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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第二十一章 エルフ重工
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第七話 ちょっと目を離した隙に……



 旅行の終わりを告げた後、日常へ戻るため、みんなと村へ歩いて行く。


「おうち~おうち~のんびりするです~」

「ギニャ~ニャ~」

(のんびり~)


 ハナちゃんもフクロイヌや神輿と一緒に、歌を歌いながらぽてぽて歩いて行く。


「きょうはおゆうしょく、かんたんにすませちゃうけどいいかしら?」

「だいじょぶです~」

「さっき釜飯食べたばかりだからね」


 長旅が終わってようやく帰ってきたわけで、カナさんは今日の夕食を簡単に済ませる予定のようだ。

 というか、釜飯食べたばかりだけど、夕食は食べるのね。


「タイシもおゆうしょく、いっしょにたべてほしいです~」


 そしてハナちゃんから、お夕食のお誘いだ。

 もちろんお受けしますよ。

 ただ、その前に一つお仕事がある。


「お夕食は是非ともだね。でもその前に、お留守番してくれたみんなに挨拶してくるよ」


 三泊四日の間村でお留守番していてくれた、観光客妖精さんとリザードマンたちに挨拶しなきゃね。

 無事帰ってきたよって顔を見せる意味もある。


「そうですね。私もご一緒します」

「ハナもいくです~」


 挨拶のことを告げると、ユキちゃんとハナちゃんもお付き合いしてくれるようだ。

 それじゃあ、三人で顔を出しましょう!


「あいさつ~あいさつ~、みんなげんきしてるですか~」


 今度は挨拶の歌を歌いながら、ハナちゃんが先頭を歩いて行く。

 エルフ耳がぴっこぴこで、ご機嫌だね。

 そうして三人そろって、まずは妖精さんのお花畑へ。

 みんな元気してるかな――て。


「きゃいきゃいきゃいきゃい~」

「きゃいきゃいきゃきゃいきゃいきゃい~」

「きゃ~いきゃいきゃいきゃい~きゃい~きゃい~」


 ……なんぞこれ。


「タイシ、タイシ。これなんです?」

「たった三日、目を離しただけなのに……」


 妖精お花畑に出来ていた「それ」を見上げて、ハナちゃんとユキちゃんぽかん。

 果たして妖精さんお花畑がどうなっていたかと言うと――。


「――なんで、お花タワーができてんの?」


 そう、妖精さんお花畑に、巨大なお花タワーがいくつもできていたのだ。

 ジャックと豆の木みたいな太い茎が、高さ五メートルくらいまで伸びていて、さらに光るお花が満開。

 あらステキ!


「きゃい~! でっかいおはな! でっかい!」

「たかいね! きれいだね! たくさんだね!」

「いつのまに~」


 後からやってきた妖精三人娘も、これをみてびっくり。

 きゃいっきゃいで、お花タワーの周りを飛び始めた。


 ……あれだ、旅行中に、また隙を突かれたでござるよ。

 どうしてこの植物たち、俺をびっくりさせようとするの……。


「きゃい? おうさま! おうさま!」

「おかえり! おかえり!」

「すごいおはな、さいたよ! さいたよ!」

「きゃいきゃいきゃい~」


 さらに言うと、そのお花タワーには大勢の妖精さんが住み着いていた。

 お花から顔をだして、きゃいきゃいとお帰りの挨拶だね。


「妖精さん集合住宅が出来てる?」

「タイシ~、かずもなんだか、ふえてるです?」

「何千人かは、増えてますよねこれ」

「確かに……」


 俺たちがいない間にこそっと出来たお花タワーは、ようせいたわーまんしょん状態だ。

 明らかに前より大勢の妖精さんが、いらっさる……。

 たった四日でこれなの?


