第十四話 かみさまの、向き不向き
翌日、マークした水脈を確認してみる。すると、そこそこヒットしていた。
「お、ようきがしめってるじゃん」
「これなら井戸が掘れそうですね」
「こっちもです~」
エルフたちやカモノハシちゃんが見つけてくれたポイントは、結構有望なのが多かった。
とくにカモノハシちゃんが教えてくれたものは、ほぼ全てコップ内に多めの水滴が観測できている。
かなり凄いのでは!
「君たち、凄いね!」
「ガア~」
「ガアガア」
「ガ~ア」
彼らの能力を讃えて、もう思いっきりなでくりしちゃう。
なでられて嬉しいのか、カモノハシちゃんたちしっぽを振ってご機嫌だね。
と、カモノハシちゃんを褒めまくっていたら
「ガア!」
「ガアガア」
気をよくしたのか、また水脈を探してくれたようだ。
今度は数匹で集まり、前足で土を掘り始めたよ。
……でも、そこは土がカラカラに乾いているところで、水脈は存在しないように思えるんだけど……。
とりあえず、確認してみるか。
「ねえ、そこからも出るの?」
「ガア!」
「ガ~ア!」
問いかけると、こちらをつぶらなお目々で見上げ、何かを伝えるように鳴いた。
……水脈を確実に当てる子たちだ。なにかあるだろう。
「念のため、ここにも目印をつけておくね。そのうち掘ってみるよ」
「ガア」
そう伝えると、カモノハシちゃんたちも嬉しそうにする。
まあ、暇が出来たらほじくってみるか。
そうしてカモノハシちゃんたちと戯れたりしていると、他のみなさんも自分が探し当てたポイントのチェックが終わったのか、続々と集まってきた。
「おれのみつけたところ、ぜんぶはずれたのだ」
「わたしもよ~」
「いっこもあたってないとか、ふるえる」
……まあ、空振りだった方々もいらっさるけど。でもまあ、おまじないだからね。
そこは気にしないことにして、井戸掘りの準備をしましょうだね。
まずはサウナ設置予定場所に近い水脈かつ、湧水を誘導しやすいものを選定しよう。
「こことここ、あとここを掘ってみましょう。うまくすれば、汲み上げなくても湧き出してくるかもしれません」
斜面をざっくり削ればよさげなところと、施設に最も近いところなどを選定していく。
ターゲットを決めてしまえば、あとは掘るだけ。
さっそくみんなに、井戸掘り道具をご紹介の番だ。
「はい、候補は決めましたので、次は道具の説明をします」
「なんか、ながいやつがあるです?」
「そうそう、それだよ」
道具の説明をしようとしたところで、ハナちゃんが井戸掘りステキアイテムを見つけた。
それが今回の秘密兵器でございますよと。
ではでは、道具とその使い方を説明しよう。
「これはハンドオーガーと言う道具で、地面にぶっさしてでぐるぐる回すと掘削できるステキなやつです」
「まわすですか~」
「実演するから、ちょっと見ててね」
「あい~」
そう、今回用意したのはハンドオーガー。どこのご家庭にもある、人力掘削道具だ。
使い方は簡単。ぶっさして力業で回せばどんどん穴が掘れてしまう。
「はい、まずは土にさして……こう、取っ手を回すと穴が掘れます」
「あや! あっというまです~!」
「やだこれべんり」
「たんじゅんなつくりなのに、こうかばつぐん」
「すげえ」
力任せにぶっさして回すと、すぐさまそれなりの穴が掘れた。
数人がかりでやれば、一日で結構な深さの穴が掘れる優れものだ。
到達できる深さには限界があるけど、井戸掘りなのでそんなに深くは掘らない。
手押しポンプが使えない深度まで掘っても、意味が無いからね。
「……おれら、ふつうにあなほるつもりだったのだ」
「スコップとかいらんかった」
「それな」
そしてハンドオーガーの性能を見たおっちゃんエルフたち、手に持ったスコップを所在なさげにしている。
でもご安心を。スコップも後で使いますんで。
