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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第三章  エルフ農業(初級編)
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第五話 あえ~? あえ~?

 

「……あえ?」


 ハナちゃんがもやしを見に行くと、一目でわかる異変が起きていました。

 なんということでしょう、豆苗とかいわれ大根が、立派な感じでにょきにょきしていました。

 みずみずしく育ったそれは、なんだかもう、食べられそう。

 そしてしばらく首を傾げて考えた後、また二度見するハナちゃんでした。


「あえ?」


 何度見ても、にょっきりしています。

 ハナちゃんは思わずパッケージ写真を取り出し、にょきにょきしている奴と見比べました。

 写真と同じような出来具合です。


「……タイシは、もっと時間かかるって言ってたです?」


 首を傾げるハナちゃん。七日位かかるという話でしたから、まさか一晩で育つとは思っていなかったのでした。

 楽しくにょきにょき過程を観察するつもりが、いきなり完成品です。

 豆苗とかいわれ大根のこの状態をみて、ハナちゃんは嫌ぁ~な予感がしました。


「もしかして、こっちもです?」


 豆もやしの方に、ちらりと目を向けたハナちゃん。かぶせてある布がなんだか、こんもりと盛り上がっています。

 もう見た目からしてアレな状態。「これは、見なかったことにするですか」と一瞬思うハナちゃんでした。


 そうして、しばらくどうするか悩んだ後……。


「……いくですよ!」


 ハナちゃんは意を決して布をつまみます。でも、気合の割には腰が引けていますね。

 おそるおそる、そーっと布をめくるハナちゃん。


 ぴろっ――ドバッ!


 布をめくったとたんいい感じに出来上がった豆もやしが、あふれ出てきました! それは、尋常ではない量です。


「あやややや!」


 ドバドバ出てくる豆もやしに、ハナちゃんびっくりして尻もちをついてしまいました。


「あ、あえ~。なんか沢山できちゃったです~」


 お店で売っているような状態まで育った豆もやしに、ハナちゃんもなにがなんだかわかりません。かいわれ大根も豆もやしも、聞いていた話と違う出来栄え。これにはハナちゃんも大混乱。

 ハナちゃんは「あえ~? あえ~?」と右に左にわたわた、わたわた。大慌てです。


「ハナ、どうしたんだい?」


 ヤナさんは、わたわたするハナちゃんを見て、もしかしてもやしが失敗しちゃったんじゃ……と考えながら様子を見に来ます。そして――ブツを確認しました。


 も゛っさり。


「うわあっ! 何これめっちゃくちゃ育ってる!」


 豆苗とかいわれ大根、それに豆もやしもどっさり育っています。

 とくに豆もやしは、大豆一キログラム分です。

 ドバっとプランターから溢れていました。明らかに作りすぎです。

 予想外の事態に、ヤナさんもハナちゃんと一緒にわたわたしてしまいました。


「どうしたの?」

「なんだヤナ、どうした」

「あらあら?」

「ふがふが?」


 ヤナさんのびっくり声とわたわたする様子を見て、おうちの皆もやってきます。

 そしてやっぱり、大量の豆もやしにびっくり。

 ハナちゃんのおうち、朝から大騒ぎです。皆でもやしを囲んでわたわたしたのでした。


 しばらくして。


「……タイシさんに聞いていたより、ずいぶんと早くできたわね」

「何でだろうね?」

「分からんなあ」

「あらあら」

「ふがふが」


 ひとしきり騒いで、ようやく落ち着いたハナちゃん一家。大量の豆もやしを前に、皆で首を傾げています。

 仕込みになにか違いがあったのでは、そう思ったヤナさんはハナちゃんに聞いてみます。


「ハナ、昨日仕込んでいるときに、何かかわったことなかった?」

「言われたとおりやったです?」

「いや、僕に訊かれても……」


 考えても良くわかりません。ヤナさんが見た限りでは、確かに言われたとおり仕込んでいました。何か特別なことは、していなかったはずです。奇妙な歌を歌ったくらい?

