しているね。
褒められたモルフォさんてれってれだ。
なごむなあ。
「『お義母さん』おかえりなさい」
「おかあ……? まあいいわ、時間の問題だからね」
「ええ」
そして続いてユキちゃんもお帰りの挨拶をしたけど、なんだこの流れ。
お袋はなんだか一人で納得しているし。
でもまあ、俺の超高性能危機管理センサーは反応していない。
おそらく気のせいだろう。
「それでユキちゃんもただいま。私がいない間、大志やらかさなかった?」
「え、ええまあ……」
「……やっぱり。うちの息子が苦労かけてごめんね」
「私もやらかしてますので、そこはなんとも……」
「ユキちゃんは良いのよ。大志がやらかすと大事になるから」
「ですかね」
そのまま俺のやらかしのお話になったけど、お袋的に俺の信用はゼロのようだ。
しかしユキちゃんは何とかフォローしようとはしてくれるあたり、ありがたい。
拝んでおこう。
「タイシのおかあさん、おかえりです~」
耳しっぽさんに感謝の波動を送っていると、ハナちゃんものんびり挨拶だ。
両手をばんざいして、お袋の帰還を歓迎だね。
かわいいなあ。
「あら~ハナちゃんただいま。久しぶりね!」
「あややややややや……」
あ、ハナちゃんが可愛すぎて、お袋がほおずりアタックを開始した。
なすがまま、お袋に抱きかかえられてほっぺたぐんにゃりハナちゃんだ。
微笑ましい光景だね。
「それでは、わたしたちはきょうのやどを、よやくしてきます」
「また、かおをだしますね」
「きょうはふんぱつして、おっきなおうちですごすかな~」
ハナちゃんがほおずりされているのを微笑ましく眺めながらも、平原のお三方は今日の宿を予約しに行くみたいだ。
奮発して空き家で過ごし、疲れを癒すつもりみたいだね。
まず真っ先に宿の確保に動くあたり、旅慣れているだけある。
「ではでは、またおはなししましょう」
「あとで、かおをだすかな~」
「それでは、また」
ということで、平原のお三方は手を振って歩いて行った。
またあとで、いっぱいお話しよう。こちらもあちらも、土産話はいくらでもあるだろうからね。
「あやややややや……」
「それで大志、なにか変わったことはあった?」
そしてハナちゃんにほおずりしながら、こちらに残ったお袋は近況を聞いてきた。
さしあたっては、沖縄旅行かな?
「沖縄旅行にみんなで行ったくらいかな?」
「あら! 沖縄良いじゃない!」
お袋も旅行好きなので、沖縄旅行と聞いてお目々キラキラだ。
こっちはこっちで、土産話をしよう。
……あ、そういえば沖縄旅行に関連して、ひとつ変わったことは起きていたな。
それを報告しておかないと。
「そうそう、沖縄旅行直前にお客さんが来たよ。新たなドワーフちゃんなんだけど」
「え? 新たなお客さん?」
「あやややややや……」
お袋に説明すると、きょとんとした。そう、偉い人ちゃんのことである。
彼女がちたまに来たときのパターンは今までの歴史でなかったため、何が起きたかお袋も理解できないよね。
この辺も含めて、いろいろ説明しとこう。
「その方の紹介も兼ねて、集会場で話そうよ」
「そうするわ」
「あややややや……」
ということで、偉い人ちゃんの紹介も兼ねて集会場で一通り説明しましょうかね。
「あやややややや……」
ちなみに、集会場へ行くまでハナちゃんはほおずりされっぱなしだった。
かわいいからしょうがないよね!
◇
「わきゃ~ん、もんじゃおいしいさ~」
(おてがるおそなえもの~)
集会場に到着すると、偉い人ちゃんと神輿が昼間っからもんじゃ焼きをおつまみに、お酒を飲んでおられる。
でもまあ、神様とドワーフちゃんならいつもの光景だね。
どっちもお酒を昼間から飲んだって、問題ない存在なのだ。
あと、偉い人ちゃんはきっちり酒量を減らしているのが見て取れる。
焼酎のお湯割りでちびちびやっているみたいだから、今までと比べたらかなり抑えているね。
院長さんのアドバイスをちゃんと守っているようで、さすが偉い人だ。
「あら? 大志、もしかしてあの人がそうなの?」
「そうだよ。若くして一つの巨大な湖と、その周辺をまとめていた権力者だね」
「それはまた、すごい人が来たわね。……でもどうやってこっちに来たの?」
「そこは、腰を落ち着けて話すよ」
「わかったわ」
立ち話をしていてもしょうがないので、まずは座ろう。
ちょうどいいので、偉い人ちゃんの所へ行こうかな。
「こんにちは。ちょっとよろしいですか?」
「わきゃん? タイシさんどうしたさ~」
(なになに?)
