第七話 ちょっと目を離した隙に……
旅行の終わりを告げた後、日常へ戻るため、みんなと村へ歩いて行く。
「おうち~おうち~のんびりするです~」
「ギニャ~ニャ~」
(のんびり~)
ハナちゃんもフクロイヌや神輿と一緒に、歌を歌いながらぽてぽて歩いて行く。
「きょうはおゆうしょく、かんたんにすませちゃうけどいいかしら?」
「だいじょぶです~」
「さっき釜飯食べたばかりだからね」
長旅が終わってようやく帰ってきたわけで、カナさんは今日の夕食を簡単に済ませる予定のようだ。
というか、釜飯食べたばかりだけど、夕食は食べるのね。
「タイシもおゆうしょく、いっしょにたべてほしいです~」
そしてハナちゃんから、お夕食のお誘いだ。
もちろんお受けしますよ。
ただ、その前に一つお仕事がある。
「お夕食は是非ともだね。でもその前に、お留守番してくれたみんなに挨拶してくるよ」
三泊四日の間村でお留守番していてくれた、観光客妖精さんとリザードマンたちに挨拶しなきゃね。
無事帰ってきたよって顔を見せる意味もある。
「そうですね。私もご一緒します」
「ハナもいくです~」
挨拶のことを告げると、ユキちゃんとハナちゃんもお付き合いしてくれるようだ。
それじゃあ、三人で顔を出しましょう!
「あいさつ~あいさつ~、みんなげんきしてるですか~」
今度は挨拶の歌を歌いながら、ハナちゃんが先頭を歩いて行く。
エルフ耳がぴっこぴこで、ご機嫌だね。
そうして三人そろって、まずは妖精さんのお花畑へ。
みんな元気してるかな――て。
「きゃいきゃいきゃいきゃい~」
「きゃいきゃいきゃきゃいきゃいきゃい~」
「きゃ~いきゃいきゃいきゃい~きゃい~きゃい~」
……なんぞこれ。
「タイシ、タイシ。これなんです?」
「たった三日、目を離しただけなのに……」
妖精お花畑に出来ていた「それ」を見上げて、ハナちゃんとユキちゃんぽかん。
果たして妖精さんお花畑がどうなっていたかと言うと――。
「――なんで、お花タワーができてんの?」
そう、妖精さんお花畑に、巨大なお花タワーがいくつもできていたのだ。
ジャックと豆の木みたいな太い茎が、高さ五メートルくらいまで伸びていて、さらに光るお花が満開。
あらステキ!
「きゃい~! でっかいおはな! でっかい!」
「たかいね! きれいだね! たくさんだね!」
「いつのまに~」
後からやってきた妖精三人娘も、これをみてびっくり。
きゃいっきゃいで、お花タワーの周りを飛び始めた。
……あれだ、旅行中に、また隙を突かれたでござるよ。
どうしてこの植物たち、俺をびっくりさせようとするの……。
「きゃい? おうさま! おうさま!」
「おかえり! おかえり!」
「すごいおはな、さいたよ! さいたよ!」
「きゃいきゃいきゃい~」
さらに言うと、そのお花タワーには大勢の妖精さんが住み着いていた。
お花から顔をだして、きゃいきゃいとお帰りの挨拶だね。
「妖精さん集合住宅が出来てる?」
「タイシ~、かずもなんだか、ふえてるです?」
「何千人かは、増えてますよねこれ」
「確かに……」
俺たちがいない間にこそっと出来たお花タワーは、ようせいたわーまんしょん状態だ。
明らかに前より大勢の妖精さんが、いらっさる……。
たった四日でこれなの?