「それは後の工程で使いますよ。ただ今はこれでひたすら深い穴を掘っていただければと」
「わかったじゃん」
「まかせてほしいべ」
「やるぞ~!」
お願いすると、みなさんやる気みなぎる様子でハンドオーガーをえっちらおっちら運び始めた。
あとはそれなりに掘ったり、パイプを継ぎ足したりとやっていくだけだね。
「お! これいいぞ!」
「ふかくほるの、らくちんじゃん!」
「おれたちのいままでのくろうは、いったいなんだったのか」
早速ハンドオーガーを使い始めたエルフ男衆、その便利さに大はしゃぎだね。
みんなで力を合わせて、掘削を始めた。
「棒の長さまで掘れたら、これを継ぎ足します。こうして連結できますので」
「なるほど、そうやってどんどん深く掘るのですね」
「そうです」
ヤナさんに継柄――いわゆる延長棒の連結方法を教えると、使っていないオーガーでさくっと連結した。
この分なら、お任せしても大丈夫かな。
「この棒が十本くらいの深さを掘っても水が出なかったら、諦めて他の場所を掘るって感じでお願いします」
「わかりました」
「それでは、井戸掘りの方はお任せします。何かございましたら、無線で連絡してください」
「「「はーい」」」
というわけで、井戸掘りをお任せして俺は離脱だ。
ユキちゃんが会合から帰ってきたため、迎えに行かないとね。
ということで、さくっとコナ〇コマンドで領域に到着。
何度もやっているからあっという間にたどり着けるようになった。
俺はコナ〇コマンドには自信があるんだ。
とまあ、それはさておきユキちゃんに、迎えに来たよとお電話をしよう。
『もしもし』
「ユキちゃんお久しぶり。迎えに来たよ」
『いつもありがとうございます。今行きますね』
「わかった。下で待ってるから」
『はい』
二人で簡潔に通話を済ませ、ユキちゃんが下りてくるのを待つ。
五分ほどのんびりしていたところで、ふわふわ耳しっぽさんが階段から降りてきた。
……今日はいきなり正体バラしてらっしゃる。油断しすぎでしょ。
でも相変わらず、素晴らしい毛並みだね!
そうして毛並みをいきなり堪能できたところで、情報公開キツネさんの到着だ。
近くで見ると、なんかお疲れっぽいね。
「お待たせしました。大志さんお元気でしたか?」
「自分は元気だね。でもユキちゃんちょっとお疲れかな?」
「はい。いろいろ忙しくて正直ちょっと疲れました」
まあ神秘が一堂に会して交流を深めたり、会議したりするからね。
ユキちゃんまだ若いおいな――おっとキツネさんだから、心労もあるだろう。
今日の情報公開っぷりはあれだ、ちょっとお疲れ気味なのが原因ぽいね。
「今日のお仕事大丈夫? なんなら休んでかまわないけど」
「大丈夫ですよ。それにみんなで神様のおうちを提案するって、楽しそうじゃないですか」
「そうだね。じゃあ申し訳ないけど、今日もお仕事がんばろう」
「はい」
ユキちゃんやる気はあるようで、にこにこ耳しっぽだね、
それじゃお言葉に甘えて、お仕事手伝ってもらいましょう!
◇
「ということで、ユキちゃんが用事から帰ってきました」
「はじめまして、雪恵と申します」
(はじめまして!)
「これはこれは、かわいらしいむすめさんですな。はじめまして、あっちのもりでぞくちょうやってます」
すぐさま村にとんぼ返りし、オレンジちゃんとあっちの森族長さんに顔合わせだ。
(おかえり~)
「おかえりです~」
もちろんうちの神様とハナちゃんも一緒で、今回はこのメンツでオレンジちゃんのおうち相談となる。
それじゃ、始めよう。
「早速ですが、おうち候補をいくつか見繕ってきました」
(おうち!)
事前に取り寄せておいたカタログを机の上に並べると、オレンジちゃんおおはしゃぎだね。
ほよほよ光って元気いっぱいだ。
「おうちの種類としては、神社と祠の二種類をご用意させていただきました」
「いろいろ、あるですね~」
(すてきなおうちだね!)