声をかけると、にこやかに応対する偉い人ちゃんだ。神輿もぴここっとこちらに向いた。
それじゃあ、お袋のことを紹介しよう。
「紹介したい方がおりまして、私の母なのですが」
「はじめまして。私は大志の母で、美咲と申します」
(おかえり~)
後ろに控えていたお袋を、偉い人ちゃんに紹介する。
神輿は顔見知りなので、ぴこぴこと手を振ってお帰りの挨拶だね。
「はじめましてさ~。タイシさんの、おかあさんさ~?」
「はい。うちの息子がお世話になっております」
「ウチのほうこそ、おせわになりっぱなしさ~」
とまあ一通り挨拶をして、いろいろあった出来事をお袋に話す。
沖縄旅行を計画したこと、偉い人ちゃんがフクロイヌに連れてこられたこと。
楽しい旅行の話も交えながら、彼女の体質についても話す。
「なるほど、それは連れてきた方がいいわね」
「うん。正直ギリギリだったかもって思ってる」
「そうよね」
絶妙なタイミングだった、偉い人ちゃんの来訪。
おかげで体質改善のきっかけもできて、結果は良い方向に落ち着いている。
ただし、現在はまだ道半ば。彼女のしっぽが、美しい赤に変わる日を目指して一歩一歩進んでいる最中だ。
「しかし、右も左もわからない異世界人の女子を、いきなり人間ドックに放り込むとか……あんた鬼ね」
「院長先生の指示だったのだ……」
「にしても、検査フルコースはきついわよ」
おっふ、やっぱり人間ドックの件はチクっと指摘された。
俺も悪いことしたと思っているけど、ああするしかなかったんだ。なかったんだ。
「わきゃ~ん。タイシさんもウチのためにやってくれたことだから、それくらいでさ~」
「まあ、そうですね」
お袋にチクチクされている俺を見て、偉い人ちゃんまあまあとなだめてくれる。
良い人!
そうして偉い人ちゃんの顛末は一通り話し終え、お次は沖縄旅行だ。
「おもいっきり、およいだです~」
「ハナちゃんちょっと日焼けしてるわね、楽しかった?」
「さいこうだったです~!」
「ウチもさ~!」
明るい話題になって、ハナちゃんと偉い人ちゃんキャッキャとはしゃぐ。
PCに保存してある画像も見せたりして、楽しい旅行の思い出話に花が咲く。
「あ、キジムナーさんたちとも交流したのね」
「あい~。よくしてもらったです~」
「ニライカナイか~。私も行ってみようかしら」
「すてきなところだったです~」
「きれいだったね! たのしかったね!」
お袋はニライカナイに行ったことはないから、羨ましそうだ。
でも沖縄に行けば電話一本で入れるようになるから、ご要望があればすぐにでもって感じだね。
「うふふ~」
「わきゃ~ん」
そんなこんなで、みんなでもんじゃ焼きをつまみながら、楽しくお話をする。
楽しい午後の昼下がりだ。
「あ、こちらにいらっしゃいましたか」
「たのしそうかな~」
「もりあがってますね」
やがて宿の確保が終わったのか、平原のお三方も集会場にやってきた。
俺たちの楽し気な雰囲気につられて、彼らも楽しそうな顔をしている。
さてさて、彼らも交えてお話を続けよう。
「いま、みんなで旅行してきた時の話をしておりまして」
「たびですか!」
「どこにいったのかな~!」
「きかせてきかせて!」
旅の話と聞いて、平原のお三方もお目々キラッキラだ。
写真を見ながら、楽しかった旅行の話をしましょうだね。
それから、いろいろお話をした。
「あれ? こちらのかた……はじめてみるかおですな」
「わきゃん。はじめましてさ~」
平原のお三方も偉い人ちゃんとは初対面なので、自己紹介しあったり。
「もうすぐ、なかまたちもやってきますよ」
「いねかり、がんばるっていってたかな~」
「まちどおしいですね」
稲刈りメンバーも、もうすぐやってくるという報告を聞いたり。
「おきなわ! こんなところがあるのですね!」
「しゃしん、みたいかな!」
「うみ、このめでみてみたいですね!」
沖縄の写真を見て、みんなでキャッキャしたり。
「おや? へいげんのひとたちが、こられましたか」
(ひさしぶり!)