「おうさま! おかえり! おかえり!」

「おだんごたべる? おだんご!」

「しょくにんさんがつくったやつだよ! とってもおいしいよ!」


 あっけにとられていたら、お留守番妖精さんたちが、きゃいっきゃいでお団子を持ってきた。

 そうそう、俺たちも挨拶しないとね。


「み、みんなお留守番ありがとうね。とっても助かったよ」

「ありがとです~」

「お土産のお菓子は、今度渡しますね」


 きゃいきゃい妖精さんたちに、なんとか挨拶を返す。

 ちなみにお土産のお菓子は、ユキちゃんの言うとおり後渡しだ。

 大勢なので、大量発注が必要。というわけで、後から郵送となっている。

 もう少々お待ちくださいだね。


「おつかれ! おつかれ!」

「おだんごだよ! おだんご!」

「しょくにんわざだよ! しょくにん!」


 挨拶を終えると、お留守番妖精さんたちは俺たちの前に飛んできて、お団子を配ってくれた。

 俺たちがお土産もらっちゃってるね。良い子たちだ。

 せっかくのご厚意なので、お団子を貰っちゃうよ!


「みんなありがとね。美味しそうなお団子、大事に食べるよ」

「どうぞ! どうぞ!」


 妖精さんたちから大歓迎を受けながら、お団子を受け取る。

 すると――なんか、違う。

 素材は花粉をこねた、妖精さんお得意のいつもの品。

 しかしその丸いやつは、オーラというか……存在感が凄いのだ。


「……このおだんご、なんだか凄いね」

「しょくにんがつくったやつだからね! すごいやつだよ!」

「いいうでしてるよ! いいしごと!」


 凄いお団子という感想を述べると、妖精さんたちきゃいっきゃいで喜ぶ。

 どうやら、凄腕職人がこしらえた逸品のようだ。


「きゃい~! しょくにんのおだんご! あるんだ!」

「めったにみられないよ! げんていひんだよ!」

「なぜここに~」


 妖精三人娘ちゃんたちも、職人お団子を見て大はしゃぎ。

 普段より白いキラキラ増量で、お団子をのぞき込んだ。

 どうもめったに見られない限定品、らしい。


「……きゃい? でもこれ、なんかなつかしい? なつかしい?」


 ん? はしゃいでいたサクラちゃん、お団子に近づいて首をかしげた。

 懐かしいらしいけど。

 そんなに手に入らない貴重品なの?


「これって貴重品なの?」

「きちょうだね! おだんごしょくにんがいるところじゃないと、みられないね!」

「そうなんだ」

「そうだよ! そうだよ!」


 お団子職人がいるところでないと、見られない貴重品らしい。

 ということは、今この村にはそのお団子職人がいるってことなのかな?


「きゃい~、きちょうひん~」


 そうして、サクラちゃんと一緒にお団子を見つめていると――。


「――にぎやかですね! にぎやか! おきゃくさん?」


 おフラワー的タワーの根元から、一人の妖精さんがお花をかき分けながら出てきた。

 賑やかな雰囲気につられたようで、にっこにこ笑顔だ。

 そのままこちらの方へ、ちとちとって感じで歩いてくる。

 ただ、そのお姿を見て――。


「あや! タイシ~、このようせいさん――」

「大志さん、今まで見たことがないタイプの方ですよ!」


 歩いてくる妖精さんを見て、ハナちゃんとユキちゃんびっくり。

 そう、このお方……俺たちがよく知る妖精さんとは――明らかに違っていた。


「いらっしゃい! いらっしゃい! おだんごどうぞ! どうぞ!」


 にこやかにお団子を掲げる、このお方。

 髪の毛はややウェーブがかかった銀髪で、地面に着くほどの長さ。

 ほかの妖精さんとは違い、大人の女性といった顔つきだ。

 ファッションは妖精さんならではの青いお花ドレスを身にまとい、頭には小さな白いお花の髪飾りと、シックにまとめている。

 落ち着いた雰囲気の中にも華やかさが顔を覗かせていて、なかなかの美人さんだね。


 しかし最大の特徴は――体が、大きい。

 身長三十五センチくらいの体格をもち、羽はモルフォ蝶のような形で七色に光っている。

 その美しい羽には……フェアリンサクラの花びらが、いくつも貼り付けてあった。

 彼女は一体、何者なのだろうか?


「きゃい~! おかあさん! おかあさんきたー!」


 と思っていたら、サクラちゃんがぴゅいんとそのお方の元へと飛んでいく。

 ……お母さん?