ハナちゃんがぺらりとカタログをめくると、オレンジちゃんキャッキャとのぞき込む。
今ハナちゃんが見ているのは、神社タイプだね。
(たくさんあるね!)
「あい~。たくさんあるです~」
オレンジちゃんとハナちゃん、のんびりカタログを眺める。
さてさて、ここでアドバイザーのご意見とかも聞かないとね。
「ユキちゃん、こちらの神様に良さげなおうちとか、アドバイスあるかな?」
「そうですね……」
となりのユキちゃんに聞いてみると、あごにてをやって考え始める。
ふわふわしっぽが揺れていて、眼福眼福。
「ちょっとよろしいですか。感触を見ますので」
(なになに?)
しばらく考え込んでいたユキちゃん、おもむろにオレンジちゃんを手招きだ。
呼ばれた光の玉は、すすすっとユキちゃんのほうによって行く。
「……ふむ、手触り最高」
(そうなの?)
近づいてきたオレンジちゃんを右手の平の上にのせて、そのまま撫でる。
手触りが良いらしい。
「この属性だと、祠がおすすめかもですね」
やがて何かがわかったのか、ユキちゃんが祠をお勧めしてくる。
どうも、属性とかあれこれそれがあるらしい。
(そうなんだ!)
「ほこらですか~」
(いいかもね~)
ユキちゃんの言葉を聞いて、オレンジちゃんキャッキャとする。
謎の声も祠をお勧めされて、神輿と一緒に祠のカタログを見始めたね。
しかしなんで祠なのだろうか。
「ユキちゃん、祠が良いのはなぜ?」
「この子は自然の中で、思いっきり飛び回るのが向いていてまして」
(そうそう!)
「そうらしいです~」
(わんぱく~)
ユキちゃんの分析結果に、オレンジちゃんも同意のようだ。
ハナちゃん通訳による謎の声も、そう言っている。
ただユキちゃんの言う通り、元気いっぱいで飛び回っているのは映像でも見るし、この村でもそうだ。
活発な子というのは、確かにそうなんだろうな。
「そういう子の場合は、領域を作る神社より自然と一体として祭る祠が住みやすいかなと」
「なるほど」
聞いてみると、確かにそうかなと思う。大自然の中を思いっきり飛び回る子だ。
オレンジちゃんにとって、自然の中、一部としておうちがある方が嬉しいだろう。
それに祠はとても身近なものだ。あっちの森エルフたちとの生活とも密着できるね。
「あとは、エルフのみなさんの手でおうちを作ると気持ちがこもり、神様もよりいっそう元気になりますよ」
「ほう、それはよさそうですね」
「うちの神様のおうちも、みんなで組み上げました。あの神棚にある神社ですね」
「あれ、みなさんでつくったのですか」
自分たちで作るという点に、あっちの森族長さんが反応した。
もともと葉っぱのおうちを作って提供していただけに、気持ちを込めたいのだろう。
うちの子のおうちだって、みんなで組み上げて気持ちを込めた。
そういうおうちが、神様にとって過ごしやすい拠点になるよね。
(みんなのきもち!)
(おうちのなかでも、ぽっかぽかだよ~)
(よさそう!)
「よさそうですか~」
それを聞いて、オレンジちゃんも乗り気な感じだね。神輿となにやら相談している。
謎の声的には、そういうおうちはぽかぽからしい。
「ちなみにうちの神様は、がっちり領域を作って存在を明確にするのが向いてますね」
(そうなの?)
「そうなんです?」
「箱の中の方が、落ち着くはずよ」
(たしかに~!)
「おちつくですか~」
ユキちゃんが今度は神輿の例を出してくれたけど、確かに神輿に入ってから活発に外に出るようになったな。
光の玉状態で外に出ていることは、あまりない。
うちの子は、引きこもった方が向いているというのもそうかなって思う。
謎の声も同意しているし、うちの神様には神社が向いているってことか。
そうしてそれぞれの神様に、何が向いている過ごし方もわかった。
オレンジちゃんは祠タイプなので、その中から良さげな物を選んでもらおう。
「方針は決まりましたね。では、祠のなかから気に入ったものをお選びください」
「わかりました」
(そうする!)