「おうさま! おかえり! おかえり!」
「おだんごたべる? おだんご!」
「しょくにんさんがつくったやつだよ! とってもおいしいよ!」
あっけにとられていたら、お留守番妖精さんたちが、きゃいっきゃいでお団子を持ってきた。
そうそう、俺たちも挨拶しないとね。
「み、みんなお留守番ありがとうね。とっても助かったよ」
「ありがとです~」
「お土産のお菓子は、今度渡しますね」
きゃいきゃい妖精さんたちに、なんとか挨拶を返す。
ちなみにお土産のお菓子は、ユキちゃんの言うとおり後渡しだ。
大勢なので、大量発注が必要。というわけで、後から郵送となっている。
もう少々お待ちくださいだね。
「おつかれ! おつかれ!」
「おだんごだよ! おだんご!」
「しょくにんわざだよ! しょくにん!」
挨拶を終えると、お留守番妖精さんたちは俺たちの前に飛んできて、お団子を配ってくれた。
俺たちがお土産もらっちゃってるね。良い子たちだ。
せっかくのご厚意なので、お団子を貰っちゃうよ!
「みんなありがとね。美味しそうなお団子、大事に食べるよ」
「どうぞ! どうぞ!」
妖精さんたちから大歓迎を受けながら、お団子を受け取る。
すると――なんか、違う。
素材は花粉をこねた、妖精さんお得意のいつもの品。
しかしその丸いやつは、オーラというか……存在感が凄いのだ。
「……このおだんご、なんだか凄いね」
「しょくにんがつくったやつだからね! すごいやつだよ!」
「いいうでしてるよ! いいしごと!」
凄いお団子という感想を述べると、妖精さんたちきゃいっきゃいで喜ぶ。
どうやら、凄腕職人がこしらえた逸品のようだ。
「きゃい~! しょくにんのおだんご! あるんだ!」
「めったにみられないよ! げんていひんだよ!」
「なぜここに~」
妖精三人娘ちゃんたちも、職人お団子を見て大はしゃぎ。
普段より白いキラキラ増量で、お団子をのぞき込んだ。
どうもめったに見られない限定品、らしい。
「……きゃい? でもこれ、なんかなつかしい? なつかしい?」
ん? はしゃいでいたサクラちゃん、お団子に近づいて首をかしげた。
懐かしいらしいけど。
そんなに手に入らない貴重品なの?
「これって貴重品なの?」
「きちょうだね! おだんごしょくにんがいるところじゃないと、みられないね!」
「そうなんだ」
「そうだよ! そうだよ!」
お団子職人がいるところでないと、見られない貴重品らしい。
ということは、今この村にはそのお団子職人がいるってことなのかな?
「きゃい~、きちょうひん~」
そうして、サクラちゃんと一緒にお団子を見つめていると――。
「――にぎやかですね! にぎやか! おきゃくさん?」
おフラワー的タワーの根元から、一人の妖精さんがお花をかき分けながら出てきた。
賑やかな雰囲気につられたようで、にっこにこ笑顔だ。
そのままこちらの方へ、ちとちとって感じで歩いてくる。
ただ、そのお姿を見て――。
「あや! タイシ~、このようせいさん――」
「大志さん、今まで見たことがないタイプの方ですよ!」
歩いてくる妖精さんを見て、ハナちゃんとユキちゃんびっくり。
そう、このお方……俺たちがよく知る妖精さんとは――明らかに違っていた。
「いらっしゃい! いらっしゃい! おだんごどうぞ! どうぞ!」
にこやかにお団子を掲げる、このお方。
髪の毛はややウェーブがかかった銀髪で、地面に着くほどの長さ。
ほかの妖精さんとは違い、大人の女性といった顔つきだ。
ファッションは妖精さんならではの青いお花ドレスを身にまとい、頭には小さな白いお花の髪飾りと、シックにまとめている。
落ち着いた雰囲気の中にも華やかさが顔を覗かせていて、なかなかの美人さんだね。
しかし最大の特徴は――体が、大きい。
身長三十五センチくらいの体格をもち、羽はモルフォ蝶のような形で七色に光っている。
その美しい羽には……フェアリンサクラの花びらが、いくつも貼り付けてあった。
彼女は一体、何者なのだろうか?
「きゃい~! おかあさん! おかあさんきたー!」
と思っていたら、サクラちゃんがぴゅいんとそのお方の元へと飛んでいく。
……お母さん?