「どうやってきたの? どうやって!?」

「このはっぱをもらったの! もらったの! とべるようになったのよ!」

「きゃい~! よかったね! よかったね!」


 飛んでいったサクラちゃんが質問すると、お母さん? は例のシダ植物を取り出した。

 あれだ、火を通さないと危ないやつ。

 そして飛べるようになったと言っているところを見ると、彼女は今まで飛べなかったらしい。


「とべるようになったから、すぐにきたの! すぐにきたの!」

「しんぱいかけて、ごめんなさい~」

「いいのよ! いいのよ! ぶじでよかった! よかった!」


 火を通さないと浮いちゃう植物を手に入れて、娘さんの元へとかっとんで来た、のかな?

 そんな二人はひしっと抱き合って、再会を喜んでいる。

 サクラちゃん、お母さんに会えて良かったね。


「ふたりは、おやこです?」

「そうだよ! そうだよ! おかあさんだよ!」

「むすめがおせわに~」


 ハナちゃんが質問すると、サクラちゃんがきゃいっきゃいで紹介してくれた。

 お母さんのモルフォさんも、ぺこりと頭を下げて挨拶だ。

 積もる話もあるだろうから、ここは親子水入らずで過ごして貰おうかな。

 また明日、細かいお話を聞くとしよう。


「それでは今日は親子水入らずで過ごして頂いて、また明日お話を聞かせてください」

「わかったよ! わかった!」

「あしたですね! あした!」


 ということで、妖精さん親子はそのまま仲良く過ごして貰うことに。

 その後ドワーフの湖にてリザードマンたちにただいまの挨拶をし、お仕事終了。

 ハナちゃんちで夕食をごちそうになったあとは、集会場でぐっすりお休みをしたのだった。



 ◇



 ――翌日、いつもの日常が始まる。


 ……はずなのだけど、妖精お花タワーが出来ていたりサクラちゃんのお母さんが来ていたりと、村では面白いことも起きているわけで。

 まずはハナちゃんちで、昨日後回しにしたお話をする事となった。


「そらをとべなかったから、おだんごしょくにんやってたんだよ! やってたんだよ!」

「おだんごなら、おまかせください~」


 サクラちゃんのお母さん、脆化病にて空を飛べなかった。

 なのでお団子職人をやっていたそうだ。


「これがしんさくです! しんさく!」


 にっこにこ笑顔でお団子を作ってくれたけど、なるほど、こねこねを極めるとあんなすごいお団子が出来るようになるのか。

 お皿の上にある「このまるいやつ凄いんだぞ」オーラ、みたいなのがゆらゆらしているからね。

 どれどれ、出来たてを頂いてみよう。


「では、おひとつ頂きます」

「どうぞ! どうぞ!」


 ひとつをつまんで、パクリと一口で。


 ――おお! これは不思議な食感!


 花粉が主体なのだけど、くずきりみたいにぷるっぷるしている。

 食感が心地よく、ほのかに甘い……と思っていたら、口の温度でとろりと溶け始めた。

 ぷるぷるだったのが、とろっとろに。

 その瞬間、中から柑橘系の酸味と甘~い蜜が溢れだし、キャラメルの風味を残してすっと消えていく。

 なんちゅう不思議なお団子! これはまさに、こねこね職人のみが成せる技!


「あや~、これすごくおいしいです~。とろけるです~」

「さわやかで美味しいですね!」


 ハナちゃんとユキちゃんも、このお団子にはうっとり。

 二人とも、美味しそうに食べている。


「なんというか、絶妙な均衡を保っているって感じがしますね。すごいお団子ですよ!」

「きゃい~! ほめられてしまいました! ほめられてしまいました!」

「おかあさんよかったね! よかったね!」


 思わず褒めたら、羽根から七色の粒子をぶわわっと出して、モルフォさんてれってれのきゃいっきゃい。

 サクラちゃんもお母さんが褒められて、嬉しそうに白い粒子を煌めかせる。

 というか、モルフォさん明らかに脆化病でござる。


 まあ、いずれ治療はするとして。

 職人お団子を楽しみながら、お話を続けよう。


「今回は、娘さんに会うためにお越し頂いたのですか?」

「そうです。そうです」


 脆化病治療で妖精さんたちがフェアリンにちらばり、その後ドワーフィン大救助計画でも大勢が協力してくれた。

 その甲斐あってか、サクラちゃんの噂がお母さんのところに届いたのだろうな。


「むすめがゆくえふめいになって、しんぱいしてました。しんぱいしてました」

「れんらくするの、わすれてたね! どわすれ!」


 お母さんの心配をよそに、サクラちゃんは無事だよって連絡を忘れていたと。

 テヘペロっとかわいくみせて、ごまかす気まんまんでござるよ。

 そして確かにかわいいので、お父さんごまかされちゃうよ!