方針を告げると、あっちの森族長さんとオレンジちゃんは、仲良く祠のカタログを眺める。
急がなくてよいので、納得いくまで選んでね。
あ、そうそう、選んだあとのことも伝えておこう。
「形がきまりましたら、こちらでどう作ればよいかの絵を起こします。それに従って木材を加工していただけたらと」
「お! もっこうならまかせてください。みんなとくいですから」
こちらで図面を起こすことを伝え、木工をお願いする。
あっちの森族長さん、その話を聞いてやる気みなぎる感じだ。
木工が好きなんだろう。
というかエルフたちは木工がほんと得意だから、加工は心配しなくても良いよね。
「ですね。みなさんの木工技術、かなりすごいですよ」
「それはそれは」
「おれのじまんのもっこうざいく、みせるばめんだとおもうのだ」
――おっちゃん! いつの間に!
なんか謎の邪心像みたいなのを並べ始めたぞ……。
というか、井戸掘りしてたはずでしょ。どうして集会場に来ているのか。
「これとかどうかな」
「これはこれは、みごとなぞうけい」
「がんばってつくったのだ」
「あや~、ゆめにでてきそうなやつです~」
そのままおっちゃんエルフ制作の邪心像鑑賞会が始まる。
確かに細工は見事なのだけど、ハナちゃんの言う通り夢に出てきそうな造形だ。
なんか今にも動き出しそう。
それと井戸掘りしていたはずの他の男衆も、なぜか集まり始めた。
……休憩時間だったのかな?
「……まあ、別の会が始まったけどのんびり行こうか」
「そうしましょう」
「そうするです~」
結局その後村のエルフたちが集まりだして、みなさん秘蔵の邪心像品評会が始まったわけで。
もうでるわでるわ、夢に出てきそうな造形の工芸品がたくさんだよ。
「あや~、ぶきみなやつ、たくさんです~」
ハナちゃん的にもあれは不気――おっと前衛的らしく、俺の後ろに隠れちゃった。
しかしあれってなんの像なのだろう。
「あれって、なんの像なの?」
「わかんないです?」
「そうなんだ」
「あい~」
どうやらハナちゃんはわからないらしい。
じゃあヤナさんは?
「すみません、これっていったい何の像なのですか?」
「さあ? 昔からありまして、時がたつごとにどんどん不気――いえ、造形が細かくなってきてます」
「そうなのですか」
「はい」
……ヤナさんも一瞬不気味と言いかけたぞ。
というか、年々細かくなってきているらしい。
これ、凝りすぎて原型なくなってるんじゃない?
本来の形は、もっと違うものなのでは。
「つぎは、わたしのよ~」
「おお! これはみごとなぶきみ――ああいやいや、こまかいできばえ」
「でしょでしょ~」
おい、ほかのエルフたちだって不気味ってわかってるじゃないか。
もしかして、そういうのを競ってるの?
わからない。エルフたちの文化がわからない。
「なんだかおもしろいことしてるね! おもしろいこと!」
「きみょうなかたちだね! きみょう!」
「しっぱいしたやつなら、まかせて! まかせて!」
賑やかなのを聞きつけたのか、妖精さんたちも集まってきた。
今なら失敗作を出しても溶け込めると見たのか、イトカワちゃんも邪心像的な前衛芸術小惑星を並べ始めたりしている。
俺が今まで見てきた「しっぱいしたやつ」は、あれでも序の口だったのか……。
「これはさすがにまずくないかな! まずくないかな!」
「きゃい?」
「どうしてこうなった~」
あ、邪心像的小惑星は、サクラちゃんからレフェリーストップがかかった。
世界の平和は保たれたのだ。
……まあ、この方たちの不気味像イベントはそっとしておくとして。
オレンジちゃんのおうちは方向性も決まったことだし、あとは造形を選んでもらうだけだ。
ぼちぼちやっていこう。
(これとかすごくない?)
(でかすぎかも)
――神様、それは出雲大社巌分祠ですよ!?
その辺の神社よりデカイやつです!
というか、なんでそんなのがカタログに載ってるの?
このカタログおかしくない?