「どうやってきたの? どうやって!?」
「このはっぱをもらったの! もらったの! とべるようになったのよ!」
「きゃい~! よかったね! よかったね!」
飛んでいったサクラちゃんが質問すると、お母さん? は例のシダ植物を取り出した。
あれだ、火を通さないと危ないやつ。
そして飛べるようになったと言っているところを見ると、彼女は今まで飛べなかったらしい。
「とべるようになったから、すぐにきたの! すぐにきたの!」
「しんぱいかけて、ごめんなさい~」
「いいのよ! いいのよ! ぶじでよかった! よかった!」
火を通さないと浮いちゃう植物を手に入れて、娘さんの元へとかっとんで来た、のかな?
そんな二人はひしっと抱き合って、再会を喜んでいる。
サクラちゃん、お母さんに会えて良かったね。
「ふたりは、おやこです?」
「そうだよ! そうだよ! おかあさんだよ!」
「むすめがおせわに~」
ハナちゃんが質問すると、サクラちゃんがきゃいっきゃいで紹介してくれた。
お母さんのモルフォさんも、ぺこりと頭を下げて挨拶だ。
積もる話もあるだろうから、ここは親子水入らずで過ごして貰おうかな。
また明日、細かいお話を聞くとしよう。
「それでは今日は親子水入らずで過ごして頂いて、また明日お話を聞かせてください」
「わかったよ! わかった!」
「あしたですね! あした!」
ということで、妖精さん親子はそのまま仲良く過ごして貰うことに。
その後ドワーフの湖にてリザードマンたちにただいまの挨拶をし、お仕事終了。
ハナちゃんちで夕食をごちそうになったあとは、集会場でぐっすりお休みをしたのだった。
◇
――翌日、いつもの日常が始まる。
……はずなのだけど、妖精お花タワーが出来ていたりサクラちゃんのお母さんが来ていたりと、村では面白いことも起きているわけで。
まずはハナちゃんちで、昨日後回しにしたお話をする事となった。
「そらをとべなかったから、おだんごしょくにんやってたんだよ! やってたんだよ!」
「おだんごなら、おまかせください~」
サクラちゃんのお母さん、脆化病にて空を飛べなかった。
なのでお団子職人をやっていたそうだ。
「これがしんさくです! しんさく!」
にっこにこ笑顔でお団子を作ってくれたけど、なるほど、こねこねを極めるとあんなすごいお団子が出来るようになるのか。
お皿の上にある「このまるいやつ凄いんだぞ」オーラ、みたいなのがゆらゆらしているからね。
どれどれ、出来たてを頂いてみよう。
「では、おひとつ頂きます」
「どうぞ! どうぞ!」
ひとつをつまんで、パクリと一口で。
――おお! これは不思議な食感!
花粉が主体なのだけど、くずきりみたいにぷるっぷるしている。
食感が心地よく、ほのかに甘い……と思っていたら、口の温度でとろりと溶け始めた。
ぷるぷるだったのが、とろっとろに。
その瞬間、中から柑橘系の酸味と甘~い蜜が溢れだし、キャラメルの風味を残してすっと消えていく。
なんちゅう不思議なお団子! これはまさに、こねこね職人のみが成せる技!
「あや~、これすごくおいしいです~。とろけるです~」
「さわやかで美味しいですね!」
ハナちゃんとユキちゃんも、このお団子にはうっとり。
二人とも、美味しそうに食べている。
「なんというか、絶妙な均衡を保っているって感じがしますね。すごいお団子ですよ!」
「きゃい~! ほめられてしまいました! ほめられてしまいました!」
「おかあさんよかったね! よかったね!」
思わず褒めたら、羽根から七色の粒子をぶわわっと出して、モルフォさんてれってれのきゃいっきゃい。
サクラちゃんもお母さんが褒められて、嬉しそうに白い粒子を煌めかせる。
というか、モルフォさん明らかに脆化病でござる。
まあ、いずれ治療はするとして。
職人お団子を楽しみながら、お話を続けよう。
「今回は、娘さんに会うためにお越し頂いたのですか?」
「そうです。そうです」
脆化病治療で妖精さんたちがフェアリンにちらばり、その後ドワーフィン大救助計画でも大勢が協力してくれた。
その甲斐あってか、サクラちゃんの噂がお母さんのところに届いたのだろうな。
「むすめがゆくえふめいになって、しんぱいしてました。しんぱいしてました」
「れんらくするの、わすれてたね! どわすれ!」
お母さんの心配をよそに、サクラちゃんは無事だよって連絡を忘れていたと。
テヘペロっとかわいくみせて、ごまかす気まんまんでござるよ。
そして確かにかわいいので、お父さんごまかされちゃうよ!