「そのうちぶじだったのがわかったのですが、わたくしとべないもので。こまってました。こまってました」


 サクラちゃんが無事ということがわかっても、モルフォさんは空を飛べない。

 娘に一目会いたいけど、移動できずに困っていたようだ。


「しかーし! うわさのとべるくさ、てにいれたのです! もらっちゃった!」

「すごいやつ~」


 そこに朗報が訪れたと。エルフの森に自生している、火を通さないとフライングマイスターになるあれ。

 誰かから、貰ったようだ。


「そこからひとっとびしました! ひとっとび! ……そしたら、りょこうにいってるとか」

「たのしかったよ! おきなわよかったよ!」


 飛べるようになってすぐさまやってきたけど、俺たちは沖縄旅行にキャッキャと行った後だったと。

 いやほんと、すいません。でも、沖縄旅行最高でしたよ!

 でもまあ、状況はわかった。

 サクラちゃんの無事を聞いて、ほんとかどうか確かめに来たって感じだね。


「このとおり、彼女も他の子も元気いっぱいですよ」

「そうですね! そうですね! あんしんしました!」

「きゃい~」


 大丈夫な事を告げると、モルフォさんはサクラちゃんの頭をなでなで、ほっとした顔だ。

 お母さんに頭をなでられたサクラちゃんは、ご機嫌できゃいっきゃいだね。

 二人して仲の良い母子(おやこ)のようで、笑顔がまぶしい。

 あとキラキラ粒子がすごくて、物理的にもまぶしいと言う。


 しかし、そんな親子を眺めていると、やっぱりモルフォさんの七色粒子が気になるわけで。

 これは早いところ、治療した方が良いな。


「ちなみにですが、この村では羽根の治療を行っているのはご存じですか?」

「しってますよ! しってます! ……でもこれ、なおるのですか?」


 モルフォさんに問いかけると、治療が出来ることはご存じのようだ。

 噂を聞いて来たのだから、当然その話も聞いているよね。

 でも、自分の羽根が治るかどうかについて、いまいち自信がないらしい。

 たしかに結構重症ぽいから、すぐにって訳にはいかないかも。


「なおすよ! おかあさんのはね、みんなでなおすよ!」


 しかしサクラちゃん、気合いが入った様子で治すよ宣言だ。

 お母さんの病気をなんとかしたいという、覚悟のほどがうかがえる。

 それは俺も同じ想いだから、みんなで力を合わせようじゃないか。


「数日お時間をいただければ、大丈夫ですよ」

「きゃい~! ほんとです!? ほんとです!?」

「だいじょうぶだよ! なおるよ!」


 安心させるために、大丈夫ですよと回答するとモルフォさんおおはしゃぎ。

 サクラちゃんも自信をもって、治ると宣言だ。

 そのご期待に応えるためにも、さっそく診察しましょうだね!


「それでは美しい妖精さん、こちらにおいでませ」

「うつくしいって! うつくしいって!」

「ほめられちゃった! ほめられちゃった!」

「よばれたきがして~」

「わたしもよばれたとおもうね! わたしも!」

「うつくしいときいて~」

「きちゃった! きちゃった!」

「きゃい~」

「きゃいきゃいきゃい~」


 ……言葉の選択を誤ったようだ。

 村中の妖精さんが集まってきたでござるよ……。


「あや~、にぎやかです~」

「あ! 大志さん。外に妖精さんたちが行列作ってますよ」

「よばれたからね! きちゃうよね!」

「うつくしいはね、みてね! みてね!」

「きゃい~」


 その後、モルフォさんの診察をする前に妖精さんモデルショーが開催。

 お花のドレスを身にまとった妖精さんたちの、かわいいポーズを写真に収めることに。


「これはこれで、たのしいです~」

「いろんな妖精さんが、村に来ているのですね」


 結局その日は、妖精さんたちと楽しく遊んで終わる。

 どうしてこうなった?


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