「え? あっちのもりのぞくちょうさんが、なぜここに?」
「かみさまも、きてるかな~!?」
「どうされたのですか?」
あっちの森族長さんが来た理由を説明したりと、集会場は一層にぎやかになった。
やっぱり、人が多く訪れるというのは良いね。
◇
「ちわ~」
「おさけかいにきました」
「おんせんたのしみだな~」
やがて、平原の人たちが続々と村に訪れる。
エルフィンの大雨前と変わらず、のんびりした感じだね。
あっちはあっちで、あいも変わらず平和だったようだ。
「おわ! おきなわすげえええ~」
「うみのいろが、なんかもうちがう」
「たのしそうだな~」
訪れた彼らは、みんな集会場の別室でやっている沖縄旅行展示パネルにかぶりつきになる。
今回もちたまの理解を深めてもらうためにやっているわけだ。
ただ、飛行機の映像をみて気絶していたりしたけど。
とまあ、うちの村もずいぶんにぎやかになってきたところで、そろそろ稲刈りが出来るわけで。
一度みんなを集めて、打ち合わせすることにした。
「はいみなさん、そろそろおまちかねの、稲刈りを計画したいと思います」
「「「わーい!」」」
集会場に集まったエルフのみなさん、稲刈りと聞いて大盛り上がりだ。
お仕事は大変だけど、これをやると食べ物がズドンと増えるからね。
食料が増えるということについて、エルフたちは人一倍喜ぶ。
食いしん坊ってのもあるけど、狩猟採集文化だけに手ずから食べ物を集めるのは、大好きなんだろう。
「稲刈り自体はこの映像のとおりにやればよいので、予定では三日くらいで終わります」
「たべものたくさん、とるです~」
「ふとっちゃ……もうておくれだったわ~」
「おにくがふるえる」
ハナちゃんはもう鎌を取り出して、やる気十分だね。でもまだしまっておいてね。今日は使わないから。
あと、腕グキさんはもうあきらめた顔である。ステキさんはまだ、あがくつもりのようだけど。
というか、まだ減量終わってなかったのね。
「わきゃ~ん、いねかりとか、よくわからないさ~」
「うちもさ~」
「あのくさがたべものになるって、ほんとさ~?」
稲刈り初めてのドワーフちゃんたちは、盛り上がるエルフたちを見て不思議そうな顔をしている。
でも、稲刈りが終わって収穫祭をすれば、これでもかと実感がわくだろう。
今自分たちが食べているご飯は、この手で育てたものだと噛みしめることができるのだ。
そういう達成感と充実感を得るためにも、お祭りはやっとかないとね。
「そして稲刈りが終わったら、当然お祭りしちゃいますよ」
「おまつりです~!」
「それそれ!」
「たのしみだわ~」
「まつりじゃあああああ!」
お祭り大好きエルフのみなさん、この時点でやる気マックスだね。
その辺の予定も、決めておこう。
「稲刈りが終わったあと、二日準備をして盛大にやりたいなと考えております」
「よくわからないけど、おまつりはいいかもさ~」
「おまつりはたのしいからね! たのしいからね!」
「ごきょうりょく~」
「おまつりですか! たのしみですね! おまつりたのしみ!」
収穫祭の経験がないドワーフちゃんたちも、お祭りは楽しみなようだ。
妖精さんたちは、楽しみ一杯な顔だ。キラキラ粒子大盤振る舞いだね。
今、集会場は輝くパーティクル祭りになったよ。
とまあ、すでにお祭り状態な妖精さんはそのまま輝いてもらうとして。
「このお祭りを実現するために、準備期間で山で山菜取り大会や、釣り大会とかもやりますよ」
「たのしそうです~!」
「おれのじまんのつりざお、たくさんつくるのだ!」
「つりはたのしみさ~!」
「おさかな、たくさんとるさ~」
お祭りの準備は、せっかくだからイベントも交えて行うことにした。
催しを楽しみながら、同時に食べ物も集めちゃうわけだね。
みなさんふるってご参加下さいってことで。
「おいしそうなしょくぶつ、さがそうじゃん!」
「おまえはやめとけ」
「どうしておまえは、そんなにじしんもてちゃうの?」
「それな」
「なん……だと……」
マイスターも張り切っているようだけど、即座に周りのエルフが突っ込みを入れる。
そして俺もみんなに同意だ。ほっとくと、どんな危険物を採取するかわからないからね。
まあ、マイスターが狙ったやつは百パーアレするやつだから、それを避ければ確実でもあるけど。
その辺も含めて、いろいろ計画していこう!
ぽんこつ危機管理センサー