 おうちの皆は、首を傾げて「なんだろね」と言い合いました。


 ひとしきり首を傾げあったところで、カナさんが言います。


「考えてもわからないわね。無事に出来たってことで、喜べば良いんじゃないかしら」

「そうかな」

「そうよ」


 いち早く思考を放棄したカナさん。もうこれ喜んじゃえば良いよね、という何とも建設的なご意見です。


「そうしようぜ」

「あらあら」

「ふがふが」


 おうちの皆もそれでいい感じです。とりあえずは、食べ物沢山良かったね、で意見がまとまりました。

 しかし、新たな問題が出てきます。


「……それで、この大量の豆もやし、どうしよう」


 ヤナさん、こんもりと育った豆もやしを前にして、考えます。さすがにおうちだけでは、この大量の豆もやしを食べきれません。なんせ大豆一キロ分ありますから。芽が伸びて何倍にも膨れ上がってるので、ものすごい大量にあるように感じてしまいます。


「流石にこれは、ちょっと多いわね」

「家だけでは食べきれないな」

「あらあら」

「ふがふが」


 おうちの皆も、良い案が浮かびません。森に居たときも、必要な分だけ採ってきていたエルフ達です。

 ひとつのおうちだけで一気に、こんな大量の食糧をさばいたことがありません。

 しかしハナちゃん、ニッコニコ笑顔で言いました。


「村のみんなで食べるです~」


 愛情込めて、丹精込めてじっくり(たった一晩で)育てた豆もやし、皆で食べようと言うのです。


「良いのかい? これはハナが一生懸命(たった一晩で)育てた物なんだろう?」

「良いのです~」


 笑顔で答えるハナちゃん。(たった一晩で)育てた作物を皆に分けてあげちゃう、えらい子です。


「良い子だね。ハナは」

「皆も喜ぶわ」

「偉いな」

「あらあら」

「ふがふが」


 なでなで、なでなで、なでなで、なでなで、なでなで。


「うふ~」


 皆に撫でられたハナちゃん。嬉しそうです。


 こうして、豆もやしとかいわれ大根は、村の皆で食べることになりました。

 早速、今日の朝食に入れてみましょう。献立はラーメン以外にありえません。

 ラーメンがもっとおいしく。そんな大志の言葉を思い出しながら、ハナちゃん一家は炊事場に向かいました。大量のもやしを抱えて、一家そろってうきうき気分です。

 

 ハナちゃん一家が炊事場で豆もやしを洗っていると、ぽつぽつ人が集まり始めました。炊事場に来た人たちは、皆ハナちゃんがニコニコ顔で洗っている物に目が行きます。


「ハナちゃん、それなあに?」

「豆もやしです~」

「……え?」


 大量の豆もやしを見た人は、大体こんな反応です。集まった人は豆もやしを囲んで、わいわいし始めました。


「一晩でこんなに出来るものなの?」

「うちのも割と育ったけんども、ここまではならなかったべ」

「うちのはこれくらいね~」


 どうも、他のエルフ達が仕込んだ豆もやしも、わりかし育ったようです。長さを言い合っていますが、だいたい二センチから三センチくらいの大きさ、そんな感じです。

 

「タイシさんが言ってたより、なんか早く育ってね?」

「何だろな」

「こんくらい伸びるには…………結構かかるって言ってたよな」


 脳筋エルフさん、日数を忘れたので適当言いました。

 聞いていた話より早く育ったことに、首を傾げるエルフ達。しかし考えてもわかりません。誰も一晩でこんなに伸びるとは、思っていなかったのです。

 そんな皆に、ヤナさんが言いました。


「私たちも良くわかっては居ないのですが、まあ沢山出来たから良いんじゃないかってことにしました」

「そだな」

「考えてもしょうがあんめえ」

「食べ物増えるだけで幸せだわ~」


 皆も同意のようで、全員があっというまに思考放棄です。食べ物いっぱい嬉しいね。エルフ達は、それでいいやと思うことにしました。

 難しいことを考えるのは、苦手なエルフ達。皆のなかで一番難しいことを考えられるヤナさんが、思考を放棄したのです。これ以上考えるだけ無駄なのはわかりきっていたので、すんなりでした。


「それで、こんなに沢山持ってきて、どうすんの?」


 一人のエルフが、ハナちゃんに聞いてきます。ハナちゃんはニコニコしながら答えました。

 

「これをみんなのラーメンに入れるです~」

「「「――!!!」」」


 ハナちゃんの言葉を聞いたエルフ達、ラーメンがもっと美味しくなると、楽しみにしていたことを思い出しました。

 まさかこんなに早く、それが実現するとは。エルフ達は大喜びです。


「ハナちゃんありがと~」

「やったー! ラーメンがもっとおいしくなる~」

「早速お料理、始めましょう」


 エルフ達はうきうき気分で、朝食の準備を始めました。今日の朝食は、いつもよりちょっと豪華です。

 ラーメン、どんなおいしさになるのかな、もっとおいしくなるのかな。

 皆ラーメンが出来上がるのを、楽しみに待ちました。


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