「そのうちぶじだったのがわかったのですが、わたくしとべないもので。こまってました。こまってました」
サクラちゃんが無事ということがわかっても、モルフォさんは空を飛べない。
娘に一目会いたいけど、移動できずに困っていたようだ。
「しかーし! うわさのとべるくさ、てにいれたのです! もらっちゃった!」
「すごいやつ~」
そこに朗報が訪れたと。エルフの森に自生している、火を通さないとフライングマイスターになるあれ。
誰かから、貰ったようだ。
「そこからひとっとびしました! ひとっとび! ……そしたら、りょこうにいってるとか」
「たのしかったよ! おきなわよかったよ!」
飛べるようになってすぐさまやってきたけど、俺たちは沖縄旅行にキャッキャと行った後だったと。
いやほんと、すいません。でも、沖縄旅行最高でしたよ!
でもまあ、状況はわかった。
サクラちゃんの無事を聞いて、ほんとかどうか確かめに来たって感じだね。
「このとおり、彼女も他の子も元気いっぱいですよ」
「そうですね! そうですね! あんしんしました!」
「きゃい~」
大丈夫な事を告げると、モルフォさんはサクラちゃんの頭をなでなで、ほっとした顔だ。
お母さんに頭をなでられたサクラちゃんは、ご機嫌できゃいっきゃいだね。
二人して仲の良い母子のようで、笑顔がまぶしい。
あとキラキラ粒子がすごくて、物理的にもまぶしいと言う。
しかし、そんな親子を眺めていると、やっぱりモルフォさんの七色粒子が気になるわけで。
これは早いところ、治療した方が良いな。
「ちなみにですが、この村では羽根の治療を行っているのはご存じですか?」
「しってますよ! しってます! ……でもこれ、なおるのですか?」
モルフォさんに問いかけると、治療が出来ることはご存じのようだ。
噂を聞いて来たのだから、当然その話も聞いているよね。
でも、自分の羽根が治るかどうかについて、いまいち自信がないらしい。
たしかに結構重症ぽいから、すぐにって訳にはいかないかも。
「なおすよ! おかあさんのはね、みんなでなおすよ!」
しかしサクラちゃん、気合いが入った様子で治すよ宣言だ。
お母さんの病気をなんとかしたいという、覚悟のほどがうかがえる。
それは俺も同じ想いだから、みんなで力を合わせようじゃないか。
「数日お時間をいただければ、大丈夫ですよ」
「きゃい~! ほんとです!? ほんとです!?」
「だいじょうぶだよ! なおるよ!」
安心させるために、大丈夫ですよと回答するとモルフォさんおおはしゃぎ。
サクラちゃんも自信をもって、治ると宣言だ。
そのご期待に応えるためにも、さっそく診察しましょうだね!
「それでは美しい妖精さん、こちらにおいでませ」
「うつくしいって! うつくしいって!」
「ほめられちゃった! ほめられちゃった!」
「よばれたきがして~」
「わたしもよばれたとおもうね! わたしも!」
「うつくしいときいて~」
「きちゃった! きちゃった!」
「きゃい~」
「きゃいきゃいきゃい~」
……言葉の選択を誤ったようだ。
村中の妖精さんが集まってきたでござるよ……。
「あや~、にぎやかです~」
「あ! 大志さん。外に妖精さんたちが行列作ってますよ」
「よばれたからね! きちゃうよね!」
「うつくしいはね、みてね! みてね!」
「きゃい~」
その後、モルフォさんの診察をする前に妖精さんモデルショーが開催。
お花のドレスを身にまとった妖精さんたちの、かわいいポーズを写真に収めることに。
「これはこれで、たのしいです~」
「いろんな妖精さんが、村に来ているのですね」
結局その日は、妖精さんたちと楽しく遊んで終わる。
どうしてこうなった?




